#コラム

☆新幹線「かがやき」考

☆新幹線「かがやき」考

 「かがやき」と聞いてどのようなイメージを持つだろうか。「未来にかがやく」、「かがやく明日」など夢と創造性をかきたてる言葉の響きと感じる。ただ、人名だと「名前負け」しそうだ。2015年春に開業予定の北陸新幹線について、その列車名が10日、JR西日本と東日本から発表された。

 北陸新幹線の金沢と東京間を最速で走る速達タイプの列車名が「かがやき」、停車駅を多くする停車タイプは「はくたか」、金沢駅と富山駅を結ぶシャトルタイプは「つるぎ」、東京駅と長野駅を往復する長野新幹線タイプは「あさま」と列車名がついた。名称については、事前に公募(5月31日‐6月30日)があり、約14万5千件の応募があった。この結果で一番多かったのは「はくたか」(9083件)で、2位「はくさん」(7323件)、3位「らいちょう」(5408件)だった。

  1位「はくたか」は、立山の開山伝説に登場する白いタカの「白鷹」のこと。「はくさん」は石川、岐阜、福井にまたぐ白山、「らいちょう」は国指定の特別天然記念物のライチョウで、長野、岐阜、富山の県鳥でもある。今回、ベスト3の中で採用されたのは「はくたか」のみ。現在ほくほく線(北越急行)の特急の列車名だが、新幹線の列車名として残ることになった。「はくさん」と「らいちょう」は外れた。公募上位の「はくさん」が漏れたのは、今回採用された「はくたか」と紛らわしい名前を避けたためとする見方もあるが、理由はおそらくこうだ。かつて金沢駅と上野駅を結んだ特急「白山」はあった。が、2015年の新幹線開業時では、白山は沿線から見えないからだろう。そして、「らいちょう」だが、かつての特急「雷鳥」は現在「サンダーバード」として名称変更して北陸本線で運行している。新幹線開業後は金沢駅から東の北陸本線は並行在来線となるので、JR西日本から経営分離される。このため、「サンダーバード」は金沢駅止まりとして運行が継続される。

  それにしても大出世は「かがやき」である。上越新幹線と連絡するため、新潟県の長岡駅と金沢駅を結ぶ特急「かがやき」が1988年に登場。その9年後、1997年にほくほく線が開業し、越後湯沢と北陸方面を結ぶ「はくたか」がデビューしたので引退していた。そこにまさかの北陸新幹線での復活。しかも速達タイプ、まさに優等列車の愛称に「かがやき」が採用されたのである。「かがやき」は公募順位では5位(4123件)だった。4位の「つるぎ」(4906件)を差し置いて躍り出たという感じだ。個人的には東海道新幹線の「ひかり」と並び、「かがやき」はそん色ない。ローカルな山の名称や動植物を感じさせない分、スピード感や透明感、未来性を感じさせる、ある意味でよい名だと思う。

  金沢駅と富山駅を結ぶシャトルタイプの列車名として「つるぎ」も復活した。剣岳をイメージさせる「つるぎ」は1961年に大阪駅と富山駅を結び、その後に新潟駅まで運行区間が延長されたが、1996年廃止となっていた。東京駅と長野駅を往復するシャトルタイプの列車名が「あさま」なので、同じく山の名称をつけたのだろう。

※画像は石川県の新幹線開業に向けたアクションプラン「STEP21」ホームページから

⇒10日(木)夜・金沢の天気  くもり

★加速する北陸新幹線

★加速する北陸新幹線

 当地では北陸新幹線金沢開業(2015年春)にかける期待が大きい。金沢と東京がダイレクトで2時間30分という時間短縮もさることながら、その経済効果である。日本政策投資銀行は「北陸新幹線の開業にともなう石川県、富山県のへの経済波及効果をそれぞれ124億円(石川)、88億円(富山)を試算し、特に観光・ビジネス客が年にして石川32万人、富山21万人増えると予測している。

 そうした希望ある試算が奏功してか、新聞やテレビなどでは連日のように、「おもてなし」のキャンペーンをどう繰り広げるかといったたぐいのニュースが掲載されている。面白いのは、石川県が先月27日、金沢開業のPRのために新たに作ったマスコットキャラクター。その名も「ひゃくまんさん」。加賀百万石にちなんだ名前だそうだ。郷土玩具の「加賀八幡起き上がり」をモチーフに、だるまに手足が生えたようなデザインだ。都内で開くイベントに向け、着ぐるみを現在制作中だとか。伝統工芸の加賀友禅を思わせる図柄に金箔や輪島塗もあしらうそうだが、マスコットキャラクターにしては面白味がない。そもそも、加賀百万石はキャラクターになりにくいイメージだ。そもそも「百万石」の意味すら理解できない人が多いだろう。たとえば、徳川幕府は何万石だと問われて、回答できる人や、1石を説明できる人すら少ないだろう。現代では死語なのだ。そんなものをテーマにマスコットキャラクターにしてどうキャンペーンを展開するのだろうか。むしろ、「けんろくくん」が分かりやすい。

 北陸新幹線の名称に関しては、ずっと論争があった。ながらく「長野新幹線」としていたので、「長野」の名前を残すか検討されていた。JR東日本は「北陸新幹線」とした上で、一部の駅で括弧書きで「長野経由」との表記をつけると発表した。特に東京駅などは「北陸新幹線(長野経由)」と表記する。現在の長野新幹線の名称が定着しており、「長野」の表記をなくすと利用者が混乱する可能性があるため、残すことを決めたらしい。

 運行様式は、東京-金沢間の運行体系は停車駅を少なくして早く目的地に到着する「速達タイプ」、停車駅を多くする「停車タイプ」、東京駅と長野駅を結ぶ「長野新幹線タイプ」、それに金沢駅と富山駅を結ぶ「シャトルタイプ」の4タイプをで運行する。このシャトルタイプは、JR西日本が新幹線開業後に金沢と富山を結ぶ特急を廃止するため、名古屋や大阪から富山に行く場合の利便性を確保したものだ。

 車両名は「つるぎ」「たてやま」が有力だ。北陸新幹線の沿線で実際に見える山の名前だ。最近の記事によると、JR西日本が特許庁に商標として出願している。ただ、審査が続いており、まだ登録されていない。立山(3015㍍)と剣岳(2999㍍)はともに富山県にあり、日本百名山でもある。石川県では白山が有名だが車窓から見えないので、今回は難しい。ただ、北陸新幹線の福井延伸が今後進めば、「はくさん」も浮上してくるのかもしれない。

⇒9日(水)夜・金沢の天気   くもり

☆コメとTPPの考察

☆コメとTPPの考察

 「作るプロは売るプロでもなければならない」。単純だが、含蓄のある言葉だ。近正宏光著『コメの嘘と真実~新規就農者が見た、とんでもない世界!~』(角川SSC新書)はある意味で痛快だ。しがらみが一切ないのである。

 東京の不動産会社の社員(著者)が社長命令で、生まれ故郷の新潟でコメ生産を中心とした食糧事業部門を立ち上げる予定だったが、困難が待ち受ける。農地法に阻まれ個人負担で農業生産法人「越後ファーム」をつくり新規就農を始める。さらにそこから見えた農の世界。消費者のことなど一考もしない、「保護漬け」になり向上心を失った、コメの生産の場だった。農地法、農業委員会、村社会(兼業農家)など、コメを「ダメにした」存在と出会い面食らう。そこから著者が立ち上がる。機械化・大型化が条件の「集約型の米作農業」が不可能な中山間地=里山であえて耕作し、機械化・大型化とは真逆の「手作業農業」を選択するのである。

 現行のJAS法には規定がない高品質な有機技術を確立するとともに、様々な手間をかけたコメである強みを高付加価値化に転化する戦略を実践し、「コメの嗜好品化」を実現していく。それが東京の日本橋三越本店地階に出店するに至る。さらに、高付加価値米を生産する篤農家と組んだ「田んぼネットワーク」のコメを一堂に集めたショップも始める。

 著者のTPPに関する考えが読む者をはっとさせる。結論はこうだ。TPPに参加しようが、参加しまいが、日本の米作農業は既に破綻している、と。農地法や減反、戸別所得保障制度など様々なコメ農家への保護が行われているが、農家の平均年齢はサラリーマンが完全リタイヤする年齢である「65歳」を超えている。担い手はなく、大半の農家が兼業化した小規模農家である。耕作放棄地は増すばかりで、コメ一本で収入を安定させる農家は「絶滅危惧」の状態。つまり、既存のコメにまつわる保護農政を続けても「専業農家」は絶滅して行くことは誰の目にも明らか。とすれば、コメを広く市場開放し、農家も保護農業から脱却し、より切磋琢磨の努力をし、生産力と営業力を付け、付加価値を持つ農業人として自由競争すべき時期に来ていると主張するのである。

 結論を言えば、日本の米作農業を守るには、米作農家自らが強くなる以外に策はない、とうことだろう。国益を理由に世論を二分する「TPP問題」だが、もちろん、医療制度や貿易収支など広範囲であり、通商の専門家でない農業人(著者)が、TPP全体の是非論を語ることはできないにしろ、農家と保護行政の不都合な真実を突いている。これがコメづくりの正体だ、と。

 先日(10月6日)に台湾・東華大学社会貢献センターの教員たちが、金沢大学の能登での人材養成の取り組みについて視察に訪れた。その折、ブランド米について、新潟・佐渡のトキを育む水田のコメが2㌔1300円(精米)もしていると話した。すると、台湾の人たちは「それは台湾のデパートでは安い方だ。日本のコメを帰国にするときに買って帰る人が多い」という。日本のコメはすでに秋葉原で買う家電製品並みなのだ。著者の意図を、台湾の人たちの言葉が補ったような気がした。

⇒8日(朝)金沢の天気   くもり

★吉か凶かTPPの行方

★吉か凶かTPPの行方

  TPP「聖域」撤廃。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉で、政府・自民党が農業の重要5分野の関税を維持する従来方針から転換したと新聞・テレビディアが一斉に伝えている。これが、今後の日本の政治や政治にどのような影響を及ぼすのか。

  
  自民党の西川公也TPP対策委員長は、TPP交渉が開かれているバリ島で記者団に対し、「聖域」として関税維持を求めてきたコメなど農産物の重要5品目について、関税撤廃できるかどうかを党内で検討することを明らかにしたのだ。自民は前回の衆院選で、「聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対」との公約を掲げていた。こうした公約を放棄したともいえる。

  前回の「自在コラム」では、以下記した。「著者は着想はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)とEUを比較して、日本に警鐘を鳴らしている。それは、TPPでは共通の通貨は持たないが、人と金、モノ、サービスの自由な流通を共通理念としている。これはEUと原則的に同じで、アメリカが主導するTPPはそういうことだったのかと気づかされる。」、「TPPでは不都合なところがあれば、今後の交渉で解決すればよいというが日本はドイツ並みに外交交渉が上手かとなるといささか疑問だ。2020年のオリンピック招致ではなんとかうまくやり遂げたが、国際舞台の交渉の場ではどうだろう。メルケル首相のような手腕を安倍首相に期待できるのだろうか。」、「EUの中のドイツと、TPPの中の日本は同じ役回りだとの下りは身につまされる。『ドイツから搾り取れるだけ取ってやれ』と思っている国はEUで多い。表現は露骨だが、「日本からいけだけるものはドンドンといただく」くらに思っている加盟国もいるのではないか、いや国とというもの大抵そうだと思った方がよいのかもしれない。」と。

  TPP交渉は、いわば共通通貨のない「太平洋版EU」を目指すものだ。もともと、そんな交渉だ。したがって、農業分野での関税障壁などもともと念頭にないだろう。おそらく安倍首相もそこを理解していて、オバマ大統領が不在時に一気にTPPの主導権をとったのだ、と解釈した方がよい。うがった見方をすれば、すでにオバマとは連絡をとっていて、アメリカの「不在」を助けたことになる。ここから後には引けない。TPPのリーダーシップをいかに取るか、だろう。安倍政権の正念場だろう。

⇒7日(月)昼・金沢の天気   はれ

☆ドイツと日本

☆ドイツと日本

  この本は一度読んでみたかった。川口マーン恵美著『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』(講談社文庫)。よく大戦後の日本とドイツは比較される。なぜか、ドイツが「ナチス」のことをよく反省し、EUではよく主導権をとり・・・などと。「それに比べ日本は」などと隣国から揶揄される。では、ドイツと周辺諸国との現実はどうなのか知りたいと思っていた。

  本著での「我々は原爆を持っているが、ドイツはマルクを持っている」と、ドイツを見つめるフランス人の考え方が圧巻だ。これは1989年、「ドイツ統一とユーロ導入の裏事情」という下りで出てくる。ドイツの経済は強く、ミッテラン大統領はドイツが統一を望むならとユーロ導入を強力に勧めた。他国が望まなかったドイツ統一の代償として、ドイツはマルクを手放したという裏情報である。これは腑に落ちる。壮絶な政治的駆け引きがあったのだろう。でもドイツはその後、ユーロ導入で域内の関税はなくなり、為替変動のリスクもなく、輸出大国ドイツの地位を確立する。が、ギリシア財政危機が表面化し、ユーロ圏が一蓮托生となるとのドイツにも焦りが生じる。ドイツもユーロ圏を抜けたがっているのだろうと想像に難くない。それでも、ドイツは近隣から憎まれる。ドイツがギリシアに対して財政規律と緊縮財政を求めれば、求めるほど、ドイツのメルケル首相に「ナチの制服を着せたカリカルチュアがギリシアの雑誌に出回る」ことになる。ドイツも辛い。

  ヨーロッパを一つにしよという高い理想があっただけに、今や仲たがいの原因となっているとは皮肉だ。まして、EUの経済状態が確実に悪化しているのでなおさらだ。ところで、著者は着想はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)とEUを比較して、日本に警鐘を鳴らしている。それは、TPPでは共通の通貨は持たないが、人と金、モノ、サービスの自由な流通を共通理念としている。これはEUと原則的に同じで、アメリカが主導するTPPはそういうことだったのかと気づかされる。

  TPPでは不都合なところがあれば、今後の交渉で解決すればよいというが日本はドイツ並みに外交交渉が上手かとなるといささか疑問だ。2020年のオリンピック招致ではなんとかうまくやり遂げたが、国際舞台の交渉の場ではどうだろう。メルケル首相のような手腕を安倍首相に期待できるのだろうか。筆者はいう、「日本語は非関税障壁なので、英語を公用語に入れろなどと言われかねない。日本人はそれでもいいのだろうか」と。

  EUの中のドイツと、TPPの中の日本は同じ役回りだとの下りは身につまされる。「ドイツから搾り取れるだけ取ってやれ」と思っている国はEUで多い。表現は露骨だが、「日本からいけだけるものはドンドンといただく」くらに思っている加盟国もいるのではないか、いや国とというもの大抵そうだと思った方がよいのかもしれない。その意味で、ドイツと日本は同じ運命、「5勝5敗」のイーブンなのだろうか。

⇒6日(日)夜・金沢の天気      はれ

★拉致「宇出津事件」の現場

★拉致「宇出津事件」の現場

 「舟隠し」。地元では昔からそう呼ばれていた場所だ。石川県能登町宇出津(うしつ)の遠島山公園の下の入り江だ。山が海に突き出たような岬で、入り組んだリアス式海岸は風光明媚(ふうこうめいび)とされるが、歩くにはアップダウンがきつい。この辺りでは15世紀ごろ城があり、入り江では水軍の舟が隠されるようにして配置されていたことから、「舟隠し」と名がついた。狭い入り江で両サイドでうっそうと木々で囲まれている。辺りは昼でも暗い。

  ここで国際事件、北朝鮮による拉致事件の第1号事件が起きた。政府の拉致問題対策本部のホームページなどによると、政府が拉致被害者として認定しているのは17人。その第1号ともいえるのが「宇出津事件」だ。

  事件の経緯はこうだ。1977年9月18日、東京都三鷹市の警備員だった久米裕さん(当時52歳)と在日朝鮮人の男(同37歳)は、国鉄三鷹駅を出発した。東海道を進み、福井県芦原温泉を経由して翌19日、能都町(現・能登町)宇出津(うしつ)の旅館「紫雲荘」に到着した。午後9時。2人は黒っぽい服装で宿を出た。怪しんだ旅館側は警察に通報し、石川県警からの連絡で能都署員と本部の捜査員が現場に急行した。旅館から歩いて5分ほどの小さな入り江「舟隠し」で男は石をカチカチとたたいた。数人の工作員が姿を現し、久米さんと闇に消えた。男は外国人登録証の提示を拒否したとして、駆けつけた署員に逮捕された。旅館からはラジオや久米さんの警棒などが見つかった。この年の11月15日、横田めぐみさん(当時13歳)が日本海に面した新潟の町から姿を消した。

 男の東京の自宅など捜索した石川県警は押収した乱数表から暗号を解読し、県警は警察庁長官賞を受賞した。しかし、当時、肝心の事件は公にはされなかった。ここからは推測だ。1973年8月8日、韓国の政治家で、のちに大統領となる金大中が、韓国中央情報部(KCIA)により日本の東京都千代田区のホテルから拉致されて、ソウルで軟禁状態に置かれ、5日後ソウル市内の自宅前で発見された事件、いわゆる金大中事件があった。事件後、警視庁はKCIAが関与していたと発表、日本と韓国の主権侵害問題に発展した。韓国側はKCIA職員かどうかも認めず不起訴処分とし、国家機関関与を全面否定していた。KCIAの組織的犯行と韓国側が認めたのは2006年7月のことだった。金大中の拉致事件が解決していない段階で、このどさくさに紛れ、北朝鮮が次々に日本人を拉致していたことになる。

⇒12日(木)朝 金沢の天気    はれ

☆東京五輪と8Kテレビ

☆東京五輪と8Kテレビ

 東京オリンピックとパラリンピックは1964年の大会以来56年ぶりとなる。夏季大会を2回以上開催するのは、アテネ(1896、2004)、パリ(1900、1924)、ロサンゼルス(1932、1984)、ロンドン(1908、1948、2012)に次いで5都市目、アジアでは初めてとなる。

 1964年大会からこれまでは紆余曲折だった。1988年の招致で名乗りを上げた名古屋がソウルに、2008年の招致で名乗りを上げた大阪は北京に、2016年の招致でも東京はリオデジャネイロにそれぞれ敗れた。それだけに、今回の「東京」の決定は朗報だ。東京オリンピックのステージでは、「安心、安全、確実な五輪」だけでなく、「震災からの復興」「障がい者スポーツの祭典」「コンパクトな五輪」「エコなスポーツの祭典」などを世界にアピールしてほしいものだ。

 小学生のときに視聴した「東京オリンピック」は鮮明だった。というのも、1953年に始まったテレビ放送で、それまで白黒だった画面がオリンピックを契機に一気にカラー化が進んだのだ。それだけでなく、スロービデオなどの導入でスポーツを見せる画面上の工夫もされた。また、静止衛星による衛星中継も初めて行われた。長野の冬季オリンピックでは、ハイビジョン放送としてハンディ型カメラが登場した。オリンピックとテレビの技術革新は無縁ではない。それでは、これからのオリンピックのテレビの存在価値はなんだろうか。ひょっとして、「4K」「8K」かもしれない。

 では、「4K」あるいは「4K放送」とは何か。現在、日本を含め、世界のテレビ放送はデジタルとなり、基本はハイビジョン放送だ。画質が鮮明で、テレビの薄型化と相まってテレビは大型化している。ハイビジョンであっても、画面が大型化すると、たとえば50インチ以上になると、画質の粗さを感じるようになる。ハイビジョンは縦横がそれぞれ1920ドット、1080ドットとなっている。1920を大ざっぱに2K(Kは1000の単位)と呼ぶ。これをもっと繊細な表示にしたものが「4K」。3840×2160ドットの画素数で、ハイビジョンの縦横が2倍のレベルとなる。縦2倍、横2倍となるので、ハイビジョンの4倍のデータとなる。

 「スーパーハイビジョン」。NHKが技術開発を進める画質はなんと「8K」だ。7680×4320で、7680を大ざっぱに「8K」と称している。これらの技術革新が進むにはタイミングもよい。「4K」「8K」の次世代放送は、2014年のブラジルW杯、2016年のリオオリンピック、2018年の韓国・平昌冬季オリンピックと続き、2020年の東京へと向かう。2年ごとの国際的なスポーツ大会が完成度の高い次世代放送をもたらすだろう。2020年の東京リンピックが決定した。どのような映像で、テレビは視聴者を楽しませてくれるのか。

⇒8日(日)朝・金沢の天気   あめ

★食品添加物の「がん加算説」

★食品添加物の「がん加算説」

  医学界では発癌(がん)のメカニズムについての有力な学説の一つに、「がん加算説」がある。種々の誘因によって、生体の細胞内の遺伝因子が不可逆性変化をおこし、その変化の加算によって細胞が癌性悪変へ進む、という。医学の素人なりにその状況を考えると、食品添加物や農薬、化学肥料、除草剤、合成洗剤、殺虫剤、ダイオキシン、排気ガスなど私たちの生活環境にある化学物質が体の中に入り込んで、その影響が蓄積(加算)されてがんが発生するということだろう。

  中でも食品添加物は直接体に入ってくる。食品添加物には合成添加物と天然添加物があるが、合成添加物はいわゆる化学物質、431品目もある。スーパーやコンビニ、自販機、また一部の居酒屋や回転ずしなどで購入したり食する食品に含まれる。長年気にはなっていたが、その数が多すぎて「どれがどう悪いのかよう分からん」とあきらめムードになっていた。たまたま薦められて、『体を壊す10大食品添加物』(渡辺雄二著・幻冬舎新書)を読んだ。10だったら、覚えて判別しやすい、「買わない」の実行に移せる。

  著者は私と同じ1954年生まれ。著書で出てくる食品添加物にまつわる事件については世代間で共有されていて実に鮮明に思い出すことができる。以下、著書を読みながら記憶をたどる。国が認めた食品添加物で、初めて安全神話が崩れたのは1969年の中学生のとき。当時、「春日井のシトロンソーダ」などの粉末ジュースを愛用していたが、人工甘味料の「チクロ」が発がん性と催奇形性(胎児に障害をもたらす)があるとして突然使用禁止になった。突然というのは、国内で議論があったのではなく、FDA(アメリカ食品医薬品局)の動物実験で判明し、日本も追随したという経緯だ。その2年後にも事件が起きた。魚肉ソーセージだ。「AF-2」という殺菌剤は細菌の遺伝子に異常を起こし無力化するという効果があったが、同時に人の細胞にも作用し、染色体異常を起こすことが分かったのだ。粉末ジュースと魚肉ソーセージは当時の中学生のアイテム商品だった。その禁止理由がよく分からなかったので「こんなうまいもん。なんで禁止や」と理不尽さを感じたものだった。

  この著書を読みたくなったきっかけがある。大学の先輩教授が、過日、成田空港のすし屋でヒラメやエビ、アワビなど堪能した。「ちょっと消毒臭い」と感じたらしいが、味もよく食欲があったので10皿ほど積み上げた。ところが、「ホテルに帰って最近になく胃がもたれた」と話していた。その話を聞いて、食べ過ぎというより添加物かもしれない、それにしても生鮮食品になぜ添加物なのかと疑問に感じていた。本著ではまさに、すし屋の食材と消毒剤の次亜塩素酸ナトリウムの下りがある。すし屋や居酒屋の場合、生食を扱うため、食中毒のリスクを恐れる。そのために、仕入れ段階から過敏になっている。そこをよく知っている魚介類の加工会社が次亜塩素酸ナトリウムを使って店に出荷する。ところが、すし店や居酒屋できっちりと洗浄して、在留がないようにすれば問題ないが、手抜きがあると「消毒臭い」となる。

  よかれと思ったことが、裏目に出る。あるいは企業の過剰な防衛意識が消費者の健康をむしばむ。外国からかんきつ類(オレンジやグレープフルーツなど)を空輸する場合、防カビ剤「TBZ」「OPP」が使われる。発がん性や催奇形性の不安が指摘されるが、厚労省は認めている。アメリカとの貿易に絡んでの圧力があるのではないかと本書で指摘している。ことし春には中国からの大気汚染「PM2.55(微小粒子状物質)」が問題となっている。「がん加算説」の現実味を感じる。

⇒2日(月)金沢の天気    あめ

  

☆韓国のGIAHS候補地を行く-追記

☆韓国のGIAHS候補地を行く-追記

  韓国で開催された「持続可能な農業遺産保全・管理のためのGIAHS国際ワークショップ」では日本、中国、韓国の連携が強調された。27日には、GIAHSを世界に広める役割を担おうと「東アジア農業遺産システム協議会」(仮称)の設立が提案され、来年4月に中国・海南島で国際ワークショップが開催されることが決まった。また、今回いくつかの問題提起や論点も提起された。それを紹介したい。論点が浮かび上がったのは「日中韓農業遺産保全および活用のための連携協力方案の模索」と題した討論会(座長:ユン・ウォングン韓国農漁村遺産学会会長)=写真=だった。

      日中韓の「GIAHS連携」 どこまで可能か       

  論点の一つはGIAHSをめぐる「官」と「民」の関係性だ。韓国農漁村研究院の朴潤鎬博士は「農業遺産を保全発展させるためには地域住民の主体性が必要」と述べた。会場の質問者(韓国)からも、「今回のワークショップでは国際機関や政府、大学のパネリストばかり、なぜ非政府組織(NGO)の論者がいないのか」といった質問も出された。これに対し、パネリストからは「農業遺産の民間の話し合いや交流事業も今後進めたい」(韓国)や、「日本のGIAHSサイトではNPOや農業団体が農産物のブランド化やツーリズムなど進めている」(日本)の意見交換がされた。確かに認定までのプロセスでは情報収集や国連食糧農業機関(FAO)との連絡調整といった意味合いでは政府や自治体とった「官」が主導権を取らざるを得ない。認定後はむしろ農協やNPOといった民間団体などとの連携がうまくいかどうかがキーポイントとなる。討論会では「地域住民主体のサミット」(朴潤鎬氏)のアイデアも出されるなど、「民」を包含したGIAHSのガバナンス(主体的な運営)では韓国側の声が大きかった。

  討論会が終わり、中国の関係者が日本の参加者にささやいた。「中国のGIAHSでは、NGOが主体になるは無理ですよ」と。おそらく彼が言いたかったのはこうだ。中国では、国民も民間団体も「官」が描いたシナリオの上を進み走る。つまり、国家が領導するので、「民」が自らのパワーでGIAHSサイトを盛り上げるということはある意味で許されないのだろう。そうなると、GIAHSを保全・活用のために日中韓の国境を越えて、民間同士のアイデアや意見交換や活発な議論というのはどこまで可能なのだろうかとの論点が浮かんでくる。

  次の論点。永田明国連大学サスティナビリティと平和研究所コーディネーターは「日中韓3ヵ国が突出するとGIAHS全体の価値低下を招くことになりかねない。アフリカや欧米などへGIAHS参加の呼びかけなどバランスが必要だ」と述べたことだ。確かに今回の日中韓ワークショップは、モンスーンアジアの稲作など同じ農業文化を有する東アジアから世界に向けてGIAHSの意義を訴えることが主眼の一つだった。永田氏の発言は的を得ている。現在FAOが認定しているGIAHSサイトは世界に25ある。うち、中国8、日本5で東アジアの括りでは13となり、すでに過半数を占める。韓国が2つのサイトを申請しているので、認定されれば27のうち15となり突出する。世界各国がこの状況を見て、「GIAHSは東アジアに偏っている」と判断されてしまうと、GIAHS全体の価値低下につながるのはないかとの危惧である。日中韓が競ってサイト数を増やすのではなく、日中韓が連携してアフリカや中南米などに認定地の拡大を促すことが戦略的に不可欠となる。

  そうは言っても日本国内でも「国際評価」を得ることへの地域の熱望があることは、ユネスコの「世界遺産」の過熱ぶりを見ても分かる。中国と韓国ではすでに国レベルの「農業遺産」認定制度を設けている。国の認定を経て、次にFAOへの申請という段取りになる。ところが、日本にはその制度がなく、GIAHSへの熱望を持った地域が申請しようにも、「ローマへの道のり」(FAO本部の所在地)が分かりにくい。GIAHS認定までのプロセスを制度的にもっと分かりやすくする必要があるだろう。こうした日本の課題もまた見えてくるのである。

⇒1日(日)朝・金沢の天気     くもり

★韓国のGIAHS候補地を行く-下

★韓国のGIAHS候補地を行く-下

 26日夕方、済州からフェリーで莞島(ワンド)に行き、翌朝莞島の港から青山島(チャンサンド)へ。莞島郡には260もの島があり、そのうち有人島は54。海藻が豊富で、韓国全体の海藻の54%を産出している。チャンサンドは2600人の村。40分で青山島の港に到着すると、太鼓と鉦で村人の出迎えがあった。

       青山島で見たオンドル石水田と海女の海

 同島は、アジア初のスローシティー指定(2007年1月、カタツムリをシンボルに取り組んでいる)。また、オンドル石水田システムは韓国の「国家重要農業遺産」の第1号に選定(2013年1月)された。昼食は廃校となった中学を改装した「ヌリソム旅行学校」で。ここではツアー参加者が、サザエ、コメ粉、ニンジン、ネギを刻んでゴマ油でいためる郷土料理「チョンサンドタン」をつくり試食。スローフードのツーリズムが人気となっている。

 ブフンリ村で今回の視察の目的である独自の石水路の田んぼ「オンドル石水田システム」を視察した。ただ、耕作放棄地が目立つ。青山島は全体が傾斜地で石が多い。しかも、ため池など水を貯えられない砂質土壌で、稲作には不利な条件地とされる。「オンドル石水田」は韓国伝統の住宅暖房「オンドル」とよく似た構造からその名前がついた。田んぼが4つの断層で構成される。大小の石を積み重ね石積みをつくり、その上に平べったい石板(グドゥル)を敷いて水路を作る。その後、水漏れを防ぐために泥で覆い、その上に薄く作物が栽培できる良質の土壌で整える。水は下の田んぼに排水口から徐々に流れ出す仕組みだ。

 農民ユーさんが説明した。「田んぼの規模が小さく、すべて自家用米。都会に出た子供たちがたまに帰ってきていっしょに農業作業を楽しんでいる。最近はイノシシが出る。昔からマツタケがよく取れる。川エビと煮て食べるとうまい」と。田んぼの土の深さが15-20㌢ほどで田おこしは協同労働で行い、水の管理も行う。稲作、畑作の条件不利地を石を積んで克服する人々の知恵がここにある。

 珍しいもの見た。「草墳(そうふん)」である。段々畑の一角にこんもりしたワラづくりの墓なのだ。遺体をその土葬せずに3年から5年間、木棺にワラと草と遺体を入れて、骨だけにする。その後に再び木棺を開けて洗骨し、骨を全部土葬する。骨を洗うのは長男ら家族だ。棺桶に草を入れるので草墳と称するらしい。

 青山島は映画のロケ地として韓国では知られている。西便制道(ソピョンゼギル)ではスローロードの小道を歩く。秋は一面がコスモスで覆われる。ここでイム・グォンテク監督の『風の丘を越えて(西便制)』やドラマ『春のワルツ』のロケが行われたそうだ。

 その後、海女の海岸を訪ねた。済州の海女が移住してきたらしい。現在50-70歳の20人ほどが潜っている。スムビ音(磯笛)を鳴らしながら作業。この一帯は養殖アワビも盛んだが、海女が直に採取するアワビやサザエ、ウニは貴重品だ。アリス式海岸の海に海女がいる風景はどことなく、能登の海と似ている。

⇒28日(水)朝・莞島の天気   はれ