2025年 6月 17日の投稿一覧

★「酒蔵の科学者」農口杜氏に学ぶ 金沢大学生がコラボ酒 

★「酒蔵の科学者」農口杜氏に学ぶ 金沢大学生がコラボ酒 

このブログで何度か取り上げた日本酒の杜氏の農口尚彦氏は92歳にして現役だ。酒造りの手法は「神技」とも評される。日本酒の原料である米のうまみを極限まで引き出す技を使う。それは、米を洗う時間を秒単位で細かく調整することから始まる。米に含まれる水分の違いが、酒造りを左右するからだ。米の品種や産地、状態を調べ、さらには、洗米を行うその日の気温、水温などを総合的に判断し、洗う時間を決める。勘や経験で判断しない。これまで、綿密につけてきたデータをもとにした手法だ。

なので、農口杜氏は「酒蔵の科学者」とも評される。農口杜氏の酒蔵が「農口尚彦研究所」との名称なのも、このためだ。その研究所に、金沢大学の学生プロジェクトのメンバー14人が通い、酒造りの技術について研究を始めたのは去年1月だった。農口杜氏の指導で学生たちがチャレンジしたのは、有機米と伝統的な手法である「山廃仕込み」の組み合わせ。学生たちは農口杜氏の酒造りの技を数値化し、データ解析も行った。

去年12月には日本酒などの「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録され、酒造りに弾みがついたことは言うまでもない。その酒が初しぼりを終えて瓶詰され、今月10日にお披露目された(メディア各社の報道)。名称は「志(こころざし)」とし、金沢大学の和田隆志学長が揮毫した=写真・上=。あくまでも学生たちの学びを通した醸造なので、一般の酒店での販売はない。金沢大学の生協のみで販売されている。

このことをニュースで知って、さっそく生協に買いに行った。すると、大学関係者や市民からすでに40件の予約が入っていて、後日になるとのこと。手に入ったのは1週間経ったきょうだった。農口杜氏と学生たちのコラボレーションで造られた酒は720㍉㍑で税込み5500円。

 農口杜氏は学生たちとの相性がいい。自身が金沢大学で教員をしていたときに担当していた地域学の講義に、非常勤講師として酒造りをテーマに講義をお願いした。毎回自ら醸造した酒を持参して、講義の終わりには学生にテイスティングしてもらい、学生たちの感想に熱心に耳を傾けていた=写真・下=。農口杜氏はまったくの下戸(げこ)で飲めない。その分、飲む人の話をよく聴く。酒通だけでなく、学生や女性、そして海外から訪れた人からの客観的な評価に率直に耳を傾ける。それをノートにまとめ、「研究室」に積んでいる。チャレンジする学生たちの志とぴったりと合うのだ。さて、この「志」をいつ賞味しようか。

⇒17日(火)夜・金沢の天気   はれ