☆ただ風が吹いている
5月3日に沖縄のアメリカ軍海兵隊基地「キャンプ・シュワブ」、そして辺野古の基地反対の座り込みテントを訪れてから1ヵ月余り、日本の政治が凝縮されたようなさまざまな政治局面が展開された。その結果、ついに鳩山総理は退陣して、あす8日には菅直人氏が総理の座に就くことになるのだが、沖縄の問題は何一つ変わってはいないのだ。
この1ヵ月余りの間、鳩山氏は5月4日と23日2度沖縄を訪れ、仲井真弘多知事らに対し、アメリカ軍普天間基地飛行場を、キャンプ・シュワブ沿岸部のある辺野古崎に移設する方針を表明した。「県外移設」を明言していた鳩山氏が、自ら「公約違反」のデモンストレーションを行ったわけで、訪問先の沖縄県庁や名護市の万国津梁館では、「怒」と書いた紙を持った県民が集まり「裏切りだ」と声を上げる様子がテレビで繰り返し伝えられた。「友愛」を口にする鳩山氏ならば、ここで車を降りて、もみくちゃにされるのを覚悟で県民に直接詫びるべきではなかったか。ところが、鳩山氏が乗った車の列は、その声を無視するように猛スピードで通過したのだった。友愛を行動で示す度胸がなかったのだろう。
そして、政治局面は急展開する。5月28日。日米外務・防衛閣僚(2プラス2)共同声明に続き、閣議決定でも米軍普天間基地の移設先として「辺野古」を明記した鳩山氏は、閣議決定への署名を拒んだ福島みずほ消費者・少子化担当大臣(社民党党首)を罷免。これを受け、社民党は30日に全国幹事長会議を開き、鳩山連立政権からの離脱を決定した。福島党首は会議のあいさつで「平和と基地の問題は党の1丁目1番地」と述べた。この政権離脱が決議された当たりで、マスメディア各社は一斉に世論調査を実施した。30日付の朝日新聞で内閣支持率は17%、31日付の読売新聞では内閣支持率は19%と伝えた。内閣支持率は20%がデッドラインとされ、それを割り込んだ。
6月2日、鳩山氏は決断する。民主党の衆参両院議員総会で「社民党を政権離脱という厳しい道に追い込んだ責任を取らねばならない」と退陣を表明。同時に小沢氏も幹事長辞任で話のケリがついたことが明かされた。4日の閣議で総辞職した鳩山内閣、その日の午後に衆参両院本会議で菅氏が新しい首相に指名された。ところが、このブログを書いているこの日、つまり7日はまだ鳩山内閣のままである。あす8日の皇居での任命式を終えるまで、憲法71条に基づき鳩山内閣は職務を執行することになる。心はすっかり一議員に戻った鳩山氏なのだが、この「政権空白」のときに、大陸からミサイルが撃ち込まれたら誰が責任ある行動を取るのだろうかと危惧するのは私だけだろうか。この危機意識のなさが、これまでの鳩山内閣のすべてを物語っているような気がする。ちなみに、鳩山氏の総理としての在職日数は、菅内閣が4日に発足していれば262日で、自らが官房副長官として仕えた細川護煕氏に1日及ばずだったが、組閣が8日にずれ込んだことで、細川氏を上回る266日(2009年9月16日‐2010年6月8日)になった。現行憲法下では6番目の「短命政権」となる。
さて、菅内閣があす8日発足する。朝日新聞が6日付で報じた緊急世論調査(電話)では、菅新首相に「期待する」とした人が59%で、「期待しない」33%を大きく上回った。共同通信社の世論調査でも期待が57%を占め、「総理交代効果」あるいは「ご祝儀相場」は高い。民主党は鳩山内閣から菅内閣へと衣替えをすることで、イメージダウンを一気に盛り返した観がある。おそらくこのまま7月に予定される参院選挙になだれ込んで、過半数を制したいところだろう。
ここで振り返ってみたい。民主党はこれで万々歳なのかもしれないが、あの沖縄の「怒」は収まってはいない。むしろ辺野古への移設を閣議決定で固定化したために、この「怒」はさらに大きくうねっているだろう。日本の政治の現状は何も変わってはいない。ただ風が吹いているだけである。
⇒7日(月)朝・金沢の天気 はれ