#コラム

★能登キャンパス-下

★能登キャンパス-下

   2日目の続き。東洋大学の 川澄厚志特任講師と学生が登壇=写真・上=。同大学が実施している能登の里山保全や祭り参加をする「能登ゼミ」について、「能登ゼミ・SFS(学生の短期滞在型実習) による、現場主義的な地域づくり」と題して事例報告した。学生にとって、過疎化は能登の魅力になりうる、人が少ないからこそ一人ひとりの存在が大きく、人同士の強い結びつきが生まれる点がメリットと述べた。

       地域の「多様な価値」を知る機会に

   北陸学院大学の田中純一准教授が、2007年3月の能登半島地震で学生たちを能登に引率して、ボランティア活動などを積極的に行い、現在も東日本大震災の被災地へ学生を引率し、ボランティア活動をしている。テーマは「 地域防災と学生教育」と題して事例報告。参加する学生たちに「ひとつの命、ひとりのかけがえのない存在に寄り添う、最後のひとりを見逃さない、取りこぼさない」と教えている。金沢美術工芸大学の真鍋淳朗教授は、「珠洲でアートによる地域おこし」と題して報告。奥能登の里山里海の自然•風土•歴史を活かしたこの地域でしか出来ないアートプロジェクトを展開していくと現在実施しているアート展の意義を説明した。

   石川県立看護大学の川島和代教授は学生とともに、「過疎地の暮らしと健康づくりを民泊型実習で学ぶ」と題して報告。能登町を中心に学生が民家に泊まりながら、一人暮らしのお年寄りの看護や健康づくりを学ぶ教育を指導している。地域の人が培ってきた健康を保つ暮らし方を教わり、地域の持つ多様な力を知る機会となっていると、その成果を述べた。

   総括討論は締まった内容だった。「学生が地域に学ぶ価値とは何か」という問いが会場からあった。対馬市の川口幹子氏の回答は明確だった。「これまで人間が克服型の技術を使って発展して来たように、これからは生態系の法則を人間社会に取り入れるようにして、新たな持続可能なシステムを構築して行く必要があると思う。このシステムの確立に向けて、学生たちに地域を学びの場として提供していくことだ」と述べた。また、過疎化と地域の在り様を尋ねられた、長野県木島平村「農村文明塾」の井原満明氏は「数人の高齢者が一人の若者を育てる地域社会であり、車いすや寝たきりになっても支えられる地域社会であり、乳幼児や子どもの感性を育てる農山村漁村の環境がムラであり、価値観を変えることだ」と。逆転の発想だ。

   シンポジウムに参加した国連大学のスタッフから「地域のグローバル展開があってもよいのではないか」と問題提起があった。2日目の金沢美大の真鍋淳朗氏の講演はそれに答えるものだった。「奥能登の里山里海の自然•風土•歴史を活かした、この地域でしか出来ないアートプロジェクトで国際芸術祭を開催する計画だ。アートによる地域社会の活性化、環日本海のアジアとのアートネットワーク、アジアから世界への発信を奥能登が拠点となる」。

     学生たちが地域活動に参加するのもよい、地域おこしもよい、要は学生たちが地域の価値を見出す仕掛けづくりを丹念に設計すること、そして、その仕掛ける人材を育てるのは地域だ。総括討論の議論を聞いてそう考えた。

   2日目の午後からのエクスカーションには18人が参加した。穴水町新崎(にんざき)・志ヶ浦地区の里山里海の保全活動を聞き、「ボラ待ち櫓(やぐら)」=写真・下=を実際に上って見学。能登ワイン株式会社ではブドウ畑やワイナリーの説明を受けた。穴水湾で養殖されているカキ貝の殻を天日干しして、酸性土壌の赤土の畑の入れてブドウを栽培している。晴天に恵まれ、里山と里海の景観が映えた。

⇒28日(火)朝・金沢の天気     くもり

☆能登キャンパス-中

☆能登キャンパス-中

   事例報告で4組が報告。最初に、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンターの加藤基樹助教が、学生2人と演壇に立ち「学生の地域活動の教育効果」と題して述べた=写真・上=。同センターは、「社会貢献」と「体験的学習」をキーワードに、昨年度実績で13600人の学生たちが地域活動に参加。東京からバスと電車で9時間かかる岩手県田野畑村へ50年間、年4回の合宿を通して育林作業を中心に活動しているサークルもある。学生のボランティアセンターでは日本最大で最古かもしれない。

      地域は学生の感性を磨く「学びの場」

   地域に密着した鳥獣管理技術者を養成 宇都宮大学の 高橋俊守准教授が、全国的に問題となっているイノシシやクマなどの獣害の問題について、地域と連携した取り組みを「野生鳥獣と人間の軋轢問題」と題して報告。同大学が獣害対策の人材を育成する「里山野生鳥獣管理技術者養成プログラム」(平成21‐25年度)の修了生も発表した。高橋氏は「獣害の所轄官庁が一般化された対応しているが、細分化された土地所有、集落の事情、対策すべき動物の相違、非農家の増加で、集落機能が低下しており、そのギャップが大きいと問題提起。同大学では引き続き一般社団法人鳥獣管理技術協会を設立、地域に密着した鳥獣管理技術者の養成のため、「鳥獣管理士」資格認定を実施している。

   金沢大学の小路晋作特任准教授は、能登半島で展開している「能登里山里海マイスター育成プログラム」の教員スタッフとして7 年間能登に駐在し、これまで107人のマイスターを育ててきた経緯を、「地域とともに育む人材養成プログラム」と題して報告。長崎県対馬市で学生の受け入れを中心とした地域づくりを行っている一般社団法人MITの吉野元統括マネージャーは「地域づくりコーディネーターの役割」と題して報告。対馬では市をあげて大学との連携を図ろうとしており、コーディネーターの役割は地域と大学の双方のメリットを生み出す潤滑油であると述べた。

   学生や講師陣、地元の関係者ら60人余りが参加した意見交換会は地元・鹿波獅子太鼓の披露されるなど=写真・下=、和やかな雰囲気での懇親の場となった。

   2日目のシンポジウムは「地域の資源を学びに活かす~能登の事例から」と題して事例報告と総括討論が行われた。金沢星稜大学の池田幸應教授が、穴水町において長年にわたり、学生と地域の交流・連携を推進してきた成果を「穴水町における学生と地域との交流・連携、この10年」と題して事例報告した。廃校舎を拠点とした地域資源活用による体験型コミュニティづくりを目指して、「能登シーズンキャンパス」や「かぶと塾」など開設している。他方で、祭りなど一時的な参加交流だけで、本当の地域貢献に繋がるのかは疑問と、問題提起をした。

⇒27日(月)夜・金沢の天気     はれ

   

★能登キャンパス-上

★能登キャンパス-上

   「能登キャンパス」を掲げ、能登の地域自治体と大学が連携して4年になる。その成果として、先日開催したシンポジウムでは地域と大学の位置取り、学生たちと地域のあるべき姿、地域創生と大学の役割などが浮かび上がった内容となった。

       地域と大学 連携メリットを相互に活かす

   金沢大学と石川県、奥能登4市町(輪島、珠洲、穴水、能登)、県立大学、看護大学、星稜大学で構成する能登キャンパス構想推進協議会(会長・福森義宏金沢大学理事・副学長)は10月17、18日の両日、「地域・大学連携サミット2014㏌穴水」を開催した。協議会では、平成23年度「地域再生人材大学サミット」(輪島市)、同24年度「域学連携サミットin能登」(珠洲市)、同25年度「地域・大学連携サミット」(能登町)を開いており、今回4回目となった。学生・研究者との交流を拡大して地域再生を目指すシンポジウムで初日170人が訪れた=写真=。

  開会式では、福森会長が「大学と地域が連携することはそう簡単なことではないが、地域再生のために、地域に必要な人材を育てるために、大学と地域がどう連携していけばよいのか、大学は研究と教育の成果をどう地域に役立てればよいのか、大学と地域はいまこそ、未来の可能性に向けて、しっかりとしたパートナーシップを築き上げていかなければならない」と主催者あいさつ。続いて、石川宣雄穴水町長が「地域再生を目指した議論と同時に、能登の魅力も穴水で実感してほしい」と開催地を代表して挨拶、藤雄⼆郎 ⽯川県企画振興部⻑のあいさつ文を寺坂公佑同部課長が代読した。

  続いて、中村浩二能登キャンパス構想推進協議会幹事長(金沢大学特任教授)がシンポジウムの趣旨説明を以下行った。能登半島は、自然と伝統文化に恵まれているが、同時にきびしい過疎・高齢化にさらされている。一方、2011年に「能登の里山里海」が国連食糧農業機関から世界農業遺産(GIAHS)に認定されたこともあり、国内外の大学・研究機関から注目を集め、県内はもとより、全国、海外からの研究者や学生の来訪が増えている。能登における教育・研究交流の拡大は、来訪者と地域の双方にとって大きなメリットがあると考える。こうした状況を踏まえて、シンポジウムは「地域に学び、地域を元気にする」をテーマに、能登地域の再生に向けた学生・研究者の交流人口拡大を目指す。活動の成果や課題を明らかにしていくことで情報が共有され、各主体の横の連携を促進し、能登の活性化に向けた新たな取り組みにつなげていくことを期待する。

  基調講演で、一般社団法人MIT(長崎県対馬市)の川口幹子専務理事が「対馬で学生たちが学んでいること、そして島民はどう変わったのか」と題して講演。2011 年に総務省地域おこし協力隊として対馬市に移住し、学生と地域をつなぐ活動や、グリーンツーリズム、環境保全に関する仕事に携わっている。同市では、自然豊かな農村を「学びの場」として、地域振興を学びたい学生や研究者に提供。耕作放棄地や空き家を実習で使ってもらい、実際に移住者を獲得している。川口氏は「地域を学びの場として活用すれば人がやってくると実感した」と述べた。また、長野県 木島平村農村文明塾の総合コーディネーター井原満明氏は「地域の資源を活かし学生たちの学びを創造する」と題して講演。2010 年から農村文明の創生に向けた農村文明塾の運営に関わり、大学生と地域の域学連携を実践している。井原氏は「若者たちの感性を研ぎ澄ますことが大切で、農村の暮らしと生業は豊かな感性による生活技術であり、その暮らしの技術に若者たちは感動する。また、交流は地域の感性を呼び戻す」と述べた。

⇒26日(日)朝・金沢の天気    はれ

☆続・金沢市長選結果の考察

☆続・金沢市長選結果の考察

  今月5日に投開票が実施された金沢市長選で前市長の山野之義氏(52)が自民・公明推薦の候補に大差をつけて当選した。競輪の場外車券売り場の開設問題で軽率な行動をとったとして辞任した首長がなぜ大勝したのか、新聞各社が有権者アンケートを通じた分析を掲載している。いくつか紹介する。投票率は47.03%とこの20年でもっとも高く、獲得した票は山野氏が9万3698、2位の下沢佳充氏(53)=元県議、自民・公明推薦=が3万5924だった。

  北陸中日新聞石川版(7日付)では、5日の投票日に実施した出口調査(1120人)の回答結果を分析した記事を掲載している。この結果で目を引くのは、自民党の支持層の56.7%が山野氏に投票したと答え、30.7%の下沢氏より倍近いことだ。また、民主党支持層でも51.6%、社民党支持層で69.2%もの人が山野氏に票を投じている。民主・社民・連合石川の推薦候補がいたにもかかわらずである。記事では「共産支持層でも23.1%が山野さんに投票しており、政党に関係なく幅広い支持を集めたことがうかがえる」と記載されている。

  この記事を読んでの私の直観だが、山野氏は大阪市の橋下市長のような強烈なキャラクターの持ち主でもなく、実際の選挙演説でも山野コールが街頭に湧き上がっていたというわけでもない。むしろ、自民・公明党推薦候補に対する反対意志としての行動だったのではないか。「あの人には市長になってほしくない」という論理である。あるいは、石川県選出の国会議員を自民党が独占している状況下で、県都・金沢市長までも自民に渡したくないという意思表示だったのかもしれない。そのミックスが今回投票行動かもしれない。

  北陸中日新聞の記事では、上記の有権者感情を読み解くのに面白いアンケート結果がある。女性票と男性票の行方である。男女別の投票先では男性が56.7%、女性が61.0%が山野氏に投じている。とくに50-70代の年代別の女性票では、70代の67.5%を筆頭に軒並み60%を超えている。一番少ないのは80代の46.9%である。選挙期間中、私の身の回りの会話を聞いた中でも「山野さんの方がましやね(山野氏と自民推薦候補と比較して)」という女性の声が聞かれた。つまり、女性票が山野氏に流れた。それは、山野氏への評価なのか、自民・公明党推薦候補への反対票なのか、後者の方がニュアンスとして強かったのではないか。

  無党派層への支持を狙った選挙と、組織票に依存した選挙。山野氏は街頭演説や個人演説会では、競輪場外車券売り場の問題を「軽率な行為だった」と支持者らに詫びた。党の推薦は受けずに、若者ほか無党派の支持を狙った運動を展開した。大学生が応援演説をしている姿もあった。これに対して、自民・公明党推薦候補は企業や団体めぐりを小まめに行い、また、丸川珠代氏ら現職自民党議員も応援に駆けつけた。が、自民・公明党推薦候補が獲得した票は山野氏の3分の1ほどだった。組織票を活かしきれなかった原因はどこにあったのか。選挙当日は金沢地方は、時折晴れ間ものぞく天気だった。無党派層の票が伸びやすい状況ではあった。

  最後に、意気込みである。投票が終わり、午後8時すぎると新聞とテレビが出口調査などから一斉に「山野氏が当選確実」を伝えた。勝った山野氏は頭を下げながらも、最後は次の市長選に向けて「ガンバロー」と気勢を上げた=各紙の写真=のである。これは通常の勝った候補者の姿とすれば奇妙な光景だったが、山野氏の任期は、公職選挙法の規定により、1期目の残り期間の12月9日までとなり、任期満了の前日から30日以内に再び選挙が行われることになる。前回のコラムでも述べたように、むしろ厳しいのは次の選挙だろう。たとえ次回勝っても投票率を維持できなければ本当に信任されたとは言えない。そんな思いが山野氏には強かったのだろう。

⇒7日(火)夜・金沢の天気    くもり

★金沢市長選結果の考察

★金沢市長選結果の考察

   金沢市の前市長の山野之義氏の辞職に伴う金沢市長選が5日投開票が行われ、山野氏(無所属)が、前市議の升きよみ氏(共産推薦)、前石川県議の石坂修一氏(民主、社民推薦)、前県議の下沢佳充氏(自民、公明推薦)の新人3を押さえ再選を果たした。山野氏が辞職したのは、競輪の場外車券売り場の開設計画への協力を支援者に約束した問題でけじめをつけるため、8月に引責辞職した。山野氏はこれまでの実績について「市民の審判を仰ぐ」とし、立候補した。選挙では、新人3人が山野氏への批判票を集めきれなかったようだ。

   確定票は山野9万3698、下沢3万5924だった。政権与党の自民党と公明党の推薦を受けた候補に圧勝したのだった。さらに投票率は47.03%とこの20年でもっとも高い。それに関連して、面白い現象は同時に行われた県議補選と市議補選にそれぞれ2万5千ほどの無効票(白票など)が出たことだ。つまり、トリプル選挙の相乗効果として市長選の投票率が上がったのではなく、有権者が市長選そのものに高い関心を寄せていたということだろう。

   今回の選挙の論点は、この競輪の場外車券売り場の開設計画への協力という行為が、今回の選挙で批判票にならなかったのか、逆に投票率を上げ、自民ほかの候補に圧勝したのか、だ。これまでの報道によると、山野氏の支援者だったビル管理会社社長との間で昨年3月、名古屋競輪場の場外車券売り場の設置を認めるかのような書面を独断で交わしていたことが判明した。車券売り場計画は立ち消えになったが、8月に入り、市の予算でリサイクル施設を入居させる案を社長側に示していたことも明らかになった。市長が独断で約束した、ととられたことが軽率だったとして山野氏は8月に辞任した。問題発覚時には、支援者との「密約」との報道だったので、汚職を連想させた。しかし、金銭授受の問題が浮上してこなかったことから、陳情に対し首長がサインするといった軽率な、脇の甘い行動だとの流れに変わっていったようだ。

   逆に、これを問題化した自民党石川県連が「山野下ろし」のために競輪の場外車券売り場問題を吹聴したと、政争の具に使ったと一部市民からは見られた。私の身近な人の間でも「山野さんは(自民党に)ハメられたね。かわいそうだ。でも、果たして辞任する必要はあったのだろうか」といった声がささやかれていた。もともと金沢の政治地盤では自民は盤石ではない。むしろ「人柄」だ。きっぱり辞任し出直すと表明したことが、潔い人柄ととられたのだろう。

   山野氏の任期は、公職選挙法の規定により、1期目の残り期間の12月9日までとなり、任期満了の前日から30日以内に再び選挙が行われることになる。むしろ厳しいのは次の選挙だろう。たとえ次回勝っても投票率を維持できなければ信任されたとは言えない。

⇒6日(月)朝・金沢の天気  あめ

☆今ある能登の未来

☆今ある能登の未来

  先月9月27日、金沢大学が能登2市2町と連携して展開している、若者の人材養成プロジェクト「能登里山里海マイスター育成プログラム」の修了式(修了生23名)があった=写真=。このプログラムは2007年にスタートし、7年間で延べ107名のマイスターを輩出している。能登里山里海マイスター育成プログラムは、自治体と大学が共同で出資する独自の予算で運営され、輪島市の「里山里海塾」、能登町の「ふるさと未来塾」とも連携するという、これまでにない地域と大学の密接なネットワークを築いている。授業内容も、従来の環境に配慮した農林水産業をベースとした地域活性化だけではなく、全国各地の先進的な動きや事例に学ぶなど新たな時代のニーズを取り込んだカリキュラムに工夫されている。

  1年間に凝縮されたカリキュラムで、受講生たちは月2回の土曜日、能登学舎(珠洲市三崎町小泊)でこれからの能登の里山里海をどのように活かしてゆくべきかについて、多彩な講師陣の指導を受けながら、熱心に議論を積み重ねてきた。その間、様々な戸惑いや悩みもあった。受講生たちは、それを乗り越え、自らの課題研究をまとめ上げて、審査と評価を得て、この日の修了式を迎えた。

  卒業の課題研究の概要をいくつか紹介する。東京から移住して、七尾市の能登島でまったく新しいタイプの農家レストランを起業する女性の受講生は、地元の農家との交わりや農作業をとおして、食材とメニューを開発するなど地産地消を徹底することから生まれるレストランの経営のプランをつくりあげた。この論文に「日本版スローライフ、スローフード」の可能性を感じた。また、能登の海で獲れるトラフグやゴマフグを「能登ふぐ」としてブランド化して売り出すビジネスプランや、能登の豊かな自然を幼児教育の場として生かす「森のようちえん」の開設に向けた取り組みなど、実に興味深い。

  修了生の代表はこう感謝の言葉を述べた。「能登は過疎化・高齢化といわれますが、ここにはたくさんの個性的な人が息づき、自然の豊かな恵みをうけて、ともに命を輝かせて生きています。これから未来のために何ができるのでしょうか。みんなで取り組んでいきましょう。能登がもっと元気になって、能登がもっと多様性にあふれることを願って、私たちは、考えながら、感じながら、動きながら、歩んでいきたいと思います」

  新たな視点、独創的な発想、先進的な取り組みなど、人々の考えの「多様性」こそ地域社会を切り開く源(みなもと)だと思う。「能登里山里海マイスター」の称号は伊達ではない。個人の取り組みが点であるかもしれないが、マイスターのネットワークを通じて線になり、さらに地域的な広がりを持って面となることを期待したい。その意味で、能登里山里海マイスター育成プログラムの取り組みは能登半島に新しい息吹を吹き込む仕組みであると、修了式に臨んで改めて感銘を受けた。

  金沢大学はキャンパスの中だけでなく、能登、加賀、金沢の地域に学ぶ教育や研究を進めている。それは、地域の学びのニーズに応えていくことだと考える。修了生(マイスター)には、地域と大学を結ぶ懸け橋として、後に続く若者達のリーダーになってほしいと期待してる。能登にとっても、大学にとっても、能登里山里海マイスター育成プログラムを修了した若者たちはある意味での「財産」であり、この修了式の光景こそ、今ある能登の未来だと頼もしく思った。

⇒5日(日)午後・金沢の天気      あめ

  

★イフガオから能登に‐下

★イフガオから能登に‐下

 ここで金沢大学がイフガオで取り組んでいる概要について説明する。イフガオ州はマニラから北に約380㌖。コルディレラ山脈の中腹にイフガオ族が耕す棚田が広がる。「イフガオの棚田」は国連食糧農業機関(FAO)により世界農業遺産(GIAHS)に認定されているが、近年、若者の農業離れや都市部への流出により、耕作放棄地の増加が懸念されるほか、地域の生活・文化を守り、継承していく人材の養成が急務となっている。

     能登とイフガオ、SATOYAMA課題の相互理解を深める

 そのため同様の課題を有する、日本の2つの世界農業遺産認定地域(能登・佐渡)との結びつきを強化し、金沢大学が能登で培った里山里海をテ-マとした人材育成のノウハウを移転し、同地において魅力ある農業を実践し、地域を持続的に発展させる若手人材養成のプログラムの構築を支援するというもの。また、GIAHSの理念の普及を通じた国際交流・支援を実施することにより、能登および佐渡地域において、国際的な視点を持ちながら地域の課題解決に取り組み、国際社会と連携するグローバル人材の育成につなげていく。少々欲張った取り組みではある。

 能登ツアーの後半のハイライトは、能登のマイスター受講生やOBとの交流である。20日と21日は能登里山里海マイスター育成プログラムの2期生の修了課題発表会(22人発表、通訳・早川芳子氏)に参加し、能登マイスターの受講生の環境に配慮した米作りや、土地の食材を活かしたフレンチレストラン、古民家の活用などついて耳を傾けた。21日午後からはイフガオ里山マイスターの受講生5人が現在取り組んでいる「ドジョウの水田養殖」や「外来の巨大ミミズの駆除・管理」などについて発表した。これに能登の受講生やOBがコメントするなど、研究課題の突き合わせを通じて、相互の理解を深めた。

 受講生のヴィッキー・マダンゲングさん(41歳・大学教員)=写真・上=が取り組んでいる研究テーマ「イフガオの民俗資料と写真展示」はいわばイフガオ民族資料館の取り組みである。イフガオは世界文化遺産に認定されているものの、体系立てられた農耕の歴史資料や伝統芸能を紹介する資料館が少ない。そこで、写真と農耕道具の中心とした展示館をつくりたいと願っている。ジェネヴィーヴ・フカサンさん(41歳・農業)=写真・下=の研究テーマ「伝統的な野草茶の栽培と普及」は棚田周辺の野草を乾燥させて野草茶をつくり、副収入にしたいと小さなビジネスを考えている。

 今回の能登研修を通じて、能登とイフガオの受講生30人余りが研究課題の発表を通じて直接・間接的に交流したことになる。21日午後からの課題発表会と懇親会では受講生同士が直接対話し、理解をさらに深めた。イフガオも能登も、若者の土地離れ、農業離れという共通の課題を有している。今回の相互理解で、地域の自然や文化を再度見直し、これを持続的に未来につなげていこうとする思いは通じ合えたのではないだろうか。

 23日の研修ツアーの成果発表会では「過疎の課題を背負いながら地域の再生に知恵を出す能登の受講生の姿がとても印象的で、我々の思いと通じ合えた」との感想があった。

⇒28日(日)金沢の天気  はれ

 

☆イフガオから能登に‐上

☆イフガオから能登に‐上

 金沢大学がフィリピン・ルソン島イフガオで実施している国際協力機構(JICA)草の根技術協力事業「世界農業遺産(GIAHS)イフガオの棚田の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」(通称:イフガオ里山マイスター養成プログラム)の能登研修が9月13日から24日の日程で実施された。プログラム受講20人のうち10人が研修ツアーに参加、学びと交流の輪を広げた。その様子をリポートする。

    イフガオの民族衣装で輪島・千枚田の稲刈り

 イフガオ里山マイスター養成プログラムでは月1回(1泊2日)、イフガオ州大学を拠点に現地の若者20人がフィリピン大学やイフガオ州大学の教員の指導で地域資源の活用や生物多様性と環境、持続可能な地域づくり、ビジネス創出について学んでいる。能登研修を通じて、GIAHSサイト間の交流を深める。今回参加した受講生10人は教員スタッフ3人とともに12日にイフガオ現地からマニラを経由し、13日深夜金沢に到着した。

 能登入りに先立って、イフガオの受講生たちは16日に谷本正憲知事、17日には山崎光悦金沢大学長を表敬訪問した。知事は「地域活性化のヒントが得られることを期待する」と述べ、輪島の千枚田の取り組みを紹介。山崎学長も「能登での研修が実りあることを期待したい」と、引率のダイナ・リチヤヨ教授(イフガオ州大学)を励ました。このほか、16日にJICA北陸支部を訪ね、堀内好夫支部長に挨拶。また同日、能登GIAHS推進協議会の会長、山辺芳宣羽咋市長を訪問、18日にはイフガオGIAHS支援協議会の会長、泉谷満寿裕珠洲市長を訪ね、世界農業遺産のサイト同士の連携に向けて、行政と草の根レベルでの交流を深めることを話し合った。

 ツアー前半のハイライトは能登見学だった。輪島市の千枚田では、棚田のオーナー田を管理する白米千枚田愛耕会の堂前助之新さんがオーナー制度の仕組みを説明。イフガオ受講生は愛耕会のメンバーの手ほどきで稲刈りを体験した。イフガオの稲は背丈が高く、カミソリのような道具で稲穂の部分のみ刈り取っており、カマを使って根元から刈る伝統的な日本式の稲刈り初めて=写真=、また、はざ掛けも体験した。イフガオの民族衣装を着た受講生たちは、収穫に感謝する歌と踊りを披露した。イフガオで自らも農業を営むマリージェーン・アバガンさんは「能登の棚田はとても手入れが行き届いている」と感想を話した。

 イフガオの受講生の多くは日本における米の加工品に関心を寄せており、日本酒の造り酒屋も見学コースに組み込まれた(18日)。能登町の松波酒造では、季節的に製造時期ではないももの、女将の金七聖子さんから酒の製造工程を分りやすく説明してもらった。試飲した日本酒がすっかり気に入り、宿泊所で飲みたいとせっせと買い込む姿も。

⇒27日(土)能登の天気   はれ

  

★金沢大学と世界農業遺産

★金沢大学と世界農業遺産

  金沢大学里山里海プロジェクト(研究代表:中村浩二特任教授)は1999年の金沢大学角間キャンパスでの「角間の里山自然学校」の開設以来、生物多様性の研究を中心に地域連携による人材養成とさまざまに活動を広げてきた。特に世界農業遺産(GIAHS)「能登の里山里海」の認定にかかわるプロセスや、その後のGIAHSの国際連携についても貢献している。私はこれまで地域連携という立場で里山里海プロジェクトとかかわってきた。このほど、科学技術振興機構(JST)の機関紙『産学官連携ジャ-ナル』(2014年8月号)で、世界農業遺産をめぐるかかわりの経緯についてまとめたものが掲載されたので以下紹介する。

<世界農業遺産について>
世界農業遺産(Globally Important Agricultural Heritage Systems=GIAHS、ジアス)は、2002年に国際連合食糧農業機関(FAO)によって創設された。その背景には、現代農業の生産性偏重が、世界各地で森林破壊や水質汚染等の環境問題や地域の伝統文化や景観、生物多様性などの消失を引き起こしたことへの反省がある。GIAHSは、その土地の環境を生かした伝統的な農業・農法、生物多様性が守られた土地利用、農村文化・農村景観などを「地域システム」として維持し、次世代へ継承していくことを目的としている。

●パルヴィスGIAHS議長の能登視察
2010年6月、国連大学高等研究所(当時)から視察の依頼があり、金沢大学の「能登里山マイスター」養成プログラム(JST「地域再生人材創出拠点の形成」補助事業、2007~11年度)の取り組みを、研究所員や来日している国連食糧農業機関(FAO)の幹部に紹介することになった。プログラムの教員スタッフが、能登半島の先端での里山里海の地域資源を活用する地域人材の養成の仕組み、とくに生物多様性など環境配慮の水田づくりの実習カリキュラムなどについて説明した。すると、その話を聞きながら回覧された水田の昆虫標本をじっとのぞき込んでいたFAOのゲストが質問した=写真・上=。「この虫を採取したのは農家か」「ほかにカエルやヒルやミミズ、貝類の標本はあるのか、見せてほしい」と、熱心に質問をした。その人が世界農業遺産(GIAHS)の創設者であり議長(当時)であったパルヴィス・クーハフカーン氏だったことを知ったのは、その1年後だった。

●北京国際GIAHSフォーラム
2011年6月、北京でGIAHS国際フォーラムが開かれ、パルヴィス氏が議長であった。前年12月に日本から初めて申請した「NOTO’s Satoyama and Satoumi(能登の里山里海)」と「SADO’s Satoyama in harmony with the Japanese crested ibis(トキと共生する佐渡の里山)」がこの会議で審査された。フォーラムでは能登申請者の代表の武元文平七尾市長(当時)、高野宏一郎佐渡市長(同)が、それぞれ英語で15分ほど申請趣旨をプレゼンした。これに先だち、FAOの依頼により中村浩二教授(金沢大学、「能登里山マイスター」養成プログラム研究代表)が能登における里山里海の人材養成について発表した。その後のGIAHS運営委員会で、日本初(先進国としても初)の2件が認定された。パルヴィス氏はコメントで「生物多様性と農業に取り組む人材養成を大学とともに実施している能登は評価に値する」と述べた。

●人材育成による地域再生
能登の自然と文化はGIAHS認定されるほどすぐれているが、過疎化・高齢化の波は非常にきびしい。国際的な評価を背景に、能登では持続可能な農林水産業の人材育成こそが地域再生につながると、「能登里山マイスター」養成プログラムの事業継続が要望され、2012年10月から能登の自治体と大学の共同出資による「能登里山里海マイスター育成プログラム」が新スタートした。2013年3月には自治体と大学が共催し、パルヴィス氏を招いて「GIAHS国際セミナー」を能登で開催した。環境に配慮した農林業の新たなビジネスに取り組むマイスター修了生たちの発表に耳を傾け、一人ひとりにコメントしたパルヴィス氏は「ぜひマイスターのみなさんにはGIAHS大使として、世界に意義を広めてほしい」と期待を込めた。

●イフガオ棚田GIAHSとの連携
2013年5月、能登半島・七尾市でGIAHS国際フォーラムが開催され、日本から「静岡の茶草場農法」、「阿蘇の草原の維持と持続的農業」(熊本県)、「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」(大分県)の3件が新認定されたほか、GIAHS国際フォーラムとしては初めて、コミュニケ(共同声明)が採択された。その5項目のひとつに「先進国と途上国のGIAHSサイトの連携(Twinning)」が掲げられた。これを実行に移すため、金沢大学が7年間、能登半島で培ってきた里山の人材養成のノウハウをフィリピン・ルソン島のイフガオ棚田(FAO世界農業遺産、ユネスコ世界文化遺産)の人材養成に活かすプロジェクトが、JICA国際協力機構の草の根技術協力事業(地域経済活性化特別枠)として採択された(2013~15年度)。この促進のために能登と佐渡の自治体を中心とした「日本イフガオGIAHS支援協議会」をことし3月発足させた。現地のイフガオ里山マイスター養成プログラムの受講生たちは現在20人=写真・下=。9月後半には研修のため能登半島にやってくる。GIAHSをテーマにした新たな国際連携が始まっている。

⇒26日(火)朝・金沢の天気   あめ

☆報道姿勢

☆報道姿勢

  前回のコラムの続きである。けさの新聞各紙で、今月5日に自ら命を絶った、理化学研究所の笹井芳樹氏の家族の代理人の弁護士が12日夜、大阪市内で記者会見を開いて、家族に宛てた笹井氏の遺書の内容を明らかにした、と報じている。では、NHKはどのように報じているのかとホームページを検索した。以下本文を引用する。

  「記者会見した中村和洋弁護士によりますと、家族に宛てた遺書には、今までありがとうという感謝のことばと、先立つことについて申し訳ないというおわびのことばが書かれていたということです。また、みずから命を絶ったことについて、『マスコミなどからの不当なバッシング、理研やラボへの責任から疲れ切ってしまった』ということが記されていたということです。」

  さらに末尾ではこう伝えている。「会見した中村弁護士は、『家族の話では笹井氏はSTAP細胞の論文の問題が指摘された3月ごろから心労を感じていた。特に心理的に落ち込んだのが、6月に改革委員会が組織(笹井氏が副センター長を務めていた発生・再生科学総合研究センター)の解体を提言した時で、そのころから精神的につらい状況に追い込まれ、今回の自殺につながった』と述べました。」

  このNHKニュースを読んでの印象はこうだ。「笹井氏の自殺の原因は、メディアなどからのバッシングもさることながら、6月に改革委員会が組織の解体を提言したことによるショックが直接の原因だ」と言っているようにも取れる。文章の運びが、バッシングをした側の責任を逃げている印象を与えるのだ。

  きょうの朝日新聞の記事はこうだ。以下引用する。「笹井芳樹副センター長の遺族が12日、代理人の弁護士を通じて、『深い悲しみとショックで押しつぶされそうです。今は絶望しか見えません』とのコメントを発表した。コメントでは、理研の研究者や職員に対して『皆様の動揺を思うと胸がつぶれるほどつらいです。今は一日も早く研究・業務に専念できる環境が戻ることを切に願うばかりです』と心情がつづられていた。会見した中村和洋弁護士によると、妻と兄宛ての遺書2通が自宅にあり、『今までありがとう』『先立つことについて申し訳ない』などと書かれてあった。ほかにも『マスコミなどからの不当なバッシング、理研やラボへの責任から疲れ切ってしまった』などと記載されていたという。」

  以上の朝日新聞の文章の運びでは、「マスコミなどからの不当なバッシング」を後尾に持ってきているので、読んだ印象は「メディアからのバッシングで相当気が滅入っていたのだろう」と感じる。もちろん、テレビと新聞の書きぶりは違うし、中日新聞の記事もどちらかというとNHKと同じく、発生・再生科学総合研究センターの解体提言が直接の原因ではないかとの印象を与える記事構成になっている。

  きょうのブログで言いたかったことは、メディアの各社の書きぶりの違いではない。遺書に「マスコミなどからの不当なバッシング」と書かれ、それが公開されたのではあれば、笹井氏を追い詰めた一連の報道を検証することもメディアの報道姿勢ではないだろうか。とくに、NHKの場合、番組「STAP細胞不正の深層」(7月27日放送)の事前取材(同月23日)で小保方氏への不適切な取材行為があり、放送後の8月5日朝、笹井氏が自殺した。この事件に関心を寄せる視聴者の多くは、これは単なる偶然ではなく、NHKの番組が笹井氏を自ら死へと追む、一つの引き金になったのではないかとの印象を持っているのではないだろうか。

⇒13日(水)朝・金沢の天気   はれ