#コラム

☆日本海のスルメイカ漁 今そこにある外交問題

☆日本海のスルメイカ漁 今そこにある外交問題

   中国の王毅外相がきょう24日に来日、茂木外務大臣と会談を行うほか、あす25日は菅総理大臣と会談すると報じられている。だったら、ぜひこの問題を取り上げてほしい。中国漁船が大挙して日本海の能登半島の沖にある日本のEEZ(排他的経済水域)の大和堆に入り込んで違法な乱獲を繰り返している。このため、日本海に生息するスルメイカの資源量が急減しているのだ。

   問題は、日本海に独自のEEZを持たない中国漁船は漁ができないが、北朝鮮から漁業権を買って同国のEEZで操業していると称して、日本のEEZで密漁しているのだ(11月24日付・時事通信Web版)。 水産庁が9月末までに退去警告をした船の数は延べ2586隻に上っている。去年までは北朝鮮の漁船による違法操業(2019年の警告数4007隻)が圧倒的に多かったが、今年は中国漁船の違法操業が去年より倍増している。

   中国は北朝鮮海域での制裁決議違反が問題視されているにも関わらず、北朝鮮の漁業海域での漁業権を購入し、中国の遠洋漁船全体の3分の1にも相当すると見られる大量の船団を送り込んで漁業資源を漁っている。北朝鮮の漁業海域で漁業資源をほぼ取り尽くし、次に狙ってきたのが日本海のEEZだろうか。

   以下は憶測だが、中国の狙いはもう一つある。地元紙は中国漁船の違法操業について、「EEZ内に中国の公船が現れているとの情報もある」と伝えている(10月6日付・北國新聞)。漁船の違法操業に紛れて、公船が海底調査を行っている。これは「大和堆の中国所有論」の布石ではないだろうか。中国は今年8月に東シナ海の海底地形50ヵ所について命名リストを公表した。尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺海域のほか、沖縄本島沖の日本のEEZも含まれる。その前、4月には南シナ海でも海底地形55ヵ所や島嶼(とうしょ)や暗礁25ヵ所について命名リストを公表している。

   中国は北朝鮮と共同戦線を組んで、関連海域と海底に主権と管理権があると主張することで、大和堆周辺の海洋管理を主張する。そして、公船を繰り出し、日本の漁船を追い払うつもりだろう。尖閣で行われているパターンである。このことを中国の王毅外相に直接問うべきだ。スルメイカ漁問題こそ、今そこにある日本の外交の危機ではないだろうか。

⇒24日(火)午後・金沢の天気     はれ   

★再び心で歌う『不協和音』の痛ましさ

★再び心で歌う『不協和音』の痛ましさ

           香港の裁判所は、昨年6月に市民らが警察本部を取り囲んだ大規模な抗議デモに関連し、無許可の集会への参加をあおったなどとして起訴されていた民主派団体「香港衆志」の周庭(アグネス・チョウ)氏ら3人に対し、有罪を認定したうえで、保釈を取り消した(11月23日付・NHKニュースWeb版)。

   周氏らはことし8月に逮捕され、保釈されていた。保釈後、日本のメディアに対し、香港警察から証拠の提示もなく、パスポートも押収され、「なぜ逮捕されたのか分からない」と流暢な日本語で答えていた。そして、拘束中に「欅坂46」のヒット曲『不協和音』の歌詞が頭の中に浮かんでいたという。

   欅坂46のこの曲『不協和音』は正直知らなかった。ネットで検索すると秋元康が作詞して2017年4月にリリ-スされたとある。「絶対沈黙しない」「最後の最後まで抵抗し続ける」などの歌詞が民主活動家としての彼女の心の支えになったのだろうか。2014年のデモ「雨傘運動」に初めて参加してから、今回含めて4回目の逮捕だった。拘置所で過ごす孤独な夜にこの歌を心で口ずさんでいたのかもしれない。

   今回の保釈取り消しで周らは拘置施設に移送された。量刑は来月2日に言い渡される。出廷前に周氏は「未来に不安を抱いているが、ほかにも仲間たちが多くの犠牲を払っている。もっと重い罪に直面している仲間たちも支援してほしい」と話していた(11月23日付・NHKニュースWeb版)。拘置所の中で再び、「絶対沈黙しない」「最後の最後まで抵抗し続ける」と心の中で歌う彼女の姿を想像すると痛ましい。(※写真は周庭氏のユーチューブ動画より)

⇒23日(祝j)夜・金沢の天気    くもり

☆「三島由紀夫」から50年

☆「三島由紀夫」から50年

   高校時代に三島由紀夫の小説をむさぼり読んだ。作品のいくつかには思い出もある。『美しい星』(1962年刊)のストーリーで、自らを金星人と思い込んでいる女性が、金沢に住む金星人の青年に会いに行き、内灘海岸で「空飛ぶ円盤」を見る下りがある。内灘海岸へは金沢から電車で行けるので、小説を読んだ後、夏休みの夜に内灘海岸へ行った。UFOは見ることができなかったが、星空の輝きに圧倒されたことを今でも思い出す。

   『金閣寺』(1956年刊)。鎌倉幕府が崩壊して、室町時代、そして応仁の乱(1467-77)で京の都が荒廃する。無を標榜する禅宗が隆盛し、臨済宗の僧でもあった足利義満が金閣寺を造営する。3階建ての1階は公家の寝殿造風、2階は武家の書院造風、そして3階は仏殿風で、仏教で世を治めたいとの想いが込められている。それを金閣寺の美と思い込んだ学僧が、放火するまでの経緯を一人称の告白で綴ってゆく物語だ。

   大学浪人のときは京都の予備校に通った。浪人の仲間から「金閣寺を見に行こう」と誘われたが、受験も近く精神的に少々プレッシャーもあったので同行を断った。大学に合格して初めて仲間たちと見学に行った。美しいというより、歓喜で胸がこみ上げてきて涙が出たのを覚えている。

   『潮騒』(1954年刊)は漁師と海女の純愛物語で、高校時代に初めて手にした三島作品だった。その後、東京で過ごした学生時代に映画も観た。山口百恵と三浦友和が主演だった。大学を卒業後に金沢にUターンし、地元の新聞社に入った。そして、『潮騒』が再び蘇ってくることになる。

   輪島支局に転勤となり、舳倉(へぐら)島の海女を取材しルポルタージューで連載(分担執筆)することになった。舳倉の海女は映画のような白衣ではなく、黒のウエットスーツを着用していた。素潜りは映画と同じで、海女たちの息遣い、磯笛(いそぶえ)が聞こえた。舳倉の海女は重りを身に付け深く潜るので自力で浮上できない。そこで、海女は命綱を身に付けて潜り、船上にいる夫に引き上げてもらう。夫は命綱を手にしていて、クイクイと海女から引きの合図があると懸命に綱をたくし上げる。こうして夫婦が協働してアワビ漁をすることを舳倉では「夫婦船(めおとぶね)」と呼んでいた。信頼できる夫婦関係だからできる漁なのだ。当時この光景はまるで『潮騒』の続編を見ているようだと想像をたくましくしたものだ。ルポは後に『能登 舳倉の海びと』(北國新聞社)のタイトルで発刊された。

   1970年(昭和45)11月25日、三島は陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地のバルコニーで自衛隊の決起を促す演説をし、割腹自決を遂げる。三島作品にのめり込んだ高校時代、自らの心に衝撃が走った晩秋だった。あれから50年だ。

⇒21日(土)夜・金沢の天気     はれ

★「テドロス氏が武器調達を支援」の衝撃

★「テドロス氏が武器調達を支援」の衝撃

           世界で新型コロナウイルスの感染が再拡大している。ジョンズ・ホプキンス大学のサイト「コロナ・ダッシュボード」(11月19日付)によると、世界での感染者は累計5680万人、国別でもっとも多いのはアメリカの1169万人だ。亡くなった人も世界で累計135万人で、うちアメリカは25万人となっており。欧米での感染の広がりも尋常ではない。フランスの感染者は213万人とブラジルに次いで世界で4番目に多い。人口6200万人、日本のほぼ2分の1ながら、日本の感染者数12万人と比べれば、感染の勢いの強さが分かる。

   欧米などはコロナ禍以前から一般的にマスクを着ける習慣がなく、着用が義務化されていない国や地域などでマスクをしないまま人との接触を続けるケースが相次いでいるようだ。ヨーロッパでのマスクの着用率はまだ60%以下で、このままでは外出制限の回避は難しく、マスクの着用率を上げることが大きな課題となっているようだ(11月20日付・NHKニュースWeb版)。

   WHO自体もマスクを各国に推奨したのは6月5日だった。それ以前は、健康な人がマスクを着けても感染を予防できる根拠はないとしていた。そもそも、WHOのテドロス事務局長がマスクをしている画像を見当たことがない。

   そのテドロス氏の「画策」が母国のエチオピアでクローズアップされている。AFP通信Web版日本語によると、エチオピア軍の参謀長は今月19日の記者会見で、政府軍と対立している同国ティグレ州の政党「ティグレ人民解放戦線(TPLF)」にテドロス氏が武器調達を支援していると批判した。今月4日、TPLFが政府軍の基地を攻撃したのに対して、アビー首相が反撃を命じ、戦闘が続いている。テドロス氏はティグレ人でTPLFの支援に回っているというのだ。アピー首相は2019年ノーベル平和賞を受賞している。

   エチオピアでの政府軍とTPLFによる戦闘について、ユニセフ(国連児童基金)も懸念していて、「今後、数週間のうちに20万人以上が国を逃れることが予想される」と、人道支援を呼びかけた(11月20日付・NHKニュースWeb版)。

   テドロス氏が武器調達を支援をしていることが事実とすれば、どのようなルートで行っているのか。あるいは、内戦を煽る目的は何か。関係が取り沙汰される中国の関与はあるのか。今後テドロス氏をめぐるニュースの視点はここに向かっていくだろう。それより何より、コロナ禍のパンデミックがピークに達しているときに、会見でこのようなことが晒されること自体が不徳のいたすところ、ではある。

(※写真はことし8月21日のWHOの記者ブリーフィング=WHO公式ホームページ) 

⇒20日(金)夕・金沢の天気     あめ

☆小さなコーブ(入り江)の話

☆小さなコーブ(入り江)の話

         久しぶりにこの人の名前が目に留まった。リチャード・オバリー氏、和歌山県太地町でのイルカ保護活動家だ。報道によると、最高裁は、オバリー氏が退去強制処分の取り消しを求めた訴訟で、国の上告を受理しない決定(11月17日付)を下した。オバリー氏は2016年1月、成田空港から観光目的で入国しようとしたが、上陸手続きで「活動内容が不明」として認められず、異議申し立ても退けられた。同年2月に退去強制の処分を受け出国。2019年10月の1審で東京地裁は「漁業関係者への嫌がらせを入国目的としていた疑いがあるというのは困難だ」と指摘、2審の東京高裁も支持した(11月18日付・産経新聞Web版)。

   イルカをめぐる保護活動か、漁業者への嫌がらせか。自身は2011年5月5日のゴールデンウイークに家族と和歌山県南紀を観光で訪れた折に太地町に赴き、現場を見に行ったことがある。当時の率直な感想は「嫌がらせ」だ。イルカ保護活動を職業にしている、というイメージだった。そのときの様子を再現してみる。

   訪れたのは5月5日午前10時ごろ。追い込み漁が行われている小さな入り江へ行く=写真・上=。イルカが網にかかっており、翌日市場が再開するので漁業関係者が網からイルカを外して解体処理場に運んでいた。その様子を橋の上からオバリー氏が見ていた=写真・下=。もう一人の外国人が沿岸で漁の様子をカメラ撮影していた。和歌山県警の警官も数人いて、周囲にはちょっとした緊張感があった。

   「嫌がらせ」と感じた場面は近くの漁協の前でのことだ。外国人数人がいて、漁協前で停まった車から漁師風の男性がおりると近寄り、たどたどしい日本語で「イルカ漁をやめてほしい」とお札を数枚差し出していた。男性は無視して漁協に向かった。漁協の前に車が停まるたびにそれが繰り返されていた。物理的な阻止行動ではない。今回の裁判官とすれば、漁師が無視すればよいだけの話で「嫌がらせ」ではないとの印象かもしれない。

   問題はお金をちらつかせながら「イルカ漁をやめろ」という行為だ。「板子一枚、下は地獄」とよく漁師が言うように、漁は危険を伴う職業だ。現実に、1878年(明治11)クジラを追った船団が沖に流され遭難した100人以上が亡くなっている。その慰霊碑が立っていて、今でも慰霊参拝が続けられている。自然への恐れや畏怖の念を抱きながら、それでも太地の人たちは海からの恵みを得ようと歴史を刻んできた。そこにオバリー氏らが突然やってきて、金をやるからイルカ漁を止めろと活動しているのである。地元の漁師たちにとって、迷惑な話で「嫌がらせ」と感じても不思議ではない。

   オバリー氏が主役となって撮影された映画『ザ・コーヴ』は2010年にアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した。それ以来、イルカの保護運動の活動家にとって、太地町は悪名をはせ、オバリー氏はヒーローになった。世界の支持者から寄付金が集まり、裁判にも勝った。81歳、まだまだ頑張るつもりだろう。

   和歌山で生まれ、博物学者であり、生物学者(特に菌類学)であり、民俗学者の南方熊楠。その一生を記した著書(神坂次郎著『縛られた巨人 南方熊楠の生涯』)を読んだことがある。熊楠はクジラの塩干しを炭火であぶって、よく酒を飲んだと著書にあった。この塩干しが食べたくなり、太地町の商店から「鯨塩干」を取り寄せたことがある。オーブンで5分間ほどあぶって口にすると、スルメイカの一夜干しのあぶったものと歯触りや味がそっくりだった。

   熊楠が現代に生きていたら、オバリー氏をどう評しただろうか。頭に血が上ると口撃が止まらない悲憤慷慨(こうがい)の性格で徹底して対峙したか、あるいは妙に気が合って酒を酌み交わしたか。

⇒19日(木)夜・金沢の天気     はれ

★数字の裏読み、深読み、独り歩き

★数字の裏読み、深読み、独り歩き

    数字には納得できるものと納得できないものがある。さらに納得できたとしても、「さらに裏の潜むもっと大きな数字もあるだろう」と思わせるものもある。日本と中国の相互意識を探る第16回日中共同世論調査(実施=言論NPO、中国国際出版集団)の結果だった。17日付のNHKニュースWeb版の記事を引用しながら数字を読んでみる。

    調査は9月と10月に18歳以上を対象に行われ、日本は全国で1000人、中国は北京や上海など10都市で1571人からの回答をもとにしている。記事によると、中国に「良くない」という印象を持つ日本人は前回に比べ5ポイント増の89.7%に上った。その理由として、中国公船などによる「尖閣諸島周辺の日本領海や領空の侵犯」が同6ポイント増の57.4%で最も多く、以下、「国際的なルールと異なる行動」49.2%、「南シナ海などで行動が強引・違和感」47.3%で、中国による一方的な海洋活動が対中感情を悪化させている。設問はメディアで報道される内容に沿っている。

   一方、中国人で日本に対する印象が「良くない」と答えたのは52.9%で前回と横ばいだった。「良くない」理由は、「侵略の歴史 きちんと謝罪・反省せず」74.1%、「魚釣島・周辺諸島『国有化』で対立」53.3%、「米国と連携し包囲しようとしている」19.7%となっている。良くない印象の理由の設問はおそらく中国側が独自に作成したものだろう。その設問の内容は国内での反日教育をベ-スにしたものや、2012年9月に日本が尖閣諸島を国有化したこと、経済圏構想「一帯一路」のシーレーンをめぐる動きなど、いわゆる国策をベースにしたものだ。

   以下は深読み、裏読み、憶測である。「89.7%」をどう読むか。率直に中国で独り歩きをする危険な数字ではないだろうか。その大前提には中国人と日本人ではまったく情報は共有されないという事情がある。たとえば、日本人が「良くない」とする一番の理由である中国公船の尖閣周辺での航行について、日本で大きな問題となっていることは中国では報じられていないだろう。つまり、なぜ「良くない」のか理解されない。

   今回のアンケート調査の数字は中国でどのように報じられるのだろうか。憶測だが、「中国嫌いの日本人は89.7%」「日本嫌いの中国人は52.9%」の表現だろか。すると、「なぜ中国嫌いの日本人が多いのだ」と、今度は数字が独り歩きをして、逆に中国での反日感情を煽る可能性も出てくる。あるいは、数字は政治的に利用されることもあるだろう。

   折しも、「自由で開かれたインド太平洋」のもと日本、アメリカ、インド、オーストラリアの4ヵ国の海軍と海上自衛隊がインド近海での共同訓練を行っている。中国とすれば、格好の「口撃」材料だろう。「中国嫌いの日本人89.7%が敵に回っている」とプロバガンダにされる、かもしれない。

⇒18日(水)朝・金沢の天気     はれ

☆数字は踊る、気になる、「一番」に弱い

☆数字は踊る、気になる、「一番」に弱い

   あさ起きると数字が踊っていた。16日のニューヨーク株式市場で、ダウ平均株価の終値が前週末比で470㌦高の2万9950㌦となり、今年2月につけた終値としての最高値2万9551㌦を更新し、初の3万㌦突破も迫っているとメディア各社が報じている。アメリカの株高を好感して、きょう17日の東京株式市場で日経平均株価が前日比100円を超える上昇、一時、2万6000円台をつけた(午前9時10分現在)。2万6000円台の回復は終値ベースで1991年5月以来29年ぶりととか。

   「一番」という数字には目が向く。理化学研究所と富士通が開発したスーパーコンピューター「富岳」が、17日に公表された計算速度を競う世界ランキングで首位を維持した。富岳が世界一になるのは今年6月に続いて2期連続(11月17日付・日経新聞Web版)。世界ランキングは毎年6月と11月に公表され、富岳は1秒あたり44.2京(京は1兆の1万倍)回の計算速度を達成した。2位のアメリカの「サミット」(同14.8京回)をさらに引き離した(同)。「富岳」を製造している富士通ITプロダクツは石川県かほく市にあり、地元の多くの人たちが製造に関わり、地域の誇りでもある。

   ここで思い出す。2009年11月、民主党政権下に内閣府が設置した事業仕分け(行政刷新会議)で蓮舫議員が、次世代スーパーコンピューター開発の要求予算の妥当性について説明を求めた発言。「(コンピューターが)世界一になる理由は何があるんでしょうか。2位じゃダメなんでしょうか」だった。科学者やスポーツ選手では当たり前と思われてきた世界一(金メダル、ノーベル賞)への道だが、政治家にはこの目標がない、正確に言えば「政治の世界ナンバー1」という尺度がないのだ。その尺度がない政治家が「世界一になる理由は何があるんでしょうか」と言う資格は本来ないだろう。ひょっとして政治家の多くは「オリンピックは参加することに意義がある」と今でも思っているのかもしれない。

   世論調査の数字も気になる。朝日新聞が今月11月14、15日に行った世論調査によると、「菅内閣を支持しますか。支持しませんか」の問いでは、「支持する」が56%で前回(10月17、18日)より3ポイントアップ。「支持しない」は20%で前回より2ポイント下げた。国会で論戦にもなった「日本学術会議」問題で、菅総理が学術会議が推薦した学者の一部を任命しなかったことについて、「あなたはこのことは妥当だと思いますか。妥当ではないと思いますか」の問い。「妥当だ」34%(前回31%)、「妥当ではない」36%(同36%)、「その他・答えない」30%(同33%)だった。三つ巴の様相だが、「菅総理の国会での説明に納得できますか。納得できませんか」の問いでは、「納得できる」が22%、「納得できない」49%となる。

    民意はどこにあるのだろうか。「菅さん、国会答弁は口下手だけど、やっていることはそう間違ってはいない。東京オリ・パラもあるのでなんとか頑張って」ということだろうか。

⇒17日(火)午前・金沢の天気    はれ

★「困難に負けない」 ツワブキの花言葉

★「困難に負けない」 ツワブキの花言葉

   晩秋の気配を紅葉と落ち葉で感じるきょうこの頃だ。庭先の日陰でツワブキが黄色い花を咲かせていた。日陰ながら葉を茂らせ、花を咲かせることから「謙譲」「謙遜」「愛よ甦れ」「困難に負けない」と花言葉がある。そのツワブキを床の間に生けてみた=写真=。

   花もさることながら、葉はハスのように丸く、表面には艶がある。とても床の間に映える。ツワブキには「石蕗」と漢字が充てられている。確かに、石垣のすき間の中からささやかに花を咲かせ、つやつやとした葉を見せてくれるツワブキもある。日陰や石垣といった、ある意味での逆境にありながらも、植物の個性を見事に表現している。その日一日を粛々と生きる。ただひたすらに、ありのままに前向きな心境になれば、別の風景も見えてくるものだ。

   掛け軸には『閑坐聴松風』を出してみた。「かんざして しょうふうをきく」と読む。静かに心落ち着けて坐り、松林を通り抜ける風の音を聴く。茶席によくこの軸物が掛かる。釜の湯がシュン、シュンとたぎる音を「松風」と称したりする。日曜日の静かな午前のひとときを花と掛け軸で楽しんだ。

   午後からはまるで爆音のようなメディアの騒ぎだ。IOCのバッハ会長が来日した。延期された東京オリ・パラ開催に向けて、現地・日本の様子を確認する狙いだろうが、本人の新型コロナウイルス対策はどうか最初に気になった。何しろ、ヨーロッパは新型コロナウイルスの感染拡大が猛烈な勢いだ。ニュースでは、訪日に備えてバッハ氏を含めてIOC関係者は事前に自主隔離し、さらに少人数でチャーター機を使って来日したというから気遣いを察した。

   ただ、年末になってもコロナウイルスは衰えるどころか変異してさらにパワーアップしているようだ。ことし3月25日に当時の安倍総理とIOCのバッハ会長の電話会談で東京オリンピックを1年ほど延期すると表明があった時点で、大会の出場枠は全体の43%が確定していなかった。これから各国が予選を行い、代表選手を決めるとなると選手のモチベーションそのものが高まるだろうか。各種ランキングを用いて出場選手を決めることも検討されているようだ(11月12日付・時事通信Web版)。

   逆境のただ中で東京オリ・パラ開催できるのかどうか。このリスクは日本にとって重過ぎるのではないだろうか。だからと言って菅政権は「諸事情に鑑みて中止」とは政治的には絶対に言えないだろう。世界史に刻まれる日本の難題がこれから始まる。ツワブキの花を眺めながらふとそんなことを考えた。

⇒15日(日)夜・金沢の天気    くもり

☆アメリカ大統領選から見えたメディアの有り様

☆アメリカ大統領選から見えたメディアの有り様

    それにしても「長い長い戦い」とはこのことを言うのだろう。アメリカ大統領選挙は、投票日(今月3日)から10日が経ちようやく、トランプ氏とバイデン氏の選挙人の獲得数が確定した。50州と首都ワシントンでの選挙人538人のうち獲得したのはバイデン氏が306人、トランプ氏が232人だったとメディア各社が報じている。

   フロリダ大学「選挙プロジェクト」サイトでの推計によると、今回の大統領選の投票数は1億5883万票で、アメリカの18歳以上の有権者数2億3925万人に対する投票率は66.4%だった。二者択一の投票率は高いものだが、たとえば、大阪市を廃止して4つの特別区に再編する「大阪都構想」の住民投票(今月1日)は今回62.4%だった。大阪より熱いアメリカだったとも言える。

   アメリカ大統領選について動画やサイトをチェックしていたが、アメリカのメディア、とくにテレビは日本の選挙報道と少し趣(おもむき)が異なる。現地時間12日付のCNNは「Trump fails to address election loss」(トランプ氏、選挙敗北への対応に失敗)とトランプ氏に対しては皮肉たっぷりに伝えている=写真=。選挙期間中を問わず、CNNはいつもトランプ氏には対して厳しい論調だ。

   日本では新聞やテレビに選挙報道の公正さを求める(公選法148-1)、テレビ放送に政治的な公平性を求める(放送法4)、テレビ放送に候補者の平等条件での放送を求める(放送法13)などだ。この法律に従って、マスメディアの選挙報道は公示・告示の日から投票時終了まで、候補者の公平的な扱いを原則守っている。

   アメリカでもかつてテレビ局に「The Fairness Doctrine」(フェアネスネドクトリン)、つまり選挙報道などでの政治的公平が課せられ、連邦通信委員会(FCC)が監督していた。ところが、CATV(ケーブルテレビ)などマルチメディアの広がりで言論の多様性こそが確保されなければならないと世論の流れが変わる。1987年、連邦最高裁は「フェアネス性を義務づけることの方がむしろ言論の自由に反する」と判決を下し、フェアネスドクトリンは撤廃された。このころから、テレビ局に政治色がつき始め、たとえば、FOXは共和党系、CNN、NBCは民主党系として知られるようになった。

   アメリカではむしろこの傾向が「テレビ離れ」に拍車をかけているのかもしれない。確かに、アメリカでは、ヘイトスピーチもフェイクニュースも表現の自由であり、むしろ、誰かが言う権利を否定することこそが忌まわしいという風潮は今もある。ただ、メディアの公平性というのは、フェイクやヘイトがネットで蔓延する社会だからこそ求められる報道スタンスであり、それが今、信頼性として評価される時代ではないだいろうか。FOXもCNNも脱共和、脱民主を追求してみてはどうか。

⇒14日(土)朝・金沢の天気     はれ

★動物たちの反乱

★動物たちの反乱

   前回のブログで霊長類学者、河合雅雄氏の講演について述べた。河合氏らの共著に『動物たちの反乱』がある。タイトルが面白い。今まさにその時代が到来しているのかもしれない。街中に出没するツキノワクマ、農作物を食い荒らすニホンザル、市内でゴミをあさるイノシシなど、動物たちがヒトに「反乱」を起こしているのか。ここからは空想の世界が入り混じる。

   動物たちの反乱は身近に起きている。きょう大学から一斉メールが届いた。「高病原性鳥インフルエンザに対する対策について」との文科省からの通知の転送だ。添付ファイルに「野鳥との接し方」がある。以下引用。「野鳥の糞が靴の裏や車両に付くことにより、鳥インフルエンザウイルスが他の地域へ運ばれるおそれがありますので、野鳥に近づきすぎないようにしてください。 特に、靴で糞を踏まないよう十分注意して、必要に応じて消毒を行ってください」。自家用車を駐車場に停めておくと、鳥のフンがフロントガラスについていることがある。これまでテッシュペーパーで拭いて、水をかけて洗っていたが、触れないようさらに用心が必要だ。鳥たちの「フン爆撃」か。処置としては、ガソリンスタンドの洗車機で洗うのベストだろう。1回450円だ。

   動物たちの「敵陣突破」作戦も顕著になってきた。環境省は今年4-9月のクマの出没件数が全国で1万3670件に上り、2016年度以降の同時期で最多だったことを明らかにした(10月26日付・共同通信Web版)。石川県では687件(ことし1月-11月10日現在)に上り、9月11日には「ツキノワグマの出没注意情報」を発令した。さらに、クマとの遭遇に備えて「ヘルメットの着用やクマ撃退スプレーの携行」、さらに、「林道での人身被害を防止するため、自動車から降りる際にはクラクションを数回鳴らしてから降りる」ことを勧めている。 まさに、戦闘態勢だ。

   動物たちの「兵糧攻め」も続いている。農水省公式ホームページの統計によると、平成30年度の野生鳥獣による農作物の被害額は158億円に上った。種別の被害金額は、シカが54億円、イノシシが47億円、サルが8億円だ。被害の7割をこの3種が占めた。被害面積ではシカによるものがおよそ4分の3だ。被害額としては6億円の減少(前年比4%減)だが、被害量が49万6千㌧で前年に比べ2万1千㌧も増加(対前年4%増)している。

   海外では「人心のかく乱」「新兵器」も繰り出している。デンマークでは、毛皮を採取するための家畜のミンクから変異した新型コロナウイルスが見つかり、人への感染が確認されたとして、政府は国内の農場で飼育されるミンク1700万匹を殺処分にする方針を明らかにした(11月7日付・NHKニュースWeb版)。その後、デンマーク政府は国内で飼育されている全ミンクの殺処分を義務付けるとした命令を撤回した(同11日付・CNNニュースWeb版日本語)。一方、イギリスの保健大臣は、変異種が世界中に広まれば「重大な結果」がもたらされると警告、毛皮用のミンク飼育を国際的に禁じる必要があると示唆した(同・時事通信Web版)。エレガントなミンクの毛皮とコロナ禍の間で揺れる人々の心を嗤うように「かく乱」が続く。

   中国では動物たちが「新兵器」を繰り出した。NHKの報道によると、中国甘粛省の蘭州市当局は記者会見(今月5日)で、去年7月から8月にかけて「ブルセラ症」の動物用のワクチンを製造する地元の製薬工場から菌が漏れ出し、周辺住民など6620人が感染したことを明らかにした(11月6日付・NHKニュースWeb版)。ブルセラ症は犬や牛、豚、ヤギなどが細菌に感染して引き起こされる病気で、人が感染すると発熱や関節の痛みなどの症状が出る(同)。

   問題は感染経路だ。厚労省公式ホームページによると、人から人への感染は極めてまれで、感染動物の乳製品や肉を食べた場合での感染が一般的という。コロナウイルスでは、武漢市の細菌研究所の近くに市場があり、動物実験で廃棄されたものが市場に出回ったと当時うわさされた。今回も同じ展開か。動物たちの策略に人はうまく乗せられたのか。

⇒13日(金)朝・金沢の天気    はれ