#コラム

☆「広告うつ」にさいなまれるテレビ業界

☆「広告うつ」にさいなまれるテレビ業界

    最近知人たちから「電話うつ」という言葉を聞くようになった。新型コロナウイルスのワクチン接種を予約しようと、自治体のコールセンターに何10回と電話をかけても繋がらない。ようやく繋がってもきょうの予約分はすでにいっぱいになっていて、係員から「あすまた電話をおかけください」と言われ、ショックを受ける。電話そのものをかけたくなくなる。   

   話は変わるが、コロナ禍で巣ごもり生活が当たり前になってテレビをよく視聴するが、CMが随分と減っている。石川エリアではよく温泉旅館やホテルなどの宿泊施設、料理店やレストラン、パチンコ店のリニューアルオープン、リクルートを意識した企業のCMなどがよく流れていたが、このところあまり見かけない。バンセンと称される番組宣伝や「ACジャパン」が目立つ。

   その結果が数字となって表れてきた。ローカル新聞の経済面で地元テレビ局の2020年度決算が掲載されている。きのう29日付で掲載されていたテレビ朝日系ローカル局は売上高は前期比で17%減で赤字決算。CM収入の落ち込みやイベント中止が売上に響いた。赤字転落はリーマン・ショックの影響を受けた2010年度3月期以来で11年ぶり。フジ系は16%減で49年ぶり、TBS系も11%減で6年ぶりの赤字だった、日本テレビ系は15%減だったが黒字は確保した。ローカル局だけでなく、東京キー局もCMを中心に10数%の減収となっている。

   これはコロナ禍による一時的な現象だろうか。テレビをはじめとするメディアの広告収入はネットに押されて後退を余儀なくされている。電通が調査した「2019年 日本の広告費」によると、通年で6兆9381億円と広告全体は8年連続のプラス成長だった。このとき、インターネット広告は初めて2兆円超え、テレビ広告を抜いてトップの座に躍り出た。さらに「2020年 国内広告費」では通年で6兆1594億円と広告全体は前年比89%と激減した。ところが、ネット広告は2兆2290億円と前年比106%のプラス成長となった。テレビ広告は前年比89%となり、明暗が分かれた。ネット広告が伸びた背景には通販やオンラインイベントなどのニーズが後押した。コロナ禍の巣ごもり需要の恩恵を受けたのはテレビ業界ではなく、ネット業界の方だった。

   かつて「ローカル局の炭焼き小屋論」という言葉がテレビ業界であった。2000年12月にNHKと東京キー局などがBSデジタル放送を開始したが、このBSデジタル放送をめぐってローカル局から反対論が沸き上がった。放送衛星を通じて全国津々浦々に東京キー局の電波が流れると、系列のローカル局は田舎で黙々と煙(電波)を出す「炭焼き小屋」のように時代に取り残されてしまう、といった憂慮だった。ネット一強の状況がいま、テレビ業界全体の問題として再燃しているだろう。

   コロナ禍は今後数年続くとも言われる。さらに、放送とネットの同時配信という時代のニーズにどう対応していくのか。CMの減少傾向に歯止めがかからない「広告うつ」にテレビ業界がさいなまれる日々は続く。

⇒30日(日)午後・金沢の天気      はれ

★中国漁船の違法操業と人権問題 日本の打つ手は

★中国漁船の違法操業と人権問題 日本の打つ手は

     中国・新疆ウイグル自治区の少数民族を強制的に働かせてつくった木綿や衣類が問題となって輸入の差し止めや不買運動が世界各地で起きているが、さらに水産業にも飛び火している。アメリカのサリバン大統領補佐官(安全保障担当)はツイッター=写真・上=で「CBP(税関・国境警備局)は 残虐で非人道的な労働慣行に従事していることが判明した中国漁船団全体からの海産物の輸入を防止するための措置をとった」と速報を流した。

    ロイター通信Web版(5月29日付)によると、CBPは中国の大連海洋漁業有限公司からのマグロ、メカジキなどの海産物を全米の税関で差し止めすると発表した。マグロ缶詰やペットフードなど水産加工品にも適用する。調査により、同社に雇われた多くのインドネシア人労働者は当初示された労働条件が大きく異なり、身体的暴力や債務による束縛、虐待的な労働と生活環境が強いられていることが明らかになった。

    中国漁船での虐待問題は以前から問題となっていた。賃金未払いや酷使、暴力といった目に遭うことも、時には命を落とすこともニュースとなっていた。AFP通信Web版日本語(2020年7月10日付)によると、2020年6月、インドネシア人船員2人が中国漁船から海に飛び込んで脱走する事件があった。2人はその後、インドネシア漁船に救助され、虐待と劣悪な環境から逃れるためだったと語った。5月にも、インドネシア人船員3人の遺体が中国船から海に投げられる出来事があった。インドネシア政府はその後、3人は病気で死亡したとの報告を受けたと発表。中国政府は国際法に基づき水葬したと説明した。

   90年ほど前に描かれた小説だが、小林多喜二の『蟹工船』のストーリーにある過酷な労働環境を彷彿とさせる。まるで、現代版蟹工船のような話だ。ウイグルでの少数民族への強制労働とあわせ、現実が見えてくる。

   「板子一枚、下は地獄」と言われるように、漁業は常に危険が伴う労働環境だ。そのため、日本でも慢性的な人手不足に陥っている。イカ釣り漁業の拠点である能登半島の小木漁港でも、インドネシアからの漁業実習生が常時70人ほどいる。貴重な労働力として大切にされている。操業中にケガや病人が出れば、水産庁や海上保安庁の救助船が駆け付ける。地域の文化祭を見に訪れたことがあるが、彼らがステージで歌や演奏を披露をしたり、地元の人たちと溶け込んでいるという印象がある。

   それにしても、中国漁船の無法ぶりは日本海側でも深刻だ=写真・下=。日本側のスルメイカのイカ釣り漁の漁期は6月から12月だが、すでに多数の中国漁船がEEZ(排他的経済水域)である大和堆などに入り込んでいて、水産庁は4月から320隻に退去警告を発し、うち91隻に放水措置を行っている(5月27日現在・水産庁公式ホームページ、写真も)。日本の漁船に先回りして、日本海のイカ漁場を荒らしている。そして、この中国側の漁船に多くのインドネシア人が不当に働かされているに違いない。まさに違法操業と人権問題。日本政府もアメリカと同様に強い措置を講じる段階に入って来たのではないだろうか。

⇒29日(土)夜・金沢の天気    くもり

☆オリンピックの終焉を暗示する「アルマゲドン」

☆オリンピックの終焉を暗示する「アルマゲドン」

   IOCの委員がイギリスの「Evening Standard」紙(5月26日付)に語ったコメントが波紋を広げている。記事の見出しは「Barring Armageddon, the Tokyo Olympics will go ahead, says IOC committee member Dick Pound」=写真・上=、意訳すれば、「アルマゲドンにならない限り、東京オリンピックはやれるだろう、IOC委員のディック・ポウンド氏は語る」。例えとは言え、「Armageddon」という言葉を使った時点で世界に強烈な衝撃を与えたに違いない。「人類最終戦争」という意味だが、久しぶりに聴いた言葉だ。

   自身がこの言葉を知ったのは、一連のオウム真理教事件の取材を通じてだった。オウム事件は、坂本堤弁護士一家殺害事件(1989年11月)、長野県松本市でのサリン事件(1994年6月)、東京の地下鉄サリン事件(1995年3月)など数々ある。一方で、犯行の首謀者で教祖の松本智津夫(麻原彰晃、2018年7月死刑執行)は「アルマゲドンが迫っている」と不安を煽ることで若者の心理につけ込み、信者を急速に増やしていた。あの電極が付いた「ヘッドギア」は「カルト教団」を強く印象づけた。

   その麻原彰晃が1992年10月、石川県能美市(当時・寺井町)で記者会見した。自身は当時、テレビ朝日系ローカル局の報道デスクで現場にも立ち会ったので覚えている。寺井町の油圧シリンダーメーカーの社長に麻原が就いた。前社長は信者で資金繰りの悪化を機に社長を交代した、という内容だった。ほとんどの従業員は教団の経営に反発して退職し、代わりに信者が送り込まれていたので「教団に乗っ取られた」と周囲の評判は良くなかった。まもなくして会社は倒産。会社の金属加工機械などは山梨県の教団施設「サテイアン」に運ばれていた。その後の裁判で、金属加工機械でロシア製カラシニコフAK47自動小銃を模倣した銃を密造する計画だったことが明らかになった。

   話が随分と横にそれた。「もう時機を逸した。やめることすらできない状況に追い込まれている」。先日届いた東京の知人(メディア専門誌編集長)からのメールマガジンにこのようなことが書かれてあった。東京オリンピック・パラリンピックの開催についてだ。メルマガでは、日本の戦史に残る大敗を喫した「インパール作戦」の事例が述べられていた。

   大戦の末期、日本軍は1944年3月からイギリス軍の駐留拠点だったインドのインパールに侵攻する。当時、十分な武器や食糧もない中での作戦だった。その時の陸軍司令官はこう言ったとされる。「兵器や弾丸、食糧がないことは戦いを放棄する理由にはならない。弾丸がなかったら銃剣がある、銃剣がなくなれば、腕で行け、腕がなくなったら足で蹴れ、足をやられたら噛みつけ。日本男子には大和魂がある。日本は神州である。神々が守ってくれる」と。この事例は、精神論ではもう大会の開催は無理だと物語っている。

   アルマゲドンにならなくても、すでにオリンピックへのモチベーションは下がっている。NHKニュースWeb版(5月17日付)によると、オリ・パラで予定されている海外選手の事前合宿や交流について、国内の感染拡大への懸念などから少なくとも全国の54の自治体で受け入れが中止された。相手国側から「日本で感染が収まらず移動にリスクがある」や「選手やスタッフの安全を確保できない」といった理由で中止が8割余りで、それ以外は、自治体側から申し出たり両者で協議したりしたケースだった。

   IOCが粘って開催を唱えれば、それだけ人々の心はオリンピックから遠ざかっていく。アルマゲドンという言葉を出したこと、それ自体がオリンピックの終わりを暗示しているのではないだろうか。

⇒28日(金)夜・金沢の天気     くもり

★選挙は人流を招く コロナ禍の懸念

★選挙は人流を招く コロナ禍の懸念

    能登半島の輪島市に本校がある日本航空高校石川の野球部はこれまで甲子園大会に4回(夏2回、春1回、交流試合1回)出場している。その強みは、選手のほとんどが寮生活で意思疎通を図ることができるからとされてきた。しかし、新型コロナウイルスで感染拡大が続く中、寮生活は裏目に出てきたようだ。

   石川県が25日に発表した新型コロナウイルスの新たな感染者はこれまで過去最多の101人で、このうち53人が日本航空高校石川の関係者だった。49人は高校の男子生徒、残りの4人は併設されている大学校の学生や感染した生徒の同居者だった。日本航空高校石川の感染者は24日に9人、25日に53人、26日に1人で累計63人となる。感染者は軽症か無症状という。

   地元紙などの報道によると、高校生と大学校生、教職員合わせて1229人のうち882人が寮生活をしている。寮は2段ベッドの2人部屋と4人部屋、女子寮と男子寮があるが、食堂は一つだ。寮生活はまさに濃密で、一人でも感染者が出るとクラスター化しやすい環境にあった。県の25日発表では239人へのPCR検査で53人の陽性だったので、陽性率は22%と実に高い。28日までに学校関係者全員の検査を実施するという。陽性者はさらに増える可能性がある。

   コロナ禍で注視されるのは、上記の寮生活のような「3密」、そして「人流」だ。人流は観光地やデーパート、駅などへの人のが流れを指したりするが、選挙もその一つではないだろうか。投票行動や候補者の演説、支援者を集めた集会などまさに人流をつくる。7月4日投票の東京都議選は一体どうなるのか。東京オリンピックどころではないのではないか、と気がかりだ。

   大阪市が昨年11月1日に「大阪都構想」の是非をめぐる住民投票を実施。同月10日に吉村大阪府知事は府の対策本部会議で「第3波に入っているという認識だ」と述べていた。大阪市民からは、「コロナ禍にも関わらず、なぜ住民投票を実施するのか。都構想のメリット・デメリットはなにか」(大阪市公式ホームページ「市民の声」)などと住民投票そのものに疑念の声が上がっていた。もちろん、「コロナ感染をもって、民主主義に踏み込んでよいものか、投票とコロナは別だ」との意見もあるだろう。

   ワクチン接種も十分ではないのに、6月25日告示の東京都議選は可能なのだろうか。時事通信Web版(5月27日付)によると、自民と立憲民主は今国会で、ホテルや自宅で療養するコロナウイルス感染者が国政や地方選挙の際に郵便投票を利用できるようにする法案整備に合意し、東京都議選からの導入を目指すと報じている。

          聞こえはよいが、これは対処療法にすぎない。本筋で言えば、コロナ禍ではなく超高齢化社会などを見据えて、希望する有権者が利用できるようにすべきだろう。さらに、郵便投票だけでなく、選挙のデジタル投票化を進めてほしいものだ。9月のデジタル庁設置を契機に。

⇒27日(木)夜・金沢の天気   くもり時々あめ

☆タオルを回せば アサギマダラも踊る

☆タオルを回せば アサギマダラも踊る

   ネット動画でたまたま見つけた、アイドルグループ「PiXMiX」の『タオルを回すための歌』=写真・上=が面白い。手でタオルを回しながら歌い踊る、そのリズミカルな体の振りをさらに回るタオルが雰囲気を盛り上げる。タオル回しと言えば、夏の甲子園大会でも、タオル回しの応援風景が最近見られるようになった。自己表現の一つとしてタオル回しの文化が定着するかもしれないと想像をたくましくした。 

  タオルを回す光景は、実は山の中にもある。2017年9月、能登半島で一番高い山、宝達山(637㍍)に学生たちといっしょに登った。「旅するチョウ」と言われるアサギマダラが宝達山の山頂付近に飛来している。このチョウは春は日本列島の北の方へ、秋には南の方へと飛び、その距離は2000㌔にも及ぶと言われる。宝達志水町役場職員の田上諭史氏ら愛好グループはアサギマダラを捕獲、マーキングして放している。蜜(みつ)がエサになるホッコクアザミを伐採しないようにと植物の保護運動にも取り組んでいる。

   田上氏に捕獲の現場を見せてもらった。右手に白いタオルを振り回していると=写真・中=、上空をふわふわとまるで踊っているような様子でアサギマダラが飛んで来る。近寄って来たところを、左手に持ったネットで捕まえるが、この日は風が吹いていたせいか、1匹しか獲れなかった=写真・下=。それにしても、不思議な光景だった。

   なぜアサギマダラはタオルに誘惑されるのか。以下、田上氏の説明から。寄って来るタオルの色は白色と水色。白色と水色でも、回転しないタオルには寄って来ない。ゆっくり回すより、はやく回すと寄って来る。アサギマダラには回転する白や水色のタオルはどのように見えているのだろうか。吸蜜植物のホッコクアザミやヒヨドリバナなどお花畑が広がる光景なのだろうか。タオルを回せばチョウも踊る。PiXMiXの動画を見てそんなことを思い出した。

⇒26日(水)午後・金沢の天気      はれ  

★「コウモリ外交」 韓国と日本の場合

★「コウモリ外交」 韓国と日本の場合

   子どものころに読んだイソップ寓話だが、今でもいくつかの物語を覚えている。ストーリー展開が短く端的で、主人公は昆虫や動物なのでイメージとして脳裏に刻まれやすいのかもしれない。働き者のアリたちが、怠け者のキリギリスが食べ物をねだりに来たとき、「夏には歌っていたんだから、冬には踊ったらどうだ」と皮肉を込めて断る下りは、社会人になって会話として応用したこともある。そして、最近ではコウモリの話を思い出す。   

   むかしむかし、鳥の一族と獣の一族がどちらが強いかで争っていた。それ見ていた一羽のコウモリは、獣の一族が優勢になると獣たちの前に姿を現し、「私は全身に毛が生えているから、みなさんの仲間です」と言い、鳥の一族が有利になると今度は鳥たちの前に参上し、「私には羽があるから、みなさんの仲間です」と言いそれぞれの味方に付いた。その後、鳥と獣が和解したことで争いは終わり、双方に顔を出したコウモリは鳥からも獣からも嫌われるようになった。「卑怯者は二度と来るな」となじられ、居場所がなくなったコウモリはやがて暗い洞窟の中に身を潜めるようになり、夜に飛んで出て来るようになった。

   このコウモリのイソップ寓話を思い出すのは、アメリカと中国の覇権争いに対する韓国の外交の有り様が報じられるときだ。NHKニュースWeb版(5月24日付)によると、アメリカのバイデン大統領と韓国の文在寅大統領が会談し、共同声明に台湾海峡の平和と安定の維持の重要性を確認すると盛り込んだ。すると、中国外務省の報道官は「言動を慎み、火遊びをするな」と述べ、強く反発した。「火遊び」という言葉は韓国に向けて発した言葉だろう。

   アメリカと同盟関係にある韓国だが、日本とアメリカ、オーストラリア、インドが参加する非公式協議体である「Quad」(4ヵ国戦力対話)は対中国の包囲網だとして、韓国は参加を見送っている。今回の首脳会談でも、中国を刺激したくないとの配慮から、Quadに踏み込むことは避けたようだ。それでは、同盟関係を重視し対中強硬姿勢を崩さないバイデン氏は納得しない。そこで文氏は考えた。貢物を献上する「朝貢外交」だ。サムスン電子など財閥企業がアメリカに394億㌦(4兆3000億円)の投資する計画を提案した。共同声明でも、中国を名指しせずに「台湾海峡の平和と安定」と盛り込んでアメリカと中国の双方の顔を立てたつもりだった。ところが、上記のように中国から「火遊するな」と怒鳴られた。

   コウモリ外交は前政権の朴槿恵大統領のときもそうだった。アメリカと韓国の両軍が2016年7月に地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の配備を決定し、2017年3月に韓国に発射台やレーダーが運び込まれたものの、韓国政府は配備に躊躇した。中国が高性能レーダーで自国内のミサイル基地まで監視されると強く反対していたからだ。その年の5月に大統領就任した文在寅氏も配備に慎重な立場だった。7月に北朝鮮が射程範囲1万㌔余りにおよぶICBMを発射した。すると、今度は配備を急ぎ、THAADの本格運用が始まったのはその年の9月だった。

   では、日本のコウモリ外交はどうか。中国の習近平国家主席を国賓として2020年4月に招請する予定だったが新型コロナウイルスのパンデミックで延期となっている。2019年6月、大阪での「G20 サミット」に出席のため訪れた習氏に当時の安倍総理が国賓としての再来日を招請したものだった。その後、中国は香港国家安全維持法による民主主義の封じ込めや、日本に対しても尖閣諸島周辺での領海侵犯を執拗に続けている。招請した安倍氏は退陣したが、その後、「中止」という言葉が出てこない。もし、コロナ禍が治まり、習氏を国賓として招請すれば、日本のコウモリ外交は韓国より国際的に有名になるかもしれない。(※写真は韓国政府公式ホームページより)

⇒25日(火)夜・金沢の天気      くもり

☆女子プロレスラーの死から1年 テレビの制作現場は

☆女子プロレスラーの死から1年 テレビの制作現場は

   フジテレビが放映した、共同生活をテーマにしたリアリティ番組『テラスハウス』(2020年5月19日放送)に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(同5月23日)から1年が経った。警視庁は侮辱罪の公訴時効(1年)までに、ツイッターで複数回の投稿があったアカウントの中から2人の男を書類送検。また、女性の母親からの「過剰な演出」による人権侵害の訴えを受けて、BPO放送人権委員会は6回に及ぶ審理の結果を見解としてまとめ、ことし3月3日付で公式ホームページで公表している。

   問題のシーンは、シェアハウスの同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れて縮ませたとして、「ふざけた帽子かぶってんじゃねえよ」と怒鳴り、男性の帽子をとって投げ捨てる場面だ。放送より先に3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNS上で炎上し、この日、女子プロレスラーは自傷行為に及んだことをSNSに書き込んだ。番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話をするなどケアを行っていた。ところが、5月19日の地上波放送では、問題のシーンをカットすることなくそのまま流した。これが、SNS炎上をさらに煽ることになり、4日後に自ら命を絶った。

   BPOの見解は、怒鳴りのシーンは少なくとも相当程度には真意が表現されたものと理解でき、番組制作による演出ではないとして、人権侵害などは認めなかった。しかし、自傷行為など精神的な健康状態への配慮が欠けていたとして、フジテレビ側に放送倫理上の問題があったとの見解を示した。

   書類送検とBPO見解で、この問題は一件落着したのだろうか。問題の根底には、番組制作サイドに「数字」へのこだわりがあったのではないか。自身の経験知でもあるが、テレビの番組制作者は視聴率にこだわる。地上波放送の場合、視聴率の評価基準である全日時間帯は6時から24時であり、この番組は深夜0時以降の放送で視聴率の対象外だった。では、『テラスハウス』の制作者は何の数字にこだわったのか。以下憶測だ。

   リアリティ番組は出演者のありのままの言動や感情を表現し、共感や反感を呼ぶことで視聴者の関心をひきつけ、番組のSNSアカウントにフォロワーの獲得数としてそのまま数字として表れる。視聴率に代わる評価指標のバロメーターだ。数字を獲得すれば、深夜番組から格上げして、プライムタイム(午後7時-同23時)入りも可能だ。制作スタッフはここを狙っていた。なので、ツートされたコメントの内容より、数の多さにこだわった。

   そう考えれば、動画配信サービスのSNS炎上で女子プロレスラーの自傷行為があったことにも配慮せず、放送でそのまま番組を流した理由も分かる。番組はこの事件をきっかけに打ち切りとなった。彼女の死から1年、この事件を教訓にテレビ局の制作現場は変わったのだろうか。(※写真は2020年5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事から)

⇒24日(月)午前・金沢の天気     くもり

★ダイアナ元妃に十字架を背負わせたTVメディア

★ダイアナ元妃に十字架を背負わせたTVメディア

   2006年1月にイタリアのフィレンツェを訪れ、サンタ・クローチェ教会の壁画に描かれているフレスコ画「聖十字架物語」を鑑賞した。1380年代にアーニョロ・ガッティが描いた大作。絵は、4世紀はじめにローマの新皇帝となったコンスタンティヌスの母ヘレナ(中央)がキリストの十字架を発見し、エルサレムに持ち帰るシーンを描いたものだ=写真・上=。その時ふと、聖女ヘレナの横顔がイギリスのダイアナ元妃(1997年8月に事故死)にとても似ている感じがして思わずカメラを向けた。

   いまダイアナ元妃をめぐってイギリスを騒がせているのが、国際的なテレビメディアであるBBCが1995年11月に放送した、ダイアナ妃(当時)への独占インタビュー番組でついてだ。もう25年も前の話なのだが、BBCが自省の念を込めて、「Martin Bashir: Inquiry criticises BBC over ‘deceitful’ Diana interview」の見出しでその経緯について伝えている(現地時間5月20日付Web版)=写真・下=。

   当時、ダイアナ元妃のインタビュー番組は世界に衝撃を与えた。夫のチャールズ皇太子と別居していた彼女の口から自身の不倫や皇太子の愛人の名前、自殺未遂や自傷行為などが語られた。この番組の放映後に彼女は離婚。1997年にパリで起きた自動車事故により36歳で亡くなった。

   今回問題となったのは、このインタビューを行ったBBCの記者がダイアナ妃への取材交渉をする際につくり話と偽造文書を使っていたことだ。記者は、マーチィン・バシール氏58歳。当時、ダイアナ妃の弟、チャールズ・スペンサー氏に取材を持ち掛けた際、ダイアナ妃の情報を横流しする王室関係者の銀行口座にメディアから報酬が振り込まれているなどと説得し、その際に偽造した銀行の取引明細書を見せて信じ込ませていた。

   今回、スペンサー氏が告発したことを受け、BBCは昨年2020年11月、イギリス最高裁の元判事に調査を依頼した。報告書は今月公表され、BBCのグラフィックデザイナーが銀行の取引明細書に関与していることなども判明した。そして「”We can see now that the false bank statements were the lever that opened the doors to the access to Diana.”」(偽の銀行明細がダイアナ元妃に近づくドアを開くレバーだったと、いまわかった)と、当時のBBC会長の言葉を引用してこの記事を終えている。

   王室関係者からリークされているとの記者のつくり話とそれを証明するかのような偽の銀行取引明細書に騙されて、当時のダイアナ妃は恐怖心を抱いて自らのこと、そして夫である皇太子のことなど王室の現状を暴露してしまったことは想像に難くない。インタビューに応じてしまったことにダイアナ元妃は十字架を背負ったような重い心の負担を感じていたのではないだろうか。BBC、そして記者の罪は重い。

⇒22日(土)夜・金沢の天気     くもり時々あめ

☆世界の「ぼったくり男爵」2人

☆世界の「ぼったくり男爵」2人

          最近ネットで東京オリンピック関連の記事へのコメントをチェックしていると、「ぼったくり男爵」という言葉がひんぱんに出ている。そのルーツを調べると、アメリカのワシントン・ポストWeb版(5月5日付)にあった。「Japan should cut its losses and tell the IOC to take its Olympic pillage somewhere else」の見出しのコラム=写真・上=。IOCのバッハ会長を「Baron Von Ripper-off」と名指している。

   「Baron」は男爵で、「Von」は貴族に使われるドイツ語。バッハ氏がドイツ出身ということであえて付けているようだ。そして、「rip off」は法外な金をとる、騙しとるという意味で、「Ripper-off」はストレートに「ぼったくり師」、それに敬称を付けて「ぼったくり男爵」として広まったのだろう。

   IOCは公的な国際組織のようにとらえているが、非政府組織 (NGO) の非営利団体 (NPO)で、4年に1回の大規模イベントで得た収入を中心に運営される組織。2013年から2016年の総収入は57億㌦(約6200億円)。うち、放映権料が73%、「TOP」と呼ばれる最上位スポンサーからの協賛金が18%を占める。その収入の9割を各国・地域のオリンピック委員会(NOC)や国際競技団体(IF)などに分配して、スポーツの振興を図るという役割を持っている。残り1割620億円は運営費として懐に入る。

   記事では、こうした収入でIOCは成り立っているので、新型コロナウイルスでパンデミックになろうと、そう簡単に中止にはしない。「地方行脚で小麦を食べ尽くす王族のように、開催国を食い物にする悪い癖がある」と批判している。日本はこの際、思い切って、「Japan’s leaders should cut their losses and cut them now.」(日本のリーダーたちは今こそ損切りをすべき)と提案し、オリンピック中止を迫っている。

   記事を読んでいて、もう一人「ぼったくり男爵」を思い出した。2019年12月30日に秘密裏に中東のレバノンに逃亡して物議をかもした、日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン被告だ。そのぼったくりぶりがきょうニュースになっていた。NHKニュースWeb版(5月21日付)によると、ゴーン氏は日産と三菱自動車工業がオランダに設立した統括会社「日産・三菱BV」と結んだ雇用契約を不当に解除されたとして、2019年にアムステルダムの裁判所に最大で1500万ユーロ、日本円にしておよそ20億円の損害賠償を求める訴えを起こしていた。これに対し、会社側は「法的に有効な雇用契約は結ばれていない」としたうえで、ゴーン元会長に支払われていた報酬を返還するよう求めていた。

   アムステルダムの裁判所は20日「原告は会社が契約書を承認したと主張したが、その証拠を示していない。会社と原告の間にはいかなる雇用契約も結ばれていない」としてゴーン氏の訴えを退けた。そのうえで、会社側の主張を認め、ゴーン氏に対し、およそ500万ユーロ、日本円にしておよそ6億6000万円を返還するよう命じる判決を言い渡した(同)。

   東京地検特捜部によるゴーン氏の日本での逮捕は4回。有価証券報告書に自身の役員報酬の一部を記載しなかったとして金融商品取引法違反で2回。さらに、日産に私的な投資で生じた損失を付け替えたとする特別背任で3回目の逮捕。4度目の逮捕容疑は、ゴーン氏が中東オマーンの販売代理店に日産資金17億円を支出し、うち5億6300万円をペーパーカンパニーを通じてキックバックさせて日産に損害を与えた会社法違反(特別背任)だった。(※写真・下は2019年3月、一回目の保釈で東京拘置所から出てきたカルロス・ゴーン被告の記事。青い帽子に作業服姿、顔の半分以上はマスクで隠していた)

   平和とスポーツの祭典を称するか、ビジネスと称するかは別として、まるで、「ぼったくり」の見本市のような話になってしまった。

⇒21日(金)午後・金沢の天気    あめ時々くもり

★「誰一人取り残さない」ワクチン接種のシステムを

★「誰一人取り残さない」ワクチン接種のシステムを

   「報道の自由」は国民の知る権利に応えるメディアの振る舞いであり、憲法第21条の表現の自由が拠りどころとなっている。ところが、欠点やあやまちを執拗に探して報じる、「あら探し」のような報道もないわけではない。

   岸防衛大臣がきのう18日閣議後の記者会見で述べたメディアへの抗議がニュースになった。新型コロナウイルスのワクチンの大規模接種センターのインターネットによる予約をめぐり、朝日新聞出版のニュースサイト「アエラドット」と毎日新聞の記者がそれぞれ、実在しない接種券番号で予約できることを実際に予約して試した記事を掲載した。これに対して、岸氏は「悪質な行為で、極めて遺憾だ」と抗議した(5月18日付・NHKニュースWeb版)。

  防衛庁の公式ホームページに岸氏の会見内容が掲載されている。その中で、「今般の予約に関して、朝日新聞出版アエラドットの記者の方および毎日新聞の記者の方から、不正な手段によって予約が取れたがどのように受け止めているのか、との問い合わせが防衛省にございました」と経緯を述べている。

   架空の番号でも入力が可能であることの原因について、「不正な手段による虚偽予約を完全に防止するためには、市区町村が管理する接種券番号を含む個人情報をあらかじめ防衛省が把握し、入力される予約情報と照合する必要があります。このようなシステムを短期間で実現するのは、国民の皆さまに迅速にワクチン接種を受けていただけるようにするという観点から、困難であり、そして何より、この予約システムを本センターにおいて運営するにあたり、接種対象となる全国民の個人情報を防衛省が把握することは適切ではないと考え、採用しないこととした」と。解釈すれば、予約システムの完璧性を求めて時間をかけるより、迅速な接種のために必要な範囲でシステム構築をした。

   問題はむしろ以下だと指摘している。「今回の記者の行為は、ワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、ワクチンそのものが無駄になりかねない悪質な行為であり、極めて遺憾」。つまり、予約システムにこのような欠陥があると報道すれば、かえって不正なアクセスを助長することになりかねない。一方で、岸氏は「今回の問題を受け、例えば、市区町村コード等については、真正な情報であることが確認できるように、対応可能な範囲でのシステム改修を実施する予定」とシステム改修の意向を述べている。

   このニュースで思うことは、メディアが問うべきは、高齢者の中にはネットにアクセスできない人が大勢いるはずで、その人たちへの接種の段取りのケアはどうすべきなのか、ではないだろうか。それより何より、これは持論だが、予約システムそのものが必要なのか、ということだ。予約にこれほど時間をかけるより、迅速に接種を始めること、接種率を高めることが必要だろう。このブログでも何度か述べているが、選挙の投票方式で地区ごとに日程を指定した案内はがきを出して接収を始めればよい。予約システムが完璧であることより、「誰一人取り残さない」接種のシステムをどう構築するか、ではないだろうか。

(※写真は、朝日新聞出版のニュースサイト「アエラドット」で掲載された「予約システムに重大欠陥」の5月17日付記事)

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