2018年 10月 の投稿一覧

★台風の日本海、政争渦巻く大陸

★台風の日本海、政争渦巻く大陸

   台風25号は北陸に大きな被害をもたらすことなく過ぎ去ったようだ。昨夜は能登地方の8つの市町に暴風警報が出され、北陸新幹線も午後6時以降は全面運休だった。昨日(6日)能登半島の尖端、珠洲市に行くと、台風に備えて漁船が停泊していた。高屋地区の港では、イカ釣り船などがロープで岸壁に係留されていた=写真=。漁師に尋ねると、台風が過ぎ去っても、しばらく波が高いので漁に出ない、とか。「板子(いたご)一枚下は地獄」。プロの漁師ほど用心深い。フェーン現象だろうか、海岸沿いでも汗ばむ暑さだった。乗用車の外気温は31度。日本海を覆う雲の流れをしばらく眺めていた。海の向こうは朝鮮半島、ロシア、中国だ。いろいろ思った。

   ロシアのプーチン大統領は、対岸のウラジオストクで開催した東方経済フォーラム(9月12日)の壇上で、同席した安倍総理に「年末までに平和条約を締結しよう」と突厥に提案した。金融専門メディア「ブルームバーグ」によるとに、総理は直ちには応答しなかったが、聴衆は喝さいした、という。安倍総理とすれば、「北方領土問題を解決して日本とロシアの国境を確定したうえで、平和条約を結ぶ」というのが日本の方針なので、「いいですね」とは即答できるはずもない。大統領はさらに「我々(日本とロシア)は70年にわたって交渉してきた。(総理に)アプローチを変えよう、と提案した。前提条件を付けずに締結しよう」と語った。

   うがった見方をすると、プーチン大統領の北朝鮮へのエールのようにも思える。北朝鮮は非核化交渉でアメリカに対し、朝鮮戦争の終戦宣言を求めている。終戦宣言をすれば朝鮮半島におけるアメリカ軍や国連軍が駐留を続けることに、国際世論として疑問符がついて、交渉は北の有利になるかもしれない。日本とロシアで年内に前提条件なしに平和条約を締結すれば、北はアメリカに対して「ロシアと日本も前提条件を付けずに平和条約を結びましたよ。まず、前提条件を付けずに終戦宣言をしましょう」と迫るのではないか。

   きょう新聞各紙は、北朝鮮で対米政策を担当する崔善姫外務次官が9日にモスクワで開催される中国、ロシアの外務次官級協議に出席し、3ヵ国の連携を確認すると報じている。アメリカから経済制裁(ロシア、北朝鮮)や貿易バッシング(中国)を受けている3ヵ国が対アメリカで連携を密にするということなのだろうか。

    もう一つ。ICPO(国際刑事警察機構、本部フランス・リヨン)の孟宏偉総裁が先月末に中国に帰国した後に連絡が取れなくなっていると海外メディアなどが伝えている。中国が国外への亡命者や反体制派の取り締まりのため、ICPOでの影響力を高めることを狙って猛氏を総裁に就かせたとの見方がある。今回の猛氏の帰国は、トランプ大統領をICPOの網にかけるための作戦を中国当局と練るためではないだろうか。根拠はないが。そのうち、フランスのオフィスに孟氏は何気ない素振りで戻るのではないか。

    海を隔てた彼方の大陸ではさまざま国際政治の思惑が渦巻いている。そのような妄想を抱きながら、次第に分厚くなる台風25号の雲行きを眺めていた。

⇒7日(日)午前・金沢の天気   くもり時々あめ

☆ディープフェイクの時代

☆ディープフェイクの時代

   台風25号の影響で北陸でも今夜からあす未明にかけて風も強まるというので、用心のために庭木を見て回った。セイオウボが淡いピンクの花をつけていた=写真=。この季節見るたびに上品な装いだと感心する。秋から春先にかけて一輪、また一輪と咲く。金沢では茶花として重宝されている。セイオウボを漢字で書くと「西王母」。ネットで調べてみると、西王母は『西遊記』にも登場する、不老不死の桃の木を持つ仙女の名前から名付けられているようだ。名前の由来は、格調の高い上品な趣の花ということなのだろうか。

   日本列島では相次ぎ台風が吹き荒れているが、東南アジアのインドネシアではスラウェシ島でマグニチュード7.5の地震(9月28日)と、それによる津波の被害が日々拡大、その後ソプタン山(1830㍍)の噴火(今月3日)があった。3つの重なる災害での死者は1500人とも報じられている。住民の不安心理を増幅させるかのように、SNSでは「M9.0の大地震が来る」や「ダムが決壊した」といったフェイクニュース(流言飛語)も飛び交っているようだ。小売店やガソリンスタンドで略奪行為など混乱に拍車をかけてるとBBCなど海外メディアが伝えている。

   災害に乗じたフェイクニュースは国内でもある。2016年4月に熊本でマグニチュード7.0の地震が発生したとき、熊本市動植物園のライオンが逃げたと画像をつけて、ツイッターでデマを流したとして偽計業務妨害の疑いで神奈川県の男が逮捕された。災害時のデマで逮捕されるのは国内では初のケースだった。男は2017年3月に「反省している」として起訴猶予処分となった。が、世界ではフェイクニュースによる人種差別や選挙妨害などエスカレートしている。

   そのフェイクニュースが巧妙に進化している。ネット上で「ディープフェイク」と称される「フェイク動画」のことだ。大学の知人から教えてもらった、アメリカのニュースサイト「BuzzFeed」がユーチューブで公開している動画を視聴して考え込んでしまった。「You Won’t Believe What Obama Says In This Video!」( この動画でオバマが言っていることを信じられないだろう!)のタイトルで、オマバ氏がホワイトハウスで声明を発表しているように見える映像だ。その中で、「President Trump is a total and complete dipshit.」(トランプ大統領はまったく本当に愚か者だ)などと罵っている。

   動画の最後の方に出てくるが、別人のコメディアンの語りに、オバマ氏の映像を被せたものだ。声も口の動きも表情も全て、このコメディアンのもの。つまり合成動画なのだ。膨大なオバマ氏の動画をAI(人工知能)が学習し、コメディアンの口の動き表情ととまったく同じオバマ動画をつくり、それを声に被せた。AIのテクノロジーの進化を感じさせるが、これでフェイク動画を作ることができると考えると穏やかではない。たとえば、トランプ氏と似た声の持ち主が「北朝鮮の非核化では日本が全面的に北に資金援助することで安倍氏と合意が出来ている」などとトランプ動画をつくり公開するとどうなるだろう。真贋をめぐって外交問題になるかも。

 
   今回「BuzzFeed」の動画を視聴して、動画は画像よりも加工が難しいとされてきたが、今やその常識は覆った。それはディープフェイクの時代の到来でもある。欧米ではパロディーとしてこの手の動画が増産されるのではないか。もちろん、余計な心配なのだが。

   セイオウボの花を眺めながら、台風が無事過ぎ去ることを願う。

⇒6日(土)夜・金沢の天気    くもり

★「本庶論」からジャーナリズム論へ

★「本庶論」からジャーナリズム論へ

   金沢大学の共通教育科目「ジャーナリズム論」の講義がきょう(3日)から始まった。毎週連続8回で新聞・テレビの報道の現場からゲストスピーカーを招いて、「災害とジャーナリズムを考える」「生活・文化に関する報道について」「事件報道と実名呼称について」「デジタル化における新聞メディアの将来戦略」「体験的ドキュメンタリー論」などをテーマに講義していただく。初回は「民主主義とジャーナリズム」と題して私自身が講義を担当した。履修する学生は120人=写真=。

   話のつかみは、ノーベル医学生理学賞の受賞が決まった本庶佑氏(京都大特別教授)の記者会見(今月1日)からひねり出した。「研究を進める上で心がけていることは」と記者から尋ねられ、本庶氏は淡々と「一番重要なのは、不思議だな、という心を大切にすること。教科書に書いてあることを信じない。常に疑いを持って本当はどうなんだろうという心を大切にする」「つまり、自分の目で物を見る。そして納得する。そこまで諦めない」と答えた。ジャーナリストもまさに同じ発想だ。本庶氏は「教科書=科学の権威」を疑い、自分で納得するまで調べてみよと説いているのだ。これは「科学におけるジャーナリズム性」ではないだろうかと学生に投げかけた。

   ここから、記者自らが納得するまで取材する調査報道はジャーナリズムの原点であることを論じる。調査報道の基本は、政府や省庁、役所や企業の公式発表に頼らず、独自の取材活動により、隠された事実や問題を報道することだ。発表に頼らず、独自に掘り起こすニュースがなければ、報道機関としての存在意義がない。調査報道のモデルケースとして講義の中でよく引用するのが、2010年9月21日付の朝日新聞がスクープした、大阪地検特捜部の主任検事による押収資料改ざん事件だ。

   事件の発端は、ある意味で当地から始まる。2008年10月6日付で朝日新聞は、石川県白山市に本社を置く印刷会社が「低料第3種郵便物」割引制度(郵便の障害者割引)を不正利用してダイレクトメールを大量に発送していたことを報じた。1通120円のDM送料がたった8円になるという障害者団体向け割引郵便制度を悪用し、実態のない団体名義で企業広告が格安で大量発送された事件が明るみとなった。これによって、家電量販店大手などが不正に免れた郵便料は少なくとも220億円以上の巨額な金になる。国税も動き、さらに大阪地検特捜部は郵便法違反容疑などで強制捜査に着手した。

   事件の2幕は舞台が厚生労働省へと移る。割引郵便制度の適用を受けるための、同省から自称障害者団体「凛の会」へ偽の証明書が発行されたことが分かり、特捜部は2009年7月、発行に関与したとして当時の局長や部下、同会の会長らを虚偽有印公文書作成・同行使罪で起訴した。

  ところが、元局長については、関与を捜査段階で認めたとされる元部下らの供述調書が「検事の誘導で作成された」として、2010年9月10日、大阪地裁は無罪判決を下した。そして、同月21日付紙面で、大阪地検特捜部が証拠品として押収したフロッピーディスク(FD)が改ざんされた疑いがあると朝日新聞が報じる。その後、事件を担当した主任検事が証拠隠滅容疑で 、上司の特捜部長、特捜副部長(いずれも当時)が犯人隠避容疑で最高検察庁に逮捕される前代未聞の事態となった。

    なぜ元局長が無罪となったのか。報道してきた責任として検証しなければならない。浮かんできたのが主任検事による押収したフロッピーの改ざん疑惑だった。取材記者は元局長無罪の判決を受けて、疑惑を検事に向けて取材しなけらばならない。相手は政治家も逮捕できる検察である。その矛先が新聞社の取材そのものに向いてくる場合も想定され、一歩間違えば、「検察vs朝日新聞社」の対決の構図となる。被告側に返却されていたフロッピーを借りに行った記者に、被告側の弁護士は「検察そのものの取材に、あなたは本当に立ち入ることができるのか」とその覚悟の程を問うた、という。

  こうした伸るか反るか、取材者側のギリギリの判断がありながらも、権力の監視、チェックこそがジャーナリズム本来の使命と突き進んでいく記者たちの現場を学生たちに理解してほしい、そう思いながらきょうの講義を締めた。

⇒3日(水)午後・金沢の天気    はれ

☆「能登SDGsラボ」の可能性

☆「能登SDGsラボ」の可能性

  国連のSDGsとは「Sustainable Development Goals」。訳すると「持続可能な開発目標)」となる。このSDGsという言葉は国内にはまだまだ浸透していないので、分かりにくい。能登半島の尖端の珠洲市が率先して内閣府の「SDGs未来都市」に申請して、採択を受けたことは、とても意味がある。それは、これまでの地方創生の目標に加え、国際的に通用する「新しい物差し」で地域の課題に向き合うという意思表示を国内だけでなく世界に示したということになるからだ。 

  国連の持続可能な開発目標であるSDGsの基本原則は「誰も置き去りにしない」ということ。これは、立場の弱い人々に手を差し伸べて、負担を少なくする、あるいはどうすれば負担が少なくなるのかを福祉の観点だけでなく、環境や経済などの視点から前向きに幅広く考えて、地域のプラス成長にもっていくという発想でもある。SDGsについて学び行動することは、大学の研究者や学生、企業人、社会人、個人にとどまらず多くに人にメリットをもたらす。SDGsをきっかけに、自分と世界をつなげて考えることができる。それは、自分の視野を広げるばかりでなく、ビジネスにつながる発想にもなる。 

  SDGsはともすれば途上国のことだと考えがちだが、過疎化で地場産業の衰退を受けた地域をいかに再生するかといった日本の地方の問題でもある。珠洲市のSDGs未来都市には、行政だけでなく、金沢大学、国連大学、石川県立大学、地元経済界、県の産業支援機関など多くのステークホルダーが寄り集っている。きょう(1日)珠洲市におけるSDGsの取り組みの中核となる「能登SDGsラボ」のオープンセレモニーがあった。除幕式でその看板がお披露目された=写真=。SDGsという、掲げた旗のゴールターゲットは17色あり、鮮明でうつくしい旗の元にステークホルダーが集まったと言える。 

  能登SDGsラボは、地域の課題解決のワンストップ窓口であり、さまざまな専門家や有識者が集うシンクタンクの拠点機能を目指している。多くの研究者や学生にも参加してもらい、グローバルな視点で地域課題を考え、課題解決に参画するアクションの場となればと期待する。能登の先端からSDGsが世界に広がっていくことを願っている。

⇒1日(月)夜・珠洲市の天気    くもり時々あめ