#コラム

★能登で起きた悲劇の連鎖事件

★能登で起きた悲劇の連鎖事件

   先日(今月16日)、石川県の能登町役場から手紙が届いた。「この度、3月18日(土)開催予定の能登高校魅力化プロジェクト講演会『能登町×能登高校の挑戦』を、諸般の事情により延期させて頂くこととなりました・・・」。統廃合寸前だった県立隠岐島前高校(島根県海士町)の生徒に地域課題に取り組ませるなど、ユニークなカリキュラムで同校を一気に全国区にした、教育政策アドバイザーの藤岡慎二氏が講演する予定だったので聴きに行こうと思っていた。この「諸般の事情」とは今月10日に起きた殺人事件のことだ。

  帰宅するためバス停で待っていた能登高校1年の女子生徒が連れ去られ、バス停から5㌔離れた山あいの集落の空き家で頭から血を流して死亡しているのが見つかった。殺害したとされる男子大学生21歳は同日午後7時40分ごろ、空き家から16㌔離れた道路に飛び出して乗用車にはねられ死亡した。報道によると、2人は顔見知りではなく、死亡した男子学生は一人でバス停で待っていた女子高生を角材で殴り、車で連れ去って、空き家(祖父の家)で殺害した。女子高生の死因は、刃物で首を切られたことによる失血死だった。最初から殺す目的で襲ったのか。事件から2週間経ち、いまだに解明されていないのがその殺害動機だ。

   この事件を報じたニュース番組で、コメンテイターの言葉が気にかかった。「拡大自殺型犯罪ではないのか」と。この聞き慣れない言葉は、ウイキペディアなどによると、その定義として、1)本人の死の意志 2)1名以上の他者を相手の同意なく自殺行為に巻き込むこと 3)犯罪と、他殺の結果でない自殺とが同時に行われること・・・。道連れ殺人ともいえる犯罪だ。

   それでは死亡した男子学生は自殺だったのか。道路に飛び込んで本当に自殺ができるのか。先日(19日午後)、現場の能越自動車道穴水道路上り線に行ってみた。「なるほど。これだったら自殺は可能だ」と思った。道路は対抗車線のある道路ではなく、上り1車線でしかも両脇がコンクリート壁になっている。つまり、急に道路に飛び込んでこられたら、車は横に除けることができない。急ブレーキをかけても、確実に轢いてしまう。男性学生は予め死に場所を選定していたのだろうと想像がついた。

   自殺の動機は知る由もない。男子学生を轢いてしまった運転者は気の毒だ。そして道連れで殺された女子高生の冥福を祈る。悲劇の連鎖、涙が流れた。

⇒24日(金)夜・金沢の天気   はれ   

☆北の脅威は海からも

☆北の脅威は海からも

  日本海に突き出た能登半島はこれまでもある意味で北朝鮮の標的とされてきた。たとえば、能登半島には一連の拉致被害の第1号の現場がある。1977年9月19日、東京都三鷹市役所の警備員だった久米裕さん(当時52歳)が石川県能登町宇出津の海岸で失踪した。地元では今でも「宇出津(うしつ)事件」と呼ばれている。

  久米さんは在日朝鮮人の男(37歳)と、国鉄三鷹駅を出発した。東海道を進み、福井県芦原温泉を経由して翌19日、能登町(当時・能都町)宇出津の旅館「紫雲荘」に到着した。午後9時、2人は黒っぽい服装で宿を出た。旅館から通報を受け、石川県警は能都署員と本部の捜査員を急行させた。旅館から歩いて5分ほどの小さな入り江「舟隠し」=写真=で男は石をカチカチとたたいた。数人の工作員が姿を現し、久米さんと闇に消えた。男は外国人登録証の提示を拒否したとして、駆けつけた署員に逮捕された。旅館からはラジオや久米さんの警棒などが見つかった。

  私もこれまで何度か現地を訪れたことがある。そして、当時事件を取材した元新聞記者のK氏から話を聞いた。K氏によると、この事件で石川県警察警備部は押収した乱数表から暗号の解読に成功したことが評価され、1979年に警察庁長官賞を受賞している。ただ、この事件は単に朝鮮半島に向けて不法に出国をした日本人がいたという小さな話題としてしか報道されなかった。警察は、乱数表およびその解読の事実を公開した場合は、工作員による事件関係者の抹殺など、事件解決が困難になるリスクもあると判断し、公開に踏み切れなかったともいわれる。

  当時、大々的に拉致問題として報道していれば、その後の被害者も最小限だったかもしれない。当時は外交による国交回復が望まれていた。そんな折、あえて事件化できなかったともいわれる。以降、日本海沿岸部から人が次々と消える。この年の11月15日、横田めぐみさんが同じ日本海に面した新潟市の海岸べりの町から姿を消したのだ。

  政府は拉致事件として認定していないが、1963年5月11日、石川県志賀町沖に刺し網漁に出た寺越昭二さん(当時36歳)、寺越外雄さん(同24歳)、寺越武志さん(同13歳)の3人が行方不明となり、船だけが沖合いで発見された。1987年1月22日、外雄さんから姉に北朝鮮から手紙が届いて生存が分かった。2002年10月3日、武志さんは朝鮮労働党員として来日し、能登の生家で宿泊した。武志さんは「自分は拉致されたのではなく、北朝鮮の漁船に助けられた」と拉致疑惑を否定している。このケースは、北朝鮮の工作船と遭遇したため連れ去られた「遭遇拉致」と見られている。  
 
  1999年3月23日朝、能登半島東方沖の海上から不審な電波発信を自衛隊が傍受し、能登沖と佐渡島沖で2隻の「漁船」が発見される。北朝鮮の不審船による日本領海侵犯事件として、海上自衛隊と海上保安庁の巡視船など追跡した。が、不審船は高速で逃走し逃げ切った。この事件がきっかけで、海上保安庁の巡視船の高速化がはかられている。

北の脅威は何も空からだけではない。海からの脅威にもさらされてきたのだ。

⇒10日(金)夜・金沢の天気    くもり

★能登沖に弾道ミサイルの脅威

★能登沖に弾道ミサイルの脅威

  このニュースには一瞬背筋が寒くなった。きょう9日午前、菅官房長官が記者会見で、北朝鮮が6日に同時発射した弾道ミサイル4発のうち1発について、「能登半島から北に200㌔㍍の日本海上に落下したと推定される」と発表した。これまで政府は6日の弾道ミサイル4発はいずれも1000㌔㍍飛行し、秋田県男鹿半島の西方の300-350㌔㍍の日本海上に落下したと発表していた。

  私は直感した。北朝鮮は能登半島を狙って撃っている、と。というのも、能登半島の先端・輪島市の高洲山(567㍍)には航空自衛隊輪島分屯基地のレーダーサイトがある。このレーダーサイトには、航空警戒管制レーダーが配備され、日本海上空に侵入してくる航空機や弾道ミサイルを速く遠方でも発見するため24時間常時監視している。この航空警戒管制レーダーを意識して、あえて200㌔㍍沖で弾道ミサイルを落としたのではないか。

  報道によると、菅官房長官はミサイルの種類に関し、スカッドの射程を伸ばした中距離弾道ミサイル「スカッドER」と推定されると指摘した。今回、官房長官があえて能登沖に落下したと発表したのは、我が国の情報収集能力について北朝鮮にメッセージを送るためだったと読む。北朝鮮は4発のうち、3発を男鹿半島沖に落とし、1発を能登半島沖に落とした。本当の狙いは能登半島だが、それを日本が覚知できるかどうか試したのだ。日本政府とすると、情報収集能力はあるぞと北朝鮮に示すために、あえて発表したのだろう。

  それにしても、日本海は自衛隊の訓練空域でもっとも広く、「G空域」と呼ばれる。そのエリアに、しかも監視レーダーサイトの目と鼻の先にスカッドERを撃ち込んだのだ。これはもはや脅威だと認識せざるを得ない。

⇒9日(木)夜・金沢の天気   あめ

☆過払い金回収ビジネスとメディア

☆過払い金回収ビジネスとメディア

  最近テレビを視聴していて気になっているのが、一時ブームのように盛り上がり、最近は下火にになっていた、消費者金融に払い過ぎた「過払い金」を取り戻すというCMが最近再び目立つようになってきたことだ。

  先日もロ-カルCMで石川県で過払い金請求の相談会をするとの内容で、東京の法律事務所の司法書士と弁護士がコンビで出ていた。なぜ、司法書士と弁護士がペアで相談会に回るのかというと、司法書士が扱う訴訟は簡易裁判所で訴訟の額は140万円までと制限があり、弁護士は140万円以上の過払い金請求訴訟を地方裁判所で起こすという図式になっているからのようだ。テレビだけでなく、新聞広告やチラシでも盛んにCMを打っている東京のある法律事務所のホームページをのぞいてみると、「過払い金回収実績」というページがあって、これまでに34万件1970億円を回収したと誇っている。

   過払い金の回収は、消費者金融が「利息制限法」で定められている、金を貸す際に守らなければならない金利の上限(金額に応じて15-20%)を超えた金利を受け取っていた場合、借りた側がその超過部分の金を貸金業者から返還してもらうことだと解釈しているが、ここではその仕組みを論じるつもりはない。金融は素人だ。冒頭で気になると述べたのは、一度下火になった過払い回収がなぜ今再びという、ちょっとした疑問だ。

  今は消費者金融とメディアも称しているが、1970年代の高度成長には「サラ金」(サラリーマン金融)と呼んで、テレビCMなどで盛んに宣伝されていた。ところが、「サラ金地獄」といった債務問題が社会問題化する。日本民間放送連盟(民放連)などは1977年に消費者金融のCMを排除を申し合わせたほどだった。

  ところが、再び消費者金融が復活する。きっかけは1990年代のいわゆる「バブル経済」の崩壊だった。経済的に苦しい消費者が激増した。消費者金融の大手などは「むじんくん」や「お自動さん」といった自動契約機を各地で設置して借りやすい環境を整えていた。1980年代後半で54.75%だった出資法の上限金利も、1990年代には40.004%になり以前と比べ下がっていた。

  また、そのころ消費者金融のテレにビCMも深夜帯に限って復活していた。1995年にはテレビCMが「解禁」となり、ゴールデンタイムなどにも流れ始めた。これらの追い風を受けて、個人向け融資の全盛期を迎え、2006年には消費者向け貸付残高が20兆9千億円(金融庁貸金業関係資料集より)にもなった。一方で利用者が複数の消費者金融業者からローンを借りる「多重債務」が社会問題化していた。

  こうした状況下で2006年1月13日、最高裁の注目すべき判決があった。それまで出資法上の上限金利(当時29.2%)と利息制限法上の上限金利(15-20%)の差、いわゆる「グレーゾーン金利」について、利用者(債務者)が利息として任意に払い、契約時や弁済時に契約内容を示す書面が交付されてれば、それは「みなし弁済」ということで有効とされていた。ところが、最高裁判決では、特段の事情がない限り、利息制限法を超過する金利はすべて無効であり、「みなし弁済」は適応されないと判断した。つまり、過払い金として返還請求を全面的に認めたのだ。

  この最高裁の判断によって翌年2007年には貸金業法が大幅な改正向けて動き出し、グレーゾーン金利そのものの撤廃や、新規の借入総額を年収の3分の1までとする「総量規制」が2010年6月までに完全施行された。消費者金融も2007年には貸付金利を大幅に下げて対応した。

  法律事務所による過払い金回収のテレビCMなどが目立ってきたのはこのころだ。改正貸金業法では、消費者金融が金利20%を超えてお金を貸すと出資法違反で刑事罰が課せられ、利息制限法と出資法の上限金利の間で貸付けると貸金業法違反で行政処分の対象になる。過払い金の時効は10年なので法律事務所は「過払い金回収ビジネス」を加速させた。

  2007年からの貸金業法の大幅な改正からことしで10年。上記で述べたように、過払い金を請求できる期限は完済した時から10年なので、ことしが「過払い金回収ビジネス」のラストチャンス。だから、業界が熱くなってCMが増えているのだろう。  
  
  最近面白いCM現象がある。過払い金回収のテレビCMをよそに、銀行の「カードローン」のCMがやたらと目につく。消費者金融の貸出は減り、CMも減った。銀行の消費者ローンが増えている。銀行とすれば、1%程度の住宅ローン金利に比べれば、年3-15%の消費者ローンは魅力だろう。それに、銀行は上記の改正貸金業法の対象外で総量規制などはない。

  こうして眺めるとメディアは役得だ。消費者金融が立っても転んでもニュースになり、CMも得る。法律事務所の過払い金回収ビジネス、銀行のカードローンでもCMの恩恵に預かる。それが今後社会問題化すればさらにニュースも預かる。なんと恵まれたビジネスモデルであることか。

⇒7日(火)午後・金沢の天気   ゆき

★能登の海岸から見える国際問題

★能登の海岸から見える国際問題

  能登の海は生物多様性に富んでいる。ブリやタラ、フグといった魚介類の種類の多さということもさることながら、波打ち際にも生き物がいる。ナミノリソコエビだ。初耳の人はサーフィンするエビとでも想像してしまうかもしれない。全長数㍉から1㌢ほどの小さなエビだが、シギやチドリのような渡り鳥のエサになる。石川県では高松海岸などで波打ち際にシギやチドリが数10羽群れている光景をたまに見る。鳥たちは波が引いた砂の上に残るナミノリソコエビを次の波が打ち寄せるまでのごくわずかな時間でついばむのだ。

   渡り鳥はオーストラリアから日本を経由してシベリアまで渡っていく。その途中で、能登半島の海岸に好物のナミノリソコエビをついばみに空から降りてくる。ただ、ナミノリソコエビは砂質が粗くなったり、汚泥がたまると生息できなくなる。いまこの波打ち際の生態系が危うい。

  石川県廃棄物対策課のまとめによると2月27日から3月2日の4日間の調査で、県内の加賀市から珠洲市までの14の市と町の海岸で、合計962個のポリタンクが漂着していることが分かった(2日付の県庁ニュースリリース文)。ポリタンクは20㍑ほどの液体が入るサイズが主で、そのうちの57%に当たる549個にハングル文字が書かれ、373個は文字不明、27個は英語、10個は中国語、日本語は3個だった。さらに問題なのは、962個のうち37個には残留液があり、中には、殺菌剤や漂白剤などに使われる「過酸化水素」を表す化学式が表記されたものもあった。県ではポリタンクの中身を分析しているが、危険物が入っている可能性もあるので、ポリタンクに触らず、行政に連絡するよう呼びかけている。大量のポリタンクが漂着したのは今年だけではない。近年では2010年にも石川の海岸に1921個(全国22194個)が流れ着いている(環境省調査)。

  ポリタンクだけではない。医療系廃棄物(注射器、薬瓶、プラスチック容器など)の漂着もすさまじい。環境省が2007年3月にまとめた1年間の医療系廃棄の漂着は日本海沿岸地域を中心に2万6千点以上で、うち900点余り中国語だった。このほか、ペットボトルなど飲料や食品トレーを含めれば膨大な漂着物が日本海を漂い、そして漂着していることが容易に想像できる。

  上記は目に見える漂着物だ。もっと問題なのは一見して見えない、大きさ5㍉以下のいわゆる、マイクロプラスティックだ。ポリタンクやペットボトル、トレーなどが漂流している間に折れ、砕け、小さくなって海を漂う。陸上で小さくなったものも川を伝って海に流れる。そのマイクロプラスチックを小魚が飲み込み、さらに小魚を食べる魚にはマイクロプラスチックが蓄積されいく。食物連鎖の中で蓄積されたマイクロプラティックを今度は人が食べる。単なるプラスティックならば体外に排出されるだろうが、有害物質に変化したりしていると体内に残留する可能性は高いといわれている。

  ポリタンクや医療系廃棄物の不法な海洋投棄は国際問題だ。バルセロナ条約は21カ国とEUが締約国として名を連ねる、地中海の汚染防止条約(1978年発効)がある。条約化に向けて主導したのは国連環境計画(UNEP)。UNEPのアルフォンス・カンブ氏と能登半島で意見交換したことがある。そのとき、彼が強調したことは日本海にも染防止条約が必要だ、と。あれから10年ほど経つが、汚染が現実となっている。日本海の汚染防止条約が今こそ必用だと実感している。
(※写真は能登の海岸で地引網を楽しむ大学生たち。豊かな海を大切にしたい)

⇒3日(木)午後・金沢の天気   はれ

☆ネット同時配信の成功モデルはラジオにある

☆ネット同時配信の成功モデルはラジオにある

   先日(今月23日)広告代理店「電通」が「2016年 日本の広告費」を発表した。毎年このデータに注目している。それによると、2016年の総広告費は6兆2880億円で前年比101.9%と5年連続でプラスとなった。注目しているのは、通称「4マス」と呼ばれるマスコミ4媒体の広告費だ。テレビメディア(地上波、衛星)の広告費は2兆8596億円(前年比101.7%増)、新聞は5431億円(同95.6%)、雑誌は2223億円(同91.0%)だった。これに対して、ラジオは1285億円(102.5%)。インターネットはさらに伸び率が高く1兆3100億円(同113.0%)だった。

   4マスでの伸び率で言えばラジオが健闘した。これまでだと、ラジオが伸ることはありえなかったかもしれない。ところが、電通の分析はこうだ。ラジオの伸びは年間を通して好調に推移していて、業種別ではシェアの高い「外食・各種サービス」が同110.5%と2桁成長し、11年連続で増加した。そのほか「不動産・住宅設備」「自動車・関連品」なども増加している。とくに、「radiko(ラジコ)」は月間ユニークユーザ-数およびプレミアム会員数が前年に引き続き堅調に推移。また、リアルタイム以外でもラジオ番組が聴けるタイムフリーサービスがスタート(2016年10月)し、利用が促進された、としている。このラジコこそ、ラジオのネット同時配信なのだ。

   ラジコは2010年に、関東と関西のラジオ放送局、そして電通が共同で立ち上げた。全国82のラジオ局と放送大学が参加し、リスナーは今いる地域の放送局の番組は無料で聴ける仕組みだ。2014年からは月350円(税別)で全国のラジオ放送が、昨年2016年10月からは地元のラジオ局の1週間分の番組が無料で聴けるようになった。

   この仕組みをテレビ局でも応用できないだろうか。テレビ局のネット同時配信は東京キー局の番組が全国に配信できるようになれば、ローカル局が「炭焼き小屋」になりかねない、経営危機に陥るという懸念がテレビ業界、特にローカル局にある。が、ラジオもテレビも同じ構図だった。ラジコのシステムと同じように、月額料金を払えば他のテレビ局も視聴できるようにすれば、視聴者に選択肢が広がる。関東圏や関西圏の視聴者のローカル局の視聴ニーズが高いとされている。さらに、スポンサーとすればテレビ局の新たな広告価値も広がるのではないだろうか。

   現状では、ネット上でさまざまな動画サイトが乱立し、テレビ局は視聴者を奪われつつある。これが一番の危機と認識して、テレビ局はネット同時配信を急ぐべきではないだろうか。もちろん、肖像権や音楽著作権など乗り越えるべき壁はあるが、勢いで取り組めばそう難しい話ではない。

⇒26日(日)夜・金沢の天気    あめ

★放送のネット同時配信をめぐる不協和音-下

★放送のネット同時配信をめぐる不協和音-下

   放送のネット同時配信を想定してすでに「イーメジトレーニング」を実践している人たちがいる。NHKの受信契約の営業マンだ。放送法64条では、NHK番組を実際に見ているかどうかに関係なく、NHKを受信できる設備(テレビ)を持っている人は、受信料を支払う契約をする必要がある。大学の新入生がやってくる3月下旬ごろになると、NHKの営業マンたちがうごめく。学生アパートを訪ね、放送法をかざして受信料契約を迫る。「テレビは部屋にない」と学生が反論すると、「あなたが持っているスマホのワンセグでテレビが視聴できるでしょう」とさらに迫ってくる。ある学生は「なじみのない放送法に学生たちは脅威を感じていますよ」と。

   そこで私は、視聴者コールセンターに電話したことがある。1)学生は勉強をするために大学にきているので、受信契約は親元がしていれば、親と同一生計である学生は契約する必要がないのではないか、2)携帯電話(ワンセグ付き)の購入の際、受信契約の説明が何もないのもおかしい、携帯所持後に受信契約を云々するのでは誰も納得しない、3)そもそも、放送法にある受信機の「設置」を「携帯」と拡大解釈するのは間違いではないか、と。これに対し、電話対応の男性は「ワンセグは受信契約の対象になります。いろいろご事情はあるかと思いますが、別居の学生さんの場合は家族割引がありますのでご利用ください」と回答するのみだった。

   放送法と受信契約をめぐってさまざま裁判が起きている。昨年2016年8月26日、さいたま地裁でワンセグ付きの携帯電話を所有する人はNHK受信契約を結ぶ義務があるかどうかを争った訴訟の判決があり、契約義務がないとの判断が示された。放送法64条は「受信設備を設置した者は受信契約をしなければならない」とし、NHKは64条の「設置」に「携帯」の意味も含まれると主張してきた。判決の骨子は、1)携帯電話は「携帯」するものであり、放送法に言う「設置」にあたらない、2)携帯電話の所持は、放送の受信を目的としたものではない、というものだった。つまり、64条で定める「設置」に、電話の「携帯」の意味を含めるのは「無理がある」と判断したのだ。この判決にNHKは控訴した。

   注目されるのは最高裁の大法廷での初判断だ。昨年2016年11月2日、テレビがあるのに受信契約の締結を拒んだ東京の男性に、NHKが受信料を請求できるかが争われた裁判の上告審で、最高裁第3小法廷は審理を大法廷に回付した。大法廷では憲法判断や判例変更を行う場合などに回付される。この裁判はNHK側が2012年に受信契約を結び受信料を払うよう、男性を訴えた。テレビを有している男性はNHKが契約申込書を送ったが契約しなかった。1審の東京地裁は、申込書を送っただけでは契約は成立しないとしたが、放送法に基づいて男性にNHKと契約を結んだ上で受信料20万円を支払うよう命じ、2審の東京高裁も支持した。

   論点は、放送法64条では受信設備を設置したらNHKと契約する必要があると定めるが、憲法29条が保障する「契約の自由」の観点から「放送法の規定はそもそも違憲だ」と男性は主張してきた。が、29条はその2項で公共の福祉を理由とするなら、契約の自由を制限することが可能だとしている点で争われてきた。1審判決では「規定は不偏不党を貫く放送のため、テレビ設置者から広く公平に受信料を徴収することを目的としており、公共の福祉に適合する」として判断し、男性に受信料の支払い義務があるとした。

   最高裁の大法廷での求めらる判断は、果たしてNHKは公共の福祉であり、放送法は合憲なのか、という点だろう。最高裁がもし「放送法は違憲」と判断すれば、NHKは経営危機に陥る。ただ、今回そこまでの判断はしないのではないか。むしろ、NHK側が受信契約を求めるためにあえて裁判を起こす必要性などが問われるのではないか。

   ネット同時配信の時代を迎えるが、考えてみると、NHK側は受信料契約がとてもやりやすくなる。電波(ワンセグ)とネットと同時に番組が視聴できるという盤石な放送インフラになれば、あとは放送法の改定を整えればよいという段階に入る。

   ちなみにNHKが手本としているイギリス、ドイツの場合。イギリスはテレビやパソコン、スマホなどを持つ世帯に受信許可料(年145ポンド)を支払うよう義務づけている。ドイツでは、テレビが設置されていなくても、全世帯と事業所に公共放送負担金(年210ユーロ)を課している。こうした事例を挙げて、NHK側はネット同時配信で新しく法改正を求め、スマホやPCで番組を視聴する層に対し、新しい受信料を課す制度を設けてくるかもしれない。たとえば、最高裁が「NHKの受信契約は合憲」と初判断すれば、受信料の徴収は大っぴらになる。つまり、NHK側がスマホを提供する主要キャリア3社(NTTドコモ、au、ソフトバンク)などと提携して、親と同居していない学生など若い層から受信料を徴収ということも・・・そんなことが現実になってくるのではないかと想像している。

⇒20日(月)朝・金沢の天気   あめ

☆放送のネット同時配信をめぐる不協和音-中

☆放送のネット同時配信をめぐる不協和音-中

  これはテレビ業界では知られた言葉なのだが、かつて「ローカル局炭焼き小屋論」というのがあった。2000年12月にNHKと東京キー局などBSデジタル放送を開始したが、このBSデジタル放送をめぐってローカル局から反対論が沸き上がった。放送衛星を通じて全国津々浦々にダイレクトに東京キー局の電波が流れると、系列のローカル局は田舎で黙々と煙(電波)を出す「炭焼き小屋」のように時代に取り残されてしまう、といったネット同時配信でささやかれるローカル局側の議論とまったく同じような懸念が業界で渦巻いた。何しろ日本のテレビ局には県域というものがあり、東京キー局の系列テレビ局が地方に110社余りある。

  では、BSデジタル放送が開始されて、系列テレビ局が倒産の憂き目に遭ったかというとそれはない。もちろん、東京キー局側でも地上波をそのまま同時再送信するような放送コンテンツを避けて、独自色のある番組制作をしている。「炭焼き小屋論」は杞憂だった。ただし、今回のネット同時配信では、「ローカル局炭焼き小屋論」が再度沸騰するかもしれない。が、もっと前向きに考えれば、ビジネスチャンスが訪れるかもしれない。

  地方の情報のニーズはある。地域情報をもっと詳しく欲しいという層は地域住民だけではなく、企業のビジネスや全国に各地に転居した人、あるいは世界の各地に住んでいる日本人などいろいろある。ネットで地域情報が映像で視聴できることは新たなビジネスチャンスだ。また、若者の世代では部屋にテレビはないが、スマホで動画を視聴するという層が多い。ならば、スマホへ放送番組を提供できることになれば、間違いなく大きなチャンスだ。さらに、ネット同時配信により、テレビ局と視聴者の双方向性が加速する。これまでテレビ局は一方通行だったが、視聴者のコメントがどんどんと寄せられる。それを視聴動向の分析データすることで、スポンサーへのハイレベルのサービスが可能になるのではないか。

  動画コンテンツの優れた制作技術を背景に、ネット上の動画コンテンツのレベルを全体に高めるくらいの志(こころざし)をもって、ネット同時配信に挑んでほしいと願っている。つまり、ローカル番組が日本全体、世界に打って出るチャンスに恵まれたのである。そう思えば未来可能性が見えてくる。

  冒頭で「炭焼き小屋」の話をした。私が知る炭焼き小屋は能登半島の先端にある。炭焼き2代目だ。一時廃業も考えたが、今では未来の構想をもって仕事をしている。10年かけて、炭焼き小屋の周囲にクヌギの木を植え、今では8000本となった。クヌギはお茶炭(菊炭)の木材だ。炭焼きの技術と山の資源を日本の伝統文化である茶道用の炭に集中し特化した。彼の炉用の茶炭は茶道界できちんと評価され、1㌔3000円の高値がする。彼は自信をつけた。日本の茶道を支える一人になりたいと。そして今後は同じ志を持つ若手を育成したいと夢を膨らませている。

⇒19日(日)夜・金沢の天気   くもり

★放送のネット同時配信をめぐる不協和音-上

★放送のネット同時配信をめぐる不協和音-上

    最近テレビ業界の人と会うたびに出てくる言葉の一つに「放送のネット同時配信でローカル局はどうしたらよいか、ざわざわしている」と。あるテレビ局の幹部からいただいたことしの年賀状にも「放送コンテンツのネット同時配信に向けて動きが本格化しています。ネットワークの在り方にも変化が出始めました」と意味深な内容だった。このネットワークの在り方の変化というのは、東京キー局とローカル局と関係性に不協和音が出始めたという意味だと直感した。

    この不協和音の震源は昨年(2016年)11月4日に開催された、総務省のネット同時配信に向けた課題を話し合う有識者会議で、2020年までに同時配信の本格実現をめざす方向性が確認されたことだろう。これを受けて、同月9日に開催された第64回民間放送全国大会(東京)で日本民間放送連盟の井上弘会長(TBSテレビ会長)でこれまで慎重だった民放のネット同時配信について「民放は技術の進歩に積極的に対応していく」と述べている。また、NHKについても総務省は同月11日、NHKの改革を検討する有識者会議でネット同時配信解禁に向けた議論を始めている。

    一般のネットユーザーの立場からすれば、2020年などと言わずに今からでも同時配信をやってほしいと思って当然だろう。ところが、NHK、民放それぞれに超えるべき壁がいくつかある。まずは、民放から。私が住んでいる金沢市で東京キー局の番組を同時に視聴することはできない。それはテレビ局はいわる「県域」というものがあり、東京キー局の放送は関東エリア(東京都、神奈川県、千葉県、 埼玉県、茨城県、群馬県、栃木県の1都6県のカバー)に限定される。逆に、関東エリアに住む人が遠く離れた故郷のニュースや番組をテレビで視聴したいと思ってもそれはかなわない。

    民放のネット同時配信の懸念は、東京キー局よりローカル局の方が強い。たとえば、東京キー局の放送番組をネットで視聴できるようになれば、ローカル局が作成する地元情報の番組などは見られなくなるのではないか。また、ローカル局のCMが東京キー局にストローにように吸い上げられ、ローカル局の経営が一層厳しくなるのではないか。そうなれば、ローカル局の存在意義すらなくなるのではないか。

    放送が全国で一元化されているNHKの場合、民放のような悩みとはまったく別の懸念を抱える。それは、国との関係、受信者との関係である。NHKのネット同時配信の一番の問題は受信料だろう。テレビを設置している世帯や会社などはNHKと受信契約を結ぶ義務があるが、テレビを有している世帯のうち実際に受信契約を結び受信料を支払っているのは77%と推計されている。テレビを持たずパソコンやスマホでテレビを見る人が増えれば、受信料を払う人がさらに減少しかねない。

    放送法64条では受信設備(テレビ)を設置している世帯が受信契約を結ぶことになっているが、ネット同時配信によって、スマホを有するすべての人が受信契約の対象になる。そうなると放送法の改正をめぐって国とNHKの間で、さらにもともとネットは無料という意識があるネットユーザーとNHKの間で新たな確執が生まれて来るのはないか。

⇒17日(金)朝・金沢の天気   くもり

☆「ミズガニ、食べに来ませんか」

☆「ミズガニ、食べに来ませんか」

  きょう14日、福井市に住む友人から電話があった。「ミズガニ、食べに来ませんか」と。私は能登生まれで幼少よりカニをおやつ替わりに食べてきたことを自慢してきた。いまでもカニには目がない。とっさに「あすでもいいですよ」と返答した。さすがに先方は「できれば来週で」というので、来週23日に「カニの夜」を福井で楽しむことになった。

  とは言いながら、「ミズガニってなんだっけ」と、さっそくネットで検索した。ミズガニは福井独特の言い方で、脱皮して間もないオスのズワイガニのことを、当地ではミズガニというそうだ。透き通るような薄い赤の甲羅が特徴。漁は今月9日解禁されたばかりで、来月20日まで続く。ただ、ミズガニを食べる食習慣は加賀や能登ではないし、漁期の設定も聞いたことがない。※写真はズワイガニ

  さて、その食味は…。検索はさらに続く。ミズガニは身に水を多く含み、食べる時に足の身がズボッと取れることからズボガニとも呼ばれるそうだ。したがって、通常のズワイガニに比べて、価格は5分の1ほどと安い。越前の庶民の味なのだろう。

  私はカニに対する福井県民の執着心には脱帽している。20代の若いころ、別の福井の友人と「カニの早食い競争」をしたことがある。ハサミも包丁も使わずに、茹(ゆ)でたズワイガニを一匹丸ごと平らげるタイムを競った。福井の友人はパキパキと脚を折り、ズボッと身を口で吸い込み、カシャカシャと箸で甲羅の身を剥がす。黙々と。その速さは5分ほどだった。私は到底かなわなかった。

  そのカニ食い競争後に越前漁協にカニの水揚げ現場を案内してもらった。友人が言うには、「脚折れのカニは普通は商品価値が低いが、この漁協では折れたカニの脚を集めて、脚折れカニにうまく接合する技術がある」と。二度びっくり。そんなカニ脚の接合技術など石川では聞いたこともない。カニという商品をそれだけ大切に扱っているという証(あかし)だと当時思った。そして、同じ北陸でもカニにかけては福井人の執着心には絶対かなわないと自覚したものだ。

  さらに執拗に検索を進める。カニ料理のポイントは塩加減や茹で加減と言われる。単に茹でてカニが赤くなればよいのではない。福井では「カニ見十年、カニ炊き一生」という言葉がある。カニの目利きが上手にできるには十年かかり、カニを満足に茹で上げるには一生かかるという意味だそうだ。カニの大きさや身の付き具合はもちろん、水揚げされた日の気候などによって、塩加減や温度、茹で時間などを調整する、というのだ。とくに福井人が大好きなミズガニは茹で加減が難しく、かなりの熟練度が必要という。カニの商品価値を高めるための技と心意気をひしひしと感じる。23日のミズガニの夜がさらに楽しみになった。

⇒14日(火)午後・金沢の天気   くもりときどき雪