#コラム

☆次なる世界の目線は「TOKYO」に

☆次なる世界の目線は「TOKYO」に

           イギリスBBCテレビは新型コロナウイルスが及ぼす東京オリンピックへの影響について特集している(18日付・Web版)。見出しは「Coronavirus: What could it mean for the 2020 Olympics in Tokyo」(コロナウイルス:2020年の東京オリンピックに何をもたらすのか)。

   特集によると、五輪開催の2、3ヵ月前に出場選手は日本に入るので4月や5月には終息宣言が出されるのかと不安視する選手をインタビューなどを紹介している。IOC(国際オリンピック委員会)で東京オリンピックを担当するコーツ調整委員長が、東京都内で行った記者会見(今月14日)で、オリンピックは予定どおり、東京で開催する考えを強調したことも紹介している。

   印象的な記事の一文。「No Olympics has ever been cancelled or postponed due to anything other than war. To do so for a virus would be unprecedented.」(戦争以外でオリンピックがキャンセルまたは延期されたことはない。したがって、ウイルスでキャンセルや延期は前例のない)。確かに、2016年のリオ五輪でも、ジカウイルスの発生という問題はあったが予定通り実施さた。

   この記事を読めば東京オリンピックは予定通り開催と読めるのだが、イギリスでは政治利用もされているようだ。5月に行われるロンドン市長選挙の2人の候補者が、コロナウイルスの感染の拡大でオリンピックが東京で開催できない場合、代わりにロンドンで開くことが可能だとアピールしているようだ(21日付・NHKニュースWeb版)。

   以下、記事の要約。与党の保守党からの候補者はツイッターで「我々にはインフラと経験がある」としたうえで、「ロンドンは、求めがあればオリンピックを再び開催する用意はできている」と述べている。最大野党の労働党で、再選を目指す現職側も、NHKの取材に対し、東京五輪が中止になる可能性は低いとしながらも、「ロンドンには経験があり、仮に求められることがあれば開催に向けて最善を尽くす」とコメントしたという。

   候補者2人のコメントは東京オリンピックがコロナウイルスの危機にさらされているのではないかという有権者の関心事を巧みにとらえたものだろう。それにしても、選挙アピールの材料になるというのは、それはそれで日本の有権者としては心穏やかではない。

   さらに、アメリカのCNNニュース日本語版(21日付)は同国の疾病対策センター(CDC)が、日本への渡航に関する注意情報を出したと伝えている。中国本土以外の国や地域を対象とする注意情報の発令は香港に続いて2度目。警戒レベルは3段階で最も低い「レベル1」だが、今後さらに上げていく可能性もある。東京オリンピックの開催の可否はCDCに握られてしまったのではないか。CDCはWHOのように手加減はしない。

⇒21日(金)朝・金沢の天気    はれ

★ウイルス感染、とめどない波及

★ウイルス感染、とめどない波及

       日本は世界で第2位のコロナウイルス感染国だ。報道によると、日本での感染者は中国からの旅行者を含め70人、クルーズ船の乗客乗員が621人、チャーター機での帰国者が14人と、合計705人となった。世界は過敏になっている。そろそろ「日本に行くな、日本から来るな」の大号令がかかるのも間近ではないだろうか。 

   知人からきのう届いたメール。「コロナウイルスのために、孫の中学生の修学旅行が延期になったようだ。こんなことじゃ、日本の経済は危ないよ」と。知人は石川県加賀市に住む。修学旅行は5月に2泊3日で京都や大阪、広島に行く予定だったが、9月以降に延期されたようだ。知人が言うには、ウイルス感染を極度に恐れて、国民全体の消費マインドも急速にしぼんでいると案じている。

   これは元同級生の知人の話。来月8日に能登半島の七尾市で予定されていたマラソン大会が中止となった。知人は10㌔コ-スに応募していた。本人にとって、今回は10回連続の「記念出場」だったので、「しかたないのかな。でも、他では実施に踏み切った大会もある」とぼやく。

   私の職場でもある金沢大学でもウイルス感染に対する措置が取られた。ホームページで今月25日から始まる前期日程の試験について、受験生がウイルス感染した場合、ほかの受験生の感染を防ぐことを最優先にするため受験を認めない方針を決め、ホームページで発表した(18日付)=写真=。

   「一般入試(前期日程・後期日程)受験者 各位」と題したページにこのように説明している。「令和2年2月1日に、新型コロナウイルス感染症は、政令により『指定感染症』及び『検疫感染症』に指定され、学校保健安全法施行規則が規定する第一種の感染症とみなされました。本学では、新型コロナウイルス感染症等に罹患し治癒していない者は、他の受験者への感染の恐れがあるため、本学の入学試験を受験できませんので、御注意ください。なお、追試験等の特別措置は現時点では予定しておりません。」

   今月3日付で文科省は各国公立大学と私立大学に対し、受験生の進学の機会の確保を図る観点から、振り替え受験の実施や大学入試センター試験を参考にして合否を判定するなど、柔軟な対応をとるよう通達している。しかし、来週に迫る国公立の入試では日程的に、そして公平性の観点からもそのような措置が現実に取れないのが実情だろう。

   一方で、受験生の気持ちになって考えると、この日のために努力してきたので、少々熱があっても病院に行くことなく試験会場に行くのではないだろうか。

   このとめどないウイルス感染の余波、経済や暮らしに影響が出始めている。

⇒19日(水)夜・金沢の天気    くもり

☆コロナウイルス 「利と理の勘定」

☆コロナウイルス 「利と理の勘定」

   新型コロナウイルスの感染拡大の影響は多方面に及んでいる。きのう17日に届いたメールだ。ある証券会社が主催するセミナーの案内が中止という連絡だった。

   「お世話になっております。昨今の新型コロナウイルスの影響で本社で検討の結果、2月29日(土)の弊社、金沢支店での渋澤健氏のセミナーを中止しなければならないことになってしまいました。人数も100名を超え、楽しみにしているとのお声をたくさんいただき、私も入社以来の興奮で楽しみにしておりました。断腸の思いでございます。しかしお客様を守る観点から中止という決定になりました。大変なご迷惑をお掛けする結果となってしまい大変申し訳ございません。」

    渋澤健氏は、2024年度から福沢諭吉に代わって一万円札に登場する、日本資本主義の父といわれた渋沢栄一の子孫にあたる投資家。今月29日の金沢でのセミナーで「SDGs持続可能な地域を子どもたちへ~『起業家』による価値創造と『投資家』の役割~」と題して講演する予定だった。100人以上の申し込みがあったというから、楽しみにしていた人たちも多かったのだろう。ところがコロナウイルスによって、その楽しみが砕かれた。  

   この証券会社は金沢支店だけでなく、17日以降は個人の顧客を集めて各地の支店などで開いている株式や投資信託、それに資産形成をテーマにしたセミナーを中止する。来月末までに200件近いセミナーを予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大が収まる見通しになるまで、開催を見送ることにした(17日付・NHKニュースWeb版)。このほか、他の金融機関も来月末まで個人向けの投資セミナーの開催を見送ることを決めている。

   このメールでの知らせを読んで、さすがに証券会社は計算高いとの印象だった。開くことの利よりも中止するという理の方が勘定にあっているのだ。お客さまにはいっさいのリスクはとらせません、それはコロナウイルスも投資も同じです、と。

⇒18日(火)朝・金沢の天気     くもり時々ゆき

★早すぎるウメの開花、異常気象の心配

★早すぎるウメの開花、異常気象の心配

   金沢市内でウメがあちこちで開花している=写真=。何しろ暖冬なのだ。金沢地方気象台のホームページには「生物季節観測」というページがある。ウメやサクラが開花した日やウグイスやアブラゼミの初鳴きなどの日が記されている。ことしは金沢のウメの開花日が「2月3日」、平年は「2月26日」なので三週間余り早いことになる。ちなみに、最も早い記録は1998年の「1月28日」、最も遅い記録は1957年の「4月6日」だ。

           「梅は咲いたか、桜はまだかいな」などと、のんきなことは言っておられない。最も早かった1998年との差は4日しかない。1998年はエルニーニョ現象で世界的に異常気象が発生し、世界の平均気温が観測史上1位という記録的な高温となった。そして、スーパータイフーンと呼ばれた台風10号など超大型台風が暴れまくった年だった。ということは、昨年に続きことしも台風イヤーか。昨年の梅の開花は「2月18日」、ことしはさらに15日も早い。昨年よりさらに大荒れの台風かやって来るのか。梅を眺めながら、今年はどんな気象になるのかと心配になる。

    心配と言えば、新型コロナウイルスの感染が日本で広がっている。きょう16日のNHK番組で、加藤厚労大臣がクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で、新たに70人の乗客の感染が確認されたと述べていた。クルーズ船での感染者はこれで合わせて355人だ。この数字はすべて日本でカウントされるので、国内感染は400人を超えたことになる。死者は1人。さらに中国での死者は1665人、感染者は6万8500人と発表されている。東アジアへの厳しい視線が世界から注がれていることだろう。

    日曜日ということもあって、金沢の繁華街は人通りは多かったが、見る限り、7割がマスク姿だ。おそらく観光客であろう、レンタルの和服姿のカップルもマスクを着けていた。和服にマスクは似合わないと思うのだが。(※写真は16日午後、金沢市西町で撮影)

⇒16日(日)夜・金沢の天気     あめ

☆「大将」の道

☆「大将」の道

   四季折々、3ヵ月に一度ほどの割合で訪れている寿司屋がある。先日もカンター(6人掛け)に座り、海の幸を堪能した。白エビのイカごろかけ、イカのウニかけ、マグロのトロあぶり、彩りよく次々と出てくる。スピード感ある包丁さばきや握りの技術、小さなカウンターだが独特の食の空間が醸し出されて、これがまた味わい深い。

   カンター越しに店主との対話も楽しめる。一度聞こうと思っていた質問をぶつけてみた。「この店では、お客さんから大将と呼ばれますか、あるいはマスターと呼ばれますか」と。すると、「3人に2人は大将、1人はマスターですね」と笑った。続けて、「マスターと呼ぶ人のほとんどはシニアの方ですね」と。すると、隣の30代とおぼしき男性客は「そりゃ大将でしょう。寿司屋でマスターという外来語は何かヘンですよね」とうなずいた。

   60歳の真ん中、ひと昔前なら「高齢者」と呼ばれた自身も店主のことを「マスター」と呼んでいるので、確かにそうだ。でも、なぜいわゆるシアニ世代は「マスター」と呼ぶのだろうか。我々の世代は「大将」は「お山の大将」というイメージや、店主が我々より若いということもあって、「マスター」とつい呼んでしまうのかもしれない。もし、店主が70代だったら、「大将」あるいは「おやっさん」と呼んでいるかもしれないなどと話しながら、ブリ、サンマ、イクラ巻をつまんだ。   

   店主はもともと千葉の出身で、東京銀座の寿司店で修業を積んだ。金沢は縁もゆかりもなかったが、旅行で訪れた金沢の近江町市場に並ぶ魚介類の豊富さと鮮度の高さに惚(ほ)れ込んだ。すし屋として独立するなら金沢でと決めて単身で移住した。

   北陸新幹線金沢開業の1年後の2016年3月開店にこぎつけた。しかし、金沢で「鮨道」を極めるには超えなければならない難関が待っていた。ところが開店はしたものの、江戸前の銀シャリの味が金沢の食通の人には馴染まず、酢の配合が定まるまで試行錯誤の日々が続いたという。

    カウンター向こうの壁に『粋』と墨書の大額が飾られている。その右下に『人間到る処青山あり 極鮨道』と。世の中どこで死んでも青山(墳墓の地)はあるから、夢を達成するためにあえて郷里を出る。鮨道(すしどう)を極める。店主自らの書である。「大将」の道を極めようと人生修業に励む姿がここにある。

⇒15日(土)夜・金沢の天気    くもり

★コロナショック、「5G元年」の出鼻くじく

★コロナショック、「5G元年」の出鼻くじく

           知人からも誘いを受け、一度は行ってみたいと思っていたMWCがコロナウイルス感染の拡大で中止になったと聞いて驚いた。何しろ開催地は地球の遠方のスペイン・バルセロナ。そして、MWCはモバイル・ワールド・コングレス、世界モバイル展である。日本にとっては、「5G元年」に当たることから注目していた業界や関係者も多かったはず。まさに、コロナ感染で「5G元年」の出鼻がくじかれたと思っている関係者も多いのではないか。

   MWCは、毎年この時期にバルセロナで開かれていて、世界の通信関連企業がスマホや5Gなど最新の技術やサービスを展示する場として知られる。今年は今月24日から27日まで開催される予定だったが、コロナウイルスの感染が拡大する中での開催となることから、主催者は会場の消毒を徹底するとともに参加者に握手を控えるよう求めるなど対策を講じていた。

   ところが、12日になって主催者側はコロナウイルスに対する世界的な懸念の高まりから開催は不可能と判断し、開催を取り止めを発表した。報道によると、ソニーやNTTドコモのほか、韓国のLG電子、スウェーデンのエリクソンといった代表的な企業が「従業員や来場者の健康を守るため」などとして相次いで出展を見送った(13日付・NHKニュースWEB版)。

          おそらくMWCの開催中止で一番ショックを受けているのは中国の最大手通信機器「ファーウェイ」ではないだろうか。前回参加した知人からのリポート。「同社が誇るチップから中継、送信のトータル提案が、整理されてプレゼンされています。ネットワーク構築のAIを生かした効率の良い支援体制も用意されていました。5Gの技術では、世界のリーダー、それを印象づけるものでした。ブースで説明する人たちも自身満々です。制裁措置など、お構いなし。5G対応のチップを独自で開発し、それを生かした5Gネットワークの構築という分野で、その技術力を見せつけた、そんな印象でした」

   ここからは憶測だ。上記のリポートで描かれているように、MWCで張り切るのはファーウェイを始めとする中国の関連企業群なのだ。口角泡を飛ばすようなにぎやかな雰囲気なのだろう。ソニーやNTTドコモ、LG電子、エリクソンといった企業が辞退したのも、中国の関連企業から参加するスタッフからのウイルス感染を恐れたのではないだろうか。

   世界最大規模と評価が高い展示会の中止は今後、世界の展示会に波及するかもしれない。東京オリンピック・パラリンピックの開催のゆくえも気になる。

⇒13日(木)朝・金沢の天気   あめ

☆コロナ感染、アメリカの異常警戒の背景

☆コロナ感染、アメリカの異常警戒の背景

      新型コロナウイルスの感染拡大は止む気配がない。報道によると、中国・国家衛生健康委員会は新型コロナウイルスによる中国本土の死者が1113人、感染者が4万4653人になったと発表した(12日付・共同通信Web版)。厚生労働省はきょうクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗船者のうち新たに39人の感染が判明し、さらに検疫官1人も感染したと発表している。言葉は適切ではないかもしれないが、検疫官も巻き込みウイルス感染との戦いがまさにドロ沼化している。

   ニューヨーク・タイムズWeb版(2月6日付)=写真=で気になるが記事が出ている。「China’s Lavish Funds Lured U.S. Scientists. What Did It Get in Return?」。記事を要約すると、アメリカのハーバード大学教授が中国政府からの学術・研究協力の名目で多額の研究資金などを受け取っていたことを報告していなかったとして、アメリカ司法省は1月下旬、教授を「重大な虚偽、架空請求、詐欺」の容疑で訴追(逮捕は2019年12月10日、その後、21種類の生物学的研究を中国に密輸しようとした罪で起訴)していた。捜査当局はアメリカの71機関で、中国当局によって180件もの知的財産権が盗用された疑いがあるとして捜査を行っている。

   教授はハーバード大学化学・化学生物学部のチャールズ・リーバー氏で、ナノサイエンス・ナノテクノロジーの分野で世界最先端の研究を行っている化学者。リーバー氏は中国の武漢理工大学の「戦略科学者」として2011-16年までの雇用契約を結び、5年間で毎月5万㌦(540万円)の研究費と年間15万㌦(1620万円)の生活費を支給されていた。

   リーバー教授には「武漢理工大・ハーバード大共同ナノテクノロジー研究所」の設立費として150万㌦(1億6200万円)の資金も提供されていた。アメリカ司法省は、リーバー教授が中国側と契約を結んでいた時期と、アメリカ国防総省と国立衛生研究所から研究資金を受け取っていた期間が重なっていることを問題視した。

   注目したいのは、リーバー教授が中国と、アメリカ国防総省と国立衛生研究所からダブルで研究資金を受け取っていたころ、武漢理工大学に出向いていたことだ。教授はアメリカ国防総省と国立衛生研究所からの受託でどのような研究をしていたのか。単純に、生物化学兵器を連想させるのだが。そして、武漢理工大学でどのような研究をすることで、高額な所得を得ていたのだろうか。研究と言うより、ひょっとして生物学的研究の中国への持ち込みだったのか。

   アメリカはコロナウイルス感染に当初からきびしく対応している。今月2日から実施している3項目は、中国からの外国人の入国を一時的に禁止(過去14日以内に中国を旅行した外国人対象)、湖北省・武漢から帰国したアメリカ国民の強制隔離(2週間)、過去14日以内に湖北省以外の中国から帰国したアメリカ国民は2週間の監視付き自宅隔離。ヒトとヒトの感染が猛威を振るうことをあらかじめ見通していたかのような対策である。

   リーバー教授の生物学的研究の中国への密輸で逮捕・訴追、武漢理工大学での研究、武漢でのコロナウイルスの感染拡大、アメリカのスピーディな対応、どのような関連性があるのか。果たして一体化したストーリー展開はあるのか。偶然の出来事、なのか。

⇒12日(水)午前・金沢の天気     はれ

★ホスピタリティのプロ対応

★ホスピタリティのプロ対応

    1000人の大台が間近になってきた。肺炎を引き起こす新型コロナウイルスによる死者が中国で91人増え、中国全土の死者は計902人となった。感染者も全土で3万9000人となった(10日付・共同通信Web版)。収まる気配がない。

   TVメディアなどが連日報じている、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で新たに6人の感染を確認され、乗客乗員の感染者数は計70人となった(同)。「ダイヤモンド・プリンセス」のニュースで目を引いたのは、クルーズ船の運航会社「プリンセス・クルーズ」(本社:アメリカ・サンタクラリタ)は、集団感染が発生した今回のクルーズでの旅行代金を全乗客に全額払い戻し、無料にすると明らかにしたことだ(10日付・産経新聞Web版)。

   記事によると、同社は9日夜、船内の客室で待機する乗客に社長のメッセージを配布し、クルーズの旅行代金だけでなく、クルーズ前後の航空費やホテル宿泊費、送迎料金、オプションの寄港地での観光ツアーなども含め、今回の旅行で乗客が支払った全ての代金を全額を払い戻すとした。検疫下に置かれた待機期間中の費用も請求しないとしている。「ストレスを少しでも緩和できるよう願っています」との社長メッセージが添えられている。

   単なる太っ腹ではない。利益より客にストレスを与えないことを最優先するという、ある意味で「もてなし」と察する。もてなしはホスピタリティ(hospitality)と訳される。欧米のもてなしは癒しが言葉のルーツだ。サービス(service)は役に立つことや奉仕 、供給などの意味はで解釈されるが、ホスピタリティとはニュアンスが異なる。

   プリンセス・クルーズ社は現状の隔離状態によって、乗客に精神的な苦痛で与えていると相当重く受け止めたのだろう。しかし、現状では我慢を引き続きお願いするしかない。そこで金銭的な負担を一切かけないことで、ストレスを少しでも和らげる客対応に打って出た。乗客とすれば、会社側が大幅な経営赤字になることを覚悟でメッセージを丁寧に届けてくれたことを評価するだろう。「プリンセス・クルーズ社は私たちと痛みを分かち合ってくれている」と。こうした相互の信頼関係の構築がストレスの緩和になるのは言うまでもない。

   混乱の中での冷静な対応に、プロ意識を感じる。ウイルス感染の暗いニュースの中で心が和らぐ物語ではある。(※写真はプリンセス・クルーズ社のホームページより)

⇒10日(月)午前・金沢の天気    くもり時々ゆき

☆そのマスク姿が次なる風評被害に

☆そのマスク姿が次なる風評被害に

   ついに「SARS」を超えてしまった。中国・湖北省の保健当局は8日現在で、新たに89人が死亡したと発表した。中国全体での死者の数はこれで811人となった。2002年から2003年にかけて流行した新型肺炎「SARS」の世界全体の死亡者数が774人だったので、これを超えたことになる。感染者は中国全体で3万7千人となった(9日付・共同通信Web版)。

   中国は隔離や検疫などの対策を施しているが、ウイルスの封じ込めには至っていない。イギリスBBCのWeb版をチェックすると、日本の感染者は86人で中国に次いで2位。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で「隔離」されたマスク姿の日本人女性が日本の国旗に「くすり ふそく」と書いて訴える姿が紹介されている。アメリカCNNのWeb版では香港でのマスク姿の群衆が掲載されている=写真=。

         このような世界のニュースをチェックして気になるのは東京オリンピック(7月24日-8月9日)とパラリンピック(8月25日-9月6日)への影響だ。2002年11月に中国・広東省で発生したSARSが終息したのは翌年7月だった。足かけ9ヵ月かかっている。新型コロナウイルスの発生は昨年12月とされるので、SARSと同じ長さの流行期間と仮定すれば終息は8月だろう。

   冒頭で述べたようにコロナウイルスはSARSを超える勢いだ。日本人の感覚からすれば、「それは中国での数字でしょう」となるが、世界の目線からだと、東アジアでひと括りの話になる。ましてや今回のウイルス感染で、世界中に映像で広がった「マスク姿」はウイルス感染のシンボルになった。

   気になるのが、ウイルス感染がなくても、普段でも東京はマスク姿が目立つ。この夏に東京のマスク姿が世界に流れたらどうなるだろう。「東京ではまだウイルス感染が終息していない」との風評被害を拡散させることになるのではないか、と案じたりもする。

   WHOが終息宣言を出さない限り、東京オリンピック・パラリンピックの開催は無理だろう。早めに競技会場入りをする選手たちはもっとナーバスになっているに違いない。

⇒9日(日)午前・金沢の天気   くもり時々ゆき

★WHOへ1億㌦の太っ腹、1千万㌦の「なぜ」

★WHOへ1億㌦の太っ腹、1千万㌦の「なぜ」

           マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏の慈善財団が新型コロナウイルスの対策のために1億㌦を寄付することがニュースになっている。さっそくホームページ=写真=にアクセスすると、以下のプレスリリースが掲載されていた。

   「The foundation will provide up to $100 million to improve detection, isolation and treatment efforts; protect at-risk populations in Africa and South Asia; and accelerate the development of vaccines, drugs and diagnostics.」(財団は、検出、隔離、治療の取り組みを改善するために最大1億㌦を提供します。アフリカと南アジアのリスクのある人々を保護します。ワクチン、薬、診断薬の開発を加速します)

   1億㌦の寄付、日本円で109億円になる。寄付の先は感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)などにワクチンや治療薬の開発資金として最大6000万㌦、ウイルス拡散防止にWHOやアメリカ疾病管理予防センターなどに最大2000万ドル、さらに中国など複数の国家公衆衛生局にも支援を予定しているようだ。発表文では、「This response should be guided by science, not fear」(対策は恐怖ではなく、科学によって導かれるべきである)というゲイツ氏の言葉が添えられている。

   この言葉はどこかで聞いたことがあると思ったら、WHOが先月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言したときに記者会見したテドロス事務局長の言葉だ。「This is the time for facts, not fear.This is the time for science, not rumours.」(恐怖ではなく、事実の時。これは噂ではなく科学の時です)

   ということは、テロドス事務局長がゲイツ氏に寄付を要請する「営業」をかけたのではないかと察した。おそらくこの言葉を用いて、ワクチンや治療薬の開発資金を提供してほしいとゲイツ氏に直接懇願したのだろう。営業はゲイツ財団だけではない。なんと日本政府にも働きかけている。WHO本部で6日開かれた記者会見で、テドロス事務局長は資金面での協力を呼びかけに日本政府が1000万㌦の拠出を表明したと述べている(7日付・NHKニュースWeb版)。

   新型肺炎のまさに当事者である日本政府に資金拠出を要請するこの感覚は何だろう。緊急事態宣言に名を借りた寄付集めではないか、と考え込んでしまう。それにしても、金を出す日本政府も政府だ。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の船内に今月3日から乗客と乗員全員3600人を横浜港沖に停めおいて、その経費はだれが負担するのか。WHOへの1000万㌦、これが果たして国民が納得できる税金の使い方なのだろうか。

⇒7日(金)午後・金沢の天気    くもり時々ゆき