2018年 9月 の投稿一覧

★台風一過の兼六園、梢のざわめき

★台風一過の兼六園、梢のざわめき

    昨夜(4日)の金沢での最大瞬間風速は44.3㍍(午前6時前)だった。台風一過、けさは雲一つない青空だった。6時30分ごろ、兼六園に出かけた。名木が倒れているのではないかと気になった。入り口に札がかかっていた。「本日の早朝入園は中止します」。普段だと午前7時前ならば無料で入ることができる。その早朝入園が中止ということは、はやり名木が倒れるなど緊急事態が発生しているのではないかとますます気になった。

    午前7時に開門。入場料(310円)を払って入った。園内は落ち着いた名園の風景だった。早朝入園が中止は落ちた枝葉の清掃によるものだった。根が盛り上がっている根上松(ねあがりのまつ)や見事な枝ぶりで知られる唐崎松(からさきのまつ)は健在だった。44.3㍍の台風によく耐えたものだと安堵を得た。でも、その姿をよく見ると、根上松の枝に縄を張って補強が施され、さらに支柱がしてある=写真・上=。枝が強風で折れないように「台風対策」があらかじめ施されていたのだ。台風が去った後は速やかに撤去されるのだろう。名木あっての名園を守るということの意義に感じ入った。

           実は兼六園では「名木を守る」もう一つの手段が講じられている。台風で名木が折れた場合に備え、次世代の子孫がスタンバイしている。これは兼六園管理事務所の関係者から聞いた話だが、子孫とは、たとえば種子からとることもあるが、名木のもともとの産地から姿の似た名木をもってくる場合もある。兼六園きっての名木である唐崎松。これは、滋賀県大津市の「唐崎の松」から由来する。歌川広重(安藤広重)が浮世絵「近江八景之内 唐崎夜雨」に描いた名木である。近江の唐崎松は2代目だが、第13代加賀藩主・前田斉泰(在位1822-1866)が近江から種子を取り寄せて植えたのが現在の兼六園の唐崎松だ。

    兼六園管理事務所では、滋賀県の唐崎の2代目の種子で成長した低木を譲り受け、管理事務所で育てている。つまり「年の離れた兄弟」という訳だ。この兄弟の出番はいつか分からない。100年後か200年後か。ただ、名木に次世代がスタンバイするという在り様は永遠という時空をつけている。兼六園は四季の移ろいを樹木などの植物によって感じさせ、それを曲水の流れや、玉砂利の感触を得ながら確かめるという、五感を満たす感性の高い空間なのだ。その空間に永遠という時空をつけて、完成させた壮大な芸術品、それが兼六園だ。   

     ことじ灯ろう=写真・下=など30分ほど兼六園を散策して、随身坂口の門を出ようとすると風が頬をなでた。松の枝葉がサラサラと音を立てた。庭を愛したドイツの詩人、ヘルマン・ヘッセの作品を思い出した。「あの涼しい庭の梢(こずえ)のざわめきが私から遠のけば遠のくほど私はいっそう深く心から耳をすまさずにはいられない、あの頃よりもずっと美しくひびく歌声に」(『青春時代の庭』)。梢のざわめきがハーモニーのような美しい歌声に聞こえた。

⇒5日(水)午後・金沢の天気    はれ

☆ニュースの裏読み

☆ニュースの裏読み

     報じられるニュースと報じられないニュースがある。簡単に言えば、報じられるニュースは建て前、報じられないニュースは本音、あるいは不都合な真実と言ってよいかも知れない。その事例をいくつか。

     経団連中西宏明会長が2021年春以降に入社する学生への会員企業の採用活動に関し、経団連が定めている面接解禁などの統一ルールを廃止する意向を表明したと報じられた。これに対し、遊説先で安倍総理は「企業側ともよく話をした結果、『採用活動は6月開始』というルールをつくったところだから、このルールをしっかりと守っていただきたい」と述べ、経団連は指針を守るべきだと述べたという。

     経団連がつくった就活の統一ルールはすでに形骸化している。リクルートキャリアが発表した数字では、面接など企業の選考活動が解禁されたことし6月1日時点で、大学生の就職内定率は68.1%となっていた。このままでいけば、経団連に加盟する大企業が「貧乏くじ」を引くことになってしまう。そもそも、リクルートスーツで身を固めて会社訪問というパターン化された就活に違和感を持つ学生は多い。最近聞いた学生の話では、留学先(オーストラリア)から東京の企業にメールで問い合わせ、後日スカイプで面接をして内定。帰国後に企業訪問をして卒業後の具体的な仕事内容について段取りをしてきた、と。学生の本分である勉学が就職活動が早くなることで疎外されること懸念する向きもあるが、リクルートスーツで何十社と回るより時間的なロスが少ないのではないだろうか。

    障害者手帳は地方公共団体に認定を受けると発行される、障害を証明するための手帳である。手帳は2 年ごとに更新が必要だ。いま問題となっている障害者雇用の問題はこの手帳を持っているのか、いないのかが基準となっている。正直私だったらこの手帳を持ちたくない。実際に手帳を持っている人の話だ。精神に障害を持つ彼は、担当の医師に手帳の更新の申請書を書いてもらう。その時、医師は「症状は随分とよくなっていると思いますが、そのまま書くと手帳がもらえなくなるので少々きつく書いておきますね」と言われたそうだ。実際書かれた申請書に目を通すと「暴れる」「奇声を発する」など大げさに書いてあった。

    働くために手帳をもらう。手帳をもらうために症状の水増しが行われる。彼は「人格が傷つけたれた思いがした」「本音を言えば手帳はいらない。更新時が憂鬱だ」と。このような声はニュースにはいっさい出てこない。

⇒4日(火)朝・金沢の天気    くもり時々はれ

★27年ぶり「猛烈台風」

★27年ぶり「猛烈台風」

          豪雨の次は猛烈な台風だ。「非常に強い」台風21号が4日に本州に上陸する。気象庁のきょうのホームページで掲載されている台風の進路予想図では同日夜には北陸が暴風域のど真ん中に入るルートになっている。「非常に強い」勢力の台風が本州に上陸するのは1991年以降初めと警戒感が広がっている。

    1991年9月27日夜に北陸を直撃した「台風19号」。鮮明に覚えている。このとき、北陸朝日放送の報道制作局に所属していた。開局を4日後の10月1日に控え職場では準備で慌ただしかった。さらに台風の直撃。カメラマンと取材場所をどこにするかと議論になった。台風は長崎県に上陸し、山口県をかすめて、日本海を北上していた。防波堤に叩きつけるような波を撮影しようと、カメラマンには金沢港に向かってもらった。この日は社内に泊まり込んだ。

   ところが一夜明けて大変なことになっていた。金沢の観光スポット、兼六園の名木が何本も倒れて無残な光景に。輪島市にある輪島測候所の風速計が最大瞬間風速57.3㍍を記録した後に破損するという事態になっていた。映像は「ネット上げ」(全国ニュース用)にテレビ朝日に送った。北陸朝日放送の駐車場にあった取材用のワゴン車1台も横転していた。その後、台風は青森、北海道を通過した。映像で繰り返し放送されて有名になったのは、収穫を前に青森のリンゴが軒並み落下し、落胆する農家の様子だった。このことから台風19号は「リンゴ台風」とも呼ばれた。

   では、27年ぶりの「非常に強い」台風21号はどうか。気象庁の予測データでは、4日の最大風速は北陸で30㍍、最大瞬間風速は45㍍、5日朝までの24時間に北陸では300-400㍉の雨。気象用語では最大風速30㍍は「猛烈な風」だ。風速33-49㍍(約10 秒間の平均)で「屋根瓦が飛び、ガラス窓が割れる。ビニールハウスの被害甚大。根の弱い木は倒れ、強い木の幹が折れたりする。走っている自動車が横風を受けると、道から吹き落とされる」とある。台風19号を経験しているだけにリアリティを感じる。(※写真は気象庁の3日付のHPから抜粋)

⇒3日(月)朝・金沢の天気    はれ

☆「ため池ハザ-ド」

☆「ため池ハザ-ド」

    豪雨の峠は越えたようだが、能登半島を中心に石川県ではきのう(31日)の降り始めからの雨量が各地300㍉近くに達しているところがあり、テレビのニュースでは気象台が土砂災害に警戒するよう呼びかけている。能登の人たちの心配はむしろこれからだ。きのう夕方のNHKニュース(ローカル)で、避難所に身を寄せている高齢女性のひと言が心配を象徴していた。「堤が壊れるんやないかと不安でここ(避難所)にきたんや」

    堤は「ため池」のこと。能登半島は中山間地での水田が多く、その上方にため池が造成されている。能登半島全体で2000ものため池があると言われている。中には中世の荘園制度で開発された歴史的なため池もある。「町野荘」があったことで知られる能登町には「溜水」と書いて「タムシャ」と呼ぶ集落もある。今でも梅雨入り前に集落の人たちが土手を補修するなど共同管理している。インタビューで高齢女性が不安に思ったため池はおそらく、過疎高齢化で管理する人たちがいなくなったに違いない。中山間地のため池が決壊すれば、山のふもとにある集落には水害と土砂災害が一気に襲ってくることになる。

    ため池は普段どのように管理されているのだろうか。能登町矢波地区に行くと、公民館に「ため池ハザードマップ」=写真=が貼ってある。同地区には5つのため溜め池があり、決壊した場合どのような範囲で水や土砂が流れるのか地図上で示されている。溜め池の管理人が堤防の亀裂や崩れ、沈下、濁水、水位などに異常を確認した場合、区長に連絡し、区長は住民に避難の連絡をすると同時に行政とともに現地対策本部を立ち上げると明記している。これだけ用意周到な対策を講じていれば、地域住民は安心感を得ることができる。

    問題は管理されないため池の存在である。石川県農林水産部が珠洲市で行った「ため池の管理に関するアンケート」(2010 年1 月)ではまったく管理や補修がされていため池が1割あった。耕作放棄や河川からの引水で灌漑の機能を失ったためだ。この傾向は増える傾向にあることは言うまでもない。「もう3割は管理されていないのでは」と指摘する向きもある。

    ため池を放置すれば土砂崩れや水害のリスクが高まる。沼地化して、その後に樹木が生えて原野に戻っていくこともある。能登半島はコハクチョウや国指定天然記念物オオヒシクイなどの飛来地としても知られる。これらの水鳥はため池周辺の水田を餌場としても利用している。また、ため池は絶滅危惧種であるシャープゲンゴロウモドキやトミヨ、固有種ホクリクサンショウウオなど希少な昆虫や魚類の生息地でもある。ため池の管理が大きな曲がり角に来ている。

⇒1日(土)午前・金沢の天気    くもり時々あめ