2020年 5月 6日の投稿一覧

☆「工芸の至宝」が金沢にやってくる

☆「工芸の至宝」が金沢にやってくる

   オープンを持ち望んでいる施設が金沢にある。同市出羽町に開館する国立工芸館。我が国で唯一の工芸を専門とする国立美術館となる。皇居の近く東京・千代田区北の丸公園にある東京国立近代美術館の分館である工芸館だった。地方創生の一環として東京に集中する国立の機関を地域に移す国の施策の一つとして金沢に移すことになった。移転を機に、分館から独立した国立美術館となる。石川県と金沢市が新たに受け入れの施設を用意した=写真=。

   国立近代美術館工芸館では所蔵する明治以降から近現代の陶磁や漆工、染織、金工、木工、竹工、ガラス、人形、工業デザイン、グラフィック・デザインなどの作品を展示してきた。そのうち作品1900点余りを金沢に移す。うち1400点は人間国宝(重要無形文化財保持者)や日本芸術院会員の作品で、さらに日本の工芸の歴史を語るうえで欠かせない作品が集まる。日本文化である工芸の至宝の集積がやってくる。まさに「工芸のナショナルセンター」(石川県公式ホームページ)だ。

    自身が工芸に興味を持つきっかけは35年余り前、新聞記者時代に輪島の支局に赴いたときだった。輪島塗を創る作家や職人、塗師屋(ぬしや)と呼ばれる漆器の製造販売を手掛ける人たちへの取材を通じて、ものづくりの仕組みや工芸品の見立てというものを習った。漆芸の人間国宝・松田権六氏(1896-1986)を取材したのもこのころだった。「目を肥やす」という言葉があるが、実物を見なければ理解できない作品の価値、歴史に磨かれた輝きがあるのだと教わった。

   最近と言っても2017年1月だが、金沢にある石川県立美術館で国立近代美術館工芸館が所蔵する名品展を鑑賞した。お目当ては松田権六作品「蒔絵槇柏文(しんぱくもん)手箱」だった。黒漆に金蒔絵や貝殻を埋め込む螺鈿(らでん)などの加飾技法が精緻に施されている。人間国宝になった1955年の作品だ。この作品を含め国立近代美術館は松田権六作品を35点も所蔵している。金沢出身でもあるという縁で、ぜひオープンのあかつきには35点すべてを展示する特別展を企画してほしいと願っている。

   すでに完成している洋風の建物はもともと兼六園の近くにあった明治期の建物(旧陸軍の指令部庁舎)を移築し再建したもの。建物自体が国登録有形文化財でもある。出羽町周辺は、兼六園を中心に歴史的建物や文化施設が集積していて、緑に包まれた文化ゾーンでもある。金沢21世紀美術館も近くにある。建物など景観を楽しみ、作品が鑑賞できること待ち望んでいる。ただ、東京オリンピックに合わせての開館予定だったが、新型コロナウイルスの影響でオープンの日程はまだ決まっていないようだ。

⇒6日(振休)午後・金沢の天気   くもり時々あめ