#アイヌ

★「受け狙い」言葉遊びのワナ

★「受け狙い」言葉遊びのワナ

   今度の差別問題は責任は明らかだ。きょう12日、日本テレビの朝の情報バラエティー番組『スッキリ』でアイヌ民族を傷つける不適切な表現があった。問題の発言は、動画配信サービス「Hulu」の番組を紹介するコーナーで、アイヌ女性のドキュメンタリー「Future is MINE ―アイヌ、私の声―」を紹介した後、お笑い芸人の脳みそ夫が「この作品とかけまして動物を見つけた時ととく。その心は、あ、犬」と謎かけをした。番組の放送後、SNS上などで批判が挙がった。局側は取材に「当該コーナーの担当者にこの表現が差別に当たるという認識が不足しており、放送前の確認も不十分でした。その結果、正しい判断ができないまま、アイヌ民族の方々を傷つける不適切な表現で放送してしまいました」と説明した(3月12日付・朝日新聞Web版)。

   記事を読んで、ネット上にどのような批判が挙がっているのか検索すると、手厳しいコメントが。「ん?なんかさり気なくアイヌをぶっ込んできたが、『ア、犬』って、バカにしとるやないか!」「スッキリのアイヌのギャグのやつ昔実際にあった差別用語だよね。あれはないわ」「スッキリのhuluのアイヌの謎かけは本当に良くない! 差別用語で使われてた言葉だからしっかり調べてからそういうことをいって欲しい」

   ネットで番組の動画を視聴すると、脳みそ夫がリスのぬいぐるみを着て、「あ、犬」のテロップも入っていて、ていねいに犬のイラストまである。生番組だが、お笑い芸人の即興ではなく、事前に作成されたVTRを流したもの、ということになる。つまり、テレビ局の制作スタッフが構成した演出と断定してよい。番組の流れを見ていても、差別的な意図は感じない。が、ネット上で批判が起きているように、かつて差別用語で使われていた言葉であることを認識していなかったという制作ディレクターの見識が問われる。テレビ局によくある、受け狙い先行型のミステイクとも言えるかもしれない。

   森喜朗元総理のJOC臨時評議員会(2021年2月3日)での発言、「女性がたくさん入っている理事会は、理事会の会議は時間がかかります」「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。みんな発言される」。この発言が女性蔑視とレッテルを貼られて、辞任することになった。

   予め考えておいたエピソードを連ねて場の雰囲気を盛り上げ、会場の笑いを取れても話の内容がずさんになることはままある。受け狙いの言葉遊びのワナに自らはまることは、自身も何度も経験している。

(※写真は、日本テレビ公式ホームページより)

⇒12日(金)夜・金沢の天気      あめ

★「どぶろく」と「アイヌのサケ漁」の相関性

★「どぶろく」と「アイヌのサケ漁」の相関性

   古来からの伝統的な生産品が明治の法律によって今でも禁止されているケースがある。自らの趣向品でもある「どぶろく(濁酒)」がそれに当たる。石川県中能登町の由緒ある神社では12月に「どぶろく祭り」を開催して参拝客に振舞っている。五穀豊穣を祈願する新嘗祭のため、どぶろくを造ってお供えする神事を古代より連綿と守ってきた。ただ、神社に行かないと飲めない。

   もともと明治初期まではどぶろくは各家々で造っていた。明治政府は国家財源の柱の一つとして酒造税を定め、日清や日露といった戦争のたびに増税を繰り返し、並行してどぶろくの自家醸造を禁止した。これがきっかけで家々のどぶろくの伝統は廃れたが、宗教的行事として神社では残った。所轄の税務署から製造許可が与えられ、境内から持ち出すことが禁じられている。最近では、地域活性化を目指す国の構造改革特区の「どぶろく特区」で、特定した稲作農業者だけに製造が認められている。

   明治期には酒税は国の税収で重きをなしていたかもしれないが、現在、どぶろく造りにまで目を光らせる理由がどこにあるのだろうか。神社に伝えられた伝統的な酵母菌のどぶろくを自由に飲ませてほしい。どぶろくは日本酒のルーツでもある。

   このニュースも「明治の負の遺産」だ。きのう17日、北海道のアイヌ団体「ラポロアイヌネイション」が札幌地裁に対して、アイヌ民族には地元の川でサケ漁を行う先住権があるのに不当に漁が禁止されているとして、漁を規制する国と道を相手取り、権利の確認を求めて提訴した(8月17日付・NHKニュースWeb版)。

   かつて、アイヌにとってサケは重要な食料であると同時にアイヌ語でカムイチェプ=「神の魚」と呼ばれるほど特別な存在とされていた。しかし、明治以降は政府により資源保護の観点からサケの遡上する主要河川での捕獲が制限され、漁業権を持つ者以外は捕獲から排除されてきた。現在ではアイヌの文化的伝承や儀式に限り、道知事の許可を得て例外的にサケ漁が認められている。

   今回テーマになっている「先住権」は、先住民族が伝統的に持っていた土地、資源に対する権利や政治的な自決権を指し、2007年に採択された国連の先住民族権利宣言に明記された。これに従って、国は、昨年5月施行のアイヌ施策推進法でアイヌ民族を先住民族と初めて明示したが、先住権には触れていない(8月18日付・北海道新聞Web版)。今回の訴えでは、その先住権として、道東にある十勝川の河口4㌔の範囲で、サケの刺し網漁を認めてほしいとの訴えだ。裁判で争われるのは、先住権としての漁業を認めるか、だ。

   北海道では「秋鮭」などで親しまれるサケを、海に仕掛けた大型の定置網で漁獲している。訴えたメンバーはこの川の周辺で生活していたアイヌの子孫たちた。十勝川での刺し網漁を復活させ、アイヌの独自のサケの食文化をブランド品として売り出すという構想を持ってのことだろうと想像する。とすれば、北海道のサケのブランド価値を高めるためにも、このアイヌの先住権を認めるべきではないだろうか。国も道も前向きに考えてほしい。

(※写真は、初サケを迎えるアイヌの儀式=アイヌ民族博物館公式ホームページより)

⇒18日(火)朝・金沢の天気     はれ