#コラム

☆「学問の自由」、福沢諭吉の教え

☆「学問の自由」、福沢諭吉の教え

   「学問の自由」という言葉は学生時代によく聞いた。1970年代の学園紛争の最中、集会に参加するとヘルメットを被った活動家たちが、「俺たちは学問の自由を守るために権力と闘っている」と強調していた。ときには、校門にバリケードをはって、学生がキャンパスに入れないように封鎖したこともあった。

   「学問の自由」の実践家として福沢諭吉の伝記を思い起こす。1868(慶応4)年5月、新政府軍と旧幕府側の彰義隊が上野で戦闘を開始した。慶応義塾を創設した福沢はこのころ、芝新銭座の有馬家中屋敷(現在の東京都港区浜松町1丁目)で英語塾を開講していた。福沢は、戦闘で噴煙があがるのを見ながらも、塾を休むことなく、塾生たちに英書『ウェーランドの経済書』を講義した。挿絵=写真=は、戦火を眺め動揺する塾生を背に粛然と講義を行う福沢の姿である。師が動揺しては塾生も動揺する。自らの使命を遂行することが肝要と自身に言い聞かせていたのだろう。

   1871(明治4)年に福沢は、新政府に仕えるようにとの命令を辞退し、東京・三田に慶応義塾を移して、経済学を主に塾生の教育に励む。その年、廃藩置県で大勢の武士たちが職を失い、落ちぶれていった。武士が自活できるように、新たな時代の教育を受ける学びの場が必要なことを福沢は痛感していたに違いない。福沢は慶応義塾の道徳綱領を1900(明治33)年に創り、その中で「心身の独立を全うし自から其身を尊重して人たるの品位を辱めざるもの、之を独立自尊の人と云う」(第2条)と盛り込み、「独立自尊」を建学の基本に据えた(「慶応義塾」公式ホームページ)。

   では、福沢はいわゆる「西洋かぶれ」だったのか。2009年に東京国立博物館で開催された『未来をひらく 福沢諭吉展』にを見学に行った。ここで紹介されていた福沢の写真のほとんどは和服姿だった。「身体」を人間活動の基盤と考え、居合刀を日に千回抜き、杵(きね)と臼(うす)で自ら米かちをした。身を律して、4男5女の子供を育て、家族の団欒(だんらん)という当時の新しいライフスタイルを貫いた。公費の接待酒を浴びるほど飲んで市中を暴れまわった新政府の官員(役人)たちを横目に、「官尊民卑」と「男尊女卑」に異議を唱えた。

   「政府の提灯は持たぬが、国家の提灯は持つ」。福沢は「学問の自由」を徹底して貫いた。「学問の自由」という言葉を発するのであれば、政府と距離を置くこと。福沢から学んだことである。

 ※写真は、2009年に開催された『未来をひらく 福沢諭吉展』で市販された挿絵より。

⇒11日(日)夜・金沢の天気   くもり

★いつでも誰でもどこででも日銀のデジタル通貨

★いつでも誰でもどこででも日銀のデジタル通貨

   このブログでも何度か取り上げてきた中央銀行が発行するデジタル通貨について、きのう日銀が欧米の中央銀行との共同研究報告書を公表した。日銀の公式ホームページをのぞくと、来年2021年度から実証事業を始めるとある。いよいよデジタル法定通貨が経済のコアとして浮上してきた。

   このブログで、政府と日銀はアフターコロナの政策として、2024年に予定している新札発行をデジタル通貨へと舵を切るのではないかと憶測してきた。以前から紙幣や硬貨は非衛生的だとの指摘があり、新型コロナウイルスの感染拡大にともなって一気にキャッシュレス化が進んだ。もちろん紙幣や硬貨を粗末にするという意味ではない。  

   以下、日銀ホームページの共同研究報告書から引用する。日銀は、現時点でデジタル法定通貨(Central Bank Digital Currency、以下CBDC)を発行する計画はないと前置きしながしなら、決済システム全体の安定性と効率性を確保するよう準備する、としている。CBDC役割について、1.現金と並ぶ決裁手段の導入、2.民間決裁サービスのサポート、3.デジタル社会にさわしい決済システムの構築、の3点を上げている。

   現金に対する需要がある限り、現金の供給についても責任をもって続けていく。CBDCが発行されると、民間企業や金融機関によるデジタル通貨と競合し、民間の活力を損なう懸念もある。たとえば、銀行預金からの引き出しが容易になって金融危機時に銀行経営が揺らぎやすくなるといったことも想定され、そうした事態が起きないよう民間決裁サービスをサポートする。

   CBDCが持つべき特性をまとめている。現金や預金などとの交換性や現金払いやスマホ決済のような決済時の容易さ(ユニバーサルサービス)、取引の即時決済性といった強靱性、セキュリティを上げている。つまり、現金のように「誰でも使える」「安心して使える」「いつでも、どこでも使える」との位置づけだ。

   日銀は21年度の早い時期に実証実験を始め、1.中央銀行と民間事業者の協調・役割分担のあり方、2.CBDCの発行額・保有額制限や付利に関する考え方、.3.プライバシーの確保と利用者情報の取扱い、4.デジタル通貨に関連する情報技術の標準化のあり方などの点について検討を進めていく、としている。

   菅内閣が進めるデジタル化の促進はまさに日銀のこの動きと連動するものだろう。これと選挙のデジタル投票が同時に進めば、日本のデジタル化は政治と経済の両面でかなり加速するのではないだろうか。

⇒10日(土)朝・金沢の天気   くもり

☆キンモクセイ 花咲けど匂わず

☆キンモクセイ 花咲けど匂わず

   庭にキンモクセイが咲き、空に青と黄のコントラストを描いて、秋の季節を感じさせる。キンモクセイと言えば、あの独特の匂いなのだが、今年は不思議と感じられない。その瞬間、「これって認知症」と思いがめぐった。認知症になると嗅覚が低下し、腐ったものを食べたり、ガス漏れに気がつかなかったりすると聞いたことがある。そこで、ずっと年下の家族にも嗅いでもらったが「匂いがしませんね」というので胸をなで下ろした。

   むしろ、なぜ匂いがしないのか気になった。ネットで検索してもエビデンスのある答えがみつからない。ただ、心当たりがあるのは先月末に樹木の剪定をしてもらった。かなり刈り込んだので、その影響か、と。そこで、作業をしてもらった造園業者に電話で尋ねた。「剪定後だとキンモクセイの匂いはしないものですか」と。すると、「長くこの仕事をやっていますが、そうした話は聞いたことはありませんね」「花と匂いはセットなので、花が咲いて匂いがないとは不思議です。私も調べてみます」との返事だった。

   話は変わるが、9月16日に発足した菅内閣。メディア各社の世論調査では内閣支持率は高い。毎日新聞の調査では、内閣支持率が64%で、不支持率は27%を大幅に上回っている(9月18日付・毎日新聞Web版)。 朝日新聞社の調査は内閣支持率が65%で、不支持率は13%だった(9月17日付・朝日新聞Web版)。共同通信の調査でも支持率は66.4%、不支持率は16.2%だった(9月17日付・共同通信Web版)。3社の調査では支持率がおおむね65%とそろっている。

   政権発足から1ヵ月、携帯電話料金の値下げや縦割り行政の打破、デジタル庁発足に向けて取り組み、ハンコ行政の廃止推進、日米豪印の外相会談などよい匂いのしそうな内外の政策が打ち上げられてはいるが、成果はこれから、か。花咲けど匂わず。

⇒9日(金)朝・金沢の天気   くもり

★ポストコロナで具現化、大学への未来投資

★ポストコロナで具現化、大学への未来投資

    財政が厳しい国からの予算配分を待つだけでは、最先端の研究は進まず、世界に後れを取ってしまう。ならば、「大学債」を発行し研究資金を調達する。当たり前のことがようやくできるにようになった。東京大学は大学債を発行し、200億円を債券市場から調達すると発表した(10月8日付・NHKニュースWeb版)。

   東京大学公式ホームページによると、大学債は「FSI債」の名称で、大学が社会変革を理念に進めるFSI(Future Society Initiative)活動を加速させることを目標としている。総長メッセージが掲載されている。以下一部を引用。

   「学債の発行は、直接的には、東京大学を真に自立した経営体とすることに貢献します。しかし、それだけではありません。よい良い未来社会づくり向けて、大学を起点に、知識集約型社会によりふさわしい、資金を動かし循環させる新しい仕組みをつくることにもつながると考えています。それが、閉塞感が拡がる現在の経済社会システムを変革する駆動力を生み出すことを期待しています。これはポストコロナ時代における大学の新しい立ち位置、姿を具現化するものなのです」

   公式ホームページによると、投資家は生命保険会社や銀行、学校法人のほか、意外だったのは蒲郡市や飛騨市、宮崎県新富町といった自治体、それに吉本興業ホールディングスなども。これら46社に毎年0.8%余りの金利を支払い、40年後に返済する仕組み。市場から調達した資金は、素粒子観測施設「スーパーカミオカンデ」の後継となる次世代の施設「ハイパーカミオカンデ」の整備費の一部に充てるほか、宇宙の成り立ちを調べるため、ハワイで計画している超大型望遠鏡の整備費用などに充てる。

   これまで国立大学が発行する大学債は、付属病院やキャンパス移転などの整備事業が主だったが、世界最高水準の教育研究施設の整備事業も対象にできるようになった。ただし、文科省が世界レベルの教育・研究を進めていると認めた指定国立大に限られる。こうした研究は収益事業ではないので、大学全体として寄付金や運用益などの余裕金で返済していくことになる。

   新型コロナウイルスの感染対策と経済立て直しに国の財政が向けられ、大学の研究費がひっ迫してくることは想像に難くない。東京大学は今後10年で1000億円規模の調達を計画している。使いみちが自由な資金を市場から確保し、研究活動を強化する、これこそが「学問の自由」を担保することになる。総長のメッセージにあるように、ポストコロナ時代における大学の新しい立ち位置、姿の具現化ではある。

(※写真は「ハイパーカミオカンデ」の紹介ビデオから)

⇒8日(木)夜・金沢の天気   あめ

☆テレビメディアに厳しい菅氏、ある事件

☆テレビメディアに厳しい菅氏、ある事件

    菅総理の印象について地味で忠実というイメージを持っている人が周囲に多い。かつてテレビ局に在籍した自身の目線で言えば、「テレビメディアに厳しい」というイメージがある。印象に残る事件がある。       

    2007年1月7日放送の関西テレビ番組『発掘!あるある大事典Ⅱ』の「納豆でヤセる黄金法則」について、週刊朝日が11項目のデータについて関西テレビに質問状を送ったのがきっかけで、捏造事件が発覚した。緊急記者会見を行った関テレの社長は当初、「納豆のダイエット効果の有無は学説で裏付けられている」として、「番組全体は捏造ではない」と主張したが、捏造データの多さを記者から追及されて「捏造」と認めた。高視聴率を誇った番組は中止となった。

   その後、2月7日に関テレ社長は総務省近畿総合通信局を訪れ、捏造についてまとめた報告書を提出した。ところが、近畿総合通信局側は納得しなかった。疑惑が次々と出て、520回すべてを調査し報告するよう近畿総合通信局側は求めた。電波法では「総務相は無線局の適正な運用を確保するため必要があると認めるときには、免許人などに対し、無線局に関し報告を求めることができる」(81条)と記されている。そして、3月30日、総務省は総務大臣名の行政指導としては最も重い「警告」を行った。そのときの総務大臣が菅氏だった。テレビ業界を驚かせた言葉が、「今後、放送法違反が繰り返さた場合は電波停止もありうる」だった。

   伏線があった。菅総務大臣は2月9日の国会審議で、再発防止に向けて放送法の改正が必要だと発言していた。テレビ局に捏造事件があり、テレビ局側が認めた場合、総務大臣はテレビ局に対して再発防止計画を要求する。再び繰り返された場合は停波・免許取り消しの行政処分を行うという内容だった。このとき、テレビ業界は戦々恐々としていた。日本民間放送連盟は(民放連)は自浄的な措置として4月19日付で関西テレビを除名処分にした。

   この年の12月21日、放送法の改正案が参院本会議で可決・成立した。ただ、このときの改正案では菅氏が述べていた「再発防止計画の提出義務化」は削除されていた。その前の7月29日の参院選で与野党の勢力が逆転。今国会では番組等の不祥事については、あくまでも世論の批判とテレビ業界の自浄努力に委ねるべきであって、国家権力が安易に介入すべきではないとする野党の主張を与党がくみ入れ、この「再発防止計画の提出義務化」の改正案は見送っていた。菅氏も8月27日に総務大臣を退任していた。

   NHKと民放の両者が共同でつくる「放送倫理・番組向上機構」(略称=BPO、放送倫理機構)に放送倫理検証委員会を設け、やらせや捏造が発覚した番組を外部委員にチェックしてもらい、問題があった局に再発防止策を提出させるという自主的な解決システムをつくっている。しかし、やらせや捏造は後を絶たない。フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーがことし5月23日に自死した問題で、BPO放送人権委員会は遺族からの申し立てを受け、審理入りを決定した(9月15日付・BPO公式ホームページ)。

   BPO人権委員会が、番組内に映る虚像が本人の人格として結び付けられて誹謗中傷され、精神的苦痛を受けたことが自死の原因として、人格権の侵害を認定。さらに、それが裁判にも持ち込まれた場合、菅内閣はどう反応するだろうか。「再発防止計画の提出義務化」の法改正を改めて持ち出してくるのではないか。13年経ってもテレビが変らなければ、これしかない、と。

⇒7日(水)夜・金沢の天気   くもり時々あめ

★尖閣の次は日本海EEZなのか

★尖閣の次は日本海EEZなのか

   きょうの朝刊で石川県の地元紙が日本海のスルメイカの漁場、大和堆(EEZ=日本の排他的経済水域)で大量の中国漁船が違法操業を行っていると報じている=写真=。記事によると、水産庁が9月末までに退去警告をした船の数は延べ2586隻に上っている。去年までは北朝鮮の漁船による違法操業(2019年の警告数4007隻)が圧倒的に多かったが、今年は中国漁船の違法操業が去年より倍増した。記事を読んで、「尖閣の次は日本海か」と胸騒ぎがした。

   記事によると、8月中旬から大和堆周辺で中国の大型底引き網船の違法操業が活発に動き始めた。水産庁の取締船はこれまで違法警告したにもかかわらず退去しなかった漁船に対し放水で警告を発した漁船は329隻に上った。

   その背景はおそらく、中国で顕在化しつつある食料危機ではないだろうか。習近平国家主席が「飲食の浪費を断固阻止する」との指示を出し、新型コロナウイルス感染の世界的まん延は「警鐘」だと指摘し食料問題に危機意識を持つよう訴えた(8月20日付・共同通信Web版)。中国における食料問題は6月以降、中国各地で断続的に続いた豪雨災害で水田などの耕作地が冠水被害が広がったからだ。習氏が「飲食の浪費を断固阻止する」の指示を出すほど、危機感がひっ迫しているとも受け取れる。

   食料危機のうち、タンパク源を確保するための水産資源の確保にも躍起なのではないだろうか。すでに、中国は北朝鮮海域での制裁決議違反が問題視されているにも関わらず、北朝鮮の漁業海域での漁業権を購入し、中国の遠洋漁船全体の3分の1にも相当すると見られる大量の船団を送り込んで漁業資源を漁っていた(7月27日付・ブログ「北の漂着船、グローバル問題に」)。北朝鮮の漁業海域で漁業資源をほぼ取り尽くし、次に狙ってきたのが日本海のEEZだろう。

   冒頭の胸騒ぎは「大和堆の中国所有論」のことだ。中国は今年8月に東シナ海の海底地形50ヵ所について命名リストを公表した。尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺海域のほか、沖縄本島沖の日本のEEZも含まれる。その前、4月には南シナ海でも海底地形55ヵ所や島嶼(とうしょ)や暗礁25ヵ所について命名リストを公表している。中国とすれば、関連海域と海底に主権と管理権があると主張することで、海洋管理を強化する狙いがある。

   次に来るのは日本海における海底地形の命名リストではないだろうか。地元紙は今回の中国漁船の違法操業について、「EEZ内に中国の公船が現れているとの情報もある」と伝えている(10月6日付・北國新聞)。漁船の違法操業に紛れて、公船が海底調査を行っている。あるいは逆か。海底調査を行う目くらましのために漁船を動員しているのかもしれない。

   それにしても不可解なのは水産庁の発表にもかかわらず、全国メディアは日本海での違法操業のことをまったく伝えていない。スルメイカ漁だからか。マグロだったら大騒ぎか。

⇒6日(火)夜・金沢の天気    くもり   

☆カニの季節へ「Go To」

☆カニの季節へ「Go To」

   あと1ヵ月もすればカニの季節だ。毎年のことながら、そわそわする。11月6日午前0時で日本海側でズワイガニ漁が解禁される。香箱(こうばこ)ガニと呼ばれるメスは12月29日まで、オスは来年3月20日までの漁期だ。北陸人は、初日は高値がするので買い控え、1週間ほどして値が落ち着いてきたことから初物を味わう。この時季、スーパーマーケットの魚介類の売り場に行くと、同じ思いの人たちが大勢いて、茹でガニのコーナーをじっとのぞき込む人々の姿が一つの風物詩のようでもある。

   先日、東京に住む知人が、「山手線の駅で北陸のカニの解禁がポスターが貼られているよ」とメールで画像を送ってくれた。かなり凝ったデザインだ。「本当は、こっちか会いに行きたいくらい。」とチャッチコピーで、ズワイガニが北陸新幹線に乗っかっている図柄=写真・上=。新幹線に乗って北陸にカニを食べに来てね、という単純なデザインなのだが、カニを新幹線に乗せるという発想が面白い。逆にもう一つの図柄は、パソコンとカニを組み合わせた意外性もあるが、「このおいしさは、オインラインじゃ伝わらない。」のキャッチコピーがむしろ心に響く=写真・下=。

   これらのポスターはひょっとして、東京のカニ愛好家の心を揺さぶり、コロナ禍で冷え込んだ経済対策として、政府が打ち出している「Go To Travel」とマッチするかもしれない。旅行会社のサイトをのぞくと、1泊5万円近くのカニのフルコース付プランなどが続々と出ている。 何度か宿泊したことのがある能登半島の和倉温泉の旅館のサイトをチェックすると、カニのフルコース付で1泊2名で8万3600円(税込9万1960円)だが、「Go To クーポン35%+ポイント5%で3万2595円引、地域共通クーポン1万2000円分も使えてさらに安く」とキャンペーンをはっている。このプランは人気なのだろう、来年1月いっぱいまで予約でほぼ埋まっている。

   「カニには地酒が合う」と言われる。能登のズイワガニには能登の地酒がマリアージュ(料理と酒の相性)と自身も勝手に思い込んでいる。ぴっちりと締まったカニの身には少々辛口が、カニ味噌(内臓)には風味のある地酒がしっくりなじむ。至福の季節が待ち遠しい。

⇒5日(月)午前・金沢の天気    あめ時々くもり

★ベンチャーな言葉

★ベンチャーな言葉

    金沢大学の自由履修科目「2040年の仕事論」(10月2日)で、アイ・オー・データ機器の代表取締役会長、細野昭雄氏のオンラン講義を聴講した=写真=。講義のテーマは「価値創造へのチャレンジ」。同社は東証1部上場の企業だが、「当社は今でもベンチャー企業だと自負している」と熱く語った。その言葉通り、随所にベンチャラス(venturous)な発想が伝わってきて、つい引き込まれた。

  細野氏は石川県の工業高校を卒業後、1962年に「ウノケ電子工業」(現「PFU」、石川県かほく市)に入社し、その後、金沢工業大学情報センターなどを経て、1976年1月に同社を設立した。当時、金沢の自宅のガレージで創業したことから、「ガレージ起業」とも言われた。「アップル」を立ち上げたスティーブ・ジョブズも同じ年1976年4月にカリフォルニア州ロスアルトスの自宅ガレージでパソコンの製造事業を始めている。

   細野氏は学生に問うた。「安全な道をみんなで行くのか、面白そうだからと一人その道を行くのか。安全な道を選んだ人たちが行く途中で、100人しか渡れない橋があったらどうするのか」「常識という無意識に気が付いていない人が多い。常識を疑え」と。ウノケ電子工業に入社当時は友人たちから「なぜ家電メーカーに就職しないのか」と言われた。当時、テレビの全盛時代で、1964年の東京オリンピックを契機に白黒からカラーテレビへと大きく変換した。コンピュータは未開の分野だったが、面白そうだからとその道を歩いた。

   「かつて教育の基本は『読み、書き、そろばん』と称された。現代は『読み、書き、プログラム』だろう」。国別のIT技術者の人数はアメリカ477万人、中国227万人、インド212万人に次いで日本は109万人と4位だが少ない。人口比率で見ても、アイスランドやスウェーデンに比べ少なく32位だ。また、日本のIT技術者は78%がIT企業に集中しているが、アメリカは65%がユーザー企業にいる。「菅内閣はデジタル庁をつくると言っているが、他国に比べて随分遅れている。『今さらかよ』という思いもする。小学生がプログラミングを学習して、アントレプレナーシップ教育を学ぶ時代だ」

   同社はPCや家電、スマートデバイスの周辺機器総合メーカーである。スマートフォン用アプリの「CDレコーダー」はヒット商品の一つ。ヒット商品を生み出す背景の言葉に納得した。「アメリカンドリームともいわれた1800年代後半のゴールドラッシュで儲けたのはリーバイ・ストラウス、デニムつくった『リーバイス』の創業者だよ」。金鉱で働く大勢の人たちの作業着のズボンがボロボロになっている姿を見て、破れにくいワークパンツを船の帆で使われていた生地を用いて商品化した。これがヒットし、アメリカ全土に広がった。

   「起業家精神というのは、見えている問題を解く能力、そして問題を自ら見つけ出す能力」と説いた。冒頭の「当社は今でもベンチャー企業だと自負している」の言葉が心に響く。

⇒4日(日)夜・金沢の天気    くもり

☆これは菅内閣の深謀遠慮か

☆これは菅内閣の深謀遠慮か

   日本学術会議は政府から独立して政策の提言などを行う日本の科学者を代表する機関だ。任命権は総理にある。その学術会議が菅政権ともめている。学術会議が、会員の候補として105人を推薦した学者のうち、菅氏が6人を任命しなかった。これを受けて、学術会議は任命されなかった理由の説明を求めるとともに、6人の任命を求める要望書を菅氏に宛てて提出することを決めた(10月3日付・NHKニュースWeb版)。

   学術会議のミッションは「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること」「科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること」だ(日本学術会議公式ホームページ)。菅氏が任命を拒否した理由は一体なんなのか。今回任命されなかった6人はキリスト教学者、政治学者(政治哲学、政治思想史)、法学者(行政法)、法学者(憲法)、法学者(刑法)、歴史学者(日本近代史)だ(10月2日付け・同)。

   6人の中には、3年前の共謀罪の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案をめぐり、参院法務委員会に共産党が推薦する参考人として出席し、「何らの組織にも属していない一般市民も含めて広く市民の内心が捜査と処罰の対象となり、市民生活の自由と安全が危機にさらされる戦後最悪の治安立法となる」と述べた学者もいた(同)。6人はこれまで何らかの政治的な発言、あるいは自民党の政策に対して政治的に行動ならびに発言を繰り返してきた。

   別な角度からこのニュースを深読みする。日本学術会議法第7条2項で「会員は、第17条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」とある。さらに、第1条の2項で「日本学術会議は、内閣総理大臣の所轄とする」、3項で「日本学術会議に関する経費は、国庫の負担とする」とある。これを読み解く限り、総理に任命の拒否権があると読める。ちなみに、第2条は「日本学術会議は、わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的とする」とある。菅氏の理由はこの第2条にそぐわない人物ということなのだろうか。その理由を聞いてみたい。

   さらに別の視点で見てみる。日本学術会議は学者としての社会的な権威付け、つまり、日本学術会議の会員と称しただけで、社会の格付けが上がる。また、研究ファンドが取得しやすくなるランク付けではないか。この目線で言えば、日本学術会議そのものは果たして必要なのだろうか。2020年度の年間予算は10億5000万円。国家予算の規模からすれば微々たるものだ。が、行政改革の一つとして、この際だから権威付けのような機関を解散しようとの菅氏の深謀遠慮ではないだろうか。うがった見方ではある。(※写真は、首相官邸公式ホームページより)

⇒3日(土)午後・金沢の天気    はれ

★トランプ大統領、コロナショック

★トランプ大統領、コロナショック

   このニュースで驚いているのは中国かもしれない。ニューヨークタイムズは速報で伝えている。「Trump’s Virus Symptoms Appear Mild So Far」。新型コロナウイルスに感染したトランプ大統領の症状は今のところ軽度だ、と。トランプ氏は陽性の検査結果を受けて風邪のような症状を呈している。マイク・ペンス副大統領と他の当局者は、陰性の結果を出ている。いよいよ、コロナ禍がホワイトハウスにまで攻めてきた。

   気になるのは感染ルートだ。ニューヨークタイムズは記事の中で「The Secret Service sustained a coronavirus outbreak at its training facility in Maryland in August, weeks before President Trump was infected, evidence of growing infections at the agency responsible for protecting the president.」と述べている。シークレットサービスは、トランプ氏が感染する数週間前の8月にメリーランド州の訓練施設でコロナウイルスのアウトブレイクを起こしており、大統領のガードに責任を持つ機関で感染が拡大していた。

   トランプ氏は自身のツイッター(2日付)で、「Tonight,@FLOTUS and I tested positive for COVID-19. We will begin our quarantine and recovery process immediately. We will get through this TOGETHER!」(今夜、@FLOTUS(大統領夫人)と私は、新型コロナウイルス感染症の検査で陽性と診断された。ただちに隔離と回復のプロセスに入る。共に乗り越えていく!)

   先月には「われわれはこの疫病を世界に振りまいた国、中国の責任を追及しなければならない。中国政府、そして事実上、中国に操られているWHOは、ヒトからヒトへの感染を示す証拠はないという偽りの宣言をした」(9月22日)と息巻いていた。今回、自身が感染したことで中国に対する矛先がさらに先鋭化していくのではないか。

   そして、あと1ヵ月後に迫ったアメリカ大統領選。対立候補のバイデン氏とのテレビ討論などはどう展開していくのか、目が離せない。

⇒2日(金)夜・金沢の天気     はれ