2009年 8月 9日の投稿一覧

★生物多様性のこと

★生物多様性のこと

 盛夏のころだというのに一日中雨か曇り、朝が晴れでも昼には雨だ。太陽が照りつける夏らしい天気は数日あったかどうか。海面水温の高い状態が半年以上続くエルニーニョ現象で、日本の場合、梅雨明けの時期が遅れ、冷夏や暖冬になりやすいとか。そんな空模様を気にしながら、8月頭に、金沢大学が主催して環境イベントを打った。「2デイ・エコツアー」と銘打った「能登エコ・スタジアム2009」のこと。8月1日と2日の両日、「里山里海の生業(なりわい)と生物多様性」をテーマに開催した。

 初日は、金沢からバスで出発し、石川県七尾市の能登演劇堂で開催された「環境国際シンポジウムin能登」に参加した。ノーベル平和賞を受賞した国連組織「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)のラジェンドラ・パチャウリ議長の基調講演を楽しみにしていたが、博士は体調不良を理由に欠席。その代わり、ビデオレターが上映され、その中で「今、何かの手を打たなければ、多くの生態系が危機にさらされる」と訴えていた。翌朝は船に乗り、ぐるりと能登島を回る七尾湾洋上コースと能登島をバスで巡るコースに分かれてのエクスカ-ション。能登島のカタネという入り江にミナミバンドウイルカのファミリーの親子(5頭)がコロニーをつくっていて、船からは、時折背ビレを海面に突き出して回遊する様子を見ることができた。午後からは、奥能登・珠洲で実施されている「生き物田んぼ」を見学し、直播(じかまき)の水田で水生昆虫の調査の説明を聞いた=写真=。両日とも雨にたたられずに済んだ。

 能登の里山と里海を眺めながら、あの名著のことを思い出した。高校生のころ読んだ、アメリカのレイチェル・カーソンの「サイレント・スプリング(沈黙の春)」(1962年)。「春になっても鳥は鳴かず、生きものが静かにいなくなってしまった」の一文は脳裏に焼きついている。農薬や殺虫剤による環境汚染に警鐘を鳴らした原典ともなった。人間は衣、食、住のほか、薬剤などの必需品を何千種もの植物、動物から入手している。にもかかわらず、人は未だに乱開発や多量の農薬散布、海洋汚染や大気汚染など自然環境に過度の負荷をかけている。

 人間と自然との共生という点で、日本の里山はお手本だった。しかし、終戦後から、化石燃料を使った生活が目指すべき文明社会と喧伝され、炭や薪といった木質エネルギーは疎んじられてきた。その結果、森林は荒れ、里山から若者がいなくなった。過疎高齢化で休耕田や放置された森林がさらに増え、生物多様性が減少しているといわれている。レイチェル・カーソンは「私たちはどちらの道をとるのか」と警鐘を鳴らした。40年余りも前にである。そして、この30年で、3万種もの生物が絶滅したともいわれる。今年は、「種の起源」を著したチャールズ・ダーウィンの生誕200年に当たる。

 とはいえ、いまさら昔ながらの里山に戻ることはできない。ノスタルジーでは生きてはいけない。21世紀型の里山の生活スタイル、ないしは価値観、さらに産業イノベーションがどうしても必要なのだ。

⇒9日(日)夜・金沢の天気 あめ