#コラム

★さらなる脅威

★さらなる脅威

   ニュースを聞いて、夕刊を買いにコンビニエンスストアに走った。北朝鮮が6日、水爆実験を行ったとのネットニュースを見てである。授業が終わって、午後2時45分ごろだ。

   新聞夕刊やテレビなどメディアをまとめると経過はこのようになる。北朝鮮は6日正午(日本時間で午後0時30分)、朝鮮中央テレビを通じて「特別重大報道」を放送し、「水爆実験に成功により、わが国は核保有国の隊列に加わった」と報じた。金正恩第一書記は去年12月15日に水素核実験の実施を命令し、今月3日に最終命令書に署名したという。

   この北朝鮮のテレビ報道に先立ち、韓国気象庁は6日午前10時半ごろ、北朝鮮東北部の豊渓里(ブンゲリ)で、マグニチュード(M)4.7の地震を観測した。震源地は北朝鮮の核実験視察から30㌔の範囲内にあり、震源の深さは地上0㌔㍍だった。

    北朝鮮はこれまで、2006年10月、2009年5月、2013年2月の3度、核実験を実施している。金正恩が権力の座に就いて2度目となる。北朝鮮は現在、ウラン型とプルトニウム型の核爆弾十数個を保有しているとみられる。水爆爆弾であるならば、原爆を起爆剤にして核融合反応を起こす。その放出エネルギーは原爆より数百倍大きく、しかも小型化、軽量化できる。北朝鮮は弾道ミサイルに搭載できる核爆弾の開発には成功したのかもしれない。

    報道によれば、北朝鮮は今回、中国に対して実験を事前に通報していない。過去3回の核実験では、実験直前に中国に通報していた。中国の習近平政権は北朝鮮の核開発を厳しく批判していたので、邪魔されたくないと考えたのかもしれない。北朝鮮の女性音楽グループ「牡丹峰(モランボン)楽団」が先月12日に北京の中国国家大劇院で同日予定していた公演を突然中止して帰国した。その理由はいろいろと憶測が飛んだが、金正恩が核実験を決意したこととリンクしているのではないか。

    中東では、今月3日にサウジアラビアはイランと断交した。4日にはバーレーンとスーダンもイランとの断交を宣言した。サウジによるイスラム教シーア派指導者の死刑執行をきっかけに先鋭化した中東の2大国の対立は「第5次中東戦争」を予感させ、何だか世界のあちこちにキナ臭さが漂う。

⇒6日(水)夜・金沢の天気    くもり  

☆2016 年頭放言

☆2016 年頭放言

   穏やかな2016年の元旦を迎えた。金沢の天気は晴れ。積雪もない。外気温は8度(午前11時)だ。青い空を見上げながら、この2016年はどのような一年になるのだろうかと想像をたくましくしてみた。

   まず海外に目を向けると、11月のアメリカ合衆国の大統領選挙だ。前国務長官で民主党最有力候補のヒラリー・クリントン氏か、「イスラム教徒入国禁止」発言で物議をかもしながらも支持を広げる共和党最有力候補のドナルド・トランプ氏か。アメリカの世論調査で、大統領選に向けた共和党の指名争いをCNNなどが先月23日に発表した数字は首位のトランプ氏が39%の高い支持率を保ち、2位のテッド・クルーズ氏の18%を大きく引き離している。CNNは民主党寄りのテレビ局で知られており、実際の支持率はこの数字より高く見積もってよい。

   民主党のクリントン氏も人気がある。調査会社ギャラップ社が先月28日発表した。世界で尊敬する人物に関する世論調査で、女性部門でクリントン氏が13%の支持を集め、男性部門ではオバマ大統領が17%でそれぞれトップだった。クリントン氏のトップは14年連続で根強い人気を見せつけた。男性部門のトップはオバマ氏だったが、2位はローマ法王フランシスコとトランプ氏がともに5%で並ぶ。ただし、尊敬と政治的な支持は次元が異なり、尊敬は現状評価、支持は期待評価の側面があり、そのときの国際的な政治、経済の状況によって、期待値が一気に膨らむ場合がある。たとえば、イスラム過激派組織「IS」が欧米でさらにテロ事件を引き起こすなど暴れるならば、トランプ氏に支持がさらに広がる可能もあるだろう。

   次は、日本の選挙だ。安保法制設立の次に安倍総理がめざすのは憲法改正だろう。国会発議は衆参両院で3分の2以上の賛成が必要だ。衆議院では自公で3分の2を上回るが、参議院でも3分の2を上回るためにはことし夏に予定される改選の121議席のうち、自公で96議席の獲得が必要となる。選挙はおそらく7月だろう。それに、衆院選挙を乗せて、「衆参同日選挙」を安倍総理がもくろんでいると、きょう元旦付の新聞各社は報じている。確かに自民側に勝算はある。5月26、27日に伊勢志摩サミット(先進国首脳会議)が開催される。議長国として世界に貢献する安倍政権のムードを一気に盛り上げ、支持率を上げて、衆参同日選挙に持っていくことを戦略に描いているだろう。ひょっとして自民圧勝ではないだろうか。

   その主な要因が、今回の選挙から始まる「18歳の投票権」だ。メディアや周囲に背中を押されるようにして、若者たちは投票場に足を運ぶだろう。若者たちの投票行動は意外にも保守的だろうと推測している。彼らは、「自分たちを戦争に駆り立てる政党に投じない」という発想は薄く、「この国を外敵から守ってくれる政党に投じる」という発想ではないか、と。当事者意識より、全体観の意識が強いのではないかと最近の若者たちを観察していて思うからだ。

   中国経済の今年はどうだろう。中国はリーマンショックのときに、4兆元(78兆円)の公共投資を実施して、強引にGDP目標を達成した。あのときの成功体験が忘れられないのだろう。今でもGDPを計画通りに動かそうとしているようだ。2012年8月、浙江省紹興市に視察に行った。バスの車中から高層マンションが林立しているのが見えた。中国人ガイドに「人は住んでいるのですか」とたずねると、「あれは鬼城ですよ」と。ほとんど住人がいない高層マンション群、投資売買目的のゴーストタウンだった。そのころはまだ不動産投資が活発だったので、お金は回っていたのだろう。あの高層マンション群は今どうなっているだろうか。低成長下では、非効率な投資に過ぎない。

   最近、中国で戸籍制度改革が動き出した。鬼城のようなマンションの在庫を一掃するための秘策だ。簡単に言えば、都市住民を増やすことだ。農民工と呼ばれる地方からの出稼ぎ労働者は農村戸籍のままで都市戸籍が取得できず、都市のマンションなどを買うことができない。そこで、農村戸籍の出稼ぎ者に都市戸籍を与えて都市住民にする。すると、不動産売買が活発化するという思惑だ。ところが、出稼ぎ者に十分な蓄えがあるのならいざ知らず、低成長下で雇用すら危ういとされる中で、物件を購入する余力はあるだろうか。低利融資でローンを組んだものの、さらなる経済の落ち込みでローン破たんは起きないだろうか、中国版リーマンショックは起きないだろうかと他人事ながら懸念している。

⇒1日(金)午前・金沢の天気     はれ

★2015ミサ・ソレニムス~下

★2015ミサ・ソレニムス~下

     これが果たして国と国の外交の在り様なのだろうか、と考えさせる。年末(28日)に日本と韓国の外務大臣同士が決着した慰安婦問題である。「最終的かつ不可逆的な解決」。不可逆とは「もとに戻れないこと」である。ところが、蒸し返すような政治的な動きが韓国国内で激しい。

~TVメディアの表現の自由を守る主体は誰なのか~

     きょう31日のニュース。慰安婦だった韓国人女性らが日本政府を相手取り、1人当たり1億ウォン(1000万円)の慰謝料を求めて申し立てていた民事調停について、ソウル中央地裁は31日までに訴訟に切り替えることを決めた、という。原告らは2013年8月に民事調停を申し立てたが日本側が応じず、ことし10月に訴訟の手続きに入っていた。慰安婦問題をめぐる日韓合意は「問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」としており、訴訟の結果に影響を与える可能性があるが、ただ、考えようによっては、ソウルの日本大使館前の慰安婦を象徴する少女像が撤去された後に支払われる、韓国側が設立する財団法人に日本政府が10億円を支援することになっており、「その金をこっちによこせ」と訴えた側が叫んでいるようにも解釈できる。訴訟の和解条件として、韓国政府が彼女たちの窓口になるのだろうが、そう簡単ではないだろう。なぜなら慰謝料の次なる要求は安倍総理の直接謝罪が想定されるからだ。「最終的かつ不可逆的な解決」と両政府がすでに合意しているので難しいだろう。民間の動向に右往左往しているのが韓国の政治の現状ではないだろうか。

      国とメディアの在り様も問われた。「出家詐欺」を扱ったNHK報道番組「クローズアップ現代」をめぐる問題で、11月6日に、「重大な放送倫理違反があった」とする放送倫理・番組向上機構(BPO)の検証委員会の意見が公表され、新聞・テレビのニュースでも大きく報じられた。意見書はBPOのホームページで公開されていて、その内容は、「情報提供者に依存した安易な取材」「報道番組で許容される範囲を逸脱した表現」など厳しいコメントとなった。NHKも最終報告書を公表し、番組に携わった記者ら15人を処分した4月28日、その同日に総務大臣名で文書による厳重注意の行政処分がNHKに対してあった。5月8日にBPO放送倫理検証委員会が審議入りする前に行政指導に踏み切ったのである。このことについて、BPOの意見書の「おわりに」の章で、「政府が個別番組の内容に介入することは許されない」と総務省を批判している。また、新聞メディアなども紙面では、むしろ政府の「介入」を問題視している。

      このBPOは、NHKと民放が2003年に政治介入を避けるため放送倫理上の問題に自主的に取り組むために設立した。2007年には放送局への調査権などを付与した放送倫理検証委員会を新設するなど機能を強化した。現在、論点となっているのは、BPOと政府・政権与党が放送法をどう位置づけるかの意見が対立である。放送法の4条に記載されている「報道は事実をまげないですること」などの放送番組基準は倫理規範だとするのか、放送の内容を制約する定めだとするのか。というのは、現在でも総務省は放送法を根拠に行政処分ができるとの立場をとっている。

      テレビの在り様が問われたのは、1993年のテレビ朝日の椿発言問題だった。テレビ朝日の報道局長が「非自民政権が生まれる報道をするよう指示した」と放送業界の勉強会で発言した。それが新聞記者にスクープされて、国会で証人喚問、さらに放送免許の不交付が検討されたのだ。以後、厳重注意など放送局への行政指導が増えた。この流れを受けて、テレビ局側(NHK、民放)は「自ら律する」とBPOをつくった。そのような経過を踏まえれば、今さら「放送法」の放送番組基準は倫理規範だから政府・政権与党の介入を許さないとするのは国民に理解されるだろうか。

      これを突き詰めると、誰がテレビメディアの表現の自由を守る主体なのかという論点が生まれる。BPOなのか、国民なのか、新聞社なのか、と。なぜなら、4月17日、自民党の情報通信戦略調査会が自民党本部にNHKの副会長とテレビ朝日の専務を呼んで、当時問題となっていた「クローズアップ現代」と「報道ステーション」についての説明を聴いた。これが政権与党の「政府が個別番組の内容に介入」(BPO意見書)とされた。では、なぜテレビ局側がなぜ、「これは政治権力の不当な介入だ」と抵抗しなかったのか。もし抵抗して、それでも強引に2氏を自民党本部に呼びつけたのであれば、これは明らかに不当な介入だ。だが、抵抗した形跡はない。となると、なぜ自民党本部に出かけて行ったのだろうか。「政府が個別番組の内容に介入」という意識がテレビ局側にあったのだろうか。問いたいのはその点なのである。BPOはテレビ業界の守護神ではない。

⇒31日(木)午後・金沢の天気   はれ

☆2015ミサ・ソレニムス~中

☆2015ミサ・ソレニムス~中

      金沢市内多くのセルフスタンドで「レギュラー111円(会員)」という価格になっている。昨年末は145円前後だったので30円余り安くなっている。例年だと年末価格となり、少しは上げるのだが安値を更新しているようだ。最近のニュースをチェックすると、世界的な原油の供給過剰で来年も原油安は続くとみられていて、年明けも値下がりが続くとの予想されている。

 ~ガソリン1㍑111円、金沢おでん「かに面」1個1800円の経済~ 

   きょう30日、大納会を迎えた東京株式市場で日経平均株価の終値は1万9033円71銭だった。3日続伸して年内の取引を終えた。年間では9%高と4年連続の上昇となり、19年ぶりに1万9000円台に乗せたまま年を越す。ことし1年の相場を眺めてみると、日経平均株価が一時2万円を回復し、日本株の復活を印象づけた。その最大のエンジンは、円安や原油安を背景とした好調な企業業績だろう。最高値は6月24日につけた終値2万0868円03銭だった。ところが、夏には中国株が急落、いわゆる中国ショックに見舞われ、国際経済が翻弄された。

    同じく30日のニューヨーク株式市場は、大企業で構成するダウ工業株平均が下落しているようだ。原油の先物価格が大きく値下がりし、業績悪化が危惧され、シェブロンやエクソンモービルといったエネルギー関連の株が売られている。この原油の価格動向が2016年の経済の明暗を分けるのではないか。「オイルショック」の到来するのか。1973年(第1次)と1979年(第2次)のオイルショックは原油の供給が逼迫して、価格高騰して世界の経済混乱した。今回はロシアやアメリカ、アラブ諸国など産油国が混乱する、石油危機の可能性だ。

    不思議なのは、中国ショックで、いわゆる「爆買い」中国人の観光客が減ったのかというとそうでもない。身近な例だと、国の特別名勝である兼六園は中国人の人気スポットだ。兼六園の名称そのものが、中国の古典『洛陽名園記』から取られている。宏大と幽邃(ゆうすい)、人力と蒼古(そうこ)、水泉と眺望、それぞれに相矛盾する美のコントラストを兼ね備えた名園というところから由来している。兼六園を散策すると、四方八方から中国語が聞こえ、レンタルで和服を着た中国人女性たちがはしゃいで歩く姿も時折見かける。これこそ、兼六園の新たな見所(みどころ)ではないかと思ってしまう。

    兼六園の入園者数は昨年度(平成26年度)の総入場者203万人、今年度は4月-11月末の8ヵ月間で230万人となり、年度換算288万人という予想もある。実に4割増である。中国人観光客だけが増えているのではない。後で述べる北陸新幹線の開業効果もあるだろう。それよりも、欧米の旅行者を含め、全体のインバウンドが増加している。面白いデータをサイト内で見つけた。世界の旅行口コミサイトの「トリップアドバイザー」(日本法人版)が昨年6月に発表した「トラベラーズチョイス 世界の人気観光スポット2014~ランドマーク・公園編~」によると、アジアの公園トップ25のうち広島平和記念公園が2位、兼六園が5位、奈良公園が6位の順で選ばれている。ちなみに1位はシンガポール植物園だった。以前の2013年版で兼六園は欄外だった。Kenrokuenが一気にランクインた理由と背景は何だったのか。

    ことし3月14日に金沢開業した北陸新幹線の効果を地元メディア(新聞・テレビ)がことし一年の総括として検証する番組を流している。東京からのアクセスが2時間30分。JR西日本の発表によると、3月14日の金沢延伸から9月13日までの北陸新幹線利用者は482万人。前年同期に在来線特急に乗車した人のざっと3倍だ。1日の利用者は2万6千人。シルバーウィーク中(9月18-23日)は24万人の利用があり、前年同期の4倍以上を記録している。こうした効果が果たして来年2016年以降も継続するのかどうか。

    最近驚いたことがある。金沢駅のおでん屋に入った。冬のおでんだねでもある「かに面」を注文した。午後5時ごろだったが、店員は「売り切れ」という。そして、価格を見ると1個1800円もするのだ。それまでは、1個500円前後だったと記憶している。このかに面はズワイガニの雌のコウバコガニ(小さいカニ)の殻に、カニから取り出した身や卵やミソを詰めて蒸し、おでんのだしで煮たもの。もともと金沢のおでんの中では高級品。ところが3倍以上も価格が跳ね上がっている。季節限定の商品でしかも、ことしはコウバコが獲れる少ないとなれば価格は跳ね上がってもしかたがない。原価計算をしてみる。金沢市内のスーパーではコウバコのゆでたものを1匹500円前後に売っている。売れ残ったものをおでん具材の業者が閉店後にまとめ買いして加工して、おでん屋に卸したとしてもせいぜいが700円ほどではないか。(※写真は金沢市内のおでん屋で若い女性たちの行列ができている。お目当ては「かに面」・12月12日午後8時ごろ)

    ホテル料金にしてもそうだ。「平日で泊まってもこれまでに3倍だ」と大阪から金沢に来た知り合いが驚いていた。その後、知人の口調は「ぼったくりと評判が広がれば金沢は持ちませんよ」と鋭くなった。こんなことで、来年の金沢の観光は持ちこたえることができるのだろうか。そして日本、そして世界の経済は。

⇒30日(水)夜・金沢の天気    あめ

★2015ミサ・ソレニムス~上

★2015ミサ・ソレニムス~上

  今月23日夜、金沢市の石川県立音楽堂で催された、荘厳ミサ曲(ミサ・ソレムニス)のコンサートに聴き入った。石川県音楽文化協会などの主催で、53回目。県内では、すっかり年末の恒例のイベントとして定着している。「キリエ (Kyrie)憐れみの讃歌」、「グロリア (Gloria)栄光の讃歌」、「クレド (Credo)信仰宣言」、「サンクトゥス (Sanctus)感謝の讃歌」、「アニュス・デイ (Agnus Dei)平和の讃歌」と演奏は進み、聴き手の高揚感も高まる。80分の演奏時間は、「長い」とは感じられない。というのも、この一年の出来事が走馬灯のように思い出されたからだ。今回のコンサートは2015年を振り返るよいチャンスにもなった。このブログでも年末恒例となった「ミサ・ソレニムス」と題して、自らのこの1年を回顧したい。

     ~間垣は能登の風景、「あえのこと」は能登の心の風景~

  今月2日から5日間、「シニア短期留学in金沢」を実施した。地域での学びをテーマに全国からシニア世代の6人が参加した。そのツアーの中で、参加者が口々に「こんなところ初め見た。まるで、別世界ですね」と感動したのが、NHK連続テレビ小説「まれ」のロケ地となった輪島市大沢地区だった。大沢地区の独特の風景はなんといっても間垣(まがき)。冬の日本海の強風から集落の建物を守るため、集落を囲むように、まるで城壁でもつくるかのようにぐるりと「ニガタケの塀」を取り巻く。強風をしなやかに受け止め、風圧を和らげる。先人の知恵だ。最近は高齢化でニガタケの塀を修復することも大変。そこで、2011年から金沢大学の学生ボランティアたちが間垣の修復作業に2年間携わった。その甲斐あって、以前の景観がすっきりと元に戻った。その後、NHKのロケ地に選ばれた。そんな経緯も話しながら、間垣と冬の能登の住まい、コミュニティと景観など解説した。

  間垣の風景を見学した後は、能登半島に古くから伝わる、伝統行事「あえのこと」を見学に行った。2009年にユネスコの世界無形文化遺産に登録されたこの行事は日本におけるホスピタリティ(もてなし)の原形としても注目されている。訪れたのは珠洲市若山町洲巻の築380年の古民家だった。奥能登の農家の家々では毎年12月5日のこの日、自らの田んぼの神様を家に招き入れてご馳走でもてなす。お迎えする田の神さまは目が不自由と伝えられ、田の神さまが転ばぬように手を引くようにして家に招き入れ、御膳の料理も一つ一つ色やカタチまで丁寧に説明する。目の不自由な田の神さまにどのような振る舞いをすれば、満足いくもてなしができるか、農家の主(あるじ)は工夫を凝らす。

  ホスピタリティの名詞はホスピタル、つまり療養所。能登のホスピタィティは「もてなし」から「癒し」の領域にまで高まり、それが精神的な風土になっている。「能登はやさしや土までも」という言葉は江戸時代の文献に記されている。能登半島の先端、珠洲市の里山で「あえのこと」を見学して、参加者の中には「間垣は能登の風景、そして、あえのことは能登の心の風景ですね」と感想を漏らしていたのが、印象的だった。

⇒26日(土)夜・金沢の天気     みぞれ

☆4Kの風

☆4Kの風

   先日(12月10日)金沢市に本社がある石川テレビ(フジテレビ系列)で、月刊ニューメディア主催の「Xデー勉強会㏌金沢」が開かれ、参加した=写真=。同局がことし8月から始めた4K制作の番組、そして効率的なワークフローを考えるための基本と、HDR技術を勉強するという、ちょっと欲張ったセミナーに心がひかれ参加した。参加は20人。北陸のTVメディア関係者が多いだろうと想像していたのだが、当日の顔ぶれをみると、北海道の札幌テレビ放送、南は琉球朝日放送からの参加があり、4Kの番組制作についての関心の高さがうかがえた。

   4K番組と言えば、最近は4K放送や4KVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスも充実してきたが、それは高速インターネットサービスや124/128度CS対応パラボラアンテナの設置によって視聴するもの。地上波やBSでの4K番組の放送がいつ始まるのか、気になる。総務省のHPを検索して調べてみると、4K・8K放送のロードマップが記されている。2014年には、4K放送「Channel 4K」(124/128度CS)、4K商用VODサービス「ひかりTV 4K」、4K商用VODサービス「4Kアクトビラ」が開始した。2015年には3月に4K商用放送「スカパー! 4K」(124/128度CS)が始まった。来年2016年は、BSで4K試験放送(最大3チャンネル)と8K試験放送(1チャンネル)を開始される予定。2018年にはBSで4K・8K実用放送の開始が予定されている。ところが、地上波での放送は空き周波数帯域の問題などもあり、現状では全くの未定なのだ。

   勉強会で、あいさつ立った石川テレビの高羽国広社長は、「新社屋のメディア館が完成し、喫茶店で現場の担当者に4K番組の制作を話題にしたら、『できますよ』と言われ即断した。そして、間もなく取材が動き出した。新しい4Kという技術があるのに、地上波だけが取り残されていいのかという思いがあった。周波数の割り当てがないからとBSやCSの後塵を拝していていいのだろうか」と懸念を述べた。

   石川テレビはことし8月から4Kカメラで取材する週一回のレギュラー番組『新ふるさと 人と人』の放送を開始した。4Kカメラで撮影したものを2Kにダウンコンバートした映像で放送している。ところが、他局からは「4Kで撮影しても2Kで放送するのなら4Kは無駄ではないか」との意見が出た。実際は、4Kから2Kにダウンコンしても、4Kの映像のシャープさ(精鋭感、解像感)はさほど衰えないことが実証されている。

   周波数の割り当てが不明確だから、4K番組にチカラが入らないというのはまったく当てはまらない。むしろ、積極的に4K番組を先駆的につくってこそ時代のテクノロジーを未来に活かせるのだ。ディスカッションで、札幌テレビの参加者は「アジアで4K番組を売れる手応えがある。アジアのコンテンツ市場はすでに4Kが前提だ」と。4K映像に詳しい立教大の佐藤一彦教授は「4Kの風はローカルから吹き始めている」と述べたのが印象的だった。

   映像の美しさを求めるのは人間の欲求である。それは、解像度や自然界の色の「色域」の広がり。それに輝きをどう加えるか、その欲求は果てしない。勉強会に参加しての感想だ。

⇒14日(月)朝・金沢の天気    くもり

★能登の風

★能登の風

  知り合いの新聞記者から近著、『能登の里人ものがたり~世界農業遺産の里山里海から』(アットワークス)をいただいた。著者は藤井満氏。2011年に朝日新聞輪島支局で記者として赴任し、ことし4月に和歌山の南紀支局に転勤となった。藤井氏と面識を得たのは2011年5月だった。輪島支局に来られた早々のころ。能登についていろいろと質問を受け、貪欲なまでの取材意欲を感じた。その後、4年間の能登での取材と考察をまとめたのが、上記の著書である。読み続けると、行間から能登の人たちへの敬愛がにじみ出ていて、引き込まれる。

  藤井氏が赴任したころ、能登には一つの大きなエポックメイキングが始まろうとしていた。国連食糧農業機関(FAO)による世界農業遺産(GIAHS)に日本で初めて能登と佐渡がエントリーしていて、6月のGIAHS国際フォーラム(中国・北京)で認定の可否が注目されていた。藤井氏と名刺を交換した5月は、世界農業遺産についての勉強会が朝日新聞金沢総局の主催で開かれた日だった。その後、「能登の里山里海」がGIAHSに認定され、人々のさまざまな動きが始まる。それをつぶさに観察して、朝日新聞石川版で「能登の風」とのタイトルで連載記事を連ねた。著書の中で述べている。「能登には『超一級品』がない」のになぜ世界農業遺産に認定されたのか、疑問を持ちつつ、能登の世界農業遺産という時代の風と人々の動きを丹念に追っている。

  能登半島の先端・珠洲(すず)市に隣り合わせに狼煙(のろし)と横山という2地区がある。隣接地だが、観光と漁師の狼煙と純農村の横山は気質の上でも折り合いが悪く、原発立地計画をめぐってしこりも残った。2003年に原発計画は凍結され、気が付いてみると両地区は過疎と高齢化に見舞われていた。狼煙は水田の4割が耕作放棄地になっていた。隣の横山は在来種の大浜大豆の栽培に活路を見出し、豆乳や豆腐の加工品の販売に活路を見出した。そこで、狼煙に禄剛崎灯台という「さいはての灯台」が観光地としてあり、両地区の住人が出資して「道の駅狼煙」の運営会社をつくった。大豆の関連商品の売上年間2200万にもなり、観光客も増えてきた。お互いに協働を模索し、観光と農業がうまくマッテイングした。能登にはそんな風が吹いている。藤井氏が発掘した記事だ。

⇒10日(木)午前・金沢の天気   くもり 

  

☆大阪の混迷

☆大阪の混迷

  大阪維新の会が22日に行われた、市長選と府知事選の大阪ダブル選で2勝した。獲得した票も府知事選では自民推薦の候補の倍、市長選では18万票も引き離し圧勝だった。この選挙結果によって、半年前の5月に住民の審判が下った大阪都構想への再挑戦に道が開けたということになる。しかし、北陸の地からこの選挙を眺めても、民意が読めない。

  まず、選挙そのものが盛り上がっていない。前回のダブル選挙より、市長選は10.41㌽下回る50.51%、府知事選は7.41㌽下回る45.47%だった。見方によっては、大阪の有権者はさめていたということだろう。うがった見方をすれば、住民票で反対票を入れた有権者が今回は棄権したといえなくもない。「一度廃案になったものをまたぶり返すのか」というあきれた思いが多くの有権者の思いがあるだろう。かといって、今回自民党候補に投票するには抵抗感を感じるという有権者が結局、投票所に足を運ぶのをためらったということかと推測する。

  政令指定都市の大阪市を廃止して、東京23区のような特別区に分割して、大阪府と行政機能を再編する大阪都構想は東京一極集中を是正し、地域を立て直す起爆剤としたいとする思いは共鳴する。どこかの地域が東京一極集中の突破口を開く必要があるのだ。しかし、その大阪都構想は今年5月の大阪市の住民投票で反対が70万6千票と賛成を1万票上回り廃案となり、民意で決着がついた。そして橋下市長は責任を取って、「政界を引退する」とけじめをつけたのだった。

  票差が少なかったので、大阪都構想をあきらめ切れない市民から再挑戦の熱意が沸き上がったのならば話は別だが、今回の選挙の投票率の低さを読む限りでは、そうした民意が伝わってこない。ましてや、国政レベルでの維新の会の「内紛劇」が目立ったせいか、全国的には、大阪の有権者と候補者による、大阪だけの選挙という閉ざされたイメージがつきまとう。

  ダブル選挙の期間中のニュースを見ていても、候補者が「大阪都になって、中央省庁や企業を大阪に誘致する」と強調していたことが印象に残った。大阪から今の日本を変えるという志(こころざし)がどこに行ってしまったのか、と。全国の共感を得られた前回とまるで状況が異なる。

  ダブル選で圧勝したはと言え、大阪府と大阪市の双方の議会では自民など非維新勢力が過半数の議席を占めている。これまで、橋下市長の強気と強弁で乗り切ってきたが、その手法は新市長では役不足だろう。今後4年間、大阪都構想をめぐって大阪はどのように展開していくのか、変革を求める民意はどこまで高まるのか、あるいは混迷なのか。

⇒23日(祝)午前・金沢の天気      はれ

★北の破船

★北の破船

  ことし1月9日午前6時すぎ、能登半島の石川県志賀町安部屋の海岸で木造船が漂着した。自称北朝鮮在住の60代の男1人が船の近くにいた。男は「12月中旬、船の点検のため1人で乗船し、船体を固定していたロープをほどいたところ流された。8日夜に能登に漂着した」と。船には食料と水は底をついた状態で、男は数日間は何も食べていなかったようだ。船のエンジンは故障していた。男はイカ釣り漁船の管理点検の業務に就いていて、不法入国ではなかった。日本海側では、北朝鮮の船が国内に漂着する例は毎年数十件確認されているが、生存したまま保護されるケースは珍しい。

  今月20日、同じ能登半島の輪島市門前町の沖合で、国籍不明の漂流船2隻が見つかった。うち1隻で4人の遺体が発見された。同じ門前町の沖合で21日にも転覆船が見つかり、6人の遺体が収容された。ほかにももう一隻が漂流していた。人は乗っていなかった。2隻とも船体は長さ9㍍から10数㍍の木造で、エンジン付きだった。船底が平らで黒のタール状の塗料が塗られるなど、朝鮮半島の船に多い特徴だった。漁網や釣り針が見つかった。20日に引き揚げた船にはハングル文字で「朝鮮人民軍 第325」との表記があった。

  そして、きょう22日午前8時すぎ、福井県越前町の越前岬の沖合で、木造船が転覆し漂流していた。3人の遺体が確認された。

  北から破船はシケが続くこの時期に多い。エンジンが故障して、そのまま海流に乗って、能登半島などに漂着するのだ。遺体は男性とみられており、難民や、いわゆる脱北者ではなさそうだ。

  ここからは推測である。北朝鮮の沖合でイカ釣りなど漁をしていて、海が荒れて流される。ところが、日帰り、あるいは数泊の予定で食料や水、ガソリンも十分になく、そのまま漂流する。大陸の沖合を流れる寒流のリマン海流に、その後、対馬暖流に流され、で日本側の沖合にやってくる。エンジン付きの船なので、おそらく軍からガソリンを供給され、漁に出た者たちだろう。

  漂流してきた船は氷山の一角だと察せられる。途中で船が破損して沈没したものも多数あるだろう。今後北の政権が破たんし、今度は多くの難民が漁船で脱出した場合を想像しよう。一隻の船に何十人もの老若男女がやってくる。しかし、日本海は荒れ、漂流する。あるいは転覆する。想像を絶する阿鼻叫喚が日本海に響き渡る。考えるだけでゾッとする。

⇒22日(日)夜・金沢の天気   くもり
 

☆「クロ現」問題のてん末

☆「クロ現」問題のてん末

  「出家詐欺」を扱ったNHK報道番組「クローズアップ現代」をめぐる問題で、今月6日、「重大な放送倫理違反があった」とする放送倫理・番組向上機構(BPO)の検証委員会の意見が公表され、新聞・テレビのニュースでも大きく報じられた。意見書はBPOのホームページで公開されていて、その内容は、「情報提供者に依存した安易な取材」「報道番組で許容される範囲を逸脱した表現」など厳しいコメントとなった。

  この問題は、私が大学で担当する総合科目「マスメディアと現代を読み解く」でも取り上げ、BPOのコメントには注目していた。番組は去年5月14日放送の「追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」。寺で出家の儀式「得度」を受けると戸籍の下の名前を法名に変更できることを悪用して別人を装い、金融機関から融資をだまし取るケースが広がっていると紹介した。ところが、番組内で多重債務者に出家を指南するブローカーとされた男性が今年3月18日付の週刊文春に「NHKのやらせ」と告発した。

   これを受けたNHKの対応は速かった。4月3日に調査委員会を立ち上げ、同9日に中間報告書を、同月28日に最終報告書を公表し、「過剰な演出」や「実際の取材過程とかけ離れた編集」があったことを認める一方で、「事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』は行っていない」と結論づけた。「やらせ」との言葉が世間で独り歩きすることを極度に恐れ、必死になって報告書をまとめたであろうことは想像に難くない。BPOの放送倫理検証委員会は5月8日、審議の対象にすることを決めた。BPOの調査目的は、果たして「過剰な演出」や「実際の取材過程とかけ離れた編集」というレベルにとどまるものなのかどうか、その一点にあったようだ。番組制作関係者11人と番組内での「ブローカー」、「多重債務者」の計13人に25時間に及ぶ聞き取り調査を行った。

   BPOの意見書を読むと、驚くことが掲載されている。番組では初対面で相談する「ブローカー」と「多重債務者」のそれぞれの男性は10年来の知り合いであり、番組をコーディネートしたNKH記者とも旧知の間柄だった。さらに、2014年4月19日に撮影が行われた、2人が相談する場所も「多重債務者」の方が事前に準備したもので、さらに撮影終了後には、記者と「ブローカー」と「多重債務者」の3人が「打ち上げ」と称して居酒屋で飲食を共にしていたのである。これが報道番組「クローズアップ現代」で隠し撮りシーンとして紹介された場面の撮影の舞台裏だった。視聴者にとって全く想定外だろう。これを一般の視聴者に問えば、十中八九「それは『やらせ』です」と答えるに違いない。

   NHK側は、「ブローカー」と「多重債務者」のそれぞれの男性が知り合いで、番組をコーディネートした記者とも知り合いだったことから、2人が記者が説明した番組の意図を忖度して、それぞれの知識や体験にオーバートークを交えて「出家の相談をするブローカーと多重債務者の相談場面」を演じた、いわゆる「過剰演出」と結論づけた。相談場面は、この意見書を読む限り、番組の狙いを強調する事実をわい曲ではないのかと思ってしまう。

   もう一点、腑に落ちないことがある。NHKが最終報告書を公表し、番組に携わった記者ら15人を処分した4月28日、その同日に総務大臣名で文書による厳重注意の行政処分がNHKに対してあった。5月8日にBPO放送倫理検証委員会が審議入りする前に行政指導に踏み切ったのである。このことについて、今月6日に公表されたBPOの意見書の「おわりに」の章で、「政府が個別番組の内容に介入することは許されない」と総務省を批判ししている。また、新聞メディアなどもきょう7日付の紙面でむしろ政府の「介入」を問題視している=写真=。

   私はもう少しうがった見方をしている。NHKの最終報告書の公表と社内処分、総務省による行政処分のタイミングがよすぎるのである。これは、BPO放送倫理検証委員会が審議入りする前にこの問題の幕引きをはかりたいというNHK側の意図があり、NHKが総務省に行政処分を出すよう働きかけたのではないか、と。放送界の第三者機関(BPO)に「やらせ」と詮索されては困るからである。一連の「クロ現」問題のニュースを読んで、そう考える人も多いのではないか。メディアの批判の矛先がNHKより、むしろ政権党や総務省に向かい、NHKサイドも今頃ホッと胸をなでおろしているのではないか。

⇒7日(土)午後・金沢の天気    くもり