⇒メディア時評

☆身を切らずして、安易に増税と言うなかれ

☆身を切らずして、安易に増税と言うなかれ

   ことしの政権の行く末を占うような世論調査が次々と出ている。テレビ朝日系ANNの1月の世論調査(今月21、22日実施)によると、岸田内閣の支持率が政権発足以来、最も低い28.1%となった。前回調査(12月17、18日)より3ポイントの下落。不支持率は47.5%で前回より4.2ポイント上昇した。防衛費の財源として段階的に増税する方針については「支持しない」が58%、「支持する」が30%となっている。    

   朝日新聞社が実施した1月の世論調査(今月21、22日)によると、内閣支持率は35%だった。前回調査(12月17、18日)は31%で岸田内閣発足以来最低を記録したが、今回は4ポイント上昇しやや持ち直した。不支持は52%で前回より5ポイント減少した。防衛費を増やすために、およそ1兆円を増税する方針については、「賛成」が24%、「反対」が71%だった。

   産経新聞社とフジテレビ系FNNの合同世論調査(今月21、22日)によると、内閣支持率は37.7%で、前回調査(12月17、18日)より0.7ポイント増だった。7ヵ月連続で下落していた内閣支持率が下げ止まった。不支持率は前回比0.6ポイント増の58.1%だった。政府が防衛力強化のため防衛費を大幅に増額する方針を決めたことについては「賛成」が50.7%で、「反対」42.8%を上回ったものの、必要な財源を法人税や所得税、たばこ税を段階的に増税して賄うことについては「反対」が67.3%を占め、「賛成」28.9%だった。

   時事通信の世論調査(12月13-16日)によると、内閣支持率は26.5%で、前回調査(12月9-12日)より2.7ポイント下落。政権維持の「危険水域」とされる20%台は4ヵ月連続となった。不支持率は43.6%で前回より1.1ポイント上昇した。防衛力強化に伴う増税方針の表明や一段と進む物価高などが影響したとみられる。

   きょう午後2時からのNHKの国会中継で、岸田総理は施政方針演説を行った=写真、総理官邸公式サイトより=。去年12月、安保関連3文書を改定し、「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有を宣言。新年度から5年間の防衛費を総額43兆円と1.5倍にし、増税で年1兆円強を捻出する方針も決めている。この増税が内閣支持率の低迷の要因になっていることは上記の世論調査の数字でも見て取れる。

   国会議員には毎月給与が129万円、そして300万円以上のボーナスが年に2回支給される。「第二の財布」もある。給与とは別に月額100万円の「調査研究広報滞在費」が支給される。領収書は不要で、使途報告や残金返還の義務はない。さらに、「立法事務費」では所属の党を通じて議員一人当たり65万円。これも領収書の提出や使途報告の必要はない。国会で寝ていても、欠席しても年間4200万円余りが支給される。

   岸田総理がこの議員の第二、第三の財布をカットすると宣言し、増税に踏み込むのであれば国民の理解が得られ、内閣支持率も上がるだろう。身を切らずして、安易に増税と言うなかれ。

⇒23日(月)夜・金沢の天気    はれ

★自虐ネタ、団塊応援・・・新年の広告メッセージが面白い

★自虐ネタ、団塊応援・・・新年の広告メッセージが面白い

   年始の新聞広告は例年のごとく派手さが目立った。笑えるもの、考えさせるもの、目立つものの何が言いたいのか分からないと思ってしまうものなどさまざま。いくつか紹介すると。

   この広告は毎年見ているが、関西漫才のように自虐的で笑える。入試願書の受付開始日と合わせた近畿大学の広告(3日付)『上品な大学、ランク外。』=写真・上の左=。同大は「THE世界大学ランキング2023」で日本の私立総合大学の中で慶応大学と並ぶ1位にランクされたものの、「進学ブランド力調査2022」(調査・リクルート進学総研)での「上品な大学ランキング」ではトップ10から外れている。それでも、「めっちゃうれしいやん!」「お上品限定に見えないなら、むしろ本望!」と。

   他の大学ランキングでは「エネルギッシュである」「チャレンジ精神がある」「コミュニケーション能力が高い」がぞれぞれ1位(※日経BPコンサルティング「大学ブランド・イメージ調査2021-2022」)なのだとPRしている。研究資金を自ら稼ぎながら挑戦し続けて成功させたクロマグロの完全養殖をその事例に挙げている。ちなみにバックに映っている学生は近大生200人の顔写真をAIに学習させて合成した近大生の特徴のある顔のようだ。データとAIを駆使し、良い意味で「くどい」文章回しは見事だ。

   日経新聞(3日付)をコンビニに買いに行った。すると、紙面の一面には「日本経済新聞」と題字はあるものの、赤や青、緑、黄色の斑点が散らばっている=写真・上の右=。よく見ると「本日は特別紙面でお届けします。通常紙面は2枚目からになります」と小さく記してある。ルイ・ヴィトンの広告にくるまれた朝刊なのだ。紙面をめくると、これもルイ・ヴィトン広告。「Yayoi Kusama」とあったので草間彌生をネット検索すると、ルイ・ヴィトンと草間彌生がコラボレーションで作品を展示する、機関限定のポップアップストアを今月2日に東京・原宿でオープンしていて、そのPR広告のようだ。場所は明治神宮の近くなので、初詣客でにぎわっているのではないだろうか。

   5日付の宝島社の見開きの全面広告も深い味わいがある。『団塊は最後までヒールが似合う。』=写真・中=。黒いタイツにハイヒールを履いた中尾ミエが真ん中に鎮座する。第一次ベビーブームと呼ばれた戦後の1947年から49年に生まれた世代は「団塊の世代」とも称される。この世代が後期高齢者になっている。キャッチコピーの「ヒール」は「悪役」の意味。団塊の世代は個性派が多く、日本の学生運動を主導した世代でもある。宝島社は「団塊よ、どうか死ぬまで突っぱって生き切ってくれ。他の世代を挑発し続けてくれ」とメッセージを送っている。共感する。

   意味がよく理解できなかったのが、トヨタイムズの見開きの全面広告(1日付)=写真・下=だった。トヨタ自動車がネットやCMなどを通じて独自発信するメディアだ。キャッチコピーが「なぜトヨタは24時間耐久レースに挑み続けるのか?」「いつまでハイブリッドをつくり続けるんだ・・・と言われる今、新型プリウス投入の意味」など、見栄えは強烈だが、言葉の深みや面白さというものが今一つ伝わってこない。せめて、ソニー・ホンダが開発しているEVに対抗意識を燃やしてほしかった。

⇒6日(金)夜・金沢の天気   くもり

★「貯蓄から投資」元年、出鼻をくじく株価下落

★「貯蓄から投資」元年、出鼻をくじく株価下落

   仕事始めは波乱の幕開けだった。東証の初日のいわゆる、大発会が開催。読売新聞Web版(4日付)によると、ゲストとして大発会に参加した鈴木財務大臣は、「NISA」(少額投資非課税制度)の拡充政策に触れ、「家計の投資が企業の原資となり、企業価値の向上で家計の金融資産所得が拡大する好循環を実現したい。今年は 卯年うどし 。飛躍の大きな土台となることを期待する」とあいさつし、鐘を打ち鳴らした。

   ところが、大発会後に始まった取り引きは、ほぼ全面安の展開で株価は一時430円値下がりした。終値は年末と比べて377円安い2万5716円で、厳しい滑り出しとなった。鈴木大臣が述べたNISAへの想いを初っ端からくじくような株価の値下がりだ。(※写真はJPX=日本取引所グループのフェイスブックより)

   日本の家計金融資産1700兆円の52%、900兆円が銀行預金として積み上がっている(金融庁試算・2017年4月)。若者からシニアまで資産運用の熱は高まっているといわれ、政府は個人マネーを刺激する政策として、NISAを拡充して恒久化することを昨年末にまとめ、ことし2023年を「貯蓄から投資」を促す元年とすると強調していた。その矢先の株式市況がこれだ。

   なぜ、初っ端から値下がりしたのか。日経新聞Web版(4日付)は「世界景気不安、市場揺らす 日経平均9ヵ月ぶり安値」の見出しで、「2023年の金融市場は世界景気の悪化懸念から株安と商品安で幕を開けた。新年最初の取引となった4日の東京株式市場では外需依存度の大きい銘柄が売られ、日経平均株価が9カ月半ぶりの安値水準に沈んだ。国際商品市場では需要の減退懸念から原油や非鉄金属などに売りが先行した。新型コロナウイルスの感染拡大による中国経済の先行き不透明感も漂い、投資家はリスク回避の姿勢を強めている」と述べている。

   世界景気の悪化が懸念されるとなれば、そう簡単には相場は回復しないのではないか。JETRO公式サイト「ビジネス短信」(2022年10月4日付)で、「過去最高のインフレで経済見通しを下方修正、2023年はマイナス成長に」の記事を掲載している。ドイツの主要経済研究所の経済見通しのまとめとして、2022年の年平均インフレ率を8.4%と予測、2023年はさらにインフレ率が上昇し、年平均8.8%と予測。2024年は再び落ち着きを取り戻す、としている。

   いまインフレと呼ばれている状況は需要過多というより、供給不足によるものではないだろうか。新型コロナウイルス感染(パンデミック)により世界経済が一時的にロックダウン状況に見舞われたものの、その後、世界が同時に経済活動を再開したことによるモノの供給不足ともいわれる。賃上げがあり、物価も高騰するというこれまでのインフレとは少々、次元が異なる。物価だけが高騰している。いうならば、「悪いインフレ」が加速している。日本の経済状況は典型的な事例だ。

   さらに、アメリカのFRBの引き締め強化による世界的なリスクオフ政策に日本も巻き込まれている。金利上げとなれば、外需依存度の高い企業の業績が懸念される。NISAがこのような株式や経済状況で今後、「貯蓄から投資」へのマインドを鼓舞できるのか、どうか。

⇒4日(水)夜・金沢の天気  ゆき

☆2023卯年・飛躍の年に ~社会~

☆2023卯年・飛躍の年に ~社会~

   金沢の正月3が日は寒波や積雪もなく、わりと穏やかな天気続いた。あす4日は仕事始めなので、年末年始をふるさとや行楽地で過ごした人たちのUターンラッシュなのか、国道8号や北陸自動車道の金沢西ICの周辺はずいぶんと混み合っていた。

   ~エッと驚くジャイアントスイグン、ホッと和むアマメハギ~

   エッと驚くニュースもあった。地元メディアによると、去年3月に石川県知事選に当選した元プロレスラーの馳浩知事が元旦に東京の日本武道館で開催されたプロレス興行の試合に参戦し、得意技のジャイアントスイグンなどで会場を沸かせた、という(3日付・北國新聞、北陸中日新聞)=写真・上=。正月の休暇中だったとはいえ、周囲は当然、けがなどの負傷を心配し止めるよう進言したただろう。それを押し切って、リングに立ったようだ。   

   去年8月4日に県内を襲った豪雨のとき、馳知事は日本三名山の白山(標高2702㍍)の国立公園指定60周年を記念し、知事自ら白山の魅力をPRするために登山。途中の山あいで孤立状態になるというハプニングに見舞われている。気象情報を収集した上で、登山を中止すべき判断もあったのではないかと、当時、知事の登山は物議を醸した。馳氏のジャイアントスイングに周囲が振り回されている印象だ。

   能登の正月の行事といえば、輪島市や能登町に伝わる厄除けの伝統行事「アマメハギ」だ。新暦や旧暦で開催日が地域によって異なる。輪島市門前町皆月では毎年1月2日に行われ、天狗や猿などの面を着けた男衆が集落の家々を回る。当地では、アマメは囲炉裏で長く座っていると、足にできる「火だこ」を指す。節分の夜に、鬼が来て、そのアマメをハギ(剥ぎ)にくるという意味がある。木の包丁で木桶をたたきながら、「なまけ者はおらんか」などと大声を出す。すると、そこにいる園児や幼児が怖がり泣き叫ぶ。その場を収めるために親がアマメハギの鬼にお年玉を渡すという光景が繰り広げられる。(※写真・下は、輪島市観光科・観光協会公式サイト「輪島たび結び」より)

   能登半島のアマメハギや秋田・男鹿半島のナマハゲは2018年にユネスコの無形文化遺産に日本古来の「来訪神 仮面・仮装の神々(Raiho-shin, ritual visits of deities in masks and costumes)」として登録されている。能登にはユネスコ無形文化遺産だけでなく、FAOの世界農業遺産(GIAHS)という国際評価もある。SDGsに熱心に取り組む自治体もある。「能登は上質なタイムカプセル」(坂本二郎・金沢大学教授)と評価されている。伝統文化や行事、産業を持続可能なカタチで引き継ぐ文化風土が能登にはあり、そうした風土がグローバルな価値として再評価を受けている。

⇒3日(火)夜・金沢の天気     くもり時々あめ

★2023卯年・飛躍の年に ~外交~

★2023卯年・飛躍の年に ~外交~

   北朝鮮がきのう新年早々に弾道ミサイルを発射した。防衛省公式サイト(1日付)によると、1日午前2時50分、最高高度はおよそ100㌔、飛行距離は350㌔で、朝鮮半島東側の日本のEEZ外に落下したと推定される。北朝鮮は前日の31日も弾道ミサイル3発を発射、去年は37回、計70発を日本海に向け発射している。また、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」(1日付・Web版)によると、党中央委員会総会で、金正恩総書記は演説し、戦術核兵器を大量生産する必要性を述べ、「核弾頭の保有量を幾何級数的に増やす」と方針を示した。

   ~厄介な隣国にどう対応 岸田内閣の起死回生の一発は~

   脅威を振りかざすのは北朝鮮だけではない。中国も沖縄県の尖閣諸島周辺の領海のすぐ外側にある「接続水域」をうろうろしている。先月29日午前9時現在、中国海警局の船4隻が接続水域を航行しているのが確認されている。中国当局の船が接続水域を航行した日数は去年は334日と、2012年9月11日に日本政府が尖閣諸島を国有化して以降、最も多くなった。

   そして、ウクライナ侵攻を続けるロシアも隣国だ。そもそも、中国とロシアがなぜ国連安保理の常任理事国なのか。中国の場合。もともと常任理事国は第2次世界大戦の戦勝国である国民党の中華民国だった。それが中国共産党に追われ台湾に逃れる。アメリカのニクソン大統領の中華人民共和国への訪問が公表され、国際社会がにわかに動いた。1971年10月のいわゆる「アルバニア決議」によって、国連における中国代表権は中華人民共和国にあると可決され、中華民国は常任理事国の座から外され、国連を脱退することになる。代わって中国が国連に加盟し、台湾の常任理事国を引き継ぐことになった。常任理事国として相応しいとする正当性はどこにあったのだろうか。

   ロシアも同じだ。戦勝国であるソビエトが崩壊した。それを、ロシアが常任理事国として拒否権を持ったまま引き継いでいる。それが、ウクライナ侵攻という行為があっても国連安保理は機能不全、という現実問題を生み出している。

   話は変わる。岸田総理はことしとても忙しそうだ。G7の議長国を務め、5月には広島市でサミットを開催する。サミットでは当然、ウクライナ情勢をはじめ、唯一の戦争被爆国として「核兵器のない世界」の実現に向けたメッセージを発信することになるだろう。

   ただ、最新の世論調査はじつにさえない。共同通信社の調査(12月17、18日)で、内閣支持率は33.1%と発足以来最低だった。「危険水域」とされる20%台まであとわずかだ。得意の外交で起死回生の一発を放つことができるのか、どうか。

(※写真は、広島県庁公式サイトに掲載されているG7サミット開催をPRする湯崎知事=左=ら)

⇒2日(月)夜・金沢の天気     あめ

☆2023卯年・飛躍の年に ~経済~

☆2023卯年・飛躍の年に ~経済~

   景気が良いときは、市場にお金が回り、経済全体が活性化するというこれまでの常識が崩れている。何しろ、経済の活性化は人件費と物価などが同時に値上がりしたものだが、現在のインフレと呼ばれている状況は物価だけが高騰している。これは一時的に新型コロナウイルス感染(パンデミック)により世界経済がロックダウン状況に見舞われたものの、その後、世界が同時に経済活動を再開したことによるモノの供給不足ともいわれる。これが物価に跳ね返っている。

            ~キャッシュレス経済と「タンス預金」の話~

   アメリカのFRBの金融引き締めやインフレ懸念を背景に、世界の利は上昇傾向にある。日銀は先月20日に一転して金融緩和策を修正し、長期金利の変動幅の上限を0.5%程度に引き上げた。これが「黒田サプライズ」となり、株価が下がり為替が円高に変動した。日本の経済はこれからどうなるのか。

   一つ注目しているのが、市場金利の上昇と住宅ローン金利、そして住宅価格だ。すでに建築資材などの価格が一斉に上がっている。当然、新築住宅を中心に価格は高くなっている。さらに、大手銀行などは住宅ローン金利を今月から引き上げる。変動型の金利は据え置いたものの、将来変動金利が上がるリスクもある。「家は人生最大の買い物」との言葉がある通り、価格と住宅ローンが上がれば、購入や新築を考えている人々は二の足を踏むだろう。これが日本の景気にってマナイナ要因になるかもしれない。

   ただ、2023年という年には経済的な異変が起きるかもしれない。以下、勝手な憶測だ。50兆円ともいわれる「タンス預金」がどう動くか、だ。というのも、2024年度から1万円札のデザインが福沢諭吉から渋沢栄一に、5千円札は樋口一葉から津田梅子に、千円札は野口英世から北里柴三郎になる。1984年に聖徳太子から福沢諭吉になったので、40年ぶりだ。この新札発行前にタンス預金が住宅投資などに動けば、経済効果に寄与するかもしれない。また、新紙幣発行にともなう、金融機関のATMやCD、さらに自動販売機の改修や買い替えに投入されるコストを考えると、これも経済効果だ。

   ただ、キャッシュレス経済はこれからさらに進むだろう。現金は匿名性が高く、決済情報が記録として残らないためにマネーロンダリングの温床とまで言われ、EUやスウェーデン、シンガポールなどではすでに高額紙幣を廃止する流れとなっている。ひょっとして、日本でも来年の新札が最後の1万円札になるかもしれない。正月の放言ではある。

(※写真は、国立印刷局東京工場で2021年9月1日に行われた新一万円札の印刷開始式の模様=国立印刷局公式ホームページより)

⇒1日(土)夜・金沢の天気     くもり時々あめ

★目の当たりの『戦』この一年 ~その4~

★目の当たりの『戦』この一年 ~その4~

   北朝鮮は本気、やる気なのだろう。その実戦配備に向けた発射実験だ。防衛省は、北朝鮮がきょう31日午前8時1分と14分、15分に、平壌近郊から北東方向の日本海に向けて計3発の弾道ミサイルを発射、ミサイルはそれぞれ最高高度100㌔程度で、約350㌔飛翔したと推測されると発表した(31日付・同公式サイト)。日本のEEZ外に落下したと推測される。北朝鮮による弾道ミサイルの発射は今年だけで37回、計70発となり、異例の頻度だ。

   ~北朝鮮が実『戦』配備へ 移動可能、すぐ発射の弾道ミサイル~  

   冒頭で「実戦配備」と述べたのは、隣国への脅しの打ち上げではなく、弾道ミサイルの性能向上のための発射実験を繰り返している。今月15日に金正恩総書記の立ち会いのもと大出力の固体燃料エンジンの燃焼実験に初めて成功したと発表している(12月月16日付・労働新聞Web版)。固体燃料ロケットは、北朝鮮がこれまでのICBM発射実験で使用した液体燃料ロケットよりも安定性に優れ、ICBMをより容易に移動することが可能で、打ち上げにかかる時間も短縮できるとされる。北朝鮮は2021年からの「国防5ヵ年計画」で固体燃料のICBM開発を重点目標に掲げており、労働新聞の記事では、「最短期間内に別の新しいタイプの戦略兵器が出現することを見越して彼らを温かく励ました」と論評している。

   さっそく、北朝鮮は固体燃料エンジンのロケット化を進めているようだ。今月23日に日本海に向けて短距離弾道ミサイル1発を発射。その前の今月18日に偵察衛星開発のための実験と主張し、中距離弾道ミサイル2発を日本海に向けて発射している。そして今回と併せ、矢継ぎ早に3回の固体燃料ロケットの実践訓練ではないだろうか。あくまでも推測である。(※写真は、今月18日、北朝鮮が 発射した中距離弾道ミサイル。最高高度は550㌔程度で、500㌔程度飛翔したと推定されている=19日付・労働新聞Web版)

   日本政府は今月16日の閣議で「国家安全保障戦略」など新たな防衛3文書を決定した。敵の弾道ミサイル攻撃に対処するため、発射基地などをたたく「反撃能力」の保有が明記され、日本の安全保障政策の大きな転換となる。「反撃能力」は「敵基地攻撃能力」とも呼ばれる。このため、国産ミサイル「12式地対艦誘導弾」の改良型の開発・量産や、アメリカの巡航ミサイル「トマホーク」の取得など、防衛力の抜本的な強化策を盛り込んでいる。

   先の北朝鮮の動きと照らし合わせすると、反撃能力はどこまで効果があるのか。固体燃料ロケットの開発でICBMをより容易に移動することができるとなれば、敵基地攻撃は意味を成すのだろうか。分かりやすく言えば、移動したICBMを追尾し、発射前にたたくことはできるのだろうか。北朝鮮の実戦配備に向けた動きは2023年もさらに強まるだろう。日本海側に住む一人としての懸念である。

⇒31日(土)午後・金沢の天気    くもり時々あめ

☆目の当たりの『戦』この一年 ~その3~

☆目の当たりの『戦』この一年 ~その3~

   「オール・オア・ナッシング」の驚きの事態が中国で顕著になっている。メディア各社の報道によると、ゼロコロナ政策を掲げてきた中国政府が今月7日に大転換し、新型コロナウイルスの感染者数と死者数が急増しているようだ。緩和政策は、それまでの「白紙」抗議デモによる妥協との見方もあるが、変異ウイルスにより感染力が強まって、ゼロコロナ政策そのものが機能しなくなったことや、工場の生産停止などで「世界の工場」の地位が失墜するという経済的な不安の高まりなどが指摘されている。

    ~大気汚染とコロナ感染、中国の『戦』い~

   そもそも中国はゼロコロナ政策になぜこだわってきたのか。2019年暮れに発生した武漢市での新型コロナウイルス感染が、2020年1月の中国の春節の大移動で、日本を含め世界各地にコロナ感染者が拡大したとされる。さらに、その発生源について「2020年2月6日、華南理工大学の肖波涛教授は、このウイルスについて『恐らく武漢の研究所が発生源だろう』と結論付けた論文を発表した。しかし中国政府はコロナの発生源に関する研究を厳しく制限しており、同教授は論文を撤回した」(2021年5月27日付・ウォールストリート・ジャーナルWeb版日本語)。こうした流れから読めることは、ゼロコロナという独自の防疫政策の優位性を誇示し、発生源は中国ではないと言い逃れしたかったのではないか。

   それにしても、中国当局の発表では、政策を転換した今月7日以降の死者数は10人、2020年のパンデミック発生以降の公式な死者数は今月28日時点で5246人、という。メディアの報道によれば、基礎疾患があり死亡した場合はコロナによる死者数にカウントしないようだ。

   以下は、あくまでも憶測だ。コロナ感染で中国で死者が多数出ているとされる、その基礎疾患とは何か。気になる言葉がある。中国のコロナ患者が死亡でキーワードに上がっているが「白肺」だ。肺炎になると、レントゲンでは肺が白く写る。コロナ感染で呼吸系疾患が重症化し、機能不全に陥り死亡するケースだ。中国は大気汚染が深刻で、呼吸器系疾患の患者が多いと聞いたことがある。2012年8月に浙江省杭州市での国際ワークショップに訪れた折、ガイドの女性から聞いた話だ。(※写真は、2008年1月に上海を訪れたときに撮影したもの)

   中国の大気汚染の原因の一つは、石炭火力発電所に先進国では当たり前の脱硫装置をつけるが、中国では発電施設の増強が優先され設置が遅れている。発電施設の増強が優先され、その結果、上海などの大都市やその周辺では、肺がんやぜんそくなどを引き起こす微小粒子状物質「PM2・5」の大気中濃度が高まっているとされる。

   中国では大気汚染でもともと呼吸器系疾患が広まっている上に、新型コロナウイルスの感染で肺炎症状などが悪化、重症化するケースが増えているのだろうか。現在ではPM2・5を排出する工場の稼働率も下がっていることだろう。ただ、呼吸器系疾患を以前から持ち続けている人々にとっては気の抜けない日々と察する。

⇒30日(金)午後・金沢の天気   くもり時々あめ    

★目の当たりの『戦』この一年 ~その2~

★目の当たりの『戦』この一年 ~その2~

   もう39年も前、大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』を観た。太平洋戦争をテーマにしているのに、戦闘シーンがまったくない、日本軍の俘虜(ふりょ)収容所を舞台にした映画だった。いま、この映画のタイトルを思い出したのは、BBCニュースWeb版(今月25日付)のニュース。ロシアによるウクライナ侵攻に対して、ゼレンスキー大統領が国民に呼びかけたクリスマスメッセージだった=写真=。

   ~ウクライナ反転攻勢 『戦』場のメリークリスマス~

「”We will celebrate our holidays! As always. We will smile and be happy. As always. The difference is one. We will not wait for a miracle. After all, we create it ourselves.”(意訳:このクリスマス行事をいつものように祝おう! 微笑んで幸せをかみしめよう。いつものように。ふだんとの違いはひとつ。私たちは奇跡を待たない。というのも、奇跡は自分でつくるものだからだ)」

   ウクライナではロシアと同じ1月7日をクリスマスとしてきたが、ロシアによる侵攻への反発から、ウクライナ正教会は12月25日のクリスマス礼拝にシフトした(26日付・NHKニュースWeb版)。ゼレンスキー氏は「 “We endured at the beginning of the war. We endured attacks, threats, nuclear blackmail, terror, missile strikes. Let’s endure this winter because we know what we are fighting for.(意訳:戦争が始まって、私たちは耐え抜いた。攻撃や脅しや核の脅迫、テロ、ミサイル攻撃を耐え抜いた。今またこの冬も耐え抜こう。私たちは、自分が何のために戦っているか分かっているのだから)」と呼びかけた(25日付・BBCニュースWeb版)。じつに力強いメッセージだ。

   300日余り経過したウクライナ侵攻の戦況はどうか。ウクライナ軍は、ロシアに支配された領土の奪還を目指して反転攻勢を続けていて、このうちロシア軍がことし7月に全域の掌握を宣言した、東部ルハンシク州では、要衝クレミンナの奪還に向けて攻勢を強めている(29日付・NHKニュースWeb版)。

   戦況はまだ見通せないが、仮にウクライナが白旗を掲げても、ロシアが勝利したと言えるだろうか。「偽旗」を掲げて一気にウクライナの領土に踏み込んだことを世界の多くの人々が認識している。これを国際世論は許すだろうか。ロシアは「ならず者国家」に転落したことは間違いない。

⇒29日(木)午前・金沢の天気     くもり時々あめ   

☆目の当たりの『戦』この一年 ~その1~

☆目の当たりの『戦』この一年 ~その1~

   毎年この一年の世相を表す漢字一文字が京都の清水寺で発表され、ことしの漢字は『戦』だった。なるほど、この文字を眺めるといろいろなことを思い浮かべる。世情や身の回りの一年を自身の感覚で振り返ってみたい。題して「目の当たりの『戦』この一年」。

   ~近所のドラックストアに見る熾烈なシェア争い、その『戦』略~

   身近に感じる「戦い」がある。ドラックストアがまるで、コンビニのように乱立しているのだ。地元・石川県白山市に本社がある東証上場企業の「クスリのアオキ」が気が付けば自宅に近くに3店舗もある。さらに、同じ「スギ薬局」もいつの間にかできていた。自宅近くの両店舗は距離にして200㍍ほどだろうか=写真=。素人目で見ても、熾烈なシェア争いのように見える。

   アオキは石川県内だけで97店舗ある。さらに愛知県に本社を置くスギ薬局は2020年に金沢に初めて3店舗を開設。2024年2月までに北陸で一気に100店舗を計画している(同社公式サイト)。スギ薬局は店舗数だけでなく、店舗の多様化を強調している。「クリニック併設型店舗の出店や、地域の在宅医療における訪問調剤サービスなど、北陸エリアの地域医療振興にも貢献してまいります」(同)と。

   ドラッグストアチェーンのこうした強気の経営戦略は超高齢化社会を迎えるマーケットの主導権を握る発想かもしれない。スギ薬局の戦略通り、高齢化社会のニーズをビジネスに結びつける対応力と多様性がこの業界にはある。ドラッグストアと食品スーパ-、ドラッグストアと介護・診療施設の併設、あるいはドラッグストアと家族葬を中心とした葬儀場もあり、かもしれない。

   ドラックストア市場は拡大している。市場規模は7兆3千億円で年々増えている(2021年・経産省調査)。業界は、地域を絞って集中的に出店する戦略で、域内の市場占有率を一気に高めるドミナント展開を狙っているのだろう。金沢はその戦場の一つなのだ。

⇒28日(水)夜・金沢の天気    くもり