#コラム

☆シナリオありきの「記者会見もどき」

☆シナリオありきの「記者会見もどき」

         秋篠宮家の眞子さんは、きょう26日に婚姻届を提出し、午後2時から「小室眞子さん」として圭氏ともに記者会見に臨んだ。テレビ各社が会見の模様を特番体制でテレビ中継していた。会見場には宮内庁の記者クラブに常駐する記者のほか、雑誌や海外メディアの記者らも出席していた。違和感を感じたのは、冒頭で二人が結婚の気持ちを述べた後、質疑応答の時間はなどはなく会見は10分余りで終わったことだった。

  メディア各社の報道によると、記者会見の形式がきのう急きょ変更となった。当初は会見で二人が記者側が事前に提出した質問と関連質問も受ける予定だったが、質疑応答には口頭で答えないことに変更となった。事前の質問については、文書回答となった。これでは、記者会見の意味がない。NHKニュースWeb版(26日付)によると、宮内庁の説明では、文書回答とする理由について、事前質問の中に、誤った情報が事実であるかのような印象を与えかねないものが含まれていることに眞子さんが強い衝撃を受け、強い不安を感じたため、医師とも相談して文書回答にすることを決めたようだ。また、眞子さんは一時、会見を取りやめることも考えたが、ギリギリまで悩み、直接話したいという強い気持ちから、会見に臨んだという。

   率直な感想を言えば、これを「記者会見」とは言わない。「記者会見もどき」だろう。記者会見は記者がその場で質問をして、会見者がどう応えるのか、それは筋書きのないドラマである。記者からの5つの質問はすべて文書回答というのは作られたシナリオありきの会見だ。もし、記者からの質問にその場で返答していれば、実に価値のある会見だったに違い。   

   会見で小室圭氏は金銭問題について言及し、「私の母と元婚約者の方との金銭トラブルという事柄については詳しい経緯は本年4月に公表した通りです」と述べ、「元婚約者の方には公表した文書で書いたように、これまでも折に触れて私と私の母からお礼を申し上げており、感謝しております」と語った。この発言にも違和感がのこった。

   ことし4月8日、小室圭氏は母と元婚約者男性の金銭トラブルについて記したA4用紙28枚の文書を発表した。いわゆる小室文書では「録音」についての記述が何か所も出てくる。たとえば、2012年9月の母と婚約者男性の婚約破棄に関わる記載では、13㌻と19㌻の「脚注」に「元婚約者の方の『返してもらうつもりはなかった』というご発言を録音したデータが存在します」「このやりとりについては私自身同席していて聞いています。又、録音しているので、元婚約者の方が『返してもらうつもりはなかった』とおっしゃったことは確認できています」などと記している。小室文章を読んで、なんと誠意のない書き方かとむしろ疑問に感じた。

   こうした「隠し録り」や「隠し撮り」の人物は録音データをかざしながら、「ウソつくな、証拠がある」と相手を追いつめるタイプだ。おそらく、眞子さんとのこれまでのスマホなどでの会話などは音声データとして膨大な量が蓄積されているに違いない。将来、眞子さんをコントロールするために使われるのではないだろうか。「あとのき、確かに君はこう言った。録音がある、だからヤレよ」という風に。(※写真は、NHK総合の記者会見の中継番組より)

⇒26日(火)夕方・金沢の天気      はれ

★中国とTPPの信頼関係を築けるのか

★中国とTPPの信頼関係を築けるのか

   先月、中国と台湾がTPP(環太平洋パートナーシップ経済連携協定、日本など11ヵ国)への加盟を相次ぎ申請した。このニュースの率直な感想は、中国にとってハードルは高いということだ。

   中国とすれば、タイミングを見計らっていたのだろう。今年は日本がTPPの議長国だが、2022年は中国加盟に歓迎の意を示してきたシンガポール、2023年はニュージーランドと関係が良好な国々だ。しかし、中国の加盟を歓迎しない国々も多い。オーストラリアは対中関係そのものが対立化している。カナダやメキシコはアメリカと締結しているFTAで「非市場経済」国との経済パートナーの締結を禁止している。さらに、中国より先に加盟申請しているイギリスが加盟条件を満たすことがほぼ確実とされ、この加入条件が中国にとってのハードルになるのではないだろうか。

   そもそも、中国には国有企業への優遇措置、知的財産権保護の不徹底、また、電子データ移転制限措置などTPPルールに抵触する要素が多い。さらに、TPPには強制労働の撤廃などの規定がある。新疆ウイグル自治区での強制労働が疑われている問題について、中国はどう説明するのだろうか。

   さらに警戒するのは、中国が2017年6月に施行した「国家情報法」だ。11項目にわたる安全(政治、国土、軍事、経済、文化、社会、科学技術、情報、生態系、資源、核)を守るために、「いかなる組織および国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助および協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない。国は、国家情報活動に対し支持、援助及び協力を行う個人および組織を保護する」(第7条)としている。端的に言えば、政府や軍から要請があれば、ハッカー集団や中国企業はハッキングやデータ提供に協力せざるを得なくなる。

   事例がある。警視庁はことし4月20日、日本に滞在歴がある中国共産党員でシステムエンジニアの30代の男が、サイバー攻撃に使ったレンタルサーバーを偽名で契約していたとして私電磁的記録不正作出・供用の容疑で書類送検した=写真=。2016年からJAXAや防衛関連の企業など、日本のおよそ200に上る研究機関や会社が大規模なサイバー攻撃を受け、警察当局の捜査で、中国人民解放軍のサイバー攻撃専門部隊の指示を受けたハッカー集団「Tick」によるものと分かった。こうしたことが起こる限り、TPPパ-トナーとしての信頼が築けない。ここが問題なのだ。

   きょうの日経新聞(25日付)によると、中国は政府調達で外資企業が受ける差別的措置に乗り出したと報じている。入札条件などの公平性を高め、外資企業を事実状締め出す購入候補リストなどを修正する、としている。中国はTPPの加盟をにらみ、環境整備をアピールする狙いだろう。今後もいろいろな手を打ってくるだろう。しかし、上記で述べたように中国が「国家情報法」を最優先する限り、経済の信頼関係を築けない。

⇒25日(月)夜・金沢の天気     くもり時々あめ

☆北朝鮮のミサイルについて選挙で論戦を

☆北朝鮮のミサイルについて選挙で論戦を

    衆院総選挙の公示日の19日午前10時15分ごろ、北朝鮮は弾道ミサイルを発射した。最高高度50㌔程度を変則軌道で600㌔程度飛翔し、日本海に落下した。弾道ミサイルは潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)だった。これを受けて、午前10時24分、総理指示が出された。「1.情報収集・分析に全力を挙げ、国民に対して、迅速・的確な情報提供を行うこと 2.航空機、船舶等の安全確認を徹底すること 3.不測の事態に備え、万全の態勢をとること」(19日付・総理官邸公式ホームページ)。

    北朝鮮による、日本海に向けたミサイルの発射は頻繁となっている。9月11・12日の長距離巡航ミサイル、15日の移動式ミサイル、28日の極超音速ミサイルと続いている。そして今月19日の弾道ミサイルの発射だ。北朝鮮による脅威はミサイルだけではない。  

    能登半島の沖合300㌔にある大和堆はスルメイカの好漁場で、日本のEEZ(排他的経済水域)内にある。領海の基線から200㌋(370㌔)までのEEZでは、水産資源は沿岸国に管理権があると国連海洋法条約で定められている。ところが、北朝鮮は条約に加盟していないし、日本と漁業協定も結んでいない。北朝鮮が非批准国であることを逆手にとって自らの立場を正当化してくる。EEZ内の漁場「大和堆」で、北朝鮮当局の船が航行しているのが確認されていて、ことし6月末には、そのうちの1隻が携帯型の対空ミサイルを装備していたことを海上保安庁が確認している。このような状況下で漁業者は安心して日本海で操業できるだろうか。

   衆院選で能登半島は石川3区。3区からは無所属新人の倉知昭一候補(85)、自民党前職の西田昭二候補(52)、立憲民主党前職の近藤和也候補(47)が立候補している。この北朝鮮問題を有権者に訴えている候補者をそれぞれのホームページなどでチェックする。すると、3人のうち、北朝鮮問題について触れているのは、近藤候補だけだ。公示の日の集会の動画で、「きょうも北朝鮮からミサイルが発射された。日本にスキがあるから狙われるということがあってはいけない」と述べている。NHKの取材でも、「不安定化している日本海の大和堆の違法操業問題の解決は急務」と。

   北朝鮮問題は確実に起こる。2017年3月6日、北朝鮮は「スカッドER」と推定される弾道ミサイルを4発発射し、うちの1発を能登半島から北に200㌔の海上に着弾させた。北朝鮮が弾道ミサイルを撃ち込む標的の一つが能登半島だ。半島の先端・輪島市の高洲山(567㍍)には航空自衛隊輪島分屯基地のレーダーサイトがある。その監視レーダーサイトの目と鼻の先にスカッドERが撃ち込まれた。

   この能登半島の緊張感を国会でぜひ議論してほしい。北朝鮮のミサイル攻撃にどう対応するのか国会で論陣を張るべきだ。自身は監視レーダーサイトを撤去しろという議論には賛成しない。(※写真は、現職2人と新人1人の3人が立候補した石川3区の選挙ポスター掲示板。新人は23日現在ポスターを貼っていない)

⇒24日(日)夜・金沢の天気      はれ

★「エアハイタッチ」な静かな総選挙

★「エアハイタッチ」な静かな総選挙

    衆院総選挙の期間中に見るいつもながらの光景は「ウグイス嬢」「桃太郎」「ドブ板」の3つではないだろうか。ウグイス嬢は選挙カーに乗って、「〇〇をよろしくお願いします」とマイクで叫びながら街を流すが、終盤ともなると「最後最後のお願いです。どうぞどうぞよろしくお願いします」と泣きが入った声になる。このウグイス嬢の泣きの声を聞くと、「そろそろ投票日だ」との実感もわいてくるものだ。

   「ドブ板」は候補者が裏路地まで入って地域の有権者にあいさつする光景だ。逆に、「桃太郎」はたすきをかけた候補者が、のぼりを持った運動員たちとともに街のメイン通りや商店街を練り歩き、支持を訴える。このシーンは昔話にある、桃太郎がキジやサル、イヌたちにきび団子を与えて子分にして、のぼりを立てて鬼退治に向かうという絵本とよく似ている。選挙では、ここ金沢市内でもよく見かけるシーンだ。

   ところが、選挙戦もそろそろ中盤に入り、今月31日が投票日だというのに、「桃太郎」「ドブ板」を街で見ない。ウグイス嬢の街流しの声も聞こえない。自宅のポストに日本共産党のチラシが2枚入っていたくらいで、街の様子は普段と変わらない。本当に総選挙はあるのかと思ってしまうくらい静かな選挙戦だ。

   各候補者は新型コロナウイルスの感染防止に気遣っているのだろうか。確かに、「桃太郎」「ドブ板」でよく見かける握手作戦は、接触を避けるために、ハイタッチのふりをする「エアハイタッチ」にならざるを得ないだろう。さらに、支持者を集めた屋内外での集会もおそらく自粛だろう。

   それにしても、候補者の顔が見えない、そして候補者にとって有権者の顔が見えない、こんな選挙でよいのだろうかと思ってしまう。そうなると気になるのが投票率だ。石川県は新型コロナウイルスの「まん延防止等重点措置」が今月1日から解除されたものの、感染者は少数ながら日々出ていて、日常が戻ったわけではない。感染を恐れて投票所に行かない有権者もいるだろう。前回のブログでも述べたが、外出しなくても投票できるネット投票をこれを機に検討すべきではないだろうか。(※写真は、新人4人が立候補している石川1区の選挙ポスター掲示板)

⇒23日(土)朝・金沢の天気      くもり時々あめ

☆「ネット選挙運動」から「ネット投票」を

☆「ネット選挙運動」から「ネット投票」を

   選挙運動にネットが解禁されたのは2013年7月の参院選挙からだ。当時は、ソーシャルメディアの国内での広がりを背景に、候補者や政党以外の有権者だれでも、ホームページやフェイスブック、ツイッターを活用した選挙運動ができるようになった。

   ただし、電子メールを送信する選挙運動は政党と候補者に限定される。さらに、政党と候補者は送信先の同意が必要で、たとえば、メールマガジンを読者に送る場合は、送信することを事前に通知して拒否されないことを条件としている。さらに、規定に違反したり第三者がメール送信をした場合は、2年以下の禁錮か50万円以下の罰金を科し、公民権停止の対象となる。

   つまり、ネットは「電子メール」と「ウェブサイト等」に分類されていて、一般の有権者がメールで選挙運動に利用することは禁じられている。また、スマホから電話番号を使って送るショートメッセージ(SMS)もこれに含まれる。一方、LINEやフェイスブックやツイッター、インスタグラムなどSNSやユーチューブ、ブログは「ウェブサイト等」に分類されていて、一般の有権者でも選挙運動のメッセ-ジの投稿や送信など自由に使える。

   では、なぜ罰金まで課して、メールを「悪者扱い」するのか。2013年の公職選挙法改正で議論されていたのは、電子メールは第三者によるなりすましやウイルス感染の危険性があるため規制の対象にするということだ。しかし、現代はなりすましやウイルス感染もさることながら、「フェイクニュース」が一番厄介なことではないだろうか。フェイクニュースはSNSでもメールでも拡散する。メールだけをいつまでも規制するのは時代遅れではないだろうか。

   それと、ネット選挙運動の次は、ネット投票だ。菅前政権の肝入りでこの9月にデジタル庁が新設された。マイナンバーカードの普及、そしてネット投票がセットで実現すれば、デジタル社会への大きな一歩になる。ウイズコロナのこのタイミングでネット投票を実現させてほしい。

⇒22日(金)夜・金沢のに天気     くもり   

★「悪い円安」

★「悪い円安」

   最近メディアを通して「悪い円安」という言葉が知られるようになった。円安が進むことは、製品を輸出する企業にとってはメリットが出るものの、海外から原材料を得ている企業にとっては生産コストの上昇となり、製品の値上げに転嫁せざるを得ない。急激に円安が進めば、消費拡大の足を引っ張ることになり、デメリットが大きくなる。

   目に見えるガソリン価格で「悪い円安」で検証してみる。ことし1月初旬のドルと円の為替相場は1㌦104円前後だったが、その後徐々に円安にぶれて、きのうは114円に。このブログでも何度か取り上げてる近所のガソリンスタンドでの価格は1月初旬で1㍑当たり133円前後だった。それが、きょう166円となっていた=写真=。この10ヵ月で1㍑当たり価格にして30円、率にして22%も値上げしたことになる。ガソリン価格は2014年10月以来、7年ぶりの高値だ。ただ、このときは1㌦106円前後だったが、イスラム教の宗派対立でイラク情勢が混乱し原油需給がひっ迫したあおりを受けて1㍑170円前後となった。

   石油だけでなく、天然ガスも高騰している。NHKニュースWeb版(21日付)によると、火力発電所の燃料などとして使われる天然ガスの価格が世界各地で高騰している。アジアのLNG=液化天然ガスのスポット価格は、ことし10月初旬には去年の同じ時期と比べて10倍を超える水準となっている。以下、NHK記事の引用。

   そのLNG価格の高騰の背景に中国の存在が。ことし1月から9月までの中国の輸入量は5800万㌧となり、世界最大の輸入国である日本の5600万㌧を初めて上回った。LNG市場に中国という巨大な買い手が現れ、価格が大きく揺れ動くような事態になった。では、なぜ中国がLNGを。中国の発電所のうち主要な電源は石炭火力で61%を占めている。天然ガスは3%だ(2020年統計)。ただ、石炭火力は煙が立ち上り、二酸化炭素の排出量も膨大だ。さらに、来年2月に北京オリンピックが開催されるので、それに向けた環境シフトが課題となっている。そこで、中国は「青空作戦」と銘打って、石炭火力を抑制することで空気をきれいにするクリーン作戦を国を挙げて展開し、同時にLNG発電へのシフトを急いでいる。

   ここでも「悪い円安」の影響が出るのではないかと懸念する。今後、日本と中国がLNGの奪い合いを演じた場合に価格がさらに高騰する。その分、日本の電気料金に転化されるのではないかと気になる。このところの円安、実にタイミングが悪い。

⇒20日(木)午後・金沢の天気     はれ

☆いまさら「敵基地攻撃能力」とは、日本海側の憂い

☆いまさら「敵基地攻撃能力」とは、日本海側の憂い

   まるで衆院選挙のスタートを告げる「号砲」のようなタイミングだ。公示の日のきのう19日午前10時15分ごろ、北朝鮮は朝鮮半島東部の新浦付近から、弾道ミサイルを東方向に発射した。うち1発は最高高度50㌔程度を変則軌道で600㌔程度飛翔し、日本海に落下した。落下地点は日本のEEZ外と推定される。弾道ミサイルは潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の可能性がある。もう1発の飛翔距離等については、引き続き分析中(19日付・防衛省公式ホームページ)。

   これを受けて、午前10時24分、総理指示が出された。「1.情報収集・分析に全力を挙げ、国民に対して、迅速・的確な情報提供を行うこと 2.航空機、船舶等の安全確認を徹底すること 3.不測の事態に備え、万全の態勢をとること」(同・総理官邸公式ホームページ)。そのとき岸田総理は何をしていたのか。同日午前9時45分にJR福島駅に到着。同10時20分に福島市の「土湯温泉観光案内所」で街頭演説。11時15分にJR福島駅で報道各社のインタビューに答えている(20日付・朝日新聞「首相動静」)。10時24分に総理指示を出した以降も仙台市で街頭演説。官邸に戻ったの午後3時3分だ。本来ならば総理指示を出した時点で即刻、官邸に引き返すべきではなかったか。一国の総理の危機感というものを感じることができるだろうか。

   朝鮮労働党機関紙の労働新聞(20日付)をチェックすると、「조선민주주의인민공화국 국방과학원 신형잠수함발사탄도탄 시험발사 진행」(国防科学研究所が新型潜水艦発射弾道ミサイルを試験打ち上げ)の見出しで写真付きの記事を掲載している=写真・上=。炎を吹き出しながら海上を上昇していく弾道ミサイルの様子や、海面に浮上した潜水艦など、写真は計5枚=写真・下=。記事では、5年前にSLBMを初めて発射した潜水艦から再び新型SLBMの発射に成功し、国防技術の高度化や水中での作戦能力の向上に寄与すると書いている。

   岸田総理は官邸に帰り、午後4時05分から国家安全保障会議に出席。同31分からの記者団のインタビューに対し、「わが国と地域の安全保障にとって見過ごすことができないものだ。すでに国家安全保障戦略などの改定を指示しており、いわゆる『敵基地攻撃能力』の保有も含め、あらゆる選択肢を検討するよう改めて確認した」と述べた(19日付・NHKニュースWeb版)。

   敵基地攻撃能力は、ミサイル発射基地に対する攻撃能力を備えることで、発射を思いとどまらせる抑止力を強化する狙いがある。しかし、今回のようなSLBMの場合、あるいはことし9月15日の鉄道を利用した移動式ミサイル発射台からの弾道ミサイルの場合、どのように「発射基地」を特定し攻撃能力を備えるのか。さらに、変則軌道型の弾道ミサイルに日本のミサイル防衛システムが対応できるのか。すでに、北朝鮮の「国防技術の高度化」の方が勝っているのではないか。日本海側に住み、海の向こうの北朝鮮と向き合う一人としての憂いだ。

⇒20日(水)午前・金沢の天気    あめ

★続・「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~3~

★続・「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~3~

   海の見えるカナダのバンクーバーを拠点として活動をしているデイビッド・スプリグス氏が能登半島の珠洲にやって来て、最も強いインパクトを受けたのが日本海の荒波だった。その強烈さを作品名『第一波』=写真・上=に。かつての漁具倉庫に真っ赤に染まる大荒波が出現する。手書きで描かれた透明なフィルム層を重ねることで、襲いかかってくるような波の迫力が表現されている。

      臨場感と記憶、そして未来、計算し尽くされた場のアート

   正面から見れば荒波に見えるが、斜めから見るとまったくちがった赤い雲のようにも見え、カタチの認知が変る。「見る」ことの不確実性と流動性の不思議を感得できる。倉庫の内部は薄暗く広いので、近づいて見たり、遠巻きで眺めたりしてこの立体感を楽しむことができる。芸術作品は場の選定が絶対条件だ。スプリグス氏の要望に応じて、海のそばの制作現場を選ぶために関係スタッフが相当のリサーチをかけたことは想像に難くない。 

  この作品は銭湯が場となっている。青木野枝氏の作品『mesocyclone/蛸島 』=写真・中=。場所は蛸島(たこじま)という地名の漁師町にある、「高砂湯」という銭湯だった。30年前に営業をやめている。この漁港近くにある銭湯に金属彫刻の青木氏が展示空間そのものを作品とするインスタレーションを展開した。

   mesocyclone(メソサイクロン)は立ち上る小規模な積乱雲を意味する。脱衣場の床から天井へとつながる鉄の輪が、ゆらゆらと立ち上るような湯気を思い起こさせ、浴場に置いた使いさしの石鹸からかつての銭湯の匂いが漂う。仕事を終え船から下りた漁師たちが汗を流し、ゆったりつかった湯。町の人に愛されていた場の記憶を感じさせる。

   場の作品では、そこから見える風景もコンセプトだろう。シモン・ヴェガ氏の作品『月うさぎ:ルナクルーザー』=写真・下=は海岸近くの児童公園にあり、前回訪れたときは外観しか鑑賞することができなかった。今回は木造の月面探査機の中を見ることができた。感動したのは、コックピッド(操縦席)から見える風景は確かに月面にも見えるのだ。ヴェガ氏が制作した月面探査機は市内の空き家の廃材で創られている。古さび捨てられていくものと宇宙というフォルムが合体し、そして海が月面に見えるという奇妙な感覚。これは作家の「未来は過去のなかにある」というコンセプトを表現しているようだ(奥能登国際芸術祭ガイドブック)。場を活かし、計算し尽くされた作品ではないだろうか。

⇒19日(火)午前・金沢の天気     はれ

☆続・「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~2~

☆続・「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~2~

   「奥能登国際芸術祭2020+」で色鮮やかな海をテーマとしているのが、ひびのこずえ氏の作品「Come and Go」=写真・上=だ。作品展示だけでなく、ダンスも演じるパフォーマンスたっぷりの芸術だ。テーマとしているのは能登の海。一般には冬場の鉛色の荒れた海を想像しがちだが、じつにカラフルな構成になっている。

      自然環境と人々の暮らし、能登の森羅万象をアートに

   実際にひびのこずえ氏は能登の海を潜って得た感性で作品づくりをしている。寄せては返す潮の満ち引き、それは出会いと別れでもあり、移り変わりでもある。ここから作品名を「Come and Go」と名付けられたとボランティアガイドから説明を受けた。

   展示作品は海中のイメージを表現している。写真の真ん中に大きなウミガメがいて、海藻や魚、クラゲもいる。ここは海であり、地球であり、そして宇宙をイメージする、まるで無重力空間のようだ。

   奥能登国際芸術祭には金沢美術工芸大学も出品している。教員・学生60人余りで構成するアートプロジェクトチーム「スズプロ」。市内の広々とした旧家の屋敷を借りて、5つの作品を展示している。スズプロは2017年の芸術祭から参加しているが、今回は新作として『いのりを漕ぐ』という大作を展示している。客間に能登産材の「アテ」(能登ヒバ)を持ち込み、波と手のひらをモチーフに全面に彫刻を施したもの。学生らがチェーンソーやノミでひたすら木を彫り込んだ。

   教員・学生たちのは一年を通して珠洲の祭りや伝統行事に参加しながら地域交流を深めている。そして、日本海を見渡すこの地域の調査研究を行い、ここでしか表現し得ない作品の制作を目指してきた。アテを使ったのも、この木が能登特産の素材だからだ。そして「能登曼荼羅(まんだら)」=写真・下=という作品がある。これは2017年制作の作品だが、その地域研究の成果が凝縮されている。「奥能登を、絵解く」をテーマに、人々の四季の暮らしや生業(なりわい)、祭り行事、喜び悲しみの表情まで実に細かく描写されている。まさに、森羅万象の仏教絵画の世界なのだ。

⇒18日(月)夜・金沢の天気     はれ

★続・「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~1~

★続・「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~1~

         能登半島の尖端、珠洲市で開催されている「奥能登国際芸術祭2020+」への2度目の観賞ツアーを企画した。前回は9月4日の開幕と同時に訪れた。16の国と地域から53組のアーティストが参加し、46ヵ所で作品が展示されているが、オープン当時は石川県に新型コロナウイルスの「まん延防止等重点措置」が適用されていて、屋外作品が中心の展示だった。10月1日から措置が解除され、ようやく全作品が公開となり、会期も11月5日まで延長された。2度目の観賞ツアー(今月16、17日)では屋内外の合わせて20点余りを楽しむことができた。

       塩がアートのモチベーションになるとき

   「目にも鮮やか」という言葉の表現があるが、まさにこの作品のことではないだろうか。金沢在住のアーティスト、山本基氏の作品『記憶への回廊』=写真・上=だ。旧の保育所施設を用いて、真っ青に塗装された壁、廊下、天井にドローイング(線画)が描かれ、活気と静謐(せいひつ)が交錯するような空間が演出される。そして、保育園らしさが残る奥の遊戯場には塩という素材を用いた立体アートが据えられている。かつて、園児たちの声が響き、にぎわったこの場所は地域の人々の幼い時の記憶を呼び起こす。

   案内してくれたボランティアガイドの説明によると、作品制作には10㌧もの塩が使われている。なぜ「塩」にこだわるのか。作者は若くしてこの世を去った妻と妹との思い出を忘れないために長年「塩」を用いて、展示空間そのものを作品とするインスタレーションを制作しているのだという。展示後は鑑賞者と共に作品を壊し、塩を海に還すイベントも企画しているという。

   会場入口に作者のメッセージが掲示されていた。作者は金沢から珠洲を13回訪れ、延べ50日かけて創り上げたと記している。最後にこう書き添えている。「私はここを訪れる人たちが、誰もが過ごしたはずの幼い頃の思いを馳せられるタイムマシンのような空間を作りたい。そして出来ることなら、大切な思い出に想いを寄せながら、未来をみつめる機会となってほしい。そう願っています」

           色鮮やかで、そして塩がモチベーションの作品がもう一つある。ドイツ・ベルリン在住のアーティスト、塩田千春氏の作品『時を運ぶ船』=写真・下=。作品制作は前回の「奥能登国際芸術祭2017」のとき。そして作者の名前は「塩田」。珠洲の海岸には伝統的な揚げ浜式塩田が広がり、自分のルーツにつながるインスピレーション(ひらめき)を感じて迷わず創作活動に入ったという。塩砂を運ぶ舟から噴き出すように赤いアクリルの毛糸が網状に張り巡らされた空間。赤い毛糸は毛細血管のようにも見え、まるで母体の子宮の中の胎盤のようでもある。

   ボランティアガイドはもう4年間も作品の説明していて、解説はとても分かりやすく、そして深い。『時を運ぶ船』という作品名は塩田氏が珠洲のこの地域に伝わる歴史秘話を聴いて名付けたのだという。戦時中、地元のある浜士(製塩者)が軍から塩づくりを命じられ、出征を免れた。戦争で多くの友が命を落とし、浜士は「命ある限り塩田を守る」と決意する。戦後、浜士はたった一人となったが伝統の製塩技法を守り抜き、その後の塩田復興に大きく貢献した。技と時を背負い生き抜いた人生のドラマに塩田氏の創作意欲が着火したのだ。

   しばらく「胎盤」の中に身を置くようにして作品を眺めてみる。炎天下で心血を注いでモノづくりをする浜士の心臓の鼓動が聞こえてくるようだった。

⇒17日(日)夜・金沢の天気     はれ