2018年 11月 の投稿一覧

★マスからターゲティングの時代、TVの正念場

★マスからターゲティングの時代、TVの正念場

  アメリカ議会の中間選挙の結果をNHKのインターネット中継で見ていた。放送と同時送信だ。正午すぎに、NHKはアメリカABCテレビの速報として、トランプ大統領の与党・共和党が上院で半数の議席を獲得することが確実となり、共和党が多数派を維持する見通しになったと伝えた。放送より数十秒の遅れタイムラグだったが、画面や音声の質での問題はまったくない。12時35分ごろには、中間選挙以外のニュースの時間となったため、同時配信は放送のみとなり、ネット配信は中断した。同時配信はPCかスマホがあればどこででもテレビが視聴できる時代のニーズだと実感した。

  10月29日付の読売新聞夕刊で「地域限定5G新設」の記事が掲載されていた。「5G」は第5世代の無線通信で、現行の100倍を高速通信が可能になり、あらゆるものがネットにつながる「IoT」のインフラとして期待されている。記事によると、過疎地における遠隔医療や自動運転のモデルとして地域限定で新設していく。この記事を読んで放送と通信の同時配信へのチャンスが一足早く訪れるのではないかと考える。5Gとの相乗効果はもう一つある。12月1日からNHKや民放で「4K・8K」放送が始まる。8Kがもたらす革新的な映像だろう。放送とネットの同時配信、そして「4K・8K」の高画質化、まさにテレビに「変革の時代」が訪れる。

  しかし、動画に対するユーザーのイメージに変化が起きている。それはテレビよりネットが先んじている。TikTok(ティックトック)動画サイトは15秒の動画が受けている。リップシンク(音楽や音声に合わせて口を動かしたり踊ったりしたりすること)の仕草が面白く、10代の少年少女に人気を得ている。知人から聞いた話だが、小学校4年の娘が「将来はユーチューバーになりたい」と言っている、という。動画は視聴する時代から創る時代へとシフトし、ネット動画に魅力を感じている世代が広がっているということだろう。

   これまでテレビの番組は、マス(視聴者全体)へのアピールだけで役割が事足りてきた。ところが、AIなどのイノベーションにより、ネットでは一人ひとりのユーザーの特性に応じた「ターゲティング」が普通になってきた。さらに消費者行動もシップス(SIPS)と称される、Sympathize(共感する)、Identify(確認する)、Participate(参加する) Share&Spread(共有・拡散する)のSNS時代を象徴するような動きが広がっている。

   5G時代の中で、マスからターゲティングへのニーズが加速するだろう。マスを追い求める地上波テレビの未来戦略をどう読み解けばよいのか。視聴率というテレビ業界の絶対的な価値基準を突破できるのか。TVにおける「デジタル・ファースト」の戦略をどう描くのだろうか。NHKの同時配信を視聴してふとそんなことを考えた。

⇒7日(水)午後・金沢の天気   はれ

☆「壺中日月長」 庭清掃と茶の湯のこと

☆「壺中日月長」 庭清掃と茶の湯のこと

   寺社の庭園で清掃ボランティアをして、その後、茶会に臨む。4日に金沢市山の上町にある浄土宗心蓮社でそのような催しが開かれ、参加した。ボランティアとしてではなく、茶会のバックヤードでのスタッフとしての参加だった。

   このイベントは金沢市などが主催する「東アジア文化都市2018金沢」の中の「金沢みらい茶会」の一つ。みらい茶会では「トラディショナル(伝統)」と「コンテンポラリー(現在)」の2つをテーマに茶の湯の文化を味わうという、ある意味で野心的な試みでもある。

   「ボランティア茶会」を企画したのは国連大学IAS研究員のフアン・パストール・イヴァールス氏。日本の建築と庭園が専門で、研究のかたわら茶道をたしむ。フアン氏は金沢の寺社などで研究を進める中であることに気づいた。市内には庭園が数多くあるものの、所有者の高齢化などによって、あるいは経費的に維持管理ができない状態に陥っているケースが目立つことだった。心蓮社も住職が兼務で、庭園になかなか手が回らない状態だった。2年前にフアン氏が同社の庭園を訪れ、ボランティアによる清掃を住職に提案。その後、学生や知り合いの外国人仲間を誘って清掃のボランティア活動を続けている。

      同社の庭園は「築山池泉式」と呼ばれる江戸時代に造られた書院庭園。湧水の池は「心」をかたどり、池のきわにはタブの巨木がそびえる。市指定名勝でもある。今回午前と午後に分けて30人余りのボランティアが参加。サンショウウオが住む池の周囲で落ち葉を拾い集めたり、草刈りなどを行った。参加したボランティアのほどんどが女性。東京や大阪などから観光で訪れ偶然イベントを知って参加した人たちや、フアン氏の活動を支援する外国人も。また、趣味で寺巡りをしている女性、テラジョ(寺女)と呼ばれる人たちもいてなかなかにぎやか。2時間ほどの作業で、庭園が清められた=写真・上=。

  その後、書院での茶会に。床の間には「壺中日月長」の掛け軸。秋明菊など種の季節の花が彩りを添える=写真・下=。参加者は薄茶を味わいながら、書院から清められた庭園を眺める。寺社の庭で清掃ボランティア、そして茶会という2つのステージは参加者にとって2度心が洗われ満足度も高かったのではないだろうか。

   私の仕事は「点(たて)出し」。 茶の湯で薄茶を客の前でたてるのは正客と次客の2人。3人目の客からはあからじめ、「点出しでさせていただきます」とことわってから、水屋でたてたお茶を運ぶ。お湯に入れて茶碗を温め、薄茶の粉を茶碗に入れて、茶筅(ちゃせん)をスクリューにように回してたてる。それを半東(はんとう)役が客に運ぶ。

   庭園の清掃ボランティアと茶の湯という小さな空間だが、それはそれで歴史的な背景もあり、人の作法や人生観、人と自然のかかわりが時空として深く広がる。掛け軸の壺中日月長(こちゅうじつげつながし)という禅語はこの一日のことを筆一行に凝縮しているように思えた。

⇒6日(火)夜・金沢の天気     くもり

★SDGsゲームの不思議な魔力か

★SDGsゲームの不思議な魔力か

  きのう(2日)「能登SDGsラボ」が主催するSDGsカードゲームに初めて参加した。国連のSDGs(持続可能な開発目標)は国内でまだまだ浸透していないが、理解を深めると国際的に通用する「新しい物差し」なのだとなんとなく直感している。このゲームはSDGs の目標を一つ一つ細かく勉強するためのものではなく、「なぜSDGs が私たちの世界に必要なのか」、そして「それがあることによってどのような変化や可能性があるのか」を理解するためという触れ込みだったので参加してみたくなった。

  参加者は学生や社会人28人。1組2人か3人で、9組のチーム。チームがそれぞれ国となり、疑似世界を構成する。チーム(国)にはゴールを表すカード、実行するプロジェクトのカード(青「経済」、緑「環境」、黄「社会」)が渡され、そのリソースとなるマネーと時間のカードが配られる。マネーと時間を使いながら、世界の経済、環境、社会に影響を与えるさまざまなプロジェクトを実行し、ゴール達成を目指す。ファシリテーターは永井三岐子さん(国連大学サステイナビリティ高等研究所OUIK 事務局長)がつとめた。

  私のチーム(国)の引いたゴールカードは「悠々自適」。そのほか「大いなる富」「貧困撲滅」「環境保護」「人間賛歌」の4種類がある。悠々自適の目標達成のためには時間カードを15枚集めることになる。プロジェクトカードは、全体で80枚あり、経済、環境、社会に関する政策的なものが表記されている。実施条件をそろえればプロジェクトカードをファシリテーターのところに持っていく。ファシリテーターはそれを受け付け「世界状況メーター」でカウントしていく。たとえば、緑色の環境プロジェクトを持っていくと、環境はプラスとなるが、経済はマイナス。このゲームでは、時間内に何をするかはチーム(国)の自由だ。他のチ-ムと交渉して、当方のプロジェクトカードとマネーを交換することも可能だ。

  2030年目標なので「2024年」で前半(10分)を一度締めた。ゴールを達成したチームは9組のうち5組だった。ところが、各チーム(国)が実行したプロジェクトは青カードが群を抜き、「世界メーター」では経済18が突出、環境1、社会1となった。よいチ-ム(国)をつくるためには、まず資本(マネー)を蓄積しようと各チーム(国)が走った結果だった。この2024年の世界メーターを見て、「これではいかん」と各チーム(国)は気がついたのだろう。後半(15分)になると、チーム(国)の意識が世界共通の課題解決を目指す緑と黄のプロジェクトへと活発に変化してきた。競うような資本の貯えから、協力関係へと。持っているカード(プロジェクト、時間、マネー、意識)を交換して、共通の課題解決へ動き始めた。

   2030年では世界メーターが経済14に減り、環境と社会がそれぞれ11と12に増えてバランスがとれた=写真=。どこかのチーム(国)が積極的にリードした訳ではない。経済は必要不可欠、しかし経済が突出することにより、地球の在り様がアンバランスになる様を世界メーターで見つめることで、それぞれのチーム(国)が交渉や合意形成を通じて、世界共通の課題へと向き合った結果だった。

    締めくくりにファシリテーターの永井さんは、「このカードゲームで伝えたかったことは『世界はつながっている』、そして『私も起点』という考え方がSDGsの本質と可能性なんです」と。SDGsの不思議な魔力、いや「魅力」に取りつかれた思いだった。

⇒3日(土)夜・金沢の天気     はれ  

☆樹木希林と宝島社のメッセージ性

☆樹木希林と宝島社のメッセージ性

       つい先日(10月23日)に映画『日日是好日』を鑑賞したばかりだったので、29日付の朝刊の見開き全面広告を広げて唸ってしまった。「樹木希林の存在感って何だろう。それにしても、出版社の宝島社はなぜそこまでやるのか」

   広告は樹木希林が「あとは、じぶんで考えてよ。」と、自分で内田裕也や長女の本木雅弘らファミリィに呼びかけている構図だ。左面上には「絆というものを、あまり信用しないの。期待しすぎると、お互い苦しくなっちゃうから」と、いかにも樹木希林が言いそうなメッセージが掲載されている。生前のインタビューから取ったコメントのようだ。

   宝島社は2016年1月5日付でも、「死ぬときぐらい好きにさせてよ。」の15段カラー見開き広告を掲載した。樹木希林が草花とともに水面に浮かぶ様子を、イギリスの画家ジョン・エヴァレット・ミレイの名作「オフィーリア」をモチーフに写真で表現していた。とても話題になった。

   宝島社はほかにも、2017年1月5日付でも2ページの見開き白黒で、向かって左面に真珠湾攻撃の写真を、もう一方に広島に落とされた原爆によってできたきのこ雲の写真を配置してある。そして、「忘却は、罪である。」「子孫のために、借金を残す。」(2013年)、「ヒトは本を読まねばサルである。」(2012年)など。過去の作品の多くは、数々の新聞広告賞を受賞している。1998年から、商品では伝えきれない「企業として社会に伝えたいメッセージ」を発信したいと新聞広告を掲載している。

   出版社のメッセージ性としてはインパクトがある。実にうまい。宝島社のホームページには以下の「広告意図」が掲載されていたので、全文を紹介する。

樹木希林さんが、
2018年9月に逝去されました。
死生観、人生観、恋愛観、仕事観…、
樹木希林さんが残された数々の言葉をもとに、
世の中に向けて、樹木希林さんからの最後の言葉として
2つのメッセージをつくりました。
どう生きるか、
そして、どう死ぬかに向き合った樹木希林さんの、
地球の人々への最後のメッセージ。
どう生きるか、どう死ぬかについて、
あらためて深く考えるきっかけになれば幸いです。

⇒1日(木)夜・金沢の天気      はれ