#コラム

★110年「旅するワイン」

★110年「旅するワイン」

     昨夜(20日)金沢のワイン・バーに出かけた。ソムリエで店のマスターが「マデイラワインはご存知ですか」とカウンター越しに声をかけてきた。「いや、マデイラは地名ですか。どこのワインなの」と尋ねると、「ポルトガルのリスボンから1000㌔のマデイラという島なんですが、ソムリエだったら一度は行ってみたい、伝説のワインの島なんですよ」と。

     そこまで聞くと飲んでみたくなった。「10年ものでいいですか」とマスター。アルコールは濃い感じだが口当たりがいい。「この島のワインは酒精強化ワインと言うんです」。マスターの話を要約する。イベリア半島など気温が高く温度管理が難しい地域では、ワインの酸化や腐敗防止など保存性を高めるためにさまざまな工夫が歴史的になされてきた。酒精強化は、液中のアルコール分が一定量を超えると酵母が働かなくなり、アルコール発酵による糖の分解が止まる現象を利用し、ブランデーなどを混ぜる。通常のワインのアルコール度数が10-14度なのに対し、酒精強化ワインは18度前後になる。「それでこのワイン、アルコールが少々強めなんだ」と妙に納得する。

   「保存が効くマデイラワインは大航海時代に重宝され、旅するワインとも言われたようです」とマスターは歴史の話を持ち出した。15世紀ごろからポルトガル、スペイン、イギリスなどからアフリカ、アジア、そしてアメリカ大陸への航海が始まる。保存性が良い酒精強化ワインは大航海の必需品となった。マデイラワインをもっとも有名にしたのは1776年、後に大統領となるトーマス・ジェファーソンが起草したアメリカ独立宣言が大陸会議で承認され、祝った酒がマデイラワインだったとの伝説だ。

    「ところで、保存が長いと言うけど、一体どのくらい保存が効くの、20、30年くらいなの」と突っ込みを入れた。するとマスターは「それでは出しましょうか」と奥から緑色のボトルを1本持ってきて、カウンターに置いた=写真=。「D’OLIVEIRAS」(ドリヴェイラ)という1850年創業のワイナリー。「BOAL」(ブアル)というブドウ品種。そして「1908」とある。「えっ、110年もののワインなの」と驚いた。持っていた手帳で調べると明治41年。まさにオールド・ヴィンテージものだ。

    「マスター、これ一杯いただけませんか」。少し声の震えを感じながらお願いした。澄んだ琥珀色、中ぐらいの甘口だ。古民家に入ったときに感じる古木の香りと芳醇な味わい、そして時空を超えた伝説の深味を楽しんだ。「マスター、冥土の土産話ができましたよ。ありがとう」と言って店を出た。

⇒21日(水)朝・金沢の天気   くもり

☆2年後のタイムラグ問題

☆2年後のタイムラグ問題

     平昌冬季オリンピックが韓国で開催されてよかったと思うことがある。それは時差がないことだ。17日に羽生結弦選手が金メダルを、宇野昌磨選手が銀メダルを獲得したフィギュアスケート男子シングルの生中継(NHK総合・午後0時15分‐同2時41分)の平均視聴率は関東地区33.9%、18日に小平奈緒選手が金メダルだったスピードスケート女子500㍍の生中継(TBS・午後8時00分‐同10時00分)は同地区21.4%(いずれもビデオリサーチ調べ)だったと報じられている。まともな時間に中継を視聴できている。

     2016年8月のリオデジャネイロのときは時差が11時間(サマータイム)、体操の男子個人総合で内村航平選手がロンドンに続く2連覇を果たす瞬間を見たかったが、朝6時台だったので不覚にも寝過ごした。

   「まともな時間」と冒頭で述べたが、それでもフィギャースケートのハイライトと、スピードスケートのハイライトの開始時間が8時間もあるのはなぜか。韓国が開催国なのだから同国のテレビ視聴のゴールデンタイム(午後7時‐同10時)にハイライトを中継できないのか。と言いながらも、私はかつてテレビ局で番組づくりに携わっていたので、裏事情を明かすことにする。

     フィギュアスケートの人気が高い国はアメリカだ。アメリカのゴールデンタイムに放送時間が合わせてある。同競技が始まったのは韓国の時間で17日午前10時、アメリカ・ニューヨークとの時差は14時間、つまりニューヨークで16日午後8時のゴールデンタイムなのだ。羽生選手の優勝が決まると、日本のメディアとほぼ同時にニューヨーク・タイムズなどは「Yuzuru Hanyu Writes Another Chapter in Figure Skating Legend」(電子版)と報じた。また、スピードスケート女子500㍍は韓国の李相花選手がオリンピック3連覇を目指していただけに韓国国内で注目度が高く、韓国のゴールデンタイムだった。

     実は競技時間はIOC(国際オリンピック委員会)と各国のテレビ局との駆け引きでもある。日本の新聞のテレビ欄を見て気付くように、競技開始は午後9時過ぎが多い。これは冬季オリンピックの注目度が高いヨーロッパ向けの時間設定なのだ。オリンピックは世界のテレビ局の放送権料金で成り立っていると言っても過言ではない。著作権ビジネスなのだ。そのテレビ局の最大手がアメリカNBCだろう。2014年冬のソチ、16年夏のリオデジャネイロ、18年冬の平昌、20年夏の東京の4大会のアメリカ国内での放送権料(テレビ、ラジオ、インターネットなど)を43.8億㌦(1㌦106円換算で4643億円)で契約している。

     日本でオリンピック番組を仕切るのはNHKと民放連で構成するジャパンコンソーシアム(JC)。JCは1984年夏のロサンゼルス以来この枠組みで取り仕切っているが、IOCとの契約は同じ4大会で1020億円の契約。NHK70%・民放30%の負担割合となる。日本はアメリカの4分の1程度なのだ。NBCは全放送権料の50%以上を占めているといわれる。つまり、放送時間の設定について日本がIOCと交渉しても、NBCには到底かなわない、勝てないのだ。「刑事コロンボ」や「大草原の小さな家」など名番組の数々を世に出してきた世界のテレビ業界のリーダーであり、オリンピックの大スポンサーとの自覚もあるだろう。

     ここで一つの心配がある。2年後の東京オリンピックだ。テレビ業界ではよい時間で放送し、CMスポンサーに高く売るというのが日本でもアメリカでもビジネスの鉄則だ。アメリカで人気が高い夏の競技(陸上、競泳、体操など)の決勝の開始時間をアメリカのゴールンタイム(午後8時)に持ってくるようにNBCがIOCにごり押ししたらどうなるか。日本とニューヨークの夏の時差は13時間だ。日本時間で午前9時、勤務時間帯だ。東京オリンピックなのに、「まともな時間」と国民は納得して見るのかどうか。(※写真はアメリカNBCテレビのオリンピック特集サイトから)

⇒20日(火)午後・金沢の天気   くもり

★「松林図屏風」の心象風景

★「松林図屏風」の心象風景

   これはまるで長谷川等伯の「松林図屏風」だ。クロマツの林が朝もやに覆われ、松林がかすんで見える。等伯はこの能登の風景の印象を京都で描いたのだろうと想像をたくましくした。ここは能登半島の先端、珠洲市の鉢ヶ崎海岸。けさ(17日)ホテルの3階から見える風景だ。砂浜が広がり、クロマツが防風林の役目を担っている。ただ、この朝もやに包まれたクロマツの林を眺めていて、なんとなくもの寂しさを感じるのだ。あの世をとぼとぼと独りで歩いているような寂寥感だ。

   国宝・松林図屏風を初めて鑑賞したのは2005年5月、石川県立七尾美術館だった。等伯が生まれ育った地が七尾だ。もとともこの作品は東京国立博物館で所蔵されている。七尾美術館が会館10周年の記念イベントとして東京国立博物館側と交渉して実現した。当時、国宝が能登に来るということで長蛇の列だった。東京国立博物館は俗称「トウハク」、等伯と同じ語呂だと話題にもなっていた。

   美術館では、学芸員の解説が面白かったので記憶に残っている。能登国は718年に成立した。その国府が七尾に置かれ、以降、政治的なガバナンスの中心として経済、文化も栄えた。町衆の経済的豊かさや文化的素地が後に桃山美術の画聖と讃えられる若き等伯を育んだのだろうということだった。能登を中心に絵師として活躍した時代、その画才を見込んだ町衆が寺院に寄贈した等伯の作品が今も多く保存されている。

   1571年、等伯33歳の時、養父母が相次いで亡くなり、それを機に妻子を連れて上洛した。京都に入り、本延寺の本山・本法寺のお抱え絵師になり創作活動に磨きをかける。後に本法寺住職となった日通上人と交友を深め、そのつながりで千利休との知縁が広がる。当時の堺は商業都市で、多くの文化人たちが集った。茶の湯の拠点でもあり、茶室には中国などの優れた軸が掛けられていて、等伯も作品に直に接し学ぶことになったことは想像に難くない。

   しかし、等伯の絶頂期に長男久蔵26歳が没する。妻もすでに亡くなっており、能登から連れてきた2人が亡くなった、その寂寥感はいかばかりだったろうか。松林図屏風が描かれたのは久蔵を亡くした翌年1594年、等伯56歳のときの作品といわれる。強風に耐え細く立ちすくむ能登のクロマツ、当時の等伯が心を重ねたのはこの心象風景だったのだろうか。

⇒17日(土)朝・珠洲市の天気   くもり

☆美女軍団の笑顔と漂着船の遺体

☆美女軍団の笑顔と漂着船の遺体

   韓国で平昌オリンピックが始まったが、スポーツの祭典がこれでよいのかといぶかる毎日だ。きょう13日、学食に行った。隣で、サークルの学生たちがワイワイと話している。北朝鮮の美女軍団がどうのこうの、金正恩労働党委員長の実妹の金与正氏の特使派遣がどうのこうの、と。男子学生が「今回のオリンピックは見え見えの政治ショーだよな」と。すると、もう一人の男子学生が「南北会談に文在寅大統領が平壌に招待されているけど、ドル札を持って返礼に来いということですよね」と。一瞬シーンとなった。少し間を置き、「なるほど」と別の男子学生。「で、どのくら持っていくのかな」と女子学生。「5億ドルくらいかな」と口火を切った男子学生。「美女軍団って、そんなに高くつくの・・・」と盛り上がっていた。

   日本海側の各地の海岸で北朝鮮の難破船がすさまじい勢いで流れ着いている。石川県だけでも、きょう羽咋市の海岸で木造船が1隻見つかった。今月11日にも加賀市の海岸で木造船が1隻、10日にも志賀町の海岸に2隻、9日にかほく市で1隻、7日に輪島市で1隻と、今月だけでも6隻が漂着している。1月には10日に7人の遺体が見つかった木造船が金沢市の海岸に、24日と28日に志賀町と羽咋市にそれぞれ1隻、計3隻が流れ着いている。ことしに入って石川県の海岸だけで9隻も、だ。船体にハングルと番号表記があり、船底が平らな同じ型の船だ。漁網などもあり漁船と推測される。船の大きさにもよるが、1隻に8人が乗っていたと仮定すれば72人の人命が失われている。すさまじい現実だ。

   安倍総理が9日、韓国・平昌で開かれた文大統領主催のレセプション会場で、北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長と言葉を交わしたと報じられている。拉致問題と核・ミサイル問題に言及したとされるが、ついでに「日本海で無理な操業するから、多くの人民の命が失われている。漁を即中止するべき」と忠告すべきだったのではないか。

   先月17日、金沢市の安原海岸で7人の遺体が見つかった北朝鮮の漁船を見に行った=写真=。船の周囲にもう1人の遺体がみつかっていて、遺体は8人。現場にはハングル表記の菓子袋が落ちていた。漂流する船の中で8人で細々と分け合って食べたのだろうかなどと想像した。日々ニュースに流れる美女軍団の笑顔の陰で日本海に漂う大量の木造船と遺体。日本のマスメディアが世界に伝えるべきは、この北朝鮮のあからさまな現実ではないのか。

⇒13日(火)夜・金沢の天気    ゆき

★除雪ヨイトマケ

★除雪ヨイトマケ

   きょう11日は朝から町内一斉の除雪活動だった。市道なので除雪車は回ってこない。道路は30㌢ほどの高さの氷のように堅くなった雪道となっている。きのうからの雨で深い轍(わだち)があちこちにでき、そこに軽四の自動車などがはまって、動けなくなるケースが町内でも続出していた。デイケアなどの福祉車両も通るため、町内会では人海戦術で一斉除雪となった=写真・上=。

   問題はその雪の堅さだ。金属スコップで突いてもびくともしない。クワでも凍った箇所は割れない。そこで登場したのがツルハシ=写真・下=だ。先端を尖らせて左右に長く張り出した頭部が特徴。形状がツルの口ばしに似ているからそう名付けられたのだろう。鉄製で4、5㌔の重さはあるだろうか、これを振り上げて下に勢いよく降ろし、堅くなった雪道を砕く。もともと、ツルハシは堅い地盤やアスファルトを砕くために使われる。

   問題提起をする人がいた。「ツルハシを使ってもよいが、そのため道路がガタガタにならないのか」と。道路に直接打ち込めば、確かに道路が破損するかもしれないが、今回は凍った雪道を砕くことが目的なので、道路への打撃は少ないのではないか、ということで話がまとまる。

   ツルハシを誰が担当するのか。これを所有しているご近所さんは70歳を過ぎており、「ワタシにはちょっと重すぎる」と言われたので、私がツルハシを引き受けた。ツルハシは見たことはあるものの、作業は初めて。とにかくやってみた。大きく頭上に振り上げて降ろすときは全身を腰ごと下げる。すると、凍った雪がパカンと割れた。ブロックのサイズだが、きれいに割れた。周囲で見ていたご近所さんも「この人こんなことができるんだ」と言わんばかりにうなずいてくれた。うれしくなって2度目、今度はブロックが3つに割れた。「ひょっとしてオレにはツルハシの仕事は向いているのかしれない」と3度目。ご近所さんたちは割れた雪をスコップで、あるいは手で道路側面に積み上げていく。除雪作業のピッチが上がってきた。

   こちらも、ここまで来たら引けないので、どんどんとツルハシを振るう。「父ちゃんのためならエンヤコラ 母ちゃんのためならエンヤコラ もひとつおまけにエンヤコラ」。なんと『ヨイトマケの唄』を自ら声を出し歌っているではないか。「父ちゃんのためなら」でツルハシを上げ、「エンヤコラ」で一気に降ろす。ヨイトマケの唄はこの3節しか知らないので、それを繰り返している。歌うという意識はまったくなかったのだが、自然と口にしていたのが不思議だ。

    労働はリズム。そう思った。1時間30分ほどで片付いた。「おつかれさま」と一斉除雪は終わった。が、これで腰痛が出ないか、だんだん不安になってきた。

⇒11日(日)午後・金沢の天気  くもりときどきゆき

☆消雷装置のご利益か

☆消雷装置のご利益か

         先月(1月)10日、北陸放送と石川テレビ放送が共用する送信鉄塔施設=写真=で、落雷による火災が発生し、石川県内の一部地域を除く38万世帯で両社のテレビ放送が15時間も視聴できなくなるという事故が発生し、全国ニュースにもなった。現在も一部の世帯では 視聴できない状況が続いている。我が家でも雪が激しい降る日などはテレビ画面がブラックアウトとなる日がこれまで何度かあった。完全復旧に向けて遅くとも8月末までかかるようだ(北陸放送HPより)。

   今回の放送障害事象が放送法の重大事故に相当することから、両社は発生原因や再発防止策などを取りまとめ、きのう(9日)総務大臣あての報告書を北陸総合通信局に提出した。以下、報道各社が報告書の概要を伝えている。

       そもそも火災の原因は何だったのか。先月10日午後0時11分ごろ、鉄塔の高さ110-120㍍付近に雷が横から落ちたと推測されている。その際、鉄塔内で気中放電(スパ-ク)が発生して鉄塔内のケーブルが発火、火が徐々に上に伝わってアンテナや別のケーブルが焼け、電波が停止した。報告書はもう一つの火災の可能性があるとしている。高さ130㍍付近に落雷し、映像音声の受信装置(FPU)のケーブルに雷の電気が流れ、発火したというもの。消防署の調べでは、FPUの避雷器盤がもっとも激しく焼けていることが判明したが、火元は特定されていない。午後6時40分に石川テレビが停波、その後7時ごろに北陸放送も停波した。

   両社は再発防止策として、横からの落雷を防ぐ避雷針を設置する、監視カメラや煙感知器を設置する、ケーブルを燃えにくいものにする、などの対策を講じるとしている。

   先日(2月2日)テレビ業界の関係者から興味深い話を聞いた。落雷があった送信鉄塔と同じ金沢市観音堂町にテレビ金沢、北陸朝日放送、NHK金沢の3社が共用する送信鉄塔がある。同じ域内にあるテレビ鉄塔で被害があった、なかったの違いはどこにあるのかと。業界関係者は「それは消雷装置のおかげではないですか」と話した。初めて耳にした「消雷装置」とは何か。電気を通さない数十㌢の特殊なガラス管を避雷針に設置し、雷の原因となる大気中の電子の移動を打ち消す装置。金沢工業大学の教授が開発し、テレビ金沢の本社鉄塔で実証実験を経て、送信鉄塔に取り付けた経緯があるという。

   業界関係者は「落雷があった鉄塔に消雷装置が取り付けてあったかどうかは定かではないし、消雷装置がどこまで有効なのかは科学的には分からない。ただ、取り付けてある鉄塔にはこれまで雷の被害がなかったのは事実」と。この消雷装置は特許申請がなされている。

⇒10日(土)午後・金沢の天気   くもりのち雨

★木戸を開ければ、そこは南極

★木戸を開ければ、そこは南極

    きょう(9日)は雪降ろしのために屋根に上がった。天気予報ではあすは気温が10度まで上がり、午後からまとまった雨が降るという。雪国で生活する者の直感として不安感がよぎる。屋根に積もった大量の雪にさらに雨が降れば、どれだけの重さが家屋にのしかかってくることか、と。屋根の瓦には雪止めがしてあって、自然には落ちてこない。最近、隣人と交わす言葉も「(大雪に)家は耐えるかなと心配で」と。スコップで除雪し雪の重さの感覚を共有する者同士の会話ではある。

    1時間ほどだったが、屋根雪降ろしをして、今度は1階の土間に行く。土間の木戸がなかなか開かない。落とした雪が軒下に積み上がり、木戸を圧迫していているのだ。何とか木戸を開けると、背丈をはるか超える雪壁が迫っていた=写真・上=。2006年6月に、南極の昭和基地と金沢大学をテレビ電話で結んで、小中学生向けの「南極教室」を開催したことがある。そのときに、観測隊員が基地内の戸を開けると、雪が戸口に迫っていて、「一晩でこんなに雪が積もりました」と説明してくれたことが脳裏にあった。木戸を開けて、「南極や」と思わず声が出た。

    このままにしておくと、落雪の圧迫で木戸が壊れるかもしれない。そこで木戸と雪壁の間隔を30㌢ほど空ける除雪作業を行う。スコップで眼前の雪壁をブロック状に掘り出すのだ。木戸6枚分の幅を除雪するのにこれも1時間ほどかかった=写真・中=。除雪は楽しみや義務ではない。迫りくるダメージという、危機感との闘いなのだと改めて意識した。

    屋根に上がり、土間に降りての2時間の作業でひと休みした。昨年11月にベトナムで買い求めた「コピ・ルアク」のブレンドコーヒーを楽しんだ。コピ・ルアクはジャコウネコにコーヒーの実を食べさせ、フンからとった種子(豆)を乾燥させたものといわれる。湯気と同時にすえた動物の匂いが沸き上がる。これまで食後で楽しんでいたが、これが労働の後の休息で共感できる絶妙な風味であることに初めて気がついた。癒されるのだ。

    コーヒーを味わいながら、午後のNHKニュースを見た。政府関係省庁を集めた、記録的な大雪に関する警戒会議の模様が報じられていた。11日以降は冬型の気圧配置が強まって日本海側で再び大雪となる恐れがあり、小此木八郎防災担当大臣が「不要不急の外出を控え、やむをえず車で外出する場合にはタイヤチェーンを早めに装着するなど、改めて大雪への備えをお願いしたい」と呼びかけていた。タイヤチェーン以前に各家庭の車が雪に埋まって動かせない現実=写真・下=を直視してほしいものだと思った。この後、自宅ガレージ前の道路の除雪に1時間ほど費やした。

⇒9日(金)夜・金沢の天気   はれのちくもり

☆ホワイトアウトの屋根雪降ろし

☆ホワイトアウトの屋根雪降ろし

    この強烈な寒波で交通インフラなどガタガタになった。これに連鎖してきょう7日は石川県内の公立の小中高校は232校が休校となった。3校に2校が休校となった計算だ。金沢大学も昨日は途中休講、きょうは全面休講だ。いつもなら児童・生徒の声でにぎわう自宅近くの通学路も日曜日のように静かだった。ただ、8時ごろから通勤の大人たちが通りに目立った。マイカーやバスではなく徒歩で急ぐ様子だった。

    山間地よりむしろ平地に大雪が降る降雪パターンのことを「里雪型」というらしい。初めて聞く言葉だが、テレビなどで気象予報士が使っていた。こう雪が多いと、除雪にあたるブルドーザーなど重機のオペレーターには頭が下がる。深夜、早朝関係なく出動して交通インフラの復旧に奔走しているのだ。雪国の持続可能性とは閉ざされた生活空間でいかにじっと耐えて暮らすかではなく、自然の猛威にいかに柔軟に対応して生活インフラを速やかに復旧させるかだろう。

    我が家の屋根に積もった雪は70㌢ほどになっている。雪の重みでミシリ、ミシリとかすかな音が聞こえる。けさ7時半ごろ、晴れ間がのぞいたのでスコップを持って屋根に上がって雪下ろしをした。大屋根ではなく、2階の屋根だ。2006年1月にも屋根雪降ろしをしているので実に12年ぶりだ。屋根で怖いのは予期せぬ突風。平地ではそれほどではない風も、屋根に上がるとまともに受ける。2度ほどぐらついた。

    そして、屋根から下を眺めると、視界全体が真っ白になって空間と地面との見分けがつかない=写真=。まるでホワイトアウトの世界なのだ。屋根雪降ろしは1時間ほどで切り上げた。深入りすると屋根雪ごと下に滑り落ちることもあるからだ。

    それにしても、この大雪で強さを発揮しているのが、北陸新幹線だ。きょう始発から平常運転しているのだ。JR北陸線は終日での運転見合わせ。小松空港を発着する国内線のすべての便で欠航。国道8号線の車の立往生は福井県側では420台、石川県で1.5㌔の区間で100台が動けなくなっているとテレビニュースで報じられている。北陸新幹線は別格だ。

     もう一つ強さを発揮しているのが新聞配達だ。朝刊2紙を購読しているが6時までには配達されている。雨の日、雪の日、風の日、すべての自然の猛威に柔軟に対応しながら届けてくれる。重機のオペレーター同様、社会が持続可能であることを下支えしているのはこうしたプロフェッショナルな人たちなのだと改めて感じ入る。

⇒7日(水)午後・金沢の天気   ゆき

★強烈寒波JPCZ

★強烈寒波JPCZ

   きのうからの寒波は強烈だ。金沢でもきょう6日午後6時で70㌢を超える積雪となっている。金沢大学ではこの大雪のため、きょう2限目以降とあすの全ての講義がすべて休講となった。通学路となってる県道の除雪などが間に合わずバスなどが時間通りに動いていないからだ。公的な施設でも閉鎖されるところが多く、個人的にあす予定していた打ち合わせを後日に延期した。また、幹線道路でも凍結でアイスバーン状態になり、車同士の接触事故などが多発している。コンビニに入ると、「大雪のため商品の入荷が遅れ申し訳ありません」と貼り紙があり、パンや弁当、惣菜の商品棚がガランとしている。庭木がすっぽり雪に覆われ、雪吊りが施されていない樹木は枝折れになるだろう=写真=。

    気象庁のHPなどによると、西日本から北陸にかけての上空1500㍍付近に、氷点下12度以下という数年に1度の非常に強い寒気が流れ込んでいる影響で、発達した雪雲が流れ込んでいるようだ。シベリア東部に蓄積していた寒気が北西の強い季節風の影響で北陸など西日本の日本海側にかかり、居座り続けている。さらに朝鮮半島の北側で分かれた風が日本海でぶつかり、雪雲を流れ込ませる風が集まっていると。初めて目にした言葉だが、これを「JPCZ(Japan sea Polar air mass Convergence Zone)」=「日本海寒帯気団収束帯」と呼ぶそうだ。

    金沢市内の積雪70㌢は平成に入ってからでは平成13年の88㌢に次いで2番目に多い。今晩もしんしんと雪は降り続いていて、あすは平成13年の雪を超えそうだ。福井市では午後6時現在で129㌢となり、37年前の「五六豪雪」(昭和56年)以来の記録的な大雪になっていると、テレビの全国ニュースになっていた。大雪による車の立往生などで、福井県内の国道8号線は坂井市とあわら市の間およそ10㌔の区間で、乗用車やトラック1500台余りが動けない状態になっている。

    冒頭で述べたコンビニでの話。店員に「入荷のメドは立っているの」と尋ねると、「まったく立っていません」と。続けて「金沢市内のコンビニはどこもウチと同じですよ。それより何より、お客さんがとにかく大量買いされて行かれます」。確かに周囲の買い物客の中にはかご一杯に商品を入れている。大雪という危機感を察知すると食料をストックすることに人間の本能として走るのだろう。ガソリンスタンドでも車が列をついているのをみかけた。このJPCZが長引くとガソリンもストップするかもしれないと考えるのだろう。強烈寒波は人間の生存本能を揺さぶっている。

⇒6日(火)夜・金沢の天気    ゆき

☆身に降りかかる「断水問題」

☆身に降りかかる「断水問題」

           先月30日付のブログ「☆過疎化と断水問題」で、冬場の凍結で能登地方は断水に見舞われた世帯が1万もあり、空き家で水道管が破裂しても対策が取りようがなく、空き家が多い地域では断水が深刻でこの問題はまさに過疎化問題だ、と述べた。きょう2日、まさに断水問題が我が身に降りかかってきた。

    メールで連絡があった。「お世話になっております。かあさんの学校食堂の泊さんに確認をとったところ、2月6日火曜日のお弁当の準備が出来ないと連絡がありました。(穴水町)甲地区は水道管凍結・漏水による断水の復旧が未だに遅れており、完全普及には2~3日かかる見通しです。また復旧してもすぐに飲料水(食用)に使えないため、今回の件はキャンセルをお願いしたいとのことでした。事情をご賢察のうえ、ご了承いただきますようお願いいたします。」

    今月5日と6日に世界農業遺産「能登の里山里海」をテーマに研究者交流のスタデイツアーを実施することになっている。6日の意見交換会の会場となっている穴水町の施設のスタッフに昼食の弁当の手配を依頼した。スタッフが弁当の配達をお願いした主婦グループ「かあさんの学校食堂」は甲(かぶと)地区の廃校になった小学校校舎を活動拠点にしているが、現在断水が続いていて、一両日中に復旧したとしても、すぐには飲料水としては使えない可能性があり、グループから注文をキャンセルさせてほしいと連絡があったと、メール連絡をくれた。

    メールを受け取り即座に電話をかけた。スタッフは自分たちの生活水(食事、飲料など)を確保することが優先されていて、注文を受ける余裕がない状態と。「ほかに弁当を作ってくれる仕出し屋などありませんか」と尋ねたが、状況はどこも似たり寄ったりとのこと。断水問題の深刻さを改めて思い知らされた。

    さらにツアーを開催する5日と6日は、ウエザーニューズ社HPによると、「上空に非常に強い寒気が流れ込み、日本海側では大雪に警戒が必要。4日(日)~6日(火)にかけてが寒気のピーク」と呼び掛けている。断水が長引く可能性もある。だからと言ってツアーを中止するわけにもいかない。関係者と相談し、「6日はコンビニに立ち寄って、参加者(20人)がそれぞれで昼食を買い求めましょう」となった。少々安易な結論なのだが、コストのことも考えてそのような結論に。何とも恨めしい断水問題ではある。

⇒2日(金)午後・金沢の天気   はれ