#カーボンニュートラル

★「地球沸騰化」をもたらす化石燃料は段階的廃止なのか

★「地球沸騰化」をもたらす化石燃料は段階的廃止なのか

   前回ブログの続き。国連のグレーテス事務総長が「地球は沸騰化の時代に入った」と述べたように、地球温暖化対策は待ったなしとなり、ことし11月から開催される国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では、二酸化炭素を排出するすべての化石燃料の段階的廃止の具体化が決議されるのではないか、と自身は注目している。

   そして、このCOP28の決議が日本の政策にどのような変革を迫るのかも注目である。岸田政権は、2030年に温室効果ガスの46%削減、2050年までに大気中に排出される二酸化炭素を実質ゼロとするカーボンニュートラルの実現を掲げている。カーボンニュートラルの実現に向けて岸田政権が打ち出しているのは原発の活用だ。きのう29日付の朝刊各紙によると、関西電力は28日に営業運転開始から48年が経過した高浜原発1号機(福井県高浜町、82.6万㌗)の原子炉を再稼働させた。この原発は国内で最も古いとされ、2011年1月に定期検査に入り、以降停止していた。9月には高浜原発2号機の再稼働も予定している。

   ことし5月には60年を超える原発の運転を可能とする法律「GX(グリーン・トランスフォーメーション)脱炭素電源法」を成立させている。簡単に言えば、車検に合格すればクラシックカーも道路を走行できるのと同じ扱いになった。

   COP28での会議で議論になるのは石炭火力発電の扱いではないだろうか。COP27では、化石燃料の段階的廃止と再生可能エネルギーの拡大をうたってはいるが具体策は明示されていない。そして、日本では、ことし6月、大手電力2社が新たなタイプの石炭火力発電所を稼働させている。四国電力の西条発電所1号機、そして、JERAの横須賀火力発電所1号機だ。横須賀火力発電所1号機は、高効率な発電設備であり、水素やアンモニアを混焼するため、建て替え前の発電所に比べて二酸化炭素の排出が3割減少すると見込まれている。さらに、二酸化炭素を大気に放出せずに回収して地下などに溜める、いわゆる「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage」の実現を目指している。

   日本の売りは二酸化炭素を排出を低減する新たな技術を備えた石炭火力発電なのだが、世界でどこまで受け入れられるだろうか。たとえれば、次に乗用車を買う場合はEV車にするかハイブリッド車にするか、という選択肢ではないだろうか。EUはことし3月、2035年にガソリンなどで走るエンジン車の新車販売をすべて禁止するとしてきた方針を変更し、温暖化ガスを排出しない合成燃料を使うエンジン車は認めると表明している(3月25日付・朝日新聞Web版)。

   化石燃料をめぐる論議が今後、COP28だけでなくあらゆる国際会議でなされるだろう。そこに日本の技術が評価されるのか、どうか。

⇒30日(日)夜・金沢の天気    はれ

☆能登の新たな風~CO²回収と「火様」を守る炭焼き~

☆能登の新たな風~CO²回収と「火様」を守る炭焼き~

   能登半島の尖端にある珠洲市で木炭製造会社を経営する大野長一郎氏を久しぶりに訪ねた。伝統的な炭焼きを今も生業(なりわい)としている石川県内で唯一の事業所で、二代目でもある。

   大野氏の話は「火様(ひさま)」から始まった。能登では囲炉裏の火を絶やさず守る「火様」の伝統があったが、燃料が電気やガス、灯油などにシフトする燃料革命でその伝統は風前の灯(ともしび)となった。去年の9月、能登で300年の火様の伝統を守っている人から声をかけられ、火種を分けてもらった。炭焼きの伝統技術に、新たに火様の伝統を受け継いだ。(※写真・上は、火鉢に入れた能登の伝統の火を受け継ぎ守る大野氏)

   大野氏の火へのこだわりは多様だ。「炭焼きでカーボンニュートラルを起こすと決めたんです」。樹木の成長過程で光合成による二酸化炭素の吸収量と、炭の製造工程での燃料材の焼却による二酸化炭素の排出量が相殺され、炭焼きは大気中の二酸化炭素の増減に影響を与えない、とされる。しかし、実際は木を伐採するチェーンソーや、運ぶトラックのガソリン燃焼から出るCO²は回収されていない。「炭焼きは環境にやさしくないと悩んでいた」

   そこで、知り合った金沢大学の研究者と、自らの生業のCO²の排出について検証する作業に入る。ライフサイクルアセスメント(LCA=環境影響評価)の手法を用い、過去6年間の製造、輸送、販売、使用、廃棄、再利用までの各段階における環境負荷を検証した。事業所の帳簿をひっくり返しガソリンなどの購入量を計算。仕事の合間で2年かけて二酸化炭素の排出量の収支計算をはじき出した。また、環境ラベリング制度であるカーボンフットプリントを用いたCO²排出・固定量の可視化による、木炭の環境的な付加価値化の可能性などもとことん探った。

   得た結論は、生産する木炭を2割以上を不燃焼利用の製品にすれば、排出するCO² 量を相殺できるということが明らかになった。そこで商品生産の方針を決め、生産した炭の3割を床下の吸湿材や、土壌改良材として商品化することにした。

   付加価値の高い茶炭の生産にも力を入れている。茶炭とは茶道で釜で湯を沸かすのに使う燃料用の炭のこと。2008年から茶炭に適しているクヌギの木を休耕地に植林するイベント活動を開始。すると、大野氏の計画に賛同する植林ボランティアが全国から集まるようになり、能登におけるグリーンツーリズムのさきがけにもなった。(※写真・下はクヌギの木を材料とした茶道炭。切り口がキクの花模様に似ていることから菊炭とも呼ばれる)

   さらに、炭焼きの原木を育てる植林地では植物だけでなく、昆虫や野鳥などの生物も他の地域より多いことが研究者の調査で分かってきた。植林地に枝打ちや間伐など手を入れることで、生物多様性が育まれる。炭焼き業がカーボンニュートラルやバイオエコロジーに新風を吹き込むかもしれない。

⇒7日(金)夜・金沢の天気     くもり

★風力発電と里山景観をめぐる懸念の声~参院選まで7日

★風力発電と里山景観をめぐる懸念の声~参院選まで7日

   能登で何かと話題になっているのが、風力発電の増設計画だ。ブレイド(羽根)の長さ34㍍の風車は風速3㍍で回りはじめ、風速13㍍/秒で最高出力1500KWが出る。風車1基の発電量は年間300万KW。これは一般家庭の1千世帯で使用する電力使用量に相当する。能登半島には同規模の風車が73基あり、ざっと7万3千世帯分となる。能登地区の9市町の世帯数は7万2千世帯(令和2年国勢調査速報集計)なので、風力発電でほぼ賄えていることになる。(※写真・上は能登半島の尖端、珠洲市に立地する風力発電=同市提供)

   岸田政権は2030年に温室効果ガスの46%削減、2050年までのカーボンニュートラルの実現を目指していて、風力発電の増設計画が全国で加速している。政府の方針を受けて、能登半島でも新たに7地域で12事業、171基が計画されている。能登半島で風が強く、海に面した細長い地形が大規模な風力発電の立地に適しているとされる。

   そこで議論が起きているのが、「今でも賄えているのに、これ以上の風力はなぜ必要なのか」といった問題提起だ。能登には風力のほか七尾市に火力発電所、現在は運転停止となっている志賀町には原子力発電所がある。電力エネルギーがなぜ能登に集中しなければならないのか、電力の地産地消に向けてそれぞれの地域が取り組むべきではないのか、と言った声を聞く。

   声の背景にあるのが景観と自然保護だ。環境省は先月14日、海岸線が中心だった能登半島国定公園(1968年指定)を内陸部の里山を含め広げる拡張候補地として選んだと発表している。候補地は2030年度をめどに決める。一方で、環境省の「国立・国定公園内における風力発電施設の審査に関する技術的ガイドライン」(2013年改定)では、「展望する場合の著しい妨げ」「眺望の対象に著しい支障」に該当するものの設置を認めていない。つまり、12事業171基の設置は国定公園が里山に拡張する前の、駆け込み需要ではないかと。

   能登半島は2011年6月に国連食糧農業機関により、世界農業遺産(GIAHS)「Noto’s Satoyama and Satoumi(能登の里山里海)」が認定されている。その認定要件に景観がある。今後、さらに171基も増えると里山の景観に違和感が出て、GIAHSの認定要件を満たすのかという疑問の声もある。

   自然保護の声は、バードストライクを懸念している。石川県は環境省が進めている国の特別天然記念物のトキの本州などでの放鳥について、すでに名乗りを上げている。能登には本州最後の1羽のトキがいたこともあり、県はトキの放鳥を能登に誘致する方針だ。ところが、能登に風車が244基も林立することになれば、トキには住みよい場所と言えるのかどうか。同じく国の特別天然記念物のコウノトリのひな3羽が能登半島の中央に位置する志賀町の山中で生まれ、8月には巣立ちする。コウノトリが定着することになれば、やはり懸念されるのはバードストライクだろう。(※写真・下は豊岡市役所公式サイト「コウノトリと共に生きる豊岡」動画より)

   能登の里山里海をめぐる外部環境の動きは急だ。自身は政府が進めるカーボンニュートラルの推進に反対ではない。ただ、過大な投資には上記の地域の反発や懸念があることを無視してはならない。

⇒3日(日)午後・金沢の天気     あめ後くもり

☆カーボンニュートラルな能登の光景

☆カーボンニュートラルな能登の光景

   能登半島で見る印象的な風景は、山の峰に並ぶ風力発電、山裾や田んぼ、畑の一角に広がる太陽光発電ではないだろうか。脱炭素の世界的な潮流を受け、日本も2030年に温室効果ガスの46%削減、2050年までのカーボンニュートラルの実現を表明している(2021年4月・気候サミット)。日本が排出する二酸化炭素の4割が電力関連で、再生可能エネルギーに置き換える動きが全国的に活発だ。

   能登半島全体では74基、うち半島尖端の珠洲市には30基の大型風車がある。経営主体は日本風力開発株式会社(東京)、2007年から順次稼働している。発電規模が45MW(㍋㍗)にもなる国内でも有数の風力発電地域だ。発電所を管理する会社のスタッフの案内で現地を訪れたことがある。ブレイド(羽根)の長さは34㍍で、1500KW(㌔㍗)の発電ができる。風速3㍍でブレイドが回りはじめ、風速13㍍/秒で最高出力1500KWが出る。風速が25㍍/秒を超えると自動停止する仕組みなっている。羽根が風に向かうのをアップウインドー、その反対をダウンウインドーと呼ぶ。1500KWの風車1基の発電量は年間300万KW。これは一般家庭の1千世帯で使用する電力使用量に相当という。(※写真・上は能登半島の先端・珠洲市の山地にある風力発電)

   なぜ能登半島に立地したのか。「風力発電で重要なのは風況」と現地のスタッフが説明してくれた。中でも一番の要素は平均風速が大きいことで、6㍍/秒を超えることがの目安になる。能登半島の沿岸部、特に北側と西側は年間の平均風速が6㍍/秒を超え、一部には平均8㍍/秒の強風が吹く場所もあり、風力発電には最適の立地条件なのだ。いいことづくめではない。能登で怖いのは冬の雷。「ギリシアなどと並んで能登の雷は手ごわいと国際的にも有名ですよ」と。そのため、ブレイドの材質は鉄製ではなく、FRP(繊維強化プラスチック)にしているが、それでも落雷のリスクはあるという。

   バイオマス発電所もある。珠洲市に隣接する輪島市の山中にある。発電所を運営するのは株式会社「輪島バイオマス発電所」。スギやアテ(能登ヒバ)が植林された里山に囲まれている。木質バイオマス発電は、間伐材などの木材を熱分解してできる水素などのガスでタービンエンジンを駆動させる。石炭など化石燃料を使った火力発電より二酸化炭素の排出量が少ない。もともと二酸化炭素を吸湿して樹木は成長するのでカーボンニュートラルだ。発電量は2000KWで24時間稼働するので年間発電量は1万6000MW、これは一般家庭の2500世帯分に相当する。エンジンを駆動させるために必要な木材は一日66㌧、年間2万4千㌧の間伐材が必要となる。(※写真・中は輪島市三井町にある輪島バイオマス発電所の施設)

   創業者から会社設立に至った経緯をうかがったことがある。「能登の里山を再生するために、間伐材をどうしたら有効利用できるかを考えていたら、バイオマス発電が浮かんだ。そこから夢も膨らみ、地産地消のエネルギーで地域の活性化に貢献したいと思い、会社をつくったのです」。森林維持には欠かせない間材で生じた木材のうち丸太材やパルブ材などに利用されるのは70%程度に過ぎない。残りの端材や曲がり杉は、利用されずに林地残材という形で山の中にそのまま残されているのが現状。これではもったいない。カスケード利用(多段的利用)しない手はない(同社公式サイト)。里山のもったいない精神から発想された再エネなのだ。

   能登半島では農地のほかに山間部でも大規模なメガソーラー(1000kW)が相次いで稼働している。耕作放棄地など活用したのだろう。気になることもある。川沿いの平野部に設置されている太陽光パネルだ。これが、集中豪雨による冠水や水没で損壊したり、設備が流されるということにはならないだろうか。太陽光パネルは実は危険だ。損傷し放置された太陽光パネルに日が当たると発電し、感電や火災につながる可能性がある。(※写真・下は珠洲市にあるソーラー発電施設)

   きょうの新聞各紙は、環境省は使用済みの太陽光パネルのリサイクルを義務化する検討に入ったと伝えている。太陽光パネルの寿命は長くて30年だ。普及が進んでいる能登地区の近未来の課題でもある。

⇒29日(日)夜・金沢の天気    はれ

★石油に依存しない未来社会へ 退路を絶つという発想

★石油に依存しない未来社会へ 退路を絶つという発想

   ロシアによるウクライナへの侵攻、それにともなうロシアへの経済制裁は国内でもじわりと影響が出ている。日常生活でその影響が分かりやすいのは原油高によるガソリン価格の値上がりかもしれない。金沢市内のガソリンスタンドで目につくのは「1㍑173円」の看板。能登半島ではさらに輸送コストがかさんでいて「1㍑179円」となっているようだ。

   政府が石油の元売り会社に「価格抑制補助金」を支給しているにも関わらずこの価格だ。ともとも、ガソリン価格は新型コロナウイルスのパンデミックで上昇傾向だった。それに、ロシアによるウクライナ侵攻が追い打ちをかけたかっこうだ。ガソリン価格の上昇の背景にはもっと根本的な問題がありそうだ。それは円安。かつて国際紛争などが起きると、「有事の円買い」が起きて、円高状態になった。ところが、今回のロシアのウクライナ侵攻では、「円安ドル高」が一気に進んで一時125円という値動きになった(3月28日)。

   むしろ「有事のドル買い」が一方的に進んでいる。「有事の円買い」はいつの間にか忘れ去られたのか。むしろ貿易赤字が問題なのだろう。財務省が発表した2022年1月の貿易統計速報では、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆1910億円の赤字だった。2014年1月の2兆7951億円に次いで過去2番目の大きさだった。2月の速報では、赤字は6682億円と縮小したものの、原油などエネルギー価格の高騰と円安で貿易赤字は止まらず7ヵ月連続の赤字となった。

   話は冒頭のガソリン価格に戻る。アメリカはガソリン高騰に思い切った手を打った。BBCニュースWeb版日本語(1日付)によると、バイデン大統領は今後6ヵ月間にわたって備蓄石油を最大1億8000万バレルを放出する。1974年以降で最大規模の放出となる。ロシアのウクライナ侵攻で、世界2位の原油輸出国ロシアからの輸出が西側の制裁対象となり、原油の供給不安が起きている。アメリカ政府は今回の放出で状況を改善したい考え。

   日本政府もIEAと協調して備蓄石油750万バレルを放出する方向で動いているが、この際、大幅に放出してはどうか。石油の元売り会社に「価格抑制補助金」を支給するより買わせる。同時並行で岸田総理が去年11月のCOP26で世界に表明した「2030年までに温室効果ガス46%カット」「2050年にカーボンニュートラル」の宣言を進めるチャンスにする。石油に依存しない未来社会をどう構築するか、退路を絶つことで、まさに真剣勝負で考える時期が到来したようだ。

⇒2日(土)夜・金沢の天気     はれ

★経済と環境が同時に同等に語られる時代

★経済と環境が同時に同等に語られる時代

   石川県内の繊維産業に関わる人から聞いた話だ。繊維をヨーロッパに輸出する際に、現地の繊維加工会社からいろいろ問い合わせがある。繊維の素材(綿など)はどのような労働環境でつくられているのか、さらに、繊維機械はバイオ燃料で動いているのか、あるいは化石燃料を利用しているのかなど細かく聞いてくるそうだ。「そのうち、使用している電力は石炭火力か原子力か再生可能エネルギーかと尋ねてくるだろう」と少々困惑した顔つきだった。

   ヨ-ロッパの企業は、環境・社会・企業統治に配慮した、いわゆる「ESD投資」を得るために生産元をチェックているのだという。話を聞いたのは、イギリスのグラスゴーで開催されていた国連の気候変動対策会議「COP26」が終わった去年の11月終わりごろだった。COP26では、世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑える努力を追求すると成果文章で明記された。世界全体の温室効果ガスの排出量を2030年までに2010年比で45%削減し、さらに2050年にほぼゼロに達するまで排出量を削減し続ける。今後、石炭火力などが主な電力の国の生産品は敬遠されるのかもしれない。

   経産省がまとめた第6次エネルギー基本計画(2021年10月2日・閣議決定)によると、2030年度の電力構成を火力42%(LNG20%、石炭19%、石油2%、水素・アンモニア1%)、原子力20-22%、再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱、水力、バイオマス)が36-38%となっている。第5次基本計画(2018年7月)では2030年度の火力の電源構成が56%だったので、14ポイント削減している。日本は「カーボンニュートラル先進国」としての国際的評価を高めるために舵を切ったようにも思える。

   日本だけでなく、脱炭素化の動きは世界的な潮流だろう。ところが、いくつか矛盾点や議論すべき課題が世界各地で起こり始めている。NHKニュースWeb版(3日付)によると、EUの執行機関にあたるヨーロッパ委員会は1日、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標の実現に向け、一定の条件のもとで天然ガスに加え、原子力発電についても持続可能なエネルギー源として位置付ける方針を明らかにした。これに対して脱原発を進めるドイツは反発し、経済気候保護担当大臣は「リスクの高い原子力を持続可能とするのは間違っている」とメディアに対して述べた。一方、フランスはエネルギー価格の高騰などを理由に、原発を持続可能なエネルギーと認めるべきだと主張している。「Decarbonization(脱炭素化)」をめぐる論点が鮮明化してきた。

   さらに、バイオ燃料の確保のために森林伐採が世界規模で行われている現実がある。その事例として引き合いに出されるのが、熱帯雨林のアマゾンの3分の2を有するブラジルだ。森林を伐採してサトウキビ畑を広げ、石油の代替燃料としてバイオエタノールを生産している。地球環境と開発の問題に取り組む「WRI」公式ホームページによると、ブラジルでは農地開発だけでなく森林火災も含め、2020年に170万㌶の森林が失われている。ちなみに、コンゴやインドネシアを含めて世界では420万㌶だった。これはオランダの国土面積、日本では九州に相当する。

   ブラジルの森林の消失面積は世界で最も多い。BBCニュースWeb版日本語(202年11月19日付)によると、ブラジルはCOP26で2030年までに森林破壊を終わらせると約束する文書に署名した。アマゾンの熱帯雨林には300万種の動植物が生息し、100万人の先住民族が暮らしている。地球温暖化を引き起こしている炭素を吸収する重要な場所でもある。

   新型コロナウイルスの感染拡大による景気後退への対策で、環境を重視した投資などを通して経済を浮上させる「Green Recovery(グリーン・リカバリー)」が国際的なトレンドになっている。冒頭のESD投資を含め、経済の動きは環境問題と同時に同等に語られる時代に入ってきたのだろう。

⇒3日(月)夜・金沢の天気      くもり  

☆カーボンニュートラルな生き方

☆カーボンニュートラルな生き方

   前回のブログの続き。イギリスで開催された国連の気候変動対策会議「COP26」では、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える努力を追求し、石炭火力発電については「段階的な廃止」を「段階的な削減」に表現を改めることで意見対決をまとめて成果文書が採択された。日本政府も2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル宣言」を掲げ、脱炭素社会の実現に向けて待ったなしで突き進んでいくことになる。

   自分の仕事が地球環境や気候変動にどのような影響を与えているだろうか。環境に謙虚な気持ちを持つということはどういうことなのか。そのことに取り組んでいる人物の話だ。能登半島の尖端、珠洲市の製炭所にこれまで学生たちを連れて何度か訪れている。伝統的な炭焼きを生業(なりわい)とする、石川県内で唯一の事業所だ。二代目となる大野長一郎氏は45歳。レクチャーをお願いすると、事業継承のいきさつやカーボンニュートラルに対する意気込みを科学的な論理でパワーポイントを交えながら、学生たちに丁寧に話してくれる。

   22歳で後継ぎをしたころ、「炭焼きは森林を伐採し、二酸化炭素を出して環境に悪いのではないか」と周囲から聞かされた。しかし、自分自身にはこう言い聞かせてきた。樹木の成長過程で光合成による二酸化炭素の吸収量と、炭の製造工程での燃料材の焼却による二酸化炭素の排出量が相殺され、炭焼きは大気中の二酸化炭素の増減に影響を与えない、と。ただ、実際にはチェーンソーで伐採し、運ぶトラックのガソリン燃焼から出る二酸化炭素が回収されない。「炭焼きは環境にやさしくないと悩んでいたんです」   

   この悩みを抱えて、2009年に金沢大学の社会人向け人材育成プロジェクト「能登里山マイスター養成プログラム」に参加した。自身も大野氏とはこの時に知り合った。大野氏は自然環境を専門とする研究者といっしょに生業によるCO²の排出について検証する作業に入る。ライフサイクルアセスメント(LCA=環境影響評価)の手法を用い、過去6年間の製造、輸送、販売、使用、廃棄、再利用までの各段階における環境負荷を検証する。事業所の帳簿をひっくり返しガソリンなどの購入量を計算することになる。仕事の合間で2年かけて二酸化炭素の排出量の収支計算をはじき出すことができた。また、環境ラベリング制度であるカーボンフットプリントを用いたCO²排出・固定量の可視化による、木炭の環境的な付加価値化の可能性などもとことん探った。

   得た結論は、生産する木炭の不燃焼利用の製品割合が約2割を超えていれば、生産時に排出されるCO² 量を相殺できるということが明らかになった。3割を燃やさない炭、つまり床下の吸湿材や、土壌改良材として土中に固定すれば、カーボンマイナスを十分に達成できる。これをきっかけに木炭の商品開発の戦略も明確に見えてきた。さらに、炭焼きの原木を育てる植林地では昆虫や野鳥などの生物も他の地域より多いことが研究者の調査で分かってきた。「里山と生物多様性、そしてカーボンニュートラルを炭焼きから起こすと決めたんです」

   付加価値の高い茶炭の生産にも力を入れている。茶炭とは茶道で釜で湯を沸かすのに使う燃料用の炭のこと。2008年から茶炭に適しているクヌギの木を休耕地に植林するイベント活動を開始した。すると、大野氏の計画に賛同した植林ボランティアが全国から集まるようになった。能登における、グリーンツーリズムの草分けになった。(※写真・上は大野氏が栽培するクヌギの植林地。写真・下はクヌギで生産する「柞(ははそ)」ブランドの茶炭)

⇒16日(火)夜・金沢の天気      はれ

☆日本は「カーボンニュートラル先進国」になれるのか

☆日本は「カーボンニュートラル先進国」になれるのか

   選挙に勝って勢いがついたのだろうか。イギリスで開かれているCOP26の首脳会合で岸田総理が演説し、2030年度の温室効果ガスの排出量を2013年度から46%削減するなどとした日本の目標を説明した。そのうえで、先進国が途上国に年間1000億㌦を支援するとした目標に届いていない現状を踏まえ、これまで日本政府が表明した5年間で官民合わせて600億㌦規模の支援に加え、今後5年間で最大100億㌦の追加支援を行う用意があると表明。「気候変動という人類共通の課題に日本は総力を挙げて取り組んでいく決意だ」と強調した(2日付・NHKニュースWeb版)。

   去年10月26日、当時の菅総理は臨時国会の所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」と声高に述べた。さらに、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力するとし、「もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではない」と強調した。そして、石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換し、次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした、脱炭素社会に向けてのイノベーションを起こすため、実用化を見据えた研究開発を加速させると述べていた。

   二人の総理が力強く脱炭素を宣言したことで、日本は「カーボンニュートラル先進国」の評価が国際的に高まるかもしれない。ただ、矛盾も見えている。経産省がまとめた第6次エネルギー基本計画が先月22日に閣議決定された。第5次エネルギー基本計画(2018年7月)と比較する。第5次では2030年度の電源構成を火力56%(LNG27%、石炭26%、石油3%)、原子力22-20%、再生可能エネルギー(水力、太陽光、風力など)を22-24%としていた。それが、第6次では火力42%(LNG20%、石炭19%、石油2%、水素・アンモニア1%)、原子力20-22%、再生可能エネルギーが36-38%となっている。

    この数字を見て、再生可能エネルギーの割合が高すぎると感じる。2030年までに建設可能な再生可能エネルギーとなると、水力と風力よりも太陽光が手っ取りばやいだろう。しかし、これまではFIT(固定価格買取制度)で建設が順調に伸びてきたが、これまでのペースさらに伸びるだろうか。また、原子力の割合も高いのではないか。「20-22%」というのは、第5次エネルギー基本計画をベースにした試算でこれを実現するには、原発27基が必要だとされている。現実に再稼働している原発は10基だ。カーボンニュートラルのための原発再稼働は地域住民の理解を得られるとは思えない。

   カーボンニュートラルに反対するつもりはまったくない。ただ、日本の取り組みに実現可能性はあるのかどうか、社会的な混乱を招かないのか。

⇒2日(火)夜・金沢の天気      くもり時々あめ

★「飛び恥」からカーボンニュートラルへ

★「飛び恥」からカーボンニュートラルへ

   先日、友人たちと会って「コロナ禍」後のことについて語り合った。「世界の人々の海外旅行の欲求が一気に高まり、ビッグバン(大爆発)のようなブームが起きるかもしれない」と話すと、友人の一人が「そうそう、CO2の削減が世界の課題で、ヨ-ロッパでは飛び恥より鉄道での旅行がブームらしい」と。「飛び恥って」と聞き返すと、「環境問題を考えるなら、CO2排出量の多い飛行機を使わないという意味だよ」と友人は教えてくれた。このとき初めて「飛び恥」という言葉を知った。

   ネットで「飛び恥」を検索してみると、この言葉は、若き環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが育ったスウェーデンが発祥の地のようだ。2019年9月、16歳のグレタさんが参加した国連気候行動サミット(国連本部)には、温室効果ガス排出量が大きい飛行機には乗らないと、太陽光パネルと水中タービン発電機が付いたヨット船で父親らと大西洋を横断してニューヨーク港に着いたことが、世界のメディアに大きく取り上げられた。

   HUFFPOST日本語版(2019年11月14日付)の記事を以下引用。多くのスウェーデン人にとって、飛行機での旅行は自慢の対象ではなくなっており、ヨーロッパを移動する際には、鉄道を利用するのが一種のトレンド。「飛び恥(Flygskam/ 英語ではflight-shaming)」「鉄道(列車)自慢(Tågstolthet/英語ではTrain Pride)」という言葉ができている。個人旅行だけでなく、ビジネスでの出張を減らそうという動きもある。ビジネスパーソンたちも、国際会議を減らしたり、なるべくスカイプに切り替えたりしている。

   HUFFPOSTは、グレタさんの母親でオペラ歌手のマレーナ・エルンマンさんは「なぜ飛行機に乗らないか」(2017年)というコラムを書いて、地球温暖化に警鐘を鳴らしている著名人の一人だと紹介している。確かに、スウェーデンは1972年にストックホルムでの第1回地球サミット「国連人間環境会議」のホスト国を務めるなど環境問題には熱心で、二酸化炭素の排出量が世界で最も少ない国として注目されている。そして、地球温暖化を数値で予測可能にした真鍋淑郎氏にノーベル物理学賞を贈ったのはスウェーデン王立科学アカデミーだ。 

   では、スウェーデンはなぜここまで二酸化炭素と地球温暖化問題に熱心なのか。以下憶測だが、ツンドラ地帯の永久凍土の融解や生態系の変化など北欧諸国では地球温暖化の影響が目に見えて変化しているのではないだろうか。とくに、永久凍土が融けると大規模な地盤沈下が起きると言われている。

   話を冒頭に戻す。では、「飛び恥」でこれから航空産業は衰退するのだろうか。むしろ、大気中のCO2濃度を増やさないカーボンニュートラルな航空機燃料、つまりバイオジェット燃料の増産が解決策ではないだろうか。ことし6月、バイオジェット燃料を使い、鹿児島から羽田まで930㌔を飛んだことがニュースになった(6月29日付・NNNニュースWeb版)。 バイオベンチャー企業「ユーグレナ」が、ミドリムシと廃食油でバイオ燃料をつくることに成功。国内初のバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントを2018年11月に横浜市で完成させている。

    日経新聞Web版(10月8日付)によると、ANAとJALは廃油や植物を原料にした環境負荷の少ない「持続可能な航空燃料(SAF)」の活用推進に向け、共同で市場調査を実施した報告書をまとめたと発表した。日本の航空大手2社が環境関連の活動で手を組むのは初めてと報じている。

   ようやく「飛び恥」からカーボンニュートラルへ。CO2をめぐる航空産業界の動きが一段と加速しそうだ。

⇒12日(火)午後・金沢の天気      あめ

☆「ミドリムシ燃料」で空を飛ぶ

☆「ミドリムシ燃料」で空を飛ぶ

   バイオベンチャー企業「ユーグレナ」の社長CEO、出雲充氏の講演を金沢大学で聴いたのはちょうど2年前の2019年6月、トレードマークの緑色のネクタイを揺らせながら熱く語った=写真=。持続可能なエネルギー社会のため、ミドリムシをジェットエンジンの燃料に応用するプロジェクトを進めているという内容だった。そのプロジェクトが実装段階に入ってきたようだ。

   TVニュースによると、きのう29日、投資家所有のプライベートジェット機が、ユーグレナ開発のバイオジェット燃料を使い、鹿児島から羽田まで930㌔を飛んだ。 この燃料は、原料となるミドリムシが成長の過程で光合成し二酸化炭素を吸収するため、政府が2050年に目指すカーボンニュートラル実現に貢献できるとしている。 ただ、この燃料はミドリムシが由来となる成分はわずか1割しか含まれていない。ユーグレナでは今後、その比率を上げるとともに、現在1㍑当たり1万円の製造コストを4年後には200円以下にしたいとしている(6月29日付・NNNニュースWeb版)。

   講演のメモから、出雲氏がなぜバイオジェット燃料の開発に至ったのか、その志を再録してみる。1998年、大学1年の夏にバングラデシュのグラミン・バンク(銀行創設者のムハマド・ユヌス氏は2006年にノーベル平和賞受賞)にインターンシップとして入った。貧困層向けの事業資金として無担保で平均年収に相当する1人3万円ほどの融資を行う銀行だ。出雲氏はバングラデシュの子どもたちは腹を空かせひもじい思いをしていると思い込んでいたが、1日3食カレーが食べられる国で、飢えて苦しんでいる子どもはほとんどいなことに気がついた。カレーには野菜や肉はまったくなく、食べているのにやせているのはタンパク質不足による栄養失調が問題だと実感した。

   大学3年の時に、ミドリムシ(学名「ユーグレナ」)の存在を学んだ。ミドリムシはムシと名前がついているが、藻の一種の植物でクロロフィル(葉緑素)を有し光合成を行い、自ら動く動物でもある。0.1㍉以下の単細胞生物。植物と動物の両方の栄養素が採取でき、人に必要な動物性タンパク質やビタミンやミネラル、アミノ酸など59種類もある。「このミドリムシをバングラデシュの子どもたちに食べてもらえば栄養失調が解消できるかもしれないとひらめいた」(メモから)

   当時はミドリムシを産業として活かすための大量培養の技術はなかった。そこで、2005年8月に会社を設立し、12月に石垣島で屋外での培養に成功した。その後サプリメントや食品として販売実績を積み上げ、2012年12月に東証マザーズに上場、2014年12月に東証一部に市場変更をした。2013年10月に創業のきっかけとなったバングラデシュの首都ダッカに初の海外拠点となるバングラデシュ事務所を設けた。経営理念である「人と地球を健康にする」を実現するための第一歩として、パートナー企業からの協賛金と現地NGOの協力でミドリムシ入りクッキーを現地で生産し、栄養失調の小学生1千人対象を配布するプロジェクトを立ち上げた(2020年度は1万人を対象)。「貧しい国なのに栄養失調の子どもがいなくなれば、ミドリムシとは何だと世界中が驚くに違いない」(メモから)

   企業ビジョンとして掲げているのが「バイオテクノロジーで、昨日の不可能を今日可能にする」だ。エネルギーは石油からバイオ燃料へと移行している。気候変動をもたらすCO2も削減できる。アメリカではバイオ燃料としてトウモロコシが活用され、トウモロコシの価格は5倍に上がった。問題は天候や自然に左右さない安定供給だ。ミドリムシと廃食油でバイオ燃料をつくる、国内初のバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントを2018年11月に横浜市に完成させた。「環境問題、食糧問題、エネルギー問題、健康問題など、この星の困難を一気に乗り越えてくれるかもしれない生物がミドリムシ。このミドリムシが世界を変え、地球を救う時代が到来する」(メモから)と講演を締めくくった。

   講演の後、同じ6月に開催されたG20サミット関連会合「G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」(長野県軽井沢町)でユーグレナのバイオ燃料を使ったバスが運行したことがきっかけで、その後、横浜・鶴見区を走る臨港バスや西東京市を走る西武バスにも導入されている。

   メディア各社によると、今回ユーグレナのバイオジェット燃料は約200㍑で、従来のジェット燃料を混ぜて生成した。同社は2025年をメドに、生産能力2000倍以上の商用プラントを建設する予定だ(6月29日付・日経新聞Web版)。コロナ禍後には、世界的な脱炭素の流れでバイオジェット燃料の需要はさらに高まってくるだろう。また、代替プラスチックなどへの応用にも期待が集まるのではないだろうか。
   出雲氏の著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』(ダイヤモンド社)がある。量産化など課題を抱えながらも、夢を一つ一つ実現していく有言実行の企業家としての姿には感服する。

⇒30日(水)午前・金沢の天気      はれ