☆メディアのツボ‐49‐
3月25日の能登半島地震を受けて、金沢大学震災対策本部に学術調査部会が立ち上がったことは以前、このブログで述べた。今回はその続き。学術調査には自身のテーマとして「震災とメディア」を設定した。今回の震災で被害がもっとも大きかった輪島市門前町は住民の47%が65歳以上、高齢化が進む地域である。この地域で震災がメディアがどのような果たした役割を果たしたのだろうかとの視点で調査に入っている。
解けた疑問
被災者へのアンケート調査や、マスメディアへのヒアリングなどを重ね、全体像を浮かび上がればと考えている。しかし、足元がおぼつかない。アンケート調査では、学生の協力を得ようと先日、講義室で100人ほどの学生に「被災者の生の声を聞いてみよう」と呼びかけたが、反応はいまひとつ。19日と20日に開くアンケートの事前説明会では学生が集まるだろうかと不安もよぎる。何しろ新学期で、学生は何かと忙しそうだ。
ところで、マスメディアへのヒアリングを進める中で、解けた疑問が一つあった。その疑問とは、3月25日の地震の直後、私がとっさにつけたテレビはNHK総合だった。「災害のNHK」が無意識のうちに脳裏に刷り込まれているようだ。画面を見ると、能登半島沖が震源地で、輪島では震度6強というのに、NHK金沢放送局の映像がなかなか出てこない。最初の映像はNHK富山放送局の局内の揺れであったり、天気カメラが撮影した富山市内の様子だったりした。石川県金沢市に住む身とすれば、NHK金沢の映像が出ないので、「さてはNHK金沢に大きな抜かりがあったでは」と思ったりもした。これは「災害のNHK」を刷り込まれ、いち早くNHKにチャンネルを合わせた石川県の視聴者の多くが感じたことに違いない。
そこで、きのう(17日)NHK金沢をヒアリングで訪ねた折、トップの放送局長に率直に切り出して聞いてみた。「地震情報がカットインしてから、なかなか金沢の映像が出ませんでした。何か理由があったのでしょうか」と。すると、「そのことはよく言われ困惑したことなのですが…」との前置きで、以下の説明をいただいた。地震発生時、震度6強の奥能登の映像を入手するまでにある程度の時間がかかる。すると手早く映像を出せるのは県庁所在地に位置する放送局となる。そうなると石川県の県庁所在地の金沢放送局からとなる。が、金沢市は震度4で、富山市は震度5弱だった。つまり、NHKの本局(東京)では当然、富山放送局の揺れの方が大きいと判断し、「能登の映像が入るまでは富山でつなげ」と指示を出したわけである。
震度4の金沢放送局より、震度5弱の富山放送局の局内の映像や市内の映像の方が迫力がある。事実、富山県内でも多数の負傷者が出た。能登は石川と連想すると、当然、石川県に住む視聴者は金沢放送局の映像が先に出ると思ってしまう。ところが、地震は広域だ。テレビ局は見せる映像をどこが持っているかで判断するので、まず揺れが大きいほうの富山にとなったの当然だった。その後、NHKの映像にはその倒壊した輪島市の寺社や民家の凄まじい光景が次々と入ってきて、圧倒されることになる。
近くであるがゆえに見えないこと。遠く離れているからよく見え、判断できることがある。今回は、「近くて見えないから生じた疑問」だったようだ。ぶしつけな質問にもかかわず、丁寧に答えていただいた放送局長に感謝したい。(※写真は、NHK金沢放送局の正面玄関に立つ震災の義援金受付の看板)
⇒18日(水)朝・金沢の天気 くもり