#コラム

★この冬の覚え書き

★この冬の覚え書き

     それにしても、3月中ごろになった今でもこの冬の豪雪が話題になる。「庭の雪がまだ融けないね」「雪で庭木の枝が折れたよ」「雪すかしで折れたスコップはどう処分すればいいのか」といった金沢に住む仲間たちとの会話だ。

     1月と2月に強烈な寒波が3回やってきた。交通インフラなどガタガタになった2月7日、石川県内の公立の小中高校では3分の2に当たる232校が休校となった。金沢大学でも全面休講となった。自宅前は通学路なのだが、子どもたちの姿はなく、代わって通勤の大人たちが通りに目立った。マイカーやバスは通勤に使えず、徒歩で急ぐ様子だった。11日は朝から市内で一斉の除雪活動が行われた。自宅前の道路は30㌢ほどの高さの氷のように堅くなった雪道となっていたので、ツルハシで雪道を砕いた。

    なにしろ自宅周辺でも一時積雪量が150㌢になった。この雪で、雪吊りを施してある庭の松の枝が一本折れた。先日(3月11日)造園業の職人さんに来てもらって、雪吊りを外すための打ち合せをした。「雪吊りの松の枝が折れるほど大雪は初めてだった」と話すと、職人さんは「まだいい方ですよ。幹が折れたお宅もありますよ」と。折れた木の伐採と植え替え、剪定など豪雪の後始末で植木職人はこの春とても忙しいようだ。

    雪すかしでスコップを酷使したせいか、この冬で計3本折れた。3本とも強化プラスチック製で耐久性があると思って購入したのだが、柄とスコップ面の結節個所がもろくも。先月8日にスコップを買いに日曜大工の量販店に行った。すると「除雪用品は完売しました」と貼り紙がしてあった=写真=。こちらは必要に追われて買い求めに来たのに「完売しました」とさもうれしそうな文面はいかがなものかと思いながら、店員に尋ねた。「で、入荷はいつなんですか」と。すると店員は「全国的に品切れ状態のようで、いつになるかメドが立っていません」とこれまたニコニコと。こちらは困っているのに、店員の顔の表情にTPO(Time、Place、Occasion)が感じられない。

    「完売しました」もそうだ。「品切れでご迷惑をおかけしております」ならば角は立たないのにと思いながら店を出た。4時間後、別の商品を買いに再びこの店を訪れたところ、スコップが入荷していて、人だかりになっていた。運よく1本購入できたが、「入荷のメドがないと言っていたではないか」と再び割り切れない気持ちで店を出た。

    北陸豪雪は、家屋倒壊やアイスバーンの道路での転覆事故が相次ぎ、乗用車1000台が連なるなど全国ニュースになった。経済にも影響を与えている。きのう12日、北陸財務局が発表した「北陸3県の法人企業景気予測調査」によると、1-3月の景況判断指数(BSI)が非製造業でマイナス11に大きくぶれた。物流の滞りや宿泊予約のキャンセルが相次いだことが要因で、豪雪の影響力をまざまざと見せつけられた。

    スコップ3本、松の枝1本を折って、個人的に冬は終わり。庭の雪解けもあと少し。三寒四温で春本番を待つ。

⇒13日(火)午前・金沢の天気     はれ        

☆「7選も最低投票率」「4選も67票差」どう読むか

☆「7選も最低投票率」「4選も67票差」どう読むか

    石川県知事選、そして輪島市長選がきのう11日、投開票が行われ、知事選は現職の谷本正憲氏が7回目の当選、輪島市長選は現職の梶文秋氏が4選を果たした。選挙はなんと言っても数字がすべてを物語る。結論から言う、知事選の投票率は過去最低の39.07%、輪島市長選は67票差の勝利だった。これを数字的にどう読むか。

    全国最多となる7選を果たした谷本氏の当選確実は投票が締め切られた午後8時00分、ほぼ同時にテレビ各社が選挙速報が打った。「石川県知事選 谷本正憲氏の当選確実」と。テレビ各社は投票段階で出口調査(投票所の出口で、投票を済ませた有権者に誰に入れたか記入してもらう)のデータを得て、2位の候補者と10ポイント以上の開きがあることを「基準」に速報テロップを流す。今回の知事選では、現職の対抗馬は無所属の新人で、共産党が推薦する候補者だった。開票結果を見ても、現職谷本氏は28万8531票、対抗馬の候補者は7万2414票、圧勝だった。

    ただ、投票率は過去最低の39.07%だった。とくに、金沢市の投票率は30.68%、隣接の野々市市は30.36%と両市がダントツに低い。金沢市の場合は県議補選もあり、投票の「相乗効果」が期待されたにもかかわらずである。天気も時折晴れ間ものぞき、選挙には決してマイナスではなかった。では、なぜ過去最低の投票率となったのか。現職の多選批判もあったかもしれないが、そんな単純な話でもない。なにしろ、過去最低の投票率でも現職は前回(2014年)より得票数を3300票伸ばしているのだ。

    市町別の投票率を比べてみると、全体に前回より4ポイントほど投票率を落としている市町が目立つが、7ポイント下がったのは金沢市、野々市市、かほく市、津幡町、内灘町だ。この5つの地域には共通項がある。それは、大学や短大、高専が立地している地域だということだ。選挙権を20歳から18歳に引き下げたのが2016年。それ以降、今回は初めての知事選。有権者数も前回に比べ1万7千人増えて95万人になっている。

    以下は憶測だ。投票率を下げた原因は、18歳、19歳の棄権率が高かったからではないか。とくに、県外からの学生たちにとっては現職の名前すらも知らないとう学生が多いのではないだろか。学生層にとって知事選は皮膚感覚として離れているかもしれない。自分がその身だったら果たして投票に行っただろうか。きのう午後、投票場に出かけたが、確かに若者らしき姿を見かけなかった。県選挙管理委員会による今回知事選の年代別投票率のデータ公開が待たれる。

    輪島市長選もデータとして興味深かった。市長選の投票率は69.92%だった。同市の知事選の投票率も70.16%と市長選と知事選の相乗効果が表れている。4選を果たした梶氏は元市役所職員、対抗馬も元市役所職員。同市に住む知人から聞いた市長選の下馬評は梶氏の圧勝だった。「なにしろ市会議員17人のうち12人が現職を担ぎ、対抗馬を支持しているのは1人だよ」と。そう聞かされていたので、テレビの速報テロップも知事選に次いで流れるだろうと予想していた。が、なかなか出ない。それもそのはず、現職8389票、対抗馬の候補者は8322票でわずか67票差。テレビ各社が梶氏当選の速報を打ったのは午後11時40分。わずかな票差のため、テレビ各社は票が確定するまで速報は打てなかったようだ。

    大接戦となった理由は何だったのだろうか。産業廃棄物処分場問題がくすぶっているのかもしれないと考えた。昨年2月19日に同市門前町大釜地区で計画されている産業廃棄物処分場の建設の是非をめぐり、住民投票が行われたが、投票率は42.02%で規定の50%を下回り投票は不成立となった。住民投票をめぐって、建設推進の市議らが「棄権」を呼びかけた経緯があり、当時「投票の自由を妨げる」と一部住民側から問題視する声が出ていた。梶氏はこの不成立の結果を受け、その後粛々と処分場の受け入れを進めている。

    そうした経緯での今回の市長選だった。対抗馬の候補者は「業廃棄物処分場は負の遺産だ」と訴えていた。薄氷の勝利であろうと選挙の勝ち負けははっきりしている。が、産業廃棄物処分場問題の根深さが噴き出した。そんな開票結果ではなかったか。

⇒12日(月)午後・金沢の天気    はれ

★3・11 あれから7年

★3・11 あれから7年

  「3・11」、私はその時、大学で社会人向けの公開講座で講義をしていた。「東北にでかい地震が起きて、津波も来るらしい」と事務スタッフが講義室に入ってきて、耳打ちしてくれた。講義を中断して、受講生にその旨を伝えると騒然となった。講義を早めに切り上げた。自身も震災のことが気になって仕方がなかったからだ。

  その脳裏にあったのは前年(2010年8月)、「能登里山マイスター」養成プログラムの講義に能登に来ていただいた畠山重篤氏(気仙沼市)のことだった。講義のテーマは、「森は海の恋人運動」だった。畠山氏らカキの養殖業者は気仙沼湾に注ぐ大川の上流で植林活動を1989年から20年余り続け、約5万本の広葉樹(40種類)を植えた。この川ではウナギの数が増え、ウナギが産卵する海になり、「豊饒な海が戻ってきた」と畠山氏はうれしそうに話していた。畠山氏らが心血を注いで再生に取り組んだ気仙沼の湾が「火の海」になった。心が痛む。畠山氏らの無事を願っていた。

  ちょうど2ヵ月後の5月11日から3日間、宮城県の仙台市と気仙沼市を中心に取材した。震災から2ヵ月にあたりということで、各地で亡くなった人たちを弔う慰霊の行事が営まれていた。気仙沼市役所にほど近い公園では、大漁旗を掲げた慰霊祭があった。大漁旗は港町・気仙沼のシンボルといわれる。震災では漁船もろとも大漁旗も多く流されドロまみれになっていたものを市民の有志が拾い集め、何度も洗濯して慰霊祭に掲げられた。この日は曇天だったが、色とりどりの大漁旗旗は大空に映えた。

   その旗をよく見ると、「祝 大漁」の「祝」の文字を別の布で覆い、「祈」を書き入れたものも数枚あった=写真=。おそらく、市民有志がこの大漁旗の持ち主と話し合いの上で「祈 大漁」としたのであろう。漁船は使えず、漁に出たくとも出れない、せめて祈るしかない、あるいは亡き漁師仲間の冥福を祈ったのかもしれない。持ち主のそんな気持ちが伝わってきた。午後2時46分に黙とうが始まった。一瞬の静けさの中で、祈る人々のさまざま思いが交錯したに違いない。被災者ではない自分自身は周囲の様子を眺めそう思いやるしかなかった。

   公園から港方向に緩い坂を下り、カーブを曲がると焼野原の光景が広がっていた。気仙沼は震災と津波、そして火災に見舞われた。漁船が焼け、町が燃え、津波に洗われガレキと化した街だった。リアス式海岸の入り江であったため、勢いを増した津波が石油タンクを流し、数百トンものトロール漁船をも陸に押し上げた。以前見た関東大震災の写真とそっくりだ。「天変地異」という言葉が脳裏をよぎった。

   畠山氏とアポイントを取らずに出かけ、自宅を訪れると「さきほど東京に向かった」とのこと。行き違いになった。そこでアポをとっていただき、翌日12日朝、仙台駅から新幹線で東京駅に。八重洲ブックセンターで畠山氏と二男の耕氏と会った。畠山氏は津波で母を亡くされた。コーヒーを飲みながら近況を聞かせていただき、9月に開催するシンポジウムでの基調講演をお願いした。その時に、間伐もされないまま放置されている山林の木をどう復興に活用すればよいか、どう住宅材として活かすか、まずはカキ筏(いかだ)に木材を使いたいと、長く伸びたあごひげをなでながら語っておられたのが印象的だった。

   あれから7年、この間能登に2度来ていだき講演や講義もしていただいた。先日(3月3日)のNHK-ETV特集「カキと森と長靴と」で畠山氏がモノローグで語るドキュメンタリー番組が放送された。海は自らの力で必ず回復すると信じて養殖再開に挑む姿がそこにあった。津波という災害をもたらした海、生業(なりわい)の再興をかける海。「海との和解」、そんな畠山氏の思いを語りから感じた。

⇒11日(日)午後・金沢の天気   くもり

☆潮目は変わったのか

☆潮目は変わったのか

       アメリカのトランプ大統領の8日付の公式ツイッター=写真=そのものがリアルな国際政治だ。「金総書記は韓国代表に凍結だけでなく、非核化についても話した。また、この期間中の北朝鮮によるミサイル発射もない。大きな進展が見られるが、合意に至るまで制裁は続く。会議が計画中だ!」

   「凍結」は核開発の凍結、「合意」とは非核化の正式な合意、「最大限の圧力」とは国連の経済制裁による最大限の圧力のことだろう。このツイッターを素直に読めば、トランプ大統領は「オレは戦わずして勝った!」と誇示しているように思える。

   9日付の韓国「朝鮮日報」の電子版は、韓国の特使が8日、アメリカのトランプ大統領に北朝鮮の金正恩労働党委員長からの親書を手渡し、「金委員長は非核化の意思を持っている」と伝え、これに対し、トランプは5月までに金委員長と会う意向があると述べた、と伝えている。トランプ氏あての親書には、1)北朝鮮の非核化意思に関する内容、2)核とミサイル実験を中止するという内容、3)トランプ大統領と早期に会談を希望するという内容などが書かれているという。トランプのツイッターの文と、朝鮮日報の記事は一致するので、双方の内容には信憑性を感じる。

    また、朝鮮日報の記事で「米韓の軍事演習が継続される必要があることを理解している」とあることに疑問符がついた。軍事演習に関しては、最近まで北朝鮮の朝鮮中央通信は「南北関係改善の流れを必死に遮ろうとしている」(2月2日)とアメリカを非難していたではないか。

   国際政治の潮目が変われば、さまざまに逆転現象が起きる。南北首脳会談の合意(6日)を受けて北朝鮮リスクが後退したことから、機雷など生産する防衛関連株で知られる石川製作所(本社・石川県白山市)の7日の株価はストップ安(マイナス500円)となった。きょう9日も261円安、11%下げの2130円で引けた。北朝鮮に絡む懸念が後退するとともに、売りが膨らんでいる。昨年10月16日に4205円(終値)をつけていたのでほぼ50%の下落となった。

   この防衛関連株の様子を見れば、いわゆる「地政学的リスク」が弱まったということだろうか。一方で、毎日のように日本海側の海岸線に北朝鮮の木造漁船が漂着とのニュースが伝えられている。6日に石川県輪島市に漂着した船は全長4.5㍍、幅2.2㍍の小船だ。乗組員や遺留品は見つかっていない。こんな小船を冬の日本海の荒波に駆り出す北の政治体制はいったいどうなっているのか。北朝鮮沿岸の日本海漁場での操業権を中国漁船に売り、結果として北朝鮮の漁船は沿岸から遠く離れた漁場に駆り出されているとも伝えられている。

   平昌冬季オリンピックの南北合同参加をきっかけとした潮目の変わりで果たしてどれだけ北の危機を緩和できるのだろうか。現実に朝鮮半島の危機はより深まっているのではないか。木造漁船の漂着は「大量の難民船」の予兆ではないかの。日本海を眺めているとそんなことを考える。

⇒9日(金)午後・金沢の天気  あめ

★美女軍団がチアガールだったら

★美女軍団がチアガールだったら

   「既視感(きしかん)」という言葉をよく使う業界はテレビ業界ではないだろうか。これは私の経験でもあるが、ディレクターが番組を制作する際、過去の映像がよく出てくると、「既視感があるよね。別の映像に差し替えができないか」などとプロデューサーが注文をつけることがある。この既視感という言葉はもととも心理学用語のようだが、テレビ業界では、同じシーンが出てきて新味がないので視聴者の心象に残らない、との意味で使わる。

    最近のテレビ映像で自身が既視感を感じたのは、平昌冬季オリンピックでの、例の北朝鮮の美女軍団の応援風景だった。2005年9月に韓国・仁川で開かれた陸上アジア選手権での応援を初めてテレビで見た。体を左右にリズムよく動かす一糸乱れぬ動作、統制された笑顔、このシーンは当時世界中で話題になった。これが「北朝鮮らしい応援」との印象が残っていた。今回の平昌での応援もまったく同じ、既視感が漂った。ただ、美女軍団が一斉に着けた、謎の男子の面のシーンは新味があった。

    平昌での応援シーンを見て、多くの視聴者は「北朝鮮は相変わっていない」と印象を持ったのではないだろうか。「相変わっていない」という意味は、美女軍団の応援ぶりだけでなく、支配体制そのものも変わっていないというマイナスイメージである。その既視感もさめやらぬうちに、今度は「4月の南北首脳会談」のニュース=写真=が6日、世界に流れた。すると、このトップニュースもどうしてもマイナスイメージで伝わる。「北朝鮮が一番脅威に感じているのはトランプ大統領に違いない。アメリカの軍事力行使をなんとか防ぐために文在寅大統領を巻き込んで、対話だ対話だと言っているのだろう」と。

    思い付きだが、オリンピックでの美女軍団のイメージをがらりと変えていれば、上記の南北会談のニュースも読み方が変わったかもしれない。応援がたとえば、チアガール(リーダー)のスタイルだったらどうだろう。「へぇ、北朝鮮も変わったな」と好感を持って世界のトップニュースに伝えられたに違いない。そして、メディアは「これはアメリカに対する強い友好のメッセージに違いない」と米朝会談への期待が一気に膨らんだことだろう。

    現実は、南北首脳会談への期待は薄い。そこで提案されるであろう米朝会談では、北朝鮮が直接アメリカと「核対話」の用意があると報じられている。北朝鮮は核保有を認めろとアメリカに主張して意見は平行線、それを既成事実化して核保有国への道を突き進む。そんなシナオリだろう、と。「ひょっとして、米朝首脳会談が北とアメリカの中間点の東京で開催されるかも。でも、それはいかがなものか」とまた考え込んでしまう。

⇒8日(木)朝・金沢の天気    あめ

☆大学の存在価値、それは

☆大学の存在価値、それは

    大学に勤めて12年目になる。いろいろな場面でこれまでよく質問された。「地域における大学の存在価値ってなんだと思いますか」と。私はもともと民間のマスメディアにいたので、あえてそのような言葉を投げかけてくれたのだと思っている。最初は正直言って言葉に詰まった。しかし、12年にもなると応えなければならない。

    「そうですね。私は金沢大学で地域連携コーディネーターという役割を担って12年目になります。この石川という地域を一つの価値ある研究フィールド、あるいは教育フィールドとしてとらえ、地域を活用して大学の研究力、教育力を伸ばしていく、そして、それを地域にお返ししていくことで地域の解題解決をはかる、あるいは新たな産業を興す技術を提供する。そのようなことが大学の使命、ミッションだと考えています」と。

    偉そうに聞こえるかもしれないが、地域に大学のリーダーシップというものがなければ、次の時代に地域はなくなるのではないかと考える。大学の研究力や教育力を上げるためにも地域連携や社会貢献が必要なのだと考える。社会は大きく変化してきている。たとえば、地域が人口減少や高齢化という問題に直面して、北陸では多くの市町は「消滅可能性都市」とまで言われている。社会の変化や技術の進歩など時代が大きく変化しているにもかかわらず地域が対応できていなかったということになる。むしろ、さまざまな課題に大学がイニシアティブを発揮できなかったということに等しい。

    地域の未来像を描きながら、大学が真剣に地域とタイアップすることが今ほど求められている時代はない。こんなランキングがある。日経新聞が発行する「日経グローカル」で発表された「大学の地域貢献度ランキング2017」で、国公私立大学の総合1位は大阪大学だった。同大学は文部科学省の「世界トップレベル研究拠点プログラム」(WPI)にも採択された屈指の研究大学だ。その大学が、研究だけでなく地域貢献においても、確実な成果を挙げているのだ。関西における存在価値として、多様な人材養成、世界的な研究そして地域との連携を深めている。見習いたい。ちなみに金沢大学は総合6位だった。
    
    根っ子にもう一つ大きな問題がある。大学の価値は教育力や研究力、専門性なのだが、一般的な評価はまったく異なる。その基準は偏差値が目安になっている。そして学生たちは3年も終わりになれば、就活が始まる。リクルートスーツに身を包んで会社の人事部の門をたたく。4年間の学びがいつの間にか3年間に「短縮」されている。日本の大学の在り様は果たしてこれでよいのかと考え込んでしまう。

⇒6日(火)夜・金沢の天気    くもり

★「核ありきの統一」

★「核ありきの統一」

     ニュースを視聴してずっと気になっていたフレーズがあった。先月ドイツで開催された「ミュンヘン安全保障会議」で、河野太郎外務大臣が「北朝鮮は朝鮮半島再統一の野心があり、目的達成のために核兵器を重要な手段と考えている」と発言(2月20日付・朝日新聞デジタル)がそれだ。フレーズを読めば核兵器で韓国を揺さぶって統一を狙う、だ。それだったら、わざわざ平昌での冬季オリンピックに美女軍団を派遣する必要もない。このフレーズの意味がよく理解できなかった。一度気になると、何かの折に繰り返し脳裏をよぎってくる。その回答を得た気分になったのが、今朝届いたニュースレター「大前研一 ニュースの視点」だった。

     同じことを大前氏も感じていたのだと思いながら興味深く本文を読んだ。大前氏の結論を先に述べると、「文在寅大統領が目指すのは、韓国が核保有国になるための半島統一」と述べている。確かに、韓国も北朝鮮もは様々な場面で「南北統一」ということに触れている。両者の共通狙いについて、大前氏は「北朝鮮と統一した結果、韓国が核保有国になれるからです。韓国が核保有国になることは、米国が強く反対するため、普通には実現することができません。ところが、核を保有したままの北朝鮮と統一すると、まるで裏口入学のような形で韓国は核保有国の仲間入りを果たせるのです」と述べている。

     韓国で核兵器の保有論は一定の支持を得ている。韓国ギャラップの調査(2017年9月5-7日、1004人対象)では韓国の核保有に賛成する意見は60%で、反対は35%だった(2017年9月9日付・産経ニュース電子版)。その一方、アメリカによる対北先制攻撃には59%が反対で、賛成は33%にとどまり、北朝鮮が戦争を仕掛ける可能性は58%が「ない」とし、「ある」(37%)を上回った(同)。

     文大統領は、冬季オリンピックでの外交成果を軸に北朝鮮と交渉を続けるだろう。北朝鮮の非核化を前提としての交渉ではなく、「一国二制度」のような構想を互いに模索するのかもしれない。そうすれば、韓国にとって在韓米軍や米韓軍事演習も不要となる。さらに核保有国として、近隣諸国に睨みを効かせることができる。「いつの間にか韓国は核保有国」のシナリオで描いているのでないだろうか。

     北朝鮮にとってもメリットは大いにあるだろう。国連安保理の強烈な経済制裁がこのまま続けば核兵器の開発どころか国家体制が持たない。アメリカによる「斬首作戦」「鼻血作戦」といった先制パンチも現実味を帯びてきている。かと言って、核兵器開発をストップすればみすみす武装解除をするのと同じだ。むしろ韓国を抱き込んで統一を掲げながら核開発を進める。これは北朝鮮、韓国の目指す方向性として一致する。そんな文脈がニュースレターから読み取れた。

     「核なき統一」は日本もアメリカも国際社会も望むところだ。それが「核ありきの統一」ということが鮮明になった場合、アメリカはどう出るか、日本の外交スタンスもガラリと変わるに違いない。

⇒2日(金)朝・金沢の天気   くもり

☆箸袋から見える知事選

☆箸袋から見える知事選

     きょうから3月。朝から風が吹き荒れている。テレビのニュースによると、台風並みの強い風で、加賀・能登ともに瞬間最大風速は陸上で30㍍だ。落雷や竜巻への注意も必要と呼びかけている。この強風で、JR北陸線では大阪方面の特急サンダーバードと名古屋方面の特急しらさぎを全て運休するようだ。

     この冬の雪も異常だった。金沢市内の自宅周辺でも一時積雪量が150㌢になった。この豪雪で、せっかく雪吊りを施したのに、五葉松の枝が一本折れたほどだった。先日、関西に住む知人から大雪見舞いの電話があった。積雪150㌢の話をすると、知人は「金沢の積雪は最大86㌢と報道されていたよ。金沢でも場所によっては、福井よりすごいところもあったんだね」と驚いた。

     知人には「一里一尺」という言葉で説明した。金沢地方気象台が発表する積雪量は、金沢の海側に近いところにある同気象台での観測、山側にある自宅周辺とでは積雪の数値が異なる。山側へ一里(4㌔)行けば、雪は一尺(30㌢)多くなる、と。そして付け加えた。「3月になると雪が降らないと思ったら大間違い。きついダメ押しがある」と言うと、知人は「私は雪国には住めないな」と苦笑した。ただ、ダメ押しの雪を「名残り雪」と表現すれば、少し文学的にもなる。

     外は「豪雪、のち暴風」なのだが、静かなのが今月11日に投開票の石川県知事選挙だ。先月22日告示され、共産党推薦で元石川県労連議長の女性新人候補(65)と、社民党のほか自民、公明、民進各党の県組織から推薦を受け7選を目指す現職(72)の一騎打ちの構図。ただ、自宅周辺には選挙カーが回って来ていないのか選挙ムードが盛り上がっていない。

     ちょっとした話題はある。動画サイト「ユーチューブ」への投稿で広告収入を得る「ユーチューバー」が石川県知事選の選挙掲示板に自分の顔写真を貼った様子を撮影し投稿していたことがネットで炎上し、公職選挙違反違法や軽犯罪法違反の可能性もあると新聞やテレビでも報道された。この動画はすでに先月26日に削除された。ただ、顔写真は掲示板の候補者ポスターが掲示されていない枠内に貼られていたので、県選挙管理委員会は特定の候補者を妨害するものではないとしている。このユーチューバーは県内に住む19歳の男性で、なんとチャンネル登録者216万人を有するプロだ。

     もう一つ選挙関連ネタを。きのう(28日)、自宅周辺のコンビニ「セブンイレブン」でおにぎりや野菜サラダを買った。箸がついてきた。その箸袋にはなんと「石川県知事選挙 投票日 3月11日」と書いてあった=写真=。選挙権は18歳からある。若者に投票を呼びかけようと選挙管理委員会がアイデアを凝らしたに違いないと想像を膨らませた。

     そこで県の選管に電話で尋ねた。「コンビニで知事選挙の投票日を記した箸がありました。石川県内の全部のコンビニで配布されているのですか」と。すると担当と名乗る職員は「こちら(県選管)でお願いして、箸をつけてもらっているのですが、セブンイレブンさんだけが引き受けてくれました」と。「なぜですか」と再度尋ねる。「ほかのコンビニさんは、つまようじがついていないからダメだとか言われまして…」と。確かに箸袋にはつまようじが入っていなかった。

     メディアでは「多選の是非が主要な争点」と知事選の特集を組んでいるが、対抗馬は共産の新人のみだ。選挙は盛り上がっていない。このままだと投票率は前回44.98%(2014年3月16日)を大きく下回ることは想像に難くない。むしろ「多選で必死なのは選管」、そんな現状が箸袋から見えてきた。

1日(木)朝・金沢の天気  風雨
     

★AI、ヤポネシア人、新幹線、ミンコフスキ

★AI、ヤポネシア人、新幹線、ミンコフスキ

   きょう(26日)一日の行動をキーワードで表現すれば、少々長ったらしいタイトルにあるように「AI、ヤポネシア人、メンデルスゾーン、新幹線」だった。行動範囲も広く金沢と東京の往復だった。

   午前9時46分、JR金沢駅から北陸新幹線「かがやき」に乗った。目指すは東京・品川にある日本マイクロソフト社。午後2時からの勉強会「AIと放送メディアの活用を考える」(主催・月刊ニューメディア)に参加するためだった。金沢大学での講義「マスメディアと現代を読み解く」「ジャーナリズム論」の科目を受け持っていて、AIとメディアのつながりの可能性について関心があり、参加を申し込んでいた。

   北陸新幹線での金沢駅から東京駅への所用時間は2時間28分。この時間を利用して、読みかけの本がカバンにあったので取り出した。『日本人の源流 核DNA解析でたどる』(斎藤成也著、河出書房新社)。著書は10年足らずの間に急速に蓄積してきた膨大な核ゲノム・データの解析結果を分析して、日本人のルーツを論じている。アフリカを出た人類の祖先はいかにして日本列島にたどりついたのか、縄文人や弥生人とは異なる集団が存在したのではないか、日本列島の民を「ヤポネシア人」と定義して、謎解きに挑んでいるのが面白い。

   午後0時20分、ぴったりに東京駅に着いた。品川の日本マイクロソフト社に向かう。品川駅の港南口を出ると同じようなビルが高層ビルが群立していて、とにかく場所が分かりにくい。近くの書店で店員に尋ね、「確か、向こうのビルです」と指刺された方向を歩く。オフィスはテレビや雑誌に取り上げられることも多く、TBSで放映された「安堂ロイド〜A.Ⅰ. Knows Love?〜」や「下町ロケット」で、企業オフィスシーンの撮影に使用されたことでも有名なのだが。

   午後2時00分、東京湾が一望できる31階で勉強会「AI(人工知能)と放送メディアの活用を考える」が始まった。東京大学大学院情報理工学系研究科 の山崎俊彦准教授が「AI研究と放送メディアへの応用」と題して講演が面白かった。番組(TV局、曜日、時間帯)、役者(俳優、女優)、スタッフ(原作、脚本、監督、主題歌など)、役者人気(検索、Twitter)などのデータをAIで解析すれば、放送前でも視聴率が予測できる時代なのだ。また、「AIジャーナリズム」を掲げて、SNSの画像をAIで解析してメディアに提供、さらに「AIアナウンサー」を提供している株式会社「Spectee」代表取締役の村上建治郎氏の話はとてもリアルだった=写真・上=。たき火と火災の写真の違いの判断、偽造写真をAIが分析する時代だ。そこで質問をした。「昨年正月にドイツのドルトムントでイスラム教徒の暴動で、教会に放火とのフェイクニュースが世界的に問題となった。フェイクニュースを摘発するAIを開発してはどうか」と。すると「実は、すでに着手・・」と話が広がった。

   午後5時24分、東京駅から北陸新幹線「かがやき」に乗った。読みかけの本『日本人の源流 核DNA解析でたどる』の続きを。「あとがき」の最後は「本書を、故埴原先生に捧げる」と締めくくられていた。もう40年余りも前の話だが、東京の学生時代に、人類学者の埴原和郎氏の研究室を訪ねたことを思い出した。いきなり「君は北陸の出身だね」と言われ、ドキリとしたものだ。その理由を尋ねると、「君の胴長短足は、体の重心が下に位置し雪上を歩くのに都合がよい。目が細いのはブリザード(地吹雪)から目を守っているのだ。耳が寝ているのもそのため。ちょっと長めの鼻は冷たい外気を暖め、内臓を守っている。君のルーツは典型的な北方系だね。北陸に多いタイプだよ」。ちょっと衝撃的な指摘だったものの、目からウロコが落ちる思いだったことを覚えている。

   午後7時58分、金沢駅に着いた。「あと7分しかない」と年甲斐もなく駅構内を走った。金沢駅前の県立音楽堂で開催されているマルク・ミンコフスキ氏指揮のクラシックコンサートを聴くためだ。ミンコフスキ氏は現在フランス国立ボルドー歌劇場の音楽監督だが、こし9月からオーケストラ・アサンブル金沢(OEK)の芸術監督に就くことなっている。指揮する姿をぜひ一度見たいとS席を購入していた。ただ、東京で勉強会もあるので、3曲目のメンデルスゾーン交響曲第4番「イタリア」が始まる午後8時15分までに音楽堂に入る予定だった。

   ところが番狂わせが起きた。当初は①序曲「フィンガルの洞窟」(11分)、②交響曲「スコットランド」(38分)、③交響曲「イタリア」(27分)だった。休憩は午後7時55分-8時15分だった。前日の25日になって①序曲「フィンガルの洞窟」(11分)、②交響曲「イタリア」(27分)、③交響曲「スコットランド」(38分)に順番が入れ替わったのだ。したがって休憩は午後7時45分―8時05分と10分前倒しとなった。この知らせをOEKスタッフの知人から聞いて慌てた。金沢駅到着7時58分、演奏8時05分、「あと7分」と走ったはこのためだった。

   結果的に休憩時間も後にずれたので間に合った。ミンコフスキ氏のタクトを十分に楽しませてもらった。ちょっと印象的だったのは、服装だった。これまでのOEK音楽監督の故・岩城宏之氏や井上道義氏を見てきたので、指揮者はタキシ-ドというイメージだったが、ミンコフスキ氏は体にぴったりのこげ茶色のディレクターズウエアだった。年齢は55歳、丸肩で肉付きがよく幅広タイプの体格。指揮する後ろ姿は、言葉はふさわしくないかも知れないが、クマが起ち上って体を左右上下に動かし、タクトを振っているようなイメージでとても「おちゃめ」な感じがしたのは自分だけだろうか。

⇒26日(月)夜・金沢の天気    はれ

☆能登の里山里海マイスター、人材育成の10年

☆能登の里山里海マイスター、人材育成の10年

   金沢大学が能登半島の先端で取り組んでいる人材養成事業「能登里山里海マイスター育成プログラム」の卒業課題研究の発表会が来月3日に大学の金沢能登学舎(珠洲市三崎町)で行われる。受講生30人のうち21人が発表会に向けて仕上げの段階に入っている。卒論にチャレンジする受講生は30歳代前半で、キャリアも多彩だ。日系アメリカ人の女性は里山での農業を通した国際交流をプランニング、介護福祉士の男性は介護施設における園芸福祉活動をテーマに、弁護士の男性は「比較法の観点で見る日本林業再興のための考察~能登から変える日本の林業~」と題して、所有者が判明せず、境界不明など日本の森林の課題を諸外国の法律と比較しながら解決策を探る。

   同プログラムがスタートしたのは2007年、「能登里山マイスター養成プログラム」(科学技術振興機構「地域再生人材創出拠点の形成」補助事業)として5年間、2012年からはその後継事業として「能登里山里海マイスター育成プログラム」(大学と自治体の共同出資)を実施し、現在に至っている。今年11年目、これまで144人のマイスターを輩出。ここに来て、栄誉ある賞をいただいた。全国の大学や産業支援機関でつくる「全国イノベーション推進機構ネットワーク」による表彰事業「イノベーションネットアワード2018」で最高賞の文部科学大臣賞を受賞した。先日23日に東京で表彰式があった=写真=。

   評価されたのは、人材育成や移住者の定着促進に向けた取り組みを通して、過疎高齢化などの課題解決と向き合っているという点だった。表彰式の後、記念フォーラムが開催され、演台に立った。以下、能登里山里海マイスター育成プログラムの取り組みの概要を説明した。

                ◇

   金沢大学が能登半島で廃校となった校舎を活用して実施している里山里海マイスター育成プログラムはとても地味な活動ですが、高い評価をいただき、このような栄えある賞をいただけたこと、感謝いたしております。このプログラムはことし11年目に入ります。その継続性についてはポイントが4つあります。

   一つ目は、地域と大学が何のために連携するか、自治体や地域のみなさんと議論を深め、能登に必要な人材養成を継続してやっていこうという明確な方向性が打ち出せたことです。昨年からは、地場の金融機関とも連携するなど、人材養成のプラットフォームとして定着してきました。

   二つめは人材養成のカリキュラムの内容です。「大学でしかできないことを、大学らしからぬ方法でやろう」とのスタンスです。受講生には卒業するための課題研究を課しています。12分間のプレゼンテーションと論文の提出が必須です。これは社会人にとって自己啓発の場でもあり、それに耳を傾ける同じ受講生にとっては相互啓発の場ともなっています。マイスターの学びのプログラムはすべてオープンで行っており、地域の潜在的なクリエーターの発掘や、「ものづくりのマインド」をもった人材を呼び込むベースになっています。

   三つめは、受講生は社会人であり、それぞれ専門性をもっていて、卒業後も情報共有や技術共有のネットワークづくりが活発です。こうした修了生たちの動きは、能登に移住してくるIターンやUターンの若者を巻き込んで、地域社会にいろいろな化学変化を起こしています。

   最後四つめは国際的な評価です。2011年6月に国連の食料農業機関(FAO)から生物多様性や持続可能社会をテーマにした人材養成のカリキュラムについて視察があり、翌11年6月にFAOが「能登の里山里海」を世界農業遺産に認定するきっかけとなりました。さらに、このことが契機となり、2014年にフィリピンの世界文化遺産であるイフガオの棚田で、JICAの支援を受け、イフガオ里山マイスター養成プログラムを実施しています。昨年からは能登とイフガオのマイスター、あるいは自治体職員が米づくりやエコツーリズム、棚田のオーナー制度などをテーマにした技術的な交流も始まっています。

                  ◇

   人材育成プログラムのカリキュラなどの詳細については同行した准教授がプレゼンを行った。うれしかったのは、会場での講演を聞き、ぜひ3日の卒業課題研究の発表を聞きに能登に行きたいとのオファーを2件もいただいたことだった。

⇒25日(日)夜・金沢の天気   くもり