⇒メディア時評

★すがすがしい謝罪

★すがすがしい謝罪

   自民党の岡田直樹参院議員(石川県選挙区)がテレビ朝日の番組「報道ステーション」で事実に反する内容が取り上げられたとして、6月17日、放送法に基づく訂正放送と謝罪を求める通知書をテレビ朝日あてに送っていた問題は、「報道ステーション」(4日放送)の番組の中で古舘伊知郎キャスターが岡田氏に謝罪し、一応けりがついたかっこうだ。

     いきさつはこうだった。6月10日、北朝鮮への経済制裁を検討する参院拉致問題特別委員会で、参考人として呼んだ拉致被害者の家族代表の横田滋さん夫妻に、岡田氏は「聞くに忍びないことをお聞きしますけれども」と夫妻の心境を気遣いながらも、北朝鮮に経済制裁をすれば、めぐみさんが本当に殺されるかもしれない、その覚悟のほどはどうですか、とたずねた。それに対し、横田氏は「それを恐れていれば結局このままの状況が続く」と経済制裁を強く求めた。岡田氏とすれば、「家族はリスクを覚悟して経済制裁を求めている。だから、政府もやるべきだ」というセオリーで、慎重な言い回しだった。これには、横田夫妻も、参考人として発言の機会が与えられたことに対して、岡田氏に感謝をしていた(6月16日付「救う会全国協議会ニュース」)。

    ところが、横田さん夫妻が参考人として出席した特別委員会の様子をニュースとして取り上げた10日夜の「報道ステーション」で、古舘キャスターが、岡田氏の質問に対し、「北をとっちめたいと思うあまり、まるで非常に苦しい立場にいるご夫妻に、この覚悟はありやなしやと聞いているふうに聞こえる」などとコメントし、「無神経な質問」と決めつけたことから、岡田氏は「事実とは違う、名誉を毀損された」と謝罪と訂正放送を求めていた。

    確かに映像の一部だけを見れば、無神経な質問に見えるかもしれない。しかし、前後の隠れた文脈をきちんと伝えてこそニュースとしての論理が成立するのである。自分に都合のよい部分の映像を抜き取って構成すれば、ただのプロパガンダ映像である。

    謝罪が言い訳がましかったりすると、謝罪の価値が半減するどころか、かえって相手を反発させることになるものだ。その点、4日の古舘キャスターの「訂正」は「前後(の文脈)を忖度(そんたく)せずに発言してしまった」「今後は、ご本人の真意を問いただし、その上でコメントしたい。岡田議員および関係者に多大な迷惑をかけたことをおわびします」と素直に謝罪していた。見ていて違和感はなかった。かえって、「古舘は成長したのではないか」と思わせるほど。すがすがしい謝罪だった。

 ⇒5日(火)午前・金沢の天気  雨

☆NHKのクッキー

☆NHKのクッキー

   先日、NHK金沢放送局の中継が金沢大学角間キャンパスの記念館「角間の里」であり、取材に協力したお礼にとクッキーをいただいた。缶入りで、NHKの焼印入りのクッキー=写真=も。お菓子をいただいたからという訳ではないが、新聞(30日付)で掲載された「受信料制見直しも」の記事についてはNHKにちょっと同情する。

   記事によると、政府の規制改革・民間開放推進会議は今月末にまとめる中間報告に、NHKを念頭に置いた「公共放送のあり方(受信料制度の見直し)」を盛り込む方向で検討に入り、地上波放送で、受信料を支払った世帯にだけ見せる「スクランブル化」の実現に向けた議論を行うというのだ。受信料を支払っている人と不払いの人との間で生じている公平性を保つため、スクランブル化の導入は不可欠という。

   NHKの受信契約数は昨年度末で初めて前年度割れし、前年度比28万件減の3662万件。受信料収入は74万件に達した不払い・保留の影響で前年度比1.1%減の6410億円だった。番組プロデューサーによる横領事件など一連の不祥事に対する視聴者の怒りが具体的な数字として表れてきたのは確かだ。

   しかし、視聴者が怒っているのは不払いの人とそうでない人のアンバランスではない。「ピンと背筋を立てて国営放送の使命を全うせよ、綱紀をただせ」と視聴者は言っているのだ。私自身は、現在の受信料収入ですべて賄うコスト改革を行い、税金を使わない経営をせよ、と言いたい。これが問題ともなっている政治家の介入をまねかない唯一の方策だ。また、NHKの防災・災害報道は情報収集力、持久力など民放は真似できない。「いざというときのNHK」であってほしい。

   スクランブルをかけるかけないの論議になると、実は地滑り的な受信料の不払い運動が起きる可能性があると想像する。「私はNHKを見ていない」と言う視聴者でも多少は見ているものだ。だから不払いにしようかどうかと迷っていても結局は払っている。スクランブルはそういう迷っている層の背中を押すことになる。「オレは払わない。来月から見ないからスクランブルをかけろ」の一言で受信料の支払いを拒否できる。

   こんなことが全国的で起き始めたらどうなるだろうか。受信料収入を維持するために膨大な数の営業スタッフを投入し、番組にかける経費が減らされるだろう。番組の質の低下がさらに受信料の不払いにつながり、それこそ「デフレ・スパイラル」になる。こうなると、大幅な税金投入が不可欠となり、政治家の関与の口実を与えてしまうことになるのだ。この意味で、スクンラブルが政治家に食べさせるクッキーになりはしないかと懸念するのである。

⇒1日(金)午後・金沢の天気 雨

☆ブログはメディアか

☆ブログはメディアか

  よく尋ねられる。「ブログはメディアになりうるのか」と。総務省の推測だと、2005年3月末時点の国内ブログ利用者数は延べ335万人、アクティブブログ利用者(少なくとも月に1度はブログを更新しているユーザ)数は95万人、2007年3月末にはそれぞれ782万人、296万人に拡大する、と。ブログ市場はさらにすさまじい。去年の34億円(関連市場含む)から、2006年度には1377億円(同)に達すると見込んでいる。確かにメディアは情報の流れという側面を持つので、これだけ勢いが増せば一つのメディアになる可能性が出てきたと言えなくもないが、私は率直に言って、「金にはなるが、メディアにはなれない」と思う。

   「メディアになれない理由」はクレジット(信用)の問題である。これをメディアと思うか思わないかは最終的に閲覧者が判断することであるが、果たしてブログにクレジットが保証されているか、これは否である。ブログは既存のメディアより自由な発言が手軽にできるし、ある意味で、草の根の市民が記述する一次情報でもあり魅力的ではある。が、情報の信憑性を裏付けすることは難しい。テレビですらいまだに情報を発信するメディアというより、エンターテイメントの単なるツールと見られる向きが強い。

    ただし、ブログも変化していくだろう。たとえば、ドキュメンタリストやジャーナリスト、お互いが信頼しあえる市民、ビジネスマン、研究者らが集い「専用ブログ」を構築し、質の高さを保つ努力をするのであれば、評価を得るサイトになるだろう。そうなれば、ブログ本来が持つ一次情報に限りなく近い、従来のメディアにはない価値を有したメディアになる可能性もある。

    現在、ブログを提供する事業者は110社余りと言われている。サービスが基本的に無料であり、ビジネスモデルは大丈夫かと懸念されたりもしている。今後、ブロガーが事業者の選別を行い、ブログのリストラクションも起こるだろう。その過程でより進化していくのではないか。

    私個人で言えば、ブログの画面に事業者が勝手に出会い系サイトのバナーを貼り出したら、別の事業者に乗り換えることにしている。書き手は事業者が考える以上に信頼性や著作者意識にこだわるものだ。ブログの価値を高めるということは、簡単に言うとこういうことなのだ。

⇒28日(火)午前・金沢の天気  曇り

★テレビ業界の歴戦の兵

★テレビ業界の歴戦の兵

  自分自身を評するに、短距離ランナーだと思う。ダッシュは速いほうだが持続力に難があり、マラソンランナーのように数時間も走りぬいて沿道をわかせることはない。人生も同じで、一つのことを極め、業界を長く生き抜く達人がいる。私が尊敬する東京の森川光夫さんはそんな人だ。10年来、師匠と仰いできた。テレビ業界の音楽プロデューサーの草分け的な存在である。

  前の職場、北陸朝日放送で初めてクラシック番組を手がけた。朝日新聞・浜離宮ホール(東京)で演奏されるオーケストラ・アンサンブル金沢の「モーツアルト全集」を収録し、番組にした。番組はシリーズ25回、5年にわたった。このシリーズを始めるに当たって、テレビ朝日「題名のない音楽会」のチーフディレクターから「私の先生です」と紹介されたのが森川さんだった。70歳はゆうに過ぎた人だが、現在でも楽譜を読みながらカメラのカット割りを緻密に組み立てる名人である。酒も強く、眼光が鋭い。権威ぶった人が嫌いで、馬が合った。

  その森川さんに転職の挨拶状をしたためたところ、後日、素敵な絵はがきが届いた。何度も読み返し、日々の糧にしている。

   「お葉書ありがとうございました。一つの山の頂上を極める間もなく、更に奥なる山に意義を見出して突進して行かれるご様子。この貴兄らしい踏ん切りのよい転進に心からの拍手を送る次第です。これまでの感性的な仕事の蓄積と、新しいアカデミックで社会性の強い仕事の融合はきっと魅力ある納得のいく世界が開けてくることでしょう。ご自愛の上、個性溢れる人生を営んで下さい。又いつか、折りがあったらお会いしましょう。」

   森川さんの鋭さは、「新しいアカデミックで社会性の強い仕事の融合はきっと魅力ある納得のいく世界が開けてくることでしょう」の一文で判る。「金沢大学の地域連携コーディネーター」としか自己紹介をしていないのに、この仕事の意味と意義をここまで洞察する人なのである。テレビ業界を生き抜いてきた「歴戦の兵(つわもの)」とはこんな人物像である。

⇒27日(月)午前・金沢の天気  曇り

☆パケット通信料の壁

☆パケット通信料の壁

   NTTドコモのFOMA端末を使っている友人に電話で、「きのうは見たか」と声をかけたら、「あんなもの恐ろしく見れないよ」と返事が返ってきた。やっぱりそうかと妙に納得した。楽天がきのう21日から、東北楽天ゴールデンイーグルスの携帯電話公式サイトで、フルキャストスタジアム宮城での生中継映像の配信を始めた。FOMAのテレビ電話機能「Vライブ」を使って、試合開始から終了まで配信。きのうの初戦は対福岡ソフトバンクホークス戦だった。

   サービス利用には、球団の公式サイト「楽天イーグルスモバイル」(月額315円)の登録が必要で、ほかに月額300円の情報料が必要だが、友人が「恐ろしくて」と言ったのは、テレビ電話のパケット通信料のことである。何しろ1分間で30円ー70円もかかる。2時間視聴したとして8400円になる。芝生席だった1000円ぐらいだから、その8倍もするというわけだ。楽天は「従来の配信は1秒間6枚ほど。最大12枚の配信が可能で、画像はより鮮明になる」と画質のよさを説明しているが、パケット料金を気にしながらプロ野球を観戦する気にはなれない。携帯電話の1ヵ月の平均的な利用料が8000円と言われているのでFOMAを持っていたとしても普通の人には手が出せない、と思う。

   でも、私は今回の携帯電話でライブ映像を配信するという楽天の取り組みを前向きに評価したい。実は、高校野球地区大会の中継映像やダイジェスト映像(編集済み)を携帯電話で配信できないだろうか、という要望が以前からある。地区大会は多くの場合、テレビ朝日系列のローカル局が実況中継をしているが、県域エリアを離れてしまうと視聴できない。そこで、せめて1分のダイジェスト映像でも手軽に携帯電話で見ることができればというニーズだ。しかし、著作権を保有している日本高野連は携帯電話での動画配信には首を縦に振らないのである。その明確な理由は示されていない。

   そこで、プロ野球の動画映像が携帯電話でも身近になれば、高校野球もそのうちに解禁…と妙に期待しているのである。もちろんその前にパケット通信料問題が解決されなければならない。たとえば、年間3万円程度でパケット使い放題というサービスがあればという話である。パケット通信料や著作権になんとか風穴を開けてほしい。

⇒22日(水)午後・金沢の天気 曇り
  

☆広告市場にネットの大波

☆広告市場にネットの大波

    先日、ある民放キー局から株主総会(6月29日)の招集通知書が届いた。株式を購入したのは、営業報告書や貸借対照表を通してテレビ業界をウオッチするためである。今回届いたキー局の営業概況を説明しよう。平成16年度の連結売上高は2420億円で前年度比11%増である。アテネオリンピックの効果だ。営業利益は136億円(前年度比108%増)。経常利益は135億円(同130%増)となり、利益率5.5%である。テレビ局をコンテンツ流通業と見なせば、ヤマト運輸の利益率3.9%であり、利益率は悪くない。1株当たりの純利益は7198円、前の年度の4.6倍にも膨らんだ。ちなみに1株当たりの年間配当金は1300円である。

    この内容を見る限り、テレビ業界はいいことずくめのようだが、これから起こるテレビ業界のことをちょっと考えてみる。アメリカではすでにメディア(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・インターネット)の視聴・購読時間の15%がインターネットの閲覧に費やされており、急速にインターネットの広告市場が拡大している。日本の広告市場はどうなっているのか。日本のメディアに投下された2004年の広告費はテレビ・ラジオ・新聞・雑誌・インターネットで合計3兆8574億円である(電通調べ)。そのうちネットは1814億円、ラジオの1795億円で、シェアはともに4.7%だが、金額ではネットがラジオを抜いたのある。近い将来、アメリカ並みにネットが日本の広告市場で伸びるとすると、シェア15%、金額にして5800億円ほどに膨らむと推測できる。

    しかし、全体の広告市場はすでに頭打ちである。金額ベースで1985年を100とした場合、2000年の174をピークに減少しているのだ。つまり、ネット収入が膨らんでいる分、どこかがへこんでいる計算になる。そのへこみはメディアではこれまで新聞とラジオだったが、すでに底打ち傾向である。今後、ネット市場が伸びた場合、どのメディアが割りを食うのかというとテレビ、中でも可能性がもっとも高いのがローカル局なのだ。大手スポンサーは手持ちの広告費を配分する際、東京、大阪、名古屋のテレビ局は外さない。大都市圏での販売シェアを確保したいからだ。ネットに広告費を回す場合、削ることになるのはローカル局への配分だ。事実、99年にネットバブルがはじけてネット関連の広告(PCなど)需要が落ち込んだ時、やはり削られたのはローカルのCM出稿だったのである。

     今後、2006年のローカル地上波のデジタル化が一気に進む。どんな小さなローカル局でも40億円ぐらいの投資が必要となってくる。その投資の波と、ネット広告の拡大の波と重なるのが来年だ。内部留保を吐き出し、デジタル化の投資がひと段落したころに「15%」のネット市場が迫ってくる。系列のローカル局の面倒を見るのは最終的にキー局だ。さらに、アメリカでも起きている現象だが、ヤフーとグーグルの売上高は今年、ABC,NBC,CBSのアメリカ3大ネットのプライムタイム広告収入に並ぶ可能性も指摘されている。キー局と言えども安泰ではないのだ。

     この広告市場にくるネットの大波は日本にも必ずやってくる。テレビメディアのマネジメントが、変化のスピードについていけるかどうか。放送と通信の融合に果敢に挑む姿勢が示せるのかどうか。イノベーションを起こせなければ凋落する。これは自明の理である。自宅に届いた一通の株主総会召集通知書からいろいろなことを考えてしまった。

⇒20日(月)午後・金沢の天気  晴れ

★テレ朝への抗議の行方

★テレ朝への抗議の行方

   自民党の岡田直樹参院議員(石川県選挙区)がテレビ朝日の番組「報道ステーション」で事実に反する内容が取り上げられたとして、17日、同党の武部勤幹事長と連名で、放送法に基づく訂正放送と謝罪を求める通知書をテレビ朝日あてに送った。この通知書はおそら内容証明郵便で出しているはずで、裁判になることを想定した「宣戦布告」とも解釈できる。

    岡田氏の公式ホームページによると、さる10日、北朝鮮への経済制裁を検討する参院拉致問題特別委員会で、参考人として呼んだ拉致被害者の家族代表の横田滋さん夫妻に岡田氏はこう質問した。

(岡田)「経済制裁を検討しながら一つ気掛かりなことは、今も北朝鮮に生存をしていると信じる拉致被害者の方々、めぐみさんを始め拉致被害者の方々が、この経済制裁によって状況が好転すればいいですけれども、裏目に出て万が一、不測の事態が生じはしないかということが我々も心配でならないわけであります。前のが偽の遺骨であったならば今度は本物を出そうと、こういうことを考えかねない国だと思うんです。御両親に対して本当に言うに忍びないことを言い、聞くに忍びないことをお聞きしますけれども、そうしたおそれを抱きながらもなお今、経済制裁をとお求めになるのか。その辺りの御心境を御両親からお伺いしたいと思います」

   以下は横田滋氏の答えである。

(横田)「そういった懸念はゼロではございません。それは、平成9年にめぐみのことが明らかになったときに最初に我々が直面しましたことは、名前を出して、かつ写真を公表するか、それとも匿名にするかというようなことで迷いました。やはり、実名を出して写真を出さなければ証言に信憑性ということが出てきません。しかし、それを明らかにすることによって、そんなことはなかったということで殺されてしまうというような心配もございました。ですから、最初から、スタートの段階ではやはりそういったリスクというものがもうゼロというのではないわけですが、しかし、それを恐れていれば結局そのままの状況がずっと続いて、一生もう北朝鮮で何もなかったような形で終わってしまうというようなことになりますので、やはり救出ということになりますとそうせざるを得ないと思います」

   つまり、岡田氏の質問は、「聞くに忍びないことをお聞きしますけれども」と夫妻の心境を気遣いながらも、北朝鮮に経済制裁をすれば、めぐみさんが本当に殺されるかもしれない、その覚悟のほどはどうですか、とたずねた。それに対し、横田氏は「それを恐れていれば結局そのままの状況がずっと続いて・・・」と経済制裁を強く求めたのだ。岡田氏とすれば、「家族はリスクを覚悟して経済制裁を求めている。だから、政府もやるべきだ」というセオリーを慎重な言い回しで組み立てた。この特別委員会が終了した後、「岡田先生が自分たちの考えを分かっていた上で、あえて国会の場でそのことを家族の口から話すことが大切と判断してあの質問をしてくださったことと思っています。岡田先生には委員会の後に、参考人として発言の機会が与えられたことに対してお礼しました」と横田氏は述べている(6月16日付「救う会全国協議会ニュース」)。特別委員会の終了時点では、岡田氏は確かな手ごたえをつかみ、横田さん夫妻は国会の特別委員会で経済制裁を訴えることができて、双方に充実した時間だったのである。

   ところが事態は一転する。横田さん夫妻が参考人として出席した特別委員会の様子をニュースとして取り上げた10日夜の「報道ステーション」で、古舘伊知郎キャスターが、岡田氏の質問に対し、「想像ですけれども、北をとっちめたいと思うあまり、まるで非常に苦しい立場にいるご夫妻に、この覚悟はありやなしやと聞いているふうに聞こえちゃうんですよね。本人に確認したわけじゃないですけれども」とコメントし、「無神経な質問」と決めつけてしてしまったのである。

   岡田氏とすれば、「無神経」どころか横田さん夫妻から「お礼」までされているのに、「想像」でベラベラとしゃべられて、「まったく事実に反する報道」で名誉を著しく毀損したというわけだ。岡田氏は東京大学法学部出身、新聞記者を経て、国会入りした。闘争本能をむき出しにするタイプではなく、むしろ温厚な性格。その岡田氏が相当な怒りを持って「宣戦布告」したのである。一方、テレビ朝日広報部は「詳細が確認できていない」とコメントしてはいるものの、どこまで準備を進めているのか。

   テレビの報道番組では、想像でものを言うこと自体、信憑性が失われ負けである。ましてや「北をとっちめ」云々のもの言いは古舘キャスター自身に抑制が効いていない証拠と見るべきだろう。事実関係はすでに明らかで争う余地はない。番組の中できちんと釈明し、「言葉が滑って申し訳ありませんでした」と謝罪すべきだ。先が見えた話は先延ばしすべきではない。

⇒19日(日)午前・金沢の天気  晴れ

☆腰の引けたフジテレビ

☆腰の引けたフジテレビ

   これでは、ライブドアの「完勝」と言っていい。6月14日付の「自在コラム」でライブドアとフジテレビジョンの業務提携の第一号とも言える公衆無線LAN(構内情報通信網)を紹介した。今回の注目点は、フジテレビがどのように無線LANとかかわるか、であった。結果的に、フジテレビは災害や事故の映像の送受信で無線LANを活用するというだけの話なのだ。単なるユーザーでしかない。フジテレビは15日の記者会見にわざわざ取締役を同席させ、「友好ムード」を演出したにすぎないのだ。

   記者会見によると、今回の無線LANの仕組みは東京・港区と新宿区の一部で来月から試験サービスを開始する。独自の無線LAN基地局を都内2200カ所の電柱に設置し山手線内側の80%の地域をカバー。屋外の半径100㍍でインターネットが利用できるようにする。月525円の定額制で、1つの基地局で30人程度までならば2メガか3メガの速度で使用できるという。長期的には100万人の利用者獲得を目指す。堀江貴文社長はこの記者会見で「インターネットを始めたころに夢見た、どこででも接続できるという状況を作りたい」と語った。 

   対等な業務提携を目指すというのならば、フジテレビはライブドアの無線LANを駆使したポータルの構築と放送の連動を目指すのが本筋だろう。14日の「自在コラム」でも述べたように、フジテレビとライブドアがたとえば「東京ハザード」と銘打った、一般からの動画の投稿サイトを共同運営し、東京で起きた災害・事故の映像をアーカイブすれば非常に価値がある。災害映像をフジテレビが一網打尽にでき、スクープ映像を集めて、地上波の番組にもできるからだ。

   フジテレビがなぜ無線LANを使って受発信する映像を災害や事故に限定したかというと、おそらく表向きには「事故や災害の映像をリアルタイムに受発信することにメリットがある」と交渉のテーブルでやり取りしたのであろう。しかし、本音は「こんなひ弱な回線で送れるのは画質を問わない災害・事故の映像ぐらいだろう。今回はお付き合い程度に」だったと推測する。テレビ品質の画像を受発信する際は回線容量で16メガは最低必要、というのがテレビ業界の大方の見方だ。ところが、今回の無線LANでは2メガか3メガしかないのである。だから、フジテレビはライブドアの無線LANを利用を持ちかけられたものの、最初から腰が引けていたのかもしれない。あるいは醒めていた。

   上記の分析は元「業界人」のうがった見方である。ひょっとして、放送と通信のあり方を大きく変える目の覚めるようなプランが進行中なのかもしれない。テレビ業界は曲がり角に立っている。早晩、インターネットに広告市場を奪われる。放送と通信の融合の夢を語っているのは堀江氏だけではないか。テレビ業界からは聞こえてこない。

⇒18日(土)午後・金沢の天気 晴れ 

 

☆放送と通信、ライトな融合

☆放送と通信、ライトな融合

   ニッポン放送の経営権をめぐって争ったライブドアとフジテレビが業務提携を模索しているが、12日付の朝日新聞によると、具体案が出たらしい。それによると、フジが撮影した事故や災害現場の映像素材を、ライブドアが来月から東京都内で始める無線LANのインターネットを利用して送受信する。フジは社内通信用だけでなく、視聴者からの映像提供も受け付ける。ライブドアがあす15日に開くこの無線LANの記者会見にフジの役員も出席するという。

   放送と通信が提携することで日本のメディアの有り様が大きく変わる。今回、映像素材の送受信だけの業務提携ならインパトに欠ける。ただし、ライブドアがたとえば「東京ハザード」と銘打った、一般からの動画の投稿サイトをつくり、東京で起きた事件・事故の映像をフジと連携してアーカイブしていくというのであれば価値がある。災害映像をフジが一網打尽にでき、地上波で番組化もできる。果たして業務提携の第1号はどのような内容になるのか。
                 
   フジテレビ系列の福井テレビジョン放送(FTB)はITを使った画期的な番組を制作している=写真=。夕方の情報ワイド「おかえりなさ~い」は、ケータイ・インターネットなどで視聴者にクイズに応募してもらい、その正解者の中から当選者を選び、賞品をプレゼントする。スタジオを見学させてもらったきのう13日は、賞品の目玉が韓国焼酎30本とショットグラス10個だった。韓国焼酎がブームとあって、視聴者から1036件ものアクセスがあった。アクセスの8割は携帯電話から。同じクイズの募集でも従来の「はがき」だったら、人口87万人の福井県だと多くて300枚だろう。ケータイで、視聴者の番組への参加意欲を最大限に取り込んでいるのだ。

   画期的なのは、毎週月曜から木曜までのレギュラー企画であること。視聴率にもよいで影響が出て、「視聴率が底堅くなって、夏場も数字が落ちていない」(杉山一幸制作部長)という。このクイズ参加のシステムは、金沢市のソフト開発会社「FIXインターメディア」との提携で構築。インターネットを介して送られた視聴者からのデータをリアルタイムでグラフ化(円、棒など)に処理し、放送画面に送出する仕組みだ。

   ケータイはテレビを見ながら操作できるので相性がいい。ブロードバンドを使った放送と通信の「ヘビーな融合」が放送コンテンツのビデオ・オン・デマンドだとすると、ケータイとテレビを使った番組参加の放送モデルは放送と通信の「ライトな融合」と言えそうだ。FTBがその最先端を走っているのは間違いない。

⇒14日(火)午前・金沢の天気  晴れ    

☆危うさはらむテレビCM

☆危うさはらむテレビCM

  きのうに引き続き、新聞で掲載された民放テレビ局の3月期決算を読み解く。ローカル紙で、ある県の民放の決算内容が出ていた。地方局もスポンサーである企業の業績回復の追い風を受け好業績であるものの、気になった点がある。

  その記事には、営業の収入の伸びを牽引している業種について書かれていて、「交通・レジャー、流通・小売り、自動車関連の広告収入が10%以上伸び」となっていた。その県の視聴者ならおそらく想像がついたはずだ、「交通・レジャー」が具体的に何を指すのかを。パチンコのCMである。ローカル民放で目立つのは、朝の消費者金融、夜のパチンコのCMである。とくに、パチンコは「出玉、炸裂!」などと絶叫型のCMが多いので、見ている方が圧倒される。パチンコはマーケットが狭い分だけ、CMは過激なのである。

  実は、このパチンコ業界は「自主規制」という装置を持っている。これまでも、警察から「無用に射幸心をあおる」と自粛を求められると、自主規制に動いてきた。テレビCMがストップしてしまうのである。記事が掲載された同じ日、金沢市内のパチンコ店経営の会社が事業を停止し、自己破産を準備中との記事が出ていた。負債は7億円。かつて、この店の過激なテレビCMを見たことがある。企業業績が回復し経済の循環がよくなると、人の足は「身近なレジャー」であるパチンコに向かわなくなる。自己破産のニュースは小さい扱いながらも、パチンコ業界に衝撃が走ったはずだ。ローカルのテレビCMを牽引してきたパチンコ業界も曲がり角にある。

  「売上アップのためには、背に腹は代えられぬ」とパチンコのCMを無制限に受け入れてきたローカル民放もそろそろ方針転換を図るべきだ。総量規制や時間規制を設けてソフトランディングすべきだろう。いや、その前にパチンコ業界が自主規制の先手を打ってくるかもしれない。この場合、ローカル民放に激震が走る。

⇒2日(木)午前・金沢の天気 くもり