★メディアのこと‐中‐
最近、新聞広告を読んでいると「崩壊」「消滅」という雑誌の見出しや本のタイトルが目につく。「2011年新聞・テレビ消滅」(佐々木俊尚著)という本のタイトが目に止まり、文春新書を購入した。ビジネスモデルとしての新聞やテレビはこれまでは成功したが、ユーザー側にパラダムシフト(発想の転換)が起きていて、それについていけないマスメディアは自ずと滅びる、そして「マス」という概念はもうない…。著者はそんな鋭い切り口で、新聞とテレビの行く末を畳み込んでいく。
「マス」という概念はもうない…
著書では、アメリカの事例が豊富だ。メディアの世界では、アメリカで起きている事象が3年後には日本で起きる傾向がある。その事例のいくつかを。アメリカの新聞社は経営危機にあえいでいる。その主な原因はインターネットで記事を読むようになり、新聞を購読しなくなったからだ。さらに、ネットは新聞から広告収入も奪っている。中でも、クラシファイド広告が顕著だ。日本で言えば、「売ります」「買います」「従業員募集」といった三行広告のこと。アメリカでは300億ドル(およそ3兆円)のマーケットになっていて、その半分以上を新聞が占めていた。この三行広告をインターネットで無料化したのが「クレイグズリスト」。サンフランシスコを本拠地にいまでは全米に広がり、職探し、部屋探し、ルームメイトの募集などさまざま日常で必要な情報を網羅している。月80億ページビューもある。
2004年ごろから、アメリカではクラシファイド広告が急減する。これまで新聞や雑誌の独壇場だったクラシファイド広告が無料で掲載できるようになったのだから、ひとたまりもない。著書では、クレイグズリストが本拠地のサンフランシスコの各新聞社から6500万ドル(およそ65億円)もの求人広告を奪ったとのリサーチ企業のリポートを紹介している。
もう一つ、著書から事例を引用する。紙が売れなくなったアメリカの各新聞社はインターネットでの有料記事に乗り出すが、同じような内容の記事が他紙のホームページで無料で読めるインターネットの世界ではビジネスにはなりにくい。唯一、有料モデルで成功しているのは高級紙ウォール・ストリ-ト・ジャーナル。それでも会員を獲得するために、コラムなどを無料にしたりしている。そこで登場したのがアマゾンが発売した電子ブック「キンドル」。携帯電話の無線データ通信機能が搭載されていて、文字情報ダイレクトにダウンロードできる。09年夏の新モデル「キンドルDX」は画面サイズが2.5倍と大きくなり、ニューヨーク・タイムズ=写真=やワシントン・ポスト、ボストン・グローブが参入する予定だ。3社は宅配の代替としてDXを活用する戦略で、新規購読の契約者にDXを値引き価格で提供する販促策をとっている。
著書によると、ニューヨーク・タイムズの月額配信料は14ドルに設定していて、読者104万人全員がDXにシフトしたとして1億7500万ドル(14ドル×104万人×12ヵ月)となる。同紙の編集コスト(取材から印刷、宅配)は年間2億ドルとされているものの、DXでの配信で製造と流通コストを削減できるので採算ベースに乗ることができる。ところが、電子ブックというプラットフォーラムでは、テナントのオーナーはアマゾンである。ニューヨーク・タイムズといえども店子(たなこ)にすぎない。アマゾンはテナント料(マージン)を70%も取る。すると年間売上は5200万ドルとなり、編集コスト2億ドルとはほど遠い。購読者を3・5倍にしないと採算ベースに乗ってこないのである。しかし、これが可能だとニューヨーク・タイムズ経営陣が踏んだからキンドルへとシフトしたのだろうけれども…。
問題はさらに根深い。紙面という独自のプラットフォームを失った新聞社が世論形成への影響力を保てるかどうか。人々に訴求する新聞のチカラは、紙面から湧き上がってくる見出しや記事、写真なのである。訴求力を失った新聞は単なる記事のプロバイダーにすぎない。※記事引用:佐々木俊尚著「2011年新聞・テレビ消滅」(文春新書)
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