#コラム

★「芸術は長く、命は短し」坂本龍一氏の死を悼む

★「芸術は長く、命は短し」坂本龍一氏の死を悼む

   音楽家の坂本龍一氏が先月28日に亡くなったとメディア各社が報じている。坂本氏の公式ツイッターには、灰色の背景に黒文字で生没年が刻まれている=写真・上=。そして公式サイトには、「An  Announcement」(声明)が掲載され、医療関係者やファンへの感謝が言葉が述べられ、坂本氏が好んだという言葉が引用されている。「“Arts longa, vita brevis.” Art is long, life is short.」。享年71歳。

   自身の年齢と近いということもあり、若いころから映画『戦場のメリークリスマス』や『ラストエンペラー』のテーマ曲はよく耳にし、今も心に響く。『ラストエンペラー』で日本人として初めてアカデミー賞作曲賞を受賞(1988年)、そしてグラミー賞も獲得するなど世界的に評価された音楽家だった。

   思想家でもあった。核のない世界、戦争のない平和な世界を訴えるメッセージを発信していた。東日本大震災による福島第1原発の事故後では、脱原発を訴えた音楽イベント「NO NUKES」を開催するなど被災地の復興支援にも携わってきた。時代の流れを感じ取り、社会に訴える「時代のカナリヤ」のような人物だった。

   歌手の加藤登紀子氏はツイッターでコメントしている。「本当に素晴らしい音楽家であり、思想家であり、行動者だった坂本龍一さん。彼の亡き後も、彼の思いを受け継ぎ、音楽家として思考し、行動するひとりでありたいと願っています。心から哀悼を捧げ、共に生み出した音楽を大切に歌っていきます」と。

   冒頭の言葉は、坂本氏の人生そのものだったように思える。芸術のために生き、そして人々の心を豊かにして使命をまっとうする。「それでいい」と。Art is long, life is short(芸術は長く、命は短し)。ファンの一人として冥福を祈る。

⇒3日(月)夜・金沢の天気    はれ

☆際立つ「カントリーリスク」中国・ロシア・日本

☆際立つ「カントリーリスク」中国・ロシア・日本

   中国とロシアで、いわゆる「カントリーリスク」が際立ってきた。証券業界などでよく使われるこの言葉は、投資する国や地域において、政治や経済、社会情勢などの変化に起因するリスクのことを指す。テロ行為や紛争が起こり、政権交代によって政策や法律が変わりやすい国々はカントリーリスクが高いということになる。

   ある意味で中国はカントリーリスクの高い国と言える。NHKニュースWeb版(3月27日付)によると、中国外務省の報道官は同日の記者会見で「日本人1人に対し、法律に基づいて捜査している。この日本人はスパイ活動に関わり、中国の刑法と反スパイ法に違反した疑いがある」と、拘束して取り調べを行っていると述べた。拘束されたのは製薬会社「アステラス製薬」の現地駐在の50代の男性社員。中国側は、具体的にどういう行為が法律に違反したかなど、詳しい内容については明らかにしていない。男性は駐在期間を終え、帰国間際だったとの報道もある。(※写真・上、中国・北京の天安門)

   反スパイ法だけでなく、中国には国家安全法や国会情報法、国防動員法といった「法のリスク」がある。よく指摘されるのは、国防動員法の場合は中国政府が有事と判断すれば、中国のあらゆる組織と人的資本、資金などが政府の統制下に置かれる。「あらゆる組織」には中国に進出している日本企業なども含まれる。中国政府が台湾の統一を「有事」と判断した段階でこの法が適用される。投資目的に中国に進出した企業にとってリスクは高まっているのではないだろうか。

   そして、ロシアのカントリーリスクは「プーチン・リスク」だ。ロイター通信Web版日本語(3月31日付)によると、ロシア産業貿易省は同日、トヨタ自動車のサンクトペテルブルク工場が国営の自動車・エンジン中央科学研究所(NAMI)に譲渡されたと表明した。同省は「今回の合意は、工場の建物・設備・土地の所有権の完全な譲渡を意味する」と表明した。トヨタ自動車サイト(同日付)も、NAMIへの譲渡による移管を完了したと発表している。譲渡額は明らかにしていない。(※写真・下、2016年12月16日、日露首脳会談後の安倍総理とプーチン大統領による共同記者会見=総理官邸、NHK中継画像)

   この背景には、ウクライナ侵攻がある。トヨタ自動車サイトによると、ロシアに経済制裁が科されたことにより、ロシア国内からの部品調達が滞り、去年3月に同工場の操業を停止。その後、稼働再開に向けて生産ラインの保全など行っていたが、侵攻が予想外に長引き、9月に生産事業そのものを停止した。同工場が稼働したは2007年12月だった。ソ連崩壊(1991年)で混乱に陥った政治経済を安定軌道に乗せたと定評があったプーチン大統領がウクライナ侵攻で国際批判を浴びることになるとは、当時は想像すらできなかっただろう。それにしても、譲渡した工場で何が生産されるのだろうか。

   ところで、日本にはカントリーリスクはないのか。ある。自然災害(地震、津波、台風など)というリスクだ。東日本大震災では原発事故によるリスクが世界的に知れ渡った。そして、中国やロシア、北朝鮮などに囲まれるポジション(立地)もリスクとみなされているかもしれない。

⇒2日(日)午後・金沢の天気     はれ

★新学期、新年度、そしてエイプリルフールな「4月1日」

★新学期、新年度、そしてエイプリルフールな「4月1日」

   きょうから4月、新学期がスタートした。学校現場ではきょうからコロナ禍でのマスクの着用が原則、不要となるようだ。5月にはコロナ感染症法上の「2類相当」から、季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられるので、それに先立って学校現場では一足早くコロナ禍との決別となる。

   経済の新しい動きもある。賃金の支払いと言えば、これまで銀行口座への振り込みや、現金での支払いだったが、今月から決済アプリを使ったいわゆる「デジタル給与」も可能となる。もちろん、デジタル払いを導入する際には、企業の経営サイドは労働者と労使協定を結ぶことや、決済アプリの運営業者も厚労省の指定を受ける必要がある。

   ひょっとして社会の交通と物流インフラが劇的に変わるかもしれない。きょう1日から改正道路交通法が施行され、特定の条件のもとでドライバーがいない状態でも自動運転が可能な「レベル4」での公道走行が解禁となる。そして、来年4月からトラックの運転手の時間外労働の規制が強化されることから、運転手不足によって輸送量が激減することが懸念され、「2024年問題」とも言われている。ドライバーがいない車が人やモノを乗せて街を走る。そんな時代がやってくる。

   そして、きょうの地元紙の広告で、「ロケット乗務員大募集」という文字が目に飛び込んできた。「宇宙ビジネスに参入します。業務拡大につき。多様な人材を募集しています」とある。全面広告だ。ロケットが打ち上がる瞬間の写真付きの広告だ=写真=。さらに読み込むと、「英語を使ってインバウンドの仕事がした方 子育て中だけど空いた時間に仕事をしたい方 大きな車を運転できるようになりたい方 可愛い孫に小遣いをあげたい方」と妙にリアリティもある。地元のタクシー会社の広告だ。

   末尾に、「本日は4月1日 エイプリルフールです」とある。そうか、新学期、そして新年度の4月1日とばかり思っていたが、エイプリルフールか、と。それにしても、大胆で面白い。

⇒1日(土)夜・金沢の天気    はれ

☆台湾-金沢を結ぶ空の便 コロナ禍を経て再開

☆台湾-金沢を結ぶ空の便 コロナ禍を経て再開

   先日、兼六園に立ち寄るとかなりの人出だった。中でも、欧米からのインバウンド観光客とおぼしき人々が目立っていた。金沢港ではコロナ禍の水際対策で2020年にストップしていた国際クルーズ船の受け入れを今月から再開した効果もあるのだろう。

   きょう31日付の地元各紙を読むと、あす4月1日から台湾のエバー航空が毎日運航で再開すると、記事と広告で掲載されていた=写真・上=。この便の効果でさらに金沢はぎやかになるのではないだろうと憶測した。石川県観光戦略推進部「統計から見た石川の観光」(令和3年版)によると、コロナ禍以前の2019年の統計で、兼六園の日本人以外の国・地域別の入場者数のトップは台湾なのだ。数にして16万4千人、次は中国の4万4千人、香港3万7千人、アメリカ3万人の順になる。この年に兼六園を訪れた訪日観光客数は47万5千人なので、3割以上が台湾からの入りということになる。

   日本政府観光局(JNTO)の調べによると、2019年の訪日観光客数は中国959万人、韓国558万人、台湾489万人、香港229万人、アメリカ172万人の順だった。この順位と兼六園の訪日客数の国・地域別の入りを比較しても、台湾から金沢への入込が断然多い。この傾向はかなり以前からあった。その理由で一つ言えるのは、台湾での金沢の知名度が高いというだ。それには歴史がある。

   台湾の日本統治時代、台南市に当時東洋一のダムと称された「烏山頭(うさんとう)ダム」が建設された。不毛の大地とされた原野を穀倉地帯に変えたとして、台湾の人たちから日本の功績として今も評価されている。このダム建設のリーダーが、金沢生まれの土木技師、八田與一(1886-1942)だった。ダム建設後、八田は軍の命令でフィリピンに調査のため船で向かう途中、アメリカの潜水艦の魚雷攻撃で船が沈没し亡くなった。1942年(昭和17年)5月8日だった。

   2021年5月8日、八田與一の命日に、ダム着工100年を祝う式典が現地で営まれ、蔡英文総統をはじめ首相に当たる行政院長や閣僚などの要人が出席している。八田與一伝説が生きる台湾から、多くの観光客が「八田のふるさと」金沢を訪ねて来てくれていると思うと感慨深い。(※写真・下は、2017年5月、現地での八田與一の座像修復式。このとき金沢市の関係者も訪れた=台湾・台南市役所ホームページより)

⇒31日(金)午後・金沢の天気      はれ 

★極東で連日の軍事訓練 「対岸の事」で済むのか

★極東で連日の軍事訓練 「対岸の事」で済むのか

   ロシア極東での巡航ミサイル発射訓練、北朝鮮の弾道ミサイルと水中ドローン、そしてアメリカと韓国の大規模な軍事訓練などが連日のように報道され、日本海側がキナ臭い。はたして「対岸の事」で済ませることができるのか。

   朝日新聞Web版(今月28日付)によると、北朝鮮の党機関紙「労働新聞」(28日付)は、軍のミサイル部隊が首都ピョンヤンから北東部ハムギョン(咸鏡)北道の島に向けて「地対地戦術弾道ミサイル」2発を発射する訓練を27日に行ったと伝えた。また、27日までの3日間、日本海で「核無人水中攻撃艇」と呼ぶ新型兵器の「津波(ヘイル)1型」を使った実験を行ったと発表した。「ヘイル1型」は東部ウォンサン(元山)から41時間余りかけて、だ円などの針路で潜航したまま600㌔進み、27日午前、ハムギョン北道の沖で弾頭を起爆させた。

   共同通信Web版(28日付)によると、ロシア国防省は28日、ロシア太平洋艦隊の小型艦が日本海に面する極東ウラジオストク沖の湾内で、巡航ミサイルを発射する演習を実施したと発表した。2発のミサイルが100㌔先の目標に命中した。発射はソ連時代に開発された対艦巡航ミサイル「モスキート」。国防省は通信アプリでミサイルが発射される映像も公開した。

   読売新聞Web版(29日付)によると、アメリカと韓国の両軍は29日、大規模な上陸訓練「双竜訓練」の模様を韓国南東部・浦項の海岸で報道陣に公開した。訓練は朝鮮半島有事を想定したもので、海軍と海兵隊を中心に来月3日まで行われる。今年の訓練は、規模をこれまでの「旅団」級から「師団」級に拡大し、1万2000人が参加。アメリカ軍の強襲揚陸艦マキン・アイランドを含む30隻や最新鋭のステルス戦闘機F35Bなど航空戦力70機、軍用車両約50台が動員されている。イギリスの海兵隊員40人も参加している。核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮を強くけん制する狙いがある。

           共同通信Web版(30日付)によると、中国海軍のミサイル駆逐艦2隻と補給艦1隻の計3隻が29日に対馬海峡を相次いで通過し、東シナ海から日本海へ北上した。防衛省の発表。日米韓は近く共同訓練する見通しで、防衛省は中国艦の動向を注視している。

   記事を読むだけで、再び朝鮮戦争が勃発するのではないか、ロシアが偽旗を掲げて極東侵攻を始めるのか、などとつい想像を膨らませてしまう。別に根拠があるわけではない。日本海側に住む一人の憂いである。

⇒30日(木)夜・金沢の天気    はれ

☆桜は満開なれど 「どうする日本の技術力」

☆桜は満開なれど 「どうする日本の技術力」

   金沢のソメイヨシノは満開になっている。青空に映えて、まさに「花見日和」だ。近郊の里山では、菜の花畑がでも一面に咲き誇り、満開のソメイヨシノ、そして青空の絶好のコントラストを描いていた=写真・上、金沢市銚子町=。開花は23日で、平年(4月3日)より11日も早かったので、金沢市内の小学校の入学式(4月7日)のころは、桜吹雪が楽しめるかもしれない。

          満開のソメイヨシノでめでたい気分にはなるものの、残念なニュースもある。電圧をかけると発光する有機物でできた電子材料で、スマートフォンやテレビの画面などに使われている「有機EL」。メディア各社の報道によると、この先端技術を使ったディスプレイを生産しているJOLED(ジェイオーレッド、東京)は27日、東京地裁に民事再生手続き開始の申し立てを行ったと発表した=写真・下=。石川県能美市には主力工場がある。

   JOLEDはソニーグループとパナソニックホールディングスの有機ELパネル開発部門を統合し、2015年1月に設立。2019年11月には主力工場の能美事業所で、世界初の印刷方式有機ELディスプレイ量産ラインの稼働を開始。医療用モニター、ハイエンドモニター、車載向けなどに生産。しかし、安定した生産に想定以上のコストと時間を要したほか、世界的な半導体不足による影響に加え、高性能・高品質ディスプレイ需要の伸び悩みや価格競争の激化など、経営環境が厳しさを増していた。負債総額は337億円と見られる。なぜ世界随一の技術を持ちながらJOLEDは経営破綻に追い込まれたのか。

   有機ELパネルはシートのように薄かったり、丸めることもでき、いろいろな分野で使われると期待されている。しかし、品質面で高い評価を得られたとしても、問題はニーズで、有機ELよりも安価な液晶パネルを求める顧客が増えたとされる。

   それにしても、日本の技術力が問われるような暗いニュースが相次いでいる。今月7日、JAXAは主力ロケット「H3」の初号機を種子島宇宙センターで打ち上げたものの、2段目のエンジンに着火せず、打ち上げは失敗に終わった。国家プロジェクトとして9年前から開発が始まり、2度の年度をまたぐ延期を経て先月17日に打ち上げに臨んだが、発射直前にロケットの1段目の装置で異常が発生し、打ち上げを中止していた。最終検証を行い、満を持して7日の発射に臨んだものの、失敗した。「どうする日本の技術力」

⇒29日(水)夜・金沢の天気     はれ

★日本海に恐怖の渦 北朝鮮が空中、水中に核の仕掛け

★日本海に恐怖の渦 北朝鮮が空中、水中に核の仕掛け

   北朝鮮はきょう27日、2発の短距離弾道ミサイル(SRBM)を日本海に向けて発射した。防衛省公式サイトによると、北朝鮮西岸付近から午前7時47分ごろに弾道ミサイル1発が発射され、最高高度およそ50㌔で、350㌔飛翔した。さらに10分後の午前7時57分ごろにも1発を発射。これも最高高度およそ50㌔で、350㌔飛翔した。日本のEEZ外側に落下したと推測される。2発の弾道ミサイルは変則軌道で飛翔した可能性もある。

   アメリカと韓国による合同の海上訓練がきょう済州島沖の公海上で行われ、アメリカ軍の原子力空母「ニミッツ」などが参加している。「ニミッツ」はあす28日、釜山に入港する予定という。北朝鮮は米韓の合同訓練に反発したものと見られる。

   北朝鮮のミサイル発射は今月だけでも今回で7回目だ。22日に戦略巡航ミサイルを4発、19日に短距離弾道ミサイルを1発、16日にICBMを1発、14日に短距離弾道ミサイルを2発、12日に潜水艦から戦略巡航ミサイルを2発、9日に短距離弾道ミサイルを6発をそれぞれ発射している。(※写真は、今月9日に北朝鮮が発射した近距離弾道ミサイル=10日付・朝鮮中央通信Web版より)

   北朝鮮の脅威はミサイルだけではない。ロイター通信Web版日本語(今月24日付)によると、北朝鮮の国営メディア「朝鮮中央通信」の報道として、金正恩総書記の指揮下で、核兵器が搭載可能な水中攻撃ドローン(無人艇)の実験を実施した。「ヘイル(津波)」と名付けられた新型の水中ドローンは59時間以上にわたり水深80㍍から150㍍の水中を巡航し、23日に東岸沖で核を搭載しない弾頭を爆発させたという。

   この核無人水中攻撃艇は敵の海域で奇襲攻撃を仕掛け、水中爆発で大規模な放射能の巨大な津波を起こして艦船や主要な作戦港を破壊することを目的としている。この北朝鮮の新たな兵器について、韓国軍当局者は、北朝鮮の主張を分析中だと説明。アメリカ政府関係者は匿名を条件に、核実験の兆候はないと述べた。アナリストは、水中兵器が配備可能かどうかには懐疑的だが、北朝鮮はアメリカと韓国に対し、ますます多様化する核の脅威を誇示していると分析している(ロイター通信Web版日本語)。

   空中だけでなく海中でも核攻撃能力を持つと挑発する北朝鮮、海上戦力が脆弱とされる北朝鮮に対して原子力空母を繰り出す米韓合同訓練、日本海に恐怖の渦が巻く。

⇒27日(月)夜・金沢の天気    はれ

☆メディアの政治的公平性とは 「椿発言」で問われたこと

☆メディアの政治的公平性とは 「椿発言」で問われたこと

   このところ問われている「メディアの政治的な公平性」で思い出すのが、あの「椿発言」だ。1993年9月21日、テレビ朝日の取締報道局長だった椿貞良氏が日本民間放送連盟の勉強会「番組調査会」で、「反自民の連立政権を成立させる手助けになるような報道をしようではないかと報道内部で話した」などと発言した。当時、7月の総選挙を経て非自民連立政権が樹立され、8月に細川内閣が発足していた。この内輪の会合の椿氏の発言が産経新聞=記事、1993年10月13日付=で報じられ、テレビ報道の政治的な公平性が問われた。

   その後、メディア関係者として初めて国会に証人喚問(同年10月25日)という前代未聞の展開となった。このとき、放送法違反による放送免許取消し処分が本格的に検討されたが、視聴者へのインパクトも大きいとして、行政処分にとどまった。当時自身もテレビ朝日系列局の報道担当だったので、椿発言の一連の流れが脳裏に刻まれている。

   椿発言が問われた背景に、テレビ報道の政治的な公平性と同時に、「テレポリティクス」というテレビ報道の台頭があった。テレビが政権交代へ世論をリードするとう現象だ。テレビ朝日の「ニュースステーション」は、久米宏氏と小宮悦子氏がキャスターとなり、いわゆる都市型選挙の世論をリードした時代だった。93年の総選挙では候補者を改革派と守旧派に分け、改革派に多くのスポットライトを当てていた。さらに、田原総一朗氏がキャスターとなった「サンデープロジェクト」は当時の宮沢総理の政治責任を追及するという先兵役を担った。

   番組調査会での椿発言では、「55年体制を突き崩して細川政権を生み出した原動力、主体となった力はテレビだ」「テレビのワンシーンは新聞の一万語に匹敵する」とテレポリティクスを自賛したのだ。このことで、自民党は「偏向報道」と激しく反発し、また、新聞メディアからの批判も招いた。

   産経新聞の報道を受けて、当時の郵政省放送行政局長は緊急記者会見で、放送法に違反する事実があれば電波法に基づく停波もありうると初めて示唆。直後に椿氏は取締役と報道局長を解任された。衆院の証人喚問で、椿氏は民放連番組調査会での軽率な発言を陳謝したが、社内への報道内容の具体的な指示については否定し、偏向報道は行なっていないと一貫して主張した。椿発言は、テレビメディアが政治を主導することへの危機感だった。

⇒26日(日)夜・金沢の天気    くもり    

 

★「必勝しゃもじ」は日露戦争の縁起物 だとすれば

★「必勝しゃもじ」は日露戦争の縁起物 だとすれば

   このところ「必勝しゃもじ」が連日ニュースに上がっている。岸田総理が今月21日にウクライナを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領に贈呈したとされる広島名産品。ネットで検索すると、「厳島神社・御朱印」サイトで必勝しゃもじの歴史や云われが詳細に出ている。江戸時代の寛政年間(1789-1801)のころ、厳島神社近くの寺院にいた修行僧が楽器の琵琶を模して神木でしゃもじをつくり、参拝客の土産品としたことが始まりとされる。明治時代に入ると日清・日露戦争があり、「飯(めし)取る=敵を召し取る」とのゴロ合わせで、しゃもじに「必勝」「商売繁盛」などの文字を入れ、縁起物として販売するようになった=写真、同サイトより=。

   きのう24日の参院予算委員会で、立憲民主党の議員からの質問で、岸田総理は「ウクライナの方々は祖国と自由を守るために戦っている。この努力に敬意を表したい」「外交慣例で地元のお土産を持って行くのはよくあること」とさりげなく答弁していたが、必勝しゃもじの由来は知っていたはずだ。日露戦争で日本が勝利したように、ウクライナにもロシアに勝ってほしいという意味を込めてのプレゼントだったに違いない。

   話は変わる。ところで、岸田総理がゼレンスキー大統領と会談していたころ、中国の習近平主席はモスクワを訪れ、ロシアのプーチン大統領と会談していた。中露首脳でいったい何を話していたのだろうか。中国の主席が手ぶらでロシアに行くはずもない。ましてや、ウクライナ侵攻開始後、日本を含め西側諸国はロシアに経済制裁を科し、石油の輸入やハイテク製品の輸出を禁じている。なので、ロシアは石油のさらなる購入や、中国製ドローンの供与、資金提供などの支援を中国に求めたのではないだろうか。

   では、中国側は何を求めたのだろうか。中国は「歴史的権利」を叫んで東シナ海や南シナ海での支配域を拡大している。以下はあくまでも憶測だ。中国にとっては、ウラジオストクやサハリンは清朝時代の領土であり、いわゆるアロー戦争で敗北後にロシアに割譲した(1860年・北京条約)。

   この海域の領土化をもくろむとすれば、まず、ロシアへの支援の代償として、北方領土(歯舞諸島、色丹島、国後島、択捉島)を譲り受けるという野望を描いているのではないだろうか。領土化と同時に、この4島を軍事拠点化することで、戦略的に日本とアメリカの双方ににらみを効かせる。国後島と択捉島ではすでにロシアは艦艇攻撃用ミサイルや新型戦闘機を配備しており、中露の共有基地化もあるかも知れない。ロシアがさらに衰退すれば、ウラジオストクやサハリンを取り戻すチャンスもある。あくまでも空想だ。

⇒25日(土)午後・金沢の天気    くもり

☆WBCの高視聴率 TBSの緊急再放送の裏読み

☆WBCの高視聴率 TBSの緊急再放送の裏読み

   TBSはテレビの常識をひっくり返して視聴者のニーズをうまくつかんだ。テレビ視聴率の調査会社「ビデオリサーチ」がメディア向けに発表した速報値によると、テレビ朝日が22日に中継したWBC決勝戦・対アメリカ戦(放送枠・午前8時25分-午後0時8分)は平均世帯視聴率が42.4%(関東地区)だった。毎分ごとの世帯視聴率で最も高かったのは午前11時43分の46.0%(同)で、9回表で大谷翔平投手がマイク・トラウト外野手を空振り三振で仕留め、優勝を決めた場面だった=写真=。

   決勝戦の平日の午前ということもあり、「もう一度視聴したい」や「見逃し」「録画し忘れ」などさまざまな視聴者ニーズを読んで、TBSは同日午後7時からのゴールデンタイムで「緊急再放送」を行った。この平均世帯視聴率が22.2%を取った。前日21日の準決勝・対メキシコ戦も急きょ午後7時から再放送し、平均世帯視聴率を19・8%(同)を稼いだ。2夜連続の緊急再放送はテレビ業界では異例のことだ。WBCの放映権を地上波で得ていたのはTBSとテレビ朝日の民放2社。映像はWBCのオシフャル映像だったので、緊急再放送も可能だったのだろう。

   ただ、TBSの中継で難点を一つ言えば、21日午前の準決勝・メキシコ戦だった。映像と音声のズレに違和感を感じた。実況の音声が映像よりも早く、たとえば初回で佐々木朗希投手が投球すると、ほぼ同時に「空振り」と実況が。ということは、オフィシャルの映像が衛星回線かデジタル回線でダイレクトにTBSに送られていて、実況の音声はTBSが用意した別の回線で送信していたのだろう。マイアミの現地では違和感のない実況中継であっても、映像は日本に届くまでには数秒遅れる。音声はそれほどの遅れはない。この誤差が視聴者の違和感を招いた。

  ただ後半はほどんど違和感はなかった。おそらく、途中から現地で映像と音声を合成して日本に送ったのではないだろうか。以上はあくまで推測だ。TBSが同日午後7時から緊急再放送をするとのニュースを見て、映像と音声のズレたことで視聴者へのお詫びの意味かとも思った。それはそれで視聴率を稼いだのだから、けがの功名ではないだろうか。

⇒24日(金)夜・金沢の天気     くもり