⇒メディア時評

☆「花燃ゆ」スペクタクル

☆「花燃ゆ」スペクタクル

  NHK大河ドラマ「花燃ゆ」をほぼ毎回見ている。司馬遼太郎の小説「世に棲む日日」(文春文庫)をかつて読んだことがあり、吉田松陰の生涯、そしてその弟子たちの躍動を当時のイメージと重ね合わせて楽しんでいる。視聴率は12%前後とそれほど勢いはないようだが、毎回視聴するたびに、幕末の志士たちの、人々の生きざまが胸を打つ。実際もおそらくこうだったのだろう、と。

  6月28日の第26話は緊張感があった。近藤勇ら新選組が襲撃した池田屋事件で、吉田稔麿ら多くの長州藩の志士が逝った。それを受けて、戦後武将のような勢いのある来島又兵衛、久坂玄瑞らが1500人の兵をともなって京に登る。久坂玄瑞は、兵を連れて天王山に陣取るが、戦は避けて、孝明天皇への嘆願が叶うよう動く。長崎に左遷されていた小田村伊之助は、グラバーから西洋式の兵器の調達をする。長州藩の命運をかけた軍議が石清水八幡宮で開かれた。来島又兵衛は御所に進軍、また、久坂玄瑞は戦を避けたいと、意見が真っ向対立するが、結局、京にいる1500人の長州藩兵だけで、御所へ進軍することに決した。一方、西郷吉之助(隆盛)が薩摩藩兵を京に送り、幕府側は諸藩の兵あわせて2万人の大軍で御所の守り固める。

  そんな中、英国、アメリカ、フランス、オランダの軍艦20隻が、下関に向かっているとの情報がもたらされ、長州藩は大混乱に陥る。このようなことになったのは、久坂玄瑞のせいだと藩内で怨嗟の声が起きる。まるで、歴史のスペクタルをタイムトンネルでスリップして、現場でその動きを見ているようで、実にダイナミックなのだ。

  そこで、ふと、この歴史スペクタクルを4Kテレビで見たいとの衝動にかられている。4Kテレビはすでに出荷台数が50万台を超えたようだ。先日も、近所の家電量販店を訪ねると、店のフロントは50型以上の4Kテレビが占拠している。50型だと、25万円程度。店員は、「ボーナス商戦の後だともう少し安くなりますよ」と薦めてくれたが、逆になんと商売っ気のないこと。

    ところで次回27話は内戦に突入する、いわゆる「禁門の変」が描かれる。1864年7月19日、長州藩は会津藩などと京都の蛤門付近=写真=で激突する。長州藩が門を突破し京都御所に入るものの、西郷吉之助の率いる薩摩藩がこの戦いに介入して、長州藩の形勢は逆転する。この禁門の変で長州勢が火を放ち京の街は大火事、さらに御所に向け発砲したことから「朝敵」となる。その後、長州藩は長州征伐や外国船20隻の砲撃の報復で打ちのめされる。が、長州藩の藩論が倒幕に傾き、敵対していた薩摩藩との薩長同盟が実現し、倒幕の道を歩んでいくのだ。紆余曲折油を経て、新たな歴史が拓かれ、日本が動くシーンである。

⇒28日(日)夜・金沢の天気    はれ

★春に相次ぐ「賓客」

★春に相次ぐ「賓客」

  日々新聞・テレビに目を通すと意外ことに気がつく。それが、小さな記事・ショートニュースであったにせよだ。今回感じたいのは、意外な人物や自然界の賓客が金沢や能登を訪れているということ。賓客という概念は主観的なことなのだが、紹介してみたい。
  
  チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世が今月9日に金沢入りした。10日は市内で100人の支援者を前に法話をした。その様子を報じた記事によると、「知恵に支えられた信心を育むことこそ、優れた修行」と述べた。信者ではなく、支援者としたのは、同内のチベット難民支援グループ「仏性会」の招きで訪れたからだ。同グループは30年も前からチベット難民の教育支援などに取り組んでいて、ダライ・ラマ14世が金沢に訪れるには今回で8回目という。ダライ・ラマ14世は11日に金沢を離れた。市内の支援者からかつてこんな話を聞いたことがある。「ダライ・ラマ氏は金沢に前世からかかわりがあったという人がいて、いつもその人の家に宿泊するそうです」。「前世からかかわり」というのは、スピリチュアルな話でなので、定かではない。

  ダライ・ラマ氏金沢を離れた11日、北陸新幹線に乗って金沢入りしたのは安倍総理だった。訪問先で私が注目したのは金沢市にある複合型福祉施設「シェア金沢」だ。サービス付き高齢者住宅と障がい者施設、学生向け住宅が併存する施設で、安倍総理は、京都から高齢者住宅に移住した女性や、ブータンからの女子留学生らと意見交換した。「いろいろな世代の人がいて、日々刺激があることが大切だ」と述べたと報じられた。一国の総理が金沢の福祉施設を訪れたのは伏線があるようだ。

  CCRC(continuing Care Retirement Community)。聞きなれない言葉だが、政府が地方創生に向けた取り組みとして位置づける施策の一つだ。発祥はアメリカだ。健康な時から介護時まで移転することなく暮らし続ける高齢者のためのコミュニティ。アメリカ約2000ヵ所もあり、60万人の居住者が生活しているといわれる。この「日本版CCRC」を目指して、地方創生に向けた「まち・ひと・しごと創生総合戦略」にも明記されている。東京都在住者の60代男女は「退職」などをきっかけとして2地域居住を考える人が33%に上る(2014年8月・内閣「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」)。つまり、終の棲家の場所探しは大きなニーズとなっている、これを地方の活性化に活かせないかというのが政府の戦略の俎上に乗っているのだ。シェア金沢では高齢者や障がい者、学生が多世代交流、ボランティア、農作業、住民自治を行いながら生活するコミュニティとして金沢市内でも注目されている。北陸新幹線効果で、東京駅からシェア金沢までは時間にして3時間足らずだ。安倍総理はその時間感覚を実感したかったのでないか。

  それにしてもダライ・ラマ氏と安倍総理、2人は11日に金沢にいた。ニアミスがあったのではないかと勘繰った。2012年11月、ダライ・ラマ氏は日本の国会内で初めて講演した。チベットとウイグル族に対する中国政府の人権問題の改善を求める日本の超党派の集まり「チベット支援国会議員連盟」を指導したのは、当時自民党の安倍総裁だった。

  13日に「賓客」があった。国の特別天然記念物トキが2羽、能登半島の先端の珠洲市で確認されたというニュース。本州で2羽のトキが同時に確認されるのは佐渡で2007年に放鳥が始まって以来、初めて。同市には、佐渡市で放鳥された雌のトキ(10歳)が昨年2月に同市に飛来し、半ば定着している。地元の住民に親しまれ、「美すず」との愛称もついている。「美すず」が別の1羽とともに田んぼでエサを探しているのを住民が見つけたのが13日。個体識別のための足環がついていないので性別や年齢も分からないが、体が大きいので雄ではないかと推測されている。また、佐渡市の自然界で誕生したひなには、ストレスを与えないよう足環がつけられていない。仮に、このトキがオスで「美すず」と巣をつくっていれば、本州では絶滅後、初めてのつがいとなる可能性もある、という。想像は膨らむ。

  それにしても佐渡の自然で繁殖したトキだとしたら、100キロ余り離れた佐渡から能登半島にどのようにして飛んできたのだろうか、また、長細い能登半島で2羽はどのようにして遭遇したのだろうか、偶然かそれとも自然界には出会いのプログラムがあるのか、想像力をかき立てる話ではある。

⇒16日(木)朝・金沢の天気    はれ
  

  

☆空路も鉄路も

☆空路も鉄路も

  先月29日付のコラムでこんなことを書いた。北陸新幹線金沢開業にもかかわらず、富山県庁や富山市役所では職員の東京出張は飛行機でと呼びかけている、という。4月から6月の利用状況によっては今後、減便や機体の小型化が予想されるからだ。東京駅から富山駅は最速で2時間8分なので、それぞれの利用者にとっては都心、あるいは市の中心街へのアクセスを考えれば新幹線に利便性がある。しかし、空のネットワーク(富山‐羽田‐成田)で国内外へのフライトを考えれば当然、空の便も確保しておきたいと行政が必至になるのは当然だろう、と。

  4月6日付の「J-CASTニュース」で、こんな見出しで記事が紹介された。「『はしご』はずされた北陸新幹線? 富山県・市「東京出張は飛行機でのワケ」。ヤフーニュースでもこの記事は高いアクセスランキングで、きょうも掲載されている。J-CASTニュースの内容は、「北陸新幹線開業を熱望したはずの地元自治体が、首都圏への出張には飛行機を使うように職員に呼びかけるという珍現象が起こっている。」として、新幹線開業に対抗して航空運賃が値下がりし、富山駅‐東京駅で通算すると飛行機が経済的に安いとその理由を上げている。

  確かに、北陸新幹線の開業で、3時間14分だった東京-富山間が2時間8分に短縮された。ところが、開業2日前の3月12日、富山県庁は職員に対して、東京出張の際にはできるだけ飛行機の「特割」を利用するように求める通達を出した。富山空港と羽田空港の間は全日空が1日に6便往復しており、新幹線開業後も引き続き飛行機の利用を求めた格好だ。「開業の祝賀ムードに水を差すようにも見える動き」と同ニュース。県庁側は「経済的な理由」だと説明しているという。

  飛行機の場合、搭乗日前日まで購入できる割引運賃の「特割」が最も安い場合で片道1万1290円。北陸新幹線は、指定席で片道1万2730円。富山駅から富山空港までのバス代410円、羽田空港から東京駅までの電車代580円を加算して、富山駅‐東京駅で比べると、飛行機の方が450円安くなる計算になる。ただ、富山駅から富山空港までは20分、羽田空港から東京駅まで35分かかるので時間的なメリットはない。

  富山県庁がこのような通達を出したのは、はたして経済的なメリットのためだけだろうか。冒頭で述べたように、空路を確保しておきたいのである。空のネットワークは欠かせないのいうまでもない。新幹線効果で、富山‐東京便が減便になってはむしろ不便なのだ。地域の行政としては、空路と鉄路ともに確保しておきたい、通達は苦肉の策なのだ。地方に住む住民ならば理解できるのではないか。

⇒10日(金)朝・金沢の天気   くもり

☆「沖縄と日本」

☆「沖縄と日本」

   5年前の2010年5月、沖縄旅行の折、沖縄県名護市辺野古の在日米軍海兵隊の基地「キャンプ・シュワブ」のゲートで写真撮影をした。すると、銃を持った門兵がヘイ・ユーと大声で駆け寄ってきたので、チャーターしたタクシーでその場を慌てて立ち去った。その後、辺野古で住民が座り込み抗議を続けるテント村も訪れた=写真=。「どこから来たの、休んでいきんさい」と笑顔で声をかけてくれた住民もいた。

   沖縄旅行の直後、当時の民主党政権の鳩山総理が訪問した沖縄での記者会見(沖縄)で「学べば学ぶにつけて、沖縄におけるアメリカ海兵隊の役割は、全体と連携しているので、その抑止力が維持できるのだと理解できた」と普天間飛行場の代替施設は辺野古しかないという意味の発言をすると、地元紙の記者から「恥を知れ」の罵声が飛んだ。「学べば学ぶにつけて」という言葉は勉強不足だったが、最近ようやく理解できたという意味だ。基地問題に神経を尖らせる現地で、一国の総理として適正な発言だったのかと当時メディアでも取り上げられた。

   今月5日、沖縄県の翁長知事が要望してきた政府との直接対話が菅官房長官との間で実現した。翁長知事から「上から目線」と批判された「粛々と工事を進めていく」の表現。菅官房長官とすると、辺野古への移設工事については関係の法令に基づいて適切に対応していくという方針には変わりはないと述べたのだろう。前置きに「粛々と」というある意味で国会答弁などで政権与党の閣僚がよく使う言葉が出てきたので「上から目線」との印象を与えたのだろう。

   それにしても表現は少々乱暴だが、政府の代表として訪問した官房長官に県の知事がよくそのような「上から目線」などと言えたものだと思った人もいただろう。地域主権の代弁者だから、といえばそうなのだが。その背景には、翁長知事がよく使う言葉に「沖縄と日本」がある。政府ではなく「日本」だ。翁長知事の発想や意識は、沖縄は日本から独立しているのかも知れない。つまり、地域と中央政府という発想ではなく、琉球と日本なのだろう。

   地元沖縄の人々はもともと南国のおだやかな性格から、ナンクルナイサ(何とかなるさ)という楽観的な人が多いといわれる。そんな地域性であっても、腹の底からわき上がってくる怒りのことをワジワジと言うそうだ。沖縄はいま普天間基地の辺野古移設問題でワジワジしているのだ。

⇒7日(火)朝・金沢の天気    あめ

☆ジャーナリストとギャング

☆ジャーナリストとギャング

  フランスのパリに本部があるジャーナリストによる非政府組織「国境なき記者団(RSF)」の調べによると、活動中のジャーナリストの死者数は昨年66人だった。2012年の87人を最高に毎年60人から80人が亡くなっている。記憶に新しいのは、2012年のシリアでの取材中、政府軍の銃撃により殺害された山本美香氏、2007年にミャンマーで反政府デモを取材中に銃撃されて死亡した長井健司氏らだ。ジャーナリスト、とくにメディア企業に所属しないフリーのジャーナリストはまさに命をかけた取材をしている。

  きのう(20日)、過激派組織「イスラム国」が日本人2人を人質に取り、2億ドル(230億円)の身代金を要求している国際事件は、「イスラム国」がインターネットに投稿したとされる映像から発覚した。人質にとられた日本人2人のうち、後藤健二氏はフリージャーナリストだ。メディアで繰り返し報道されている映像を見る限りでは、「イスラム国」のメンバーとみられる人物が日本政府に対して、72時間以内に身代金を払わなければ人質を殺害すると脅迫している。まさに、テロ行為そのものだ。 

  敵対する国々から人質を取って揺さぶりをかけるイスラム国の戦略だろう。アメリカでは去年8月以降、イスラム国に自国民3人を殺害された。1人目のジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー氏には1億ユーロ(137億円)の身代金支払いの要求があったが、アメリカ政府は支払わなかった。その身代金が組織の活動資金になるからだ。オバマ大統領はフォーリー氏が殺害された後から、「正義のための措置を取る」と述べ、掃討作戦を推し進めた。

  身代金の要求に応じれば、過激派組織がその国の国民を他国で誘拐・拉致してでも要求をエスカレートさせるだろう。報道によれば、後藤氏は去年10月、トルコを経由してシリアに入国し、「イスラム国」の本拠地であるシリア北部のラッカで取材中で、11月6日には戻るとされていたが、その後、連絡が取れなくなっていた。11月の初旬になって、後藤氏に家族に、「イスラム国」の関係者を名乗る人物から、メールが送りつけられ、「誘拐しているので、日本円で10億円の身代金を払え」と要求してきたという。日本政府が、海外の捜査機関に問い合わせたところ、このメールの発信元は、ジェームズ・フォーリー氏を殺害した、イギリス人なまりの英語を話す「イスラム国」メンバーと一致することがわかった。手口はギャングと同じだ。無事救出を祈りたい。

⇒21日(水)朝・金沢の転機   はれ

★初雪と衆院選挙

★初雪と衆院選挙

  いよいよ来た、という感じだ。しかも、いっしょに来た、である。雪の訪れと衆院選挙。衆院選挙は昨日(2日)に公示され、雪はきょう3日が初雪である。この初雪と衆院選挙のホットな身の回りの動きをいくつか。

  昨日、私の総合科目授業「ジャーナリズム論」「マスメディアと現代を読み解く」を履修してくれている学生たちにメールで呼びかけた。「メディアと選挙に関心のある学生のみなさんへ きょう2日は衆院選挙の公示日です。14日(日)に投票と開票が実施されます。「争点がみえにくい」と言われますが、安倍政権の中間評価が問われる選挙です。メディアもフルに動いています。そのピークはもちろん14日です。当落をいち早く予想するのです。朝日新聞金沢総局と北陸朝日放送では、選挙速報のための調査を14日夜、実施します。14日の当日19時から23時半まで、金沢市長町3丁目の同市中央市民体育館ほか石川県内の各開票場で実施します。もちろんバイト代やタクシー代は出ます。メディアによる選挙取材の裏ワザを勉強するよい機会ですので、参加希望者はメールで申し込んでください。5日(金)18時10分から地域連携推進センター2Fで説明会を開催します。メディアと選挙の勉強にきてください。」と。

  この調査はジャーナリズム論で提携している朝日新聞からの選挙調査の学生バイトの依頼だが、学生たちが選挙調査に関わることでメディアと選挙の在り様を学んだり、それより何より、選挙に関心を持ってもらうよい機会になればと思い協力している。この選挙調査は開披台(かいひだい)調査といって、開票場で作業を行う自治体職員の手元を双眼鏡でウオッチし、候補者の得票を数え、メディアの選挙報道センターにリアルタイムに伝えるもの。バードウオッチングのような手法だ。新聞社とテレビ局では、こうしたデータを総合的に分析し、当選確実の速報を打っていく。双眼鏡で手元をのぞき見する訳で違法ではないかと思われるが、各メディアが自治体の選挙管理委員会に事前に届けて行う、認知された行為である。

  昨日午後は少々慌てた。風雨が吹き荒れ、真冬の寒波並みだった。沿道に旗がバタバタと音をたててなびいている。よく見ると、「アベノミクス前進」「景気回復優先」などと書かれてある。このテの旗は野党の得意技だと思っていたが、自民が先手を打っているという印象を受けた。事前に綿密に計算された「選挙運動」ではある。

  昨日夕方、自宅に戻り、ノーマルタイヤからスノータイヤに交換するため予約を入れようとなじみのディーラーに電話した。すると、「今週はムリです」と素気ない。来週に予約を入れたが、路面の凍結を気にしながらの運転が続く。電話の後、しばらくして固定電話が鳴った。受話器を取ると、地元の新聞社からで選挙に関するアンケート調査に協力してほしい、という。「協力しますよ」と返事すると、「お宅に20代から30代の方がおられたら、電話を代わってもらえないか」と問うてきたので、「今はいません」と返事すると、「それでしたら結構です」と電話の向こうから謝絶してきた。20代や30代の声がなかなか集まっていないようだ。

  2014年師走の選挙はどう動くのか。14日までの選挙の動き、ランダムに記載したい。

⇒3日(水)朝・金沢の天気   みぞれ

  
  

☆ノーサイドの演出

☆ノーサイドの演出

  先月(10月)5日に投開票が実施された金沢市長選で前市長の山野之義氏(52)が自民・公明推薦の候補に大差をつけて当選したことの考察をこのブログで紹介した。その金沢市長選が昨日23日告示され、現職の山野氏のほかに立候補の届け出がなく、無投票で3選が決まった。山野氏は8月に1期目の途中で辞職し、先月の出直し選で再選された。公職選挙法の規定で任期は辞職前と同じ12月9日までのため、任期は次が2期目となる。何ともややこしい。

  さて、山野氏は、競輪の場外車券売り場の誘致をめぐって業者と不透明なやり取りをしていたとの批判を受けて辞職した。しかし、支援者らに経緯の説明を重ねていくなかで、「市民の審判を仰ぐ」と10月の出直し選への立候補を決意したのだった。フタを開けると、9万票以上の得票で自民・公明が推す候補らを寄せ付けず圧勝、再選された。しかし、議会は車券場問題を追及するため、山野氏や業者を招致して経緯の説明を求めてきた。10月下旬には、地方自治法に基づく調査特別委員会(百条委員会)が設置された。12月中に山野氏を証人喚問することも決まっている。

  ここで話はさらにややこしくなる。12月2日公示される衆院選石川1区に出馬する馳浩氏(自民)の選対本部顧問に山野氏が就任するというのだ。馳氏は、山野氏が8月に引責辞職した原因となった競輪場外車券売り場問題の新たな事実を自民党の会合で示し、政治問題化し、「山野下ろし」へと誘導した。10月の市長選では、自民・公明推薦の候補を支援し、選挙戦を通じて山野氏が出馬したことに、激しく批判する発言を繰り返していた。しかし、馳氏側は選対本部顧問の就任を山野氏に依頼した。10月の市長選で対立した関係から一転して、圧勝した山野氏との和解をアピールすることで、市長選のしこりが自らの選挙に及ぶことを抑える意図が見える。いわば、市長選の「ノーサイド」を演出したのである。

  地元メディアはこう報じている。「20日に市内で開かれた選対の準備会合後、本部長を務める中村勲石川県議が明らかにした。顧問は他に県関係の参院議員3人。中村氏によると、19日に山野氏に近い紐野義昭県議、高村佳伸金沢市議が顧問就任を要請、山野氏は二つ返事で引き受けた」(北陸中日新聞)と。つまり、山野氏は顧問を引き受けて損をすることはない。わだかまりを拭い去る、よいチャンスと状況を読んだのかもしれない。有権者には、すっきりと理解できない、すんなりとは腑に落ちない、両者の政治行動ではある。

写真説明:金沢市長選の候補者ポスター掲示板。山野氏の無投票当選だった。

⇒24日(祝)夜の金沢の天気    あめ

 

☆続・金沢市長選結果の考察

☆続・金沢市長選結果の考察

  今月5日に投開票が実施された金沢市長選で前市長の山野之義氏(52)が自民・公明推薦の候補に大差をつけて当選した。競輪の場外車券売り場の開設問題で軽率な行動をとったとして辞任した首長がなぜ大勝したのか、新聞各社が有権者アンケートを通じた分析を掲載している。いくつか紹介する。投票率は47.03%とこの20年でもっとも高く、獲得した票は山野氏が9万3698、2位の下沢佳充氏(53)=元県議、自民・公明推薦=が3万5924だった。

  北陸中日新聞石川版(7日付)では、5日の投票日に実施した出口調査(1120人)の回答結果を分析した記事を掲載している。この結果で目を引くのは、自民党の支持層の56.7%が山野氏に投票したと答え、30.7%の下沢氏より倍近いことだ。また、民主党支持層でも51.6%、社民党支持層で69.2%もの人が山野氏に票を投じている。民主・社民・連合石川の推薦候補がいたにもかかわらずである。記事では「共産支持層でも23.1%が山野さんに投票しており、政党に関係なく幅広い支持を集めたことがうかがえる」と記載されている。

  この記事を読んでの私の直観だが、山野氏は大阪市の橋下市長のような強烈なキャラクターの持ち主でもなく、実際の選挙演説でも山野コールが街頭に湧き上がっていたというわけでもない。むしろ、自民・公明党推薦候補に対する反対意志としての行動だったのではないか。「あの人には市長になってほしくない」という論理である。あるいは、石川県選出の国会議員を自民党が独占している状況下で、県都・金沢市長までも自民に渡したくないという意思表示だったのかもしれない。そのミックスが今回投票行動かもしれない。

  北陸中日新聞の記事では、上記の有権者感情を読み解くのに面白いアンケート結果がある。女性票と男性票の行方である。男女別の投票先では男性が56.7%、女性が61.0%が山野氏に投じている。とくに50-70代の年代別の女性票では、70代の67.5%を筆頭に軒並み60%を超えている。一番少ないのは80代の46.9%である。選挙期間中、私の身の回りの会話を聞いた中でも「山野さんの方がましやね(山野氏と自民推薦候補と比較して)」という女性の声が聞かれた。つまり、女性票が山野氏に流れた。それは、山野氏への評価なのか、自民・公明党推薦候補への反対票なのか、後者の方がニュアンスとして強かったのではないか。

  無党派層への支持を狙った選挙と、組織票に依存した選挙。山野氏は街頭演説や個人演説会では、競輪場外車券売り場の問題を「軽率な行為だった」と支持者らに詫びた。党の推薦は受けずに、若者ほか無党派の支持を狙った運動を展開した。大学生が応援演説をしている姿もあった。これに対して、自民・公明党推薦候補は企業や団体めぐりを小まめに行い、また、丸川珠代氏ら現職自民党議員も応援に駆けつけた。が、自民・公明党推薦候補が獲得した票は山野氏の3分の1ほどだった。組織票を活かしきれなかった原因はどこにあったのか。選挙当日は金沢地方は、時折晴れ間ものぞく天気だった。無党派層の票が伸びやすい状況ではあった。

  最後に、意気込みである。投票が終わり、午後8時すぎると新聞とテレビが出口調査などから一斉に「山野氏が当選確実」を伝えた。勝った山野氏は頭を下げながらも、最後は次の市長選に向けて「ガンバロー」と気勢を上げた=各紙の写真=のである。これは通常の勝った候補者の姿とすれば奇妙な光景だったが、山野氏の任期は、公職選挙法の規定により、1期目の残り期間の12月9日までとなり、任期満了の前日から30日以内に再び選挙が行われることになる。前回のコラムでも述べたように、むしろ厳しいのは次の選挙だろう。たとえ次回勝っても投票率を維持できなければ本当に信任されたとは言えない。そんな思いが山野氏には強かったのだろう。

⇒7日(火)夜・金沢の天気    くもり

★金沢市長選結果の考察

★金沢市長選結果の考察

   金沢市の前市長の山野之義氏の辞職に伴う金沢市長選が5日投開票が行われ、山野氏(無所属)が、前市議の升きよみ氏(共産推薦)、前石川県議の石坂修一氏(民主、社民推薦)、前県議の下沢佳充氏(自民、公明推薦)の新人3を押さえ再選を果たした。山野氏が辞職したのは、競輪の場外車券売り場の開設計画への協力を支援者に約束した問題でけじめをつけるため、8月に引責辞職した。山野氏はこれまでの実績について「市民の審判を仰ぐ」とし、立候補した。選挙では、新人3人が山野氏への批判票を集めきれなかったようだ。

   確定票は山野9万3698、下沢3万5924だった。政権与党の自民党と公明党の推薦を受けた候補に圧勝したのだった。さらに投票率は47.03%とこの20年でもっとも高い。それに関連して、面白い現象は同時に行われた県議補選と市議補選にそれぞれ2万5千ほどの無効票(白票など)が出たことだ。つまり、トリプル選挙の相乗効果として市長選の投票率が上がったのではなく、有権者が市長選そのものに高い関心を寄せていたということだろう。

   今回の選挙の論点は、この競輪の場外車券売り場の開設計画への協力という行為が、今回の選挙で批判票にならなかったのか、逆に投票率を上げ、自民ほかの候補に圧勝したのか、だ。これまでの報道によると、山野氏の支援者だったビル管理会社社長との間で昨年3月、名古屋競輪場の場外車券売り場の設置を認めるかのような書面を独断で交わしていたことが判明した。車券売り場計画は立ち消えになったが、8月に入り、市の予算でリサイクル施設を入居させる案を社長側に示していたことも明らかになった。市長が独断で約束した、ととられたことが軽率だったとして山野氏は8月に辞任した。問題発覚時には、支援者との「密約」との報道だったので、汚職を連想させた。しかし、金銭授受の問題が浮上してこなかったことから、陳情に対し首長がサインするといった軽率な、脇の甘い行動だとの流れに変わっていったようだ。

   逆に、これを問題化した自民党石川県連が「山野下ろし」のために競輪の場外車券売り場問題を吹聴したと、政争の具に使ったと一部市民からは見られた。私の身近な人の間でも「山野さんは(自民党に)ハメられたね。かわいそうだ。でも、果たして辞任する必要はあったのだろうか」といった声がささやかれていた。もともと金沢の政治地盤では自民は盤石ではない。むしろ「人柄」だ。きっぱり辞任し出直すと表明したことが、潔い人柄ととられたのだろう。

   山野氏の任期は、公職選挙法の規定により、1期目の残り期間の12月9日までとなり、任期満了の前日から30日以内に再び選挙が行われることになる。むしろ厳しいのは次の選挙だろう。たとえ次回勝っても投票率を維持できなければ信任されたとは言えない。

⇒6日(月)朝・金沢の天気  あめ

☆報道姿勢

☆報道姿勢

  前回のコラムの続きである。けさの新聞各紙で、今月5日に自ら命を絶った、理化学研究所の笹井芳樹氏の家族の代理人の弁護士が12日夜、大阪市内で記者会見を開いて、家族に宛てた笹井氏の遺書の内容を明らかにした、と報じている。では、NHKはどのように報じているのかとホームページを検索した。以下本文を引用する。

  「記者会見した中村和洋弁護士によりますと、家族に宛てた遺書には、今までありがとうという感謝のことばと、先立つことについて申し訳ないというおわびのことばが書かれていたということです。また、みずから命を絶ったことについて、『マスコミなどからの不当なバッシング、理研やラボへの責任から疲れ切ってしまった』ということが記されていたということです。」

  さらに末尾ではこう伝えている。「会見した中村弁護士は、『家族の話では笹井氏はSTAP細胞の論文の問題が指摘された3月ごろから心労を感じていた。特に心理的に落ち込んだのが、6月に改革委員会が組織(笹井氏が副センター長を務めていた発生・再生科学総合研究センター)の解体を提言した時で、そのころから精神的につらい状況に追い込まれ、今回の自殺につながった』と述べました。」

  このNHKニュースを読んでの印象はこうだ。「笹井氏の自殺の原因は、メディアなどからのバッシングもさることながら、6月に改革委員会が組織の解体を提言したことによるショックが直接の原因だ」と言っているようにも取れる。文章の運びが、バッシングをした側の責任を逃げている印象を与えるのだ。

  きょうの朝日新聞の記事はこうだ。以下引用する。「笹井芳樹副センター長の遺族が12日、代理人の弁護士を通じて、『深い悲しみとショックで押しつぶされそうです。今は絶望しか見えません』とのコメントを発表した。コメントでは、理研の研究者や職員に対して『皆様の動揺を思うと胸がつぶれるほどつらいです。今は一日も早く研究・業務に専念できる環境が戻ることを切に願うばかりです』と心情がつづられていた。会見した中村和洋弁護士によると、妻と兄宛ての遺書2通が自宅にあり、『今までありがとう』『先立つことについて申し訳ない』などと書かれてあった。ほかにも『マスコミなどからの不当なバッシング、理研やラボへの責任から疲れ切ってしまった』などと記載されていたという。」

  以上の朝日新聞の文章の運びでは、「マスコミなどからの不当なバッシング」を後尾に持ってきているので、読んだ印象は「メディアからのバッシングで相当気が滅入っていたのだろう」と感じる。もちろん、テレビと新聞の書きぶりは違うし、中日新聞の記事もどちらかというとNHKと同じく、発生・再生科学総合研究センターの解体提言が直接の原因ではないかとの印象を与える記事構成になっている。

  きょうのブログで言いたかったことは、メディアの各社の書きぶりの違いではない。遺書に「マスコミなどからの不当なバッシング」と書かれ、それが公開されたのではあれば、笹井氏を追い詰めた一連の報道を検証することもメディアの報道姿勢ではないだろうか。とくに、NHKの場合、番組「STAP細胞不正の深層」(7月27日放送)の事前取材(同月23日)で小保方氏への不適切な取材行為があり、放送後の8月5日朝、笹井氏が自殺した。この事件に関心を寄せる視聴者の多くは、これは単なる偶然ではなく、NHKの番組が笹井氏を自ら死へと追む、一つの引き金になったのではないかとの印象を持っているのではないだろうか。

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