#コラム

☆「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~1~

☆「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~1~

   能登半島の尖端に位置する珠洲市で「奥能登国際芸術祭2020+」がきょう4日開幕し、さっそく鑑賞に出かけた。3年に一度のトリエンナーレで今回が2回目。当初は昨年の秋開催だったが、新型コロナウイルスの影響で1年間延期となっていた。16の国と地域から53組のアーティストが参加し、46ヵ所で作品が展示されているが、石川県には「まん延防止等重点措置」が適用されていて、屋内の作品を中心に25ヵ所が今月12日まで公開を見合わせとなっている。

       タイムカプセルに触れるような「劇場型民俗博物館」

   最初に足を運んだのは、「スズ・シアター・ミュージアム」。オープン時間が午前9時だと勘違いして並んだところ、実際は午前9時30分だったので、はからずも開会初日の一番乗りとなった。屋内での作品鑑賞ということで、検温など「コロナ検査」があり、さらに行動履歴が追跡できるリストバンドをして中に入る。

   このミュージアムのコンセプトは「大蔵ざらえプロジェクト」。珠洲は古来より農業や漁業、商いが盛んだった。当時の文物は、時代とともに使われる機会が減り、多くが家の蔵や納屋に保管されたまま忘れ去れたものが数多くある。市民の協力を得て蔵ざらえした文物をアーティストと専門家が関わり、博物館と劇場が一体化した劇場型民俗博物館としてオープンした。会場そのものも、日本海を見下ろす高台にある旧小学校の体育館を活用している。

   市内65世帯から1500点の民具を集め、8組のアーティストが「空間芸術」として展示している。会場に入ると、天井から紐が無数に垂れ下がっていた。地域の祭礼でかつて使われていた「奉灯キリコ」に古着を裂いて結びなおした1万本の紐を垂らして、あたかも森のような空間を創っている=写真・上=。その、奥能登の祭りの夜に、「ヨバレ」というおもてなしに使われた朱塗りの御膳などが並ぶ。地域の歴史や食文化を彷彿させる=写真・中=。「唐箕(とうみ)」が並んでいた。脱穀した籾からゴミを取り除く農具で昔の農村では一家に一台はあった。それを並べて陳列することで、農村の風景が蘇る。そのほか、1960年代の白黒テレビや家電製品も並ぶ。

   会場の中央アリーナには珠洲の古代の地層から掘り出された砂を敷き詰めた砂浜がしつらえられ、古びた木造船とピアノ、そして漁具が置かれている。そこに波の映像がかぶさる=写真・下=。シアターの時間が来ると、波が打ち寄せる波や風の音、そしてかつてこの地域に歌われていた民謡が流れて、会場の古い民具と響き合い、記憶の残照が浮き上がる。   

   珠洲は世界農業遺産に認定された美しく豊かな里山里海が広がり、その自然を背景に揚げ浜式製塩法や珠洲焼、ユネスコ無形文化遺産に登録されている農耕儀礼「あえのこと」、そして日本遺産「キリコ祭り」など伝統的な産業や文化が受け継がれている。「スズ・シアター・ミュージアム」では、まるで上質なタイムカプセルに触れるような心癒される風景に出会う。

⇒4日(土)夜・珠洲の天気    くもり

★権力者の孤独な幕引き

★権力者の孤独な幕引き

           菅総理が辞意を表明し、自民党総裁選(今月17日告示、29日投開票)に立候補しない意向を示した。新聞メディアは号外や夕刊紙で速報した=写真=。テレビ各社もこの日午後1時過ぎの官邸での菅総理の不出馬表明を生中継した。菅氏のコメントを聴く限り、「コロナ対策に自分のエネルギーを注ぎたい」「総裁選との両立は難しいからコロナに集中するために今回は出馬しない」との言い分で、とても分かりやすい。

          しかし、一人の国民、そして有権者として思うことは、最近の菅氏は「チカラ強さがない」という印象だ。昨年9月の就任時には携帯電話料金の値下げやデジタル庁の新設を打ち上げ、チカラ強かった。ところが、新型コロナウイルスの政府の対応が不十分だとの批判が相次ぎ、東京都議選(投票7月4日)で自民党は過去2番目に少ない33議席。総理のおひざ元である横浜市長選(同8月22日)でも、盟友と言われた小此木八郎氏(前国家公安委員長)を推しながら敗北を喫した。

   それは数字でも表れていた。読売新聞Web版(8月9日付)によると、世論調査(8月7-9日踏査)では菅内閣の支持率が昨年9月の内閣発足以降の最低を更新し、支持率35%だった。前回(7月9-11日調査)と6月調査は37%だった。不支持率は54%(前回53%)で、内閣発足以降最高だった。

   読売が世論調査を実施した8月上旬は、オリンピックで日本選手の金メダルラッシュに沸いていた。開催反対論を押し切った菅内閣に支持が集まっても当然とも思えた。本人もそう思っていたに違いない。ところが、内閣支持率は上がるどころか下落したのだ。

   政局は一気に揺らぐ可能性があった。読売の調査で支持率が下がると権力者は身震いする。メディア業界でよくささやかれるのは、内閣支持率の20%台は政権の「危険水域」、20%以下は「デッドゾーン」と。第一次安倍改造内閣の退陣(2007年9月)の直前の読売新聞の内閣支持率は29%(2007年9月調査)だった。その後の福田内閣は28%(2008年9月退陣)だった(数字はいずれも読売新聞の世論調査)。菅内閣の支持率は9月ではおそらく「危険水域」、20%台に落ち込むだろう。数字をよく読んでいた本人もそれを悟った。その前に辞すことを表明した。それにしても、権力者の実に孤独な幕引きだった。

⇒3日(金)夜・能登の天気      あめ

☆「渋沢栄一」もいいが、むしろデジタル通貨

☆「渋沢栄一」もいいが、むしろデジタル通貨

        「現行の日本銀行券が使えなくなる」などを騙(かた)った詐欺行為(振り込め詐欺など)にご注意ください・・・。財務省が公式ホームページで呼びかけている。高齢者を狙い、「いまの1万円札が使えなくなるので、お宅にお邪魔して引き取ってあげましょう」などと、新紙幣の発行に便乗した詐欺が横行するかもしれない、あるいはすで横行しているかもしれない。新聞・テレビのメディア各社は新紙幣の印刷が今月1日から国立印刷局で始まったと報じている。(※写真は、国立印刷局東京工場で1日に行われた新一万円札の印刷開始式の模様=国立印刷局公式ホームページより)

   財務省と日銀が新紙幣の発行を発表したのは2019年4月だった。2024年度から1万円札のデザインが福沢諭吉から渋沢栄一になる。1984年に聖徳太子から福沢諭吉になったので、40年ぶりだ。5千円札は樋口一葉から津田梅子に、千円札は野口英世から北里柴三郎に。新しいお札はなんとか拝むことできるが、次なる40年後の新紙幣の発行時にはおそらく自身(現在、60代後半)はこの世にはいない。まだ手にしてはいないが、2024年度のお札が最後になるのかと思うといとおしくもなる。冗談はさておき、では、財務省と日銀はなぜ新札の発行を繰り返すのか。

   実は、ドルはもっと頻繁だ。アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は1996年に発行した100㌦紙幣を2013年に新しくしている。ただ、このときは、ベンジャミン・フランクリンの肖像画はそのままに、背景のデザインを変更している。偽造を難しくするため、中央には青い3Dの帯を入れ、「100」の文字とインク壺の図柄には、傾けると色が赤銅色から緑色に変わる特殊なインクを使っている(2013年10月8日付・CNNニュースWeb版)。

   アメリカとの比較は単純にはできないが、アメリカは偽造防止を、日本の場合は「タンス預金」対策ではないかと、自身はうがった見方をしている。45兆円もあるといわれる「タンス預金」、とくに脱税目的のものをあぶりだすメリットがある。多額の旧札が銀行などに持ち込まれることになれば、銀行を通じて国税がチェックに入る。

   もう一つはタンス預金を吐き出させることによる経済効果だ。日銀の統計によると、家庭や企業に出回る紙幣・貨幣は2020年末に約123兆円分。単純計算だと国民1人平均100万円弱。うち1万円札の流通量を年末ごとに比べると、近年は2~4%台の増加だったが、昨年は15年末以来の5%超の高い伸びになった(2021年2月21日付・朝日新聞Web版)。新札の発行を発表してからタンス預金の札束が動き始めているのだ。その視線で周囲を見渡すと、面白い現象が見える。ドイツ製などの海外の高級車が身の回りに最近増えているのに気づかないだろうか。

   ここからは憶測だ。財務省と日銀が描いている未来の通貨は「デジタル通貨」だろう。デジタル通貨にすれば、すべてのデジタルマネーの履歴やストック先などが把握できる。税金面での調査やマネーロンダリングの監視、金融犯罪などに対応できるという側面もあるだろう。実際、デジタル通貨では先行している中国は「デジタル人民元」の実証実験を始めている。「中国では脱税やマネーロンダリング、資本流出等が課題となっており、これをコントロールしたいとの狙いがあるのではないか」(2020年11月30日付・ロイター通信Web版日本語)との見方だ。

   しかし、日銀は「現時点でデジタル通貨を発行する計画はない」という立場だが、第1段階の実証実験を1年程度かけて行い、その結果も踏まえ、実現可能性を検証するための「第2段階」に移る方針をとっている(2021年2月20日付・NHKニュースWeb版)。コロナ禍の日常の変化で、人が触ったものには触らないという行為が定着し、現金を手にすることに違和感を持つ人も多くなっている。カード払いなどのキャッシュレス化も進んでいるが、デジタル通貨を進める絶好のタイミングではないだろうか。

⇒2日(木)夜・金沢の天気     くもり   

★「眞子さま年内結婚」というブーメラン

★「眞子さま年内結婚」というブーメラン

           不遜な言い方になるかもしれないが、皇室という環境は「世間知らず」ということではないだろうか。「世間」、いわゆる実社会での経験値がほとんどない。 秋篠宮殿下はそうした「世間知らず」を嫌ったのだろう、3人の子どもたちの教育も既定路線の学習院ではなく、なるべく世間の風に当たるように自由に育てた。ところが、殿下の意に反して、「世間知らず」がブーメランのごとく返ってきた。

           けさの読売新聞は「眞子さま年内結婚」と一面で報じ、他紙も夕刊でこのニュースを追いかけている=写真=。読売の記事は以下。秋篠宮家の長女眞子さま(29)が婚約の内定している小室圭さん(29)と年内に結婚されることが複数の関係者への取材でわかった。婚約や結婚の儀式は行わない方向で調整されている。儀式を行わずに結婚されれば、戦後の皇室で初めてとなる。関係者によると、秋篠宮さまは結婚を認められており、お二人は年内に婚姻届を自治体に提出される。ただ、新型コロナウイルス感染状況によっては来年にずれ込む可能性もある。

   上記の記事にあるように、婚約や結婚の儀式は行わない。憲法第88条では「すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない」と定めている。国会の決議が必要なのだ。ちなみに、令和3年度の皇族費の総額は2億6900万円(宮内庁公式ホームページより)。儀式を行わないのは、眞子さま問題が国会で議論されるのを避けるためだろう。これを判断したのは誰か。

   皇室がもっとも恐れているのは国際世論ではないだろうか。お二人の結婚に皇室が反対すれば、相思相愛のお二人の結婚を許さない日本の皇室は前近代的だ、そして日本の旧態依然とした姿だ、と世界のメディアが騒ぎ出す。問題は小室氏側にあったとしても、この批判は日本にとても不名誉なことになりかねない。おそらく眞子さまは皇籍離脱され、小室氏とアメリカで暮らすことになるだろう。「王室引退」を宣言したイギリスのヘンリー王子とメーガン妃はアメリカのカリフォルニア州サンタバーバラに住む。眞子さまと小室圭氏と合わせて2組のカップルは、アメリカメディアの格好の取材ネタになる。

   それはさておき、やはり小室問題は後々に残る。まずは小室氏の人柄だ。ことし4月8日、小室圭氏が母と元婚約者男性の金銭トラブルについて記したA4用紙28枚の文書を発表した。小室文書では「録音」についての記述が何か所も出てくる。たとえば、2012年9月の実母と婚約者男性の婚約破棄に関わる記載では、13㌻と19㌻の「脚注」に「元婚約者の方の『返してもらうつもりはなかった』というご発言を録音したデータが存在します」「このやりとりについては私自身同席していて聞いています。又、録音しているので、元婚約者の方が『返してもらうつもりはなかった』とおっしゃったことは確認できています」と記している。

   以下憶測だ。小室氏は物的証拠を求める録音マニアなのだろう。ありていに言えば、「隠し録り」だ。こうした「隠し録り」や「隠し撮り」マニアの人物はデータをかざしながら、「ウソつくな、証拠がある」と相手を追いつめるタイプだ。おそらく、眞子さまとのこれまでの電話のやりとりなど膨大な音声データが蓄積されている。眞子さまをコントロールするために使われるのではないだろうか。

   もう一つ。『週刊文春』(4月29日号)が報じた「小室圭さん母 『年金詐取』計画 口止めメール」の記事だ。小室圭氏の母親が2002年に亡くなった夫(公務員)の遺族年金を受給するため、2010年に知り合った婚約者に内縁関係を秘するよう依頼したというメールの暴露だった。遺族年金は再婚または内縁関係になると受給資格を失うのが決まりなので、「これは年金詐取ではないか」と文春は問題提起した。

   不正受給の工作を疑わせる母親のメールなどについて、遺族年金を管轄する厚労省は警察と連携して犯罪性があれば立証してほしい。皇室に関わる案件を理由にした忖度はむしろ国民の反感を招く。

⇒1日(水)夜・金沢の天気     あめ

☆五輪とパラリンピックの垣根を取り払うという発想

☆五輪とパラリンピックの垣根を取り払うという発想

           パラリンピック競技をテレビで視聴していると、自らの視聴目線が「感動ポルノ(Inspiration porn)」ではないのかと考えたりする。この言葉が知られるようになったのは、2012年にオーストラリア放送協会(ABC)のWebマガジン『Ramp Up』で、障がい者の人権アクティヴィストであるステラ・ヤング氏が初めて用いた。意図を持った感動シーンで感情を煽ることを「ポルノ」と表現するが、障がい者が障がいを持っているというだけで、「感動をもらった、励まされた」と言われることを意味する(Wikipedia「感動ポルノ」)。

   話は変わるが、日経新聞Web版(8月30日付)のニュース。パラリンピックに合わせて来日しているフランスのソフィー・クリュゼル障がい者担当副大臣は30日、都内で記者会見を開き、2024年パリ五輪・パラリンピックは「オリンピックとパラリンピックの垣根を取り払う大会にする」と述べた。大会ボランティアの6%を障がい者にする考えを示し、あらゆる人々の社会参画の必要性を強調した。(※写真はソフィー・クリュゼル障がい者担当副大臣=在日フランス大使館公式ホームページより)

   NHKニュースWeb版(8月25日付)でも、クリュゼル氏が重い障害のあるスタッフがロボットを遠隔操作して接客する都内のカフェを訪れ、障害のある人の新たな働き方を視察したと報じている。このカフェでは、難病や脊髄の損傷などで重い障害のある60人が、自宅や病院にいながら、自分の分身のように、さまざまな大きさのロボットを遠隔操作して接客し、ロボットのカメラとマイクで客とコミュニケーションも取れる。クリュゼル氏は「多くの人が働き続けることを可能にする、すばらしい試みだと思います。2024年のパリ大会は私たちにとって大きな挑戦になるので、日本のよいアイデアを見て役立てたいと思っています。ハンディキャップのある人たちが解雇されることがないよう、人々の意識が変わっていくことを期待しています」と話した。

   オリンピックとパラリンピックの垣根を取り払うという発想が心を打つ。そして、ハンディを持った人が解雇されないよう、ロボットの遠隔操作という日本の技術を世界に広めてほしい。パラ競技を視聴していて、自らの目線が障がい者に対する「上から目線」ではないのかと自問自答しながらそんなことを想った。

⇒31日(火)夜・金沢の天気      くもり 

★SNS・ネットでの誹謗中傷を厳罰化する背景

★SNS・ネットでの誹謗中傷を厳罰化する背景

   SNSやネットでの誹謗中傷は刑法における侮辱罪に当たる。誹謗中傷に耐え切れずに自死にいたるという悲劇は後を絶たない。ところが、侮辱罪は軽犯罪法違反と同じレベルの刑の軽さで、警察もすぐには動かない。その侮辱罪が時代に合わせて厳罰化の動きが出てきた。ようやくだ。

   きょうの読売新聞Web版(30日付)によると、インターネット上での誹謗中傷対策を強化するため、法務省は刑法の侮辱罪を厳罰化し、懲役刑を導入する方針を固めた。来月中旬に開かれる法制審議会(法相の諮問機関)で同法改正を諮問する。罰則の引き上げに伴い、公訴時効も1年から3年に延びる。ネット上の投稿は加害者の特定に時間がかかり、摘発できないケースもあるが、法改正により、抑止効果や泣き寝入りの防止につながるとみられる。

   侮辱罪を巡っては、フジテレビが放映したリアリティ番組『テラスハウス』(2020年5月19日放送)に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(同5月23日)=写真=が記憶に新しい。警視庁は侮辱罪の公訴時効(1年)までに、ツイッターで複数回の投稿があったアカウントの中から2人の男を書類送検した。このうち、大阪府の20代の男は女性のツイッターアカウントに「性格悪いし、生きてる価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などと投稿を繰り返した。東京区検は3月30日、この男を侮辱罪で略式起訴した。東京簡裁は同日、男に科料9000円の略式命令を出し、即日納付された。男はこれ以上罪を問われることはなかった。

   読売新聞の記事によると、侮辱罪の厳罰化は公訴時効を1年から3年にするほか、法定刑を拘留(30日未満)または科料(1万円未満)を、1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金を追加する。

   法的な規制強化は効く。飲酒運転も厳罰化によってかなりの抑止効果につながった。今回の侮辱罪の厳罰化も相当効くに違いない。そして、厳罰化の動きのニュースを喜んで見ているのは、SNSやネットのプラットフォーマーの担当者かもしれない。プラットフォーム事業者にはプロバイダ責任制限法があり、こうした情報やコメントの削除などは自主的に対応しなければならない。しかし、現在でも個人や法人の権利を侵害する情報やコメントがあふれているのにほとんど手つかずの状態だ。

   今後、法整備がなされ厳罰化するとしても、刑事罰を科すには投稿者の住所や氏名を特定する必要がある。そのため、プラットフォーム事業者には投稿者のログイン時の情報開示が求められるだろう。 法務省はそもそも投稿者が匿名であることが誹謗中傷をはびこらす原因とみて、ログイン時の情報開示の徹底が対策のポイントだとにらんでいるのではないだろうか。

(※写真は2020年5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事から)

⇒30日(月)夜・金沢の天気   くもり

☆対岸の火事ではない韓国「メディア法」改正案

☆対岸の火事ではない韓国「メディア法」改正案

   韓国で「言論仲裁および被害救済等に関する法律」の改正法案をめぐってメディアを巻き込んで与野党の攻防が続ている。改正法案は、新聞・テレビのマスメディアやネットニュースで、取り上げられた個人や団体側がいわゆる「フェイクニュース」として捏造・虚偽、誤報を訴え、裁判所が故意や重過失がある虚偽報道と判断すれば、報道による被害額の最大5倍まで懲罰的損害賠償を請求することができる。つまり、メディアの賠償責任を重くすることで、報道被害の救済に充てる改正法案だ。国会で3分の2以上の議席を占める与党系が今月30日にも強行採決する見通し。

   これに対し、当事者でもある韓国のメディア関連団体6団体が「共に民主党(与党)が30日に言論仲裁法改正案を強行処理するなら、違憲審判訴訟や効力停止仮処分申請などの法的措置を取る」と27日、明らかにした。また、野党・国民の力は30日の国会本会議でフィリバスター(合法的議事進行妨害)などを通じ、言論仲裁法通過を全力で阻止すると明らかにした(8月28日付・朝鮮日報Web版日本語)。

   言論仲裁法の改正法案に対して、国際ジャーナリスト連盟(IFJ、本部ブリュッセル)は公式ホームページ(8月21日付)で「South Korea: Concerns over media law amendment」との見出しで韓国政府への懸念を表明。また、韓国に拠点を置く外国メディアの組織「ソウル外信記者クラブ(SFCC)」は20日、「『フェイクニュースの被害から救済する制度が必要』との大義名分には共感するが、民主社会における基本権を制約する恐れがある」と声明を出している(8月21日付・朝鮮日報Web版日本語)。

   日本の毎日新聞は「韓国のメディア法改正案 言論統制につながる恐れ」と社説(8月29日付)を掲載している。社説では、問題点として、故意や過失の有無を判断する基準があいまいなこと。しかも、メディア側に厳しい立証責任を負わせていることを指摘している。また、賠償額の算定に当たっては、訴えられた企業の売上高なども考慮される。来年3月の大統領選を控え、政権に批判的な大手報道機関をけん制しようという意図が読み取れる、としている。

   内外のメディアから批判が起きている言論仲裁法改正案だが、火を油を注いでいるのが与党だ。共に民主党のメディア革新特別委員会のキム・ヨンミン委員長は27日、ソウルのプレスセンターで外国メディアとの懇談会を開き、メディアの故意・重過失による虚偽報道に対して損害賠償を請求できる言論仲裁法の改正案について、「外国メディアも含まれる」との認識を示した(8月27日付・ソウル聯合ニュースWeb版日本語)。

   改正案が成立すれば、日本のメディアも対岸の火事ではなくなる。いつ飛び火してくるか分からない。損害賠償を目的に、日本の新聞・テレビ、ネットによって名誉が棄損されたとの訴えが韓国で相次ぐのではないだろうか。

⇒29日(日)夜・金沢の天気      はれ   

★パラリンピックで際立つNHKと民放の違い

★パラリンピックで際立つNHKと民放の違い

           前回のブログの続き。これまでパラリンピックの番組をテレビで観戦したことは、正直なかった。今回パラリンピックでは、国別のメダル数など気にせず、むしろ、迫力ある車いすラグビーや、エジプトの卓球選手イブラヒム・ハマト氏らのような「凄技」を見たいと思いテレビを視聴している。

   NHKはBS放送などを含め500時間の番組を組んでいる。ところが、新聞紙面のテレビ欄を広げても、民放によるパラリンピックの中継や特番がほとんど見当たらない。きょう28日付の紙面では、TBSによる午後2時30分からの車いすバスケットボール男子・日本対カナダ戦だけだ=写真・上=。民放の公式ホームページをチェックすると、テレビ朝日が競泳の中継(29日午前10時)、車いすテニスのハイライト番組(9月5日午後0時55分)、フジテレビは車いすバスケットボール男子5-6位決定戦(9月4日午後4時)など予定している。各局とも決まったように、競技の中継が1つ、ハイライト番組が1つか2つ、それも土日の日中の時間だ。いわゆるゴールデン・プライム帯ではない。

   オリンピックでは、NHKに負けじと生中継をしていたのに、パラリンピックは気が抜けた感じだ。なぜ、民放はパラリンピックを積極的に放送しないのか。単純な話、放映権料を払っていない。オリンピックについては、NHKと民放はコンソ-シアムを組んでIOCに対し平昌冬季大会(2018年)と東京大会の合算した数字で5億9400万㌦を払っている。しかし、これにはパラリンピックの放映権料は含まれていない。国際パラリンピック委員会(IPC)は独立組織なので、IOCとは別途払いなのだ。

   IPCと契約しているのはNHKのみ。2015年6月25日付のNHK広報のプレスリリースによると、平昌大会から2024年パリ夏季大会までの4大会の日本国内での放送権についてIPCと合意したと発表している=写真・下=。ただ、金額については記していない。

   以下はかつて民放局に携わった自身の憶測だ。2015年6月でのIPCとの契約に民放が参加しなかったのは、パラリンピックはスポーツ観戦としてのニーズが低いので視聴率が取れないと判断してのことだろう。スポンサーも付くかどうか分からない。ところが、視聴者の目線はこの数年で変化した。スポーツ観戦という意味合いだけでなく、障がいや逆境、限界を超えてスポーツに挑むパラアスリートたちから感動を得たいというニーズがある。そして企業側も、SDGs(国連の持続可能な開発目標)の主旨に沿った番組にスポンサー提供をしたいというニーズが起きている。

   民放自体もパラリンピック番組を無視できない状況になってきた。そこで、すでにIPCと合意しているNHKに依頼して「おすそ分け」をしてもらうカタチでパラリンピック番組を放送することになったのだろう。あくまでも憶測だが、NHK側の条件はおそらく、2026年ミラノ冬季大会以降のIPCとの契約はコンソーシアムを組むということではないだろうか。

⇒28日(土)午前・金沢の天気    はれ

☆パラ競技が教えてくれる「人に不可能はない」

☆パラ競技が教えてくれる「人に不可能はない」

            パラリンピックの競技映像がとても新鮮に映る。車いすラグビーの日本対デンマーク戦(8月26日)をテレビで観戦していた。見ている方がハラハラするくらいに激しい動きだ。ガツン、ガツガツと車いすの衝撃音が響く。そして、ぶつかって転倒する=写真・上=。車いすのタイヤがパンクして取り換え。また、激しい試合が再開される。解説者のコメントによると、車いすラグビーは「マーダーボール」、殺人球技といわれるほど激しくぶつかり合う。

   そして、マーダーボールに女性選手も参加している。車いすラグビーが男女混合競技だということを初めて知った。でも、なぜと疑問がわく。再び解説者のコメント。ルールでは、出場する選手には障がいの程度に応じて持ち点が割り振られていて、コート上の4人の合計点は8点以内に抑えなければならない。このルールによって、障がいの軽い選手だけでなく、重い選手も出場機会を得る。さらに、女子選手が出場すると0.5点がマイナスとなるルールがあり、その分、障がいの軽いポイントゲッターを配置できる。女子選手はデンマークチームのハイポインターの動きを封じるディフェンスの役割に徹していた。そして、日本チームは何度もボールを奪い取り、9点差をつけて2連勝。この競技こそパラリンピックの多様性を象徴しているのではないだろうか。

   25日の卓球・男子シングルスも感動的だった。エジプトのイブラヒム・ハマト選手は両腕の肘から先が欠損しているので、口にラケットをくわえ、ボールを打つ。サーブ時は足全体を大きく振り上げ、足の指でつかんだ球を上にトスする。首と身体を左右に大きく振りながらラリーを続け、強烈なレシーブを決める。10歳の時に列車事故に遭い、障害を負った。「人に不可能はない」。人はここまでできると教えてくれているようで衝撃的な感動だった。

  国際パラリンピック委員会(IPC)の公式ツイッターは、25日付でハマト選手を写真付き紹介している=写真・下=。「Only in the Paralympics. Ibrahim Hamato inspires everyone around the world.」。パラリンピックという競技があってこそ、人類は新たな感動を得る。そんなことをイブラヒム・ハマト選手は教えてくれている。

⇒27日(金)午前・金沢の天気     はれ

★処暑の候 虫がアートになるとき2題(再録)

★処暑の候 虫がアートになるとき2題(再録)

   きのう「玄関に変な虫がいる」と家族が大騒ぎになった。枯れ葉をまとった一匹のムシが玄関先をはっていた=写真・上=。小学生のころに観察日記で書いた覚えがある虫だが、名前が出てこない。しばらくして思い出した。ミノムシだ。頭を割りばしでちょいと突くと、さっと引っ込める。それにしても「隠れ蓑」とはよく言ったものだ。ミノムシがまとった「落ち葉衣」には芸術性を感じる。「処暑の候」シリーズ3回目は虫をテーマに2題、再録で。

   2008年3月16日付「『玉虫厨子』復元に夢とロマン」より。タマムシという昆虫をご存知だろうか=写真・中=。多くの人がタマムシと聞いて連想するのが法隆寺(奈良県斑鳩町)の国宝「玉虫厨子」だろう。その玉虫厨子を現代に蘇らせるプロジェクトが完成し、その制作過程を追ったドキュメンタリー映画が輪島市と金沢市で上映されることになった。

   玉虫厨子の復元プロジェクトを発案したのは岐阜県高山市にある造園会社「飛騨庭石」社長、中田金太さん(故人)だ。タマムシの羽は硬い。鳥に食べられたタマムシは羽だけが残り、地上に落ちる。輪島塗の作品をつくるとなると絶対量が日本では確保できない。そこで中田氏は、昆虫学者を雇って東南アジアのジャングルで現地の人に拾い集めてもらった。その大量の羽を輪島に持ち込んで、レーザー光線のカッターで2㍉四方に切る。それを黄系、緑系、茶系などに分けて、一枚一枚漆器に貼っていく。

   江戸期の巨匠、尾形光琳がカキツバタを描いた「八橋の図」をモチーフにした六双屏風の大作もつくられた。大小30点余りの作品を仕上げるのに延べ2万人にも上る職人たちの手が入った。これらの作品は中田氏がオーナーの美術館「茶の湯の森」(高山市)で展示されている。

    本命の玉虫厨子の制作は2003年始まった。本物を複製したレプリカと平成版「玉虫厨子」の2作品が同時進行でつくられた。前回同様に輪島塗の蒔絵職人や彫刻師、宮大工ら延べ4000人が携わった。しかし、中田氏本人は07年6月、完成を待たずして76歳で他界する。妻の秀子さんが故人の意志を継ぎ、5年がかりで完成した。ことし3月1日にレプリカは法隆寺に奉納された。

   ドキュメンタリー映画を手がけたのは乾弘明監督。国宝の復刻に情熱を傾ける中田氏や職人たちの苦悩や葛藤を描いた。映画のタイトルは「蘇る玉虫厨子~時空を超えた『技』の継承~」(64分・平成プロジェクト製作)。俳優の三國連太郎らが出演と語りで登場する。小学校の時に奉公に出され、一代で財を成し、国宝「玉虫厨子」を蘇らせることに情熱を傾けた男の夢とロマンがそこにある。

    2011年10月19日付「九谷をまとった虫たち」より。赤絵の小紋、金蘭(きんらん)の花模様、まさに豪華絢爛の衣装をまとったカブトムシ…。これらの昆虫を眺めていると、地上ではない、まるで別世界にジャンプしたような感覚になるから不思議だ。九谷焼資料館(石川県能美市)で開催されている、陶器の置物展「九谷焼の未来を切り拓く先駆者たち~九谷塾展~」(11月20日まで)を見学してきた。

   九谷焼の若手の絵付職人、造形作家、問屋、北陸先端大学の研究者らが集まり、現代人のニーズやライフスタイルに合った九谷焼をつくろうと創作した作品が並ぶ。九谷焼といえば皿や花器などをイメージするが、置物、それも昆虫のオブジェだ。

   体長9㌢ほどの7匹のカブトムシや3匹のクワガタ、18匹のカタツムリ。それぞれの作品に、金で立体感のある装飾を描く「金盛(きんもり)」や、四季の花で陶器を埋め尽くす「花詰(はなづめ)」、九谷焼独特の和絵の具で小紋を描く「彩九谷(さいくたに)」、小倉百人一首を書いた「毛筆細字(もうひつさいじ)」など九谷焼の伝統技法と色彩表現を結集させている。毛筆細字は九谷焼における、もっとも難易度が高い技法の一つといわれる。

   写真・下は九谷焼資料館のチラシを抜粋させてもらった。上が赤絵の小紋、金蘭の小紋・花模様、青粒(あおちぶ)が描かれ、下は金地に極小文字の毛筆細字のカブトムシ。1体の昆虫に九谷350年の技法を惜しみなく注ぎ込んでいる。実物を見れば、もっと衝撃を受ける。

 
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