★雪原の遠い記憶
雪原を見ると妙にファイトが湧いてくる。狩りがしたくなるのである。小中学生のころだ。野ウサギを狩るため、針金で仕掛けをつくった。ダイナミックだったのは、雪原を駆ける野ウサギの頭上をめがけて60センチほどの棒を投げ、野ウサギが雪に頭を埋めるのを獲った。棒が回転しながら頭上をかすめると、ビュンビュンという風を切る音を野ウサギは猛禽類(タカなど)と勘違いして、雪の中に身を隠そうとする習性を狩りに生かしたものだ。その耳を切って2枚持っていくと、森林組合の窓口では50円で買ってくれたと記憶している。
人類学者の埴原和郎氏(故人)のことを記す。東京の学生時代に埴原氏の研究室を訪ねると、いきなり「君は北陸の出身だね」と言われ、ドキリとした。その理由を尋ねると、「君の胴長短足は、体の重心が下に位置し雪上を歩くのに都合がよい。目が細いのはブリザード(地吹雪)から目を守っているのだ。耳が寝ているのもそのため。ちょっと長めの鼻は冷たい外気を暖め、内臓を守っている。君のルーツは典型的な北方系だね。北陸に多いタイプだよ」。ちょっと衝撃的な指摘だったものの、目からウロコが落ちる思いだった。もう30年余りも前の話だ。
埴原氏は、古人骨の研究に基づいた日本人の起源論が専門。とくに、弥生人は縄文人が進化したものではなく、南方系の縄文人がいた日本列島に北方系の弥生人が渡来、混血したことによって、日本人が成立したとする「二重構造モデル」を打ち立てたことで知られている。
雪原におけるファイティング。これはひょっとしてDNAが騒ぎ出すのか。ながらくシベリア大陸をさまよって、かつてはマンモスを駆っていた北方系の血か。冬は動物の動きが鈍くなる。最高の猟場が雪原なのである。雪原を見ると血が騒ぎ出す。これは遠い記憶か。
⇒18日(日)午後・金沢の天気 くもり