#コラム

☆北の非核化、泡と消ゆ

☆北の非核化、泡と消ゆ

        北朝鮮は核を手放さないとついに公言した。金正恩党委員長は27日に開かれた朝鮮戦争休戦67年の記念行事での演説で、核保有を正当化し一方的な核放棄に応じない立場を強調した(7月28日付・共同通信Web版)。朝鮮戦争に従軍した退役軍人らを平壌に招いた「老兵大会」での異例の演説。核抑止力によって国の安全が「永遠に保証される」と強調した(同)。

   2018年4月27日、板門店で開催された南北首脳会談では韓国の文在寅大統領と金氏との間では「完全な非核化」が明記された=写真・上=。さらに同6月12日の第1回の米朝首脳会談では、共同声明で「Reaffirming the April 27, 2018 Panmunjom Declaration, the DPRK commits to work toward complete denuclearization of the Korean Peninsula.(2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む)」の文言を入れていた。

   ところが、2019年2月28日、ハノイでの第2回米朝首脳会談では、北の非核化に妥協しなかったトランプ大統領が先に席を立って会談は決裂した。おそらく金氏にとってこの会談は屈辱的だったのだろう。そしてついに今回、非核化を完全に反古する声明を出した。おそらく、南北首脳会談も、米朝首脳会談も今後開かれることはないだろう。そして、日本への脅威はさらに高まった。

   では、日本国内では北からの核ミサイル攻撃に向けての防衛体制は進んでいるのだろうか。6月15日に河野防衛大臣が地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を撤回すると表明してから40日余り経った。配備断念を受けて、自民党のミサイル防衛の在り方を検討するチームがきのう28日に続いてきょうも会合を開いた。政府に対する提言案が示された。相手の領域内でも弾道ミサイルの発射などを阻止する能力の保有も含め、政府として早急に検討して結論を出すよう求めつつ、攻撃的な兵器を保有しないという、これまでの政府方針を維持すべきだとしている。会合は非公開で、結局、提言案はまとまらなかった(7月29日付・NHKニュースWeb版)。

   日本海側に住めば北の脅威が実感できる。2017年3月6日、北朝鮮が「スカッドER」と推定される弾道ミサイルを4発発射し、そのうちの1発は能登半島から北に200㌔㍍の海上に着弾した=写真・下=。北が弾道ミサイルを撃ち込む標的の一つが能登半島だ。半島の先端・輪島市の高洲山(567㍍)には航空自衛隊輪島分屯基地のレーダーサイトがある。その監視レーダーサイトの目と鼻の先にスカッドERが撃ち込まれたのだ。

   これまで、南北首脳会談と米朝首脳会談に期待したが、北の非核化は泡と消えた。北からの核弾道ミサイルはいつでも飛んでくる。もちろん、監視レーダーサイトを能登半島から撤去せよという話ではない。

⇒29日(水)夜・金沢の天気     くもり   

★北の漂着船、グローバル問題に

★北の漂着船、グローバル問題に

   これはショッキングな見出しだ。「The deadly secret of China’s invisible armada Desperate North Korean fishermen are washing ashore as skeletons because of the world’s largest illegal fleet.」(意訳:中国の見えざる艦隊の秘密 世界最大規模の不法船団のため、北朝鮮の漁民たちが骨のように海に投げ出されている)。アメリカのNBCテレビのWebニュースの特集で、日本海でのイカ漁のすさまじい現状をリポートしている=写真=。その見出しだ。

   2019年12月27日に新潟県佐渡市の素浜海岸に打ち上げられた北朝鮮の漂着船から7遺体が見つかった。このほか、2019年に確認された北の漂着船は158件、この3年間で487件だ(第9管区海上保安本部報道資料)。

  「The battered wooden “ghost boats” drift through the Sea of Japan for months」(打ち砕かれた木の「幽霊船」が何ヵ月も日本海を漂っていた)で始まるこのリポートを読んでみる。以下、要約。何年もの間、この恐ろしい現象に日本の警察は当惑してきた。気候変動によってイカの個体数が北朝鮮近海で減り、漁師たちは命からがら危険な距離の海に出て、そこで立ち往生して死にさらされれてきたと推測されていた。

   ところが、衛星データで漁船の動きを調査するグローバル海洋保護非営利団体「Global Fishing Watch」(GFW、ワシントン)の分析で、北朝鮮海域に中国からの漁船が大量に入っていることを突き止めた(2019年で800隻)。中国のイカ釣り漁船は集魚灯を使うので、中国からの海洋での照明の動きを追うと、次第に北朝鮮の漁業海域に集まって来る様子が画像で分かる。

   中国が北朝鮮の漁業海域での漁業権を購入し、小型の北のイカ網漁船を追い払っている。漁場を奪われた北の漁船は、遠海に出て無理な操業をして、エンジン故障などで漂流し、日本の海岸に漂着するケースが増えてきたと解説している

 
   もう一つ。NBCはGFWの研究者のコメントを引用して、問題提起をしている。中国は、北朝鮮海域での外国漁を禁じる国連の制裁決議に違反しているのではないか、と。の核実験に対応した2017年の国連制裁決議には、漁業権の取引も含まれる。3月の国連会議では、北朝鮮海域での制裁決議違反が問題視された。これに対し、中国は「一貫してかつ誠実に北朝鮮に関する安全保障理事会の決議を執行した」と述べたが、北朝鮮海域に関してはは認めも否定もしていない。GFWは、この制裁決議違反の中国船団は中国の遠洋漁船全体の3分の1にもなると見ている。

   このNBCのリポートを心強く感じた。というのも、日本海での漂着船問題や、EEZ内での北の違法操業は、日本でも全国ニュースになりにくい。ローカルニュースなのである。NBCがこのように衛星データをもとに国連制裁決議を絡めて漂着船問題を報道することで、一気に国際問題になったのではないだろうか。

⇒27日(月)朝・金沢の天気    くもり

☆経営陣と労組の関係性を読む

☆経営陣と労組の関係性を読む

   4連休の中いろいろニュースを見聞きしたが、中でも、「なぜ」と感じたのが、テレビ朝日労組が民放労連を脱退したことだった。「テレ朝労組が申し入れ、同日(25日)開かれた民放労連大会で賛成多数で承認された。民放労連によると、キー局の脱退は初めて」(25日付・共同通信Web版)。

   共同通信によると、テレ朝労組は脱退理由として、運動方針に対する考え方の違いのほか、テレビ広告費の低迷や新型コロナウイルスの影響で業績が厳しくなる中、組合費の負担が重くなったことを挙げているという。しかし、労連には日本テレビやTBS、フジテレビなど全国の放送局や放送関連プロダクションが加盟している。組合費の負担が脱退理由の一つだが、テレビ朝日だけが、テレビ広告費の低迷や新型コロナウイルスの影響で業績が厳しくなっているわけではない。むしろ、運動方針に対する意見の相違ではないか。

   そこで、テレ朝労組の脱退の背景を探ろうと、民放労連の公式ホームページにアクセスした。同日(25日)開かれた民放労連大会は第131回定期大会で、今回はリモート会議の形式で開催された=写真=。「アピール」では、「同一労働同一賃金を定めた働き方改革関連法が4月から施行され、・・・先行する単組の成果を民放労連全体に広げ、働きがいのある産業にしなくてはならない」、あるいは、「民放における男性中心の職場環境を改めるためにもジェンダーバランスを改善し、他者を敬う社内風土を培い、ハラスメントの被害者も加害者も出ない職場を作ろう」とある。しかし、運動方針に相違があったことや、テレ朝労組脱退の事実関係も触れていない。

   冒頭のニュースでは、「賛成多数で承認」とあるので、どのような運動の方針をめぐる意見の相違が脱退を招いたのか、事実関係を明示すべきだろう。うがった見方をすれば、「賛成多数」という場の空気はおそらく2つある。一つは、テレ朝労組がもともと民放労組の方針に異議をとなえ、煙たがられていた存在だった。あるいは、労連の時代感覚はもう古い、その役割は終わったとテレ朝労組が先陣を切って脱退を表明し、それに賛同する他の労組も多い。あるいはそのミックスかもしれない。

   考察するヒントが労連の公式ホームページにあった。2019年12月26日付で中央執行委員長名で出された談話「テレビ朝日『報道ステーション』スタッフ「派遣切り」の撤回を求める」だ。2020年4月の番組リニューアルに向けて、社外スタッフを大量に契約終了させたのは、事実上の「解雇」に相当すると主張している。番組が継続するにもかかわらず、「人心一新」を理由にスタッフの雇用不安を引き起こすような人員の入れ替えを行うこと、社会に一定の影響力を持つメディア企業としてあってはならない、と。「放送で働く労働者を組織する民放労連として看過できない」と述べている。

   この問題を「しんぶん赤旗」Web版(2020年2月14日付)も取り上げている。2つを総合して読むと、いきさつはこうだ。昨年2019年9月5日発売の「週刊文春」と「週刊新潮」(ともに9月12日号)が「報道ステーション」のチーフプロデューサーによるセクハラ事件を報じた。これを受けて、9月24日にテレビ朝日の会長は記者会見で、報道局のこの男性社員をハラスメントに当たる不適切な行為で謹慎処分としたと認めた。看板番組のチーフプロデューサー(最高責任者)が処分されたとなると社内は尋常ではない。そこで、テレビ朝日は番組の「人心一新」を図るため、ことし4月に番組リニューアルに向けて、社内外のスタッフを入れ替えることにした。社外スタッフは映像制作会社からの派遣ディレクターで人数は10数名、ことし3月末での契約打ち切りも通告された。

   この派遣ディレクターの契約打ち切りが労連でも問題となったことから、テレビ朝労組は会社側と交渉した。そして、派遣ディレクターについては「新たな雇用先を確保する」(民放労連公式ホームページ)、「次の配属先を見つける」(「しんぶん赤旗」Web版)と雇用確保についての会社側の言質を得た。ところが、委員長談話では、最後にテレ朝こそ企業として「人心一新」をはかれ、と求めた。テレ朝労組とすれば、会社側に派遣スタッフの雇用確保の言質を得た段階で難問をうまくまとめたつもりだった。それが、テレ朝の経営者は辞めろとまで労連から言われると立つ瀬がなくなる。

   経営陣と労組の関係性はある意味で信頼関係の上で成り立つものだ。テレ朝労組は労連内部でいたたまれなくなり、距離を置くことにした。それが今回の脱退のいきさつだろうか。あくまでも自らの経験も交えた憶測である。

⇒26日(日)朝・金沢の天気     くもり時々はれ

★「安楽死」議論は避けられない

★「安楽死」議論は避けられない

   全身の筋肉が動かなくなる難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)で、京都に住む51歳の女性からSNSで「安楽死させてほしい」との依頼を受けた宮城と東京の男性医師2人が薬物を投与して女性を死なせたとされる事件=写真=。この報道で率直に思うことは「安楽死の議論をいつまで放置しておくのか」だ。

   不治の病に陥った場合に本人の意思で、医師ら第三者が提供した致死薬で自らの死期を早める「安楽死」は基本的に認められていない。現在の法律では嘱託殺人や承諾殺人、自殺ほう助の罪に問われる。今回の事件で、医師2人は嘱託殺人の疑いで逮捕された。ただ、患者や家族の同意で延命措置を中止する「尊厳死」は医療現場で容認されている。

   問題は安楽死を認めるか、認めないかだ。昨年2019年7月の参院選挙では、「安楽死制度を考える会」から9人が立候補し、この議論を全国に広めようとしたが争点にはならなかった。超高齢化社会を迎えて、自らの人生の質(QOL)を確認して最期を迎えたいという願いやニーズは確かにある。しかし、日本では尊厳死や安楽死に関する法律はまだない。これは、憲法が保障する基本的人権の一つ、幸福追求権(第13条)ではないだろうか。もちろんさまざまな議論があることは承知している。問題は、国会がその議論をずっと避けてきていることだ。オランダやスイスは安楽死を合法化している。

   この議論は避けられないのだ。内閣府の「高齢社会白書」(平成29年版)によれば、2030年には75歳以上は2288万人と推定される。高齢となった自身が不治の病に陥った場合、おそらく主治医に致死薬で自らの死期を早めるようお願いするだろう。身内の話だが、92歳で他界した養父は胃がんだった。「90になるまで生きてきた。世間では大往生だろう」と摘出手術を頑なに拒否した。安らかに息を引き取った。尊厳死だった。

   自らの人生のQOLを確認して最期を迎えたいという願いはこれから高まるだろう。オランダやスイスに行って安楽死する必要はない。これは日本の人権問題ではないだろう。今回の事件が投げかける意味は深い。メディアには、犯罪報道ではなく、安楽死についての議論として世論提起をしてほしい。逮捕された2人の医師を擁護するつもりはまったくない。

⇒24日(金)夜・金沢の天気    あめ

☆ウィズコロナだから、次は「Society5.0」

☆ウィズコロナだから、次は「Society5.0」

   新型コロナウイルスの感染拡大の影響で「3密」を避ける発想と同時に、「Society5.0」への関心がこれまで以上に高まっているのではないだろうか。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムで社会の課題解決をめざす新技術だ。「Society5.0」は2016年に策定された国の第5期科学技術計画の中で用いられ、日本が進むべき未来社会の姿として提唱されている。

   それによると、20世紀後半に到来した情報社会(Society4.0)では知識や情報が共有されず、年齢や障害の有無などで労働や行動範囲に格差や制約が生じた。さらに、少子高齢化や地方の過疎化などの諸課題にも十分に対応することが困難だった。Society5.0の社会ではAI(人工知能)によるロボットや自動走行車などで、ビジネス創造と課題解決が可能になるかもしれない。

   たとえば、①社会保障費や医療費を増大させる高齢化対策として、人間の健康状態をセンサーを使って情報収集し、AI解析を活用して予防検診やロボット介護に反映させる  ②エネルギーの安定確保と温室効果ガスの排出削減のため、エネルギーの多様化と地産地消を図る ③食料の増産やロスを削減するため、農作業の自動化や最適な配送システムを確立する ④持続可能な産業化の推進と人手不足解消のため、最適なバリューチェーンと自動生産を整備するーなど(内閣府公式ホームページ「Society5.0」「第5期科学技術計画」より引用)。

   これらを実現させるためのキーテクノロジーとなるのがIoT、AI、VR(仮想現実)、ブロックチェーンなどに代表されるデジタルの新技術だ。そして、この新技術が社会の隅々にまで普及していく上で追い風になるのが通信インフラの「5G」だろう。

   このSociety5.0の中には、国連が2015年に定めた「SDGs(持続可能な開発目標)」も入っている。SDGsは気候変動や海洋汚染などの環境問題や貧困や差別などの社会問題、雇用や教育の問題など、社会が抱えるさまざまな問題に対して取り組むもので、2030年に向けて世界で協力して達成するための17のゴール(目標)を設けている。デジタルの新技術はこれらの難題を切り拓くかもしれない。SDGsはビジネスにおける取引条件として、より重視されていくことは間違いない。

   安倍政権が「働き方改革」を声高に唱えても定着しなかったが、コロナ禍で一気に「テレワーク」「リモートワーク」が進んだ。次はSociety5.0だ。デジタル技術への理解や習熟も進んでいる。SDGsを念頭に入れてオープンイノベーションのあり方を描くことが、このウィズコロナの時代にこそ不可欠なのではないか。そしてチャンスではないか。

⇒23日(木)夜・金沢の天気  くもり時々あめ

★先鋭化する米中「ハイテク」戦

★先鋭化する米中「ハイテク」戦

   ウィズコロナの時代とともに世界は不穏な曲がり角に転換したのではないだろうか。それ象徴するのがアメリカと中国の対立の先鋭化だ。すでにニュースが飛び交っている。  

   アメリカ政府はアリババやバイドゥなど中国企業をアメリカ株式市場から締め出す可能性のある法案を検討している。法案は企業の監査をアメリカの公開会社会計監督委員会(PCAOB)が検証することを求めている。法案の意図は、中国企業にアメリカの会計規則を順守させることだが、中国側はこれを一貫して拒否していて、中国企業の上場廃止につながる可能性がある。法案は5月に上院を全会一致で通過し、今は下院が審議している。中国企業の排除にはナスダックなどは反対している(7月10日付・Bloomberg日本語Web版からの引用)。

   アメリカで上場する中国企業は250社と多い。アメリカは中国企業の監査に携わる中国本土の監査法人への立ち入り調査などを要求し続けてきたが、中国は立入調査は中国当局の監督下で行うとの立場を貫いている。が、ナスダック上場のラッキン・コーヒーの不正会計がことし4月に明らかとなったこともあり、アメリカ側は中国企業の経営に懸念を募らせている。これは憶測だが、中国企業がアメリカ市場に上場することで、中国のドル調達のプールになっているのではないか。だから、中国政府はPCAOBに立入検査をさせないのではないかと見るのが自然だ。

   アメリカ政府はファーウェイなど中国のハイテク企業5社の製品を使用する企業との取り引きを禁じる法律をことし8月施行する(7月17日付・NHKニュースWeb版)。中国製品の締め出しを世界各国に広げるアメリカ側の意図を受け、イギリスも5G移動通信システムからファーウェイ製品を排除する方針を明らかにしている。

   ファーウェイは5Gの技術やコスト競争では代表的な企業の一つ。特許の出願件数も多く、国連の専門機関、WIPO(世界知的所有権機関)を通じた国際特許を出願した件数でも、企業別でファーウェイが世界1位となっている(2017年の国際特許登録の出願数、WIPOプレスリリース)。2018年12月にカナダのバンクーバー国際空港で、ファーウェイCEOの娘の副会長が、アメリカの要請でカナダ捜査当局に逮捕された。この事件で、アメリカがファーウェイの5Gに安全保障の上で懸念があり、締め出しに動いていることが世界に拡散した。

   先鋭化する一方の米中対立には背景がある。2017年6月に施行された中国の「国家情報法」だ。法律では、11項目にわたる安全(政治、国土、軍事、経済、文化、社会、科学技術、情報、生態系、資源、核)を守るために、「いかなる組織および国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助および協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない。国は、国家情報活動に対し支持、援助及び協力を行う個人および組織を保護する」(第7条)としている。端的に言えば、政府や軍から要請があればファーウェイCEOはハッキングやデータ提供に協力せざるを得なくなる。

   中国の「国家情報法」に遅れて、アメリカは2018年8月に「国防権限法」を発効させた。上記で述べた、中国5社から政府機関が製品を調達するのを2019年8月から禁止、ことし8月から5社の製品を使う各国企業との取引も打ち切るなど徹底する。この動きがさらに先鋭化するとこの先どうなるのか。ここまで来ると、トランプ流のディール(取引)は通用しないだろう。勝つか負けるかの「ハイテク」戦ではないか。

⇒22日(水)朝・金沢の天気   くもり

☆キャンパスがクラスター化するということ

☆キャンパスがクラスター化するということ

   残念なことだが、金沢大学がクラスターと判断された。石川県がきょう21日発表した新型コロナウイルスによる新たな陽性患者数は女性3人と発表した。このうち30代の女性は大学の学生で、あと2人は同居する60代女性とゼロ歳の女児。今月18日にも20代の男子学生1人が陽性と発表していて、大学関連の感染者はこれで5人となった。この状況で、石川県は県内で7つ目のクラスターと認定した。 

   新型コロナウイルスの感染拡大で金沢大学では4月からすべての対面型の授業は中止となっていた。このため、講義はインターネットによる遠隔授業(オンデマンド型)のみで、学生は在宅授業だった。サークルや部活なども禁止。また、研究室の学生や大学院生の研究活動も登学は原則禁止となっていた。何しろ学生だけで1万人余りいる。キャンパスという限られた空間で、「大規模集会」を毎日開催するようなもので、感染が広がればひとたまりもない。

   緊急事態宣言が解除され、対面授業が再開されたのは6月19日だった。ただし、授業における「3密」を回避する条件がついている。たとえば、51人以上の規模の大きな講義は引き続き遠隔授業に。また、50人以下であっても、1学生当たり4平方㍍のスペースを確保することが対面授業の条件となっていた。このため、学生たちは少人数の限られた授業しか受講できない状態が続いている

   「3密」対策が取られているのは授業だけではない。学生がよく集まる図書館のカフェや生協食堂もそうだ。カフェは1テーブルにつき1人掛け。食堂のテーブルは対面ではなく一方向で横のイスの間隔も一つ空けてある。普段は12人掛けのテーブルだが、3人掛けだ。にぎわいからほど遠い。営業時間も午前11時から午後1時30分で、金曜と土日・祝日は休業だ。

   自身はリモートワークが続いている。久しぶりにキャンパスを歩いても、いつものにぎやかしい雰囲気が戻っていない。それだけに、今回のクラスター認定で学生たちの気持ちそのものがロックダウンするのではないか。そんなふうに案じている。

(※写真は、大学キャンパスの学生ラウンジ。学生たちの姿は少なく閑散としている)

⇒21日(火)夜・金沢の天気     くもり

★「言葉は生き物」 時代の感性や鮮度

★「言葉は生き物」 時代の感性や鮮度

   2020年も折り返し地点を過ぎて、これにまで使ってこなかった言葉が気が付けば日常を覆っている。「パンデミック」「クラスター」「オーバーシュート」「ロックダウン」「東京アラート」「線状降水帯」など。金沢大学では教養科目として「ジャーナリズム論」を担当していて、学生たちには「言葉は生き物である」と教えている。

   たとえば、テレビなどで盛んに使われ流行した言葉の中には、一過性で死語になるものもあれば、その言葉の意味に普遍性が見出されて辞書に載るものもある。そして、時代が変われば言葉も劇的に変化する。江戸から明治に時代が転換し、西洋文明が押し寄せた。福沢諭吉はeconomyを「経済」、money ordersを「為替」と訳した。この「為替」の言葉がなければ、当時、海外から文化を輸入する文明開化は広がらなかったかもしれない。言葉は時代を動かす原動力にもなる。

   3年前、新書『実装的ブログ論―日常的価値観を言語化する』(幻冬舎ルネッサンス新書、2017)を上梓した。この本を出版した動機の一つとして、学生や若者たちに言葉を自在に操ってブログを書いてほしいという思いがあった。

   著書のタイトルにもある「日常的価値観の言語化」はごく簡単に言えば、自ら日頃考えていること、感じたことを言葉として表現すること。言葉に皮膚感覚や、明確な事実関係の構成がなければ伝わらない。実際に見聞きしたこと、肌で感じたこと、地域での暮らしの感覚、日頃自ら学んだことというのは揺るがないものだ。それらは日常で得た自らの価値観だ。その価値観を持って、思うこと、考えることを自分の言葉で組み立てることが「実装」である。学生たちにはブログなどを手段として自らの言葉を磨いていほしいと思う。

   ジャーナリズム論について深い考察で会話が弾む学生がいて、「なるほど。そこまで考えているのか」と共感することがある。ただ、人前での発表やディスカッションの場に誘うと、急に言葉がトーンダウンする。「人前で偉そうなことはいいたくない」「目立ちたくないから」と言い訳する。男子学生に多いのだが、これも今どきの若者気質ではある。

   そのような学生にはテレビ局や新聞社への就活を薦めている。言葉の深さはメディアへの関心度とも相伴する。エントリーシートの書き方から始め、面接のリハーサルを本人が納得するまで重ねる。受け答えの言葉のタイミングと表現、抑揚など、言葉を鍛えることで本人のモチベーションが高まり、感性も磨かれる。10数年で出版社含めメディア関係に35人が就職した。

   取材で金沢に立ち寄った彼らから声がかかり、一献傾けることがある。久しぶりに交わす彼らの言葉に時代の感性や鮮度を感じる。この上ない喜びでもある。

(※写真は、ラファエロ作「アテナイの学堂」。ギリシャの有名な賢人たちを描いている=2006年1月、サンピエトロ大聖堂で撮影)

⇒20日(月)夜・金沢の天気    くもり

☆ワインの独り夜話

☆ワインの独り夜話

    今月22日から始まる政府の観光支援事業「Go To トラベル」について、時期の見直しや感染者数の少ない地域から段階的に始めるべきといった意見が出ているようだ。一方で、「巣ごもり」生活もまだまだ続くのではないだろうか。先日、近くのスーパーマーケットの空き瓶回収箱に空き瓶を持って行った。自らも酒量が少々増えたせいか、このところ行く回数が増えている。回収箱を開けてその都度思うことだが、ワインの空き瓶が圧倒的に多い。酒瓶の全体の8割はおそらくワインだ。

   巣ごもり生活で家飲みが増えた。家族団らんで飲むとなると、日本酒や焼酎よりワインかビールが多いだろう。コンビニでも最近、ワインのコーナーがかなりの幅を取っていて、しかもフランス産やイタリア産もある。1本2千円近いものもあり、コンビニの売れ筋はワインではないだろうか。おそらく、昨年2019年2月に日本とEUとの経済連携協定(EPA)が発効して、ヨーロッパ産ワインの関税が撤廃されたことにもよるのだろう。日本にワインブームが起きている。今年になってさらにそれを加速させているのがコロナ禍だろう。

   昨夜、金沢市内のワインバーを知人と訪れた。客はまばらだったが、オーナーソムリエが別室でオンラインによるワイン教室を開いていた。受講者は8名でほとんどが女性。自宅でワインを飲みながら学べる、そんな気楽さもあってオンライン教室は人気だそうだ。

   数年前までコンビや酒販店に並んでいたワインはチリ産が多かった。日本とチリが2007年にEPAを結び、段階的に関税が引き下がられた効果でもあった。それが、昨年EUとのEPA発効でブランド中のブランドであるフランス産、イタリア産の輸入が急増し、女性たちがワイングラスを手にするようになった。ソムリエとそんな話をしたことがある。

   ワインバーでは、ブルゴーニュのワインを味わった。ブドウ品種はピノ・ノワール。ソムリエの解説によると、ピノ・ノワールは水はけがよい石灰質の土壌で冷涼な気候で育つが、病気にかかりやすくデリケートで栽培が難しい。農家泣かせのこの品種のことを欧米では「神がカベルネ・ソービニオンを創り、悪魔がピノ・ノワールを創った」と言うそうだ。ヴィンテージものだがまだ果実味もあり、優しく熟成を重ねたブルゴーニュワインだった。とりとめのないワインの独り夜話になってしまった。

⇒19日(日)夜・金沢の天気     くもり

★「世は常ならず」 ニューノーマルな日々

★「世は常ならず」 ニューノーマルな日々

   きのう高校時代からの友人と3人でランチを楽しむために金沢のステーキ店に入った。それぞれがステーキとサラダバーを注文した。さっそく、サラダを取りに行く。バイキング形式で色とりどりのサラダが並んでいて、好きなものを取って自らの皿に盛る。友人の一人がつぶやいた。「これでコロナ対策は大丈夫なのか」と。野菜をつまむトングは盛り皿ごとにそれぞれついているが、つまむ客が10人いれば10人が同じトングを使うことになる。友人の指摘は同じトングを使い回すサラダバーは、ウィズコロナのこのご時世に不適切という見方だ。確かに、箸のように1人で一つのトングを使う形式が時代のニーズだ。

   新型コロナウイルスの感染拡大で「ニューノーマル(new normal)」という言葉が広がった。新たな常識、という意味で解釈している。ウィズコロナの時代を生き抜く知恵としてのニューノーマルだ。身近な事例を拾ってみる。

   やはり、筆頭は「ソーシャルディスタンス(social distance)」だろう。人と人の距離を置く。スーパーマーケットのジレでは買い物客がさりげなく距離を空けて列をつくっている。レジで精算するときに買い物カゴとマイバッグをいっしょに出すと、以前は店員が商品をダイレクトにバッグに入れてくれたが、今はそれがない。買ったものは自らがマイバッグに入れる。これは客と店員のソーシャルディスタンスではある。

   「弁当忘れても傘忘れるな」という言葉が金沢にあるが、このご時世は「弁当忘れてもマスク忘れるな」である。外出するときにマスクは必携だ。マスクをしていないと常識や人格までもが疑われる。さらに、マスクをしていても咳やくしゃみの音に周囲が過剰反応する。先日訪れたあるオフィスでマスクを着けていたものの、むせて2度咳をした。すると、「保健所にはやく行ってよ」と言わんばかりのきつい目線を浴びた。

   マスクのニューノーマールで言えば、使い捨てから洗濯で再利用が当たり前になった=写真=。マスクの色も黒や花柄など実にバリエーションに富んでいる。マスクに人の個性が表れている。人とマスクとの長い付き合いが始まったのだろう。

   最近では聞かれなくなったが、外出を控える社会現象を「巣ごもり」という言葉でたとえた。このブログで「巣ごもり」の言葉を使ったのが3月20日だった。ちなみに、アメリカでは「シャットイン(shut in)」と言うそうだ。この巣ごもりがその後、「テレワーク(telework )」や「リモートワーク(remote work)」という在宅勤務へと大きく展開した。安倍政権が「働き方改革」を声高に唱えても定着しなかったが、コロナ禍で一気にニューノーマル化した。自らもリモートワークで、会議はオンラインだ。たまに職場に行くとリフレッシュした気分になる。オンライン飲み会も結構楽しい。

   病院でのニューノーマルもある。4月22日に金沢市内の病院で検査で胃カメラ(内視鏡)を入れた。えずき(嘔吐反射)がつらいので、これまでは口からではなく鼻から入れてもらっていた。ところが、病院側では鼻から内視鏡を出し入れすると検査室にウイルスが飛び散る危険性があるということで、現在は口からでしか入れていない、と説得された。受け入れざるをえなかった。鎮静薬を注射して口から入れた。つらさはまったくなかった。

   病院でのニューノーマルをもう一つ。待合室はいつも混雑していたが、予約待ちの人たちだけなのだろう、コロナ以前に比べ人の入りが少ない。他の病院でも同じだ。「病院は3密、ちょっとしたことで病院にかからない」という社会風潮かもしれない。病院の経営にとってはマイナスだろう。逆にドラッグストアが混雑している。金沢市内でもこのところ新しいドラッグストアチェ-ンの店が次々と開店している。

   身近な事例でも、この社会的な常識の変化は著しい。「世は常ならず」。人の世には何が起こるか分からない。せめて、悔いのない毎日を送ろう。60歳も後半に入った友人たちとのランチもそんな会話でお開きとなった。

⇒17日(金)午前・金沢の天気   はれ