☆36年連続日本一の「もてなし伝説」

加賀屋のもてなしは客室から見える七尾湾の海と相乗として自然だ。そのポイントは「笑顔で気働き」という言葉に集約されている。客に対する気遣いなのだが、マニュアルではなく、その場に応じて機転を利かせて、客のニーズを先読みして、行動することなのだ。
たとえば、客室係は客が到着した瞬間から、客を観察する。普通の旅館だと浴衣は客室においてあり、自らサイズを「大」「中」の中から選ぶのだが、加賀屋では客室係が客の体格を判断して用意する。そこから「気働き」が始まる。茶と菓子を出しながら、さりげなく会話して、旅行の目的、誕生日や記念日などを聞いて、それにマッチするさりげない演出をして場を盛り上げる。たとえば、家族の命日であれば、陰膳を添える。客は「そこまでしなくても」と驚くだろう。しかし、それが加賀屋流なのかもしれない。小手先のサービスではない、心のもてなしなのである。客室係の動作は雰囲気の中で流れるように自然であり、決してお節介と感じさせない。さざ波の音のような心地よさがある。
「もてなし」はホスピタリティ(hospitality)と訳される。癒されるような心地よさの原点は一体なんなのかと考える。この心地よさは、実は加賀屋だけでない、能登の心地よさなのだと思うことがある。先日(12月4、5日)、留学生や学生を連れて奥能登の農耕儀礼「あえのこと」を見学に行った。ユネスコの無形文化遺産に登録されている、「田の神さま」をもてなす儀礼である。粛々と執り行われる儀式。その丁寧さには理由がある。昔から当地の言い伝えで、田の神さまは目が不自由だという設定になっている。田んぼに恵みを与えてくれる神さまは、稲穂で目を突いてしまい目が不自由なのだから、神が転ばないようにも座敷へと案内をしなさい、並んでいるごちそうが何か分かるように説明しなさい、と先祖から受け継がれてきた。障がいのある神さまをもてなすという高度な技がこの地には伝わる。現代の言葉で、健常者と障がい者への分け隔てない接遇はユニバーサル・サービス(universal service)と呼ばれる。この接遇の風土は「能登はやさしや土までも」と称される。
加賀屋が36年連続総合1位の伝説をつくることができたのも、そうした接遇の風土があるからなのだろうと勝手に想像している。
⇒13日(火)朝・金沢の天気 くもり