★地デジ、能登半島から
では、能登半島が先行モデル地区として役割は果たせたのだろうかと振り返ってみる。丘の上から珠洲市内を眺めると、受信障害となるような高いビルはないし、当地の民放4局のうち3局がいわゆる「Uチャン」なのでアンテナ交換の必要もない。都市型の地デジ問題とは一見かけ離れているようにも思えるが、山陰や北風・塩害問題による共聴施設が市内で36ヵ所あり、市の世帯の40%をカバーしていた。しかも、珠洲市の場合、65歳以上の最高齢者率は40%を超え、高齢者のみの世帯率は36%、さらに高齢者世帯の半分1000世帯余りが独居のまさに過疎・高齢化の地域だ。電波障害による共聴と高齢者宅の対策は地デジの2大問題で、それを乗り切った能登の先行実施は「モデル」といえるだろう。
去年8月18日、東京都北区の区議3人が珠洲市役所を地デジ対策の視察に訪れた。同区(33万人)の高齢者率は22%を超え、集合住宅に住む独居の高齢者も多い。だれがどう対応すべきなのか、区議の質問は高齢者世帯への地デジ対策に質問が集中した。応対した同市総務課情報統計係長の前田保夫氏は「お年寄りにとって、テレビはさみしさを紛らわすための生活の一部」と話し、市職員の戸別訪問や市内の電器店との連携による簡易チューナーの取り付けの経緯を説明した。能登であれ、東京であれ、高齢者対策は地デジ対策のポイントなのだ。
能登を調査に回って、気がかりな点が2つある。一つは、自治体の動きが読めないこと。珠洲市への議員視察は複数あるものの、他の自治体からの視察はゼロである(8月末現在)。前田氏は「地デジ対策は自治体の仕事ではなく、国とテレビ局の仕事と思っているところが多いのはないか」と懸念する。
もう一つ。地デジ移行を終えた同市内で、高齢者20人に地デジに関する簡単なアンケート調査を試みた。その中で、「国はなぜ地デジに移行するのかご存知ですか」の問いに、正解だったのは「電波のやり繰り」と答えた2人だけだった。15人が「分からない」と答えた。わずか20サンプルで、しかも高齢者へのアンケートで推測するのは危険だが、地デジ移行の本来の目的が国民の間で理解されているのだろうかと気になった。国民の理解なき政策は政争の火種になりかねないと思うからだ。
※写真は、アナログ波を停波した民放局の珠洲中継所。周囲は葉タバコ畑。
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