☆震災の語り部による「能登のいま」 自然の美と心の温かさ守る

前回ブログの続き。「復興応援ツアー」(今月15、16日)の2日目は能登金剛を訪れた。ここで遊覧船の事業を営む木谷茂之さん・由己さん夫妻から話を聴いた。

能登金剛は志賀町富来海岸の一帯を指し、その中心となるのが能登半島国定公園を代表する景勝地、巌門(がんもん)である。松本清張の推理小説『ゼロの焦点』の舞台としても知られる。清張の歌碑がある。『雲たれて ひとり たけれる 荒波を かなしと思へり 能登の初旅』。清張が能登で初めて見た荒海の情景。人は出世欲、金銭欲、さまざまな欲望をうねらせて突き進むが、最後には自らの矛盾や人間関係、社会制度に突き当たって一瞬にして砕け散る。ズドンと音をたてて砕ける荒海から、サスペンスのイメージを膨らませたのかもしれない。

木谷さん一家は初詣に向かう車の中で能登半島地震に見舞われた。大津波警報と避難勧告が出され、その後、避難所に身を寄せることになる。巌門の現地に行くと、所有する3隻の遊覧船のうち2隻は引き波に50㍍ほど流され、岸壁の堤防に引っ掛かった状態になっていた。自宅も土産店も倒壊は免れたものの、商品棚は倒れ、水道復旧には2ヵ月かかった。そして巌門に通じる道はゴ-ルデンウイークには間に合い店を再開。被災した2隻の修繕を終え通常運行を再開したのは7月だった。「人が戻り、笑顔が戻る。かつてのにぎわいを取り戻すには時間がかかります。そのためにも自然の美しさと人の温かさ守りたいですね」と語った。

能登は水産加工品の拠点でもある。加工会社を経営する沖崎太規さんを訪ねた。製造販売しているのは「丸干しいか」、「干しほたるいか」、「ほたるいか沖作り」、「いしりするめ」とイカにこだわった商品。スルメイカなどは日本海で獲れる。「干しほたるいか」は、親指ほどの大きさの生のホタルイカを、ひとつずつ並べ干していく。触腕と呼ばれる長いイカの足も一つ一つ手作業で伸ばす。また「丸干しいか」は「もみいか」とも呼ばれ、手でもみほぐし干すという伝統の製法を守っている。能登で醸造された「いしる」と称される魚醤が隠し味になっている。
沖崎さんは昼寝から覚めたところで、震度7の揺れが来た。自宅の倒壊は免れた。工場に駆けつけた。経験があった。前の能登半島地震(2007年3月25日)でダメージを受けていたので、今回は修復できるかどうか見極めたかった。「そこらじゅう傷んでいて、立て直すのは無理とそのとき思った」。ただ、唯一の救いが停電にならなかったため冷凍庫にあった商品がすべて無事だったことだ。その後、銀行の融資を取り付けて動き出したのが9月だった。修理をほぼ終えて製造ラインが稼働したのがことし3月となった。
西海水産公式サイトでは、消費者へのあいさつをこう結んでいる。「これからも、能登を愛し、いかを愛す。(中略)皆様に愛される商品作りを心掛けてまいります」
(※写真は上から、遊覧船事業を展開する木谷茂之・由己さん夫妻、海から眺めた巌門、水産加工品会社を経営する沖崎太規さん=人物写真は志賀町観光協会公式サイトから)
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