#コラム

☆波乱、薄氷の勝利

☆波乱、薄氷の勝利

  今週の話題はなんと言っても、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本がキューバを下して「初代世界一」になったことだろう。2次リーグではアメリカ戦で「誤審騒動」もあって1勝2敗と苦しんだ。しかし、アメリカがメキシコに敗れる波乱もあり、2位で準決勝に進出。今大会では2戦2勝している韓国に6-0で雪辱して決勝進出と、運も手伝った薄氷の勝利だった。

  ところで、連日のWBCの大見出しに他のニュースはかき消されたかのような感じのこの一週間だったが、石川県でもヒヤヒヤの勝利があった。19日に投開票された石川県議補選で、森喜朗前総理の長男、祐喜氏(41)=自民新人、森氏の地元秘書=が相手候補に405票の僅差で逃げ切った。

  この県議補選では、森前総理は出陣式でもマイクは握らず、ただ支持者に頭を下げているだけだった。その代わり、公示前後に麻生外務大臣、安倍官房長官、自民党の中川政調会長らそうそうたるメンバーが選挙区に入り、まるで国政選挙並みの応援だった。競り合った相手候補は無所属新人の53歳、現在は建築設計士で元県職労委員長だった人。激戦を反映して、投票率は同時に行われた県知事選(40.10%)をはるかに上回る70.28%だった。

  僅差で逃げ切った祐喜氏だが、敗れた相手の方が敗戦の弁に勢いがあった。「勝敗では負けたが、選挙では負けてはいない」と。なぜか。森氏の地元である能美市では、祐喜氏の11728票に対し、相手方は12085票と357票上回っているのである。テレビのインタビューで、森氏の選挙参謀が「17日の総決起大会で予想外に多くの参加があり、気が緩んだのではないか」と分析していたのが印象的だった。

  今回は県議補選。一年後に県議選があり、両者の熾(し)烈な選挙はもう始まっているのかもしれない。

⇒24日(金)午後・金沢の天気  はれ

★「フレスコ画のダイナア」

★「フレスコ画のダイナア」

 人と人の顔が似ている、似ていないはそれを見る人の感性の違い、と言われる。その点を踏まえて秘蔵の写真を一枚を紹介しよう。イタリアのフィレンツェにあるサンタ・クローチェ教会の壁画に描かれている「聖十字架物語」の一部。フレスコ画である。金沢大学は国際貢献の一つとして、この壁画全体(幅8㍍、高さ21㍍)の修復プロジェクトにかかわっており、ことし1月、現地を訪れた。

  キリストが掛けられた十字架の木の由来を説明する8枚の連作の一部に描かれたこの絵は、4世紀はじめ、ローマの新皇帝となったコンスタンティヌスの母ヘレナ(中央)がキリストの十字架を発見し、エルサレムに持ち帰るシーンを描いたもの。ふと、聖女ヘレナの横顔が故・ダイアナ妃にとても似ている感じがして思わずカメラを向けた。1380年代にアーニョロ・ガッティが描いた大作がこの「聖十字架物語」なので、正確に表現すれば、97年8月に事故死したダイアナ妃がこの作品に似ているとすべきなのだろう。

  と同時に、「うつくしい」女性を見る感性や描き方はヨーロッパでは14世紀も21世紀もそう違いがない、ということに気がつく。聖女なので一番「うつくしく」表現されている。側の侍女もそれなりだが聖女にかなわない。ここで思う。日本ではいわゆる万葉美人や江戸の美人画からは現代のそれとは感覚を異にするのではないか。歌麿の美人画を私は「うまい」(巧み)と思うが、「うつくしい」と感じたことはない。でも当時の感性には訴えたのであろう。

 日本のように、歴史を経て美の感性や表現は変わるものだと思っていた。時代とともに人々の感性が変わるからだ。ところがヨーロッパでは変わらない。これは一体何なのかと、この「フレスコ画のダイアナ」を見て思いをめぐらした。結論はない。

⇒21日(火)午前・金沢の天気  はれ

☆祈りの回廊‐野町和嘉ワークス

☆祈りの回廊‐野町和嘉ワークス

 インターネット上ではすでに無数の動画があふれている。でも私自身これまで心を揺さぶられたとか、最後まで心して視聴したという動画は正直お目にかかったことはなかった。でも、きのう19日、初めて「感動もの」と言えるムービーとめぐり会えた。写真家、野町和嘉氏のサイトである。

  去年5月、金沢の知人の紹介で初めてサイトを見て、この「自在コラム」でリンクを勝手にはらせてもらっていた。きのう久々にサイトを訪問して動画の存在に気がついて視聴した。そして、目頭が熱くなった。

  野町氏はイスラム教のメッカ、カトリック教のバチカン宮殿、チベット仏教、ヒンズー教のインドと、それこそ彼自身が「祈りの回廊」と呼び、世界の宗教の祈りの現場を撮影に歩いた。死を迎えるため、200㌔も離れた村からインダス川のほとりにやってきた老女、マイナス10度のチベットの聖地を野宿しながら向かう人々、一日わずか15分しか日差しのない洞穴で祈りを捧げるエチオピアのキリスト教信者…。

  野町氏は「なぜ人々は祈るのか」を念頭に置き、撮影を続けてきた。その世界は、金で心も幸福も買えると信じている人々とはまったく別世界の人たちの姿である。そして、野町氏は「なぜ人間は祈るのか。それは人間のDNAかもしれない」と言う。自らの来し方行き先をふと振り返ってみると、余りにも慢心し敬虔さを失ってしまっている自分の姿が見えてくる。

  ストリーミングに引き込まれる。砂漠と天空のコントラスト、野町氏を受け入れ信者の目線と一体化したアングル。そこには自然と人間、生と死が活写されている。この映像をぜひとも文化遺産として残してほしいと思った。

 ⇒20日(日)朝・金沢の天気   くもり

★ソフトバンク「次の一手」を読む

★ソフトバンク「次の一手」を読む

 この1週間で2度も「IT花火」が打ち上がった。3月16日に有線放送や無料インターネット動画配信サイト「GyaO(ギャオ)」を運営するUSENがライブドアと資本・業務提携すると発表し、翌17日にはソフトバンクが携帯電話3位のボーダフォン日本法人を1.7兆円で買収すると正式に表明した。私はGyaOの動画ニュースを時折り閲覧しているし、携帯電話のキャリア(通信事業者)はボーダフォンなのでこの2つのニュースに関心があり、けさのテレビ朝日の討論番組「サンデープロジェクト」にも見入った。

  記者会見を通じて、ソフトバンクとUSENどちらの戦略が鮮明に伝わってきたかというとソフトバンクの方だ。サンデープロジェクによると、今回の買収劇ではボーダフォン日本法人のウィリアム・ティー・モロー代表の方が焦っていたようだ。今年11月のナンバーポタビリティー制度(番号を変えずに通信事業者を変更)でボーダフォンが草刈り場となることに危機感を持って、有識者と次々会って意見を求めていたようだ。このタイミングでソフトバンクの孫正義社長が動いた。「チャンスだ」と。

  ソフトバンクは去年11月、携帯電話事業への参入認可を取っている。「チャンスだ」と判断したのは、新規参入でゼロから顧客を獲得するより、1500万人余りの既存顧客を獲得したかったのだろう。何しろ、ソフトバンクはロスを垂れ流しながら顧客を増やしてゆく手法を取り、ADSLのユーザーを開拓した。その間、「押し付けだ」などとマスコミに随分叩かれもした。

  で、ソフトバンクの見えてきた戦略とは何か。それは、「通信のオールインワンサービス化」であることは間違いない。自らで育てたADSL事業に加え、日本テレコム買収(2004年)によって入手した光ネットワークインフラ、そして携帯電話事業。これらをひとまとめにして定額でいくら、といったビジネス展開だろう。携帯電話の料金は高い(1人平均8000円)と多くのユーザーが思っている。そこで、「光と携帯で5000円」といった定額制にする、あるいは携帯だけでも「使い放題3000円」などとキャンペーンを張れば、草刈り場になるどころか、顧客を増やすことができるのではないか。

  ソフトバンクのボーダフォン買収戦略でむしろ岐路に立たされるのはNTTかもしれない。NTT東西地域会社は06年度の事業計画で光ファイバーの販売を強化し、これまでの1.7倍にあたる617万回線、中期経営戦略では2010年までに3000万回線を販売するとしている。つまり、いまある銅線をすべて光に置き換えることで、ソフトバンクをADSL事業から追い落とす一石二鳥の効果を狙っているのは見え見えだ。

  しかし、逆にNTTに「通信のオールインワンサービス化」ができるかどうか。できなければソフトバンクから逆襲される。この両者のツバ競り合いがある限り、少なくともボーダフォンのユーザーは11月になっても動けないのではないか。ソフトバンクの新しいサービスに期待し、その内容を見極めたいからだ。

 ⇒19日(日)午後・金沢の天気  くもり

☆築地で朝飯、銀座で夕飯

☆築地で朝飯、銀座で夕飯

 今週の前半は休暇で長崎に家族旅行、後半は東京出張と旅先が多かった。そのおかげでご当地の珍しいものを食する機会にも恵まれた。17日は東京・築地で朝飯にありつけた

  築地の交番にほど近いゲートから入ると、「市場の厨房」という看板がある。和風ダイニングのコンセプトで設計された新しい食堂だ。なぜ、この店に入ったかというと、能登半島の輪島からもいろいろと食材を取り寄せているらしいと聞いて、こだわりの店に違いないと思ったからだ。

  注文したのが海鮮とろろ丼(950円)。マグロとブリなど魚介類に山芋のトロロをかけたどんぶり、それに油揚げの入った味噌汁と小鉢が一品つく。メニューを見渡すと「団塊世代のカレーライス(辛口)」(700円)というのもある。どんな味かと思いつつも2つ注文するお腹の余裕はなかった。

  運ばれてきたどんぶりは彩りもよい。輪島の食材はというとこのブリかと思いつつ、のど越しの気持ちよさもあり一気に平らげてしまった。ふとテーブルの上の塩の入った小瓶を手に取ると、「輪島の天然塩」と書いてあった。食塩一つにもこだわった店なのだ。

  出張の目的を終えて夕食。銀座8丁目の郷土料理の店「のとだらぼち」に入った。「だらぼち」とは一途な人間を指す能登の方言だ。この店は、「銀座に能登の玄関口を」と能登の異業種交流の仲間26人が共同出資でつくった。かれこれ7年も営業していて、食通の間では知られるようになった。

  店長の池澄恒久さんは輪島出身、能登の伝統料理のほか、アイデアを凝らした能登を料理を出す。能登の本格むぎ焼酎「ちょんがりぶし」を飲みながら、はばのり、能登牛の味噌漬け、こんかいわしを食した。

  金曜日の夜ということもありほぼ満席。今月21日にはこの店の常連客28人がツアーを組んで2泊3日の能登旅行をする。門前・猿山岬の雪割り草を見に行くのだとか。しゃれたツアーである。

 ⇒18日(土)夜・金沢の天気  くもり

★長崎行~行けど切ない石畳

★長崎行~行けど切ない石畳

  実は「長崎」にはちょっとした思い入れがある。宴席でカラオケの順番が巡ってきて、「何か歌って」とせかされて歌うのが、内山田ひろしとクールファイブの「長崎は今日も雨だった」だ。前川清のボーカルをまず歌って喉ならしをする。「♪行けどせつない石畳~」と。これで自分をカラオケモードに切り替える。1969年のデビュー曲だから、私もかれこれ30年余り歌い込んできたことになる。

  歌にうたわれた場所がある。オランダ坂を上がり、大浦天主堂、グラバー邸入り口にかけての坂道は一面の石畳である。訪れた日は晴れだったので地面は反射していたが、これが雨で濡れていればまた違った風情になり、歌のように気分も盛り上がるのかもしれない。

  ところで、現地に来て初めて理解ができた。長崎は「坂の街」である。石畳を敷き詰めないと雨で路肩が崩れてしまう。しかも傾斜が急なところも多いので、コンクリートやアスファルトでは凍結した場合に滑る。長崎には石畳が理にかなっているのである。バスガイトによると、最近では高齢化でエスカレーターやリフトを取り付けている地区もあるのだとか。坂の街の福祉ではある。  

 その石畳の坂道を上り、グラバー邸に着く。長崎湾を見下ろす高台にある。イギリス人貿易商トーマス・グラバー。長崎が開港した安政6年(1859)に日本にやって来た。若干21歳。2年後にグラバー商会を設立し、同時に東アジア最大の貿易商社だったジャーディン・マセソン商会の代理店になった。大資本をバックに武器の取り扱いを始める。

 グラバーに接近してきたのは坂本竜馬だった。竜馬は、幕府から睨まれている長州藩が武器が購入を表立ってできないのを知り、自らつくった亀山社中を通して薩摩藩名義で武器を購入、それを長州藩に横流しするというビジネスモデルを思いつく。グラバー商会から購入した最新銃4300丁と旧式銃3000丁が後に第二次長州征伐である四境戦争などで威力を発揮し、長州藩を勝利へと導く。それがきっかけに薩長を中心とした勢力が明治維新を打ち立てる原動力となっていく。竜馬ファンの間では知られたストーリーである。

  グラバーの3つ上が坂本龍馬、同年代の幕末の志士たちがうごめいていた。自らもリスクを取って長崎にやってきたグラバーは病に倒れるまで50年も日本に滞在した。長きに渡って日本を見続けてきたのも、同世代の人間群像に共鳴し行く末を見届けたかったからではないだろうか。逃げ込んできた志士たちをかくまった屋根裏部屋もグラバー邸で見つかっている。

  今回の旅では行けなかったが、前記の竜馬ゆかりの亀山社中跡(長崎市内)が今月18日で公開を終了することになったと地元の新聞各紙が報じていた。所有者が運営する団体に明け渡しを求めていたらしい。竜馬ゆかりもさることながら、日本最初の株式会社でもあり、日本における資本主義の黎(れい)明を象徴する建物として歴史的な意味も大きいのではないか。所有者の手に戻り、どうなるのか記事に記されてはいない。残念な話で、「♪行けど切ない石畳」ではある。

 ⇒14日(夜)・長崎の天気   はれ

☆長崎行~ハウステンボス変貌

☆長崎行~ハウステンボス変貌

  休暇を利用して長崎を旅している。午前8時半のフライトで小松空港から羽田空港に行き、乗り換えて長崎空港に降りたのは正午過ぎだった。空港からのバスで1時間足らずで佐世保のハウステンボスに着いた。小気味よいほど接続がスムーズだった。

  春の九州はさぞ温暖だろうとこの地を選んだが、戻り寒気で気温は3度。大村湾に面しているせいか風も強い。念のために金沢から持ってきた厚手のハーフコートが役立った。それにしてもハウステンボスの総面積は152㌶もあるというから広い。東京ディズニーランドのテーマパークのざっと3倍である。広すぎて手が回らなかったのかも知れない。2003年に経営破綻し、野村プリンシパル・ファイナンス(野村証券系投資企業)が支援するかたちで2004年4月にリニューアルオープンした。

  10年余りも歴史を刻むと、オランダを模した街並みはテーマパークというより落ち着いたオランダ街と言ったほうがよい。宿泊したホテル・ヨーロッパ(ホテル・オークラが経営参画)も従業員の身のこなし、レストランのメニューなど、テーマパークから連想する子どもっぽさはない。まるで大人をタ-ゲットにしたリゾートホテルである。トリートメント、アロマテラピーを売りにしていて、客の顔ぶれも女性が多いようだ。また、少し離れたホテル・デンハークで食した地中海料理のパエリアなどは賞賛に値すると思う。

  癒しとグルメに随分と力を注いでいるようだ。これだったら羽田から2時間、バスで1時間かけてもやって来る客はいるのではないか。野村PFの経営戦略もここにあるのはとにらんだ。

  いまはまだ修学旅行の生徒たちも多い。800㌧の真水を使って洪水を再現するホライゾンアドベンチャーや、「魔女の宅急便」をテーマにしたフライトオブワンダーなどかつてのテーマパークが健在だ。でも、そのうち徐々に大人色も鮮明にしながら、将来解禁されるであろうカジノなども導入し、大人も子どもも楽しめる「海辺のラスベガス」へと変貌させていくのではないかと想像をたくましくした。

 ⇒13日(月)夜・佐世保の天気  はれ

★森氏の「ミモレットの演技」

★森氏の「ミモレットの演技」

 きょう夕食の酒のつまみにフランス産のチーズ「ミモレット」を食した。金沢市内ではなかなか手に入らないので、酒の量販店に予約して取り寄せたものだ。100㌘350円、チーズのコーナーでは一番値がはる。ミモレットが我が家の食卓に載るようになったのは例の「事件」がきっかけである。

 去年8月6日夜のニュースだった。参院で郵政民営化法案が否決された小泉総理が衆院解散を決意し、それを思いとどまらせようと森氏が官邸を訪ねたが、「殺されてもいい」と拒否された。その会談で出たのが缶ビールとつまみの「干からびた」チーズだった。会談後、森氏は握りつぶした缶ビールと干からびたチーズを取り囲んだ記者団に見せ、「寿司でも取ってくれるのかと思ったらこのチーズだ」「硬くて歯が痛くなったよ」と不平を漏らした。その映像を見たわれわれ視聴者は「小泉は命をかけている、本気だな」との印象を強くした。森氏が記者団に見せた憮(ぶ)然した表情がなければ、総選挙での自民党の大勝はなかったのではないか、と今でも思ったりする。

  その後日談であの干からびたチーズは高級チーズ「ミモレット」だったと報道され、さっそく市内を探し回ってくだんの店にたどり着き、取り寄せてようやく手に入れた。確かに歯応えは十分あるが、「硬くて歯が痛くなる」ほどではない。ミディアムに焼いたステーキを食する人なら、難なく口に入る。「歯が痛くなるなんて、オーバーな表現だな」といぶかってもいた。

  そして、きょう(12日)その理由が分かった。午前10時からのテレビ朝日の政治討論番組「サンデープロジェクト」で森氏が出演した。司会の田原総一朗氏が「あの干からびたチーズの会見は森さんの演技だったという説もありますが、本当ですか」と尋ねたのだ。森氏はニコニコしながら、否定はしなかった。ということは、やはり芝居だったのか。演技ならば「硬くて歯が痛くなった」との表現も辻褄(つま)が合う。

  とはいうものの、私にはあのシーンが演技だったとは思えない。あの時、森氏は衆院解散には反対だった。むしろ、「オレは本気なって小泉総理に解散を止めろと説得したんだ」と強調したいがためにオーバーな表現を使ったのだろうと推測する。

  ところで番組では、森氏は東京ではなく北陸朝日放送(金沢市)のスタジオから中継で出演していた。10日に告示された石川県議会議員補欠選挙(19日投票)に立候補している長男の祐喜氏(41)の戦いぶりが気になり、お国入りしたのだろう。9月のポスト小泉の後継はこれから、まず、自らの後継を固めようとの思いか。

 ⇒12日(日)夜・金沢の天気  あめ

☆NHK国際放送のCM論議

☆NHK国際放送のCM論議

  NHKの国際放送の拡充を図るべきとの小泉総理の指示を受けて、竹中総務大臣の私的諮問機関「通信・放送の在り方に関する懇談会」はNHKのチャンネル(8波)を減らし、一部CMを導入して海外向けの情報発信力を強化しようと動いている。これに対し民放は「NHK受信料、民放CM」の2元体制を崩すべきではないと、NHKのCM導入には反対している。しかし、これでは民放側の分は悪い。

  逆に考えて見れば分かる。視聴者が月々1395円(訪問集金・カラー契約)の受信料を払っているが、その中に海外放送分も含まれていたとはほとんどの人が知らなかった。NHKの「18年度収支予算と事業計画」によれば、海外放送の番組制作と送出に112億8000万円のうち、国からの交付金22億5000万円がつぎ込まれている。残り90億3000万円は受信料からである。「海外の放送分までなぜ国民が面倒をみなければならないのか」「その分、料金を下げろ」と視聴者感覚では不満を持つのは当然だろう。

  「NHK受信料、民放CM」の2元体制はテレビ局サイドが勝手に決めていることで、視聴者にはどうでもよいことである。民放が「15秒CM一本たりともNHKに渡さぬ」と頑なに主張すれば、視聴者=国民から「それだったら自分の局で海外放送をやってみろ」「国の免許事業で参入の壁がある民放だけがCMを独占してよいのか」との批判が起こりかねない。

  ところが、10日の衆院総務委員会に参考人として呼ばれたNHKの橋本会長も「CM導入を考えてはいない。受信料を財源に番組の英語化率を高める方向で強化する」「しかし、どこまで受信料を使ってよいのか、視聴者のコンセンサスが必要だ」と煮え切らない答えをしている。

  ことし1月に訪れたイタリアのローマやミラノのホテルでもNHKの海外向けの放送は視聴できた。ラジオは22言語で、テレビは3つの放送衛星を使ってほぼ全世界に番組を流しているのである。CM導入となればTOYOTAやCanon、SONYといった企業は無視しないだろう。電通など代理店が飛びつくに違いない。民放はこれが「アリの一穴になる」と危惧しているのであろう。この論議を見守りたい。(※配信エリア図は「NHK平成18年度収支予算と事業計画」から転載)

 ⇒11日(土)夜・金沢の天気  はれ

★能で謎解き「信長の最期」

★能で謎解き「信長の最期」

 先日(3月7日)、「能の世界」について学ぶ講座があり、参加させてもらった。この講座は、金沢大学で学ぶ留学生らを対象にした「金沢学」。それこそ、茶屋街の芸子さんの踊りや伝統工芸、兼六園などさまざまな金沢の文化を貪欲に勉強するバイタリティーのある講座だ。

  この講座のスタッフから、「たびを履きますけど参加しませんか」と誘われたのがきっかけ。「たび」とは日本古来の白足袋のことである。能舞台を見学させていただくので「たび」は必須なのである。訪れたのは金沢市在住の宝生流能楽師、藪(やぶ)俊彦氏のお宅。伝統芸能を継承する家らしく、どこか凛(りん)とした雰囲気が玄関からして漂う。

  金沢では昔から「空から謡(うたい)が降ってくる」といわれるくらい能楽が盛んだ。確かに旧市街を歩いていると、ふと鳴り物と謡が聞こえたりする。結婚式に参加すると、見事な「高砂」を拝聴することになるし、金沢では小学生が授業で能楽を見学し、謡の教室もあるくらいだ。去年12月、ある居酒屋で隣の席に座ったアメリカ人と店の主人が能の話で盛り上がり、いきなり謡の交換会が始まったのには驚いた。金沢はそんな街である。

  藪氏の話が面白い。能面をつけた演者があの高い舞台から落ちないでいられる理由や、小鼓(こつづみ)は馬の皮を用いているが、年季が入ったものは破れる前が一番音がいいといったエピソードはこの世界でしか聞けない話である。その中で、自分なりに「なるほど」と思ったことが、「生霊(いきりょう)」という概念についてである。私的な恨みや怨念という人間特有の精神エネルギーが日常でうずまくことで悲喜こもごもの物語が構成されるのが能のストーリーである。  

 戦国時代、織田信長が本能寺でふい討ちをくらった際、最期に能を舞ったといわれる。繰り返した殺戮(さつりく)と権謀術策で幾多の死霊や生霊を実感しなが天下統一に突き進んだものの、明智光秀の生霊に命運が尽きた。そうした自らの生き様を実感しながら最期の締めに舞った。「人生50年…」と。すさまじい人生パフォーマンスではないか。映画やドラマで、信長が最期に能を舞うシーンが必ず出てくる。これまで理解がないままにそのシーンを見てきた。「生霊の世界=能」というキーワードがあればあのラストカットはよく理解できるし、とても味わい深い。

<お知らせ>
このコラムでご紹介した藪俊彦氏はあす12日、オーケストラ・アンサンブル金沢と新曲「葵上(あおいのうえ)」を共演します。

第197回定期公演マイスター・シリーズ
日時:2006年 3月12日(日)15:00開演(14:15開場)
会場:石川県立音楽堂コンサートホール
指揮:小泉和裕
能 :金沢能楽会、藪 俊彦(シテ)
曲目:高橋 裕  :オーケストラと能のための「葵上」(新曲委嘱作品)
料金:SS:5,000円 S:4,000円 A:3,500円 B:2,500円 B学生:1,500円

 

⇒10日(金)夜・金沢の天気  くもり