#インバウンド観光客

★ポカポカ陽気の金沢 声響くウグイス嬢とインバウンド客

★ポカポカ陽気の金沢 声響くウグイス嬢とインバウンド客

   けさ玄関の戸を開けると、暖かな風がそよいでいた。家の中の方が寒い。気温予想を見ると25度、なんと夏日だ。午前中、ポカポカ陽気に誘われて金沢の街中を歩いた。

   街中では、暑いせいかアイスクリームを食べながら歩く若者たちの姿も目立った。そして、大通りでは選挙カーからのウグイス嬢の声が響き渡る。23日投開票の金沢市議選(定数38)には46人が立候補している。選挙ポスターの掲示板=写真・上=を眺めると、争点や論点を訴えるポスターが少ない。「金沢市民の暮らしを守り 未来を切り開く」や「多彩な人材が活躍できる 活力ある金沢市に」「金沢に活力を 決断・突破・実行力」などと訴えているが、いま一つピンと来ない。

   選挙公報を読むと、面白いキャッチもある。「とりあえず 迷惑な選挙運動はNO!」の見出しで、「候補者の名前を叫んで回る選挙カー、ホント迷惑ですよね。ああいう他人の迷惑をかえりみない古臭い選挙を変えましょう」と訴えている。同感なのだが、ただ、具体的にどのような選挙運動にすべきなのか。ぜひ、辻立ちで訴えてほしい。市議選が面白くないと市政は盛り上がらない。前回の市議選(2019年4月)の投票率は36.33%で過去最低だった。さらに投票率が下がるのではないか、そのようなことを思いながら選挙ーが行き交う街中を歩いた。

   兼六園に足を延ばした。遅咲きの桜で知られる「兼六園菊桜」が満開を迎えていた。その下にはツツジが赤い花を一面に咲かせている。春から初夏への季節の移ろいを感じさせる。

   入場者のほとんどがインバウンド観光客かと思う。何しろ、英語や中国などが飛び交っている。金沢港ではコロナ禍の水際対策で2020年にストップしていた国際クルーズ船の受け入れが3月に再開され、台湾のエバー航空も今月から小松-台北便を毎日運航で再開している。園内の名所の一つの琴柱灯籠(ことじとうろう)をバックに写真撮影をするインバウンドの人たちが列をなしていた=写真・下=。 

   そして、インバウンド観光客がカメラを向けていたのは、すげ笠をかぶり黙々と雑草を抜き取り、落ち葉をかいて掃除する作業員たちの姿だった。すげ笠が珍しかったのか、雑念を払う修行のような清掃作業に美の原点を感じたのか、などと思いめぐらしながら兼六園を後にした。

⇒20日(木)午後・金沢の天気    はれ

★雪吊りの兼六園 雪国の知恵がここにある

★雪吊りの兼六園 雪国の知恵がここにある

    きょう兼六園に立ち寄った。毎年11月1日から樹木に雪吊りが施されているので、その様子も見学したいとふと思い、足が向いた。兼六園に入って、たまたまかもしれないが、インバンド観光客がツアーやグループ、家族連れで多く訪れていた。兼六園がミシュラン仏語ガイド『ボワイヤジェ・プラティック・ジャポン』(2007)で「三つ星」の最高ランクを得てからは訪日観光客の人気は高まっていたが、2000年の新型コロナウイルス感染の拡大以降はほとんど見かけることがなかった。ようやく水際対策を緩和した効果が出てきたようだ。

   そのインバウンドの人たちが盛んにカメラやスマホを向けていたのは、雪吊りが施された唐崎松(からさきのまつ)だ=写真=。高さ9㍍、20㍍も伸びた枝ぶり。唐崎松には、5つの支柱がたてられ、800本もの縄が吊るされ枝にくくられている。天を突くような円錐状の雪吊りはオブジェのようにも見え、とても珍しいのかもしれない。

   ふと考えたのは、雪国に住まないインバウンドの人たち、あるいは日本人も含めて、なぜこのような雪吊りを樹木に施す必要があるのかと疑問を持つ人々も多いのではないか、ということだ。金沢の雪はさらさら感のあるパウダースノーではなく、湿っていて重い。その理解が前提になければ、雪吊りは単に冬に向けてのイベントにしか見えないだろう。

   金沢では庭木に雪が積もると「雪圧」「雪倒」「雪折れ」「雪曲」といった雪害が起きる。金沢の庭師は樹木の姿を見て、「雪吊り」「雪棚」「雪囲い」の雪害対策の判断をする。唐崎松に施されたのは「りんご吊り」という作業で、柱の先頭から縄を枝を吊る。このほかにも、「幹吊り」(樹木の幹から枝に縄を張る)や「竹又吊り」(竹を立てて縄を張る)、「しぼり」(低木の枝を全て上に集め、縄で結ぶ)など樹木の形状に応じてさまざまな雪吊りがある。

   兼六園では12月中旬ごろまで、800ヵ所で雪吊りが施される。その一つ一つを観察すると、雪から樹木を守る庭師の気持ちや技術や知恵といったものが伝わってくる。

⇒10日(木)夜・金沢の天気    はれ

☆「能登GIAHS」10周年の国際会議から~中~

☆「能登GIAHS」10周年の国際会議から~中~

   能登の世界農業遺産「能登の里山里海」が認定されて10年周年を記念する国際会議(11月25-27日)が七尾市和倉温泉の旅館「あえの風」で開催されている。FAOの駐日事務所ほか、政府関係者や農業従事者ら200人余り、そして、ペルーとセネガル、ブルキナファソの3ゕ国の駐日大使も訪れ、会場はにぎやかな雰囲気だ。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大に配慮して、FAOのローマ本部のスタッフや海外のGIAHSサイトの担当者はオンライン(通訳付き)での参加となった。

      セネガル大使は「私もノト出身です」と

   冒頭で3人の大使があいさつした=写真=。セネガルの大使の話には驚いた。「私もノト出身です。日本のノトに興味がここに来ました」と。会場が一瞬、「えっ」という雰囲気に包まれた。スマホで調べると、確かにセネガルの西の方にティエス州ノト市がある。スペルも「Noto」と書く。さらに検索すると、JICA公式ホームページに「地域は海沿いのため一年を通して気候が良く、また地下水が豊富にあるため、玉ねぎやジャガイモ、キャベツの野菜栽培に非常に適した地域であり、セネガルの80%の野菜生産量を担っている」と説明があった。イタリアのコレシカ島にも「Noto」というワイン用のブドウ栽培の産地がある。日本、イタリア、セネガルの「Noto」で姉妹都市が結べないだろうか、そんなことがひらめいた。

   本題に入る。この国際会議では、経済、社会の2つのテーマに分かれて分科会が開かれ、世界各国のサイトの代表や研究者ら12人が取り組みの成果や課題を発表した。発言の中で注目されたのは、やはり開催地である能登のGIAHS認定10年は成果はどのように評価されているのか、ということだった。

   注目された発表の一つが、能登半島の尖端にある珠洲市の取り組みだった。同市の企画財政課長が述べた。同市で少子高齢化や転出が進み人口減少が進んでいるものの、ことし2021年上半期(4-9月)は転入が131人、転出が120人で転入が転出を初めて上回った。この社会動態の変化の要因として、GIAHSとSDGsを両立させた取り組みを目指し、海洋ゴミや廃校をアートに昇華させた国際芸術祭、企業や大学と連携して自然環境を活かしたビジネス人材の養成など、過疎地をイノベーションの場として活用することに共感する人々が増えている、と述べた。「人口減少が進む能登は日本の地域課題のトップランナーだ。能登で課題解決を探りたい、実践したいという若者や企業が珠洲に集まってきた」と。

    そして、GIAHSツーリズムという変化をビジネスチャンスに受け止めていると話したのは能登町の一般社団法人「春蘭の里」の代表理事だった。2011年に能登がGIAHS認定され、「Noto」が世界に浸透するとヨーロッパなどからインバウンド観光客が増えてきた。新型コロナウイルスによるパンデミックの前の2019年ごろまでは年間1万人の宿泊客のうち、2000人余りがインバウンド客という年もあった。地域の46の民宿に分散して泊まり、春は山菜、秋にはキノコをインバウンドの人たちといっしょに採取して、夕ご飯に料理として出して喜ばれた。言語の問題は、自動通訳機「ポケトーク」を地域の人たちで共有することで乗り越えている。コロナ後のGIAHSツーリズムを前向きに述べていた。

    石川県の谷本正憲知事は基調講演の中で、「能登にはさまざまハンディがあるものの、それをメリットに切り替える工夫をしてきた。世界農業遺産の認定が地域の魅力を掘り起こすきっかけになった」と能登におけるGIAHS効果をまとめて話していた。

⇒27日(土)夜・金沢の天気   くもり時々あめ  

★能登にある「グローバル過疎地」

★能登にある「グローバル過疎地」

   能登半島の里山の一角を自身は勝手に「グローバル過疎地」と紹介している。安倍前総理も2019年1月の通常国会の施政方針演説でこう紹介している。「田植え、稲刈り。石川県能登町にある50軒ほどの農家民宿には、直近で1万3千人を超える観光客が訪れました。アジアの国々に加え、アメリカ、フランス、イタリア、イスラエルなど、20ヵ国以上から外国人観光客も集まります」。観光による地方創生の成功事例として紹介されたのは能登町の農家民宿で組織する「春蘭(しゅんらん)の里」だ。

   春蘭の里にインバウンド観光客が訪れるきっかけとなったのは、2011年11月にイギリスBBC放送の番組「ワールドチャレンジ」にエントリーしたのがきっかけだった。世界の草の根活動を表彰する同番組には毎年600以上のプロジェクトの応募がある。2011年に「春蘭の里 持続可能な田舎のコミュニティ~日本~」を掲げてエントリーし、最終選考(12組)に残ったものの、惜しくも4位だった。が、投票を呼びかけるBBCのこの番組で12組の取り組みが繰り返し放送されたことで知名度が上がり、国内外の観光業者から注目されるきっかけとなった。

   春蘭の里がBBCにエントリーしたのは、突飛な話ではない。2010年10月、名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の公認エクスカーション(石川コース)では、世界17ヵ国の研究者や環境NGOメンバーら50人が参加し、春蘭の里でワークショップを開催している。そして2011年6月、北京でのFAO国連食糧農業機関の会議で「能登の里山里海」が世界農業遺産(GIAHS)に認定され、能登を世界に売り込むチャンスが訪れていた。春蘭の里はこの機会を逃さず、「ワールドチャレンジ」にエントリーにした。

   昨年9月に春蘭の里のリーダー、多田喜一郎氏を大学の研修で訪ねた。新型コロナウイルスのパンデミックの影響でインバウンド観光客は鳴りを潜めているが、それまでは毎年20ヵ国ほどから2000人余りを受け入れていた。「インバウンド観光客が求めているものは、むしろ田舎にある」は、多田氏の持論だ。森の中で暮らす、食するは人類共通の願いである、とも。もう一つの持論は「行政に頼らない。むしろ、行政が応援したくなるような地域づくりをしたい」。この発想が多様なチャレンジを広げていのではないか。

   では、60代や70代が中心の民宿経営者たちがいかに20ヵ国ものインバウンド観光客と接することができるのか、集落に通訳業の人たちがいるわけではない。多田氏は「ポケトークだと会話の8割が理解できる。すごいツールだよ」と。春蘭の里ではこの74言語に対応した音声翻訳機「ポケトーク」を8台所有し、必要に応じて貸し出している。この文明の利器を介して、炭焼きや山菜採り、魚釣りなどの体験をインバンウンドの人たちと楽しんでいる。過疎地にしてグローバル、「グローバル過疎地」と紹介する所以である。

(※写真=「春蘭の里」には世界から日本の里山を見学に訪れる。左はリーダーの多田喜一郎氏)

⇒2日(火)夜・金沢の天気