#コラム

☆北の弾道ミサイル、能登沖200㌔落下から3年

☆北の弾道ミサイル、能登沖200㌔落下から3年

   今月15日に河野防衛大臣が地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を撤回すると表明してから10日余りが経った。その理由は最初よく理解できなかったが、ミサイルの「ブースター」と呼ばれる推進補助装置を基地内で落下させる想定だったが、基地の外に落下する可能性もあり、設備に大幅な改修と追加コストが必須となることから撤回に踏み切ったと報道各社が報じている。

   イージス・アショアの配備を撤回すると、日本は当面これまで通り、海上のイージス艦と地対空誘導弾パトリオット(PAC3)による迎撃態勢となる。一方の北朝鮮は、「金正恩委員長が、敵の艦船などの個別目標を精密打撃することが可能な弾道ミサイル開発を指示したと発表していることも踏まえれば、弾道ミサイルによる攻撃の正確性の向上を企図しているとみられる」(令和元年版防衛白書)。つまり海上のイージス艦船などを集中攻撃してくる可能性が高い。破壊された場合、イージス・アショアがなかったらどう防衛するのか。国家安全保障会議(NSC)はこの夏に集中的に討論されるが、見守りたい。

   北が弾道ミサイルを撃ち込む標的の一つが能登半島とされる。2017年3月6日、北朝鮮が「スカッドER」と推定された中距離弾道ミサイル弾道ミサイル4発を発射し、そのうちの1発は能登半島から北に200㌔㍍の海上に、3発は秋田県男鹿半島の西方の300-350㌔㍍の海上に、いずれも1000㌔㍍飛行して落下した=写真=。

   能登半島の先端・輪島市の高洲山(567㍍)には航空自衛隊輪島分屯基地のレーダーサイトがある。このレーダーサイトには、航空警戒管制レーダーが配備され、日本海上空に侵入してくる航空機や弾道ミサイルを速く遠方でも発見するため24時間常時監視している。日本海は自衛隊の訓練空域でもっとも広く、「G空域」と呼ばれる。そのエリアに、しかも監視レーダーサイトの目と鼻の先の200㌔に北朝鮮はスカッドERを撃ち込んだのだ。

   男鹿半島にも加茂分屯基地の警戒管制レーダーが配備されている。北とすれば、この日本の2ポイントのレーダーサイトヘの攻撃は完全に射程距離に入れたとのメッセージを込めたのだろう。北が中距離弾道ミサイルを日本に撃ち込むとすれば、おそらく防衛ラインの「目と耳」であるレーダーサイトだ。ここを叩けば、丸腰同然となる。イージス・アショアの導入が決定したのはこの年の12月だった。

   あれから3年、北の弾道ミサイルはさらに高性能化したに違いない。低空飛行や軌道の変更が可能な「戦術誘導兵器」化した新型ミサイルがそれだ。イージス・アショアを白紙に戻したのも、ブースター落下問題というより、防衛戦略の総合的な見直しが急がれるとの判断なのかもしれない。

⇒26日(金)朝・金沢の天気   あめ

★コロナ禍の陰で横行する「ショートメール詐欺」

★コロナ禍の陰で横行する「ショートメール詐欺」

   先日、自分自身のスマホのSMSに「お荷物のお届けにあがりましたが不在のため持ち帰りました。ご確認ください」と、宅配業者の不在通知のようなショートメールが届いた=写真=。その文字の下にURLがあった。どんな荷物が届いたのかと、そこにアクセスすると何も映らなかった。一瞬気がついた。「やられた」。即キャンセルをかけた。

   宅配業者を装った詐欺メールだ。その後、スマホには覚えのない電話番号からの着信が2度あった。もちろんこちらから電話をかけることはしなかった。この詐欺メールは実に巧妙だ。というのも、荷物が着払いの場合は宅配業者から事前に荷物を届ける旨の電話がある。普通、荷物には届け出先の電話番号が記されているので電話がかかってきても当然だと思う。その一般常識の盲点を突いた詐欺メールだ。

   通常のメール(Eメール)だったら、宅配を名乗っても「なぜアドレスを知っている。フィッシング詐欺か」と削除するものだ。これがスマホのショートメールだったら、荷物の届け出先の電話番号に携帯番号が記載されることもままあり、疑念はさほどわかないだろう。そこでネットなどで調べてみると、SMSを使った詐欺メールはEメールを使った場合と区別して「スミッシング詐欺」とも呼ばれ、一昨年前から出始め今ではかなり被害が広がっているようだ。新型コロナウイルスの影響で在宅時間も多くなり、宅配も増えている。その陰でこのような詐欺メールが横行している。

   きょうたまたま銀行から「偽のお荷物不在通知メールやSMSにご注意」とEメールが届いた。アクセス先にこの銀行の番号とパスワードを入力させ、不正送金させる被害が多発しているようだ。メールでは「被害に遭わないための注意」として3項を呼びかけている。「1.詐欺やSMSメールに埋め込まれたリンクは絶対クリックしない! 2.万一、偽サイトに誘導されても、お客さま番号・パスワード等は絶対入力しない! 3.万一、電話の自動音声で確認コードを伝えられても、誘導先サイトに絶対入力しない!」

   佐川急便の公式ホームページをチェックすると、先月5月14日付で注意喚起している。「佐川急便を装った迷惑メールが届くというお問い合わせが急増しております。このような迷惑メールに記載されているアドレスにアクセスしたり、添付ファイルを開いたりされますとコンピューターウィルス等のマルウェアに感染する恐れがございますのでご注意ください。なお、当社では荷物の集配についてショートメール(SMS)によるご案内は行っておりません」。

   どのように悪質な詐欺なのか、さらにネットで調べる。私が持っているスマホはいわゆるAndroid端末だ。これでSMSに記載されたURLにアクセスすると、偽サイトの画面が表示される。偽サイトには、「設定マニュアル」と書かれたインストール手順が記載されている。自身ははたと気がついて、画面をキャンセルした。もしうっかりと手順通りにアプリをインストールしていたら、自身の端末から不在通知を装うSMSが大量に送信されたり、キャリア決済で勝手にiTuneカードが購入されるという被害にあったかもしれない。

   ここで思う。ショートメール詐欺に対策の手を打つべきはキャリア、つまり携帯電話会社ではないか。事例としてはそぐわないかもしれないが、SNSではすでにフェイクや不適切な発言内容について規制をかけ始めている。キャリアとして対策を打ってほしい。個人の責任論ではもう済まない段階にきているのではないだろうか。

⇒25日(木)夜・金沢の天気    あめ

☆ウィズコロナの光景 クマと廻り焼香

☆ウィズコロナの光景 クマと廻り焼香

   きょう朝、大学からの一斉メールで「クマ出没注意」があった。午前5時19分、角間キャンパスの入り口の交差点付近での目撃情報が寄せられた。今月1日にも今回目撃されたところの近くで出没している。このため大学では学生たちに「鈴など音が出るものを携行しましょう」「集団での登下校などに努めましょう」「クマを引き寄せる残飯等のゴミは所定の場所に捨てる、または持ち帰りましょう」と日頃の注意行動を呼びかけている。

   キャンパスはかつて里山といわれた中山間地だが、山奥から人里まで切れ目なく森林が続く。この時節はキャンパスを流れる川の沢沿いを伝って新芽や新葉、果実類など求めて出没する。クマは人気(ひとけ)のないところを徘徊する。懸念するのは、この新型コロナウイルスの影響で、クマの出没が増えるのではないか、と。今月19日から対面授業は再開されたものの、51人を超える講義などは在宅での遠隔授業(オンデマンド)となる。登学してくる学生は4分の1ほどではないだろうか。クマにとって静かな、心地よいキャンパスなのである。

   話は変わるが、このブログでは前日どのページが何回検索されたかが表示される。最近目立って検索が増えているのが「廻り焼香」(2015年2月27日付)だ。通夜や葬儀・告別式の弔問客が焼香のみ行い、そのまま帰るという風習について述べた。もともと福井にある葬儀の風習で、多くの弔問客が滞りなく焼香を済ませるための知恵だったが、葬儀が小規模化した今でも廻(まわ)り焼香の風習は生きている。

   この廻り焼香はウィズコロナの時世にマッチする。あえて言葉を交わさず、祭壇に向かって合掌し焼香のみで帰る。すでに一部で「ドライブスルー焼香」や「オンライン葬儀」といった新たなカタチの葬式に取り組んでいる葬儀会社があると報道(6月22日付・NHKニュースWeb版)もあった。これまでの慣習が覆され、新しい生活様式が模索される中で、葬式の有り様も変わるかもしれない。ウィズコロナの光景ではないだろうか。

⇒24日(水)午前・金沢の天気    はれ時々くもり

★「弁当忘れてもマスク忘れるな」

★「弁当忘れてもマスク忘れるな」

   「弁当忘れても傘忘れるな」。地域ならではの教えというものがある。金沢は年間を通して雨の日が多く、年間の降水日数は170日余りと全国でもトップクラス(総務省「統計でみる都道府県のすがた」) 。天気も変わりやすく、朝晴れていても、午後には雨やくもり、ときには雷雨もある。そのような気象の特徴から冒頭のような言葉が金沢で生まれたのだろう。ただ、最近思うのは「弁当忘れてもマスク忘れるな」だ。

   きのう出勤する途中でマスクを忘れたのに気が付き、コンビニに立ち寄ったが売り切れだった。大学に到着して、生協売店で買いを求めた。バラ売りで1枚74円。それから職場に行く。エレベーターに乗るとすでに3人いた。おそらくマスクを着けていなかったら気が引けて乗らなかっただろう。マスクは通行手形のようなもので、「場」に入るには今や必須となっている。弁当を忘れても、誰も何も言わないが、マスクを着けていないとジロリとした視線を感じる。さらに咳やくしゃみをしようものなら、多様な角度から目線が集中するのだ。

   マスクの常識は新型コロナウイルスによって大きく変わった。これまでマスクは使い捨てが常識だった。それが、洗濯して再利用が当たり前になった。また、マスクは白色が当たり前と思っていたが、最近では黒色もあればピンクもあり、白地に花柄模様と実に多様である。先日も夜の街ですれ違った男性が「首なし」で一瞬ドキリとした。黒色マスクに黒の帽子を深く被っていたのでそう見えたのだ。

   先日もこのブログで取り上げたWHOの公式ホームページには「When and how to use masks」と題してマスクの使い方を紹介している。これを見ていて感じることは日本人のマスク観と海外のマスク観が違っていることだ。この中で「やってはいけないこと」として、マスクを他人とシェアする、破れたマスクを使う、マスクで鼻を出す、汚れたマスクを着用する、などイラスト入れりで説明している=写真=。衛生観念の違いと言えばそうなのかもしれないが、日本人がこのイラストを見れば、マスクが普及していない国や地域ではマスクの使い方をめぐって混乱しているのではないかと想像する。

   というのも、WHOが掲載しているマスク着用に関するイラストや文書は、世界の国民に向けて発しているのではなく、「on Advice to decision makers」(意思決定者へのアドバイス)として発信しているのだ。「マスク途上国」は世界で多くあり、そのマスクの使い方を初歩から指導者に教えている、そんなふうにも読める。ここはWHOに期待したいところだ。

⇒23日(火)朝・金沢の天気    はれ

☆大学キャンパス ウィズコロナの風景

☆大学キャンパス ウィズコロナの風景

     新型コロナウイルスの感染拡大で金沢大学では4月からすべての対面型の授業は中止となっていた。このため、講義はインターネットによる遠隔授業(オンデマンド型)のみで、学生は在宅授業だった。サークルや部活なども禁止。また、研究室の学生や大学院生の研究活動も登学は禁止となっていた。何しろ学生だけで1万人余りいる。キャンパスという限られた空間で、「大規模集会」を毎日開催するようなもので、感染が広がればひとたまりもない。

   緊急事態宣言が解除され、対面講義が再開されたのは今月19日だった。自身もこの間、リモートワークだったので久しぶりにキャンパスを歩いた。いつものにぎやかしい雰囲気がそこそこ戻っているに違いない思っていたが、実際は普段の4分の1ほどと感じた。というのも、感染の可能性がゼロになったわけではなく、ウィズコロナの状態だ。「3密」回避が条件であることに変わりない。たとえば、51人以上の規模の大きな講義は引き続き遠隔授業に。また、50人以下であっても、1学生当たり4平方㍍ほどのスペースを確保することが対面講義の条件となっている。こうなると学生たちは少人数の限られた授業しか受講できないのだ。

   学生がよく集まる図書館のカフェや生協食堂をのぞいてみた。カフェは1テーブルにつき1人掛け=写真=。食堂のテーブルは対面ではなく一方向で横のイスの間隔も一つ空けてある。普段は12人掛けのテーブルだが、3人掛けだ。にぎわいからほど遠い。営業時間も午前11時から午後1時30分で、金曜と土日・祝日は休業だ。

   大変なのは学生たちである。オンライン授業の場合、動画を視聴するネット環境を整えなければならない。さらに、レジュメなどの講義資料はデータなので、自分でプリントしなければならない。自宅にプリンターがあればよいが、多くの学生はデータをUSBに落として、コンビニでプリントを行っている。

   学生たちで深刻なのはアルバイトの収入が減ったことだろう。物販や飲食の店舗でアルバイトで生活費を得ていた学生の4割が「バイト収入ゼロ」(学内学生アンケート)だったと答えている。大学では、経済的に困窮している学生の生活支援のため、クラウドファンディングを活用した寄付の募集を始めている。

⇒22日(月)午前・金沢の天気    くもり

★コロナ禍 輸入サーモン論争

★コロナ禍 輸入サーモン論争

   新型コロナウイルスの猛威が治まらない。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボード(一覧表)をチェックすると、感染者は876万人、死者は46万人を超えている。そんな中で、奇妙な論争が中国発で起きている。

   北京でクラスターが発生し、その感染源となったは市内最大の市場「新発地」の生鮮市場で取り扱われた輸入サーモンではないかと疑われ、販売業者が使用していたマナ板からウイルスが検出された。中国疾病対策センターの疫学責任者が、ウイルスは冷凍された食品の表面で最長3ヵ月生存することが可能だと述べたことから、中国のスーパーマーケットの食品棚からサーモンは消え、食材宅配でも提供が中止になった。中国の輸入サーモンの消費は年間7億㌦で、不買運動で打撃を被るのはデンマークやノルウェー、そしてオーストラリアといった輸出国だ(6月17日付・ブルーグバーグWeb版日本語から引用)。

   これに対し、ノルウェーが反発。ノルウェーの海洋研究所の感染症専門家は「感染はサーモンからではなく、製品または人々が使用する道具の汚染からではないかと考える」と述べ、一方で魚によるウイルス感染拡大の可能性については研究が進んでいないことを認めている(17日付・AFP通信Web版日本語) 。

   この北京の「市場クラスター」について、ある意味で不自然さを感じるのがWHOだ。同公式ホ-ムページの6月13日付で「A cluster of COVID-19 in Beijing, People’s Republic of China」と題したニュースリリースを掲載している=写真=。6月13日、WHOの中国事務所が北京のクラスターについて中国の国家衛生委員会などと中国側の予備調査について話し合ったことを述べている。

  The first identified case had symptom onset on 9 June, and was confirmed on 11 June.  Several of the initial cases were identified through six fever clinics in Beijing.  Preliminary investigations revealed that some of the initial symptomatic cases had a link to the Xinfadi Market in Beijing.  (最初に確認された症例は6月9日に発症し11日に確認された。最初の症例のいくつかは、北京の6つの発熱クリニックを通して同定された。予備調査では、初期症状のある症例の一部が北京の新発地市場と関連があることが明らかになった)

   リリース文では新発地市場との関連の可能性について記しているが、輸入サーモンについては一切触れてはいない。確かにWHO側の論調はあくまでも報告を受けたとの書き方だ。しかし、WHOが中国側の予備調査の報告をわざわざ公式ホームページに掲載するものだろうか。この事実を持って、中国側はサーモン発生源のデータを逐一WHOに示していると主張するだろう。あえてわざわざリリースしたことでWHOはさらなる不審を招くのではないだろうか。

⇒21日(日)午前・金沢の天気   はれ

☆メディアの世論調査は持続可能か

☆メディアの世論調査は持続可能か

    テレビと新聞に目を通してチェックする記事の一つが世論調査だ。各社が毎月調査して記事にするので、世論の流れが数字で読むことができる。とくに内閣支持率は政治に絡む失策やスキャンダル、不正といった内閣そのものを揺るがす、いわゆる「政局」と連動するので目が離せない。内閣支持率の20%台は政権の危険水域、20%以下はデッドゾーンとされ、こうした数字が見え始めると、「そろそろ選挙か」と胸騒ぎがしてくる。

   この世論調査の危機的状況がきのう公表された、FNN(フジニュースネットワーク)と産経新聞社が行っている合同世論調査のデータの不正入力問題で浮かび上がってきた。産経新聞公式ホームページは「お知らせ」(19日付)として、「FNN・産経新聞 合同世論調査」における一部データの不正入力について、とリリースしている。それによると、データの不正入力を行っていたのは、調査業務委託先の会社(東京)が業務の一部を再委託していた京都の会社のコールセンターの現場責任者だった。

   合同世論調査では電話による質問で回答を集計する形で行っているが、現場責任者は実際には電話をせずに架空の回答を入力していた。2019年5月調査分からことし5 月分まで計14回にわたる。1回調査で約1000 サンプルの有効回答を得るが、そのうち毎回100サンプル以上、14 回であわせて約2500 サンプルの不正が見つかった。このため、フジと産経はそれぞれ、14回の世論調査を報じた記事やニュースをすべて取り消すとしている(同リリース)。

   フジは「今回、委託先からの不正なデータをチェックできず、誤った情報を放送してしまった責任を痛感しております。今後、継続して調査・検証を行い、その結果に沿って、然るべき処置を行ってまいります 」、産経は「報道機関の重要な役割である世論調査の報道で、読者の皆さまに誤った情報をお届けしたことを深くおわび申し上げます」とそれぞれコメントしている(同)。

   全調査件数のうち2500サンプル、およそ17%に不正データが盛り込まれていたことが明らかになった。ではどのような経緯で発覚したのか。その点はリリースで公表されていない。想像するに内部告発ではないだろうか。コールセンターで働くのは多くは女性たちである。相当にストレスがたまる現場だと察する。そのような労働環境から出てきた問題ではないだろうか。

   自分自身もメディアに在職していたころ、アルバイトを雇って選挙の世論調査をしたことがある。電話調査の場合、途中で切られたり、逆に質問されたり、罵倒されたりで有効回答は3分の1ほどだった。その点、対面調査となる投票場での出口調査はほぼ100%だった。最近とくに、一般家庭ではオレオレ詐欺などがあり、電話が鳴ると警戒心が先立つのではないだろうか。そう考えると、電話調査そのものが回収効率の悪い、ストレスをためる旧態依然とした作業に思えてならない。

   世論調査を自動化すればよいではないかとの声も出そうだが、自動音声化(オートコール)の電話アンケ-トに自らの年齢や意見を述べる気持ちになるだろうか。メディアへの不信感や抵抗感が増すだけである。そう考えると、今回発覚した問題はフジ・産経にとどまる話ではない。電話による世論調査という手法そのものが陥っている構造的な問題ではないだろうか。ネットによる調査は低コストだが信ぴょう性に、戸別訪問は信ぴょう性は高いがコストに、郵便は信ぴょう性もコストもよいが、回収に時間的なロスなどそれぞれ課題がある。

   果たしてメディアの世論調査は継続可能なのだろうか。

⇒20日(土)午前・金沢の天気  くもり

★イージー・カム・イージー・ゴーの教訓

★イージー・カム・イージー・ゴーの教訓

   「イージー・カム・イージー・ゴー(Easy come、easy go)」という英語は教訓として日本でもよく使われる。この事例が現在の韓国と北朝鮮の関係性ではないだろうか。

   それは2018年3月8日付のアメリカのトランプ大統領のツイートが発端だった=写真・上=。韓国の特使から北朝鮮の金正恩党委員長の親書を受け取ったトランプ大統領は「金総書記は韓国代表に凍結だけでなく、非核化についても話した。また、この期間中の北朝鮮によるミサイル発射もない。大きな進展が見られるが、合意に至るまで制裁は続く。会議を計画中だ!」と非核化に向けた米朝首脳会談の可能性を示唆した。このツイートの予告通り6月の米朝首脳会談へと事態は動き出す。4月27日、板門店で南北首脳会談が電撃的に開催された。文在寅大統領と金委員長との間では「完全な非核化」が明記された=写真・中=。

   この後、6月12日の1回目の米朝首脳会談では、共同声明で「Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.(2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む)」の文言を入れていた。

   この年の9月19日、2回目の南北首脳会談でピョンヤンを訪れた文大統領は数万の国民を前に7分間の演説を行い、起立拍手を受けた。その文大統領がいまでは北から「厚かましい戯言を聞くにおぞましい」(ことし6月17日・朝鮮中央通信)と嘲弄を受けるまでになった。どこで歯車が狂ってきたのか。

   外交は表面上であって実質的な非核化の取り組みは滞っていた。IAEA(国際原子力機関)による査察など非核化へのプロセスを北は実行してこなかった。宣言はしたものの、形骸化していたのである。その矛盾が端的に表面化したのは2019年2月28日のハノイでの2回目の米朝首脳会談だった。金氏は非核化の前に経済制裁の解除を求めたのに対し、トランプ氏は非核化が進まない中ではそれは無理だと突然に席を立った。

   北がその腹いせとも思える行動に出たのは5月4日だった。東部のウォンサンから日本海に向けて飛翔体を発射した。それが弾道ミサイルならば、2017年11月29日以来となる。2020年に入っても3月9日に複数の弾道ミサイルとみられる飛しょう体を発射し、日本海に落下させている。2019年6月30日に3回目の米朝首脳会談が板門店で行われたが具体的な成果もなく1年が過ぎた。

   そしてついに、南北首脳会談の「板門店宣言」で合意で建設された北南連絡事務所が今月16日に爆破された=写真・下、韓国中央日報Web版(16日付)=。北の金与正党第1副部長は13日、「遠くないうちに用のない北南連絡事務所が跡形もなく崩れる悲惨な光景を目にすることになるだろう」と爆破を予告していた。韓国にとって「南北融和の象徴」としてきた施設が3日後に爆破された。

   これによって、文大統領が描いた「2045年にワン・コリア(統一)を目指し、国民所得を4万㌦に」といった南北融和の壮大な夢はゼロどころがマイナスになった。同日の中央日報Web版は、北朝鮮の元軍幹部で北朝鮮研究センター(ソウル)の所長のコメントを紹介している。「北が国家を象徴する国旗と金正恩国務委員長を表す最高司令官旗を掲げてから2年ほど経過した」「2つの旗を降ろしたというのは準戦時状態、挑発準備段階、非常体制稼働を意味する」と。

   文大統領が南北首脳会談からこれまでなすべきことは、非核化への実行をひたすら金氏に促すことではなかっただろうか。南北融和の夢を語り、現実問題の非核化が後回しになった。安易に非核化に合意してそのプロセスを怠ったことで、イージー・カム・イージー・ゴーの状況に陥った。それにしても、金正恩氏はこのところ姿を見せていない。アメリカ軍と韓国軍が密かに計画しているであろう、いわゆる「斬首作戦」を意識して身を隠しているのかもしれない。

⇒19日(金)午前・金沢の天気   くもり

☆昔「百姓の持ちたる国」、今「住みよき加賀」

☆昔「百姓の持ちたる国」、今「住みよき加賀」

    面白いデータをネットで見つけた。「東洋経済ONLINE」に、「住みよさランキング2020」の全国総合トップ50が掲載されている。1位が石川県の野々市市で、以下、文京区(東京)、武蔵野市(同)、白山市(石川)、福井市(福井)、吉倉市(鳥取)、金沢市(石川)、小松市(同)、長久手市(愛知)、能美市(石川)と続く。トップ10を石川県の自治体が半数を占めている。実際にこの地に住んでいる者としては名誉なことなのだが、それほど「住みよさ」を意識したことはなかったので、「なぜ」とも思う。

   気になって、前回「2019」のデータを検索してみる。すると、1位に白山市、3位に野々市市、8位に能美市がランキングされていてトップ10に3つが入っている。石川県のほか、4位に福井市、7位に黒部市(富山)、9位に魚津市(同)が入っていて、北陸3県で実に6つを占めていた。冒頭で述べたように、「住みよさ」をそれほど意識したことはなかった。というのも、北陸は冬になれば雪が降り、自宅ガレージ前の道路を除雪するのが日課となる。凍結した路面ではのろのろ運転だ。日照時間も少なく、日中でも薄暗い日々が続き、冬のストレスがたまる。それが「住みやすいのか」と。

   そこで、このランキングの評価基準が気になった。ホームページに記されていた。その指標はA「安心度」(人口当たりの病院・病床数、介護老人定員数、0~4歳児数、刑法犯認知数、交通事故件数)、B「利便度」(人口当たり小売り販売数、店舗面積、飲食店小売事業所数、飲食店数)、C「快適度」(転出入人口比率、水道料金、汚水処理人口普及率、公園面積、最低最高気温・日照時間・最深積雪)、D「富裕度」(財政力指数、法人市民税、所得、床面積、地価)。20のデータをもとに算出し、AからDの視点でそれぞれ全国812の市と区をランキングしている。積雪や日照時間も入れての総合評価だった。

   では今回、トップ10のうち5つを占めた石川県の自治体の何が特徴なのか。野々市市は利便性が10位と際立っているが、ほかは安心度134位、快適度170位、裕福度171位とそれほど高くはない。金沢の郊外という立地でスーパーマーケットが多数あり、大学もあるので周囲には飲食店も目立つ。人口5万人余りのコンパクトな自治体なのだ。白山市は快適度6位。その名前の通り、霊峰白山のふもとにあり、豊かな水資源に恵まれ、企業立地も数多く、海浜公園など自然環境にも恵まれている。

   今回トップ10に入った野々市、白山、金沢、小松、能美はそれぞれに立地条件や地域資源など特徴があり、それを最大限に活かす努力をしている点が評価されたといえる。この地に住む者としてふと思うのは、この5つの自治体は加賀とよばれる地域だ。戦国時代は「百姓の持ちたる国」として中央政権と距離を置き、独自に栄えた地でもある。今は「住みよき加賀」として輝きを放っている。

(※写真は、「住みよさランキング2020」で全国総合トップとなった石川県野々市市の市役所)

⇒18日(木)朝・金沢の天気    くもり

★持続可能な千枚田の風景~下

★持続可能な千枚田の風景~下

     輪島市白米町の千枚田の知恵と工夫は現代も生きる。棚田の中腹を貫く道路、国道249号にそれが見て取れる。今でも地滑り地帯であることから、斜面地への圧力を軽減する工夫がほどこされている。軽量の発泡スチロールのプロックを道路の盛土材として使用し道路全体を軽量化している。EPS(Expanded Polystyrene)工法と呼ばれ、完了した1987年には日本で初の施工例として紹介された。

  知恵と執念、そして感謝の念で継承する水田開発の歴史遺産

   しかし、農業の担い手の減少、若者の農業離れが現地でも進み、1004枚の棚田をどう維持するのか。そこで行政と地元の人たちが考えたのが、棚田オーナー制度だった。2007年から始めて、今では毎年100人ほどの会員が参加する。年間2万円で「マイ田んぼ」を得て、年間7回の作業(田起こし、あぜ塗り、田植え、草刈り3回、稲刈り)に参加する。会員が都合で参加できないときは、地元のグループ「白米千枚田愛耕会」が作業をカバーしてくれる。9月の収穫が終わると、精米10㌔と山菜が届けられる。休日に家族連れでやってきてマイ田んぼを楽しそうに耕す光景はグリ-ンツーリズム​でもある。

   収穫が終わると、千枚田は夜の観光地へとステージが変わる。畦道に取り付けられた2万5千個のLED「ペットボタル」がきらめく=写真・上、輪島市公式ホームページより=。棚田の夜を彩るイルミネーションイベントは2011年秋から始まり、毎年10月から3月まで楽しむことができる。

   毎年12月5日にこの地域の農家では農耕儀礼「あえのこと」が執り行われる。稲作の恵みを与えてくれた「田の神さま」にこの1年の田んぼの作業と収穫を報告し、ごちそうでもてなす=写真・下=。目が不自由とされる田の神さまを丁寧にもてなす「独り芝居」だ。先祖から受け継ぐ感謝の念でもある。あえのことはユネスコの無形文化遺産に2009年に登録されている。

   2011年6月、世界農業遺産に「能登の里山里海」が選ばれ、FAOの当時のGIAHS事務局長パルヴィス・クーハフカン氏が千枚田を視察に訪れた。案内役の輪島市長から説明を聞き、「すばらしい景観と同時に農業への知恵と執念を感じる。能登の千枚田は持続可能な水田開発の歴史的遺産だ」と印象を述べていた。

⇒17日(水)朝・金沢の天気      はれ