⇒メディア時評

☆粛清へと向かうのか 「プリゴジンの乱」の余波

☆粛清へと向かうのか 「プリゴジンの乱」の余波

   たった一日とは言え、私兵を率いて政府軍に盾突いたプリゴンジはプーチン大統領にとっては、いわゆる「反逆者」だ。はたしてプーチン氏は彼を許すだろうか。ロシアには「チーストカ(粛清)」の歴史がある。あのソビエト連邦時代の最高指導者だったスターリン(1878-1953)は反革命や不正者を徹底的に弾圧したことで歴史上で知られる。粛清は、ある意味で敵の脅威をつくり出すことで国民を恐れさせ、団結させることにあるとされる。プーチン大統領も国民の団結の「道具」として、プリゴジンの粛清を行うのではないか、との読みもある。(※写真は、6月25日付・BBCニュースWeb版)

   たとえは適切でないかもしれないが、ロシアにはもう一つの粛清の方法がある。それは墓などをつくらず、地上に存在したことを消去することだ。第二次世界大戦で、ヒトラー率いるドイツ軍は1945 年5月 8 日に無条件降伏したが、ヒトラーは降伏前の4月30日に自決する。遺体はヒトラーの遺言によって焼却されたものの、焼け残った遺体は当時ベルリンを占領していたソ連軍によって東ドイツのマクデブルクに運ばれ、ソ連諜報機関の事務所前の舗装の下に埋められた。1970年になって、ネオナチの崇拝目的になることを怖れ、遺体を再び焼却して遺灰をエルベ川に流したとされる(Wikipedia「アドルフ・ヒトラーの死」より)。

   この粛清の方法はロシアだけではない。第二次大戦後、極東軍事裁判(東京裁判)で死刑判決を受けた元総理の東條英機ら7人のA級戦犯の遺骨もそうだった。アメリカ軍は1948年12月23日、東京・巣鴨プリズンから遺体を運び出し、横浜市内の火葬場で焼かれ、遺骨は別々の骨つぼに納められた。そして、小型の軍用機に載せられ、上空から太平洋に散骨されている。

   また、ニューヨークの同時多発テロ(2001年9月11日)の首謀者とされたオサマ・ビン・ラディンに対する斬首作戦が2011年5月2日、アメリカ軍特殊部隊によって実行された。パキスタンのイスラマバードから60㌔ほど離れた潜伏先を奇襲して殺害。DNA鑑定で本人確認がなされた後、アラビア海で待機していた空母カール・ビンソンに遺体は移され、海に水葬された。

   遺骨が遺族に返還され、墓がつくられることになれば、その墓が将来、聖地化や崇拝の地になることを想定しての処置なのだろう。「死をもって罪をあがなう」という発想ではなく、存在証明を許さないのだ。プリゴジンの処遇をめぐっての書き出だしだったが、話がずいぶんと逸れた。

⇒29日(木)夜・金沢の天気    くもり時々あめ

☆相次ぐ銃の事件 乱世に突入したのか

☆相次ぐ銃の事件 乱世に突入したのか

   また銃の事件が発生した。メディア各社の報道によると、岐阜市にある陸上自衛隊の日野基本射撃場できょう14日、18歳の自衛官候補生の男が自動小銃を隊員3人に向けて発砲し、2人が死亡した。岐阜県警は発砲した男を逮捕した。

   先月26日、長野県中野市で、迷彩服に身を包み猟銃を持って警察官と女性合わせて4人を次々に襲撃した青木政憲容疑者31歳が12時間、自宅に立てこもった後に逮捕された。女性2人はサバイバルナイフで刺されて死亡、110番を受けて駆け付けた警察官2人は銃撃を受けて亡くなった。青木容疑者は4丁の散弾銃の所有許可を持っていた。

   去年7月8日、奈良市で街頭演説中の安倍元総理を手製の銃で撃って殺害したとして、同市に住む山上徹也容疑者41歳が殺人と銃刀法違反の罪で逮捕された。2005年まで3年間、海上自衛隊の広島県呉地区の部隊で勤務していた。今後、裁判員裁判で審理されることになるが、殺害の動機とされるのが、母親が世界平和統一家庭連合(旧「統一教会」)へ高額な献金をしたことから家庭が崩壊し、恨みを募らせたことが事件の発端とされる。安倍氏は祖父・岸信介の代から三代にわたって旧統一教会と深いつながりがあり、山上被告は安倍氏にも恨みを抱いていたとされる。   

   銃の事件でまぶたに焼き付いているのは「あさま山荘事件」だ。1972年2月28日、連合赤軍が人質をとって立てこもっていた現場に警察機動隊が救出のために強行突入した。酷寒の山地での機動隊と犯人との銃撃の攻防、血まみれで搬送される隊員、クレーン車に吊った鉄球で山荘を破壊するなど衝撃的なシーンがテレビで生中継された。当時、自身は高校生でテレビにくぎ付けになって視聴した。去年1月に長野県南軽井沢の現場を見に行った。立てこもった山荘はまだ残っていて、当時テレビで視た記憶が鮮明に浮かんできた。

   拳銃が禁止されている日本では、銃による暴力事件は稀なケースとされてきた。ところが、こうした銃の乱射や、「ルフィ」の一味による連続強盗や詐欺事件など世の中の乱れが目に余る。そして、隣国のさまざまなリスク・ファクターが集中する日本。乱世という時代にこのまま突入するのだろうか。

⇒14日(水)夜・金沢の天気    くもり

★「尾張名古屋は城でもつ」エレベーターめぐる論議

★「尾張名古屋は城でもつ」エレベーターめぐる論議

   「尾張名古屋は城でもつ」という言葉がある名古屋城が、復元を予定する天守閣にエレベーターを設置するかどうかをめぐって揺れているようだ。名古屋城と言えば、徳川家康が造った城で、1930年に城郭として初めて国宝に指定されていた。ところが、1945年に空襲で焼失。残った石垣などが「史跡名古屋城跡」として1957年に国の特別史跡に。1959年には鉄筋コンクリートで天守閣などの外観が復元された。

   本来の天守閣は5層5階・地下1階で構成され、天守台19.5㍍、建屋36.1㍍の合計55.6㍍にもなり、18階建ての高層建築に相当する。ただ、再建された天守閣は5層7階、城内と石垣の外側にエレベーターがそれぞれ設置されており、車椅子で5階へ昇ることができるバリアフリー構造となっている。5階から最上階の展望室までは階段で上がる。ただ、現在の鉄筋コンクリートの天守閣は耐震性に問題があるとの指摘を受けて、2009年に名古屋市の河村たかし市長はコンクリートから木造に建て直すことを本格的に検討すると計画プロジェクトチームを発足させた。(※写真は、Wikipedia「名古屋城」より)

   2013年には、本来の木造建築に建て直す復元事業に着手すると発表。当初は2020年夏の完成を目指したが、文化庁の許可も必要なことから完成時期は見直しとなった。ことし3月にようやく、木造の天守閣の完成時期を最短で2032年度との見通しを公表した。

   そこで議論になったのが、エレベーターの設置問題。河村市長は「史実に忠実な復元」を掲げ、史跡としての名古屋城の価値を高めたいとしている。そうなれば、本来の5層5階・地下1階を木造で忠実に復元し、エレベーターはもともとなかったので、設置しないということになる。一方で、名古屋城を観光名所として未来へ継承するとして、公開を積極的に行うとしている(「特別史跡名古屋城跡保存活用計画」)。そうなれば、観光客のためのバリアフリ-化の配慮は必要で、エレベーターの設置は必然となる。そこで、河村市長は妥協案として「設置は1階から2階までにすべき」との考えを示し、大型エレベーターではなく小型の「昇降機」の設置を提示している。これに市民団体などは従来通り5階まで設置すべきと抗議している。

   河村市長は来週12日に開かれる「名古屋城跡全体整備検討会議」までに結論をだすとの考えを示している(6月6日付・中京テレビNEWS)。バリアフリー化なのか忠実な復元なのか、簡単に結論が出る話ではない。まずは、現在閉館となっている天守閣の耐震化工事を行った方がより現実的な対応ではないだろうか。

⇒8日(木)午後・金沢の天気   くもり時々あめ

☆生成AIの進化と危険性とは

☆生成AIの進化と危険性とは

   「生成AI」をめぐる議論が沸騰している。画像や文章だけでなく、複数の材料を読み込ませることで自動的にコンテンツを生成する「ジェネレーティブAI(生成AI)」の技術は企業のDX化の活用などで注目されていると同時に警戒もされている。

   何かと話題に上っているのは「チャットGPT」。アメリカのIT企業「OpenAI」が開発した、いわゆる「自然言語処理モデル」。簡単に言えば、自然な対話形式での対応で、人が普段通りの文章で質問しても、丁寧に返答する。ただ、その回答は的確な場合もあれば、疑問符がつくものもある、とされる。

   生成AIが議論されるようになったのは、いわゆるフェイクニュースや誤情報の拡散、誹謗中傷、詐欺などに利用される恐れがないのか、という点だ。何しろ、自身のスマホやPCにも、連日のように迷惑メールが届く。最近は、金融機関やネットショップからのような偽装メールが多い。チャットGPTがこうした詐欺に悪用されるのではないかと懸念を抱いたりもする。

    マスメディアの警戒感も強いようだ。国内の新聞社や通信社、放送局が加盟する日本新聞協会は今月17日、チャットGPTなど生成AIによる報道関連コンテンツの利用に対する見解を公表した。記事や写真が無断でAIに利用されたり、AIがつくる偽情報や世論を誘導する情報がインターネット上に拡散したりすれば、言論空間を混乱させると警鐘を鳴らした(17日付・朝日新聞ニュースWeb版)。

   生成AIがネット上の報道記事や写真を無断で取り込み、第三者にサービス展開を有料でするとなれば、メディア各社が有する著作権などの権利を侵害することになる。アメリカの新聞協会にあたるニュース・メディア・アライアンス(NMA)も先月、「AI原則」と題した開発者や政府に対する要望書を公表。報道機関などのコンテンツの無許可の使用は「盗んでいることになる」として、生成AIへの利用には明確な許可が必要だと主張している(同)。

   アメリカのバイデン政権は今月4日、AIや量子技術などの先進技術を巡り、国際標準のルールづくりを主導するための新戦略を発表した。経済界や学界などと協力し、グローバル企業が国境をまたいだ活動をしやすくする。日本やEUに加えて、新興国にも参画を促す(4日付・日経新聞Web版)。一方で、バイデン大統領は同じ日、OpenAIなど4社のCEOと会談し、AIをめぐる安全性確保の法的責任を負うように求めた(同)。

   確かに、AIなどの新技術をルールを制定せずに放置しておくことは「人類の危機」を招くことになるかもしれない。G7広島サミットでは核軍縮・不拡散と同時に、AIのルールづくりなどをテーマにしてほしいものだ。

☜20日(土)夜・金沢の天気      はれ

☆ラッピング紙面の発信効果をG7広島サミットにも

☆ラッピング紙面の発信効果をG7広島サミットにも

   朝刊(17日付)を見て、「何だこれは」と少々驚いた。石川県の地元の2紙がいわゆる「ラッピング紙面」だったからだ=写真=。特別な紙面で紙面全体を包むこの方法はまれに広告紙面であったり、特別なイベントのときに用いられる。一紙は加賀友禅の着物の文様だろうか、淡い色を背景にした花柄などは金沢をイメージするデザインだ。もう一紙は、これも金沢らしい。和紙でつくられた水引細工がデイザン。金沢では結婚の結納などめでたい儀式などでよく使われる。写真の水引はボリューム感のある作品だ。

   地元2紙がなぜ同じ日にラッピング紙面というイベントを行ったのかと思い記事を探すと、17日と18日の両日、全日本広告連盟(全広連)の創立70周年記念大会が金沢市内を中心で開催されるとある。新聞や放送、広告各社の関係者が全国から約1000人が集まるようだ。大会のテーマは「広告は新たな時代への門だ。」とある。確かに、メディアはネットやSNSなどで多様化し、それにAIテクロジーが拍車をかけるように広告業界も混乱しているのではないだろうか。

   電通の「2022年 日本の広告費」によると、総広告費は7兆1021億円で過去最高となった。けん引しているのはインターネット広告費で前年比114%の伸び。ところが、マスコミ4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)は雑誌が93%、新聞は97%、テレビ(地上波、BS・CS)は98%と下降している。全広連とすれば、大会テーマにもあるように、この混乱を新しい時代のニーズと受け取り、広告の役割を探るきっかけにしたいのだろう。そう考えると、ラッピング紙面は広告新時代を予感させる。

   話は変わるが、もう一つラッピング紙面があってもよいのではないだろうか。あすから「G7広島サミット」が開催される。メディア各社の報道によると。ウクライナ侵攻を続けるロシアや覇権主義的な動きを強める中国への抑止策を協議するほか、核兵器の不使用や透明性の向上も訴える。広島県の地元紙はG7サミットの意義を訴えるラッピング紙面をあすの開幕の日に一斉に発刊してはどうだろうか。地元のメディアこそ広島を発信してほしい。

⇒18日(木)夜・金沢の天気    はれ

★憲法とデジタル社会  チャットGDPが問うこと

★憲法とデジタル社会  チャットGDPが問うこと

   人と会えばよく会話をするタイプだが、雑談から入るクセがある。会った人にはまったく関係のない、季節の草花の話や時事ネタ、グルメのことなので雑談もいいとこだ。そこから、しばらく間をおいて本題に入る。なので、相手方は「うだうだと話が長い」「要件をはやく言え」と思うに違いない。こうした雑談は、チャットGDPとは真逆の会話かもしれない、と思うことがある。

   対話型AIの代表格となっているチャットGDPは、情報のやりとりはするが、雑談はしない。「雑談をしようよ」と話しかると、「何について話しますか」との返事になり、「何でもいいよ」と返すと、「それではお話しができません」となる。チャットGDPとすると、ネット上の膨大なデータを持っていて、返事をしたくてうずうずとしているのだろう。ところが、「何でもいいよ」ではレスポンスができない。

   逆に言えば、新たに雑談対応能力として、「それでは季節の話題を話します」と言って、「金沢市にある兼六園ではカキツバタが咲き始め、緑色の風景に美しい紫の花を咲かせています」などと話し始めると、これはこれで対話型AIの機能がさらにアップするのではないか。雑談ができるチャットGDPの能力開発は近いかもしれない。

   きょう3日は施行から76年を迎えた日本国憲法の憲法記念日。よく考えれば、憲法にはデジタル社会のことが盛り込まれてはいない。たとえば、プライバシーの権利は憲法第13条(幸福追求権)によって保障された基本的人権であり、私人と私人の間でもプライバシーの権利の侵害は民法の不法行為(民法709条)である。ところが、ネット上では極端な例が、過去に犯した過ちがニュースとして実名で残っていたり、FacebookやInstagramで自撮りの写真や映像が拡散したりしている。さらに、クッキー(Cookie)を始めとしたネットでの検索や閲覧の履歴が知らないうちに情報としてアップされていることもある。

   チャットGDPによって、上記のようなデータがひとまとめにして他人に共有されることを考えると、プライバシー権などないに等しい。デジタル社会におけるデータ保護は国民の基本的な権利であるとする「データ基本権」を憲法に明記すべきではないだろうか。(※写真は日本国憲法原本=Wikipedia「日本国憲法」より)

⇒3日(水)午後・金沢の天気    はれ

☆人権侵害や国土防衛にどう手立て あす憲法記念日

☆人権侵害や国土防衛にどう手立て あす憲法記念日

   あす3日の憲法記念日を前に共同通信が行った憲法に関する世論調査(郵送方式)の結果が各紙で報じられている。目を引いた項目は「問5:憲法に関し、あなたが国会で議論してほしいテーマは何ですか。優先度の高いものを三つまでお答えください」。答えのトップは「九条と自衛隊」38%で、「社会保障などの生存権」32%、「教育」25%、「大災害時などの緊急事態」24%、「デジタル社会での人権」22%などと続いている。

   「九条と自衛隊」がトップなのは、隣国のロシアによるウクライナ侵攻が北方領土から北海道へと連鎖反応するのではないか、北朝鮮は弾道ミサイルを日本領土に撃ち込んでくるのではないか、中国は尖閣諸島に軍事侵攻するのではないか、といった懸念を抱く有権者がこのところ増えているからではないだろうか。日本は、国際紛争を解決する手段として戦争や武力の行使に訴えることは、憲法によって認められていない。

   この対応策の一つとして、政府は2022年12月の閣議で「国家安全保障戦略」など新たな防衛3文書を決定し、敵の弾道ミサイル攻撃に対処するため、発射基地などをたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有を明記した。ところが、北朝鮮は固体燃料ロケットの開発でICBMを素早く実践配備できるよう動いている。追尾して発射前に叩くことはできるのだろうか。

   そして最近とくに高まっている懸念という意味では「デジタル社会での人権」もそうだ。他人への誹謗中傷や侮辱、プライバシーの侵害、SNSいじめ、ヘイトスピーチなど。フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(2020年5月)はその典型的な事案だろう。この事件がきっかけで、公然と人を侮辱した行為に適用される侮辱罪に、「1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」を加えられて厳罰化した。しかし、刑法の厳罰化によって、SNSの誹謗中傷は治まったと言えるだろうか。

   デジタル社会の人権問題はさらに複雑だ。たとえば、児童ポルノはその画像がいったんネット上で出回ると、画像のコピーが転々と拡散して回収が極めて困難となる。被害者は将来にわたって苦しむことになる。重大な人権侵害だ。

   衆参の国会議員には法の見直しによる対応や与野党の足の引っ張り合いではなく、憲法そのものをテーマに本筋の議論を深めてもらいたい。

⇒2日(火)午後・金沢の天気    はれ   

☆馳知事「死ぬまでプロレスラー」 メディアに抗戦モード

☆馳知事「死ぬまでプロレスラー」 メディアに抗戦モード

           定例会見は開かず、随時会見をその都度開く。石川県の馳浩知事は、メディアとの距離をどのように計っているのだろうか。地元メディア各社の報道によると、馳知事は27日午前10時、「きょう午後2時に会見を開く」と県政記者クラブを通じて発表した。会見では、臨時会見を毎月4、5回開くとの内容だった。馳知事はこれまで定例会見を開いていたが、ことし3月と4月は開いていない。馳知事とメディアの距離感が実に分かりにくい。

   その分かりにくさには原因がある。金沢市に本社がある民放「石川テレビ放送」(フジ系)が制作し、2022年10月に全国公開されたドキュメンタリー映画『裸のムラ』。「保守王国」と言われる石川県の知事を7期28年つとめた谷本正憲氏から馳氏にバトンタッチしたが、それに「キングメーカー」と評される森喜朗元総理が絡んで、「ムラの男たちが熱演する栄枯盛衰の権力移譲劇」という内容だ(映画チラシより)。

   この映画に対し、馳知事はクレームをつけた。映画は石川テレビが2021年と22に放送した2本のドキュメンタリ-番組に新たな映像を加えて再編集したもの。馳知事は、テレビ報道のドキュメンタリ-番組に加え、さらに商業目的でつくった映画にも無断で自身や県職員の映像を使用していることについて、「肖像権の扱いが納得できない」と。これに対し、石川テレビ側は、映画の制作も報道活動の一環との位置づけで、映像は公務中ものであり、報道の目的である公共性に鑑み、許諾は必要ないと反論している。

   馳知事は、肖像権の扱いについての言い分は譲らず、石川テレビの社長が定例記者会見に出席して、弁明するべきと繰り返し述べ、3月と4月の定例会見は「石川テレビの社長との日程調整がつかなかった」として見送った。石川テレビ側は、定例記者会見での社長の出席に関しては、「社長が当社主催以外の記者会見に出席して当社の考えを述べることはしていない」と説明している(2月17日)。

   前任の谷本元知事は定例会見を開くことはなかったため、馳知事は定例会見を知事選の公約として掲げ、2022年3月の就任以来、毎月開いてきた。それをテレビ局の社長が出席して著作権について弁明すべきと譲らず、日程調整がつかなかったとして3月から定例会見を開いていない。そこで、代わりに臨時会見は開くという言い分だ。

   馳知事の体には、プロレスラーとしてのプライドが染みついているに違いない。ことし元旦に日本武道館で開催されたプロレス興行の試合に参戦、その後、年頭記者会見(1月4日)で「私は死ぬまでプロレスラー」と述べている。本人が真剣勝負で挑んできた選挙を「裸のムラ」などと揶揄するテレビ局は許せない、と徹底抗戦の構えなのだろう。

(※写真は、元旦に日本武道館で開催されたプロレス興行の試合に馳知事が参戦したとの1月3日付の紙面)

⇒30日(日)夜・金沢の天気     はれ

★ デジタル広告で横行する詐欺、ブランド毀損とは

★ デジタル広告で横行する詐欺、ブランド毀損とは

   このところネット上での詐欺が横行している。パソコンやスマホに、「ネット銀行」などを装って「不正ログインの確認」や、「銀行取引の制限」、さらに「振込の失敗」を知らせるメ-ルが入って来る。偽のサイトに誘導して、IDやパスワードを盗み取る、いわゆる「フィッシング詐欺」だ。

   以前、Eメールで「VISAカード 重要なお知らせ」が届いた。「VISAカード利用いただき、ありがとうございます。このたび、ご本人様のご利用かどうかを確認させていただきたいお取引がありましたので、誠に勝手ながら、カードのご利用を一部制限させていただき、ご連絡させていただきました」と。さらに、「ご回答をいただけない場合、カードのご利用制限が継続されることもございますので、予めご了承下さい」。お願いと脅しの文言を織りまぜて、暗証番号などを入力させる魂胆だ。手が込んでいる。

   「月刊ニューメディア」編集部ゼネラルエディターの吉井勇氏から届いたメールマガジン(25日付)によると、インターネットでのデジタル広告にも深刻な事態が起きているという。日本の広告市場をリードする企業が集まる「日本アドバタイザーズ協会」(JAA)が24日に開催したオンラインセミナー「デジタル広告の課題 広告主が知るべきこと、取り組むべきこと」を要約したものだ。以下、メールマガジンを引用。   

   デジタル広告業界で不正な広告取り引きとして問題となっているが、実際には人が見ていないのに、ボットなどの自動プログラムを使って、表示回数やクリック数を増加させ、不正に広告料をだましとる「アドフラウド」だ。もう一つが、「ブランドセーフティ」という問題で、広告の配信表示されるサイトが、例えばエロサイトであったり、暴力的なシーンのサイトであったりと、広告主の商品イメージを貶めるようなサイトに運用型で自動配信されているものがある。

   こうしたデジタル広告の詐欺被害について、日本経済新聞はことし3月5日付で「広告、閲覧水増し詐欺拡大 国内被害は昨年1300億円」の見出しで記事を掲載している。また、広告ではないものの、マンガの違法ダウンロードサイトによって正当な有料サイトの被害額は推定で約2兆円という数字もある。さらに問題なのは、この違法なダウンロードサイトに運用型の出稿で一般広告主の広告料が流れ込んでいることだ。

   マスメディア広告と違ってデジタル広告では、「広告がどこに出ているかわからない」ことや「広告がどのように出ているかわからない」、「どのプレーヤーがどう関わっているかわからない」という3つの「わからない」が闇を生んでいると言われる。そのためにJAAは他の広告協会などと協力して「デジタル広告品質認証機構」(略称:JICDAQ)を設立し、広告詐欺、ブランド毀損などへの対策に動き出している。

   今回のメールマガジンで、デジタル広告が社会的な犯罪構造に巻き込まれている現状の一端が見えてきた。

⇒26日(水)夜・金沢の天気   くもり

★岸田総理とメディアの「解散・総選挙」めぐる緊張感

★岸田総理とメディアの「解散・総選挙」めぐる緊張感

   前回ブログの続き。衆参5つの補選で自民党候補4人が勝利して一夜明けた24日、岸田総理は報道陣に囲まれ、「この勢いで解散・総選挙を近く実施されますか」などと質問を受けた。岸田氏は「重要政策を一つ一つ前進させ、結果を出すことに尽きる。いま、解散・総選挙は考えていない」と答えていた(24日付・NHKニュース)。

   メディアが尋ねた「解散・総選挙を近く実施」は、5月に開催する「G7広島サミット」を乗り切り、6月に「異次元の少子化対策」などの「骨太の方針」をまとめて提示し、6月21日の国会会期末までには解散という段取りか、と念押ししたのだろう。衆議員の任期満了は2025年10月30日なので、本来ならば同年10月に総選挙だろうが、自民党の党総裁任期は20249月に満了するので、それまでに政権基盤を固めておく必要がある。それは総選挙勝利という実績をづくりだ。

   メディアはこれまで何度も「解散・総選挙は近く実施されますか」と質問を向けてきた。岸田総理が3月21日にウクライナを電撃訪問し、G7広島サミットの議長国としての存在感をアピールしたときもそうだった。

   メディアがこのような質問をするのは、世論調査の内閣支持が上がっているという背景もある。読売新聞の4月の世論調査(14-16日)で、内閣支持率は47%に上り、前月調査より5ポイントも上昇。2022年9月以来、7ヵ月ぶりに支持が不支持を上回った。テレビ朝日系ANNの4月調査(15、16日)も前月から10.2ポイントも上昇しての45.3%だった。G7広島サミットを無事乗り切れば、さらには内閣支持率は「うなぎのぼり」に上昇する、かもしれない。

   総選挙は勝てると判断したときに打つ。前回は2021年10月の内閣発足から10日後という戦後最短で衆院を解散し、総選挙に勝利して政権基盤を確保した。メディア各社はこの岸氏の「サプライズ解散」を体感しているだけに、オウム返しのように「解散・総選挙は近く実施されますか」と尋ね、岸田氏は「いま、解散・総選挙は考えていない」と繰り返す。岸田総理とメディアの緊張関係でもある。

⇒24日(月)夜・金沢の天気    はれ