★震災の能登にインバウンド観光客 ダ-クツーリズムの流れか
「ダ-クツーリズム(Dark tourism)」という言葉を初めて耳にしたのは、去年元日の能登半島地震で最大震度7の揺れが観測された志賀町香能(かのう)地区を3ヵ月後の3月4日に見て回ったときだった。帰りに現地と近い富来地区のコンビニに立ち寄った。駐車場で外国人男性2人が警官から職務質問を受けていた。2人は「名古屋」ナンバーの車で来たようだ。店舗に入るためその横を通ると、警官がどのような目的で能登に来たのかと尋ねていた。すると、外国人は「ダークツーリズム」と答えていた。その後、外国人たちはどこをめぐったのかは知る由もないが、今にして思えば、おそらく香能に向かったのだろう。
ダークツーリズムは日本では使われていない言葉だが、欧米では被災跡地や戦場跡地などを訪ね、死者を悼むとともに、悲しみを共有する観光とされている。能登半島地震は世界のメディアでも大きく報道されたことから、インバウンド観光客がダークツーリズムに能登を訪れても不思議ではない。ただ、日本では「被災地への物見遊山はやめとけ」としかられそうだが。

確かに能登半島ではこのところインバウンド観光客をよく目にする。これはことし9月18日午後3時ごろに撮影したもの。輪島市の白米千枚田に立ち寄ると、稲刈りは半分ほど終わっていたが、多くの観光客が訪れていた。そこでもインバウンド観光客が目立っていた。中には、展望ができる高台から、わざわざ下に降りてあぜ道を歩いて見学するグループの姿があった=写真=。
地震により1004枚ある田んぼの8割でひび割れが生じたとされ、ことしは250枚しか耕されなかった。そのひび割れの現場を見たり、強風などで稲が倒れてまだ刈り取りが行われていない田んぼの様子を観察するためだろうか、倒伏した稲を撮影する姿もあった。欧米からと思われるインバウンド観光客の場合、危険とされる場所であっても、あえて現場に行く。ダークツーリズムは徹底した現場主義なのだろう。
能登の観光名所となっている奇岩など風光明美な景観と、震災後の光景を比較して眺めると、大地の造形物は何千年、何万年と歴史を刻みながら少しづつ姿を変えきたのだと実感することがある。その意味で、いまの能登は地球のダイナミズムを感じさせる「ジオパーク(Geopark)」でもある。ダークツーリズムとしてインバウンド観光客を積極的に受け入れるチャンスなのかもしれない。
⇒10日(月)午前・金沢の天気 あめ

