★かに、そばの旨味に「越前」文化を感じる沈黙のひと時
同じ日本海で獲れたズワイガニでも味が違う。地元石川県の業者には申し訳ない言い方だが、料理として出されたズワイガニの味は「越前がに」の方が金沢で食べる「加能がに」よりは旨みというものを感じる。これは、先日(1月26日)に福井県に越前がにを食べに訪れた4人の仲間たちとほぼ同じ感想だった。では、福井と石川で何が違うのか。

ズワイガニはご当地の呼び方があり、福井の「越前がに」や石川の「加能がに」のほかに、島根など山陰地方の「松葉がに」は有名だ。そして、市場に出荷されるときには、越前がには黄色いタグ、そして加能がには青色のタグ、松葉がには水揚げされた漁港や地域によって色が異なり、鳥取全域では赤色のタグが使われ、島根では漁港によってピンク色や緑色、白色などがある。同じズワイガニでも地域や港によって名称やタグに違いがあるということは、ズワイガニに対する地域の人々の思い入れが強いのだろう。

越前がにを堪能したのは坂井市の宿泊施設。越前加賀海岸国定公園が広がり、間近に海を眺めることができる宿だ。いよいよ夕食、黄色いタグのカニとの格闘が始まる。茹(ゆ)でカニに包丁は入っていない=写真・上=。カニの脚を関節近くで自分の手で折り、両端をハサミで切り、身をズボッと一気に口で吸い込む。このダイナミックな食べ方こそがカニ食いの醍醐味なのだと感じる。それを料理人は知っている、なので、あえて包丁を入れないのだろう。金沢の料理屋だと包丁が入る。この違いは何か。
福井では「カニ見十年、カニ炊き一生」という言葉がある。カニ料理のポイントは塩加減や茹で加減と言われる。単に茹でてカニが赤くなればよいのではない。カニの目利きが上手にできるには十年かかり、カニを満足に茹で上げるには一生かかるという意味だそうだ。この言葉から、福井の人々のカニに対する執着心は石川より強いと感じる次第。

翌日、「越前そば」を食べに越前市を訪れた。同市では215年前の古文書(池端家文書・文化八年献立帳)で「そば切り」という文字が見つかっている。そば切りは、包丁で細かく切ったそばの麺のこと。この発見をきっかけに、越前そばを地域振興に活かそうと同市では「越前そば200年祭」と銘打って、イベントを開催している。冬季の目玉のイベントが、「蟹そば大祭」(1月16-31日)=写真・中=。商店街のめん処を訪れてもどこも満席。そのうちの1軒で、30分余り待ちようやく席に着けた。
頼んだメニューは『蕎麦湯仕立て 蟹つけそばとご飯』。たっぷりのそば湯に太めに打ったそばを入れ、カニの身を添える。それをカニ味のそばつゆで楽しむ=写真・下=。カニとそばの旨味が凝縮されたまさに越前の冬の醍醐味。ちなみに価格は2100円(税込み)。この季節で、ここでしか味わえないメニュー。満足度の高い、沈黙のひと時だった。
⇒1日(日)午前・金沢の天気 くもり

