#コラム

☆北アルプス国際芸術祭 インスピレーションと3次元表現が織りなすアートの迫力

☆北アルプス国際芸術祭 インスピレーションと3次元表現が織りなすアートの迫力

  北アルプス国際芸術祭は、自然、芸術、生命、科学、テクノロジーが展示空間全体を使った3次元的表現(インスタレーション)で描かれていて、アートに迫力を感じる。山本基氏の作品『時に宿る』もその一つ。

  国際芸術祭の開催地である大町市はかつて千国街道の宿場町として栄え、日本海側の糸魚川から松本へ塩を運んだ「塩の街道」の拠点でもあった。江戸時代の庄屋で塩問屋を営んだ旧家の建物が今も残る。作品『時に宿る』は塩問屋の塩蔵の中で表現されている=写真・上=。塩を用いた作品を数々手掛けてきた山本氏にとって最高のステージではないだろうか。山本氏が「塩」にこだわる背景には、若くしてこの世を去った妻と妹との思い出を忘れないために塩を用いてインスタレーションを制作してきた。「塩も、かつては私たちの命を支えてくれていたのかも知れない。そんな思いを抱くようになった頃から、塩には『生命の記憶』が内包されているのではないかと感じるようになりました」(サイト「山本 基 – Motoi Yamamoto -」より)。その思いが緻密で迫力ある作品づくりに込められている。

  廃校になった県立高校の図書室。かつて知識と物語でいっぱいだったであろう本棚は空になっていた。この静寂な図書室に、4000ピースの「木の心臓」=写真・中=を制作したオーストラリア在住のマリア・フェルナンダ・カルドーゾ氏。作品名『Library of Wooden Hearts』。公式ガイドブックによると、スギの若木の芯から削り出した木片に心臓のカタチを見出したのがきっかで、近づいて見ると若木の鼓動を感じさせる。「奥能登国際芸術祭2023」では珠洲市に自生する松ぼっくりやツバキなどの実を素材に作品を制作し、種を包む種皮の強靭さや美しさを表現していた。自然が生み出したカタチや表情にインスピレーションを感じ、それを独自の視点で造形して観る者を包み込んでいる。

  「フェイクドキュメンタリー」はジャーナリズムの世界では忌み嫌われるが、アート作品であるならば楽しめる。映画監督でもある小鷹拓郎氏の作品『ダイダラボッチを追いかけて』=写真・下、作品チラシより=は、ドキュメンタリーとフィクションを往来するアートフィルム。大町市の仁科三湖(青木湖、中綱湖、木崎湖)に伝わる民話「巨人ダイダラボッチ」をテーマにした28分の映像。終盤では、市街地の真ん中に建設予定の松糸道路(松本市から糸魚川まで)をダイダラボッチに見立てた反対運動「ダイダラボッチやめろデモ」をこの映像に取り込んでいる。まさに現実と虚構が織りなす新たな民話に仕上がっている。

⇒26日(土)夜・金沢の天気 くもり

★北アルプス国際芸術祭 信濃の大地と自然が生み出す神秘なアート

★北アルプス国際芸術祭 信濃の大地と自然が生み出す神秘なアート

   長野県大町市で開催されている「北アルプス国際芸術祭2024」に来ている。アートディレクターの北川フラム氏が総合ディレクターを務める。国際芸術祭は去年秋に「奥能登国際芸術祭」を鑑賞して以来。北アルプスの雪の山々をイメージしてきたが、曇り空だったこともあり、あの雪の連なりの風景はまだ見れていない。水や風、植物など信州の自然を題材にした作品を楽しみにツアーバスに乗り込んだ。印象に残った作品をいくつか。

  北アルプスの雪解け水と湧き水に恵まれる大町は湖が多い。その一つ、木崎湖畔にたたずむ仁科神社の鎮守の森に、無数のプラスティックレンズが吊り下がる空間がある。その数は2万個にも及ぶ。カナダを拠点とするアーティスト、ケイトリン・RC・ブラウン&ウェイン・ギャレットによる作品『ささやきは嵐の目のなかに』=写真・上=。まるで、森の中に大粒の雨が注いでいるように感じる。レンズから森を眺めると、まったく別の森の風景が広がる。

  まるで空と大地が一体化する神秘な風景のようだ。北アルプスを仰ぎ見る田園に囲まれた鎮守の森の中に鎮座している須沼神明社の神楽殿。絹に木版で描いた羽衣のような布が風にたなびく様子は天空に流れる「雲海」を感じさせる。宮山香里氏の作品『空の根っこ -Le Radici Del Cielo-』=写真・中=。羽衣のような布は、空に流れる雲のようでもあり、大地に根差した根っこのようでもある。神楽殿は神々の来臨や神託を願う歌や舞いの儀式が営まれる、聖と俗、常世と現世の「神と人との接点」のステージだ。「隔たり」ではなく「つながり」の世界を感じさせる。 

  大町には豊かな里山が広がる。かつて麻の産地として栄えた美麻地区にある1698年築の茅葺き屋根の民家「旧中村家住宅」は国の重要文化財でもある。麻を使ったカーテンをくぐった先にあるう厩(うまや)では、かつて麻畑だった場所で採取した植物を焼成しガラスのなかに閉じ込めた、芸術的なタイムカプセルのような作品が広がる。佐々木類氏の作品『記憶の眠り』=写真・下=。佐々木氏は身近な自然や気候に思いを寄せ、保存や記録が可能なガラスを使った作品を制作している。この地区の暮らしをかつて支えていた麻栽培はいまは行われてはいない。大町の記憶がガラスの中で眠っている。

  公式ガイドブックの中で、北川フラム氏は「土地と自然という私たちのベースになる基本の調査を現場で具現化するというアートの根本に、世界ではじめて取り組んだ作家の恐るべき想像力と先見性を、ぜひ見てください」と述べている。

⇒24日(木)夜・長野県大町市の天気 くもり

☆罪を裁く人、不正を監視する人が罪を犯す 職業倫理失い「タガが外れた」日本人の姿

☆罪を裁く人、不正を監視する人が罪を犯す 職業倫理失い「タガが外れた」日本人の姿

  自身がまだ小さいころ、父親から「人を見たらドロボーと思え」と諭された。「世の中、悪いことをするヤツがいっぱいいる」と。もう60年以上も前のことだが、このところのメディア各社の報道に目を通していて、父親の言葉を思い出した。

  関東地方で頻発する押しかけ強盗もさることながら、驚いたのは裁判官による犯罪行為だ。金融庁に出向していた30代の男性裁判官が業務を通じて知った公表前のTOB(株式公開買い付け)情報などを基に株取引を繰り返していたことから、金融商品取引法違反(インサイダー取引)の疑いで証券取引等監視委員会の強制調査を受けた(今月19日付・メディア各社の報道)。また、不正な株取引の監視などを担う「日本取引所自主規制法人」(JPXR)の男性職員が未公開の企業情報を親族に漏洩しインサイダー取引に関与したとして、同じく証券取引等監視委員会の強制調査を受けた(きょう23日付・同)。罪を裁く人、不正を監視する人が不正を働いている。これは偶然なのか、あるいはプロが実利に動く時代に入ったのか。監視委では2人を東京地検特捜部への告発を視野に取引状況を調べているという。

  そして、教育の最前線にいる教職員が児童や生徒らに対し、わいせつ行為(セクハラ)をするという事例がここ数年頻繁に報道されている。これは特殊な事例だが、埼玉県教委は今月17日、20年前に勤務していた小学校の男子児童にわいせつな行為をしたとして、県教育局の女性職員(課長級)を懲戒免職とした。児童だった男性から県教委のホームページに情報提供があったことから発覚した(今月18日付・メディア各社の報道)。(写真は、ミケランジェロ作「最後の審判」)

  セクハラについては、就職活動を行う学生に対し、企業の人事担当者らが学生らに行うケースが多い。厚労省の調べによると、学生の4人に1人が就活ハラスメントを経験している。その内容は「性的な冗談やからかい」40%、「食事やデートへの必要な誘い」26%、「性的な事実関係に関する質問」26%などとなっている(令和2年度「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」)。このため、厚労省では就活セクハラの防止を企業に義務付けすることを検討し、来年の通常国会で関連法改正案の提出を目指す。

  冒頭の「人を見たらドロボーと思え」の言葉はいま思えば実にリアルに思えてくる。職業倫理を失い「タガが外れた」現代日本人の姿がそこにある。

⇒23日(水)夜・金沢の天気   くもり時々あめ

★能登の二重被災と総選挙~赤黄の花を横目に選挙カーが走る~

★能登の二重被災と総選挙~赤黄の花を横目に選挙カーが走る~

  金沢と能登を自家用車で往復すると、この季節の色とりどりの「フラワーロード」を目にする。能登空港の近くを走る奥能登の幹線道路「珠洲道路」を走ると赤いサルビアの花が咲き競っている。観光マップによると、道路両サイドで併せて4㌔、4万本のサルビアが植えられている。例年だと6月から9月が見ごろだが、10月に入っても25度前後の暑さが続いたせいか、いまも赤々と咲き誇っている。そして、自動車専用道路「のと里山海道」の法面で黄色く群生しているのがセイタカアワダチソウだ。帰化植物(外来種)。北アメリカ原産の多年草で、土手や荒れ地、休耕田などで生い茂っている。環境省が対策が必要な外来種としてリストに掲載している。もちろん花に罪はなく、赤や黄色の花がまぶしいほどだ。

  ブログのシリーズ「能登の二重被災と総選挙」では、今回の衆院選挙について能登の有権者は何を思い、どの候補に一票を入れるのか、そして候補者は何を訴えているのか、そんな目線で書いている。

  選挙戦も後半戦に入り、メディア各社が情勢を伝えている。共同通信の調査(20、21日)に地元メディアが独自の取材を加味して報じている。北國新聞(22日付)は、「与党過半数は微妙 自民苦戦、大幅減も」、接戦となっている能登地区を含む石川3区については「近藤氏を西田氏追う」との見出しで情勢を紹介している。それによると、立憲民主・前職の近藤和也氏(50)は立民支持層の8割を固め、「支持政党なし」の無党派層でも6割以上に浸透している。自民・前職の西田昭二氏(55)は自民支持層の6割超、公明支持層の8割を固め、無党派層の取り込みを急いでいる、としている。共産新人の南章治氏(69)を支持する共産支持層は7割で、2割は近藤氏に流れている、としている。

  北陸中日新聞(22日付)は共同通信の調査に加え、石川3区について独自のネット調査を加味して報じている。「与党過半数は微妙 立民が勢い維持」、石川3区については「近藤氏優勢変わらず」との見出しで情勢を紹介している。記事によると、近藤氏は支持政党なし層にも浸透。自民支持層の一部が近藤氏に投票すると答え、裏金問題などで西田氏が支持層を固め切れていない状況がうかがえる、としている。

  前回ブログで輪島市の仮設住宅で設けられた期日前投票所での「出口聞き取り」の内容を紹介した。わずか10人(男女それぞれ5人)に聞いた話だが、近藤氏を支持する声がやや多かった(6人)。その中で意外な声だったのが女性から聴いた、「(地震と豪雨の二重被害では)立民と自民が協力してほしい。自民にハッパをかける意味であえて近藤さんに入れた」との声だった。近藤氏は今回の選挙に一貫して反対し、防災服を着てたすきを掛けず、能登復興を最優先すると、被災地区を中心に選挙活動を続けている。そんな姿が能登の自民や共産支持層の一部でも共感を呼んでいるのかもしれない。

⇒22日(火)午前・金沢の天気   くもり

☆能登の二重被災と総選挙~仮設住宅で期日前投票、出口で聞き取り~

☆能登の二重被災と総選挙~仮設住宅で期日前投票、出口で聞き取り~

  きょう21日は奥能登の「記録的な大雨」から1ヵ月となる。石川県のまとめによると、住宅の床上浸水などの被害は1487棟に上る。これにより、輪島市と珠洲市、能登町の3市町で合せて434人が避難生活を続けている(今月18日時点)。豪雨の影響で輪島市と珠洲市で断水が起きていて、両市で合せて1000戸余りにおよぶ。今回の能登豪雨ではこれまでに14人が死亡、1人の行方が未だ分かっていない。地元メディアによると、輪島市役所ではきょう午前9時30分、市長や職員が犠牲者に黙とうを捧げた。先月21日の午前9時22分までの1時間に降った雨の量が輪島市で観測史上最大の121㍉に達し、犠牲者が出たことからこの時間での黙とうを設定した。

  話は衆院選に。輪島市町野町の仮設住宅「町野町第2団地」(268戸)できょう期日前投票所が設けられた。現地を見に行った。町野町ではこれまで、市役所の支所で期日前投票が行われていたが、今回の豪雨で床上浸水となり使えなくなり、仮設住宅の集会所に期日前投票所が設けられた。訪れた人たちはこれまでとは少々狭い場所ながら1票を投じ=写真=、出口で知り合いと出会うとあいさつを交わしていた。投票所には仮設住宅だけでなく地域の有権者も訪れている。

  現地に出向いた動機に「出口調査」を試みたいとの思惑があった。仮設住宅に住む人たちはこの選挙をどう思い、誰に投票したのか、そんなことが知りたかった。そこで、投票を終えた人に声かけし、石川3区の候補者のポスター掲示板を撮影し画像をプリントしたものを見せて、投票した候補者を指差ししてもらった。何人にも断れたが、男女それぞれ5人に応じてもらった。立候補しているのは、3選を目指す自民前職の西田昭二氏(55)、4選を目指す立憲民主前職の近藤和也氏(50)、共産新人の南章治氏の3氏(69)。近藤氏は2回連続で西田氏に敗れたたものの、比例代表で復活当選している。

  「出口調査」と述べたが、対象はわずか10人なので調査としてはデータ不足でもあるので、「出口聞き取り」との表現が適切だ。その結果は、近藤6票、西田4票だった。女性5人は全員、近藤氏を指差した。男性は4人が西田氏を、1人が近藤氏を指さした。その理由も尋ねた。女性は「地震と大雨の能登を任せるのはなるべく若い人がいい」「近藤さんは仮設住宅を訪れ、私たちの不満などに耳を傾けてくれている」「(地震と豪雨の二重被害では)立民と自民が協力してほしい。自民にハッパをかける意味であえて近藤さんに入れた」と話してくれた。一方、西田氏に入れた男性は「(能登の二重被災には)自民がしっかりしてもらわないと困る」「復興復旧をはやく進めるために自民の国会議員にはがんばってほしい」「国への要望などパイプ役を西田氏は担っている」と述べた。

  仮設住宅のある地域に住民票を移していない人も多いことから有権者であれば誰でも投票できる期日前投票所を仮設住宅に設けた。ここでの期日前投票はあす22日も午前9時から午後4時まで行われる。23日以降は輪島市町野小学校に場所を移す。

⇒21日(月)夜・金沢の天気   はれ

★能登の二重被災と総選挙~防災服姿でたすき掛けはせず~

★能登の二重被災と総選挙~防災服姿でたすき掛けはせず~

  能登地方を含む石川3区で立候補している、立憲民主の前職の近藤和也氏の選挙活動を金沢市と隣接する内灘町で見てきた。その立ち姿はまったく選挙らしくない。防災服姿で、たすき掛けもしていないのだ=写真=。地元メディアで何度も報じられているが、近藤氏は七尾市での出陣式で「与党も野党も関係なく、助け合わなければならない時期。選挙なんてやっている場合か。それが能登の総意だと思う」と憤りの声を上げた。選挙実施への反発を込め、選挙期間中は防災服姿で、たすき掛けをしないことを宣言したのだ。その主張はいまも一貫している。

  元日の地震後、これまで選挙区内で整備された6000戸余りにもなる仮設住宅を足しげく回り、被災者の声を国会論戦などで反映させてきた。地震と豪雨の二重被災の奥能登(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)へは選挙期間中にそれぞれの自治体を2回ずつ回るという。「まだ能登は大変なんだと全国に訴えていきたい」と述べていた。

  選挙戦はあすから後半戦に入る。メディア各社は世論調査による選挙情勢を伝えている。石川3区の情勢はある意味で全国が注目する選挙でもある。自民前職の西田昭二氏、そして近藤氏、共産新人の南章治氏の3氏が立候補しているが、注目されているのが西田氏と近藤氏の競り合いだ。3選を目指す西田氏の前回(2021年10月31日投開票)の得票数は8万692票、4選を目指す近藤氏の前回は7万6747票だった。その差は3945票。近藤氏は2回連続で比例代表で復活当選していて、選挙区での議席獲得を目指す。

  選挙序盤の情勢を日経新聞(18日付)は「近藤先行、西田が猛追」との見出しで「近藤が立民支持層の9割、無党派層の5割をおさえて先行する。西田は自民支持層の7割をまとめ激しく追う」と記している。共同通信の情勢調査では、「近藤氏やや先行、西田氏追う」の見出しで、「西田、近藤両氏の3度目の対決となる3区では、近藤氏が立民支持層の9割以上を固め、共産支持層の3割近くにも浸透している。無党派層は6割が近藤氏を支持している。西田氏は公明の7割超、自民の6割近くを押さえた」とある(17日付・北國新聞)。

  「選挙なんてやっている場合か、これは能登の総意だ」と解散を批判してきた近藤氏に風は吹くのか。復興に向け国とのパイプ役を訴える西田氏が後半戦を突破するのか。

⇒20日(日)夜・金沢の天気    はれ

☆能登の二重被災と総選挙~ウグイス嬢のマイク叫びは控えめ~

☆能登の二重被災と総選挙~ウグイス嬢のマイク叫びは控えめ~

  衆院総選挙の期間中に見るいつもながらの光景は「ウグイス嬢」「桃太郎」「ドブ板」の3つではないだろうか。ウグイス嬢は選挙カーに乗って、「〇〇をよろしくお願いします」とマイクで叫びながら街を流すが、終盤ともなると「最後最後のお願いです。どうぞどうぞよろしくお願いします」と泣きが入った声になる。「桃太郎」はたすきをかけた候補者が、のぼりを持った運動員たちとともに街のメイン通りや商店街を練り歩き、支持を訴える。このシーンは、桃太郎がキジやサル、イヌたちとのぼりを立てて鬼退治に向かう昔話からそう名付けられている。「ドブ板」は候補者が裏路地まで入って地域の有権者にあいさつする光景だ。

  では、石川3区ではどのような選挙の光景が繰り広げられているのか。きのう(18日)午後、自民前職の西田昭二氏は輪島市町野町の仮設住宅で遊説を行っていた=写真=。町野地区では元日の地震で、さらに9月の記録的な大雨で山から土砂が流れ多くの家屋が全半壊する二重被災に見舞われた。倒壊した家屋がいまも野ざらしになっている場所も少なくない。

  ここでマイクを握った防災服姿の西田氏は自らも被災して家族は仮設住宅で暮らしていると話し、「あまりにも被害が大きく、復旧復興には時間がかかる。どれだけ環境が変化しても、能登に住む方にとってここは大切な場所。安心してふるさとで暮らせるよう、住宅の再建や生業(なりわい)の再生に、『出来ることは全てやる』『やらなければならないことは必ずやる』との強い思いをもって全力で取り組む」と述べていた。

  冒頭で述べた「桃太郎」「ドブ板」の光景は仮設住宅ということもあり遠慮したのだろうか、支援者と握手を交わす以外は見ることはなかった。西田氏はその後、別の仮設住宅へと向かった。選挙カーの「ウグイス嬢」はマイクのボリュームを低めに「よろしくお願いします」と叫んではいたものの、「被災されお亡くなりになられましたご遺族の皆様へ心よりお悔やみを申し上げます」とのフレーズも何度か入れていた。被災地に気配りをした選挙活動だった。

  石川3区の3候補はどのような能登の将来ビジョンを訴えているのだろうか。地元の新聞メディアが3氏に、「能登の復旧・復興、将来のグランドデザインをどう描くか」とのアンケートを行っている。これに対し、西田氏は「移住定住の促進とコミュニティーの再生、交通インフラの改善、関係人口の増加など施策を組み合わせ一歩一歩進めることが必要」、立憲民主の前職の近藤和也氏は「能登の農林水産業の活性化を図る。浮体式の洋上風力発電は成長産業の軸にもなり、能登のその候補地となりうる」、共産の新人の南章治氏は「被災地の医療・介護事業、施設の経営を国と自治体が支え、高齢者の人権と尊厳が守られる年金、介護、医療制度の改革を進める」と述べている(19日付・北陸中日新聞)。

  3氏のビジョンはどれも能登の復興には欠かせない。一つにまとめて復興計画に組み込めないものだろうか。

⇒19日(土)夕・金沢の天気    あめ 

★能登の二重被災と総選挙~3候補者それぞれの被災体験~

★能登の二重被災と総選挙~3候補者それぞれの被災体験~

  元日の地震と9月の記録的な大雨に見舞われた選挙区である石川3区で立候補している3人はそれぞれが被災者でもある。これまで地元メディアで3氏が語った被災体験をピックアップしてみる。

  自民の前職の西田昭二氏は元日に地元七尾市内などでの街頭演説を終え、買い物をしていたときに揺れが襲った。市内の自宅は屋根瓦が落ちるなどの中規模半壊となった。しばらく家族とともに親族宅に身を寄せ、今は仮設住宅に入った。被災地をめぐり惨状を目にした。生活再建の支援策をめぐって被災者から辛辣な言葉を投げられたこともある。むしろ、そうした声を真摯に受け止め、国に伝えるパイプ役がこそが自らの役割と言い聞かせ、公費解体の加速化や液状化対策などの課題を関係省庁に訴え調整してきた。

  立憲民主の前職の近藤和也氏は、被災地の能登でなぜ今、選挙をしなければならないのか疑問を持って、選挙に臨んでいる。能登半島の先端にある須須神社で元日の初詣をして、七尾市への帰り道で妻子とともに被災した。場所は穴水町のガソリンスタンド。その日の夜になんとか七尾にたどり着き、町内の避難所に行く。仕切り役が不在で自らトイレや寝床の確報に奔走した。東日本大震災などの被災地で経験したことが役立った。これまで能登の仮設住宅をすべて回り、困りごとなど聞いてきた。給付金など実現できたこともあるが、やらねばならない課題が山積している。

  共産の新人の南章治氏は、金沢市と隣接する内灘町の自宅で被災した。内灘は液状化現象が激しく住宅や道路などで多数の被害が出た。震災の翌日には車を走らせ、羽咋市の党事務所で仲間の安否確認から始めた。この間、支援物資の提供や被災者の要望を聞いて回った。発生から1ヵ月もたたないとき、目を疑ったことがある。奥能登のある1次避難所を訪れたとき、冷たい弁当すらない現状だった。東日本大震災の対応より後退していると思った。被災地の人々は一緒に精神的打撃を受けたのに、建物の被害判定で支援の幅が異なることを歎く被災者の姿も見てきた。

  選挙という枠では票数が基準となるが、3氏のそれぞれの被災経験、そして被災地や避難所での活動には政治の枠を超えた「人道」を感じる。こうした体験や感性を今後、政治に活かしてほしいものだ。

⇒18日(金)午後・金沢の天気      くもり 

☆能登の二重被災と総選挙~仮設住宅の入り口にポスター掲示板~

☆能登の二重被災と総選挙~仮設住宅の入り口にポスター掲示板~

  読売新聞と日経新聞が協力して実施した総選挙序盤における世論調査(1選挙区500人以上、計16万5820人の有効回答、15ー16日実施)によると、自民は全289選挙区のうち議席獲得が「有力」だったのは3割ほどにとどまった。全国11ブロックで争う定数176の比例代表も前回2021年に獲得した72議席を下回る見通しとなった。このため、自民は定数465の衆院の過半数にあたる233議席に届かない可能性がある。自民の単独過半数割れとなれば民主党に政権交代した2009年衆院選以来となる。派閥を巡る政治資金問題など政治不信の強さが浮き彫りになった(16日付・日経新聞Web版)。

  また、共同通信の調査(15万6993人の有効回答、15ー16日実施)によると、小選挙区のうち自民がリードしているのは140程度にとどまり、比例代表も前回を下回るのは避けられない情勢。単独過半数は「予断を許さない」としている。両調査とも立憲民主に勢いがあると分析している(17日付・新聞メディア各社)。

  きのう(16日)石川3区(能登地区などの12市町)の輪島市に行ってきた。漁港では海底が隆起して港から漁船が出れなくなっていて、いまも海底の土砂をさらう浚渫(しゅんせつ)作業が行われている。漁協の荷捌き場も改修工事中だった。近くの漁師町も公費解体が進んでいないように見受けられた。漁港近くの通ると、元日の地震と9月の記録的な大雨に見舞われた奥能登での選挙を象徴するような光景が見えた。仮設住宅街の入り口に選挙の候補者ポスターの掲示板があった=写真=。

  ポスター掲示板を眺めている地元の人が数人いた。その横を通ると、「なんで選挙なんかするんや、ダラくさい」の声が聞こえた。「ダラくさい」は能登の方言でばかばかしいという意味だ。誰のために、何のために選挙をするのかと問うているようにも聞こえた。このひと言が能登の被災地の人たちの率直な気持ちを言い表しているのかもしれない。

  そして、輪島市内では選挙の雰囲気が感じられない。ポスター掲示板そのものがほとんど見当たらないのだ。同市は前回選で159ヵ所にポスターの掲示板を設置したが、土地の所有者と連絡が取れないケースが相次ぎ、今回は60ヵ所にしたようだ(15日付・読売新聞Web版)。市内には2時間半ほど滞在したが、石川3区で3人が立候補しているにもかかわらず、選挙カーを一度も見かけなかった。被災地での選挙遊説を遠慮しているのか。

⇒17日(木)午前・金沢の天気     はれ

★金沢も能登の二重被災地も選挙戦に突入 季節の花も咲き競う

★金沢も能登の二重被災地も選挙戦に突入 季節の花も咲き競う