#のとじま水族館

★能登半島地震 生き物たちの「災害関連死」

★能登半島地震 生き物たちの「災害関連死」

   能登半島地震で亡くなった人は石川県庁危機管理監室の発表によると、きょう11日午後2時の時点で県内で213人、そのうち災害関連死が8人、重軽傷者が567人となっている。関連死は地震や津波などによる直接的な被害で亡くなるのではなく、避難生活などで病気などが悪化したり、体調を崩したりして命が失われるケースだ。2016年4月の熊本地震の犠牲者270人のうち、生き埋めになるなどして死亡した人は50人、災害と関連して亡くなったのは220人だった(内閣府政策統括官リポート「災害関連死について」より)。

   人の命だけでなく、さまざまな生き物の命も奪われている。七尾市能登島にある「のとじま水族館」の公式サイトによると、9日付で「1月1日の地震の影響で、のとじま水族館で飼育していましたジンベエザメの『ハチベエ(オス)』が死亡しました」と、そして翌日の10日付で「1月1日の地震の影響で、のとじま水族館で飼育していましたジンベエザメの『ハク(メス)』が死亡しました」とそれぞれ短文で伝えている。

   ハク(体長4.9㍍)とハチベイ(同4.6㍍)は、500種4万点の魚類がいるのとじま水族館の中では、まさにスターだった。体の大きさの割には威圧感がない。小魚やプランクトンがエサで、動きがゆったりしていて、眺めているだけで癒される思いがした。2匹は2022年9月から同館で飼育されていて、体長が6㍍になると再び海に放される予定だった。(※写真は、2018年9月に撮影した「のとじま水族館」のジンベイザメ)

   メディア各社の報道によると、地震発生の1日にはジンベイザメの水槽が水漏れで水位が半分以下となり、4日には循環ポンプの水没や濾(ろ)過設備が停止していることが確認された。応急措置として水槽に海水を投入して水位を保ったものの、水温が低くなりすぎるなど生育環境が悪化して死に至ったようだ。生き物たちの災害関連死ではある。のとじま水族館ではカマイルカやゴマフアザラシなどを「いしかわ動物園」(石川県能美市)や「越前松島水族館」(福井県坂井市)に移すなどの措置を講じている。

⇒11日(木)夜・金沢の天気   あめ

☆伝統の「くず湯」、ツアーの締めくくり

☆伝統の「くず湯」、ツアーの締めくくり

   前回の続き。「能登を学ぶスタディ・ツアー2022」の二日目は里山里海の生業(なりわい)と生物多様性がテーマだった。最初の訪れたのは、穴水町にある「能登ワイン」が運営するブドウ畑とワイナリー。能登の赤土(酸性土壌)はブドウ畑に適さないと言われてきたが、同社では畑に穴水湾で養殖されるカキの殻を天日干しにしてブドウ畑に入れることで土壌が中和され、ミネラルが豊富な畑となり、良質なブドウの栽培に成功している。栽培面積は委託も含めて24㌶におよぶ=写真・上=。

   白ワイン(シャルドネ)、赤ワイン(ヤマソービニオン)は国内のワインコンクールで何度も受賞している。また、最近では、8千年以上の長い歴史を持つワイン発祥の国、ジョージアの代表的な土着品種、サペラヴィの栽培に成功し、赤ワインを製品化している。ただ、温暖化のせいでシャルドネの栽培量が減少しているという。穴水湾のカキとシャルドネのワインがとても合うと人気だけに、現場も苦慮している。

   次に訪れたのが七尾市能登島の「のとじま水族館」。この水族館では500種4万点を展示しているが、その9割が能登の海で定置網などで捕獲された生きもの。その中でスーパースターがジンベエザメ=写真・中=。小魚やプランクトンがエサで動きがゆったりしているので、人気がある。それにしても、この水族館ではプランクトンから海草、イルカ、そしてジンベエザメにいたるまで見学できる。まさに、海の生物多様性の博物館だ。

   最後に能登で一番高い山でもある宝達山(ほうだつざん、637㍍)のふもとの里山集落を訪れた。宝達山には旅するチョウ「アサギマダラ」が飛来することでも知られる。そして、この山はかつて加賀藩の金山だった。記録では天正12年(1584)に開山し、崩落事故が起きた寛永5年(1628)まで続いた。全国から鉱山開発や土木技師などのプロがこの地に集められ、「宝達集落」が形成された。

   金鉱で働く者たちの健康を支える漢方薬として当時から重宝されたのが「宝達葛(くず)」だった。山に自生するくずの根を掘り出し、デンプンを取り出して精製したもので、くず粉はまさに純白に輝く=写真・下=。いまでも、その独自の製法は地域の人たちに受け継がれている。地元の人たちから宝達葛の「くず湯」の振る舞いがあった。初めて口にした。とろりとしたほのかな甘さに伝統の味を感じながら、ツアーを締めくくった。

⇒24日(水)夜・金沢の天気   くもり

★ジンベエザメと能登の海、そして水族館の共生

★ジンベエザメと能登の海、そして水族館の共生

   きのう(19日)オンラインでの講演会があり参加した。テーマは「能登の海の魅力とジンベエザメ」。のとじま臨海公園水族館の展示・海洋動物科長、加藤雅文氏が講演した。のとじま水族館は能登近海に回遊してくる魚類などを中心に500種4万点を展示している。その9割は能登の海で獲れたもの。水族館のスターは何と言っても、ジンベエザメだ。

   加藤氏の講演は、日本海を俯瞰する話から始まった。世界の海の広さから見れば、日本海は面積では0.3%に過ぎない。陸に囲まれているという立地から陸から流れてきた栄養分などが海底に積もっている。栄養素から植物プランクトンが発生し、動物プランクトン、そして多様な海洋生物が育まれる食物連鎖がある。地球規模から見れば、小さな海にブリやサバ、フグ、イカ、カニなど魚介類が豊富に獲れるのはそのためだ。

   能登半島をめぐる海の特徴として3つある。能登半島は海に突き出ているため、対馬海流の影響を受ける。塩分濃度が高く、時速4㌔の水流、そして暖海性の海洋生物が海流に乗って北上してくる。富山湾は岸から近い距離で一気に深くなり、1200㍍の水深となる。この「海底の谷」が海洋生物のかっこうの住処(すみか)となる。海そうが生い茂る場所を「藻場」と呼ぶが、能登半島は日本最大級の藻場の分布域でもある。この藻場によって、水質の浄化や生物多様性の維持、海岸線が保全される。

   こうした能登の海で、のとじま水族館は定置網漁などの漁業者と協力して、展示する海の生きものを得ている。2016年から5年間で漁業者から入手した生きものは598種類5万3117匹に上る。このうち、タケウツボやアオイガイ、ユウレイイカ、マンボウ、カスザメ、イトマキエイなど1匹しから見られない希少種も121種類あった。

   ジンベエザメの場合は、定置網で捕獲されると漁業者から連絡があり、スタッフが現場に向かう。定置網でのジンベエザメの大きさなど目測する。水族館の水槽は円形で高さ6.5㍍、直径20㍍ある。エサを与えると、ジンベエザメは立ち泳ぎして食べるので、体長が6㍍を超えるジンベエザメは水槽の底に尾ひれが触れてしまう。そこで、体長4.5㍍から5.5㍍のものでないと、水族館では引き取ることができない。

   スタッフが「じんべい丸」と呼ぶ、ジンベエザメ専用の細長い水槽を沖合に持って行き、定置網からこの水槽に入れる。じんべえ丸を陸揚げして水族館に運び、ジンベエザメ展示館の屋根に付けてある扉を開け、クレーン車で吊り上げて、そのまま降ろすと展示用の水槽に入る。

   水槽に入ったジンベエザメに対し、スタッフは「健康管理」と「馴致(じゅんち)」という作業を行う。健康管理は外傷の有無や遊泳行動の観察、そして血液性状の検査を御行う。馴致は水槽という環境になれさせるという意味で、水槽という環境に順応させるように最初はスタッフも水槽に潜り、いっしょに行動する。摂餌はエサやりの方法や場所をなれさせる。健康管理のため、定期的に採血も行う。

   ジンベエザメは体の大きさの割には威圧感がない。小魚やプランクトンがエサで動きがゆったりしているので、人気がある。ジンベエザメがいるので入館者数も増える。体長が6㍍になると、GPS発信機をつけて再び海に放す。回遊経路などがこれによって調査される。

   能登の海と水族館、そしてジンベエザメが共生する関係性が実によく見えた講演だった。

⇒20日(土)午前・金沢の天気   あめ

★能登の海 ジンベイザメは悠然と

★能登の海 ジンベイザメは悠然と

   きょうは18日は「海の日」。海の日が制定された1996年は「7月20日」だったが、2003年からは祝日法の改正で「ハッピーマンデー制度」が導入され、「7月の第3月曜日」となった。海の日でぎわっているのは、能登半島の真ん中、七尾市能登島にある「のとじま水族館」ではないだろうか。 

   ことしで開館40年となるのとじま水族館には最近まで毎年のように訪れていた。金沢大学の教員時代に、単位科目として「能登の世界農業遺産を学ぶスタディ・ツアー」(2泊3日)を企画して、学生や留学生を連れて、能登の里山里海の生物多様性や文化多様性を学ぶフィールド実習に出かけていた。その目玉の一つがのとじま水族館だった。

   能登の海にはジンベエザメやクジラ、エイなどが泳いでいて、海の生物多様性に優れているといわれる。のとじま水族館は能登近海に回遊してくる南方海域に生息する温水系の大型魚類などを中心に500種4万点を展示している。その水族館のスターは何と言っても、ジンベエザメだ。水族館のジンベイザメは能登の地元の定置網で捕獲されたもの。

   体の大きさの割には威圧感がない。ジンベエザメは和名だが、模様が着物の甚兵衛に似ているからとの説も。小魚やプランクトンがエサで動きがゆったりしているので、人気があるのだろう。体長が6㍍になると、水槽としては小さくなることから、GPS発信機をつけて再び海に放される。ジンベイザメの回遊経路などがこれによって調査される。東南アジアからの留学生たちは珍しそうに、食い入るように見学していた。

   それにしても、地球規模から見れば、「小さな生け簀(す)」のような日本海になぜジンベイザメやクジラ、イルカ、そしてブリやサバ、フグ、イカ、カニなど多様な生き物が生息するのか。一つの説だが、春になると大陸のタクラマカン砂漠やゴビ砂漠で舞い上がった大量の黄砂が偏西風に乗って日本海に注ぐことになる。3月、4月に「ブルーミング」と呼ばれる、海一面が白くなるほど植物プランクトンが大発生する。黄砂の成分といえるケイ酸が海水表面で溶出し、植物プランクトンの発生が促される。それを動物プランクトンが食べ、さらに魚が食べるという食物連鎖があるとの研究がある。

   話は冒頭に戻るが、海の日の趣旨は「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う」ことにある。能登半島から海を眺めると話は尽きない。

⇒18日(月)午後・金沢の天気     くもり