2020年 5月 の投稿一覧

★文春が突いた「虎穴」取材の盲点

★文春が突いた「虎穴」取材の盲点

   「虎穴(こけつ)に入らずんば、虎子(こじ)を得ず」という諺(ことわざ)がテレビ・新聞メディアの記者たちの間で今でも使われている。権力の内部を知るには、権力の内部の人間と意思疎通できる関係性をつくらならなければならない。そこには取材する側とされる側のプロフェッショナルな仕事の論理が成り立っている。その気構えがなければ記者はつとまらない、という意味だ。

   「文春オンラン」(Web版・20日付)が報じた記事にメディア関係者は戸惑ったことだろう。「黒川弘務東京高検検事長 ステイホーム週間中に記者宅で“3密”『接待賭けマージャン』」。東京高検の黒川氏が緊急事態宣言によって不要不急の外出自粛が要請されているさなかの今月1日と13日夜、産経新聞社会部記者の自宅マンションを訪れ、産経のもう一人の記者と朝日新聞社員で元検察担記者の4人で賭けマージャンに興じた。黒川氏の帰りのハイヤーは産経記者が手配した。

   この記事で気になる一文がある。「産経関係者の証言によれば、黒川氏は昔から、複数のメディアの記者と賭けマージャンに興じており、最近も続けていたという。その際には各社がハイヤーを用意するのが通例だった」。「産経関係者の証言」と記述しているので、この記事のソースは産経新聞社の関係者と言っているに等しい。うがった見方かもしれないが、記者は取材源を秘匿するが、あえて「産経関係者」と出したところに何か隠された意味がありそうだ。   

   けさ新聞をコンビニで購入し、賭けマージャンの記事を各紙がどのように掲載しているかチェックした。読売新聞と中日新聞は関連記事を一面、中面、社会面の3ヵ所で記載している。これに比べ、当事者は扱いが小さい。朝日新聞は第2社会面、産経新聞は3面で報じている。

   文春の記事の論点は、ジャン卓を囲む3密と賭けマージャンの賭博罪の2点である。ただ、これは記事の本流ではない。政府がことし1月に黒川氏の定年を延長し、さらに4月に今国会で検察庁法改正案を提出。これが、黒川氏の定年延長を後付けで正当化するものではないかと議論になった。今月18日に政府は成立を見送り、議論は収束した。が、文春は3密と賭けマージャンで追撃をかけた。

   テレビ・新聞メディアは、当事者の産経と朝日以外も黒川氏の3密と賭けマージャンを知っていたはずだ。では、なぜ報じなかったのか。それは、冒頭の「虎穴」の論理だ。産経と朝日の記者は、法案に対する黒川氏の本音を知りたいとの思いを持って卓を囲んだ。3密の状態で賭けマージャンをすることで、黒川氏からさりげなく言葉を引き出すことにある。おそらく、読売や毎日の記者も賭けマージャンをともに行っていただろうと憶測する。こうした取材の一環として行った賭けマージャンについて、メディア各社はお互いに知る手の内なので記事にはあえてしない。文春はこの虎穴の取材の論理を上手に横から突いた。

   ここからはあくまでも憶測だ。黒川氏との賭けマージャン仲間である記者たちはお互いに卓を囲むスケジュールを把握していたはずだ。その記者の1人がうっかりと、あるいは意識的に1日と13日の予定を文春の記者にばらした。文春もばらした記者の社名を伏せるため、あえて「産経関係者の証言」と記述したのではないか。

   記者すべてが虎穴を肝に銘じているわけではない。躊躇する記者もいる。「権力を監視する立場の記者があえて権力の懐(ふところ)に飛び込んでよいものか」と問うている。

   黒川氏はきょう法務省の調査に対し、事実関係を認め、辞職の意向を示した。法務・検察関係者が明らかにした。森法務大臣は報道陣に「21日中に調査を終わらせ、夕方までに公表し、厳正な処分も発表したい」と述べた(21日付・共同通信Web版)。

⇒21日(木)午後・金沢の天気    くもり

☆甲子園はレジェンドを生む

☆甲子園はレジェンドを生む

   新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中、開催か中止で注目されていた第102回全国高校野球選手権大会(夏の甲子園大会)について、高校野球連盟はきょう午後に運営会議と理事会を開き中止を決めた(20日付・共同通信Web版)。春の選抜大会とあわせ、春夏連続での中止だ。

   報道によると、高野連は無観客での開催なども視野に検討を進めてきたが、休校が明けてから部活動を再開する時期が見通せない地域もあり、中止を決めた(同)。夏の甲子園出場は私学や国公立問わず、高校球児にとっての夢だろう。今回の中止決定は止むえない判断と察するが、高校球児にとってかなりの希望の損失ではないだろうか。   

   夏の甲子園は単なるアマチュアスポーツ大会とはずいぶんと趣が異なる。地域の巻き込みが半端ではない。7月中旬から代表校を決める地方大会、そして8月上旬から甲子園大会が開催されるが、地域全体のボルテージが高くなる。夏の日中に街を歩くと、カキーンというテレビの甲子園中継の音声があちこちから聞こえてくる。「風物音」でもある。

   金沢に住むと、甲子園の話が共有できる。1979年の第61回大会の3回戦で石川代表の星稜高校が延長18回の死闘を箕島(和歌山)と演じ、敗れた。箕島はこの年の春の選抜大会で優勝していて、まさに春夏連覇がかかっていた。その箕島を最も苦しめたのが星稜だった。もう一つ、星稜が負けて名を上げた試合が1992年の第74回大会の2回戦の明徳義塾(高知)戦。星稜の4番・松井秀喜選手に対し、5打席連続での敬遠が物議をかもした。ABC朝日放送の実況アナが「勝負はしません」と声を張り上げた。松井選手は春夏含め4回甲子園出場で、高校時代の公式試合でホームラン60本を放っていた「怪物」だった。連続5敬遠が松井を一躍全国区に押し上げた。

   連続5敬遠のとき、自分は金沢の民放局で報道デスクを担当していた。何度か高校野球をテーマで特集を組み、松井選手の父親に取材した。息子にこう言い聞かせて育てたそうだ。「努力できることが才能だ」と。才能があればこそ努力ができるのだ、と。プロ入りしてから、ホームランの数より、連続出場記録にこだわった。この父親の言い聞かせが甲子園、そして球界のレジェンドを生んだのだろうか。

(※写真は、2005年12月に東京・JR浜松町駅で撮影した企業広告のスナップ写真)

⇒20日(水)夜・金沢の天気    あめ

★コロナワクチン 世界の希望の光になるか

★コロナワクチン 世界の希望の光になるか

   けさのニュースをチェックすると、18日のニューヨーク株式のダウ終値は911㌦高で、一時上げ幅が1000㌦を超えた。その理由が新型コロナウイルスのワクチン開発への期待感が高まりだった(19日付・共同通信Web版)。そこで、アメリカメディアを検索してみる。「Moderna Coronavirus Vaccine Trial Shows Promising Early Results」(モデルナ社がコロナウイルスのワクチンの初期の臨床試験で有望な結果)の見出しの記事があった(18日付・ニューヨーク・タイムズWeb版)。

   モデルナ社はアメリカのバイオテクノロジーの製薬会社。記事を読む。「The company said a test in 8 healthy volunteers found its experimental vaccine was safe and provoked a strong immune response. It is on an accelerated timetable to begin larger human trials soon.」(同社によると、健康なボランティア8人を対象にテストを行なったところ、この実験用ワクチンは安全で、強い免疫反応を引き起こすことがわかったという。近いうちに大規模な臨床試験を開始する予定である)。この3月からNIH(国立衛生研究所)と共同で、ワクチン開発を進めてきた、とある。

   第1段階の臨床試験では、18歳から55歳の45人が対象となっているが、今回発表した結果は8人分にとどまっている。臨床試験全体の結果の公開がまだ示されていない。600人を対象とした第2段階の試験をまもなく開始、7月には健康な数千人を対象とした第3段階の試験を前倒しのスケジュールで進める。記事では「急ぐと安全性が損なわれ、結果的にワクチンが効かなくなったり、患者に害を与えたりするのではないかという懸念が科学者の間に広がっている」との懸念も示している。ただ、全体的な記事のトーンは、「offering a glint of hope to a world desperate for ways to stop the pandemic.」(パンデミックを食い止めようと必死になっている世界に希望の光を与えている)と前向きだ。

   そしてきょうの東京株式は日経平均が335円高で始まり、上げ幅は一時500円を超えている。ニューヨーク株式の「ワクチン高」の流れを引き継いでいるのだろう。確かに暗いニュースが蔓延する世界で希望の光になってほしい。このワクチンの普及で、来年は東京オリンピックも盛り上がってほしいと願う。

⇒19日(火)午前・金沢の天気    くもり

☆「金沢嫌い」 ルーツをたどる

☆「金沢嫌い」 ルーツをたどる

   今月13日付のブログで「金沢嫌い」というタイトルで、新型コロナウイルスの感染者について「人口10万人当たりだと金沢市は27.9人と東京都35.9人に次いで多い。これが、感染者が出ていない能登北部などからは警戒されている」と書いた。そして、能登の知人からも「いま金沢から来ない方がいい。周囲の人も金沢に行かないようにしている」と電話で聞かされたことに自身もショックを受け、「金沢嫌厭」や「金沢嫌い」という言葉が浮かびタイトルにした。

   実は昔から「金沢嫌い」という言葉を聞いていた。まず、金沢人の言葉が、能登や金沢、富山や福井に住む人たちからは「上から目線」のように感じる。これは自身の体験にもなるが、高校時代に金沢で下宿生活を始めたとき、下宿のおばさんは「そうながや」「しまっし」と語尾にアクセントをつけ、念を押すように話した。慣れない間は、いつもしかられているような印象だったことを覚えている。生まれ育った能登では、たとえば「そやのきゃー」と語尾を消すように話すので優しい言葉に聞こえる。福井でも「そやのおー」とあえて語尾を丸くする。

    金沢言葉が周囲と違うと感じるのは歴史に由来すると考えている。日本史でも教わるように、戦国時代の北陸は「百姓の持ちたる国」として浄土真宗の本願寺門徒が地域を治めていた。その後、戦国大名・前田利家を中心とした武家集団が越前、能登に赴き、金沢に加賀藩の拠点を構えることになる。武家集団は上意下達、命令をしっかり相手に伝えるために語尾にアクセントをつける、あるいは言葉にアンカーを打つような言い回しにする。金沢の武家社会で育まれた言葉だった。

    宗教観の違いもあるかもしれない。「百姓の持ちたる国」は浄土真宗、武家社会の金沢では曹洞宗、つまり禅宗の家が多かった。浄土真宗と曹洞宗の宗教観の違いは葬儀に参列すれば理解できる。浄土真宗だと葬儀で「若いときからとても苦労されたが、その分、極楽浄土に行かれて・・」といった弔辞を今でも聞く。曹洞宗の僧侶は葬儀で「この世も修行、あの世も修行」と言って、エイッと大声で死者に喝を入れる。曹洞宗が武家社会に受け入れられた理由はこの「修行」がキーワードなのだろうと解釈している。

    記者時代に金沢の博識者から教わったことだが、金沢の武家界隈ではかつて、ニブツモンという言葉があった。父親が楽することばかり考えている息子たちを「このニブツモンが」と大声で叱ったそうだ。念仏を唱えれば極楽に行けると信じる浄土真宗の信徒たちをネンブツモノ(念仏者)と称し、それが金沢の武家社会では訛ってニブツモンになったようだ。武士たちは農山漁村の浄土真宗の信徒たちをこのような目線で見ていたことがうかがえる事例ではある。この言葉はもう死語だろう。長く金沢に住んでいるが直に聞いたことはない。

   話は随分と横にそれたが、金沢の言葉は歴史と風土の中で育まれたが、冒頭で述べたように、いまでも「上から目線」と勘違いされやすい。関西の「京都嫌い」は有名だが、北陸の「金沢嫌い」もなかなかのものだ。金沢の観光パンフでよく使われる言葉に「加賀百万石」がある。かつての栄華をいつまで誇っているのかと揶揄する向きもある。しかし、金沢の人たちはあまり気にはしてないようだ。生まれ育って得た言葉に他人を見下す発想などもともとないのだ。

(※写真は加賀藩初代の前田利家が建立した曹洞宗・宝円寺の仁王像)

⇒18日(月)朝・金沢の天気     くもり

★IOCと覚書、WHOの次なる押しの一手

★IOCと覚書、WHOの次なる押しの一手

   新型コロナウイルスのパンデミックの中で外出や運動の機会が減っていることから、WHOのテドロス事務局長とIOCのバッハ会長が16日、ジュネーブにあるWHO本部で会談し、スポーツを通して健康を共同で促進していこうという覚書(MOU)を交わした(17日付・NHKニュースWeb版)。

   どのような内容なのか知りたいと思い、双方の公式ホームページをチェックした。WHOは午前9時現在でMOUに関する記載は見つからなかった。ICOでは写真付きで詳しく掲載されていた=写真・上=。そのMOUを交わす目的については明快だった。SDGs(国連の持続可能な開発目標)に基づいている。

「the IOC and WHO are demonstrating their shared commitment both to promoting healthy society through sport, in alignment with Sustainable Development Goal 3 (“Good health and well-being”), and to contributing to the prevention of non-communicable diseases. (IOCとWHOは、SDGs目標3「健康と幸福」に沿って、スポーツを通じて健康的な社会を促進するという共通のコミットメントを示し、さらに非感染性疾患の予防に貢献する)

   気になる一文もあった。「The IOC and sports organisations recently benefited from WHO guidelines on mass gatherings, aiming specifically to provide additional support to sports event organisers and host countries in developing a risk-assessment process, identifying mitigation activities and making an informed evidence-based decision on hosting any sporting events. The guidelines can be found here.」(意訳:IOCとスポーツ組織は、リスク評価プロセスの開発や緩和の特定、およびスポーツ大会の開催の決定に当たり、スポーツイベントの主催者と開催国に追加のサポートを提供する。実施にあたってはWHOからガイドラインを頂戴する)

   実際、IOCとWHOの覚書の後の記者会見で、記者からワクチンが完成する見通しがたたない東京オリンピックの開催は可能かと問われ、バッハ会長は「2021年の7月に世界がどのようになっているかわからない。大会まで1年2ヵ月あり、WHOと作業チームの助言に従いながら正しい時期に必要な決定を行う」と述べた(同)。オリンピックの最終決定にあたってはWHOとの連携を密にすると。

   IOC公式ホームページの写真でもトレーニング用の固定自転車でツーショット=写真・下=が掲載されている。解釈によっては、IOCとWHOは「両輪」、あるいは「二人三脚」と強調しているようにも読める。覚書はWHOで交わされたので、おそらくこの写真のアングルの提案者はテドロス事務局長だろう。  

   もう一つ、気になるニュースがある。アメリカのトランプ大統領は16日、ツイッターで、WHOの新型コロナウイルス感染症問題などへの対応が中国に偏向しているとして一時停止を決めた資金拠出に関し、部分的な再開を選択肢の一つとして検討していることを明らかにした。これに先立ち、FOXニュース電子版は16日、トランプ政権が、新たな拠出額を中国と同程度となる9割減とすることで準備を進めていると報道した(16日付・共同通信Web版)。アメリカのWHOへの2019年の拠出額は4億㌦だった。

   結論を急ぐ。テドロス氏はアメリカの9割減額分をどう補填するか苦心していることだろう。そこにIOCとのMOUはグッドタイミングだった。アメリカの減額分をオリンピック開催国の日本に肩代わりさせればいい、と今ごろ思案しているかもしれない。テドロス氏の「脅し、すかし、商売上手」はこのブログで何度か述べてきた。「東京オリンピックの開催決定権を握っているのは私なんですよ、安倍さん分かってますね」と押しの一手で迫って来るに違いない。邪推に過ぎない。それにしても、ワクチンの開発が待たれる。

⇒17日(日)午前・金沢の天気   くもり時々あめ

☆再燃「ローカル局の炭焼き小屋論」~下

☆再燃「ローカル局の炭焼き小屋論」~下

   前回述べたBSデジタル放送問題は、キー局側が地上波番組をそのまま同時再送信するような放送を避けて、独自色のある番組を放送することで、系列局側の「炭焼き小屋論」は杞憂に終わった。ところが、コロナ禍と放送とネットの同時配信で、「炭焼き小屋論」が再燃する様相だ。

    県域ローカル局は競争と共創の2チャンネル発想  

    ネット動画に接続できる機能を備えたテレビ受像機は今では普通だ。東京キー局が番組をそのまま全国にネット配信すると、同じ系列局のローカル局にチャンネルを合わさなくても、ダイレクトにキー局の番組を視聴するようになる。また、県によっては民放局が2局、あるいは3局しかないところがあり、他のキー局の番組がネットで配信されると、県域のローカル局を視聴する比率が落ち込むことになりかねない。キー局による、ローカル視聴率のストロー現象が起こりかねない。

   二つめは設備のコストだ。ローカル局が独自に動画配信となると、ローカル局でも数十万件のアクセスを想定した動画サーバーや回線を確保しなけらばならず、ネット配信自体にコストがかかる。キー局や準キー局(大阪、名古屋)ならばコスト負担に耐えられるかもしれないが、ローカル局単体でネット配信の余力はあるだろうか。

   そして著作権の処理の問題もある。日本の著作権処理は細かすぎる。テレビ番組を制作し放送する権利処理と、その番組をネットで配信する権利処理は別建てとなる。ネット配信だとドラマの場合は出演者、原作者、脚本家、テーマ曲の作詞家、作曲家、テーマ曲を歌った歌手、CDを製作した会社、番組内で使用した全ての楽曲の権利者など、全ての権利者の許諾を取らなければならない。番組は「著作権の塊(かたまり)」でもある。スポーツ番組も放送する権利と配信権があるなどややこしい。テレビで流していた番組をネットで同時配信するとなると、ネット分の著作権料が上乗せされる。放送のビジネスモデルは主に視聴率だが、ネット配信のビジネスモデルはアクセス数による広告料でしかなく、収益化は可能だろうか。

   逆転の発想でローカル局(系列局)のチャンスが到来するかもしれない。「炭焼き小屋」を暗いイメージで使ったが、能登半島の尖端に全国から注目されている炭焼き小屋がある。栽培しているクヌギで高品質の茶道用の炭を焼き、全国から注文が殺到している。同様に、地域の魅力があふれる面白い番組は全国から視聴される。北海道テレビのバラエティ番組『水曜どうでしょう』などはローカル発全国の先鞭をつけた番組だった。あるいは、首都圏や関西圏など他エリアに住む出身者に「ふるさと」をアピールできるのではないだろうか。

   コストがかかる送信鉄塔施設などは鉄塔を共用するテレビ局数社がこの際、共同出資で鉄塔を維持保全する会社をつくるとう選択肢もあるだろう。また、自社制作比率が低いローカル局は単独でネット配信をしなくても、同じ県域のローカル局数社が共同で運営する動画配信サービスを始めてもよい。事例として、名古屋の民放局4社が立ち上げた動画配信サービス「Locipo(ロキポ)」=写真=がある。4局がニュースや情報番組などを配信している。このサイトにアクセスすれば、名古屋のリアルな情報を視聴できる。金沢でも民放4局が共同出資でこのような動画配信サービスを日本語と英語で構築できないだろうか。能登、金沢、加賀の県内各地のケーブルテレビ局も巻き込む。「KANAZAWA」チャンネルを売りに観光ツーリズムを誘う。

   ローカル局には「ネット上げ」という言葉がある。キー局が全国ネットワークのニュースとして取り上げてくれるニュースや特集、あるいは番組のことを指す。ロ-カル局が共同で動画配信サービスを構築して「ネット受け」を狙う。ローカル局同士は電波では互いに視聴率の競争をするものの、ネット配信では共創を目指す。ビヨンド・コロナ(コロナ禍を超えて)の「2チャンネル」の発想が必要なのではないだろうか。

⇒16日(土)午前・金沢の天気   くもり時々あめ

★再燃「ローカル局の炭焼き小屋論」~上

★再燃「ローカル局の炭焼き小屋論」~上

   10数年前になるが、大学の調査である会社を訪問すると才気あふれる美貌の女性たちがてきぱきと仕事をこなしていた。上司(男性)に 「いずれアヤメかカキツバタ、ですね」と話すと、上司は「この職場は、立てばシャクヤク、座ればボタン、歩く姿はユリの花です」と笑って返してきた。女性を花にたとえる言葉だが、最近あまり使われない。「女性は職場の花ではありません。それはハラスメントです」と突っ込まれそうなので自身も言葉を控えている。そのアヤメが自宅庭に咲き始めたので、玄関に活けてみた=写真=。確かにカキツバタと見分けがつけにくいが、こだわるのは日本人だけかもしれない。英語ではひっくるめてアリス(iris)と称している。

   放送とネットの時配信 ローカル局の生き残りは可能か

    冒頭の会社は金沢の民放局だった。いまでも笑顔が絶えない明るいオフィスだろうか、と気になった。というのも、新型コロナウイルスの災禍でいま民放全体に危機感が増しているからだ。ローカル局の関係者が憂いていた。「最近、キー局が冷たい」と。放送と通信の同時配信をNHKが本格的に4月からスタートさせた。民放キー局も同時配信を新しいビジネスモデルで構築する転換期を迎えている。ネットフリックスといった動画配信事業者との対抗策も念頭に置いている。

   民放キー局それぞれが本格的に同時配信を進めれば、ローカル局を介さずにオールジャパン、そして世界に番組を発信できる。ところが、ローカルの存在基盤となっている「県域」が外れる。県域は放送電波の割当てのことで、放送免許は基本的に県単位で1波、あるいは数県で1波が割り与えられている。1波とは、東京キー局(日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビ、テレビ東京)の系列ローカル局のことだ。キー局の番組がネットを通じてダイレクトに全国や世界で視聴できるようになれば、県域の意味が失せる。こうなると、キー局と系列局という関係性は電波では残るが、ネット上では関係性がなくなる。地方局の関係者が「最近、キー局が冷たい」と嘆いた背景がここにある。

   さらに、民放全体の危機感として、屋台骨のテレビ広告費の減少にある。電通がまとめた「2019年 日本の広告費」によると、通年で6兆9381億円で前年比101.9%と、8年連続のプラス成長だった。中でも、インターネット広告費が初めて2兆円超えてトップの座に躍り出て全体を底上げした。一方、テレビ広告費(1兆8612億円)は対前年比97.3%と減少し、首位の座をネットに明け渡した。テレビ広告費の減少要因は、台風などの自然災害や、消費税増税に伴う出稿控えやアメリカと中国の貿易摩擦の経済的影響などで3年連続の減少となった。ことしはさらにコロナ禍で「官公庁・団体」「金融・保険」などは増加するかもしれないが、「化粧品・トイレタリー」「情報・通信」などは激減するだろう。最近のテレビCMは自社広告や「ACジャパン」が目立つ。

   かつて「ローカル局の炭焼き小屋論」という言葉がテレビ業界であった。2000年12月にNHKと東京キー局などがBSデジタル放送を開始したが、このBSデジタル放送をめぐってローカル局から反対論が沸き上がった。放送衛星を通じて全国津々浦々に東京キー局の電波が流れると、系列のローカル局は田舎で黙々と煙(電波)を出す「炭焼き小屋」のように時代に取り残されてしまう、といった憂慮だった。当時の状況がいま再燃しているのだ。

⇒15日(金)夜・金沢の天気    はれ 

☆緊急事態は解除、季節は「夏マスク」へ

☆緊急事態は解除、季節は「夏マスク」へ

   きょう北陸は蒸し暑い。石川は24度の予想だが、お隣・富山は27度だ。外出していて、この夏日の暑さでうっとうしいのはマスクだ。アベノマスクはまだ自宅に届いていないが、布マスクをすると考えただけで息苦しさを感じる。夏用のすっきりしたマスクはあるのだろうか。ネットで検索すると、能登半島にある丸井織物(中能登町)が夏物の服に使われるポリエステル製のマスクを製造販売している=写真=。6月20日発送分まで待たなければならないほど人気のようだ。

   安倍総理はきょう午後、新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言について、39県の解除を正式決定する。重点的な対策が必要な13の「特定警戒都道府県」のうち、石川、茨城、岐阜、愛知、福岡の5県と特定警戒以外の34県が対象。総理が記者会見で理由を説明する。決定に先立ち、政府は午前、有識者の意見を聞くための諮問委員会を開催。諮問委は39県の解除を了承した(14日・共同通信Web版)。

   ただ、これまで議論が白熱したPCR検査の在り様について結論にいたっていない。今月11日の参院予算委員会でも感染症対策専門家会議の副座長が感染者総数の実態について、「(実際の人数は)10倍か15倍か20倍というのは誰も分からない」と述べていた。実際の感染者数は日々報告されている数を上回る可能性があるとの見方だった。

   隠れウイルス感染者が仮に20倍もいるとすれば、感染に気がつかずに亡くなる人も大勢いるはずだ。そこで新聞の死亡欄をチェックしてみる。とくに、金沢市は人口10万人当たりの感染者が27.9人(13日現在)と東京都の35.9人に次ぐ。仮にその20倍だったら、おそらく新聞の死亡欄はあふれるのではないか、と。ここ数日の金沢市を調べると5人から8人(12-14日、北陸中日新聞死亡欄)だ。不謹慎な言い方だが、死亡欄があふれ返っていれば新聞が大騒ぎするだろう。感染者が20倍もいるとは到底思えない。

   話を戻す。PCR検査を徹底してやるべきなのか。感染者を徹底的に洗い出して隔離すべきは隔離し、第二波、第三波が来るの防げとの論調はどうなのか。山梨大学の学長が「不十分な検査体制は日本の恥」とまで言って議論を呼んだ。解除を決定するのであれば、この際、議論にぜひケリをつけてほしいものだ。

   解除されるとは言え、コロナウイルスは身近にいるだろうことは想像がつく。用心は続けたい。季節は「夏マスク」に移行する。

⇒14日(木)午後・金沢の天気    はれ

★「金沢嫌い」

★「金沢嫌い」

   「使えない」と実感することがある。その一つがマイナンバーカードだ。新型コロナウイルス対策として、国が国民1人に10万円を配る特別定額給付金。パソコンとマイナンバーカードがあれば申請できる。机を探すとマイナンバーカードの暗証番号が書かれた記載票もあった。さっそくオンライン申請をしようとPC画面と向き合った。ところが、申請サイトの入口でつまずいた。「ICカードリーダー」が必要とある。カードの情報を読み取るためとある。カードリーダーなんて持っていない。この時点で「使えない」と判断した。スマホによる申請も可能とあったがまるでゲームのようだったのでこれも諦めた。申請書が郵送されてくるのを待つことにした。

   市役所から送付される申請書に銀行口座の番号など必要事項を記入し、通帳のコピーと運転免許証のコピーを添付して返送すればそれで済む。オンライン申請は本人確認の書類の添付は不要であり、入力も短時間で済むはずなのだが。デジタルの利点がまったく活かされていない。ICカードリーダーを差し込まなくても、受付画面にカード番号と暗証番号を入力するだけでもよいのではないだろうか。

   マイナンバーカードの「使えない」と意味合いはまったく違うが、車のナンバーにも気遣う。石川県には金沢ナンバーと石川ナンバーがある。金沢ナンバーはいわゆるご当地ナンバーなのだが、この新型コロナウイルスのご時世で、「気になるナンバー」になっている。石川県の感染者はきょう13日現在で284人、うち金沢市は129人。人口10万人当たりだと金沢市は27.9人と東京都35.9人に次いで多い。これが、感染者が出ていない能登北部などからは警戒されている。4月の大型連休のとき、能登の知人から「いま金沢から来ない方がいい。周囲の人も金沢に行かないようにしている」と電話で聞かされ、自身もショックを受けた。

   7月から能登各地ではキリコ(奉灯)祭りという祭礼が営まれるが、今年は中止が相次いでいる。キリコ祭りで代表的な「あばれ祭り」(7月3日・4日、能登町)も4月には中止を決定した。金沢からキリコ担ぎや見学に大勢やってくる。いわゆる「3密」になるからだ。「来てほしくない」という正直な気持ちが痛々しく伝わる。

   政府が4月7日に緊急事態宣言を発令し、16日に全国に拡大した。あす14日には「特定警戒」の石川を含め39県で解除する方針を固めたと各メディアが報じている。では、解除によって「非常」から「日常」にたんたんと戻るのか。あのトヨタが2021年3月期の業績予想を営業利益79%減と発表し、「リーマンショックよりインパクトがはるかに大きい」と述べた(12日付・時事通信Web版)。経済、社会、そして世界にどのような余派が広がるのか。それにしても、能登を始め加賀地方や富山県、福井県の人たちには「金沢嫌い」にはならないでと願うばかりだ。

⇒13日(水)夜・金沢の天気     はれ

☆メディア規制めぐる米中バトルの行方

☆メディア規制めぐる米中バトルの行方

    新型コロナウイルス感染とPCR検査をテーマに、テレビ局から取材を受けた医師がコメントと真逆の内容に編集されたとフェイスブックで訴え、スポーツ紙などが取り上げている。けさ番組(テレビ朝日)で再度この医師のコメントを放送していた。医師は、PCR検査が増えることについては一般の人たちにとくに、不安を感じている人たちにとっては良いことと言い、一方で、無作為な大規模検査は医療の逼迫(ひっぱく)をもたらすとの趣旨を述べていた。医師の立場からすれば、後者の状況はより現実味があるだろう。 ところが、番組では後のコメントがカットされた。

   問題はこの医師のコメントをディレクターが意図的に削除したのか、あるいはケツカッチン(OAの締め切り時間)に追われて意図的ではなかったものの成り行きでカットしたのか。番組の全体的な流れを把握しないままコメントを詰めていくと、成り行き削除はままある。これを受けて番組側はきょう実質的な「訂正放送」をした。こうした制作現場のミスが大ごとになる。

   話は変わるが、メディアをめぐる国際的な大ごとが起きている。アメリカと中国がメディアの記者の扱いをめぐって対立しているのだ。アメリカの国土安全保障省はきのう11日、香港とマカオを除く中国の記者に対して、アメリカに滞在できる期間を90日までに制限する措置を発表した。中国人の記者はこれまで取材ビザの発給を受けてアメリカに入国すれば、滞在期間に制限はなかった、今後は90日ごとに延長の申請が必要になる(12日付・NHKニュースWeb版)。

   これに先立って、中国政府は3月18日、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナルの3社のアメリカ人記者に対し、記者証を返還させて事実上の国外退去を命じている。これは、今年に入ってアメリカが国内で活動する中国メディアに記者の個人情報を報告するよう義務づけ、さらに記者を160人から100人に制限したことによる報復措置だった。

   記者の個人情報の報告の義務づけ、人数制限、そして滞在期限の制限など、アメリカ政府の一連の措置の背景にあるのは、中国の新聞・テレビは共産党の管轄下にある国営メディアであるということだ。ジャーナリズムを基本精神とした欧米や日本のメディアの有り様とはまったく異質だ。さらにアメリカが注視しているのは、2017年に施行された中国の「国家情報法」ではないだろうか。この法律では、11項目にわたる安全(政治、国土、軍事、経済、文化、社会、科学技術、情報、生態系、資源、核)を守るために、「いかなる組織および国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助および協力を行う」(第7条)としている。端的に言えば、記者も国家情報活動に協力しなければならない。

   この法律がある以上、アメリカとすれば中国人記者の取材活動は安全保障の問題とかかわると受け止めざるを得ない。報道機関には事実を報道するための情報収集を行う自由が認められている。この取材の自由を国家機密などに悪用されてはたまらないということなのだろう。中国人記者をマークしているのは、機密漏洩などに対処する国土安全保障省だ。アメリカのテレビドラマ番組『スパイ大作戦』(Mission:Impossible)でかつて見たような話ではある。

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