#コラム

☆国論分裂

☆国論分裂

 北朝鮮によるミサイル連続発射(7月5日)の波紋がついにここまできたか、という思いで毎日記事をチェックしている。その状況は、国論分裂と言ってよい。ただし、お隣、韓国のことである。

  韓国の朝鮮日報や中央日報のインターネット版(日本語)には連日、ミサイル関連の記事が大きく扱われている。国論分裂とはマスメディアと、政府ならびに与党であるヨルリン・ウリ党との鋭い意見対立である。まずは、ホットなニュースから。国会統一外交通商委員会・金元雄委員長(ウリ党)は14日、北朝鮮に対し強硬姿勢を示している日本について「日本が核問題とは全く関係のない日本人ら致被害者問題を取りあげ続け、6カ国協議を成功裏に展開させるうえで障害物となっている」とし「(6カ国協議の)当事国としての資格を再検討すべき。日本が抜けるほうがさらに柔らかいだろう」と述べた(中央日報)。さらに、ウリ党議員43人が13日、「日本主導による国連の対北制裁決議案は明白な侵略主義」という声明を発表し、「日本が露骨に軍事大国化を試みている。膨張戦略を中断せよ」と主張した(朝鮮日報)。

 ウリ党議員らは、日本は6カ国協議から外れた方がいい、あるいは、対北制裁決議案は侵略主義と露骨に日本批判を展開しているのだ。ちなみに前述の金元雄議員は拉致被害者の横田めぐみさんの両親に「韓国には、日帝によって強制的に連行された数十万の『めぐみ』がいることを忘れるな」との手紙を送った人物である。

  こうした政府・与党の動きに敏感に反応しているのがマスコミだ。朝鮮日報の14日付のコラムは「・・・(北朝鮮のミサイル発射で)日本政府には北朝鮮への先制攻撃論が巻き起こり、これに対して大統領府は潜伏していた敵をようやく見つけ出したとでも言うかのごとく、戦争も辞さないような姿勢で日本を非難している。すでに北朝鮮のミサイル問題は、韓国と日本の紛争に発展したような様相を呈している。韓国が北朝鮮に代わって日本と争っているようなものだ」と政府の批判の矛先が違うと痛切に批判している。

 この政府・与党とマスコミの意見対立をさらに煽ったのが、釜山で開かれた南北北閣僚級会談。北朝鮮代表団が「韓国の一般国民は金正日総書記の先軍政治の恩恵にあずかっている」として、コメ50万㌧の援助を要求した(13日)。北朝鮮の軍隊が韓国を守っているのだからコメを寄こせと主張したのである。これで韓国世論がハチの巣をつついたような大騒ぎになった。

  韓国以外には向ける国もない射程距離300㌔のスカッド・ミサイルが何の目的で発射されたのかという点を検証せずに、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は6日間沈黙していた。そして、日本の「先制攻撃論」が出てきたタイミングで一気に日本叩きに出たことが裏目に出て、かえってマスコミの批判を浴びることになった。盧大統領は相当の策士なのだろう。が、今回は策を弄しすぎた。

 ⇒14日(金)夜・金沢の天気  はれ

★ステマネの師匠逝く

★ステマネの師匠逝く

  こんな偶然というものが実際にあるのだ、と思った。11日付の朝日新聞の「惜別」のページに6月13日に亡くなった指揮者、岩城宏之さん(享年73歳)を追悼する署名記事が載っていた。「…音楽界を常に驚かせ、皆に愛され続けた希代の『ガキ大将』らしく、命がけで、自らの音楽人生にけじめをつけようとしているかのように見えた。」と。この記事を書いた吉田純子記者は、2004年12月31日にベートーベンの全交響曲を独りで振り切るという岩城さんの壮大なプランが持ち上がったとき、何度か朝日新聞東京本社に出向いて、番組化について相談させていただいた人だ。

   ところで、「こんな偶然」というのは、同じ11日付の北陸中日新聞に、「延命千之助氏 死去」の死亡記事が掲載されていたことだ。2人を知る人ならば、「延命さんは岩城さんを追いかけたのかも知れない」と言うに違いない。延命さんは石川県旧鹿島町(現・中能登町)の出身で、慶応大学文学部西洋美術美学科を卒業、音楽雑誌の編集部を経て、NHK交響楽団の演奏担当マネジャーを務めた。長男だったので父親の後を継ぐため54歳で故郷に戻った。

 岩城さんは延命さんのことを、「世界一の感じのステージマネージャー」と著書「オーケストラの職人たち」(文春文庫)で絶賛している。そして何よりも、オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の設立に奔走し、岩城さんをOEKの音楽監督に招いたのは延命さんだった。私は延命氏と直接の面識はなかったが、岩城さんから「延命さんが(石川県に)いたから金沢にきたんだ」と何度か聞かされたことがある。上記の延命さんのプロフィルも岩城さんから聞いていた。

  80歳。死亡記事によると、いまでもOEKのアドバイザーとして、時折り若手の団員を指導していて、「ステージマネージャーの師匠のような存在だった」。この業界ではステージマネージャーをステマネと呼んだりする。たいぐい希なるマエストロとステマネは同時に逝った。

 ⇒12日(水)午前・金沢の天気  あめ

☆イタリア優勝と視聴率

☆イタリア優勝と視聴率

 サッカーのワールドカップ(W杯)ドイツ大会を制したイタリア代表の選手団が日本時間11日未明に帰国し、ローマで優勝パレードが行われた。24年ぶりのW杯勝者となった英雄たちをたたえようとおよそ100万人が沿道や屋外の競技場に集まった、と新聞各紙が報じている。政府主催の祝賀パーティーで、プロディ首相は「努力と汗で目的が達成されることを若者たちに教えてくれてありがとう」と選手たちに感謝を表した。

  イタリアは今回で4度目の優勝である。まさにサッカー王国なのだ。そう言えば、ことし1月にローマ、フィレンツェ、ミラノを訪れた際も、街角にサッカーのCMのポスターが目立った。ごらんの写真は、ミケランジェロの「アダムの創造」をモチーフにしたポスターである。こんなポスターがあちこちに貼られていて、サッカ-が街の中に溶け込んでいるという印象だった。

 日本の話である。10日早朝にフジテレビ系で生中継された決勝戦「イタリア対フランス」の視聴率は延長戦開始前までは平均11.6%、延長戦以降の平均視聴率(関東地区)が16.6%だった(ビデオリサーチ社調べ)。この数字をどう評価するか。NHKが6月23日早朝に生中継した日本ブラジル戦は22.8%(関東地区)だった。実は、この数字は意味深い。この数字を04年8月13日未明から早朝に行われたアテネ五輪開会式の中継と比べると、その視聴率は12.7%(NHK、関東地区)だったので、少なくとも平均してオリンピック並みに視聴率が取れたわけだ。しかも日本チームが出場していない試合である。

 松井秀喜選手やイチロー選手がアメリカ大リーグに移籍してから、アメリカの野球をテレビで観戦する大リーグファンが増えた。同様に、サッカーの醍醐味を楽しむという習慣が日本人に定着してきた、ということなのだろう。未明から早朝の10数%というのは、相当の覚悟と意欲がないと視聴できない時間帯だけに、ゴールデンタイム(19時-22時)の数字より価値がある。その数字は、単なる視聴率というより、意識調査のようなものだ。「あなたは寝不足を覚悟でサッカーW杯をテレビ観戦しますか」…YES16.6%。

⇒11日(火)午後・金沢の天気  あめ

★昆虫をスキャンする

★昆虫をスキャンする

 夏といえば昆虫の季節である。金沢大学「角間の里山自然学校」の研究スタッフが、「すごいことできますよ」と見せてくれたのが昆虫写真。ご覧の通り、クワガタの裏と表がくっきりと写っている。まるで、図鑑のようである。さぞかし特殊なカメラ(スリットカメラなど)でと思ったがそうではない。これがなんと、市販のスキャナで撮った画像なのだ。

  スキャナなのでフタをするが、直に載せると虫が潰れてしまうので、フタとガラス面の間に薄手の雑誌など挟んで隙間をつくる。1㌢ほどの大きさならば十分に足の毛まで写るのである。小さなものをこうして撮影できるとなると格段に昆虫への理解も深まる。研究スタッフはさっそく「子どもたちの学習プログラムに取り入れましょう」と意欲満々である。

  電子レンジでつくる「押し花」にも目を見張ったが、スキャナにもこんな得意技があったとは正直驚きである。偶然発見したのではない。ネタ本がある。「養老孟司のデジタル昆虫図鑑」(日経BP社)である。この本では、養老氏がこの撮影方法を作家の山根一眞氏から教わったことを述べている。ひょっとして、「デジタル昆虫撮影」はこの夏のブームになるかもしれない。

  これだとお気に入りの昆虫標本をスキャナで撮って、A1サイズで拡大して研究室や部屋に飾っても、随分と癒されるかもしれない。こうなるデジタルアートと言えるかもしれない。

 ⇒10日(月)夜・金沢の天気  はれ

☆JanJanからの手紙

☆JanJanからの手紙

 きょう8日、出張から帰宅すると、「日本インターネット新聞社」から封書が届いていた。「何だろうインターネット新聞社って。まさか架空請求書じゃないだろうな」と少々疑念を持ちながら封を切った。すると「編集委員選賞」の受賞のお知らせと図書カード(1000円分)=写真=が同封されていた。これで日本インターネット新聞社はインターネット新聞サイト「JanJan」を運営する会社だったことに気づいた。

  JanJanにはたまに投稿している。私が勤める金沢大学のイベントや、地域の話題など。今回、編集委員選賞に選ばれたのは6月14日に投稿した「マエストロ岩城の死を悼む」である。選ばれた理由は、記事の内容より、むしろタイムリーに投稿したためではなかったかと考えている。指揮者・岩城宏之さんの死去は13日、投稿は翌日だった。

  ところで、インターネット新聞といえば、日本ではJanJanが独走している。ここにきて強力なライバルが出現した。韓国で大きな影響力を持つインターネット新聞「オーマイニュース」の日本版が8月下旬にも立ち上がる。5月の記者発表で、編集長には元毎日新聞記者でジャーナリストの鳥越俊太郎氏が就任することが明らかに。さらに、日本語版を発行する現地法人のオーマイニュース・インターナショナル(東京)は、70%を韓国のオーマイニュース、30%をソフトバンクが出資している。ソフトバンクという強力なバックが存在するのだ。

  そのライバル出現をかなり意識してか、今回届いた封書には、「ぜひご参加ください」と呼びかけるパンフレットも同封されていた。同社の会社概要によれば、代表取締役は竹内謙氏(前鎌倉市長、元朝日新聞編集員)。ソフト開発大手の「富士ソフト」会長で創業者の野沢宏氏が取締役に、同じく取締役に岩見隆夫氏(毎日新聞社特別顧問)らが名を連ねる。

  競争はよい意味でお互いのレベルを高める。図書カードをもらったからではないが、エールを送りたい。

⇒8日(土)夜・金沢の天気  あめ

★続・天を仰いで唾する…

★続・天を仰いで唾する…

 北朝鮮のミサイル発射が韓国でも相当、論議をよんでいるようだ。中には、「北」擁護の声を紹介している韓国紙もある。日本では見受けられない貴重な内容だ。以下、6日付の中央日報インターネット版(日本語)から引用する。

 ・・・「盧武鉉を愛する人々の会」の掲示板には「今回のミサイル発射実験は強大国間で犠牲になった不遇な民族歴史の憂憤を晴らす発射だった」という解釈もある。 この文に関連し「北朝鮮の(ミサイル)発射はそれほど責めることではない。政府の立場としては止むを得ないが、われわれは拍手を送るべき」という意見もあった。・・・

 上記は盧武鉉大統領支持派のインターネット掲示板の内容紹介であり、新聞社の論調ではない。ただ、ミサイル発射の対応について、小泉総理が主宰する国家安全保障会議が開かれたのは5日午前7時30分だったのに比べ、盧大統領が主宰する安保長官会議が開かれたのは同午前11時だった。この3時間半のタイムラグをめぐり、日ごろから「北」擁護の論陣を張っている盧大統領についてさまざな憶測を呼んでいる。たとえば、ミサイル発射と排他的経済水域(EEZ)での調査が同じ日だったことから、「盧大統領はミサイル発射の日を予め知っていて、調査船を竹島沖に向わせた。つまり南北合作の陽動作戦じゃないのか」といった疑念が日本側でもくすぶっているのだ。

  話は変わる。今回の北のミサイル発射でマスメディアでの露出が格段に多くなったのが安倍晋三官房長官だ。安倍氏は5日午前4時30分ごろ、首相官邸に一番乗りだった。内閣のスポークスマンとしてこの日は4回の記者会見に臨み、北を強く批判する声明を発表した。その毅然とした物言いの映像や、口をヘの字に閉ざした写真がマスメディアに頻繁に登場することになる。マスメディアが番組や紙面で緊張感を演出するには「安倍」は欠かせない素材となっているのである。

  言いたいことは一つ。自民党は5日の党総裁選管理委で、小泉総理の任期満了に伴う総裁選を「9月8日告示、20日投票」と決めた。告示まであと2カ月。ミサイル発射の衝撃は今後、国連安保理での北朝鮮非難決議の採択や経済制裁などをめぐり2カ月は持つだろう。ということは、総裁選レースは安倍氏がこのまま走り込んでゴールとなる。10月上旬には首班指名選挙、続く組閣と政治日程は組み立てられていく。

 ⇒6日(木)夜・金沢の天気  くもり

☆天を仰いで唾するのたとえ

☆天を仰いで唾するのたとえ

  誰がどう見ても、常識的に考えても、この2つの行為はおかしい。北朝鮮によるミサイル発射と、日本が主張する排他的経済水域(EEZ)での韓国の一方的な海洋調査のことである。きょう帰途のバスの中で、私の前の席に座っていた会社員らしき2人の男が交わしていた会話の中で、「南北(韓国と北朝鮮)共同の宣戦布告みたいなもんやろ」という言葉もあった。こうした「車内の声」は意外と世論なのである。

   この2つの行為が連動していないにしても、また意図がどうであろうと韓国が北朝鮮と同等だとみなされたことは韓国にとって大きなダメージだろう。先にこの「自在コラム」で韓国の土地バブルが崩壊寸前だと書いた。この動向はすでに日韓の懸案になっていて、ことし2月の日韓財務長官会議で、韓国に通貨危機が発生すれば日本が100億㌦を、日本に危機が生じれば韓国が50億㌦を支援することに合意している。 支援は、通貨危機にある相手国の通貨をドルに換える形式(通貨スワップ)で行われる。双方の危機に対応するというかたちをとっているが、実質的に韓国のデフォルト(破綻)に対する救済策なのである。しかし、今回の北朝鮮によるミサイル発射を受け、政府が新たな制裁措置を行う過程で南北の2つの行為が連動していたものとなれば、この100億㌦の合意は当然、ご破算だろう。

   しかも、北朝鮮はきょう5日未明の午前3時から8時かけての6発で国際世論が沸き立ったにもかかわらず、夕方午後5時20分にも中距離ミサイル1発を追加で発射している。国連安保理が日本時間の午後11時から緊急会合を開くと決めた以降もこうしてミサイルを発射し続けているのである。天を仰いで唾(つば)するとはこのことだろう。

    北朝鮮が巧妙だったは、アメリカの最大の祝祭日である独立記念日に「派手な花火」を打ち上げたことだ。 アメリカ時間の4日午後2時38分、フロリダのケープカナベラル基地から7人のクルーを載せた宇宙船「ディスカバリー号」が飛び立った。北朝鮮の最初のミサイル発射はアメリカ時間で午後2時32分だった。つまり、北朝鮮はディスカバリー号打ち上げ6分前に最初のミサイルを発射したのだ。これは意図的なものか、偶然か。アメリカがショックを受けているのはこの事実なのである。

  それにしても滑稽なことがある。このタイミングで共同通信など日本のマスメディアが北朝鮮を訪れている。きょう5日、横田めぐみさんら拉致被害者が一時居住していたとされる平壌市郊外の2カ所の招待所や、めぐみさんの「遺骨」を焼いたとする火葬場を見学した。真実が語られることのない北朝鮮で何を見ても聞いても果たして取材に値するのだろうか。北朝鮮がお膳立てした現場で撮ったものを、これがめぐみさんを焼いた火葬場の写真であると掲載しても、日本の読者は信じるだろうか。「さっさと戻って来い」。私ならそのひと言である。

 ⇒5日(水)夜・金沢の天気  あめ

★「見せたくないTV番組」

★「見せたくないTV番組」

 先日、あるテレビ系列のキー局から事業報告書が郵便で届いた。放送業界の動向を理解するために株を持っている。送られてくる事業報告書はいわば株主向けの1年ごとの業績報告だ。それによると昨年度の売上高2493億円、経常利益173億円となっていて、ここ5年間でともに最高ある。この数字で見る限り、すでに株式公開(2000年10月)で得た手元資金でデジタル化を乗り切り、経済循環の好転を受けて巡航速度で母船(キー局)は走り出している、との印象だ。

   今回この話題を取り上げたのは、好調な業績に拍手を送るためではない。ちょっとした問題提起をしたかったからだ。事業報告書の3㌻目にテレビ放送事業という欄があり、レギュラー番組の中から高視聴率の番組が写真付きで紹介されている。少々違和感があったのは、火曜日夜9時の「ロンドンハーツ」である。「平均14%を超える高い視聴率をマークした」との説明がある。が、先月18日付の新聞各紙にはまったく反対の評価が掲載されている。

  その内容は、日本PTA全国協議会が小学5年生と中学2年生の保護者らを対象にした「子どもとメディアに関する意識調査」で、子どもに見せたくないテレビ番組の1位が3年連続で「ロンドンハーツ」、見せたい番組の1位は「1リットルの涙」だった。見せたくない理由は「内容がばかばかしい」「言葉が乱暴である」、と。

  PTAの調査内容をもう少し細かく紹介すると、「ロンドンハーツ」は親の12.6%が見せたくない番組に挙げ、素人参加のトーク番組「キスだけじゃイヤッ!」(8.3%)やバラエティーの「めちゃ×2イケてるッ!」(8.1%)を大きく引き離している。若者には14%を超える人気番組かもしれないが、子を持つ親には「二桁もの反感」を買っているのである。かつて見た番組の印象では、女性タレントが言い争うコーナー「格付けしあう女たち」が人気のコーナーだが、冷静に考えば、ギスギスした人間関係を助長し、「だからそれが何だ」と思いたくもなるシーンもままある。

  大学に勤める身だからといって、何も堅物になっているわけではない。実は、日本小児科学会は2004年4月、児童の言葉の遅れや表情が乏しい、親と視線を合わせないなどの症状を抱えて受診する幼児の中にテレビやビデオの長時間視聴する子どもがいることを指摘して、「2歳までのテレビ・ビデオ長時間視聴を控える」「授乳中、食事中のテレビ・ビデオの視聴は止める」「子ども部屋にはテレビ、ビデオ、パソコンを置かない」などの提言をまとめた。

  この提言以来、月刊誌「COMO」(主婦の友社)などの子育て雑誌には盛んに子どもの発達とテレビ、あるいはテレビゲームとのかかわについて特集が組まれるようになった。ちなみに最新の「COMO」(8月号)では「子どもとテレビ&ゲームどうつきあわせる?」の特集が掲載されている。子どもを持つ親は食の安全の問題と同等に、心の発達の問題としてテレビやテレビゲームに気を使うようになってきている。また、子育てを目的にしたNPOなどが提唱して、テレビを視聴しない日をつくる「ノーテレビデー」を実施する動きが各地で広がっているのだ。

 つまり、テレビが子どもに与える影響について親たちが深刻に考え、一部では行動を起こしていると言いたかったのである。

  テレビ局側は「頭の固いPTAが感情論で…」などと軽んじないほうがよい。子どもを持つ親たちは感情論ではなく、医学や発達心理学の論拠を得て理詰めで考えている。業を煮やしたPTA全協が「物を言う」一株株主になって、「3年間も連続でワースト1と指摘されているのに、なぜ改善しない。学童を持つ視聴者の声を聞け」などと突っ込んできたらどう対処するのだろうか。

 ⇒30日(金)夜・金沢の天気  あめ    

☆透けて見えるシナリオ

☆透けて見えるシナリオ

 その劇的な再会に水を差すつもりはない。だた、演出されたシナリオが透けて見える分、しらける。日本の新聞でも1面で掲載された、韓国人拉致被害者の金英男(キム・ヨンナム)さんと母親が28年ぶりに北朝鮮・金剛山で対面したニュースのことである。

 実は同じようなシーンは19年前にもあった。1963年5月、石川県能登半島へ漁に出たまま行方不明になり、87年1月に北朝鮮で生存が判明した寺越武志さんと、両親の太左衛門さん、友枝さんが再会(同年9月)した場面である。武志さんが不明となったのは中学生、13歳のとき。

 母と再会を果たしたものの、97年9月、武志さんはマスコミのインタビューで「自分は拉致されたのではない。遭難し、北朝鮮の漁船に助けられた」と主張した。その主張は、02年10月、39年ぶりに一時帰国し、故郷の石川の地を踏んだ10日間の滞在中も繰り返された。拉致疑惑を否定するために帰国したようなものだった。

  再会した親子はその後どうなっているのか。武志さんは朝鮮労働党党員で平壌市職業総同盟副委員長のポストにあるとされている。02年の帰国も職業総同盟の訪日団の一員として訪れたのだ。友枝さんがこれまで北朝鮮を訪れたのは30回以上。新潟に寄港する北朝鮮の貨客船「万景峰号」などを利用する。出発する前に武志さんから電話がかかり、土産のオーダーがある。ダンボールにして10数箱分。衣料や薬、食料など半端な量ではない。この様子は寺越さん母子をテーマにしたドキュメンタリー番組などで何度か見た。

  どれほどの量の土産が北朝鮮に持ち込まれるのか。こんな数字がある。今月25日に北朝鮮・元山に向けて新潟西港を出稿した万景峰号の乗客は217人、積荷の中の雑貨は151㌧だった(26日付・新潟日報)。雑貨を北朝鮮への土産とみなすと、1人当たりざっと700㌔である。

 以下は推測である。北朝鮮にいる肉親から仕送りを求める手紙や電話がある。求められた土産の中には、生活物資もさることながら職場の上司への「貢物」も多分に含まれているだろう。あるいは、日本に親戚がいることをいいことに、上司が土産を「指示」していることもあるだろう。日本に住む家族はそんなことも暗に理解しつつ、せっせと仕送りをする。こうなると、これは北朝鮮の「ビジネス・モデル」ではないか、と思ってしまう。

  各新聞記事によると、28日の面会時、英男さんは、母の崔桂月(チェ・ケウォル)さんらに拉致された経緯や北朝鮮での元妻の横田めぐみさんとの生活について一切語らなかったという。おそらく英男さんは韓国には帰国せず、寺越友枝さんのように母が北朝鮮を往復することになるだろう。土産を山ほど持って。

 ⇒29日(木)夜・金沢の天気  はれ

★炭窯の哲人

★炭窯の哲人

  金沢大学には地域おこしのリーダーから教えを請う「里山駐村研究員」という制度がある。北陸3県で活躍する、里山をテーマにした地域おこしのプロたちである。人材がバリエーションに富んでいて、山中塗り木地職人、製材業者、農産加工グループ代表、木竹炭生産、有機農業、山菜・きのこグループ、酪農家、農家レストランの経営者、草木染め作家、天然塩生産者と多士済々だ。中には、道なき道を手探りで歩いて成功を収めた人も多く、人生については一家言を持つ。

   そうした駐村研究員の中で、声が大きくヒゲの風貌が似合うのが炭焼きの安田宏三さん(62)だ。安田さんについては以前、ことし3月6日付「奥能登へ早春行」でも紹介した。その安田さんが先日、私のオフィスがある創立五十周年記念館「角間の里」を訪ねてこられた。その時の話である。

   安田さんは抜群に記憶力がいい。なにしろ転職以前の国鉄時代、同僚400人の名前をすべて覚え、列車ダイヤもおおかた頭に入っていたそうだ。今でも、これまで読んだ本の作者や論文の研究者の名前が日本人であれ外国人であれ、すらすらと出てくるのだ。高校時代は生物部に所属し、動植物の名前を徹底して覚えた。

   山に入り、木を切り、炭窯に向かう毎日。孤独な作業だが、自然とは何か、人間とは何かを自らの来し方行く末に照らし、問いかけ、そして山中の動植物の生態をつぶさに観察する。「木のにおいを嗅ぎ、炎を見つめていると考えるヒントが浮かんでくる」 と。

  茶道で使う高級木炭、「お茶炭」をつくる。ある日、茶人たちの茶話会に招かれ講演した。その席で質問された。「炭焼きの仕事は、夏は何をなさるのですか」と。「夏は動植物たちの営みが盛んな季節。そんな中に人間が入ってろくなことがありません。だから休みます」と答えた。するとある人が驚いたように、「仏教用語でそれを夏安居(げあんご)と言いますが、仏教にお詳しいのですか」と。詳しくもないし、その言葉は聞いたことがなかった。

   安田さんはそのとき気づいた。仏教は頭の中でつくり上げたイマジネーションなどではなく、山の暮らしの中で動植物の観察の中から、自然と人がどう共存するかという知恵のようなものではないか、と。修行僧が山にこもるのも、自然から教えを請うためではないか。

   この話を安田さんから聞いて、夏安居を調べた。「大辞林」(三省堂)によると、インドの夏は雨期で、仏教僧がその間外出すると草木虫などを踏み殺すおそれがあるとして寺などにこもって修行したことに始まる、とある。雨安居(うあんご)とも言う。この3文字になんと生命感があふれていることか。

   安田さんは時折り、自らの炭窯に入り、レンガの状態など調べる。内部は直系2㍍、高さ1.2㍍ほど。狭くても、安田さんにとっては樹木という自然、炎、そして空気が激しく燃焼し炭化する宇宙でもある。その宇宙を眺めながら、ヒゲを撫でてを哲学的な思索にふける。その様子から、私は安田さんを「炭窯の哲人」と名付けた。一度じっくりと時間を割いてもらい、炭窯の壮大な宇宙の話を聞かせていただきたいと思っている。

 ⇒28日(水)夜・金沢の天気  くもり