#コラム

☆放送倫理と人権問題、テレビが問われること

☆放送倫理と人権問題、テレビが問われること

   まるで不祥事のデパ-ト、そんな印象を抱いた。このブログでも何度か事例を引用しているBPO(放送倫理・番組向上機構)の公式ホーページをチェックすると、フジテレビの案件が目白押しになっている=写真=。BPOは、放送の言論と表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を守るため、放送への苦情や放送倫理上の問題に対応するNHKと民放による独自の組織だ。

   BPOがトップで掲載している項目は、フジテレビが実施した世論調査で架空の回答が入力され、報道番組で伝えていた問題が結審したとの内容だ。フジは2019年5月から2020年5月まで14回にわたり実施した世論調査で、調査会社の社員が電話をしていないにもかかわらず「電話をした」として架空の調査データが入力されていた。調査を委託した会社が再委託した、いわゆる「孫請け」の会社だった。問題の発覚を受け、同局は架空の調査をもとに報じたニュース(18回分)を取り消した。この問題を審議してきた放送倫理検証委員会はきのう10日に結審した。

   意見書によると、NHKと民放が定めた放送倫理基本綱領などに照らし合わせ、「世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにし、架空データが含まれた世論調査結果を1年余りにわたり報じたもので、市民の信頼を大きく裏切り、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことも否めない」として、この件は重大な放送倫理違反に当たると判断した。SNSを主舞台とする、いわゆる「ネット世論」が拡大するなど、多種多様な情報が錯綜している。世論調査の信頼性を確保するためには「世論調査の外部への発注から納品、データの分析、ニュース原稿作成に至るプロセスは、それ自体が取材活動であり、担当者にはジャーナリストとしての目線が欠かせない」と述べ、調査の現場に行く、数字をチェックする、緊張感のある対応を求めている。

   同じく放送倫理違反があったと結論づけられた審議案件。同局のクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』は、100人の参加者から選ばれた解答者1人が、残る99人を相手にクイズで競う番組コンセプト。だが、参加者が不足した際、エキストラを出演させて補い、クイズへの解答もさせていなかった。コンセプトを逸脱した状態は2018年7月から1年余り続き、告発を受けて2020年4月に同局は番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪していた。放送倫理検証委員会の審議はことし1月18日に結審した。

   意見書によると、番組制作にあたってプロデューサーが6人配置されていたにもかかわらず、お互いが「見合う」カタチになっていて、エキストラによる補充の常態化に警鐘を鳴らすスタッフがいなかった。欠員は想定外でなく想定内として番組制作の数日前にエキストラの補充を手配業者に発注していた。「視聴者との約束を裏切るものであった」と放送倫理違反を結論づけている。

   3つ目が、女子プロレスラーの自死が問題となったリアリティ番組『テラスハウス』(放送:2020年5月19日未明)についての審理だ。問題となったシーンは、同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れたとして怒鳴り、男性の帽子をはたく場面だ。放送より先に3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNSコメントで批判が殺到した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。フジの番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話連絡をとっていた。ところが、フジは5月19日未明の放送で、SNSで批判された問題のシーンをカットすることなく、そのまま流した。女子プロレスラーは5月23日に自ら命を絶った。 女性の母親は娘の死は番組内の「過剰な演出」による人権侵害としてBPOに申し立てた。

   放送人権委員会はことし1月19日までに3回の審理を重ねている。これまでの関係者のヒアリングで、母親はSNS上で誹謗中傷が集中したあと娘が自傷行為を行ったことは、「SOSを出していたのであり、フジテレビが適切に対応していれば娘が命を落とすことはなかった」などと訴えた。また、女子プロレスラーの知人は当時の様子について、女性とのやり取りから制作スタッフに不信を抱いていたようだと感じたなどと述べた。一方、フジテレビ側は、社内調査を行った結果から、番組に過剰な演出はなく女性を暴力的に描いたことはないとして主張した。

   審理が始まって新たな展開があった。警視庁は12月17日、女子プロレスラーを中傷する投稿をSNSで行ったとして、侮辱容疑で大阪府の20代の男を書類送検した。ツイッターアカウントに「性格悪いし、生きてる価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などと投稿し繰り返し、公の場で侮辱した疑い(2020年12月17日付・時事通信Web版)。

   フジに限らず、番組の不祥事は制作スタッフの緩みやスキを突いて出てくる。放送倫理と人権問題として放送する側が問われる。緊張感を持って制作しなければ、番組は立たない。

⇒11日(祝)午後・金沢の天気     はれ    

★世界が認める「生き物ブランド米」

★世界が認める「生き物ブランド米」

   あさニュースをチェックしていて目に留まる記事は、「環境」や「エコロジー」といったワードが入っていたりする。NHKニュースWeb版(2月9日付)の記事。兵庫県北部の但馬地域のブランド米「コウノトリ育むお米」は、国の特別天然記念物、コウノトリの野生復帰を促す活動に協力するため、農薬をできるだけ使わずに作られている。ブランド米を販売する地元の農業協同組合が、フランスへの輸出を始めることになった。環境に配慮した栽培方法をアピールし、環境問題への関心が高い現地のニーズを取り込みたいとしている。

   今月下旬にもフランス南部のマルセイユにおよそ100㌔を輸送し、日本の食材を扱う小売店などに卸す予定だという。このブランド米はすでにアメリカやアラブ首長国連邦など世界6ヵ国に輸出しているが、ヨーロッパへの販路拡大は初めて(同)。

   この記事を読んで、豊岡とコウノトリの「物語」を思い出した。豊岡にはコウノトリが舞い降りる名所だった。ところが、戦時中には巣をつくる営巣木であるマツが大量に伐採され、さらに、戦後はコメの増産から農薬が普及して、コウノトリは激減していた。そこで、2005年9月に「コウノトリの里」の復元を目指して、秋篠宮ご夫妻を招いてコウノトリの放鳥が行われた。カゴから飛び立った5羽のうち一羽が近くの田んぼに降りてエサをついばみ始めた。その田んぼでは有機農法で酒米をつくっていた。金沢の酒蔵「福光屋」が酒米農家に「農薬を使わないでつくってほしい」と依頼していたものだった。

   このことがきっかけでJAなどが中心となってコウノトリにやさしい田んぼづくりを始めるようになった。その後、豊岡ではコウノトリが野生復帰した。農家は農薬を使わず、手で雑草を取っているという光景がみられるようになった。コウノトリが舞い降りる田んぼの米「コウノトリ米」には付加価値がついた。それをブンラド化した。コウノトリを見ようと毎年50万人が訪れ、エコツーリズムの拠点にもなった。福光屋は地元での限定販売で「コウノトリの贈り物」という純米酒を造っている。

   こうした、生き物と稲作が共生することで、コメの付加価値を高めることを「生き物ブランド米」と呼んでいる。まさに、豊岡の成功事例がお手本となった。自身もこれまで、新潟県佐渡市の「トキ米」や、地元石川県白山市での「ホタル米」などを見学したことがある。農家の人たちは実に熱心でブランド価値を高めることに余念がない。有機農業はヨーロッパなど世界では常識だが、それにさらに生き物を冠してのブランド米となると注目されるかもしれない。ヨーロッパでは「赤いクチバシ」のコウノトリは幸せを運んでくると言われるそうだ。

(※写真は、「JAたじま」公式ホームページより)

⇒10日(水)朝・金沢の天気    はれ

☆「冬の華」を楽しむ

☆「冬の華」を楽しむ

   目が覚めて外の景色をみると、樹木や道路に雪が積もっている。それほど寒くはない。積もっている雪をよく見ると、「綿雪」だ。ふんわりした、まるで綿をちぎったような形状=写真・上=。当地では「ぼたん雪」と称したりする。今季のこれまでの雪は強烈な寒波がやってきたときに降る「粉雪」が続いていた。2月もそろそろ中旬に差し掛かる。立春が過ぎて、季節のやわらぎを感じる。

   綿雪は雪の結晶がくっつき合っている。なので、樹木の枝などに降りかかると、まるで花のように見える。大学の校舎をバックした樹木はまるで、満開のソメイヨシノのようにも見えて壮観だ=写真・下=。ただ、気温が少し上がり、午前中には溶けてしまった。数時間だったが、冬の華を楽しませてもらった。

⇒8日(月)午前・金沢の天気   くもり

★森発言 五輪のモチベーションも失速

★森発言 五輪のモチベーションも失速

    菅総理はことし元旦の年頭所感で、「我が国は、多国間主義を重視しながら、『団結した世界』の実現を目指し、ポストコロナの秩序づくりを主導してまいります。そして、今年の夏、世界の団結の象徴となる東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催いたします」(総理官邸公式ホームページ)と述べたが、開催自体も怪しくなってきた。 

   共同通信社が6、7両日に実施した全国電話世論調査によると、「女性蔑視」発言をした東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長に関し、会長として「適任とは思わない」との回答が59.9%に上った。「適任と思う」6.8%、「どちらとも言えない」32.8%だった。菅内閣の支持率は38.8%で前回1月調査から2.5ポイント続落し、初めて40%を割り込んだ。不支持率は3.1ポイント増の45.9%となった(2月7日付・共同通信Web版)。

   読売新聞が5-7日に実施した全国世論調査では、森会長が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などと発言したことについて、「問題がある」との回答は「大いに」63%、「多少は」28%を合わせて91%に上った。「大いに」を男女別にみると、女性が67%で、男性の59%を上回った。オリ・パラの開催では、「観客を入れて開催する」8%と「観客を入れずに開催する」28%を合わせ、計36%が開催に前向きな考えを示した。「再び延期する」は33%、「中止する」は28%だった(2月7日付・読売新聞Web版)。

   内閣支持率は39%と前回(1月15-17日調査)の39%から横ばいだった。不支持率は44%(前回49%)に下がった。昨年11月に69%だった内閣支持率は、その後、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い3回連続で下落していた。今回の調査で支持率の下落傾向に歯止めがかかったのは、新規感染者数が減少に転じたことが主な要因とみられる(同)。

   国内世論にオリ・パラ開催へのモチベーションが感じられない。森会長が辞めたら、世論的にモチベーションは上がるのだろうか。新型コロナウイルスの感染収束が見通せない状態では八方塞がりだ。どうやら、暗いトンネルに入り込んでしまったようだ。

⇒7日(日)夜・金沢の天気 

☆森発言 批判鳴り止まず

☆森発言 批判鳴り止まず

   東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視ともとれる発言の波紋が広がっている。IOCのバッハ会長は、「組織委員会から森会長が発言を撤回し、謝罪したという報告を受けて、IOCとして、その部分はよく理解した。引き続き、東京大会の成功に向けて努力してほしい」(橋本オリンピック・パラリンピック担当大臣の談話、2月5日付・NHKニュースWeb版)と語ったと、報じられている。果たしてそれでこの発言問題は収束するのか。

   日本の新聞メディアはどうか。「森会長失言、批判噴出」と毎日新聞(2月5日付)は一面のトップ記事だ。朝日新聞(同)も「森会長、発言撤回し謝罪」と同じく一面トップ。一方、読売新聞(同)は「森会長が発言撤回」と一面ながら、扱いは3番目だ。日経新聞(同)も「森氏、発言を謝罪」と一面ながら扱いは4番目だ。では地元新聞はどうか。北國新聞(同)は「森氏『不適切』と謝罪」と一面の準トップ。北陸中日新聞(同)は「森会長 性差別発言を謝罪」と一面トップだ。扱いの大きさでそれぞれの新聞の編集方針が浮き出ている=写真=。

   では、海外の報道はどうか。アメリカのCNNは「Top Tokyo Olympics organizing official apologizes for sexist remarks that women talk too much in meetings」と伝えている。イギリスのBBCも「Tokyo Olympics chief Yoshiro Mori ‘sorry’ for sexism row」と。このニュースがさらに世界に広がり、オリンピックの競技でどこかの国の女子チームが不参加を表明したら、さらに大きなニュースとなって世界を駆け巡る。すでに、カナダのアイスホッケー女子五輪金メダリストでIOC委員を務めるヘーリー・ウィッケンハイザー氏は4日、「(森氏を)絶対に追い詰める」とツイッターに投稿し、発言への憤りを表明した(2月5日付・NHKニュースWeb版)。

   女性差別発言は海外ではさらに厳しくなるだろう。国際的な人権団体の格好の攻撃対象だ。森氏の辞任どころか、東京オリンピックそのものの開催も危うくなるのではないだろうか。ジェンダーの発言問題を収束させる機関も人物も手段もないのだ。

⇒5日(金)夜・金沢の天気   くもり

★物議かもす森発言を読む

★物議かもす森発言を読む

   同じ石川県出身の森喜朗元総理の講演をこれまで何度か聞いたことがある。大学の教員となってからでは、2012年5月に金沢大学が発祥から150年となる「創基150年」の記念式典で、森氏の講演を聴いた=写真=。金沢大学の総合移転をめぐる話だった。以下当時の講演メモから。

   1970年代でもめた「筑波大学法案」(国立学校設置法等の一部を改正する法律案)では国会議員からも猛反発も受けたが、「私は一歩も引く気はなかった。なぜなら、わたしの頭には次は金沢大学の総合移転があった」と。金沢大学の移転をめぐっては反対意見もあり、「筑波の矛先を金沢に向ける保守反動、右翼森喜朗をつぶせ」などと書いたビラも金沢市内に貼られたが、森氏は「むしろ政治家のライフワークと自覚した」。大学移転後の金沢城では櫓や門などが復元整備され、附属小中学校の跡地には金沢21世紀美術館がオープンして人気を博している。どちらも2014年度末の北陸新幹線金沢開業に向けて、有力な観光スポットとして期待されている。「私の判断は間違っていなかった」と語気を強めた。

   講演では話の流れが分かりやすく、しかも、アドリブを利かせながら聴衆をひきつける。森氏は学生時代、早稲田大学の雄弁会で活躍したそうだ。鍛え抜かれた弁舌だと感じた。ただ、時にその弁舌はマスメディアの目線では誤解を生むこともある。

   2000年4月、森氏は脳梗塞で倒れた当時の小渕総理の後を継ぐかたちで総理に就任した。その直後の5月、神道政治連盟国会議員懇談会で森氏は「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知して戴く、そのために我々が頑張ってきた」と述べた。いわゆる「神の国」発言である。戦後、天皇は神性を否定する「人間宣言」をしているにもかかわらず、国の総理がそれを否定したとして大騒ぎとなった。その後、ハワイ沖で日本の高校生の練習船がアメリカの原子力潜水艦と衝突して死者を出した「えひめ丸」事故(2001年2月)への対応が問題となり、就任から1年で総理の座を小泉純一郎氏に渡した。退陣前の内閣支持率は9%(朝日新聞調査)と1桁に落ちていた。

   そして、きのう3日の発言も物議をかもした。東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長である森氏はJOC臨時評議員会で「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。みんな発言される」と述べた。メディアはこの発言を女性差別であり、理事会への女性参画の流れにも逆行すると国内外でニュースとして発信した(2月4日付・NHKニュースWeb版など)。

   表現が率直過ぎて、笑える失言もある。2005年8月、参院で郵政民営化法案が否決された当時の小泉総理が衆院解散を決意する。それを思いとどまらせようと森氏が官邸を訪ねたが、「殺されてもいい」と小泉氏に拒否された。会談直後に、森氏は握りつぶした缶ビールとチーズを記者団に見せて、「寿司でも取ってくれるのかと思ったらこの干からびたチーズだ」「硬くて歯が痛くなったよ」と不平を漏らした。

   干からびたチーズを前総理の森氏に出したことで小泉氏は解散総選挙への本気度を示したとメディアが報じ、結果、選挙は自民大勝となった。その干からびたチーズはフランス産高級チーズ「ミモレット」だった。

⇒4日(木)午後・金沢の天気     くもり

☆能登のグローバルな伝統行事アマメハギ

☆能登のグローバルな伝統行事アマメハギ

   きのうは節分、きょうは立春。能登では節分の恒例行事としてアマメハギが行われた。これまで取材などで何度か能登町秋吉地区を訪れている。当地では、アマメは囲炉裏(いろり)で長く座っていると、足にできる「火だこ」を指す。節分の夜に、鬼が来て、そのアマメをハギ(剥ぎ)にくるという意味がある。節分は季節を分ける、冬から春になるので、農作業の準備をしなさい、いつまでも囲炉裏で温まっていてはいけないという戒めの習わしでもある。現在では子どもたちに親の言うことを聞きなさいという意味になっている。

   秋吉地区で行われるアマメハギは高校生や小中学生の子どもが主役、つまり仮面をかぶった鬼を演じる。玄関先から居間に上がりこんで、木の包丁で木桶をたたきながら、「なまけ者はおらんか」などと大声を出す。すると、そこにいる園児や幼児が怖がり泣き叫ぶ。その場を収めるために親がアマメハギの鬼にお年玉を渡すという光景が繰り広げられる。ただ、今年は新型コロナウイルスの感染拡大に配慮して、鬼は居間に上がらず、玄関先での訪問となったと昨夜のテレビニュースで伝えていた。

   この伝統行事もこれまで何度か時代の波にさらされてきた。少子高齢化と過疎化で今でも伝承そのものもが危ぶまれているのは言うまでもない。行事を世話している地域の方からこんな話を聞いたことがある。かつて、アマメハギで鬼に扮する小中学生への小遣い渡しが教育委員会で問題となり、行事を自粛するよう要請されたこともあったそうだ。このことがきっかけで行事が途絶えた地区もあったという。

   時代の洗礼にさらされながらも、2018年にアマメハギが秋田・男鹿半島のナマハゲなどともに日本古来の「来訪神 仮面・仮装の神々(Raiho-shin, ritual visits of deities in masks and costumes)」として、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録された。国際評価を得たのだ。と同時に、面白いことに、アマメハギやナマハゲの行事は日本のローカルな行事ではなく、世界中にあるということに気づかされた。

   ヨーロッパの伝統行事「クランプス(Krampus)祭」。クランプスはドイツやオーストリアの一部地域で長年継承されている伝統行事。頭に角が生え、毛むくじゃらの姿は荒々しい山羊と悪魔を組み合わせたとされ、アマメハギの仮面とそっくりだ。12月初め、子どもたちがいる家庭を回って、親の言うことを聞くよい子にはプレゼントを渡し、悪い子にはお仕置きをするのだという。そこで、ドイツ・ミュヘン市の公式ホームページをのぞくと「Krampus Run around the Munich Christmas Market」と特集が組まれていた。現地では有名な行事のようだ。

   「能登は上質なタイムカプセル」と評し、伝統産業や行事を持続可能なカタチで引き継ぐ風土への評価がある(坂本二郎・金沢大学教授)。能登にはユネスコ無形文化遺産だけでなく、FAOの世界農業遺産(GIAHS)という国際評価もある。SDGsに取り組む自治体もある。グローバルな価値観をあえて持ち込むことで未来へのソフトチェンジが拓けていくのではないだろうか。

(※上の写真は能登町のHPより、下の写真はドイツ・ミュンヘン市のHPより)

⇒3日(水)午前・金沢の天気   はれ

★能登にある「グローバル過疎地」

★能登にある「グローバル過疎地」

   能登半島の里山の一角を自身は勝手に「グローバル過疎地」と紹介している。安倍前総理も2019年1月の通常国会の施政方針演説でこう紹介している。「田植え、稲刈り。石川県能登町にある50軒ほどの農家民宿には、直近で1万3千人を超える観光客が訪れました。アジアの国々に加え、アメリカ、フランス、イタリア、イスラエルなど、20ヵ国以上から外国人観光客も集まります」。観光による地方創生の成功事例として紹介されたのは能登町の農家民宿で組織する「春蘭(しゅんらん)の里」だ。

   春蘭の里にインバウンド観光客が訪れるきっかけとなったのは、2011年11月にイギリスBBC放送の番組「ワールドチャレンジ」にエントリーしたのがきっかけだった。世界の草の根活動を表彰する同番組には毎年600以上のプロジェクトの応募がある。2011年に「春蘭の里 持続可能な田舎のコミュニティ~日本~」を掲げてエントリーし、最終選考(12組)に残ったものの、惜しくも4位だった。が、投票を呼びかけるBBCのこの番組で12組の取り組みが繰り返し放送されたことで知名度が上がり、国内外の観光業者から注目されるきっかけとなった。

   春蘭の里がBBCにエントリーしたのは、突飛な話ではない。2010年10月、名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の公認エクスカーション(石川コース)では、世界17ヵ国の研究者や環境NGOメンバーら50人が参加し、春蘭の里でワークショップを開催している。そして2011年6月、北京でのFAO国連食糧農業機関の会議で「能登の里山里海」が世界農業遺産(GIAHS)に認定され、能登を世界に売り込むチャンスが訪れていた。春蘭の里はこの機会を逃さず、「ワールドチャレンジ」にエントリーにした。

   昨年9月に春蘭の里のリーダー、多田喜一郎氏を大学の研修で訪ねた。新型コロナウイルスのパンデミックの影響でインバウンド観光客は鳴りを潜めているが、それまでは毎年20ヵ国ほどから2000人余りを受け入れていた。「インバウンド観光客が求めているものは、むしろ田舎にある」は、多田氏の持論だ。森の中で暮らす、食するは人類共通の願いである、とも。もう一つの持論は「行政に頼らない。むしろ、行政が応援したくなるような地域づくりをしたい」。この発想が多様なチャレンジを広げていのではないか。

   では、60代や70代が中心の民宿経営者たちがいかに20ヵ国ものインバウンド観光客と接することができるのか、集落に通訳業の人たちがいるわけではない。多田氏は「ポケトークだと会話の8割が理解できる。すごいツールだよ」と。春蘭の里ではこの74言語に対応した音声翻訳機「ポケトーク」を8台所有し、必要に応じて貸し出している。この文明の利器を介して、炭焼きや山菜採り、魚釣りなどの体験をインバンウンドの人たちと楽しんでいる。過疎地にしてグローバル、「グローバル過疎地」と紹介する所以である。

(※写真=「春蘭の里」には世界から日本の里山を見学に訪れる。左はリーダーの多田喜一郎氏)

⇒2日(火)夜・金沢の天気

☆節分に叫ぶ「コロナは外」「ワクチンはうち」

☆節分に叫ぶ「コロナは外」「ワクチンはうち」

   きょうから2月、ことしは節分は2日、立春は3日となっている。国立天文台公式ホームページによると、立春はこれまでずっと4日だった。同天文台の観測によって、「太陽黄経が315度になった瞬間が属する日」を決めている。計算ではことしの立春の日は3日23時59分となるそうだ。1分の違いではあるものの、立春は3日となる。実にきわどい二十四節気ではある。従って、節分はその前日の2日となる。

   さて、節分と言えば豆まき。季節の変わり目に起きがちな病気や災害を鬼に見立て、それを追い払う風習が知られる。「鬼は外、福は内」と声を出しながら煎り豆をまき、豆を食べて厄除けをする。ここからきょうの論点だ。ことしの豆まきの掛け声は「コロナは外」「ワクチンはうち」ではないだろうか。ワクチンをめぐってさまざまな国際問題が起きている。

   WHOは新型コロナウイルスのワクチンについて、EU域内で製造されたワクチンの輸出を制限するというEUの発表を批判し、パンデミック長期化の原因となりかねないと警告した。EUは製薬会社の製造の遅れで当初契約された量が確保できていないことから、輸出制限を発表した(1月31日付・BBCニュースWeb版日本語)。今、世界ではワクチンの囲い込み騒動が起きているのだ。EUは域内で製造されたワクチンについて、域外への輸出規制を強化することは加盟国の人々を守るために必要な行動と表明していた。

   このEUの動きに対して、WHOのテドロス事務局長は、EUなどの富裕国がワクチンを独占して最貧国が苦しむならば、世界は「破滅的なモラル崩壊寸前」だと警告した(1月18日付・時事通信Web版)。まさにワクチンの争奪戦だ。

   EUはワクチン開発に際して域内の製薬メーカーなどに1億ユーロ(126億円)を投資していた。なので、EU域内の感情論だと、域内の製薬メーカーで生産されたワクチンがなぜ国民に行き渡らないのかと疑問に思ってるだろう。実際、EU4億4800万人のうち、これまで840万人しかワクチンを接種していない。ドイツ155万人、イタリア129万人、スペインは115万人、フランス100万人の順だ(1月26日付・BBCニュースWeb版)。ワクチ ンは域内で行き渡っていないのだ。そこにテドロ氏の「破滅的なモラル崩壊寸前」の警告はEUの国民の気持ちにどう響くのだろうか。

   日本政府はアメリカのファイザー社との契約でワクチンを確保し、医療従事者を対象に2月下旬から接種すると述べている。政府がファイザー社と契約した量は年内で7200万人分(1人2回で1億4400万回分)だ(1月30日付・NHKニュースWEB版)。ここに、WHOが日本に対し、「半分寄こせ」と直談判してきたら日本政府はどう動くのだろうか。国益との矛盾が見えてくる。日本は率直に「コロナは外」「ワクチンはうち」と相手をかわすことができるのだろうか。

(※写真は、ファイザー社のホームページより)

⇒1日(月)夜・金沢の天気   くもり

★WHO調査チームの困惑

★WHO調査チームの困惑

   1月の締めくくりでもある31日を晦日正月(みそかしょうがつ)と言ったりする。1月にやり残したことを終わらせるという意味合いもあるが、地域によってはこの日にそばをすすったり、だんごを食べたりする風習もあるそうだ。三寒四温の時節が待ち遠しい時節である。

   きょう気になったニュース。新型コロナウイルスの発生源などを解明するため、中国を訪れているWHOの調査チームは31日、感染拡大の初期に多くの患者が確認された武漢の海鮮市場を視察した(1月31日付・NHKニュースWeb版)。市場は昨年1月に閉鎖され、高さ3㍍の壁で囲まれ内部が見えないようになっていて内部への立ち入りは認められていない。

   調査チームはきょう午前中、中国政府が、感染対策が成功し都市の封鎖が行われていた昨年2月から住民に食料を供給したなどと宣伝している別の市場を視察。調査チームはきのう30日も中国政府が感染の封じ込めを宣伝する展示を視察している。中国は初期対応への遅れが指摘される中で、対応の正当性をアピールする狙いがあるとみられる(同)。

   果たしてこのような、中国側の宣伝する展示や現場を見せられて、困惑しているのは調査チ-ムではないだろうか。チームのメンバーは10人で、リーダーのピーター・ベン・エンバレク氏は動物-ヒト感染のインフルエンザウイルスなどの専門家、ほか疫病学や実験室試験・臨床治療を研究する科学者、新型ウイルス、獣医師などで構成されている。ウイルスが流出した可能性があるとアメリカなどが主張する「武漢ウイルス研究所」などへは行っていない。

   いろいろなところを連れ回し、中国側とすれば、「調査チームは納得して帰った」と宣伝したいのかもしれない。が、今回の調査チームの動向を世界の科学者は注目している。科学を甘く見てはいけない。

   きょう31日は、WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言して、ちょうど1年となる。(※写真は、感染者の退院の様子を伝える中の国・武漢市のホームページ、2020年2月1日)

⇒31日(日)夜・金沢の天気    あめ