#コラム

★北の違法操業を支援する構図

★北の違法操業を支援する構図

           けさ(22日)のヤフーニュースで「韓国警備艦が日本漁船にEEZ内で操業停止要求」を読んで、韓国の「北朝鮮化」ではないかと訝(いぶか)る。さっそく水産庁のHPで掲載されているプレスリリース(21日付)で事実確認をする。20日午後8時半ごろ、能登半島の西北西約400㌔に位置する、日本の排他的経済水域(EEZ)の大和堆(やまとたい)付近で操業中の日本のイカ釣り漁船(184㌧、北海道根室市所属)に対し、韓国・海洋警察庁の警備艦が「操業を止め、海域を移動するよう」と無線交信をしているのを、水産庁漁業取締船と海上保安庁巡視船が確認した。

    水産庁の漁業取締船は日本の漁船の付近に位置取り、韓国警備艦に対し、日韓漁業協定でも日本漁船が操業可能な水域であり、漁船に対する要求は認められないと無線で申し入れた。その後、韓国の警備艦が漁船に接近したため、海上保安庁の巡視船が韓国の警備艇と漁船の間に割って入った。すると、韓国の警備艇は午後10時50分ごろ現場海域を離れた。以上が水産庁のプレスリリースの概要だ。2時間20分余りの緊迫した雰囲気が伝わってくる。

   今回の韓国の警備艦による日本漁船の退去要求はまさに「ここは我々(韓国)の漁場」であり、出ていけと警告したのと同じだ。これは、北朝鮮が繰り返してきた主張と重なる。領海の基線から200㌋(370㌔)までのEEZでは、水産資源は沿岸国に管理権があると国連海洋法条約で定められている。ところが、北朝鮮は条約に加盟していない上、日本と漁業協定も結んでいない。端的に言えば、北朝鮮が非批准国であることを逆手にとって自らの立場を正当化して違法操業を繰り返しているのが現状だ。条約の批准国であり、日本と漁業協定も結んでいる韓国がなぜ日本のEEZ内の海域で「日本漁船は出ていけ」とメッセージを発したのだろうか。その意図は一体何だろうか。

   このブログでも何回かEEZ内における北朝鮮の違法操業について述べた。現在でも大和堆での北のイカ漁船によるが違法操業が繰り返され、海上保安庁巡視船は退去警告に応じなかった漁船に放水して退去させている。少々乱暴な言い方かもしれないが、韓国の警備艦による日本漁船への退去要求ならびに、漁船への接近はこうした日本側の措置に対する「警告」ではないか。つまり、これ以上北の漁船に対する取締をするなとのメッセージではないだろうか。

   最近の韓国の動きは不可解だ。10月、済州島での国際観艦式に際して自衛艦隊旗の旭日旗の掲揚に難色を示して物議をかもし、韓国大法院が日本企業に戦時中の朝鮮半島からの出稼ぎ者に対する損害賠償を下し、「国際法違反だ」と日本の反感を煽った。今月は「最終的かつ不可逆的に解決」と確認した日韓合意でつくられた、いわゆる元慰安婦を支援する「和解・癒やし財団」を解散した。これから先に見えるのは、日本海の呼称問題、つまり韓国側が主張する東海(トンヘ)の地図上で併記の要求、さらに日本と韓国の漁業協定の棚上げ、あるいは破棄などへの広がりではないだろうか。

⇒22日(木)午前・金沢の天気    あめ

☆司法取引のモデルケース

☆司法取引のモデルケース

   「Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely.(権力は腐敗する。絶対的な権力は絶対に腐敗する)」。イギリスの歴史家、ジョン・アクトン(1834-1902)はケンブリッジ大学で近代史を教え、フランス革命を批判した。「権力の腐臭」を感じ取っていたのだろう。きのう(19日)日産自動車のカルロス・ゴーン会長が金融商品取引法違反の疑いで東京地検特捜部によって逮捕されたニュースを知って、アクトンの格言を思い出した。

    当日午後10時から日産グローバル本社(横浜市)で行われた緊急会見の様子を新聞メディア系のライブ動画配信で見入った。午後10時02分、西川廣人CEOが冒頭で「非常識な時間の会見で申し訳ありません」と謝罪。続けて、「本人(ゴーン容疑者)主導の不正行為が3点あった。1.有価証券報告書へ実際より減額した金額の記載、2.目的を偽って当社の投資資金を支出、3.私的な経費支出。内容を細かくは触れられないが、会社として断じて容認できない」と語気を強めていたことが印象的だった。と同時に、単に不祥事を起こした会社の謝罪会見とは違い、用意周到な会見であると察した。

    その用意周到さは、記者からの質問に対するCEOの返答の中身から感じ取れた。記者からの「私的流用との指摘だが、特別背任ではないか、なぜ金融商品取引法違反なのか」との問いに、CEOは「刑事罰対象の部分は私には判断できない。この件は大きく分けて3つの事案であるが、どれをとっても取締役の義務を大きく逸脱するだけではなく、解任に値するとの意見を専門家、弁護士から意見をいただいている」と述べた。あわせて、今月22日にゴーン容疑者の代表権と会長職を解くことを提案する取締役会を開く予定だと説明した。逮捕のタイミングを予め想定した取締役会であることは推測できる。

     もう一つ。記者の「ゴーン氏の権力がどのように形成され、クーデターのような形で崩壊したのか」との質問。CEOは「クーデターとおっしゃったが、事実として見た場合、不正が内部通報によって見つかり、それを除去するというのがポイントであって、権力集中に対しクーデターが起きたとの理解ではない。そのように説明もしていない」と社内の内紛劇ではないと否定した上で、「より公正なガバナンスに持っていくのが課題」と説明した。

    会見が終了したのは午後11時25分だった。司法取引に関して、CEOは「コメントできない」と会見で述べていたが、否定はしなかった。会見の印象で言えば、以下のプロセスだろう。最初に内部通報による問題の提起、次に弁護士を間に入れての東京地検特捜部との司法取引、その上で逮捕のタイミングを見極めての記者会見。ことし6月に施行された日本の司法取引は、検察官と被疑者(今回の場合、日産自動車)、弁護士の3者の連署で書類を作成することになっていて、会社組織内で発覚した汚職や脱税、談合などの経済犯罪に威力を発揮するとされている。今回の日産での摘発は司法取引のモデルケ-スと言えるかもしれない。

⇒20日(火)夜・金沢の天気   くもり

★「加賀停太郎」の広報戦略

★「加賀停太郎」の広報戦略

   役所が制作したPR動画なのだが、これが面白い。笑える。加賀市役所が2023年の北陸新幹線敦賀開通をにらみ、最速新幹線「かがやき」を加賀温泉駅に停める「新幹線対策室」を開設したという想定で、室長の加賀停太郎と室員が繰り広げる、役所をモチーフにした動画だ。総集編を入れて9本の動画の総視聴数は38万8千回(11月18日現在)にもなる。

   「どんな手を使っても加賀温泉駅に新幹線を停める!」と声を荒げる加賀停太郎役の横田栄司氏(文学座)ははまり役だ。昨年5月から8月にかけて公開した4本の動画のシリーズ。加賀市観光協会が地元のPRに頭を抱える会議の場にいきなり髭面の男、加賀停太郎が登場する。加賀市新幹線対策室が動き始め、新幹線招致に向けた作戦会議を行う。旅館の女将が思いついた名案は加賀美人たち総出のもてなし作戦。 加賀市の魅力的な観光スポットを求めて中央公園を訪れるが、閑散とした園内。加賀停太郎が乏しい観光資源を嘆きながらも「金沢には負けないぞ!」「調子に乗るな、金沢!」と叫ぶ自虐的なシーンが笑える。

    ことし6月に公開した4本のシリーズ第2弾は、自虐的なコンセプトから一転する。順風満帆に見えた加賀市新幹線対策室にライバルが出現する。加賀停太郎の前に現れたのは、「かがやき」の停車駅候補ではライバル関係にある隣接・小松市の新幹線対策室の小松停太郎(俳優・伊藤明賢氏)。2人は加賀市と小松市がそれぞれがカニ料理や自慢の温泉、地酒で対決するというコンセプトだ。第2弾は「かがやき」停車というより、観光PRにシフトした印象を受ける。

    それにしても、加賀市の広報戦略は注目に値する。こうした動画だけでなく、加賀市は東京在住の海外メディア特派員を招いて、環境に優しいカモ猟として知られる「坂網猟」の現地見学会を通じて国際発信をしたり、ミス・インターナショナル世界大会に出場する国や地域の代表を招いて和装体験や温泉のお座敷遊びを楽しんでもらい、彼女たちのSNSを通じて加賀市をPRするなど、手の込んだ広報手段が目を引く。実にしたたかな広報戦略なのだ。(※写真は加賀市のHPより)

⇒18日(日)夜・金沢の天気    はれ

☆4K8K、テレビの未来か

☆4K8K、テレビの未来か

      「マスメディアと現代を読み解く」という講義の中で、学生にマスメディアとの接触度を尋ねた。アンケート(2018年6月)の設問は「あなたは新聞を読みますか 1・毎日読む 2・週に2、3度 3・まったく読まない」「あなたはテレビを見ますか 1・毎日見る 2・週に2、3度 3・まったく見ない」の単純な設問だ。回答は102人で、新聞を「まったく読まない」75%、テレビを「まったく見ない」17%の結果だった。3年間同じ設問でアンケートをしている。推移をみると「新聞離れ」は下げ止まり。ところが、テレビは2016年12%、17年15%、18年17%と「まったく見ない」が増えている。「毎日見る」も16年65%、17年56%、18年49%と如実に減少している。「テレビ離れ」は加速しているのだ。

    テレビに未来はあるのだろうか。メディア論を講義しながら、そんなことを考えたりすることがある。ただ、上記のような数字にとらわれると暗いイメージになるのだが、テレビとは何だと問いかけると、まった別次元のイメージもわいてくる。それは、テレビの技術が新たな文化を生み出すということだ。

          1953年に日本でテレビ放送が始まり、白黒画面から相撲や野球の面白さを知るスポーツの大衆化という文化が始まる。1964年の東京オリンピックでは画面がカラー化し、スローVTR、そして通信衛星を通じて競技画像が世界へと配信され、放送のグローバル化が拓けていく。画質の高精彩化によって、家庭にシアター文化がもたらされ、CS放送やBS放送で多チャンネルが進展する。報道現場でもSNG(Satellite News Gathering) 車によって、災害現場からの生中継が可能になり、速報性がさらに高まった。

    次なるテレビの技術文化は何か。それは来月12月から始まる「4K」「8K」放送だろう。現在のフルハイビジョン(2K)と比べ、4Kはその4倍、8Kは16倍の画素数なので高精彩画像だ。4K8K放送は衛星放送で始まるが、手を挙げいるのがテレビショッピングの「QVC」だ。去年1月にBS4Kの基幹放送事業者の免許を取得し、来月から「4K QVCチャンネル」で24時間365日の放送をスタートさせる。同社のホームページでは「見つかるうれしさ、新次元」というキャッチコピー=写真=でPRしている。「4K QVC、それは想像を超えた、全く新しいショッピング体験。鮮やかでリアル。テレビをつけた瞬間、お部屋は一気に、新次元のショッピング空間に」と。

     では、4K8Kが生み出す文化とは何なのか。手短に表現するならば、「バーチャルリアリティ」ということになるだろうか。これまで距離感があった、映像空間とリアリティ空間の差が限りなく縮まる。人間の感性や購買意欲をさらに刺激する新領域の番組に踏み込むかもしれない。テレビ局側は「バーチャルなフィールド=映像」をリアリティ空間に見せる新たな技術(演出)開発に突き進むだろう。たとえば、テレショップだったら、「いいですよ。お安いですよ」の従来の演出よりも、対面型、あるいは対話型による追体験型の絵構成が主になるかもしれない。これは想像だが。

         4K8Kが生み出す新たな番組づくり、お手並み拝見である。一方で、放送局の番組を送り出すバックヤードでは「映像伝送のIP化」という革新が起きている。放送は時間的なディレイ(遅延)が許されないため、通信回線を使うことに抵抗感があった。それが技術革新で光ファイバーで遅延なく伝送できるようになった。4K8Kは番組だけでなく、技術革新をももたらしている。これが2020年に本格化していく、放送と通信による同時配信への技術インフラへと展開していく。

⇒17日(土)夜・金沢の天気   はれ

★能登は再生可能エネルギーのショールーム

★能登は再生可能エネルギーのショールーム

   能登半島に木質バイオマス発電の施設が完成し、きょう(12日)火入れ式が執り行われた。地域の資源でもある間伐材を活用する。太陽光発電はもちろん、半島という地の利を活かした風力発電も数多く立地していて、まさに能登は再生可能エネルギーのショールームではないだろうか。

   発電所は輪島市三井町の山中にある。スギや能登ヒバが植林された里山に囲まれている。木質バイオマス発電は、間伐材などの木材を熱分解してできる水素などのガスでタービンエンジンを駆動させる。石炭など化石燃料を使った火力発電より二酸化炭素の排出量が少ない。発電量は一般家庭で2千5百世帯分に相当する2000KW(㌔㍗)時。エンジンを駆動させるために必要な木材は一日66㌧、年間2万4千㌧もの間伐材を調達することになる。(※写真・上は2017年5月撮影)

   発電所を運営する株式会社「輪島バイオマス発電所」に大下泰宏社長を訪ね、会社設立の話をうかがったことがある。大下氏はもともと行政マンで同市の副市長もつとめ、能登の里山に愛着とこだわりを持っている。インタビュー(2013年8月)ではこう語っていた。「能登の里山を再生するために、間伐材をどうしたら有効利用できるかを考えていたら、バイオマス発電が浮かんだ。そこから夢も膨らみ、地産地消のエネルギーで地域の活性化に貢献したいと思い、会社をつくったのです」

   そのことは、同社のホームページでの設立主旨からも読める。「(能登の)多くの木々は、今から50〜60年前に植林されたものです。以来、大切に育てられながら、太く大きく成長して、今まさに利用に適した成熟期を迎えています。しかし現在、森林維持には欠かせない間材で生じた木材のうち丸太材やバルブ材等に利用されているのは70%程度に過ぎないのです。残りの端材や曲がり杉は、利用されずに林地残材という形で山の中にそのまま残されているのが現状です。これではもったいない。カスケード利用(多段的利用)しない手はありません。」。里山のもったいない精神から発想された再生可能エネルギーなのだ。

    能登半島の尖端、珠洲市には30基の大型風車がある。2008年から稼働し、発電規模が45MW(㍋㍗)にもなる国内でも有数の風力発電所だ。発電所を管理する株式会社「イオスエンジニアリング&サービス」珠洲事務所長、中川真明氏のガイドで見学させていただいたことがある。ブレイドの長さは34㍍で、1500KWの発電ができる。風速3㍍でブレイドが回りはじめ、風速13㍍/秒で最高出力1500KWが出る。風速が25㍍/秒を超えると自動停止する仕組みなっている。(※写真・下は珠洲市提供)

   では、なぜ能登半島の尖端に立地したのか。「風力発電で重要なのは風況なんです」と中川氏。強い風が安定して吹く場所であれば、年間を通じて大きな発電量が期待できる。中でも一番の要素は平均風速が大きいことで、秒速6㍍を超えることがの目安になる。その点で能登半島の沿岸部、特に北側と西側は年間の平均風速が秒速6㍍秒を超え、一部には平均8㍍の風が吹く場所もあり、風力発電には最適の立地条件なのだ。風車1基の発電量は年間300万KW。これは一般家庭の8百から1千世帯で使用する電力使用量に相当という。珠洲市には1500KWが30基あるので、珠洲市内6000世帯を使用量を十分上回る。

   いいことづくめではない。怖いのは冬の雷。「ギリシアなどと並んで能登の雷は手ごわいと国際的にも有名ですよ」と中川氏。全国では2200基本余り、石川県では71基が稼働している。最近では東北や北海道で風力発電所の建設ラッシュなのだそうだ。

⇒12日(月)夜・金沢の天気    くもり

☆ポリティカル・コレクトネス疲れ

☆ポリティカル・コレクトネス疲れ

      アメリカのトランプ大統領をどう評価すればよいのか、世界の政治が混乱しているようにも見える。貿易戦争の「トランプと中国」、CNNを目の敵とする「トランプとメディア」、核合意離脱の「トランプとイラン」などさまざま対立軸をつくり、妙な表現かもしれないが攻撃ならぬ「口撃」で「頑張っている」。アメリカ中間選挙後にトランプ氏はフランスのマクロン大統領とパリで会談(現地時間9日)=写真はホワイト・ハウスのツイッターから=、NATOの防衛費の負担について、アメリカへの依存が大きいと不満を述べ、公平に負担するよう求めたと報じられた。相変わらず「頑張っている」。

   災害大国の日本では「地震、雷、火事、おやじ」という言葉がある。この世で、特に怖いものを順に並べた言葉なのだが、この「おやじ」は突然怒り出し、難癖をつける厄介者という意味合いだと解釈する。アメリカ・ファーストを唱え、世界に難題をふっかけるトランプ氏はまさに「世界のおやじ」ではないか。では、アメリカの中間選挙では、嫌われ「おやじ政権」のもとで上院の過半数を占めることができたのだろうか。アメリカで一体何が起きているのか。

   デモクラシー(民主主義)という価値観を創造し、グローバルに展開してきたのはアメリカだったと言っても異論はないだろう。1862年9月、大統領のエイブラハム・リンカーンが奴隷解放宣言を発して以来、自由と平等という共通価値を創り上げる先頭に立った。戦後、共産圏との対立軸を構築できたのは資本主義という価値ではなく、自由と平等という共通価値だった。冷戦終結後も、共通価値は性や人種、信仰、移民とへと広がり深化していく。アメリカ社会では、こうした共通価値を創ることを政治・社会における規範(ポリティカル・コレクトネス=Political Correctness)と呼んで自負してきた。

   ところが、ここに来てポリティカル・コレクトネスの先頭に立ってきたアメリカの白人層は疲れてきた。そして「これは偽善ではないのか」と思うようになってきた。日付は失念したが先日、NHKの特集番組の中で、女性人権団体のスタッフに「男より女の人権が強いと主張するのはもう止めてくれ」と白人男性が主張するシーンがあった。この論法はトランプ氏がマクロン氏に向けた主張方法と同じだ。アメリカにこれ以上責任を負わせるな、と。

   誰もが自由と平等だが、それが誰かの犠牲に上に成り立っているとすれば偽善だ、とアメリカ社会の白人層が言い始めた。声なき世論の盛り上がりのタイミングにトランプ氏が大統領選挙に勝ち、そして中間選挙でも上院を制した。トランプ政権のいまの在り様をポピュリズム(Populism)と称する向きもある。ポピュリズムは、国民の情緒的支持を基盤として、政治指導者が国益優先の政策を進める、といった解釈で、アメリカ・ファーストの支持層は白人労働者と言われる。私見だが、自由と平等の共創の「ポリティカル・コレクトネス疲れ」は白人インテリ層もそうではないのか。
   
   このポリティカル・コレクトネス疲れとポピュリズムが同調してヨーロッパでも「おやじ風」が吹いている。

⇒11日(日)午前・金沢の天気    くもり後はれ

★祖母、母から聞いた話

★祖母、母から聞いた話

   私の祖母はとても「朝鮮漬け」が上手だった。ユズなども入れていて、いま思えば売り物になるレベルではなかったかと思う。尋ねたことがある、どこでキムチをつくることを教わったのか、と。戦前、祖先は能登半島でトンネル工事の請負をしていた。作業員の中には朝鮮半島からきた出稼ぎ者たちがいて、その日の作業が終ると毎晩のように宴会があり、キムチを所望された。祖母の若いときで、作業員からつくり方を聞いてつくった。工夫を重ねて何とか朝鮮の人に食べてもらえるようになったと話していたことを覚えている。

   先月30日、朝鮮半島から内地に動員された元「徴用工」といわれる人たちが、日本企業を相手取って損害賠償を求めていた裁判で、韓国の最高裁は賠償を命じる判決を言い渡した。これに対して、日本政府は1965年の日韓請求権ならびに経済協力協定で、請求権問題の「完全かつ最終的な解決」を定めているので、韓国の最高裁が日本企業に対する個人の請求権行使を可能としたことは、「国際法に照らしてありえない判断」(安倍総理)と強く批判している。

   「徴用工」は強制的に労働をさせられたいう意味合いでくくられているが、果たして実態はどうだったのか。冒頭で述べたが、出稼ぎで日本にやって来た人たちなのか、本人の意思に反して強制的に連れて来られたのか。いまのままでは、戦前に日本で働いた朝鮮半島からの労働者はすべて「徴用工」であり、受け入れ企業すべてが賠償請求の対象になる。安倍総理は今月1日の衆院予算委員会で、韓国の裁判の原告となった元工員4人について、「徴用工」という表現ではなく「旧朝鮮半島出身の労働者」で、4人はいずれも「募集」に応じたものだと述べている。素直に解釈すれば「出稼ぎ」である。国会で総理がそう述べたのはエビデンス(証拠、根拠、証言など)があってのことだろう。

   だったらそのエビデンスを日本国民の前に開示してほしい、と思う。国家総動員法に基づく朝鮮半島での戦時労働動員は、1939-41年は企業が朝鮮に渡り、実施した「募集」、1942-44年9月までは朝鮮総督府が各市・郡などに動員数を割り当て、行政の責任で企業に引き渡した「斡旋」、1939年の国民徴用令に基づき、1944年9月-45年3月ごろまで発動した「徴用」の3つがあった。いずれにしても、賃金が支払われていたのであれば出稼ぎだろう。言葉の乱用は避けてほしい。

   私の母親は戦時中、女子挺身隊として三重県鈴鹿市の軍需工場で働いていたことを話してくれたことがある。仕事の内容は覚えていないが、給料も出て、帰省時には金沢のデパートで買い物をして能登に帰ったと聞いた。女子挺身隊と聞けば、無給の労働をイメージするが、そうではなかった。戦時下、おそらくささやかな給与だったと想像する。日本での労働がすべて強制的であり、賃金はなかったという韓国の判決が正しいとすれば、日本人と朝鮮人に差別待遇があったと解釈すべきなのだろうか。雇いと強制労働はまったく違う。そのことを、政府は日本国民に開示してほしい。

⇒10日(土)午後・金沢の天気    くもり時々はれ、一時あめ

☆「ルーズソック」から「ググる」へ

☆「ルーズソック」から「ググる」へ

  いま何かと話題になっている三省堂『現代新国語辞典』(第六版)を近くの書店で購入した。高校生向けの辞書なので、どのような若者言葉が掲載されているのか、あ行からページをめくっていく。「インフルエンサー」が目にとまった。「〈名〉[influencer]経済・流行・価値観などに関して、多くのひとびとに強い影響を持つ人物。とくに、インターネットなどのメディアを通して購買活動に大きな影響を与える人を言う。」。大学でなど学生たち話していると、最近よく出てくる言葉で頻度が高い。「将来はITのインフルエンサーとして起業したい」などと。

  か行では「くさ【草】」が面白い。「〈名〉④[ツイッターなどで]笑う(・あざける)こと。笑えること。[warai の頭文字を並べた www が、草が生えているように見えることから]」。確かに、メールでもWWWは「結構笑えますよ」という意味で、使われている。「ググる」=写真=も出ている。「〈他動五段〉アメリカの企業『グーグル(Google)』の検索サイトを使って、調べる。」。若者のネットスラング(俗語)の代表格だろう。

  増えていると感じるのは、スマホやSNSに関連する単語だ。さ行の「スクショ」はもともと「スクリーンショット」の意味。「スマートフォンやパソコンの画面全体を、そのまま画像として保存する機能。画面キャプチャー。スクショ。」とある。ABC略語集では「TW」は「⇒ツイート」。「FF」は自分の知る範囲では早送り(Fast Forwrd)や駆動車の解釈だったが、追加されて「[ツイッターで]でフォロー、してもいないしされてもいない間がら」とあり、用例として「FF外から失礼します」。丁寧と言うか、わざわざ載っている。

  第六版をランダムに読んでいるとそれだけで新しい発見があったりして、言葉は変化するものだと実感する。暇つぶしにもなる。こんな話題を同僚と話していると、研究者の一人が「若者言葉はイージーカム、イージゴーなんだよね。流行り廃れが激しくて。第六版からはもう『ルーズソックス』は抜け落ちているよ」と。調べると確かにない。高校生向けの辞書なのに、「ルーズソックス」がない。そう言われてみれば、ルーズソックスの女子高生は街中でも見かけなくなった。

  でも一世を風靡したファッションなのに、なぜ削除をと考え込んでしまう。言葉の流行り廃れというより、出版社は掲載する言葉の入れ替えを常にやっておかないと、ページ数がどんどん増えて重くなり、辞典が買ってもらえなくなると懸念しているだけはないかと勘ぐってもいる。

⇒9日(金)夜・金沢の天気     くもり

★マスからターゲティングの時代、TVの正念場

★マスからターゲティングの時代、TVの正念場

  アメリカ議会の中間選挙の結果をNHKのインターネット中継で見ていた。放送と同時送信だ。正午すぎに、NHKはアメリカABCテレビの速報として、トランプ大統領の与党・共和党が上院で半数の議席を獲得することが確実となり、共和党が多数派を維持する見通しになったと伝えた。放送より数十秒の遅れタイムラグだったが、画面や音声の質での問題はまったくない。12時35分ごろには、中間選挙以外のニュースの時間となったため、同時配信は放送のみとなり、ネット配信は中断した。同時配信はPCかスマホがあればどこででもテレビが視聴できる時代のニーズだと実感した。

  10月29日付の読売新聞夕刊で「地域限定5G新設」の記事が掲載されていた。「5G」は第5世代の無線通信で、現行の100倍を高速通信が可能になり、あらゆるものがネットにつながる「IoT」のインフラとして期待されている。記事によると、過疎地における遠隔医療や自動運転のモデルとして地域限定で新設していく。この記事を読んで放送と通信の同時配信へのチャンスが一足早く訪れるのではないかと考える。5Gとの相乗効果はもう一つある。12月1日からNHKや民放で「4K・8K」放送が始まる。8Kがもたらす革新的な映像だろう。放送とネットの同時配信、そして「4K・8K」の高画質化、まさにテレビに「変革の時代」が訪れる。

  しかし、動画に対するユーザーのイメージに変化が起きている。それはテレビよりネットが先んじている。TikTok(ティックトック)動画サイトは15秒の動画が受けている。リップシンク(音楽や音声に合わせて口を動かしたり踊ったりしたりすること)の仕草が面白く、10代の少年少女に人気を得ている。知人から聞いた話だが、小学校4年の娘が「将来はユーチューバーになりたい」と言っている、という。動画は視聴する時代から創る時代へとシフトし、ネット動画に魅力を感じている世代が広がっているということだろう。

   これまでテレビの番組は、マス(視聴者全体)へのアピールだけで役割が事足りてきた。ところが、AIなどのイノベーションにより、ネットでは一人ひとりのユーザーの特性に応じた「ターゲティング」が普通になってきた。さらに消費者行動もシップス(SIPS)と称される、Sympathize(共感する)、Identify(確認する)、Participate(参加する) Share&Spread(共有・拡散する)のSNS時代を象徴するような動きが広がっている。

   5G時代の中で、マスからターゲティングへのニーズが加速するだろう。マスを追い求める地上波テレビの未来戦略をどう読み解けばよいのか。視聴率というテレビ業界の絶対的な価値基準を突破できるのか。TVにおける「デジタル・ファースト」の戦略をどう描くのだろうか。NHKの同時配信を視聴してふとそんなことを考えた。

⇒7日(水)午後・金沢の天気   はれ

☆「壺中日月長」 庭清掃と茶の湯のこと

☆「壺中日月長」 庭清掃と茶の湯のこと

   寺社の庭園で清掃ボランティアをして、その後、茶会に臨む。4日に金沢市山の上町にある浄土宗心蓮社でそのような催しが開かれ、参加した。ボランティアとしてではなく、茶会のバックヤードでのスタッフとしての参加だった。

   このイベントは金沢市などが主催する「東アジア文化都市2018金沢」の中の「金沢みらい茶会」の一つ。みらい茶会では「トラディショナル(伝統)」と「コンテンポラリー(現在)」の2つをテーマに茶の湯の文化を味わうという、ある意味で野心的な試みでもある。

   「ボランティア茶会」を企画したのは国連大学IAS研究員のフアン・パストール・イヴァールス氏。日本の建築と庭園が専門で、研究のかたわら茶道をたしむ。フアン氏は金沢の寺社などで研究を進める中であることに気づいた。市内には庭園が数多くあるものの、所有者の高齢化などによって、あるいは経費的に維持管理ができない状態に陥っているケースが目立つことだった。心蓮社も住職が兼務で、庭園になかなか手が回らない状態だった。2年前にフアン氏が同社の庭園を訪れ、ボランティアによる清掃を住職に提案。その後、学生や知り合いの外国人仲間を誘って清掃のボランティア活動を続けている。

      同社の庭園は「築山池泉式」と呼ばれる江戸時代に造られた書院庭園。湧水の池は「心」をかたどり、池のきわにはタブの巨木がそびえる。市指定名勝でもある。今回午前と午後に分けて30人余りのボランティアが参加。サンショウウオが住む池の周囲で落ち葉を拾い集めたり、草刈りなどを行った。参加したボランティアのほどんどが女性。東京や大阪などから観光で訪れ偶然イベントを知って参加した人たちや、フアン氏の活動を支援する外国人も。また、趣味で寺巡りをしている女性、テラジョ(寺女)と呼ばれる人たちもいてなかなかにぎやか。2時間ほどの作業で、庭園が清められた=写真・上=。

  その後、書院での茶会に。床の間には「壺中日月長」の掛け軸。秋明菊など種の季節の花が彩りを添える=写真・下=。参加者は薄茶を味わいながら、書院から清められた庭園を眺める。寺社の庭で清掃ボランティア、そして茶会という2つのステージは参加者にとって2度心が洗われ満足度も高かったのではないだろうか。

   私の仕事は「点(たて)出し」。 茶の湯で薄茶を客の前でたてるのは正客と次客の2人。3人目の客からはあからじめ、「点出しでさせていただきます」とことわってから、水屋でたてたお茶を運ぶ。お湯に入れて茶碗を温め、薄茶の粉を茶碗に入れて、茶筅(ちゃせん)をスクリューにように回してたてる。それを半東(はんとう)役が客に運ぶ。

   庭園の清掃ボランティアと茶の湯という小さな空間だが、それはそれで歴史的な背景もあり、人の作法や人生観、人と自然のかかわりが時空として深く広がる。掛け軸の壺中日月長(こちゅうじつげつながし)という禅語はこの一日のことを筆一行に凝縮しているように思えた。

⇒6日(火)夜・金沢の天気     くもり