☆2012ミサ・ソレニムス~8
マエストロ岩城の生誕80周年、「ベートーベンで倒れて本望」の偉業
岩城さんとの初めての面識は17年も前だった。私のテレビ局(北陸朝日放送)時代、テレビ朝日系列ドキュメンタリー番組「文化の発信って何だ」を制作(1995年4月放送)する際に、オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の音楽監督で指揮者だった岩城さんにあいさつをした。初めてお会いしたので、「岩城先生、よろしくお願いします」と言うと、ムッとした表情で「ボクはセンセイではありません。指揮者です」と岩城さんから一喝された。そう言えば周囲のオーケストラスタッフは「先生」と呼ばないで、「岩城さん」か「マエストロ」と言っていた。初対面で一発くらわせれたのがきっかけで、私も「岩城さん」あるいは「マエストロ」と呼ばせてもらっていた。
そのドキュメンタリー番組がきっかけで、足掛け10年ほど北陸朝日放送の「OEKアワー」プロデューサーをつとめた。中でも、モーツアルト全集シリーズ(東京・朝日新聞浜離宮ホール)はシンフォニー41曲をすべて演奏する6年に及ぶシーズとなった。あの一喝で「岩城社中」に仲間入りをさせてもらい、心地よい環境で仕事を続けた。
「岩城さんの金字塔」と呼ばれるベートーベンの交響曲1番から9番の連続演奏に2年連続でかかわった。2004年12月31日はCS放送の中継配信とドキュメンタリーの制作プロデュースのため。そして翌年1月に北陸朝日放送を退職し、金沢大学に就職してからの2005年12月31日には、この9時間40分に及ぶ世界最大のクラシックコンテンツのインターネット配信(経済産業省「平成17年度地域映像コンテンツのネット配信実証事業」)のコーディネーターとしてかかわった。
それにしても、ベートーベンの交響曲を1番から9番まで聴くだけでも随分と勇気と体力がいる。そのオーケストラを指揮するとなると、どれほどの体力と精神を消耗することか。2004年10月にお会いしたとき、「なぜ1番から9番までを振るのか」と伺ったところ、岩城さんは「ステージで倒れるかもしれないが、ベートーベンでなら本望」とさらりと。当時、岩城さんは72歳、しかも胃や喉など25回も手術をした人だった。体力的にも限界が近づいている岩城さんになぜそれが可能だったのか。それは「ベートーベンならステージで倒れても本望」という捨て身の気力、OEKの16年で177回もベートーベンの交響曲をこなした経験から体得した呼吸の調整方法と「手の抜き方」(岩城さん)のなせる技だった。
2005年大晦日の演奏の終了を告げても、大ホールは観客による拍手の嵐だった。観客は一体何に対して拍手をしているのだろうか。これだけのスタンディングオベーションというのはお目にかかったことはなかった。番組ディレクターに聞いた。「何カットあったの」と。「2000カットほどです」と疲れた様子。カットとはカメラの割り振りのこと。演奏に応じて指揮者や演奏者の画面をタイミングよく撮影し切り替える。そのカットが2000もある。ちなみに9番は403カット。演奏時間は70分だから4200秒、割るとほぼ10秒に1回はカメラを切り替えることになる。
「ベートーベンで倒れて本望」と望んだ岩城さんの願いは叶い、2006年6月に永眠した。インターネット配信では岩城さんに最初で最後の、そして最大にして最高のクラシックコンテンツをプレゼントしてもらったと私はいまでも感謝している。
⇒31日(月)夜・金沢の天気 くもり
「近隣外交」という言葉ほど面倒なものはないと、日本人の多くは思っているのではないだろうか。尖閣諸島をめぐる中国側の執拗な動きは連日のように報道されている。「(日本)政府は29日、中国が東シナ海での大陸棚設定について、今月14日に国際機関の大陸棚限界委員会に申請した案を検討しないよう、同委員会に求めた。大陸棚は領海の基線から200カイリまでが基本だが、地形の特徴にもよる。中国は、中国大陸から尖閣諸島を含む沖縄トラフまで大陸棚が自然に延びていると主張。日本は、尖閣諸島が固有の領土であるため全く受け入れられないと表明した。」(12月29日付・朝日新聞ホームページ)
松井選手のホームタウンは石川県能美市にある。私は金沢のテレビ局時代に何度か自宅を取材に訪れた。松井選手が星稜高校の時代、「夏の甲子園」石川大会の中継、本大会での取材と夏は松井一色だった。強打者ぶりは「伝説」にもなった。1992年夏の全国高校野球選手権2回戦の明徳義塾(高知)戦で、5打席連続敬遠されて論議を呼んだ。
読売新聞は検証記事(10月26日付)で、「当時の取材は、実験記録や年齢、肩書など確認が不十分だった」など取材の不備を認めた。共同通信も「速報を重視するあまり、専門知識が必要とされる科学分野での確認がしっかりできないまま報じてしまった」という。しかし、これは言い訳にすぎない。報道に「伝えない」という選択肢はなく、伝える以上は裏付けに手を尽くすのが報道機関の使命である。当然、その結果責任はつきまとう。
ことし夢と希望と感動を与えてくれた一番の出来事は何かと問われれば、それは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の作製に成功した山中伸弥教授(京都大学)がノーベル医学生理学賞を受賞したこと、と答えたい。先般、朝日新聞科学医療部から本をいただいた。山中教授のiPS細胞開発の経緯や医療応用への課題などをまとめた『iPS細胞大革命 ノーベル賞山中伸弥教授は世界をどう変えるか』(朝日新聞出版)=写真=。その中には、壮大な研究に挑む山中氏の言葉が詰まっている。
さて、その総選挙を振り返る。自民が圧勝したのは、民主が経済対策を重視してこなかったからだ、との論調が目立っている。選挙後に株価が1万円台を回復し、円レートも84円台になったとか、日銀が国債など資産買い入れ基金の10兆円増額を決め、前年比上昇率2%のインフレ目標も次回の決定会合で検討するなど、自民の安倍総裁が求めに「満額回答」で答えたなどのメディアの報道が目立つようになった。
年末に驚く事件が報じられた。現職の警察官が殺人と放火という前代未聞の罪を犯した。富山県警が22日、警部補で休職中の加野猛容疑者=54歳、富山市=を殺人と現住建造物等放火、死体損壊の疑いで逮捕したと発表した。ただ、続報でも、その殺しの動機が一切伝わってこない。なぜだ。
去年の今頃、気持ちはフィリピンにあった。年賀状で書いた文面はこうだった。「能登の里山里海が国連食糧農業機関の世界農業遺産(GIAHS)に認定されました(昨年6月)。半島の立地を生かした農林漁業の技術や文化、景観が総合的に評価されたものです。世界に12ヵ所あるGIAHS地域とネットワークを築くため、手始めに今月11日から6日間、フィリピンの『イフガオの棚田』に行きます。ささやかながら能登の明日に向けた新たな取り組みになればと思っています。2012年元旦」
興味が湧いたのは、現地では「田の神」ブルル=写真=の信仰があることだった。イフガオに米づくりをもたらした神様として崇められている。ここで日本では想像できない問題もある。フィリピンは多民族国家だが、9400万人の人口の8割はキリスト教徒だ。16世紀から始まるスペインの植民地化や、20世紀に入ってからのアメリカの支配による欧米化でキリスト教化されていったからだ。しかし、この地に根付くイフガオ族は歴史的にこうしたキリスト教化、地元でよくいわれる「クリスチャニティ(Christianity)」とは距離を置いてきた。コメに木に田んぼに神が宿る「八百万の神」を信じるイフガオ族にとって、キリスト教のような一神教は受け入れ難い。
現行の公職選挙法は、公示・告示後の選挙期間中は、法律で定められたビラやはがきなどを除き、「文書図画(とが)」を不特定多数に配布することを禁じている。候補者のホームページやツイッターなどソーシャルメディアの発信は、こうした文書図画に相当し、現行では認められていない。これまで、ネット選挙解禁についての論議は何度もありながらも、政治の混乱の中で法案は提出されてこなかった。たとえば、2010年の参院選挙の前に、民主、自民、公明の与野党は候補者・政党が選挙期間中にホームページやブログを更新できるとする公選法改正に合意していたのに、である。
テレビ朝日『選挙ステーション』では、20時34分に石川一区(金沢市)の出口調査の得票数をパーセントで発表していた。そのポイント。馳浩(自民)47.6%、奥田建(民主)23.4%、小間井俊輔(維新)19.3%、熊野盛夫(未来)5.5%と続いた。では、実際の得票率はどうだったのか。翌日の北陸中日新聞で掲載された確定票をもとにした獲得率は、馳浩47.87%、奥田建22.88%、小間井俊輔19.82%、熊野盛夫5.11%だった。馳の誤差はマイナス0.2、奥田プラス0.6、小間井マイナス0.5、熊野プラス0.4なのである。つまり、どの候補者も出口調査と確定票の得票率の誤差は1.0ポイント以下だったことになる。