⇒メディア時評

☆続・広告のメッセージ性

☆続・広告のメッセージ性

  「これは、自虐ネタですよ」。大学の先輩教授は3日付の全国紙の広告を見て笑った。『早慶近』の特大文字とマグロの頭の写真が掲載された全面カラー広告。広告主は近畿大学だった。

   この特大文字を読者が普通に読めば、「早稲田、慶応、そして近大」。これまでは「早慶上智」だったが、最近は上智にとって代わって近大が早稲田、慶応と並んだ、と言いたいのだろうと解釈する。文章を読めば、3日が近大の一般入試出願の受付の開始日と書いているので、インパクトを狙った、自虐ネタだと理解できる。

   ウイキペディアによると、自虐ネタ(じぎゃくねた)とは、主にお笑い芸人が、漫才や漫談などの話題として使用する、自分を貶(おとし)めるネタのこと。自虐ネタの元祖はタレントの坂田利夫かもしれない。自ら「アホのサカタ」と歌って、そのキャラをネタに笑いをとる。

   今回の広告では、その自虐ネタを大学の広報目線で使っているということで価値が高いと感じる。文章を読むと、広告で言うべきことは言っている。「“早慶近”はさておき、日本は語呂がよいだけの大学の“くくり”に依存してませんか? こんなもん世界から見たら、通用するわけがない。2017年。そんな大学界の常識、そろそろ見直してもいい頃じゃないですか。」と。その通りだ。日本でしか通用しない大学のランクを表現する“くくり”はグローバルを標榜するこの社会にどのような価値や意味があるというのだろう。そのことをひと言せていただきたいとの意思が十分に伝わってくる。ただし、オチもつけている。「でも、さすがに“早慶近”て、言いだした自分でもアホくさくて、笑てまうわ。」。言葉表現といい、実に関西らしい自虐ネタのオチである。

    そして最後に“早慶近”の意味を披露している。「みなさまに早々に慶びが近づきますように」。この広告の練り方は深い。

⇒7日(土)夜・金沢の天気   はれ   

★広告のメッセージ性

★広告のメッセージ性

   けさ(5日)全国紙の朝刊を広げて少々驚いた。「これ、なんの広告だ」と。2ページの見開き白黒で、向かって左面に真珠湾攻撃の写真を、もう一方に広島に落とされた原爆によってできたきのこ雲の写真を配置してある。そして、「忘却は、罪である。」「人間は過ちを犯す。しかし学ぶことができる。世界平和は、人間の宿題である」のメッセージが添えられている。最初の印象は、宗教団体の広告かとも思った。出版社の宝島社が、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、日本経済新聞、日刊ゲンダイの全国版に掲載した広告だ。

   同社は昨年1月5日付でも、全国紙に「死ぬときぐらい好きにさせてよ」を掲載した。15段カラー見開きで、女優の樹木希林さんが水面に浮かぶ様子を、イギリスの画家・ジョン・エヴァレット・ミレイの名作「オフィーリア」をモチーフに写真で表現した。ほかにも、「子孫のために、借金を残す。」(2013年)、「ヒトは本を読まねばサルである。」(2012年)など。過去の作品の多くは、数々の新聞広告賞を受賞している。1998年から、商品では伝えきれない「企業として社会に伝えたいメッセージ」を発信したいと新聞広告を掲載している。

   企業のメッセージ性としてはインパクトがある。宝島社のホームページには以下の「広告意図」が掲載されていたので、全文を紹介する。

 今回の企業広告のテーマは「世界平和」です。
 2016年は、オバマ大統領の広島訪問、
 安倍首相の真珠湾訪問が実現した歴史的な年でした。
 そして2017年。世界は大きく変動することが予想されます。
 トランプ新大統領が誕生します。
 イギリスがEU離脱交渉を本格化し、
 難民問題は各国を揺るがすでしょう。
 変わりゆく世界にあっても、
 決して変わらない、変えてはいけない人間の目標が、世界平和です。
 そのために何ができるのか、何をすべきなのか。
 この広告が、それを今一度見つめ直すきっかけとなれば幸いです

⇒5日(木)夜・金沢の天気    くもり

☆北方四島に手をかける

☆北方四島に手をかける

きょう(16日)も安倍総理とロシアのプーチン大統領との総理公邸での共同記者=写真=の様子をじっとテレビを通して見つめていた。新しい言葉がいくつかあった。北方四島での「共同経済活動」がその一つ。2人の首脳はそれぞれ、関係省庁に漁業、海面養殖、観光、医療、環境などの分野で協議を始めるよう指示し、実現に向け合意したと述べた。この「共同経済活動」が「平和条約締結」に向けた重要な一歩になると、安倍氏、プーチン氏それぞれが強調した。

  上記のことは両国による共同声明でもなく、共同宣言でもなく、なんと「プレス向け声明」だと。プレス向け声明ってなんだ。これは政府や行政、民間企業などがマスメディアに発表する声明や資料のこと、つまり「プレスリリース」のことだ。つまり、このようなことをお互いに確認しましたので、マスメディアのみなさんにお知らせしますというたぐいのものだ。

  ここで考え込んでしまう。これだけ国際的にも注目される外交案件で、しかも、首脳同士が胸襟を開いて協議し、合意したのであれば、共同声明か共同宣言が発せられてしかるべきだろう。実際にプレス向け声明では、「両首脳は平和条約問題を解決する自らの真摯な決意を表明した」と明記してある。それだけ確信をもって合意したのであれば、なぜ、共同声明か共同宣言として発しないのか。

  北方四島の日本への帰属問題についての言及はなく期待外れだったが、元島民が査証(ビザ)なしで渡航できる「自由往来」の拡充すると双方が述べた。プーチン氏は「総理から元島民の手紙を読ませてもらい、人道上の理由から、一時的な通過点の設置と現行手続きのさらなる簡素化を含む案を迅速に検討するよう指示した」と説明した。

  元島民が査証なしで渡航できることはそれは元島民の長年の願いだったろう。しかし、ここでまた考え込んでしまう点がある。「元島民の手紙」である。なぜここで元島民の手紙が浮上してくるのだろうか。誰がそのような仕掛けをしたのか。安倍氏は「しっかりした大きな一歩を踏み出すことができた」と強調した。その言葉の運びは、この元島民の手紙に安倍氏もプ-チン氏も感動して、思いが通じ合ったというシナリオが意図されるように思えてならない。その手紙をぜひ読んで見たいものだ。

  今回の合意は安倍氏とプーチン氏が試行的に互いの信頼の醸成に向けて取り組む新しいアプローチなので、あえてので国家間の共同声明でも共同宣言でもない、プレス向け声明にとどめて着実に実績を積み上げ、平和条約締結に持ち込んでいきたい、という意味合いなのだろうか。それは、元島民の手紙を読んだ2人が互いに感動して約束したことなのだ、とでも言いたいのだろうか。これまでの外交シナリオにはない、安倍氏とプーチン氏によるパートナーシップ協定といった意味合いか。正直よくわからない。

  ただ一つ、評価できるのは、ロシアが実効支配している北方四島に共同経済活動を足がかりに日本が手をかけた、つまりフックをかけたということだろう。これまで手出しすらできなかった四島に影響を拡大できる可能性を手にしたのである。これが安倍氏の戦略だったのだろうか。会見で安倍総理は毎年秋にウラジオストクで開催される東方経済フォーラム(ロシア主催)に出席し、この共同経済活動の進捗状況を確認していくと述べ意欲を見せた。

⇒16日(金)夜・金沢の天気     くもり

★プーチン、技あり一本

★プーチン、技あり一本

  きょう(15日)のニュースは何といっても、山口県長門市で日本とロシアの首脳会談だ。ところが、ロシアのプーチン大統領の到着は予定より3時間近く遅れた。友人と電話でこの話をしてして、友人は「安倍総理への政治的なメッセージではないか。じらせることで、きょうの会談はオレのペースでやるという意味ではないか」と解説した。

  私はこの電話での話の後、ひょっとしてプーチンは宮本武蔵と佐々木小次郎の巖流島の闘いの伝説を知っているのではないかと思った。巖流島は山口県下関市にある関門海峡に浮かぶ無人島だ。この島で小次郎は2時間も待たされたり、さらに太刀の鞘(さや)を捨てたことを敗北の予兆だと武蔵から揚げ足を取られ、頭に血が上り、冷静さを失ったところを武蔵に舵棒(かじぼう)で額を割られたというあの有名な話である。プーチンは山口入りにするにあたって、巖流島の闘いをモチーフにわざと遅れたのでは、ないかと。これはプーチン流の政治的なショーだ、と。ちょっと考えすぎか。テレビの解説では、プーチン氏はどうやら遅刻の常習犯で、これまでも各国首脳との会談にたびたび遅れているそうだ。

  午後6時すぎ、首脳会談の冒頭のシーン=写真=がテレビで放送された。安倍氏は「大統領の11年ぶりの訪日を、私のふるさとである長門市でお迎えできてうれしい。会談での疲れをぜひ温泉で癒してほしい。ここの温泉は必ず疲れがとれる」と発言。これに対し、プーチン氏は「安倍総理の尽力により、ロシアと日本の関係が前進している。きょうとあすの首脳会談は、日ロ関係の前進に大きく貢献すると期待している。温泉はうれしいが、疲れが出ない会談にしましょう」と応じた。

  この冒頭のやり取りを視聴して、思わず「プーチン、技あり一本」と思った。普通だったら、招かれた側は「そのような素晴らしい温泉に招待いただきありがとう。十分に話をしましょう」と言うのかと思いきや、「疲れない会談をしましょう」と切り返すあたりは、さすが手練手管の政治家だ。「安倍、敗れたり」とならないよう会談に期待したい。

⇒15日(木)夜・金沢の天気   あめ

★天災はいつでもやって来る

★天災はいつでもやって来る

   きょう(9日)午前中、依頼したビデオ撮影のため金沢から能登半島に車で出かけた。のと里山海道の別所岳サービスエリアに近づくと強い雨が大粒の霰(あられ)に変わり、道路が真っ白になった=写真=。早めにスノータイヤに交換しておいてよかったと胸をなでおろしたが、先に走っていた別の車がスリップ事故を起こした。ちなみに外気温は4度だった。いよいよ冬本番がやってくる。

   このほど、日本気象協会は気象予報士100人が選ぶ「日本気象協会が選ぶ2016年お天気10大ニュース・ランキング」を発表した。ランキングは11月上旬までの情報で選定され、2016年に最も印象に残ったお天気ニュースでは、1位が他と大きく差をつけて「地震・大雨・火山噴火 熊本を中心に相次ぐ災害」だった。熊本地方を震源とする最大震度7の地震は4月14日21時26分と16日1時25分に2度発生。最大震度7を記録した地震は、2011年3月11日の東日本大震災以来だ。最大震度7を28時間以内に2回観測したのは、1923年の観測開始以来初めてという。さらに、6月19日から25日にかけて本州付近に梅雨前線が停滞し、その前線上を低気圧が通過したため、西日本を中心に大雨となり、土砂災害などが発生した。その後、阿蘇山の中岳第一火口で、1980年以来となる爆発的噴火が10月8日1時46分に発生。噴石や火山灰による影響が広範囲に及んだ。国の特別史跡である熊本城の石垣が崩れるなど無残な姿が災害の印象を心に深く刻んだ。

   2位は「北海道に台風上陸3個 被害相次ぐ」が選ばれた。8月17日、北海道に台風第7号が上陸。21日に台風第11号、23日に台風第9号が上陸し、1週間で3つの台風が北海道に上陸した。北海道に続けて台風が3個上陸するのは、これも1951年の統計開始以来初めて。

   3位は「Uターン台風 豪雨被害・東北太平洋側に上陸は史上初」。8月19日に台風第10号が八丈島付近で発生。最初は南西に進み、27日ごろからUターンして北寄りに進んだ。さらに、一時的に「大型で非常に強い台風」にまで発達した後、岩手県大船渡市付近に大型で強い勢力の状態で30日18時前に上陸した。台風が東北地方の太平洋側に上陸したのは、1951年の統計開始以来初めてのこと。

   これから心配なのは雪だ。11月24日には東京で初雪が観測された。地殻変動、気候変動はいつ起きるかわからない。関東大震災に遭遇した経験があった物理学者の寺田寅彦は「天災は忘れた頃に来る」と書き記したと言われる。昨今の状況は「天災はいつでもやって来る」と表現した方がよいかもしれない。

⇒9日(金)夜・金沢の天気   あめ

☆パールハーバーとソウル

☆パールハーバーとソウル

      昨夜(5日)午後6時50分ごろだったと思う、ニュース速報に感動した。安倍総理が今月26、27日にハワイのパールハーバー(真珠湾)をオバマ大統領と訪れ慰霊するというニュースだった。このニュースに接した多くの日本人は、5月に被爆地・広島を訪れたオバマ氏への返礼の訪問と感じたのではないだろうか。

  日本の現職総理がパールハーバーを訪れるのは初めてで、オバマ氏とともに犠牲者を慰霊し、これが最後となる首脳会談も行うという。総理は「二度と戦争の惨禍を繰り返してはならないという未来に向けた決意を示したい」と首相官邸で記者団に語っていた。謝罪ではなく、あくまでも未来志向なのだ。

  画期的な訪問だと思ったのは、安倍総理がオバマ氏とのこれまでの外交の集大成と位置付けている点だ。去年4月にアメリカ議会上下両院合同会議で、安倍総理は戦後70年の節目を踏まえて演説した。こえを踏まえて、オバマ氏は今年5月に伊勢志摩で開催されたG7の帰りに、現職のアメリカ大統領として初めて、アメリカが原子爆弾を投下した広島市を訪問し、犠牲者を慰霊した。オバマ氏とのこれまでの外交は、ある意味で日本とアメリカの戦後に終止符を打つとともに、同盟関係の深化を内外にアピールしたきたことだ。

  日本による奇襲作戦は1941年12月8日未明。その12月に総理がパールハーバーを訪れることで、「日米の未来へのレガシー」が完成するのだと思う。  

  一方で分かりにくいニュースがお隣・韓国だ。パク・クネ大統領の外部の取り巻きによる国政介入事件で、大統領退陣を求める大規模デモが6週連続におよび、3日は各地で最大規模となる42万人(警察推計、主催者推計212万人)が参加したと報じられている。ソウルでのデモが大統領府から100㍍の地点まで接近することが初めて許可されたというから、大統領府としては気が気ではなかったろう。

  日本でも現地リポートを交えて報道されるこのデモ、日本から見えれば、パク氏は退陣を表明しており、なぜここまで毎週熱くデモを繰り広げなければならないだろうかと思ってる日本人が多いと思う。辞任する時期に関して、大統領は与野党が退陣日程で合意すれば従うと表明している。そこで、与党は来年4月の退陣を求めているが、野党は与党との協議を拒否し、合意成立の見通しは立っておらず、弾劾案が浮上している。つまり、退陣要求の舞台はデモから国会に移ったと思うのだが、統領府周辺へのデモは止みそうもない。このデモへの執着、一体何が国民の心に火をつけているのか。現地リポートやコメンテーターの解説を何度聴いても腑に落ちないのは私だけだろうか。

⇒6日(火)朝・金沢の天気   あめ

★「カストロの死」一面のなぜ

★「カストロの死」一面のなぜ

  キューバの革命家、フィデル・カストロが11月26日死去した。享年90歳。彼の功績は1959年のキューバ革命でアメリカ合衆国の事実上の傀儡政権であったフルヘンシオ・バティスタ政権を武力で倒し、キューバを社会主義国家に変えたという点だろう。その死は、当日のテレビのトップニュース、翌日27日の新聞一面を飾った。ただ、メディア各社のその扱いに少々違和感を感じた。「なぜ一面なのか」と。

  革命によってキューバの最高指導者となり首相に就任。1965年から2011年までキューバ共産党中央委員会第一書記を務めた。現役を引退した革命家の死が、新聞一面である理由が分からない。日本の総理経験者の死で、これほどの扱いをするだろうか。カストロの死を一面扱いする論拠は一体何なのか。

  確かに理由はいくつかあるだろう。たとえば、キューバ革命を成功させて反アメリカの政権を打ち立て、これを指導した。革命の嵐だった1960年代をリードしてきた人物は、その後、アメリカとの国交を54年ぶりに回復した。社会主義国家キューバを創成し、そして社会主義国家キューバにピリオドを打たせた人物なのだ。名実ともに「一つの時代が終わった」ということなのだろう。でも、それが一面なのだろうか。カストロの理念を共有した時代の人間、あるいは国の人間ならば、その歴史的な価値観を共有できるかもしれないが、それでも、日本でそれを共有できる人は果たしてどれだけいるだろうか。

  ある新聞は見出しで「キューバ革命主導 反米のカリスマ」と打っている。キューバ革命というのは現代の日本人にどれほど訴えるものがあるのだろうか。ましてや、「反米のカリスマ」とはどんな意味なのか。誰に訴えた見出しなのだろうか。確かに、カストロは2003年に広島を訪れ、原爆慰霊碑に献花している。そのことと、反米はイコールなのだろうか。「反米のカリスマ」とはいったどのような意味がある見出しなのだろうか。

  亡命キューバ人がアメリカで100万人とも言われる。キューバでの革命が進行する中で、急速な社会改革に反対する富裕層が出国した。アメリカは「キューバ地位特別法」で不法入国するキューバ人を1966年から政治亡命者として扱い、アメリカの領土に入れば滞在を許可し、永住ビザを取得できるようにした。これが大量出国を煽ったとも言われている。アメリカとすれば、亡命を受け入れる方が正義であり、亡命者を大量に出した国が悪という構図をつくりたかったのだろう。その後、アメリカへの大量キューバ人の移住は重荷になる。

  言いたいことは、カストロの死を「反米のカリスマ」として扱い、一面に持ってくることに、むしろ反感を抱く読者がいるのではないだろうか。キューバが日本にとってそれほど身近ではない国だけに、素朴な疑問がわいただけの話である。

⇒27日(日)夜・金沢の天気  あめ

★ヒロシマの祈り、法の形骸化の危惧

★ヒロシマの祈り、法の形骸化の危惧

  「6・9」の季節だ。広島に原爆が投下されたのが1945年8月6日、長崎が3日後の9日だった。あれから71年たつ。ことしも広島市の平和記念公園では昨日「原爆死没者慰霊式・平和祈念式」が営まれた。午前8時からの式典には5万人が参列したという。ことし5月28日、アメリカのオバマ大統領が現職大統領として初めて平和記念公園の原爆死没者慰霊碑を訪れ、献花に臨んだこともあり、被爆者にとっても特別な思いがあったのではないかと察する。

   広島市長が読み上げた平和宣言では、あのオバマ大統領の広島演説の一節が引用されたようだ。「核兵器なき世界を追求する勇気を持たなければならない」。大統領の一文はこうだった。Among those nations like my own that hold nuclear stockpiles, we must have the courage to escape the logic of fear and pursue a world without them. We may not realize this goal in my lifetime, but persistent effort can roll back the possibility of catastrophe.(わが国のように核を保有する国々は、恐怖の論理から逃れ、核兵器なき世界を追求する勇気を持たなければならない。私たちが生きている間にこの目標は達成できないかもしれないが、たゆまぬ努力が大惨事の可能性を小さくする。)

   式典には91ヵ国とEUの代表も出席し、核保有国からはアメリカ、イギリス、フランス、ロシアの代表が出席(中国は欠席)し、成り行きを見守ったした。「核兵器なき世界を追求する勇気」は強調されたが、現実はどうなのだろうか。先月7月12日付の新聞各紙によると、ワシントン・ポスト紙の記事を引用し、オバマ大統領が「核先制不使用」の宣言を含めた核軍縮策を検討、さらに大胆な核軍縮・不拡散の方針を打ち出すことを模索しているという。

   このワシントン・ポスト紙の報道に連動して、民主党のサンダース上院議員らが、オバマ大統領あてに核先制不使用のほか、新型巡航ミサイルなどの核兵器近代化計画の見直しなどを求める書簡を送った。その中で「広島と長崎の原子爆弾(投下)の教訓は、核兵器を二度と使用してはならないということだ」と強調し、現政権での核政策の大胆な見直しを迫ったという(7月21日付・朝日新聞)。

   一方で、去年12月に国連総会で採択された、核廃絶への具体的、効果的、法的な手段を討議するための作業部会(ジュネーブ)の動きも注視したい。今年2月に第1回会合があり、5月に第2回会合が開かれた。今月8月下旬にも開催され、9月の国連総会で報告書が提出される。が、核保有国5ヵ国は欠席している。その対立の構図は、条約制定を急ぐメキシコやブラジル、インドネシアなど9ヵ国が核禁止のための法的措置についての交渉を来年2017年開始することを提案しており、核保有国との間の溝が深まっている。

   では、日本はどのような立場かというと、核保有国と非保有国を分断させるような議論の進め方には反対という立場だ。このスタンスは、日本だけでなく、NOTO(北大西洋条約機構)とも共同歩調をとっている。効果的、法的な手段での核廃絶ではなく、安全保障を重視しながら徐々に核兵器を減らすというアプローチを提唱しているのだ。

   この日本とNATOのスタンスは「どうせアメリカの核の傘に入っているからそう言っているのだろうと」と日本の国内メディアの論調でも一蹴されているが、やはり慎重に進めるという立場にならざるを得ないではないかと最近考える。それは、南シナ海の領有権問題をめぐってオランダ・ハーグの仲裁裁判所が先月12日に示した裁定ですら、「紙くず」と無視されているのが現状である。仮に核廃絶の法が非保有国などの賛成多数で成立したとしても同様に一部の核保有国に無視にされる可能性だってある。無理を通せば道理が引っ込むたとえのように、法が形骸化していくことを恐れる。どのようなプロセスで核廃絶に向かって踏めばよいのか。

⇒7日(日)朝・金沢の天気  はれ   

★大統領か役者か

★大統領か役者か

   ブログの開設から4000日余り、これほど一つの事柄に集中してアップロードしたことはない。それほど、今回のオバマ大統領の広島訪問は私自身にもインパクトがあった。単にアメリカの現職大統領が広島を訪問したという事実ではなく、その背後に脈々と流れる歴史の連続性というダイナミックなドラマを目の当たりにした実感が感動として伝わってきた。新たな歴史の証言者になったような、ちょっと浮ついた高揚感もあった。以下、自宅でテレビ中継を視聴した印象である。

  17時37分、オバマ氏が広島市の平和記念公園の原爆死没者慰霊碑を訪れ、献花に臨んだ。安倍総理と並んで献花するのかと思っていたが、そうではなく、まずオバマ氏が献花し、その後に安倍氏が続いた。オマバ氏は頭を献花の後に頭を下げずに黙祷を、安倍氏は献花の後に頭を下げて黙祷をささげた。頭を下げての黙祷は日本では当たり前なのだが、アメリカではこれが原爆死没者に対する「謝罪」と映るのだろう。もし、安倍氏とオバマ氏が2人同時に献花し黙祷をささげたら、片や頭を下げる姿、片や下げない姿がくっきりと対比される。すると、映像的な印象度として、オバマ氏の姿は日本では良くないものになる。献花にあたっては、日本とアメリカで随分と打ち合わせ、計算されし尽くされたのだと中継映像を視聴しながら感心した。

  17時41分から始まったオバマ大統領の所感は実に17分間に及んだ。同時通訳では所感という表現だったが、これはもう堂々とした演説だった。注目したのはこの下りだ。

  Among those nations like my own that hold nuclear stockpiles, we must have the courage to escape the logic of fear and pursue a world without them. We may not realize this goal in my lifetime, but persistent effort can roll back the possibility of catastrophe.(わが国のように核を保有する国々は、恐怖の論理から逃れ、核兵器なき世界を追求する勇気を持たなければならない。私たちが生きている間にこの目標は達成できないかもしれないが、たゆまぬ努力が大惨事の可能性を小さくする。)

  オバマ氏が2009年4月にチェコ・プラハのフラッチャニ広場で行った核兵器の軍縮に関する演説より、内容がさらに深化しているとの印象だ。プラハでは核兵器廃絶へ行動するmoral responsibility(道義的な責任)があるとの表現だった。それを、今回はcourage(勇気)と強調している。道徳的な責任から、行動する勇気へとより前向き姿勢に転じてるのではないかと。

  18時06分、オバマ氏は同席した被爆者と挨拶を交わした。オバマ氏が肩を抱き寄せた人がいた=写真=。あの人は誰だろうと思った。中継番組のキャスターの解説から、被爆者であり歴史研究家の森重昭という方だった。79歳の森氏は、被爆死したアメリカ兵の捕虜について調査を続けてきた民間の研究者で、原爆の犠牲者に国籍は関係ないとの思いから、被爆死した12人のアメリカ兵の家族を捜し出して存在を特定し、原爆による死没者として広島市の名簿登録に動いた人だった。オバマ氏の演説の中で、the man who sought out families of Americans killed here because he believed their loss was equal to his own.(ある男性は、ここ(広島)で死亡したアメリカ人の家族を捜し出した。その家族の失ったものは、自分自身が失ったものと同じだと気付いたからだ。)の下りがある。「ある男性」とはアメリカ兵の原爆死没者慰霊碑の名簿登録に奔走した森氏のことだ。

  大統領は自らの演説の中で語ったエピソードのまさにその人物と会えた。幼いころに被爆し、アメリカを恨むのではなく、被爆者として人道的な活動にいそしんだ人がそこにいる。感極まったのだろう、そしてそっと肩を抱き寄せた。プラハではカッコイイ大統領の姿だった。ヒロシマでは深い人間愛をもった大統領の姿がそこに見えた。これも裏方が仕込んだ巧妙な演出と言えば、それまでかもしれない。それでも、その演技をさりげなくこなすのがオバマ大統領なのだろう。

  この後、原爆ドームの外観を見て大統領専用車に乗り込んだ。歴史的な訪問、平和記念公園に滞在した時間はおよそ48分間だった。

⇒28日(土)朝・金沢の天気   はれ   

☆救世主かほら吹きか

☆救世主かほら吹きか

  26日開幕した伊勢志摩サミット(G7首脳会議)で気になったことがある。それは、安倍総理が、2008年のリーマン・ショック並みの危機が再発してもおかしくないほど世界経済が脆弱と説明し、G7各国に財政出動などの実施を促したことだ。この尋常ではない発言の意義を考えた。

 報道によると、安倍総理は討議に参考データを提出し、現在、世界経済がリーマン危機前に酷似していると指摘。その理由として、最近のエネルギーや食料など商品価格がリーマン・ショック前後と同じく55%下落。さらに、新興国の投資や経済成長も同じ落ち込みを示し、新興国から資金の流出が再び起きている。主要国の成長率見通しの下方修正が繰り返されるのも当時と同様だと説明し、「かなり世界経済のリスクが高い」と発言した。

  その上で安倍総理は、G7各国に財政出動を含む強力な政策の実施を促した。これに対し、ある首脳から「いわゆるクライシスとまで言うのはいかが」との意見も出された。ただ、「新興国の経済が厳しい」という基本的な認識は全員一致したという。財政出動をするという国は複数あったが、財政出動に言及しなかった国もあった。ただ、財政出動を否定した国はなかった。

  ここで気になるいくつの点がある。リーマン・ショックの震源地はアメリカだったが、今回の震源地はどこなのかという点である。それは中国なのか、と読者・視聴者は勘ぐってしまうが、その解説記事は見当たらない。

  もう一つ気になる点。常識で考えれば、財政出動は各国がそれぞれの判断で実行するもので、それをあえてサミットの場で合意を取り付けるというのは、まさに一歩踏み込んだ、あるいは一線を超えているではないだろうか。あえてこの話をG7で持ち出した理由として、リーマン・ショックは洞爺湖サミットが開催されて数か月後に起き、危機は予見されていたにもかかわらず防ぐことができなかった。議長国として同じ轍を踏みたくないと説明したという。

  一方で、安倍総理が伊勢志摩サミットであえてリーマン・ショックを持ち出した本当の理由は国内向けで、来年4月に予定されている消費税率10%への引き上げを再延期する理由としているのではないかとのうがった見方をしている記事もある。ただ、消費税増税を延期するための正当性を得るのにわざわざセミットの場を使うだろうか。

  議長国として同じ轍を踏みたくないとするほどに、間近に世界的な経済危機が迫っているということならば穏やかではない。クライシスが的中すれば「世界経済の救世主」、外れれば「世界のほら吹き」となる。「財政出動、アベ提案」の真価はあと数か月で定まるのではないか。

⇒27日(金)朝・金沢の天気   あめ