#コラム

★トランプの赤ネクタイ-下-

★トランプの赤ネクタイ-下-

    やはり、トランプ氏の赤ネクタイは「勝負ネクタイ」だったのか。71歳のトランプ氏が終始、34歳とされる金氏をリードしながら丁寧に対応する姿はまさに勝負師そのものだった。見方によっては、世間慣れしていない息子を諭すように教える老父という感じもした。ワーキングランチ前の記者に向かってのトランプ氏の言葉「Getting a good picture, everybody? So we look nice and handsome and thin? (みんな、いい写真を撮っているかい?かっこよく、細く見えてるだろう?)」。要は、金氏を細くかっこよく撮ってくれよと。ジョークではあるものの、金氏への気遣いだと見て取れた。

      共同声明に盛り込まれなかった「IAEAの査察」の今後      

    両者が署名した共同声明にはCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)の文言はなく、果たしてこれでよいのかと戸惑うものの、こうしたトランプ氏の振る舞いを見ていると、共同声明にある「Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.(2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む)」の下りは期待できるようにも思えてくる。

    トランプ氏の単独の記者会見でも「Chairman Kim has told me that North Korea is already destroying a major missile engine testing site that’s not in your signed document. (合意文書を調印した後に金氏から「北朝鮮は既に主要なミサイルエンジン実験場の破壊に取り掛かっている」と口頭で伝えられた)」と述べていた。金氏の非核化に向けたヤル気を察知したのかもしれない。

    だとすると、金氏が非核化への準備をしているのであれば、IAEA(国際原子力機関)による査察を共同声明として提案すべきでなかったか。すなわち、核が保管されている施設を申告させて場所を明確にする「特定査察」、そこに監視カメラを設置して、平和目的かどうかを監視する「通常査察」、そして、監視によって疑惑が出た場合には「特別査察」を行うことだ。トランプ氏は「IAEAの査察を受け入れれば、アメリカだけでなく国際社会も歓迎するよ。君はあすからヒーローになれる」とアドバイスすべきではなかったか。

    さらに、問題になると思ったのは、会談後の記者会見でトランプ氏がアメリカと韓国が行っている合同軍事演習を凍結すると発言したことだ。理由は「経費節減」のようだが、この会見を聞いて誰しもが、近い将来、朝鮮戦争の終結に合意し在韓米軍を撤収するのではないかと印象付けたに違いない。

    前回ブログの繰り返しになるが、韓国の文在寅大統領は在韓米軍撤収の動きと連動して「一国二制度」の半島統一に素早く動くのではないだろうか。一方で非核化へのプロセスは4、5年の中長期にわたると言われている。その間、核弾頭が存在すれば「いつの間にか韓国と北は核を共有している」という事態にならないだろうか。国際政治の舞台はいろいろイメージを膨らませてくれる。(※米朝首脳会談後、トランプ氏の記者会見を伝えるNHKニュース=12日午後7時25分)

⇒13日(水)朝・金沢の天気    あめ

☆トランプの赤ネクタイ-上-

☆トランプの赤ネクタイ-上-

       アメリカのトランプ大統領はやはり赤いネクタイだった。ズボンのチャック辺りまで長く垂らす、見慣れたスタイルだ。この赤いネクタイは「勝負ネクタイ」というより、平常心を保つための「落ち着きネクタイ」ではないのか。きょう12日午前、シンガポールで北朝鮮の金正恩党委員長の2人だけの会談に入る前のトランプ氏の姿を視聴した印象だ。

   その2人の会見の様子で気になった言葉は、金氏の「ここまでくるのは容易ではなかった。我々の足をひっぱる過去があり、誤った偏見と慣行が我々の目と耳をふさぐこともあったが、我々はそのすべてを乗り越えてここまで来た」と述べて笑みを見せたことだ。この「我々」とは金氏とトランプ氏の2人のことなのか、あるいは北朝鮮の国を指すのか。「我々」の解釈によって意味が全く違う。北朝鮮の国を指す場合は、相手(アメリカ)を罵っているように聞こえる。このフレーズ全体を聞けばやはり金氏の「我々」は北朝鮮の国を指す。ところが、トランプ氏は「その通りだ」と応じ、再度握手した。通訳を介しての対話なので、トランプ氏には「We」と伝えられ、金氏とトランプ氏の2人のことと解釈したに違いない。

       「朝鮮戦争の終戦宣言」と「核あり統一」の複雑化   

   2人だけの会談の内容については午後にトランプ大統領が記者会見するようだが、最近の米朝首脳会談の論調で気になることがある。それは「完全な非核化」と併せて「朝鮮戦争の終戦宣言」をトランプ氏サイドから打ち上がっていることだ。

   首脳会談で「完全な非核化」がこじれ、とりあえずの成果として「朝鮮戦争の終戦宣言」が優先した場合、この歴史的な対話は少々おかしな方向うのではないかと考え込んでしまう。というのも、終戦宣言となれば、次は南北の統一だろう。当面は一国二制度かもしれない。とすると、核を保有したままで半島統一となる可能性も出てくる。実際、日本と違って韓国では核兵器の保有論は一定の支持を得ている。韓国ギャラップの調査(2017年9月5-7日、1004人対象)では韓国の核保有に賛成する意見は60%で、反対は35%なのだ(2017年9月9日付・産経ニュース電子版)。

   韓国の文在寅大統領は、これまでの外交成果を軸に北朝鮮と交渉を続けるだろう。北朝鮮の非核化を前提としての交渉ではなく、「一国二制度」のような構想を互いに模索するのかもしれない。そうすれば、韓国にとって在韓米軍や米韓軍事演習も不要となる。さらに核保有国として、近隣諸国に睨みを効かせることができる。「いつの間にか韓国は核保有国」のシナリオで描いているのではないだろうか。それを国民も反対しないとなれば、なおさらである。

   「核なき統一」は日本もアメリカも国際社会も望むところだ。それが「核ありの統一」ということが鮮明になった場合、日本の外交スタンスもガラリと変わる。油断ならない。(※写真は米朝首脳会談の様子を伝えるTBSWeb版)

⇒12日(火)午前・金沢の天気     あめ

★米朝首脳会談への勘ぐり

★米朝首脳会談への勘ぐり

  いよいよ歴史に刻まれることになる米朝首脳会談が始まる。ただ、成果は出せるのだろうか。メディア各社の記事を読んでもその点ではぼかしが入っている。たとえば、会談の成果は北の非核化と安全の保証に関する合意文書の取り交わしだろうと想像するが、アメリカCNNのWebニュース=写真=をのぞいても成果予想が分からない。以下引用文。「Trump chases the ultimate deal at Singapore summit, but will Kim let him seal it? (トランプ氏はシンガポール首脳会議で究極の取引を追うけれども、キム氏はそれを封印するのではないか?)」

   会談で仮に金氏が非核化に応じたとしても、IAEA(国際原子力機関)による査察に応じるのだろうか。IAEAの査察(検証活動)はしっかりしている。核が保管されている施設を申告させて場所を明確にする「特定査察」、そこに監視カメラを設置して、平和目的かどうかを監視する「通常査察」、そして、監視によって疑惑が出た場合には「特別査察」を行う。このIAEAの検証活動を合意文書に盛り込めなければ、単なる口約束にすぎない。つまり、非核化は約束はするがIAEAの査察についてぼかす、あるいは逃げ切る。CNNの記事にある「封印」はまさにこのことだ。

   韓国の聯合ニュースのWebニュース(日本語版)は、金氏がシンガポールに到着したときの様子を伝えている。10日朝に平壌から3機の航空機が飛び立ち、正午すぎにシンガポールのチャンギ空港に到着した。1機は北朝鮮の輸送機(IL-76)で移動用の専用車のベンツや、移動式トイレを搭載してきたという。トイレは、排出物の状態から金氏の健康状態に関する情報が外部に漏れないようにするためだと記載されている。トイレの一件を疑ってしまう。「健康状態」というよりも、ひょっとしてもっと別なことがあるのではないかと。勘ぐり過ぎか。

   続いて、中国国際航空の旅客機ボーイング747、そして金氏の専用機「チャムメ1号」が到着した。金氏が乗っていたのは中国国際航空機の方だった。聯合ニュースは、専用機は旧ソ連が1963年に初飛行させた「イリューシン62型」で、老朽化が指摘される。これまで長距離飛行の実績もなく、金氏が「安全」のため専用機には搭乗しなかったとの見方もあると伝えている。ここで気がついた。金氏は5月8日に中国の大連を訪れ、習近平氏と会った。2人は3月25-28日に北京で会談をしたばかり。立て続けの訪中はどこか不自然と感じていたが、「主席がいつも乗っている航空機を貸してください」とお願いに行ったのか、と。これも勘ぐり過ぎか。

⇒11日(月)朝・金沢の天気   くもり

☆日本型移民政策

☆日本型移民政策

    最近金沢でも外国人の働き手が増えている。先日、近所の「auショップ」に行くと、「イラッシャイマセ」と声をかけてきた男性スタッフがいた。聞けばネパール人でこの4月から社員として働いている。英語が堪能で「いろいろなお客さん(外個人)に対応しています」と。その後も自転車に乗って近所を走る姿をたまに見かける。近くの「ローソン」でもネパール人の女性がレジを担当している。「アリス学園(金沢にある日本語学校)で特訓中です」と。外国人労働者が身の回りにいることは日常の光景になりつつある。

    政府は先日(5日)の経済財政諮問会議で、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の原案を公表した。各紙に目を通すと「日本型移民政策」の構図が浮かんでくる。特徴的なのは、新たな在留資格だ。これまで最長5年の「技能実習」を終えた人や、一定の語学力や技能を持った人が対象で、最長で5年間滞在できる。主に5分野で、農業、介護、建設、宿泊関連、造船が想定されている。家族の帯同は基本的には認めていないが、期間中に専門性が認められた場合は在留期間の上限を取り除き、家族帯同を認めることも検討するとしている。5分野で2025年までに50万人の就業を想定している。

    率直にこの政府方針は有効なのだろうか。25年までに外国人労働者を50万人受け入れると言っても、まったく不足している。何しろ、日本の労働人口は毎年30-40万人減少している。数百万の規模で外国人労働者を受け入れる準備をしなけらば日本の経済は成り立たないではないかと推測している。

    実はもう一つの「日本型移民政策」が動いている。政府は、2020年を目途に留学生受入れ30万人を目指す「留学生30万人計画」を外務省や文部科学省に指示して推進している。たとえば、金沢大学でも2023年までに外国人留学生2200人の受け入れを目指している。日本の大学で専門性を身につけた留学生に日本の企業で就職してもらう取り組みも並行して行われている。2016年の統計だが、留学生による日本企業への就職は1万9435人で過去最高となった(法務省入国管理局まとめ)。法務省は留学の在留資格を発行していて、留学生がさらに国内の企業へ就職する場合は在留資格の変更許可を申請することになるので数値として把握している。

   日本企業に就職した留学生の国籍・地域別の上位は、中国1万1039人と圧倒的に多く、ベトナム2488人、韓国1422人、ネパール1167人、台湾689人とアジア諸国が95%を占める。主な職務内容は「翻訳・通訳」7515人、「販売・営業」4759人、「海外業務」3103人、「技術開発(情報処理分野)」1990人など。

        確かに、留学生の中でも日本での就職の期待度は高い。昨年6月に金沢市で開催された留学生と地場企業による交流会に120人の留学生が参加した=写真=。社員52人のうち28人が外国人という繊維会社(インテリア、スポーツ衣料)では生産管理と品質管理、営業はベトナムや中国人スタッフが担当し、金沢本社とアジアの生産工場を往復する。留学生からは働き方、休日の過ごし方などに質問が相次いだ。

   海外に生産拠点を置く企業だけでなく、国内のサービス産業やITベンチャー企業も外国人採用枠を増やしている。少子高齢化の日本経済の行方は外国人動労者の確保にかかっている。ドイツではすでに人口の15%程度の外国人労働者を受け入れている。

⇒8日(金)朝・金沢の天気     はれ

★子への虐待、日米の認識度

★子への虐待、日米の認識度

      5歳の女の子が虐待を受け死亡した東京・目黒区での事件=写真=。女の子が書き残した文章を読むと実に痛ましい。この子は必死で親に気持ちを伝えようとした。しかし、親は無視はしたのだろう、伝わらなかった。この子には文章による訴える力がある。5歳児とは思えないくらいだ。以下、朝日新聞Webニュースより。

   もうパパとママにいわれなくてもしっかりとじぶんからきょうよりもっともっとあしたはできるようにするから もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします

    ほんとうにもうおなじことはしません ゆるして きのうぜんぜんできてなかったこと これまでまいにちやってきたことをなおします

    これまでどれだけあほみたいにあそんでいたか あそぶってあほみたいなことやめるので もうぜったいぜったいやらないからね ぜったいぜったいやくそくします

   涙を誘うフレーズは「じぶんからきょうよりもっともっとあしたはできるようにするから」だ。今日よりもっと明日は出来るようにする。もう1フレーズ。「きのうぜんぜんできてなかったこと これまでまいにちやってきたことをなおします」。昨日できなかったこと、これまで毎日やってきたことを直します。時間軸に身を置いて、明日はもっとよくする、という5歳の強い意思表示だと読み取れる。この子のどこに罪があるというのか、あるはずがない。

   昨日、子どもの虐待について知人らと話していると、アメリカで子育てをした経験のある研究者が「アメリカでは子供といっしょに風呂に入るだけでも虐待とみなされる」と。このひと言に驚き、「なぜ」と問うと、「狭い空間で裸でいると性的虐待が疑われるということなんだ」と。研究者も知人から聞いて調べたという。アメリカの在ナッシュビル日本総領事館のホームページに事例がいくつか出ていると教えてくれた。同総領事館HPの「安全情報」の中の「米国での生活上の注意事項」に掲載されている。

   入浴に関する事例は、HPを引用する。「某日、幼稚園に通う少女が、父親と一緒にお風呂に入るのがいやだと幼稚園の作文に書いた」、すると「幼稚園の先生が、児童虐待(性的暴力)容疑者として父親を州政府の児童保護局に通報し、調査活動が行われた」。また、「某日、乳児をお風呂に入れている写真を近所のドラッグストアで現像に出した」、すると「ドラッグストアが児童に対する虐待容疑で児童保護局に通報し、児童虐待(性的虐待)容疑で調査活動が行われた」。いずれの事例も実際に邦人がアメリカで体験したケースのようだ。 

   日本とアメリカの文化による認識の違いで、日本では許容されることでも、アメリカでは「犯罪」として扱われる事例だろう。入浴のほかにも、言うことを聞かない子どもの頭を人前でたたいたり、買い物をするときに、乳幼児を車に置いて離れたりすることなども、虐待の容疑で親の身柄が拘束されることもあるようだ。

   総領事館のHPで掲載されている事例を読んで思うのは、文化による認識の違いや誤解があるにせよ、アメリカでは「善意の通報」が行き届いていることだ。ところが、日本では目の前で親から子へのあからさまな暴力があったとしても、「関知せず」であえて見過ごすケースがあるのではないだろうか。アメリカでは人権侵害としての児童虐待の観念が徹底しているので第三者が通報する。日本では虐待なのか「しつけ」「教育」なのかグレーゾーンととらえられ、看過されるケースが起きるのではないだろうか。

   冒頭の5歳の女の子に多数の「善意の通報」があれば救われていたに違いない。

⇒7日(木)朝・金沢の天気     はれ

☆「百万石まつり」に読む「井の中の蛙」

☆「百万石まつり」に読む「井の中の蛙」

   ことしの「金沢百万石まつり」は何かと話題になった。1日夜に行われた浅野川での「加賀友禅燈ろう流し」で、1200個の灯籠のうち川面に灯篭が溜まり、灯籠のろうそくの火が次々と半数に燃え移った。灯籠は伝統工芸の加賀友禅の作家や大学生たちが一つ一つ和紙に絵付けしたもの。たまたま目撃した知人の話だと「火の海という感じで、イベントのクライマックスかと思った」と。祭りの前夜祭が妙な盛り上がり方をしたものだ。

   2日の百万石行列は地元のテレビ局の中継番組を視聴した。藩祖・前田利家役が俳優の高橋克典、お松の方役が女優の羽田美智子の両氏。JR金沢駅前で高橋利家が「皆のもの、いざ出立じゃ」と第一声を発して行列が始まった。主催者発表で42万人の人出となったようだ。武者行列に甲冑を付けて参加した地元女性から聞いた話。「女子もボランティアとして参加でき面白い。見るだけじゃつまらないから」「金沢商工会議所で甲冑を身に付けて、それからJR金沢駅に移動。甲冑姿でバスに乗ると妙な感じで、インスタ映えするのか、周囲から写真をよく撮られた」と楽しそうだった。

   3日は百万石茶会に参加した。兼六園の時雨亭では吉倉虚白宗匠(表千家)の茶席に。茶室から深緑の庭園を眺めると抹茶がさらに美味しく感じられた。もう一席。金沢21世紀美術館横の茶室「松涛庵」では立礼席で一服。待合で小学生らしき子どもたちがいた。皆それぞれに懐紙を持参しているので、横に座った男の子に尋ねると、「福井から13人で来ました。みんなでお茶を習っています。百万石茶会を楽しみに来ました」と。ちょっと緊張した面持ちながら無駄のない、あっぱれなものの言い方だった。

   午後から石川県立歴史博物館に赴いた。「明治維新と石川県誕生」という特別展を見に行ったのだが、すでに先週5月27日で終了していた。そこで、図録=写真=を購入し読んだ。興味深かったのは、1871(明治4)年7月の廃藩置県で薩摩出身の内田政風が初代の石川県令(知事)として金沢に赴任したときの手紙だ。図録によると、内田はもともと薩摩藩主・島津久光の側近だった。島津は西郷や大久保ら政府の開化政策を公然と批判していたため、島津の力を削ぐためにあえて側近の内田が地方官として出されたようだ。薩摩から石川県のトップは金沢で何を見て、何を感じたのか。

   図録には、内田が同年10月5日に大久保利通と西郷隆盛らに宛てた書簡の内容が掲載されている。実際の書簡は長さ3㍍に及ぶ長文。城下町で消費都市であった金沢の経済を回すために米切手の発行を認めてほしいと要求している。藩政時代は各藩が年貢の米を見込んで米商人に米切手を発行して財政赤字を補っていた。明治政府は正規通貨の流通の妨げになるとして、明治4年4月に米切手の流通禁止を命じている。禁止されことをあえて復活させてほしいと嘆願するほど県の財政は困窮していたのだろう。

   さらに面白いのは当時の金沢での士族たちの在り様を評している。士族たちは「過禄」、つまり十分過ぎるほど米を与えられており、百万石の大藩ゆえに「井の中の蛙(かわず)」だと書いている。明治維新の世の動きを理解していないと嘆いているのだ。内田は1875(明治8)年3月に県令を辞任し、再び島津家に仕えた。その2年後、1877(明治10)年に西郷隆盛を中心に士族の反乱「西南の役」が起きる。さらに翌年、事件が起きる。政府の処遇に反発する、いわゆる「不平士族」の島田一郎らが1878(明治11)年5月に大久保利通を東京・紀尾井坂で暗殺する。実行犯6人のうち島田ら5人は元加賀藩士だった。

   内田は明治26年、77歳で亡くなるのだが、この金沢の不平士族らによる大久保の訃報に接して何を想っただろうか。やはり「井の中の蛙 大海を知らず」と嘆いたのだろうか。金沢百万石まつりの3日間は珍しく晴れの良い天気で、レンガ造りの歴史博物館は青空に映えた。「井の中の蛙…」の続きの句を思い出した。「されど空の深さを知る」。とりとめのない文章になった。

⇒4日(月)朝・金沢の天気     はれ 

★日本海のイカ漁場、厄介な現実

★日本海のイカ漁場、厄介な現実

   北朝鮮の動きがいよいよ「活発」になってきた。東シナ海で北のタンカーが別の船に横づけし、ホースで石油などを移し替えする「瀬取り」を行っているのを先月24日、海上自衛隊の護衛艦が確認。政府は国連安保理の北朝鮮制裁委に通報した。そして、日本海では日本のEEZ(排他的経済水域)にある大和堆(やまとたい)で北のイカ漁船が数10隻確認され、退去に応じなかった漁船には海上保安庁の巡視船が放水して退去させている=写真=。

   スルメイカ漁が今月1日に解禁になり、3日には多くの日本漁船が大和堆でのイカ釣り漁を開始する。EEZ内での違法操業はもちろん問題なのだが、もっと厄介なことがある。日本漁船は釣り漁であるのに対し、北のイカ漁船は網漁だ。夜間に日本漁船が集魚灯をつけると、集魚灯の設備を持たない北の漁船が多数近寄ってきて網漁を行う。獲物を横取りするだけでなく、網が日本漁船のスクリューに絡むと事故になる危険性にさらされる。

   また、夜間では北の木造漁船はレーダーでも目視でも確認しにくいため、衝突の可能性が出てくる。衝突した場合、水難救助法によって北の乗組員を救助しなければならない。そうなればイカ漁どころではなくなる。だから、「厄介な危険物」にはあえて近寄らない。昨年、多くの日本漁船が好漁場である大和堆を避けるという現象が起きたのはこのためだ。
 
   漁業関係者に苛立ちや不安が積もっている。昨年7月に開かれた「大和堆漁場・違法操業に関する緊急集会」(国会内の会議室)では国会議員や漁業関係者の発言は厳しいものがあった。当時のメディアの報道によると、質問が集中したのは海上保安庁に対してだった。海上保安庁も巡視船で退去警告や放水で違法操業に対応していたが、イタチごっこの状態だった。漁業関係者からは「退去警告や放水では逆に相手からなめられる(疎んじられる)」と声が上がった。違法操業の北の漁船に対して、漁船の立ち入り調査をする臨検、あるいは船長ら乗組員の拿捕といった強い排除行動を実施しないと取り締まりの効果が上がらない、と訴えた。

    言うまでもないが、領海の基線から200㌋(370㌔)までのEEZでは、水産資源は沿岸国に管理権があると国連海洋法条約で定められている。ところが、北朝鮮は条約に加盟していないし、日本と漁業協定も結んでいない。そのような北の漁船に排除行動を仕掛けると、北朝鮮が非批准国であることを逆手にとって自らの立場を正当化してくる可能性がある。取り締まる側としてはそこが悩ましいところなのだろう。

    きょう2日付のWebニュースによると、アメリカのトランプ大統領は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との初めての会談をいったん中止すると通告していたが、金氏からの親書を受け取ったことで、予定通り今月12日にシンガポールで会談すると明言した。こうした外交の裏側で国連安保理決議に反する「瀬取り」、そして日本のEEZ内での違法操業がまかり通る。シビアな現実がそこにある。(※写真は海上保安庁が公表した映像、NHK画面より)

⇒2日(土)朝・金沢の天気     はれ

☆「司法取引」小物に餌与え、大物を釣る

☆「司法取引」小物に餌与え、大物を釣る

   世間を騒がせている森友学園への国有地売却や決裁文書改ざんをめぐる問題で、大阪地検特捜部はきのう(31日)、虚偽公文書作成などの疑いで告発された佐川前国税庁長官ら関係者全員を不起訴とした。きょう1日付の朝刊を読むと、各紙の論調は「まだ幕引きは許されぬ」(朝日新聞)といった感じで、私自身も何だか釈然としない=写真=。しかし、どこかでケジメをつけないといつまでも「モリカケ問題」が国会の論戦になっているのはいかがなものか、とも。

   そんな思いで紙面に目を通していると、アメリカのニュースなどでよく出てくる「司法取引」がきょうから日本でも始まるとの記事に目が止まった。読むと、アメリカの司法取引とは意味合いがかなり異なるようだ。日本の場合、司法取引でタ-ゲットとする犯罪は、組織犯罪や企業犯罪、汚職事件など。より具体的には、振り込め詐欺など組織犯罪、また贈収賄・詐欺・横領などの事件、さらに独占禁止法・金融商品取引法などの経済犯罪、薬物銃器犯罪などとしている。一方で殺人や性犯罪などは対象外。つまり、特定の犯罪に限定しているのだ。

   アメリカの場合は、自分の罪を正直に供述して刑の減免を受ける、いわゆる「有罪答弁型」だ。日本の場合は、たとえば容疑者・被告が共犯者など他人の犯罪の捜査に協力すれば検察が見返りとして起訴を見送ったり求刑を軽くしたりする法制度。組織犯罪や経済犯罪で逮捕された部下が指示した上司(ボス)のことを供述したり、証拠を提出するなど検察側に協力をすれば、不起訴や軽い罪での起訴、軽い求刑など有利になる。いわば「捜査協力型」、言葉は悪いが、「小物に餌を与え、大物を釣る」のたとえだ。

   ただ、単に捜査に協力するのではない。司法取引に関して、検察側と容疑者・被告の間で合意をするには、その過程で弁護人の立ち合いが義務化されている。確かに、司法取引として検察側が末端の者の犯罪に刑の減免を約束して、組織の上層部の犯罪について供述を求めることで、事件解明のスピードが早まることになるだろう。ただ、素朴な懸念も生じる。自らの処分を有利にするために虚偽の供述をする、あるいは伝聞の話を供述して、無関係の人物まで事件に巻き込むといったことにはなりはしないだろうか。いわば冤罪だ。

   もう一つ。他人のことを供述して、自らの責任を減免することは国民感情としていかがなものだろうか。もちろん、司法取引には、個人の責任よりも巨悪を懲らしめるという社会的責任が優るという大義があるだろう。検察側でその思いが逸(はや)ると、大阪地検特捜部の主任検事が郵便不正で押収したフロッピーディスクのデータを改ざんした事件(2010年9月)にもなりかねない。

        今回のブログは大阪地検特捜部に始まり、大阪地検特捜部で終える。もちろん、冒頭の不起訴処分で検察側と財務側で「司法取引」はなかったと信じたい。

⇒1日(金)朝・金沢の天気    くもり

★なぜ審判が問われないのか

★なぜ審判が問われないのか

   今月6日に行われたアメリカンフットボールの日本大学と関西学院大学の定期戦。日大学のDL(ディフェンスライン)の選手が関学大の司令塔のQB(クォーターバック)の選手に悪質なタックルをして負傷させた問題。今月21日に被害届が大阪府警に出され、刑事事件になる可能性がある。一連のニュースを視聴して腑に落ちないのは、競技中の悪質なタックルに対し、なぜ審判員は即刻退場を命じなかったのか、ということだ。

   動画を見れば、一目瞭然だ。試合開始の早々に、日大のDL選手がパスをし終わった関学大のQB選手に真後ろからタックルを浴びせて倒している。QBが球を投げ終えて少し間を置いてから、わざわざ方向を変えて突進しているので、意図的なラフプレーだ。3プレー目でも不必要な乱暴な行為があり、5プレー目で退場となった。ここで疑問なのは、1回目のラフプレーでDL選手をなぜ退場にしなかったのか。明らかに「レッドカード」ではないのか。単なる見逃しであるならば、審判員に対してなぜ責任が問われないのだろうか。

   これはあくまでも「スポーツの世界」であり、審判員が試合を適切に判断できないのであればスポーツは成り立たなくなる。監督が「つぶせ」と指示したとしても、審判員がそれを見逃さずに早々と退場にしていれば、よかったのではないか。それがスポーツの世界だろう。単なる見逃しだったのか、その判断を聞きたい。審判員としての釈明がなければ、逆に日大と審判員の関係性を勘ぐってしまう。

   では、関東学生アメリカンフットボール連盟の見解はどうなのか。今月10日に、DL選手の1回目のプレーについて「試合中に審判クルーが下した『アンネセサリーラフネス(不必要な乱暴行為)』を超えるものである」と発表し、「追加的な処分の内容が確定するまでは、当該選手(DL選手)の対外試合の出場を禁止する」と処分を決めた。しかし、即退場としなかった当時の審判の差配は適正なものだったのかについては述べていない。関東学生アメリカンフットボール連盟は月内に臨時理事会を開き、日大の処分などを判断する方針だというが、審判の在り様の問題もぜひ説明してほしい。

   今回の悪質なタックルの問題は、日大の「不誠実」とも取れる対応で、連日のようにニュースになり、いっこうに収束の気配が見えない。それよりなにより、スポーツがこのように刑事事件になるのは筋が違うのではないか。

⇒29日(火)朝・金沢の天気     はれ

☆金正恩氏の心理面を読む

☆金正恩氏の心理面を読む

   前回のブログで防衛関連株として値動きを注目している石川製作所(本社・石川県白山市)の株価が、今回の米朝首脳会談の中止を受けてどのように動くのかと述べた。26日の終値は前日比125円高の2385円、率にして5.53%アップだ。高値の要因はおそらく、トランプ大統領が金正恩党委員長に送った会談中止の書簡のこの一文にその理由がある。

You talk about your nuclear capabilities, but ours are so massive and powerfu1l that I pray to God they will never have to be used.(貴方は自国の核能力について語っているが、我々の核能力は大規模かつ強大であり、使わなければならない時が来ないよう祈っている)

   トランプ流交渉の「脅しのタックル」だ。すると金正恩氏は実にスピード感のある対応に出た。その日(26日)に韓国の文在寅大統領と板門店で会談。前回の首脳会談は4月27日だったので、1ヵ月足らずでの再会談は異例だろう。このニュースを視聴した人は誰しも「トランプの揺さぶりに金正恩はうろたえた」との印象を持ったことだろう。特に今回は板門店の北朝鮮側の施設での会談なので、金正恩氏からの一方的な要請によるものだったと推測できる。

   表向きは、文在寅文氏が今月22日にワシントンでトランプ氏と会談したので、米朝首脳会談を前にして、北朝鮮の非核化に関するトランプ氏やアメリカ政府の考え方など聞き、米朝首脳会談の落としどころ(妥協点)を探ることだったのかもしれない。それにしても、文在寅氏、中国の習近平国家主席とそれぞれ2回の会談。急速な会談の連発に別のことを勘ぐってしまう。金正恩氏の心理面についてだ。

   昨年の今ごろのニュースは、北朝鮮が弾道ミサイルを異常なペースで連射させたことだった。国連安全保障理事会が「最大限の懸念」を表明し、強く非難・警告したにもかかわらず収まらなかった。当時、これは偏執型、あるいは妄想型の性格であるパラノイア(Paranoia)ではないかと報じられた。パラノイアの特徴はいくつかり、異常な支配欲や激しい攻撃性がともなうものの、思考論理は一貫していて、行動や思考にブレがないとされる。一方で、自己中心的な性格(ナルシシズム)が出てくると、今回のように相手(文在寅氏)の迷惑を顧みず「電撃的な会談」を一方的に申し入れたりする。

   では仮にトランプ氏との首脳会談が実現したとして、次にどのようなことがパラノイアの現象として起きるのか想像してみる。おそらく、トランプ氏はビジネスで鍛え上げた交渉術で、金正恩氏に向かって先の言葉「You talk about your nuclear capabilities, but ours are so massive and powerfu1l that I pray to God they will never have to be used.」を呪いをかけるように言い浴びせるに違いない。アジア的な文在寅氏や習近平氏のキャラクターとは違い、金正恩氏はトランプ氏の内面に西欧の悪魔的な魅力を見出すかもしれない。すると、今度はサタニズム(Satanism)に陥る。サタン崇拝、つまり熱狂的なトランプファンになるのではないか。

   両者の会談が実現することを期待している。非核化の進展とあわせて、金正恩氏に果たしてサタニズムが出るか。偏執・妄想、自己中心、そしてサタニズムの3点セットがそろえば、歴史上まれな「パラノイア型リーダー」として世界の心理学者たちが注目するに違いない。これまで述べたことは言葉の遊びにすぎないが。(※写真は27日付・韓国「聯合ニュース」Web版より)

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