★大学連携の社会実装、11年目
こうした課題解決を目指すべき社会を「プラチナ社会」と定義し、地域でさまざまイノベーションに取り組んでいる自治体や企業、団体を表彰するのが、民間団体「プラチナ構想ネットワーク」(会長:小宮山宏元東京大学総長)だ。ちなみに、金のようにギラギラとした欲望社会を目指すのではなく、プラチナのようにキラキラと人が輝く社会づくりを理念に掲げている。その「プラチナ大賞」の第3回大賞・総務大臣賞(2015年)に、珠洲市と金沢大学が共同でエントリーした「能登半島最先端の過疎地イノベーション~真の大学連携が過疎地を変える~」が選ばれた。プラチナ構想ネットワーク事務局から、受賞から2年間の取り組みを報告してほしいと依頼され、過日(10月26日)、同市の担当者と2人で東京・イイノホールでに出かけた。
以下、報告の概要だ。金沢大学から160㌔北、半島の最先端で珠洲市から廃校舎をお借りして、能登学舎を設立した。最初は、三井物産環境基金を活用して、市民交流と研究を兼ねた拠点である「里山里海自然学校」というプログラムをつくった。博士研究員を1人配置して、市民と一緒になって生物調査や田んぼの生き物など行った。研究者と市民がともに調査に参加する、オープンリサーチという手法だ。その翌年2017年に文科省の事業費で「能登里山マイスター養成プログラム」という社会人を対象とした人材養成プログラムをスタートさせた。
能登の農業や森林や海の資源、文化資源を活用して地域の生業(なりわい)づくりをしていく若者を育てるというコンセプトだ。ここに若手教員や博士研究員らスタッフを増員して、独自の研究調査も実施している。能登における里山里海の価値を再評価すること、能登における持続可能な到達目標SDGsをどのように進めていくか、国連のFAOが認定する世界農業遺産のグローバル連携、そしてベンチャー・エコシテム、つまり起業環境の構築を併せてミッションとしている。マイスタープログラムの実施に当たっては、同市の自然共生室との連携を密にしている。大学の研究調査の総合窓口でもある。こうした大学の専用の窓口を持つ自治体は全国でも少ない。
マイスタープログラムの卒業要件は卒業課題研究だ。15分の公開での発表を審査する。このプレゼンまでに調査やヒアリング、発表の技を磨くわけだが、受講生全員が発表にこぎつけることができるわけではない。人前で発表し、卒論の審査にパスしたという実積が本人のモチベーションをとても高めることになる。卒業課題研究のテーマは、農業に関することが25%ともっとも多く、次が林業、3番目が起業などとなっている。ツーリズムや子育て環境づくりなどとても多彩なテーマだ。144人の修了生を輩出したが、その後も自らの課題研究を極めて実装するケースが多く、社会的ビジネスとして起業したものが11人、農林漁業の担い手として14人が新規就業している。能登でノベーションを担うのは、彼らだと確信している。
同市の担当課長はこの秋に実施した国際芸術祭に触れ、アートの地域インパクトの大きさを実例を挙げて報告した。さらに市長のビデオメッセージが会場に流してもらった。20分余りの報告だったがコンパクトにまとまったものとなった。会場の最前列で小宮山会長がうなずいて聞いておられる様子が見えた。
同市と金沢大学の連携事業はもう11年になる。地域と大学との連携は型にはまったものではない。「大学でしかできないことを、大学らしからぬ方法で社会実装する」。いつもの肝に銘じていることである。
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