#コラム

☆「ミッションインポッシブルに挑戦」の理屈

☆「ミッションインポッシブルに挑戦」の理屈

         保釈中にレバノンに逃げたカルロス・ゴーン被告がきのう午後10時(日本時間)から現地で2時間余りの記者会見を行った。しかし、ゴーン被告側の制限で会場に入れてもらえなかった日本のメディアが多く、記者会見というよりむしろお気に入りのメディアを招いた「記者懇談会」だろう。今朝の各社のニュースによると、ゴーン被告は日本では公正な裁判を受けられる望みがなかったと逃亡を正当化する主張を行ったが、どのような経路で日本を脱出したのか、その経路については一切、明かにしなかったようだ。

  日本のメディアで会見場に入ることができた朝日新聞のWeb版(9日付)によると、ゴーン被告は「私は正義から逃げたわけではない。不正義から逃げたのだ。自分自身を守るほかに選択肢はなかった。公平な裁判は望めないと観念した後で、唯一選べる道だった」と述べ、不正な手段での出国の正当性を主張した。

          面白い下りはこうだ。「私はミスター不可能と言われてきた。たくさんのミッションインポッシブルに挑戦してきた。1999年に日本に行ったときにもそう言われた。日本語もしゃべれないし無理である。フランスから、ルノーからやって来た人で誰もあなたのことは知らないと。でも、その後のことは皆さんご存知のとおり。私は不可能な状況の中でも色々なことができる。嫌疑を晴らしたい。真実が明るみに出るようにしていく」。ミッションインポッシブル、まさにその通り。保釈中にレバノンに逃げたこと、そのものだ。まるで「スパイ」のようだ。

   これに対し、ゴーン被告の発言を受けて東京地検はホームページ(9日付)でこのように述べている。「被告人ゴー ンが約130日間にわたって逮捕・勾留され、また、保釈指定条件において妻らとの接触が制限されたのは、現にその後違法な手段で出国して逃亡したことからも明らかなとおり、被告人ゴーンに高度の逃亡のおそれが認められたこと や、妻自身が被告人ゴーンがその任務に違背して日産から取得した資金の還流先の関係者であるとともに、その妻を通じて被告人ゴーンが他の事件関係者に 口裏合わせを行うなどの罪証隠滅行為を現に行ってきたことを原因とするもの で、被告人ゴーン自身の責任に帰着するものである」

   ゴーン被告にはもともと逃げる意志が感じられたので、あえて130日間にわたって逮捕・勾留となったのだ、と。実に分かりやすいが、それが現実となった。その意味では、ミッションインポッシブルに挑戦し可能にした男、まるでハリウッドのスター気取りだ。

⇒9日(木)朝・金沢の天気    はれ

★審判ストレス

★審判ストレス

   前回ブログで述べた「津久井やまゆり園」事件の裁判がきょう8日から横浜地裁で始まる。地裁なので裁判員裁判となる。裁判員制度は、2009年5月に刑事裁判に市民の感覚を反映させる目的で導入された。20歳以上の有権者から選ばれた人が裁判官とともに殺人や強盗致傷などの事件について審理に加わる。裁判官3名と裁判員6人による構成で、有罪か無罪か、量刑はそれこそ死刑か無期懲役といったことまで決める。

   最高裁が2019年に公表した裁判員制度10年の総括報告書によると、この間1万1千件を超える裁判員裁判が実施され、8万9千人が裁判員として刑事裁判に参加した。しかし、裁判員制度で顕著になっていることは、辞退率が上昇していることだ。裁判員候補に選ばれながらも辞退する意向を示し認められた辞退率は18年調べで67.0%に上り最高値となった。初年の09年は53.1%だった。

   総括報告書ではその理由として①審理予定日数の増加傾向、②雇用情勢の変化(人手不足、非正規雇用者の増加等)、③高齢化の進展、④裁判員裁判に対する国民の関心の低下、などといった事情が上げられている。中小零細の企業では雇用状況がひっ迫していたり、寝たきりの高齢者を抱える家庭では参加の優先度が低くなるだろう。ただ、総括報告書によると、裁判参加を経験した人にとっては「非常によい経験」と「よい経験」が初年から計95%を超え、満足度が高い。

   興味深いデータもある。裁判員制度では2011年から「健康相談」と「メンタルヘルス相談」に応じている。18年までの8年間でそれぞれ86件と324件の相談(面談、電話、メール)があった。メンタルな相談が多いが、その内訳は「メンタル症状が出ている」27.5%、「話を聞いてほしい」26.3%、「不安についてのアドバイス」20.6%、「ストレスを感じる」8.8%の順だ。では、なぜストレス相談が多いのか。結論から言うと、裁判の状況証拠として遺体写真を見ることになるからだ。遺体写真をめぐって元裁判員が起こした訴訟がある。

   2013年3月、福島地裁郡山支部での強盗殺人事件の裁判で、裁判員の女性が被害者夫婦の遺体のカラー写真を見たり、被害者が助けを求める電話の録音を聞いた直後に嘔吐や不眠の症状が出て、急性ストレス障害と診断された。女性は裁判員裁判の制度そのものを憲法第18条で禁じる「意に反する苦役」に当たるとして国を相手に損害賠償請求訴訟を起こした。一、二審判決で、裁判員を務めたことと急性ストレス障害の因果関係は認められたものの、裁判員の辞退は制度として認められていることから「苦役」ではないと判断された。2016年3月、最高裁は女性の上告を退けた。

   この訴えがあってからは、殺人事件の裁判では凄惨な遺体の写真をそのまま証拠として提出するのではなく、イラストに代えたり、カラーではなく白黒の小さい写真を使用するなどの工夫がされるようになった。裁判所では裁判員に対し、メンタルヘルスの窓口を設けて、カウンセリングも行っている。

   自身も一度は裁判員になってみたいと思っている。ただ、遺体写真を見て、ストレス症状が出たらどうしようか。裁判員になって呼び出しを受けたにもかかわらず裁判所に出向かなかったら、10万円以下の過料を科せられる。それだったら、裁判所に出向き、遺体の写真は見たくないと主張するか、辞退するしかない。それにしても、「津久井やまゆり園」事件では19人が亡くなっている。一人一人の死を検証する審判の過程で裁判員のストレスは相当なものになるだろうと察する。

   日本のマスメディア(新聞・テレビ)は殺人事件のニュースで遺体写真をいっさい掲載していない。視聴者・読者に配慮してのことだが、このため日本人には遺体写真に「免疫」ができていないのだ。海外のメディアではケースバイケースだが掲載されている。

⇒8日(水)朝・金沢の天気    雨風

☆「秘匿決定」裁判

☆「秘匿決定」裁判

   2016年7月26日、実に痛ましい事件が起きた。神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、元職員の当時26歳の男が入所者を刃物で次々と刺し、入所者19人が死亡、職員2人を含む26人が重軽傷を負った。元職員のこの言葉が事件の異常性を印象付けた。「意思疎通ができない人を刺した」 「障害者はいなくなればいい」。亡くなった入所者はダウン症や重度知的障害など自立生活は難しい人たちだった。

   事件から3年半、あす8日から横浜地裁で裁判員裁判が始まる。報道によると、争点は被告は犯行当時、刑事責任を問える精神状態だったかどうかが問われている。検察側は精神鑑定の結果を踏まえて、被告に責任能力はあったとしているが、被告側は大麻を使用しており精神障害の影響で刑事責任を問えないと主張するようだ。
 

   裁判で不可解に思う点が一つある。命を奪われた19人は実名を公表されず、いまも匿名のままということだ。警察は「家族の意向」として、発生当時から19人の名前を発表していない。さらに、「秘匿決定」の裁判となる。本来、裁判では実名が原則だが、被害者が特定される情報について裁判所が判断して明らかにしないと決めるケースがある。これが「秘匿決定」だ。このため、裁判では19人の死者は「甲」とアルファベットの組み合わせ、負傷者は「乙」「丙」とアルファベットの組み合わせで、「甲A」さん、「乙B」さんと呼ばれることになる。

   去年7月18日に発生したアニメ制作会社「京都アニメーション」への放火で、社員70人のうち36人が死亡した。京都府警は8月2日に10人の実名による身元を公表し、同月27日に25人、その後10月11日にさらに1人の身元を公表した。警察側の判断では、葬儀の終了が公表の目安だった。犠牲になった遺族のうち21人は実名公表拒否していた。その拒否の主な理由は「メディアの取材で暮らしが脅かされるから」だった。警察側の身元の公表を受けて、メディア各社は実名を報道した。

   メディアは、実名報道は国民の知る権利だとして警察に被害者の氏名の公表を迫る場合もあるが、今回は裁判所も「秘匿決定」としており、実名報道には沈黙を守っている。匿名には、確かに家族の意向もあるだろう。ただ、あすからの裁判で被害者が「甲A」さん、「乙B」さんと呼ばれて、被告はどう思うか。「だから意思疎通ができないヤツは名前も呼ばれない」 「だから障害者はいないも同然なんだ」「実名で呼ばれているのはオレだけだ」と。法廷で高笑いするのだろうか。

⇒7日(火)夜・金沢の天気      くもり

★資本主義の危うさ

★資本主義の危うさ

   仕事始めのきょう6日、東京株式市場は午前からほぼ全面安で下落幅は一時500円を超えた。大発会の鐘打ちイベントは麻生財務大臣を迎えて開催されたようだが、相場は波乱の幕開けだ。アメリカのトランプ大統領の指示でイラン革命防衛隊の司令官を殺害され、イランも報復を宣言した。中東情勢のキナ臭さが株価を直撃した。3日のニューヨークダウも反落、一時370㌦下げた。

   逆にきょう株価がストップ高になった銘柄が石川製作所(石川県白山市)だ。プラス400円の2184円、値上がり率は22%増。同社は段ボール印刷機、繊維機械を生産しているが、追尾型の機雷も製造する防衛産業でもある。キナ臭さが漂うと防衛株に注目が集まる。株価をストップ高にした要因はもう一つ。朝鮮労働党中央委員会総会が12月28日から31日まで開かれ、金正恩委員長は経済制裁を続けるアメリカを非難し、「世界は遠からず、朝鮮が保有する新たな戦略兵器を目撃することになる」と主張。非核化交渉に臨むアメリカの姿勢次第で核開発や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を再開する可能性を示した(1日付・日経新聞Web版)。

   2年前の状況が再び繰り返されるのかもしれない。2017年7月、北朝鮮が打ち上げたICBMはアメリカ西海岸のロサンゼルスなどが射程に入るものだった。これを受けて、トランプ大統領は9月の国連総会の演説で金正恩・朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と呼び、双方の言葉の応酬が過熱した。このころから石川製作所の株価は急上昇し、それまで1000円に満たなかったものが10月には4205円の最高値を記録した。

   ちょうど1年前も世界の株価は新年早々に「ネガティブサプライズ」に見舞われた。アメリカのアップル社が2018年10月-12月期の売上高の予想を下方修正し、840億㌦に留まる見込みと発表。その原因について、アップルのティム・クックCEOが中国の景気減速だと述べた。これを受け、ニューヨーク株式市場でアップル株が一時10%急落、ダウも下げ幅が一時600㌦を超えた。このころから中国の経済減速が世界の共通認識として広まった。

  「資本主義の総本山」ウォールストリートが揺れ、世界の経済に波及する。資本主義の危うさ、経済に翻弄される1年が始まった。

⇒6日(月)午後・金沢の天気    くもり

★2020 先読み~逃げ癖

★2020 先読み~逃げ癖

     先月30日レバノンに逃亡したことで物議をかもしているカルロス・ゴーンという人物はもともと逃げ癖があったのではないか。昨年3月6日、一回目の保釈で東京拘置所から出てきた姿は、青い帽子に作業服姿、顔の半分以上はマスクで隠していた。その場を逃げるような姿だった。なぜ、このような姿で拘置所から出てくる必要性があったのだろうか。この作業服を着た意味は何か、と思ったものだ。このとき、保釈金10億円を納付したのだから堂々と出てきて、記者会見をすればよかったのではないか。逃げ癖は、虚言を吐いたり、変装で身を隠したりと、現実逃れをやってのける。   

   ゴーン氏の逮捕は、有価証券報告書に自身の役員報酬の一部を記載しなかったとして金融商品取引法違反で2回。さらに、日産に私的な投資で生じた損失を付け替えたとする特別背任で3回目の逮捕。4度目の逮捕容疑は、ゴーン氏が中東オマーンの販売代理店に日産資金17億円を支出し、うち5億6300万円をペーパーカンパニーを通じてキックバックさせて日産に損害を与えた会社法違反(特別背任)だ。このオマーンの販売代理店を経由した資金のキックバックは、フランスのルノーでも疑惑が浮上している。しかも隠れ家を世界中に所有していると報道されている。犯罪性そのものに逃げ癖を感じる。

   もう一人、逃げ癖を感じる人物がいる。国と国との問題に真っ向から対応しない。問題を提起すると逃げて、別の問題を振りかざして戻って来る。韓国の文在寅大統領だ。2018年12月、能登半島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内で、韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊のP1哨戒機に対して火器管制レーダーを照射した事件。韓国政府は当初、「哨戒機を追跡する目的ではない」と説明していたが、その後一転して「レーダー照射はしていない」「日本の自衛隊機が威嚇飛行を行った」と全面否定している。

   2018年10月、朝鮮半島から内地に動員された元「徴用工」といわれる人たちが、日本企業を相手取って損害賠償を求めていた裁判で、韓国の最高裁は賠償を命じる判決を言い渡した。これに対して、日本政府は1965年の日韓請求権ならびに経済協力協定で、請求権問題の「完全かつ最終的な解決」を定めているので、韓国の最高裁が日本企業に対する個人の請求権行使を可能としたことは、「国際法に照らしてありえない判断」(安倍総理)と強く批判した。これに対して、文在寅氏は外交問題として向き合っていない。

   2019年8月、日本政府が輸出管理上のホワイト国(優遇対象国)から韓国を除外する政令改正を閣議決定した。これを受けて、文在寅大統領は「賊反荷杖」の四字熟語を使って日本批判を展開した。日本語で「盗人猛々しい」に相当する。素直に「改善する」と言えばよいのに、それを歴史と絡めて批判してくるところに無理がある。その後、韓国側は日韓防衛当局間で軍事機密のやりとりを可能にするGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を継続せずに破棄すると発表した。連動するように、韓国軍は島根県の竹島周辺で軍事訓練を行っている。破棄を決定していたGSOMIAを失効期限(11月23日午前0時)直前になって韓国側が回避を決めている。

   司法の場でも、外交の場でも、逃げ癖でその場はいったん逃れられたとしても課題解決にはならないことは言うまでもない。むしろ信頼を失って不利になるだけ、なのだが。

⇒4日(土)午前・金沢の天気    くもり

☆2020 先読み~広告が映す未来戦略

☆2020 先読み~広告が映す未来戦略

   それにしても大晦日・元旦の紙面をめくっていて、広告の派手さがエスカレートしていることに気づく。思わず「こりゃ何だ」と声を出してしまったのが、12月31日付・朝日新聞に掲載された立命館大学の全面見開き広告『立命館から、アメリカ大統領を。』だ。文章を読むと、「2040年、立命館で学んだアメリカ大統領が誕生する。と言ったら、あなたは笑うかもしれいない。でも、20年前の1999年に、2019年を想像できた人はなかった。ならば『あり得ない』と言い切ることは、誰にもできないはずだ。」と。

     「立命館から、アメリカ大統領を」の壮大キャッチに覚悟が見える

  文章に理はあるものの、『立命館から、アメリカ大統領を。』のキャッチコピーは誰が考えたのだろうか。このキャッチを採用するかどうかについて、経営内部で相当な議論があったことは想像に難くない。「突き抜けたグローバル教育」を標榜する大学だけあってスケール感が違う。さらに右下に小さく、「この広告は、米国でも同時展開しています。」と記してある。ハーバード大学に対抗意識を燃やしてのことか。この広告のアメリカ現地の評判を聞いてみたいものだ。

  2020年は再び新しい十二支のサイクルがスタートする子(ね)年に当たる。いただいた賀状も圧倒的にネズミのイラストが多い。それなのに、元旦付の全国紙では『2020 ねこ年、始まる。CATS キャッツ』の全面広告が目を引いた。キャッツと言えば、世界中にファンがいる、ミュージカルの金字塔「キャッツ」だ。それを映画化した、ミュージカル映画のロードショーが今月24日から始まる。エンターテイメントとしては最高峰かもしれない。それにしてもこの広告、ネズミ年を意識して、あえて「ねこ年、始まる。」のキャッチコピーを入れたところに、意外性のたくらみが読めて面白い。

     Netflix、動画配信サービスで世界のトップランナーに

  だじゃれと言えばだじゃれなのだが、同じ映画のPR全面広告で「銀河新年 2020年の『夜明け』はスター・ウォーズと共に」も面白い。元旦の賀状あいさつは「謹賀新年」が定番だが、それをあえて「銀河新年」と。また、動画配信サービス「Netflix」は全面広告4面を使って「正月はNetflixざんまい!」をPRしていた。アメリカのナスダック市場で、10年前と比較して株価が41.8倍と、上昇率で首位になるなど業績含めて絶好調。4面全面広告からもその鼻息の荒さが聞こえてくる。

     トヨタ、自動運転をベースに街づくりを構想する未来戦略

   鼻息の荒さでは、トヨタの全面見開き広告「未来を、どこまで楽しくできるか。トヨタイズム」というキャッチも負けてはいない。クルマからモビリティへ、モビリティからコネクティッド「シティ」構想へ。自動運転をベースに、街づくりを担う会社としてのトヨタの未来戦略が読めて、実に考えさせる広告ではある。

⇒3日(金)夜・金沢の天気    くもり時々あめ

★2020 先読み~五輪後の景気は

★2020 先読み~五輪後の景気は

   ゴーン、ゴーンとまるでお寺の鐘のようにテレビや新聞で鳴り響いている。きょう元旦の紙面は、日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン被告が秘密裏に中東のレバノンに出国していた問題を取り上げている。ヨーロッパの複数のメディアは、計画が数週間前から周到に準備され、妻のキャロルが重要な役割を担ったと伝えている(1日・NHKニュース)。

   このような脱法行為が許されるはずがないだろ。ゴーン氏は保釈の条件で海外への渡航が禁じられていた。このため、東京地裁は保釈を取り消し、納められた保釈金15億円は没収する。仮にゴーン氏が帰国した場合には身柄が拘束され拘置所に勾留される。不可解なのは、日本の出入国在留管理庁のデータベースにゴーン氏が日本から出国した記録がまったくないことだ。法律の抜け道をくぐった脱法行為による出国ということになる。この方が重大だ。誰が指南したのか。あるいは、日本の司法制度がそれほど緩いのか。このニュースはさておき、2020年の先読みを試みる。まず、日本の景気は。

     東京オリンピック後に日本の景気は低迷するのか

   オリンピック後に不動産市場が低迷し、建設需要も冷え込むのではないか。老朽化した公共インフラを更新すればよいとの論もあるが、では労働力の確保はどうなる、財源の確保はどうなるのか。日銀は大規模な金融緩和を続けているが、いつまで続く。金融緩和を続けていけば必ずひずみが出るのではないか。また、日本の最大の貿易相手国、中国の経済はすでに「成長の限界」に来ているのではないか。リーマンショック後、中国は積極的なインフラ投資などで経済成長を果たしてきたが、その成長モデルはもう通用しないだろう。そして、11月3日にアメリカ大統領選挙が行われる。これか世界の経済、日本の景気にどう影響するのか、だ。

    アメリカと中国の貿易交渉、これからの見通しは

   米中貿易交渉の第1段階の合意については、アメリカの中国への輸出が2倍に、中国が今後2年間でアメリカの農産品の購入を2000億㌦(22兆円)相当を増加させると報じられた。今後の米中貿易交渉で、日本がとばっちりをくらうことにもなるかもしれない。アメリカに輸出される中国製品には、日本製の電子部品や材料が多く使われている。アメリカが中国製品に制裁関税をかければ、実質的には日本製品にも高関税がかかることになる。米中の貿易交渉が今後テクノロジーをめぐってはエスカレートすればするほど日本への打撃が大きくなるのではないか

    デジタル人民元はドルに対抗できる通貨となりうるのか

   中国が構想しているデジタル人民元はデータ改ざんが難しいブロックチェーンの活用が基本とされる。とくに、マネーのやり取りを追跡できるようになれば、マネーロンダリングや詐欺、脱税といった犯罪の抑止になる。注目すべきは、中国国内の不動産バブルが崩壊するなど債務問題が一段と深刻化する中で、このデジタル人民元は吉と出るか、凶と出るか、だ。一方、アメリカはフェイスブックのリブラを警戒している。リブラを認め、世界的に普及すれば、国際決済で40%のシェアを占めるとされるドルそものもが形骸化する可能性も出てくる。

    「5G元年」、情報技術と産業はどこまで融合していくのか

   情報技術をさまざまな産業分野に結びつける動きが加速している。金融では「FinTech」と呼ばれる造語ができ、教育では「EduTech」、農業では「AgriTech」、広告では「AdTech」、医療では「HealthTech」と言うように。テクノロジー(Technology)と既存産業との融合は「Society5.0」とも言われているが、その在り様もある意味で問われている。「5G元年」ともいわれる2020年はどのように展開していくのだろうか。

⇒1日(水)午後・金沢の天気      はれ

☆「令和元年」回顧=いのちの歌

☆「令和元年」回顧=いのちの歌

       大晦日の『NHK紅白歌合戦』が令和元年のフィレナーレを飾った感じだった。紅白初出場の竹内まりやの「いのちの歌」が胸にしみた。「生きてゆくことの意味 問いかけるそのたびに 胸をよぎる 愛しい人々のあたたかさ この星の片隅で めぐり会えた奇跡は どんな宝石よりも たいせつな宝物・・・」。人と人の出会いの喜び、命をつなぐことの大切さ、平和の切望、実に生命感があふれていた。

    民主主義を死守し、地球環境を叫ぶ、地球の「いのちの歌」

   この1年を振り返ってみて、まさに生命感が躍動した年ではなかっただろうか。香港の民主主義は生きている、そう実感した。逃亡犯条例が中国政府と間で成立すれば、中国に批判的な香港の人物がつくられた容疑で中国側に引き渡される。そう懸念した香港の学生や市民が動いた。10月に改正案は撤回されたものの、香港政府はデモの参加者にマスクの着用を禁止する緊急状況規則条例「覆面禁止法」を制定した。顔を出させることでデモの過激化を抑圧する効果を狙ったものだろう。これがさらに学生たちを抗議活動へと動かした。

   そして、実施さえも危ぶまれていた香港の区議会議員選挙が11月24日に予定通り行われ、452議席のうち政府に批判的な民主派が80%を超える議席を獲得して圧勝した。あの騒乱の中で投票率が70%を超えて過去最高となり、「香港の躍動する民主主義」を世界に知らしめた。

   16歳の環境活動家、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんの活動にも強い生命感を感じる。なんと言ってもパンチの効いたスピーチだ。「You have stolen my dreams and my childhood with your empty words. And yet I’m one of the lucky ones. People are suffering. People are dying. Entire ecosystems are collapsing.」(あなたたちは空虚な言葉で、私の夢を、私の子ども時代を奪った。それでも、私は幸運な者の1人だ。人々は苦しんでいる。人々は死んでいる。生態系全体が崩壊している)=国連気候アクション・サミット2019(9月23日)でのスピーチから引用。

         地球温暖化対策に本気で取り組んでいない大人たちを叱責するメッセージだ。「私たちが地球の未来を生き抜くためには温暖化対策が必要なんです」と必死の叫び声が聞こえる。

    竹内まりやが歌う「生きてゆくことの意味 問いかけるそのたびに・・・」「泣きたい日もある 絶望に嘆く日も」「この星にさよならをする時が来るけれど 命は継がれてゆく・・」の歌詞を聞いていて、香港の民主主義を守り抜く行動、地球環境を復元させる必死の叫びと重なって聞こえる。まさに地球の「いのちの歌」ではないか、と。

⇒31日(火)夜・金沢の天気   

★ 「令和元年」回顧=実名報道

★ 「令和元年」回顧=実名報道

   大学でメディア論の講義をしていて学生たちからよく意見が出されたのは実名報道に関してだった。きっかけはこの事件。ことし7月18日に発生したアニメ制作会社「京都アニメーション」への放火で、社員70人のうち36人が死亡した。京都府警は8月2日に10人の実名による身元を公表し、同月27日に25人、その後10月11日にさらに1人の身元を公表した。警察側の判断では、葬儀の終了が公表の目安だった。    

      京アニメ事件、犠牲者の実名報道が問いかけること

   府警は同時に「犠牲になった35人の遺族のうち21人は実名公表拒否、14人は承諾の意向だった」(9月10日付・朝日新聞Web版)と説明している。その拒否の主な理由は「メディアの取材で暮らしが脅かされるから」だった。遺族側が警戒しているのはメディアという現実が浮かび上がった。

   警察側の身元の公表を受けて、メディア各社は実名を報道した。さらに、現場記者は被害者側のコメントを求め取材に入った。8月3日付の朝刊各紙をチェックすると、「亡くなった方々」として、実名だけでなく、年齢、住所(区、市まで)、そして顔写真もつけている。その写真は、アニメ作品の公式ツイッターやユーチューブからの引用だった。遺族から提供を受けたものもあった。

   マスメディア(新聞・テレビなど)の実名報道と遺族への取材について、学生たちは「被害者遺族にさらなる苦痛を与える取材はやめるべき」や「実名か匿名かは遺族の意向が最優先されるべき」、「いまのマスコミは加害者の名前を報道することには慎重になっているが、被害者の名前は当たり前にように軽く報道している感じがする」と辛口のコメントが多い。さらに、「被害者の実名報道が遺族に対するメディアスクラム(集団的過熱取材)の原因ではないか。被害者遺族への取材や実名報道にこだわる理由がわからない」とさらに手厳しい意見も。

   確かにメディアスクラムは以前からさまざまに批判を浴びている。「報道被害」という言葉も社会的にはある。記者が玄関のドアホンを鳴らしただけで、生活を脅かされたと敏感に感じる遺族もおそらくいる。遺族の心境は「そっとしておいてほしい」のひと言だろう。

   メディア側でもメディアスクラム化を避けるために、代表取材というカタチをとったりする。実際、京都アニメーション事件では、報道各社の代表者が、取材拒否の意向が明確な際はその意向を共有するよう努めることや、新聞・通信社とテレビの各1社を選び、代表社が遺族に取材の意向を尋ねる形式を取った。

   学生たちの意見は批判的なコメントが多かったが、一人の読者・視聴者の立場からすると、やはり実名であることが記事内容の真実性が伝わる。ただ、被害者や遺族へのコメントが必須かどうか。事件の状況が理解できれば、被害者側の心情は察するに余りあるものだ。ケースバイケースだが、被害者側のコメントはなくてもよい。

   もう一つ議論を呼んだのは、加害者の実名報道だ。マスメディアのWeb版で掲載された逮捕記事などはインターネットの掲示板などに転載されている。問題は、その後、証拠不十分で不起訴となったりするケースもままある。その場合でも容疑者のままネットで掲載されている。いったんネットに上がった実名と犯罪を消去することはおそくら不可能だろう。

   加害者の実名は裁判で判決が確定するまで掲載しないという論もある。しかし、逮捕段階からの実名報道は事件の真実性を担保することであり、匿名での記事は誰も注目しないだろう。

⇒30日(月)夜・金沢の天気    くもり

☆ 「令和元年」回顧=無謀な海

☆ 「令和元年」回顧=無謀な海

   あの北朝鮮からアメリカへの「クリスマスプレゼント」はどうなったのか。このままだと「お年玉」になるのだが。もちろん誰も欲してはいない。また、年末になると日本海は北西の風が吹き、大しけ(荒れ模様)となる。毎年このころ北朝鮮から日本に大量に届くものがある。「お歳暮」ではない、漂着船だ。

   日本海で繰り返される北の理不尽な振る舞い

   報道によると、今月27日に新潟県佐渡市の素浜海岸に打ち上げられた北朝鮮の木造船とみられる漂着船から7遺体が見つかったと第9管区海上保安本部が発表した。同本部によると、北の漂着船から遺体が発見されたのはことし今回が全国で初めてという(29日付・新潟日報Web版)。漂着船はことし1年で150件を超えている。それにしても、素浜海岸は佐渡島の西側、能登半島と向き合った位置関係にあり、能登の海岸に打ち上げられる可能性もあったと考えると他人事ではない。

   北の難破船は構造的な問題でもある。漂着する船のほどんどはイカ網漁船とみられる。北朝鮮の慢性的な食糧不足から国策として漁業を奨励し、「冬季漁獲戦闘」と鼓舞し、大しけでも無理して船を出しているようだ。北朝鮮は沿岸付近の漁業権を中国企業に売却しており、北の漁師たちは外洋に出ざるを得ない状況に置かれているとされる。いくら食糧確保のためとはいえ、古い木造漁船で出漁を煽るとは、難破の悲劇をわざわざつくり出しているようなものだ。ちなみに、日本の沿岸に着いた漂着船から見つかった遺体は2018年が14人、17年は35人、16年は11人(同)。見つかる遺体はごく一部だろう。                    

    問題はまだある。難破した木造漁船の漂着や漂流そのものが問題を引き起こす。転覆した木造船などはレーダーでも目視でも確認しにくいため、日本の漁船との衝突の可能性が出てくる。まさに「漂う危険物」だ。さらに、水難救助法では漂着船の解体処分や遺体の火葬をするのは自治体だ。2018年のまとめで、北朝鮮からとみられる木造船の漂着は201件で前年の2倍だった。そのうち、石川県での漂着船の処分は21件、経費は880万円に上った。最終的に国が全額負担、われわれの税金だ。

    ことし10月7日、北の漁船と衝突事故もあった。能登半島沖350㌔の日本のEEZ(排他的経済水域)で水産庁の漁業取締船と北朝鮮の漁船が衝突した。事故の原因は、取締船が北の漁船に放水して退去するよう警告したところ、漁船が急旋回して取締船の左側から衝突してきた(※写真、10月18日・水産庁が公開した動画映像から)。単なる操縦ミスなのか威嚇による故意の事故なのか、調べの措置がないまま、北の乗組員は救助され僚船に引き取られた。後日、北朝鮮側は「(日本の)意図的な行為」で漁船を沈没させたとして賠償を要求している。

   このような無謀で不合理、理不尽な光景がまた来年も日本海を舞台に繰り返されるのか。 

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