2007年 12月 24日の投稿一覧

☆メモる2007年‐9‐

☆メモる2007年‐9‐

 かつて、大晦日といえば岩城宏之、岩城宏之といえば大晦日だった。その岩城さんがこの年末に突如現れた。今月21日に発表された2007年文化庁芸術祭賞のテレビ部門優秀賞に、北陸朝日放送が制作した番組「指揮者 岩城宏之 最後のタクト」(55分番組)が選ばれた。去年(06年6月)、岩城さんが逝去してから1年6カ月、その存在感をいまも漂わせている。

    マエストロ岩城を撮り続けたドキュメンタリスト            

  2年前の05年12月31日、私は当時、経済産業省「コンテンツ配信の実証事業」のコーディネータ-として、東京芸術劇場大ホールで岩城さんがベートーベンのシンフォニー1番から9番を指揮するのを見守っていた。演奏を放送と同時にインターネットで配信する事業に携わっていた。休憩をはさんで560分にも及ぶクラシックのライブ演奏である。番組では指揮者用のカメラがセットしてあって、岩城さんの鬼気迫る顔を映し出していた。ディレクターは朝日放送の菊池正和氏。その菊地氏の手による、1番から9番のカメラ割り(カット)数は2000にも及んだ。3番では、ホルンの指の動きからデゾルブして、指揮者・岩城さんの顔へとシフトしていくカットなどは感動的だった。

  ライブ演奏と別に、岩城さんの表情を控え室までカメラを入れて撮影するドキュメンタリー番組のクルーがいた。北陸朝日放送の北村真美ディレクターだった。この時点で足掛け10年ほど「岩城番」をしていた。岩城さんのベートーベン連続演奏は04年の大晦日に次いで2度目だったが、この2回とも収録している。前人未到の快挙と評されたベートベーンの連続演奏にカメラを回し続けた。彼女ほど岩城さんに密着して取材したディレクターはいないはずである。その北村さんが今回、文化庁芸術祭賞の優秀賞を受賞した。

  受賞番組となった「指揮者 岩城宏之 最後のタクト」は追悼番組である。10数年余りに及ぶ映像を岩城さんの生き様にかぶせてふんだんに盛り込んだ。胃がんや肺がんと闘いながら、最後までタクトを振り続けた姿を収めた。追悼演奏が終わって、会場のステージから大型の遺影がゆっくりと降ろされるシーンは、かつて指揮台にいた生前の姿を彷彿させて胸を打つ。追悼演奏といえども、遺影の最後の仕舞いまで見届けたいという、番組にかけるディレクター、カメラマンの執着心だろう。

  ドキュメンタリストというのは決して映像をあせらない。チャンスを待つ。そうした目線の確かさというのは番組づくりにも表れるものだ。指揮者・岩城宏之をその死まで追って、人生と芸術を描いた。芸術祭賞にふさわしい番組ではなかったか。

  最後に番組の中から印象に残った岩城さんの言葉。「ベートーベンの1番から9番は個別ではそれぞれ完結しているんだけれど、連続して指揮してみると巨大な1曲なんだ」。ベートーベンへの長い道のりを歩いた指揮者からこぼれた、なんと澄み切った、奥深い言葉だろうか。

※【写真】2004年5月、オーケストラ・アンサンブル金沢のベルリン公演

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